ルビンシュタイン・テイビ症候群
Rubinstein-Taybi Syndrome
ルビンシュタイン・テイビ症候群(Rubinstein-Taybi Syndrome)|ルビンシュタイン・テイビ症候群(RSTS)は、幅広い母指・母趾(親指)、特徴的な顔立ち、知的発達の遅れを三主徴とする先天性の遺伝性疾患で、主にCREBBP遺伝子またはEP300遺伝子の変化によって起こります。生まれつきの体質として乳児期から症状がみられ、心臓・眼・消化管・皮膚など全身の合併症や発達・行動面の課題に対して、生涯にわたる多診療科での支援が必要です。なお、既存の簡易解説には血小板減少や自己免疫による発症といった記載がありましたが、これは特発性血小板減少性紫斑病などの説明と混同された誤りであり、本症候群は免疫異常による病気ではありません。
ルビンシュタイン・テイビ症候群の要点
ルビンシュタイン・テイビ症候群は、CREBBP遺伝子またはEP300遺伝子の変化で起こる先天異常症候群で、幅広い母指・母趾、特徴的な顔貌、知的発達の遅れを主な特徴とします。心疾患や成長障害などを合併することがあり、日本では指定難病(告示番号102)に指定されています。
| 別名・略称 | ルビンスタイン・テイビ症候群、ルビンシュタイン症候群、RSTS、Rubinstein-Taybi syndrome、Broad thumb-hallux syndrome |
|---|---|
| 分野 | 染色体・先天異常症候群 |
| 原因遺伝子 | CREBBP(1型)またはEP300(2型) |
| 遺伝形式 | 常染色体顕性(優性)。多くは新生突然変異による孤発例 |
| 発症時期 | 生まれつき。乳児期から症状がみられる |
| 主な症状 | 幅広い母指・母趾、特徴的な顔貌、知的障害、低身長、先天性心疾患、停留精巣など |
| 主な検査 | 臨床所見の評価、遺伝学的検査(CREBBP/EP300) |
| 主な治療 | 根治療法はなく、合併症への対症療法と療育・発達支援 |
ルビンシュタイン・テイビ症候群とは
ルビンシュタイン・テイビ症候群は、遺伝子の働きを調節するエピジェネティクス(遺伝子の読み取りを調節する仕組み)にかかわる因子の異常で起こる先天異常症候群です。中核となる特徴は、(1)末節が幅広く、ときに外側(橈側)へ曲がった母指と母趾、(2)小頭、弓状に高い眉、長いまつ毛、下がり気味の眼裂(目尻が下がった目の形)、くちばし状の鼻(鼻柱が鼻翼より下に伸びる)、高口蓋などからなる特徴的な顔貌、(3)精神運動発達遅滞・知的障害の三つです。これに加え、出生後の成長障害(低身長)、先天性心疾患、停留精巣、眼科的異常、便秘や胃食道逆流、ケロイド形成、多毛などがさまざまな組み合わせで現れます。症状の種類と程度には個人差が大きく、同じ遺伝子の変化であっても重症度は一様ではありません。
1963年に米国の小児科医ジャック・ルビンシュタインと放射線科医ホーシャン・テイビが、幅広い母指・母趾と顔貌の特徴、知的障害を伴う小児7例を報告したことから、この名で呼ばれています。1990年代に16番染色体短腕(16p13.3)の構造異常をもつ患者の解析からCREBBP遺伝子が原因遺伝子として同定され、2000年代にはその近縁遺伝子であるEP300の変化でも同様の症候群が起こることが示されました。現在は原因遺伝子によって、CREBBPが原因のもの(1型と呼ばれることがある)とEP300が原因のもの(2型)に分けて扱われることがあります。一般にEP300が原因の例では母指・母趾の所見や知的障害が比較的軽い傾向が報告されています。また、CREBBPやEP300の特定の領域に起こるミスセンス変異では、典型的なRSTSとは異なる臨床像(メンケ・ヘネカム症候群)を示すことが知られ、別の疾患として区別されています。日本では指定難病(告示番号102)に指定されています。
ルビンシュタイン・テイビ症候群の疫学・患者数
