シャルコー・マリー・トゥース病
Charcot-Marie-Tooth disease, CMT
シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease, CMT)|シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は、遺伝子の変化によって手足の末梢神経(運動神経と感覚神経)がゆっくり障害される遺伝性ニューロパチーの総称です。多くは小児期から若年成人期に、足のつまずきやすさ、足の変形、下腿の筋萎縮で気づかれ、数十年かけて手にも症状が広がります。生命予後は一般に良好ですが、歩行や手指の巧緻動作に長く影響するため、装具やリハビリテーション、社会的支援を組み合わせた生涯にわたるケアが重要です。
シャルコー・マリー・トゥース病の要点
シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)は、遺伝子の変化により手足の末梢神経(運動・感覚神経)が足先・手先からゆっくり障害される遺伝性ニューロパチーの総称です。つまずきやすさ、足の変形、下腿の筋萎縮などがみられ、日本では指定難病(告示番号10)に指定されています。
| 別名・略称 | CMT、遺伝性運動感覚性ニューロパチー、HMSN、腓骨筋萎縮症、シャルコー・マリー・ツース病、Hereditary motor and sensory neuropathy |
|---|---|
| 分野 | 神経・筋疾患 |
| 遺伝形式 | 常染色体顕性(優性)が多いが、潜性(劣性)やX連鎖もある |
| 好発年齢 | 小児期〜若年成人期に気づかれることが多い |
| 主な症状 | つまずきやすさ、足の変形、下腿の筋萎縮、のちに手にも症状が広がる |
| 主な検査 | 神経伝導検査、遺伝子検査 |
| 主な治療 | 装具、リハビリテーション、整形外科的治療などの対症的ケア |
| 受診する主な診療科 | 神経内科、小児神経科、整形外科、リハビリテーション科 |
シャルコー・マリー・トゥース病とは
CMTは、遺伝的な原因で末梢神経が左右対称に、主に体の遠い部分(足先・手先)から障害される疾患群です。遺伝性運動感覚性ニューロパチー(HMSN)とも呼ばれます。末梢神経は、電気信号を伝える軸索と、それを絶縁して伝導を速める髄鞘(ミエリン)からできています。CMTでは、髄鞘をつくるシュワン細胞の異常(脱髄型)か、軸索そのものの異常(軸索型)、あるいはその両方によって、長い神経から順に機能が失われます。既存の解説ではミエリン障害が中心とされていましたが、軸索が主に障害される病型も少なくありません。原因遺伝子はこれまでに100種類以上報告されており、症状の重さや発症年齢、合併症は病型によって大きく異なります。日本では指定難病(告示番号10)に指定されています。
1886年にフランスのCharcotとMarie、英国のToothがそれぞれ独立に「下腿から始まる進行性の筋萎縮」として報告したことが病名の由来です。1960〜70年代には神経伝導検査に基づいて二つに大別され、正中神経の運動神経伝導速度がおおむね38m/s未満の脱髄型(CMT1)と、伝導速度は比較的保たれ振幅が低下する軸索型(CMT2)に分けられました。その後、両者の中間の伝導速度(およそ25〜45m/s)を示す中間型、常染色体劣性遺伝の脱髄型であるCMT4、X染色体上の遺伝子によるCMTXなどが加わりました。乳児期から重い症状を示すものはDejerine-Sottas病(CMT3)と呼ばれてきました。1991年に第17番染色体上のPMP22遺伝子を含む領域の重複がCMT1Aの原因として発見されて以降、遺伝子に基づく分類が進み、現在は「遺伝形式+電気生理学的病型+原因遺伝子」(例:CMT1A、CMT2A〔MFN2〕)で整理されています。近縁疾患として、PMP22の欠失による遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP)や、運動神経優位の遺伝性運動ニューロパチー(dHMN)、感覚・自律神経優位の遺伝性感覚自律神経ニューロパチー(HSAN)があります。
シャルコー・マリー・トゥース病の疫学・患者数