海外の報告では、出生10万〜12万5千人に1人程度の頻度とされ、まれな疾患です。人種や地域による明らかな差は知られておらず、男女差もほとんどないと考えられています。日本国内の正確な患者数は把握されていませんが、出生頻度から推計すると国内にも相当数の患者さんがいると考えられ、診断に至っていない例も存在すると推測されます。母指・母趾の所見や顔貌の特徴から新生児期〜乳児期に疑われることが多い一方、所見が軽い例(特にEP300が原因の例)では幼児期以降に発達の遅れをきっかけに、あるいは網羅的遺伝学的検査(エクソーム解析など)によって初めて診断されることもあります。原因遺伝子の内訳は、CREBBPの点変異や小さな欠失・挿入が過半数を占め、16p13.3を含む微細欠失が約1割、EP300の変化が1割弱程度とされ、残りの一部では既知の原因が見つからないと報告されています。
ルビンシュタイン・テイビ症候群の原因・病態生理
本症候群は常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとりますが、ほとんどの症例は両親には変化がなく、受精前後に新たに生じた変異(新生変異、de novo変異)によって起こります。原因遺伝子のCREBBP(16p13.3)はCREB結合タンパク(CBP)を、EP300(22q13.2)はその近縁タンパクであるp300をコードしています。両者はいずれもヒストンアセチル基転移酵素としての活性をもち、さまざまな転写因子と結合して遺伝子の発現を促進する「転写コアクチベーター」として働きます。RSTSでは片方の対立遺伝子の機能が失われ、タンパク量または酵素活性が半分程度に低下するハプロ不全が主な病態と考えられています。
CBP/p300は、DNAが巻き付いているヒストンタンパクにアセチル基を付けてクロマチンを緩め、遺伝子を読み取りやすくする役割を担います。この働きは胎児期の骨格・顔面・心臓・脳などの形態形成や、細胞の増殖・分化に関わる多数の遺伝子の発現調節に必要です。ハプロ不全によりこれらの遺伝子群の発現が適切に調節されないことで、母指・母趾や顔面骨格の形成異常、心奇形などが生じると考えられています。また、CREB依存性の遺伝子発現は記憶の固定や神経可塑性(長期増強)に重要であることが知られており、動物モデルではCBPの機能低下により長期記憶の障害が示されています。これが知的障害の一因と考えられています。さらにCBP/p300は細胞増殖の制御にも関わるため、本症候群では一部の腫瘍の発生頻度が高いとの報告があります。16p13.3の大きな欠失例では隣接遺伝子も失われ、より重い症状を呈することがあると報告されています。
ルビンシュタイン・テイビ症候群の症状
- 幅広い母指・母趾: 親指と足の親指の末節が幅広く短く、ときに橈側(外側)へ角度をもって曲がります。他の指の末節も幅広いことがあり、本症候群の診断の手がかりとなる最も特徴的な所見です。
- 特徴的な顔貌: 小頭、弓状に高い眉、長いまつ毛、目尻の下がった眼裂、くちばし状の鼻(鼻柱が鼻翼より下に長く伸びる)、高口蓋、小さな下顎などがみられます。笑うと目を細めた独特のしかめ顔のような表情(グリマス様の笑顔)になることもよく知られています。
- 知的障害・発達の遅れ: 運動発達(首すわり、歩行)と言語発達の遅れがみられ、知的障害は中等度程度が多いとされますが、軽度から重度まで幅があります。特に表出言語の遅れが目立つ傾向があり、EP300が原因の例では比較的軽い傾向があります。
- 成長障害・低身長と体重の変化: 出生時の体格はほぼ正常範囲のことが多いものの、出生後に身長の伸びが緩やかとなり低身長となります。乳児期は哺乳不良で体重が増えにくい一方、学童期以降は肥満傾向となることがあります。
- 先天性心疾患: 患者の約3分の1に、動脈管開存症、心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、大動脈縮窄などの心疾患を伴うとされます。重症度はさまざまで、外科治療が必要となる場合もあります。