CMTは遺伝性神経疾患のなかで最も頻度の高いもののひとつです。欧米の報告では有病率はおよそ2,500人に1人とされます。既存の解説にある「10,000人に1人程度」は、日本の地域調査で人口10万人あたり10人前後とする報告に近い数字です。ただし、軽症で本人も家族も気づいていない例や診断に至っていない例が多いと考えられ、実際の患者数はより多い可能性があります。発症年齢は10〜20歳代までが多いものの、乳幼児期の運動発達の遅れで見つかる重症型から、中高年になって初めて気づく軽症型まで幅があります。男女比はおおむね同等ですが、X連鎖型(CMTX1)では男性のほうが重く、女性保因者は軽症や無症状のことがあります。病型の頻度は、欧米ではPMP22重複によるCMT1Aが全体のほぼ半数を占め、GJB1、MPZ、MFN2がこれに続きます。日本の遺伝子解析研究でもPMP22重複が最多ですが、その割合は欧米より低いとされます。MFN2、GJB1、MPZのほか、日本で比較的多く見つかる劣性遺伝の軸索型(MME関連など)も報告されており、民族による遺伝子分布の違いが指摘されています。
シャルコー・マリー・トゥース病の原因・病態生理
CMTは単一遺伝子の異常で起こる疾患で、遺伝形式は常染色体顕性(優性)、常染色体潜性(劣性)、X連鎖性のいずれもあります。また、家族歴がなく両親に症状のない孤発例(新生突然変異を含む)も少なくありません。代表的な原因遺伝子は次のとおりです。脱髄型では、髄鞘を構成する膜蛋白PMP22の量が多すぎること(遺伝子重複、CMT1A)、髄鞘同士を接着させるMPZ(P0蛋白、CMT1B)の変異、転写因子EGR2の変異などがあります。CMTXの原因であるGJB1は、髄鞘内の物質の通り道となるギャップ結合蛋白コネキシン32をコードしています。劣性の脱髄型(CMT4)では、SH3TC2、GDAP1、MTMR2/SBF2、PRXなどが知られています。軸索型では、ミトコンドリアの融合を担うMFN2(CMT2A)、神経の骨格をつくるニューロフィラメント遺伝子NEFL、熱ショック蛋白HSPB1/HSPB8、アミノアシルtRNA合成酵素(GARS1、AARS1など)、陽イオンチャネルTRPV4(CMT2C)などがあります。近年は劣性遺伝のSORD遺伝子変異も軸索型の比較的頻度の高い原因として注目されています。CMTは免疫が自分の神経を攻撃する疾患ではなく、この点が慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)などとの大きな違いです。
発症の仕組みは遺伝子ごとに異なりますが、いくつかの共通点があります。CMT1Aでは、PMP22蛋白が過剰につくられることでシュワン細胞内の蛋白処理が滞り、髄鞘の形成と維持がうまくいきません。脱髄と再髄鞘化が繰り返されると、シュワン細胞が神経線維を同心円状に取り囲むオニオンバルブ(玉ねぎ様構造)ができ、神経は肥厚します。伝導速度は全身の神経でほぼ均一に遅くなりますが、筋力低下や感覚障害の程度は伝導速度そのものよりも、二次的に起こる軸索変性の進み具合と相関するとされます。つまり脱髄型であっても、最終的に機能障害を決めるのは軸索の喪失です。軸索型では、ミトコンドリアの動態異常、軸索輸送の障害、蛋白合成や細胞骨格の異常などにより、細胞体から最も遠い軸索の末端からエネルギー供給や物質輸送が途絶え、長い神経ほど先に変性します(length-dependent、遠位優位の障害)。このため、最も長い神経が支配する足の内在筋や前脛骨筋・腓骨筋群がまず萎縮します。その結果、足の筋力の不均衡から凹足(ハイアーチ)や槌趾(ハンマートゥ)が生じ、続いて手内在筋も障害されます。
シャルコー・マリー・トゥース病の症状
- 下垂足・鶏歩: 足首を持ち上げる前脛骨筋の筋力が落ちるため、つま先が下がって段差でつまずいたり、膝を高く上げて歩く「鶏歩」になったりします。足首の捻挫を繰り返すことも多いです。
- 凹足・槌趾などの足の変形: 足の内在筋と下腿筋群の筋力の不均衡から土踏まずが高くなり(凹足)、足趾が曲がります(槌趾)。靴が合わない、たこができるなどで気づかれ、小児期から現れることがあります。
- 下腿の筋萎縮(逆シャンパンボトル様): 膝から下の筋肉が痩せ、太ももとの境がはっきりするため、脚が「逆さにしたシャンパンボトル」や「コウノトリの脚」のような形になります。
- 手の筋萎縮と巧緻運動障害: 下肢より遅れて手内在筋(母指球、骨間筋)が萎縮し、ボタンかけ、箸の使用、書字、鍵を回すなどの細かい動作が難しくなります。鷲手様の変形を伴うこともあります。
- 手袋・靴下型の感覚障害: 手足の先の触覚、痛覚、振動覚、位置覚が低下し、しびれや鈍さを感じます。自覚症状は軽いことが多く、診察で初めて指摘されることもあります。
- 腱反射の低下・消失: アキレス腱反射から始まり、病型によっては全身の腱反射が消失します。脱髄型で特に目立つ所見です。
- バランス障害・転倒: 筋力低下と位置覚の低下が重なり、暗い場所や不整地でふらつきやすくなります(ロンベルグ徴候陽性)。転倒による骨折の原因になります。
- 疼痛・こむら返り・疲労感: 足部の変形に伴う筋骨格系の痛み、神経障害性疼痛、筋けいれんがしばしば見られます。強い易疲労感も生活の質を下げる要因として重視されています。
- 手足の冷え・皮膚色調変化: 筋萎縮による熱産生の低下や軽い自律神経の障害で足が冷たくなり、紫色になることがあります。寒冷時に筋力低下が強まることもあります。
- 振戦(手のふるえ): 一部の患者さんに姿勢時振戦が見られます。脱髄型の家系でふるえが目立つものは歴史的にRoussy-Lévy症候群と呼ばれてきました。
- 側弯症・股関節形成不全: 小児期に発症する例や重症例では脊柱側弯や股関節の形成不全を合併することがあり、整形外科的な評価が必要です。
- 病型特異的な症状(難聴・声帯麻痺・視神経萎縮など): 病型によって感音難聴、声帯麻痺による嗄声や呼吸障害(GDAP1、TRPV4関連など)、視神経萎縮(MFN2関連の一部)、横隔膜の筋力低下などを伴うことがあります。
シャルコー・マリー・トゥース病の経過と合併症
多くの病型は数十年単位で非常にゆっくり進行し、急に悪化することは通常ありません。典型的なCMT1Aでは、小児期に走るのが遅い、転びやすい、足が変形しているといった軽い症状で始まり、10〜20歳代で下垂足と下腿萎縮がはっきりしてきます。30〜40歳代以降に手の症状が加わります。大多数の患者さんは生涯にわたって独歩、または装具を使った歩行を維持でき、車いすが常時必要になるのは少数とされます。一方、乳児期発症のDejerine-Sottas型や劣性遺伝の重症脱髄型、MFN2関連の早期発症例などでは、運動発達の遅れや比較的速い進行がみられ、歩行に補助具や車いすが必要になることがあります。同じ遺伝子変化を持つ家族の間でも重症度に大きな差があり、本人の経過を予測するには家族歴だけでなく継時的な評価が欠かせません。なお、短期間(数週〜数か月)で明らかに悪化した場合は、CMTの自然経過とは考えにくく、炎症性ニューロパチーの合併、薬剤性神経障害、圧迫性ニューロパチーなどを調べる必要があります。
合併症として最も多いのは整形外科的な問題です。凹足や槌趾、足関節の不安定性による捻挫の反復、胼胝(たこ)や皮膚潰瘍、変形性関節症、側弯症、股関節形成不全がみられます。感覚障害のため、靴ずれ、熱傷、外傷に気づきにくく、傷が治りにくいこともあります。転倒による骨折や、運動量の低下に伴う体重増加と骨粗鬆症も問題になります。病型によっては、感音難聴、声帯麻痺、横隔膜麻痺による睡眠時低換気、神経障害性疼痛、睡眠時無呼吸、むずむず脚症候群の合併が報告されています。X連鎖型(CMTX1)では、発熱や高地滞在などをきっかけに一過性の構音障害や麻痺など脳卒中に似た中枢神経症状と、MRIで可逆性の白質病変が現れることがあり、脳梗塞などとの鑑別が必要です。妊娠中に症状が一時的に悪化する例も報告されています。さらに重要なのは、ビンクリスチンなどの神経毒性のある抗がん剤によって重い神経障害が誘発されるリスクで、特に脱髄型CMTで重篤な報告があります。
シャルコー・マリー・トゥース病の診断・診断基準
診断は、①遠位優位で左右対称の筋萎縮・筋力低下と感覚障害、凹足などの特徴的な臨床像、②家族歴の詳細な聴取(親族の足の変形、歩き方、凹足なども含む)、③神経伝導検査による脱髄型・軸索型・中間型の判定、④病型に応じた遺伝学的検査、という流れで進めます。神経伝導検査で正中神経の運動神経伝導速度がおおむね38m/s未満で、どの神経でも均一に低下していれば、まずPMP22重複の検査を行います。陰性であれば、家系内に男性から男性への遺伝がない場合は性別を問わずGJB1を、次いでMPZなどを検討します(X連鎖型では女性も症状を示すことがあります)。軸索型ではMFN2などの頻度の高い遺伝子から検討し、近年は多数の遺伝子を一度に調べる次世代シーケンサーによる遺伝子パネル解析やエクソーム解析が用いられます。PMP22重複の検査など一部の遺伝学的検査は保険診療で実施できるようになっていますが、包括的な解析は研究機関で行われることも多く、実施体制は主治医に確認が必要です。原因遺伝子が特定できない例も少なくないため、指定難病の診断基準では臨床症状、電気生理学的所見、遺伝子検査、除外診断を組み合わせて判断します。遺伝子検査の前後には遺伝カウンセリングを受けることが推奨されます。
- 神経学的診察: 遠位優位の筋萎縮・筋力低下、手袋靴下型の感覚障害、腱反射の低下・消失、凹足・槌趾を確認します。神経の肥厚(大耳介神経などが太く触れる)が脱髄型の手がかりになることがあります。
- 神経伝導検査: 病型分類の要となる検査です。脱髄型では伝導速度の均一でびまん性の低下と遠位潜時の延長が、軸索型では伝導速度が比較的保たれたまま複合筋活動電位・感覚神経活動電位の振幅が低下する所見がみられます。伝導ブロックや時間的分散の部位差が乏しいことが、後天性脱髄性疾患との重要な違いです。
- 針筋電図: 慢性の神経原性変化(高振幅・長持続の運動単位電位、動員の減少)を確認し、筋疾患との区別や障害の分布の評価に役立ちます。
- 遺伝学的検査: PMP22重複・欠失の検出(MLPA法やFISH法など)、GJB1・MPZ・MFN2などの単一遺伝子解析、多遺伝子パネル解析やエクソーム解析を行います。病型、遺伝形式、合併症リスクの把握や家族への情報提供に重要ですが、意義不明の変異(VUS)が見つかることもあり、専門家による解釈が必要です。
- 指定難病の診断基準: 臨床症状、神経伝導検査所見、遺伝子検査、他疾患の除外を組み合わせて判定します。医療費助成の対象となるには、これに加えて重症度基準を満たす必要があります。
- 末梢神経超音波・MRI: 脱髄型、特にCMT1Aでは末梢神経や神経根がびまん性に太くなる所見がみられます。下肢の筋MRIは、脂肪置換の分布から障害の程度を評価する補助として用いられます。
- 腓腹神経生検: 遺伝子診断が普及した現在は必須ではありませんが、診断困難例ではオニオンバルブ形成、トマキュラ(髄鞘のソーセージ様肥厚、HNPPなど)、有髄線維の脱落などを評価し、血管炎やアミロイドーシスの除外にも役立ちます。
- 血液・髄液検査: 糖尿病、ビタミン欠乏、甲状腺機能異常、M蛋白、自己抗体などを調べ、後天性ニューロパチーを除外します。CMTでは髄液蛋白は正常か軽度上昇にとどまることが多く、著明な上昇は炎症性疾患を示唆します。
- 合併症評価(聴力・呼吸機能・整形外科的評価): 病型に応じて聴力検査、呼吸機能・睡眠時呼吸評価、喉頭内視鏡、脊椎・股関節X線検査を行い、合併症を早めに見つけます。
シャルコー・マリー・トゥース病と鑑別すべき疾患
- 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP): 免疫が関わる治療可能な脱髄性ニューロパチーで、伝導ブロックや部位による伝導遅延の不均一さ、近位筋の障害、髄液蛋白の上昇、比較的速い進行がCMTとの鑑別点となります。CMTにCIDPが合併することもあります。
- 遺伝性ATTRアミロイドーシス(全身性アミロイドーシス): 家族歴のある軸索型ニューロパチーに、起立性低血圧や下痢などの自律神経障害、心筋障害、手根管症候群を伴う場合に疑い、TTR遺伝子検査で鑑別します。治療薬があるため見逃してはならない疾患です。
- 遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(HNPP): PMP22の欠失によって起こり、圧迫を受けやすい部位に繰り返す単ニューロパチー(腓骨神経麻痺など)を特徴とする点が、CMTの緩徐で対称性の経過と異なります。
- 遠位型ミオパチー・遠位型の筋疾患: 遠位筋が萎縮しますが感覚障害がなく、神経伝導検査は正常で、針筋電図では筋原性変化、血清CK上昇などがみられる点で区別します。
- 遠位型遺伝性運動ニューロパチー・脊髄性筋萎縮症: 運動神経のみが障害され、感覚神経伝導検査が正常であることが鑑別点です。遺伝子によってはCMT2と重なる部分があります。
- 後天性・代謝性ニューロパチー(糖尿病、薬剤性、POEMS症候群、脊髄小脳変性症に伴うものなど): 中年以降の発症、比較的速い進行、原因薬剤への曝露、M蛋白や浮腫、皮膚変化、小脳性運動失調の有無などで区別します。フリードライヒ失調症やレフサム病など、ニューロパチーを伴う他の遺伝性疾患も考慮します。
シャルコー・マリー・トゥース病の治療
現時点で、日本で承認されているCMTの進行そのものを止める治療薬はありません。治療の中心は、筋力と関節の柔軟性を保ち、変形や転倒を防ぎ、痛みを和らげ、日常生活と社会参加を支えるリハビリテーション、装具療法、整形外科的治療、対症療法です。脳神経内科、リハビリテーション科、整形外科、義肢装具士、理学療法士・作業療法士、遺伝カウンセラー、医療ソーシャルワーカーなど、多職種で継続的に関わることが理想です。かつてCMT1Aを対象にアスコルビン酸(ビタミンC)の臨床試験が行われましたが、有効性は示されませんでした。PMP22の発現を抑える薬剤の組み合わせや核酸医薬、遺伝子治療、SORD関連型に対する代謝的アプローチなどが国内外で研究されていますが、いずれも研究段階です。インターネット上の未承認治療に飛びつかず、治験情報についても主治医や専門施設に相談することが大切です。また、神経毒性のある薬剤(ビンクリスチン、タキサン系・白金製剤の一部の抗がん剤など)は症状を重く悪化させるおそれがあるため、他の診療科を受診する際にはCMTであることを必ず伝えてください。
- 理学療法(運動療法): 足関節や足趾の拘縮を防ぐストレッチ、残っている筋力を保つ中等度の筋力トレーニング、有酸素運動、バランス訓練を継続します。過度の負荷で筋が疲労しすぎないよう、強度は療法士と相談して調整します。
- 作業療法・自助具: 手の巧緻動作の訓練に加え、太柄の食器や筆記具、ボタンエイド、ファスナー補助具などの自助具を導入し、家事や仕事の動作を工夫します。必要に応じて手の装具も用います。
- 短下肢装具(AFO)・足底装具・靴の調整: 下垂足に対しては短下肢装具でつま先を持ち上げ、つまずきや捻挫を防ぎます。凹足には中敷き(足底挿板)や足首まで覆う靴で荷重を分散させます。身体障害者手帳などによる補装具費の支給対象となる場合があります。
- 整形外科的手術: 保存療法で改善しない進行性の凹足、槌趾、足関節の不安定性に対し、軟部組織解離術、腱移行術、骨切り術、関節固定術などが検討されます。側弯症や股関節形成不全に対する手術が必要になることもあり、術後のリハビリテーションも含めて専門医と計画します。
- 疼痛・筋けいれんの管理: 神経障害性疼痛にはプレガバリン、ミロガバリン、デュロキセチンなどの神経障害性疼痛治療薬が、筋骨格系の痛みには装具の調整や鎮痛薬、物理療法が用いられます。薬剤の選択は副作用や併用薬を踏まえて主治医と相談します。
- 合併症への対応: 難聴には補聴器、睡眠時の低換気や声帯麻痺による呼吸障害には非侵襲的換気療法などを検討します。骨粗鬆症の予防、体重管理、皮膚潰瘍の早期処置も重要です。
- 薬剤安全性の管理: 抗がん剤や一部の抗菌薬など、末梢神経障害を起こしうる薬剤を使う前に、CMTであることを医療者に伝え、使用するかどうか慎重に判断してもらいます。お薬手帳への記載が有用です。
- 遺伝カウンセリング: 遺伝形式、子どもへの遺伝の可能性、家族への情報共有、発症前診断や出生前診断に関する考え方などを、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと話し合います。
- 臨床試験・研究への参加: 病型ごとの疾患修飾治療が研究されています。患者登録(レジストリ)や治験への参加を希望する場合は、専門施設の主治医に情報を求めることができます。
シャルコー・マリー・トゥース病の予後・長期フォロー
CMTの多くの病型では寿命は一般の人とほぼ同等と考えられています。生命に関わる経過をたどるのは、呼吸筋や声帯が障害される一部の病型や、乳児期発症の重症型に限られます。ただし、生活の質への影響は決して小さくありません。歩行能力の低下、手の不自由さ、慢性の痛みや疲労感が、就学、就労、家事、育児に長期間影響します。それでも、多くの患者さんは装具や生活上の工夫、職場の配慮を活用しながら、就労や家庭生活を続けています。既存の解説には「最終的には自立した生活が困難になる場合もある」とありますが、それは一部の重症例に当てはまることで、大部分の患者さんは長期にわたり自立した生活を保てます。重症度は遺伝子の種類によって大きく異なるため、病型が分かれば見通しを立てやすくなります。
長期フォローアップでは、年1回程度を目安に脳神経内科で筋力、感覚、歩行能力を評価します。CMT神経障害スコア(CMTNS)などの評価尺度が用いられることもあります。あわせて、装具の適合(成長期の小児や体重変化があった場合は特に重要です)、足部の変形・皮膚トラブル、側弯の有無を整形外科やリハビリテーション科で確認します。病型によっては、聴力、呼吸機能、睡眠時の呼吸状態の定期的な評価も行います。小児では成長に伴って変形が進みやすいため、より短い間隔でのチェックが勧められます。小児科から成人診療科への移行(トランジション)を計画的に進めることも大切です。経過中に急な悪化や非典型的な症状がみられた場合は、別の病気が合併していないか再評価します。
シャルコー・マリー・トゥース病の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、転倒と足のけがを防ぐことが最も大切です。段差や床のコードをなくし、夜間照明や手すりを設置し、足首まで覆う安定した靴と装具を使いましょう。感覚が鈍いため、毎日足を観察して、たこ、傷、靴ずれ、爪のトラブルを早めに見つけ、湯たんぽやこたつによる低温熱傷にも注意します。運動は「続けられる範囲で継続的に」が原則です。水泳や水中歩行、エアロバイクなど関節への負担が少ない有酸素運動が勧められることが多く、翌日まで疲労が残るほどの過負荷は避けます。適正体重の維持は足への負担を減らします。寒冷で症状が強まるため手足の保温を心がけ、飲酒は神経に負担をかけるため控えめにします。新たな薬を処方されるときや手術・抗がん剤治療を受けるときは、CMTであることを必ず伝えてください。就学や就労では、体育の内容の調整、長時間の立ち仕事や歩行の軽減、手作業の負担軽減など、具体的な配慮を学校や職場と相談するとよいでしょう。遺伝については、遺伝形式によって子どもに遺伝する確率が異なります。常染色体顕性ではおおむね2分の1です。潜性では、両親がともに保因者であれば子は4分の1の確率で発症します。X連鎖では、親の性別と子の性別によって確率が変わります。同じ家系でも重症度が異なることを含め、結婚、妊娠、出産、家族への説明については遺伝カウンセリングを利用し、十分な情報をもとに本人と家族が意思決定できるよう支援を受けてください。妊娠中は症状が変化することがあるため、産科と神経内科の連携が望まれます。
利用できる制度・相談窓口
CMTは指定難病であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、難病法に基づく特定医療費(指定難病)の助成を受けられます。重症度基準を満たさない軽症の方でも、医療費が一定額を超える月が年間に一定回数以上ある場合は「軽症高額該当」として対象になることがあります。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(保健所など)に提出します。18歳未満の方は小児慢性特定疾病医療費助成の対象となる場合があり、成人後は指定難病制度への移行を検討します。歩行や手の機能に障害がある場合は、身体障害者手帳(肢体不自由)を取得できることがあり、短下肢装具や車いすなどの補装具費の支給、各種税の控除や交通機関の割引につながります。指定難病の患者さんは手帳がなくても障害者総合支援法の障害福祉サービス(居宅介護、補装具など)の対象となりえます。日常生活や就労に大きな支障がある場合は障害年金の請求を検討できます。65歳以上で介護が必要になった場合は介護保険サービスを利用できます。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所の難病担当保健師、病院の医療ソーシャルワーカー、ハローワークの難病患者就職サポーター、遺伝カウンセリング外来があります。CMTの患者会では、同じ病気を持つ人どうしの情報交換や交流が行われています。
シャルコー・マリー・トゥース病に伴う心のケア・心理社会的支援
CMTは、長い時間をかけて少しずつ体の機能が変わっていく病気です。そのため、「この先どこまで悪くなるのか」という将来への不安、できていたことができなくなる喪失感、疲労感や痛みによる気分の落ち込みが生じやすく、抑うつや不安障害、適応障害が一般より多いという報告もあります。特有の課題として、まず外見や歩き方への意識があります。下腿の細さや足の変形、装具を人に見られることへの抵抗感は、特に思春期に強くなりがちです。次に、遺伝性疾患であることに伴う複雑な感情があります。子どもに遺伝させたのではないかという親の罪悪感、結婚や出産の判断、親族への説明の難しさ、同じ病気の親の姿を見て将来を重ねてしまう不安などです。さらに、軽症では外見上分かりにくく周囲から理解されにくいこと、体育や仕事での配慮を求めにくいことも負担になります。こうした気持ちは自然な反応であり、一人で抱え込む必要はありません。主治医や看護師、遺伝カウンセラーに率直に話すこと、必要に応じて心療内科や精神科、公認心理師などの専門家のサポートを受けること、患者会で同じ立場の人とつながることが助けになります。眠れない、何にも興味が持てない、気分の落ち込みが2週間以上続くといった場合は、早めに相談してください。家族自身の心の負担にも目を向けることが大切です。
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シャルコー・マリー・トゥース病の受診の目安
- 足がつまずきやすい、足首をよく捻挫する、土踏まずが高い・足趾が曲がってきたなどの症状があり、家族にも似た症状がある場合は、脳神経内科(小児では小児神経科)を受診してください。
- 数週から数か月の間に筋力低下やしびれが明らかに進んだ、腕や太ももなど体の中心に近い部分まで力が入らなくなった場合は、別の治療可能な神経疾患の合併が考えられるため、早めに受診してください。
- 足の傷や潰瘍が治らない、赤く腫れて熱を持つ、たこの下が化膿しているときは、感染が広がる前に受診してください。
- 息苦しさ、横になると呼吸が苦しい、声がかすれる、むせやすい、朝の頭痛や日中の強い眠気が続く場合は、呼吸筋や声帯の障害の可能性があるため速やかに受診してください。
- 突然ろれつが回らない、片側の手足が動かない、意識がおかしいなどの症状が出た場合は、脳卒中の可能性も含めて直ちに救急要請してください(X連鎖型では一過性の中枢神経症状が起こることがありますが、自己判断は禁物です)。
- 抗がん剤など新しい薬を始めた後に手足のしびれや脱力が急に強くなった場合は、すぐに処方した医師に連絡してください。
シャルコー・マリー・トゥース病についてのよくある質問
Q. CMTは治りますか?薬はありますか?
A. 現在、日本で承認されている病気の進行そのものを止める薬はありません。ただし、多くの病型は進行が非常にゆっくりで、リハビリテーション、装具、手術、痛みの治療によって生活の質を十分に保てることが多いです。遺伝子治療などの研究も進んでいるため、最新情報は専門医に相談してください。
Q. 子どもに遺伝しますか?
A. 遺伝形式によって異なり、常染色体顕性遺伝ではおおむね2分の1の確率で子に受け継がれます。同じ遺伝子変化があっても重症度は人によって大きく異なります。遺伝カウンセリング外来で、ご自身の病型に即した説明を受けることをお勧めします。
Q. 運動はしてもよいですか?
A. 適度な運動は筋力や心肺機能、気分の維持に役立つため勧められます。水泳、エアロバイク、ストレッチなど関節への負担が少ない運動を中心にし、翌日まで強い疲れや痛みが残るほどの無理は避けましょう。具体的な内容は理学療法士と相談すると安心です。
Q. 他の病院にかかるとき、気をつけることはありますか?
A. ビンクリスチンなどの一部の抗がん剤をはじめ、末梢神経障害を起こしうる薬剤で症状が悪化するおそれがあるため、CMTであることを必ず伝えてください。お薬手帳や受給者証を持参し、手術や麻酔の際にも事前に申告しておくとよいでしょう。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。