- 眼の異常: 鼻涙管閉塞(涙目・目やに)、斜視、屈折異常、眼瞼下垂などが多く、まれに先天緑内障や網膜・虹彩の欠損(コロボーマ)、白内障を伴うことがあります。緑内障は視力予後に関わるため早期発見が重要です。
- 消化器症状(哺乳障害・胃食道逆流・便秘): 乳児期には吸啜・嚥下の弱さによる哺乳困難や胃食道逆流が多く、誤嚥性肺炎の原因となることがあります。慢性便秘も高頻度にみられ、長期的な排便管理が必要となることがあります。
- 泌尿生殖器の異常: 男児では停留精巣が高頻度にみられ、手術が必要になることが多いです。腎臓・尿路の形態異常(水腎症、膀胱尿管逆流など)を伴うこともあります。
- 皮膚の症状(ケロイド・多毛など): 小さな傷や手術創、ピアス穴などがケロイド(盛り上がった傷あと)になりやすく、思春期以降に目立つことがあります。全身の多毛、額の毛細血管奇形(赤あざ)、毛母腫(石灰化上皮腫)なども知られています。
- 歯・口腔の特徴: 高口蓋に加え、前歯の裏側にかぎ爪状の突起(タロンカスプ)がみられることがあり、歯列不正や叢生、う蝕も起こりやすいとされます。
- 呼吸器・感染症: 乳幼児期に上気道・下気道感染や中耳炎を繰り返しやすく、誤嚥も関与します。顔面・気道の構造や筋緊張低下から閉塞性睡眠時無呼吸を伴うこともあります。
- 行動・情緒の特徴: 人なつこく社交的な性格が多い一方、注意の短さ、こだわり、常同行動、感覚過敏などの自閉スペクトラム症様の特徴がみられることがあります。思春期〜成人期には不安、気分の変動、強迫的傾向、攻撃的行動などが目立つことがあると報告されています。
ルビンシュタイン・テイビ症候群の経過と合併症
本症候群は進行性の病気ではなく、生まれつきの体質として症状が年齢とともに形を変えていく経過をとります。新生児期〜乳児期には哺乳障害、胃食道逆流、筋緊張低下、呼吸器感染症の反復、心疾患への対応が中心課題となります。幼児期には運動・言語発達の遅れが明らかになり、療育が重要になります。多くの子どもは平均より遅れて独歩を獲得し、言葉の発達はゆっくりですが、サインや絵カードなどの補助手段を併用しながらコミュニケーション能力を伸ばしていきます。学童期〜思春期には肥満傾向、行動・情緒面の課題、便秘、ケロイド、歯科的問題などが目立つようになります。成人期には、身体機能は比較的安定する一方、気分障害や不安、行動上の問題、肥満関連の健康問題、生活の場の確保などが課題となることがあります。
合併症としては、先天性心疾患、誤嚥性肺炎、閉塞性睡眠時無呼吸、先天緑内障や視機能障害、停留精巣、尿路感染症、てんかん(一部の患者)、脊髄係留症候群、膝蓋骨脱臼や側弯などの整形外科的問題が挙げられます。また、本症候群では腫瘍の発生頻度がやや高いことが報告されており、良性では毛母腫や髄膜腫、悪性では白血病・リンパ腫など小児期の血液腫瘍の報告があります。ただし絶対的なリスクは高くはなく、全例に一律の画像スクリーニングを行うことは一般的ではありません。さらに、全身麻酔の際には気道確保の難しさ(小顎、高口蓋、喉頭の柔らかさ)や誤嚥、薬剤に対する不整脈の報告があるため、麻酔科医への事前情報提供が重要です。
ルビンシュタイン・テイビ症候群の診断・診断基準
診断は、まず幅広い母指・母趾、特徴的顔貌、発達の遅れといった臨床所見から本症候群を疑うことに始まります。典型例では臨床的に強く疑うことができますが、所見の程度には幅があるため、臨床遺伝専門医や小児科(遺伝・発達)の専門医による評価が重要です。次に、遺伝学的検査でCREBBPまたはEP300の病的バリアントや16p13.3の欠失を確認することで確定診断に至ります。厚生労働省研究班による指定難病の診断基準も、特徴的な臨床症状と遺伝学的検査の結果を組み合わせて判定する構成となっています。ただし、臨床的に典型的であっても遺伝学的検査で原因が同定されない例が一部に存在するため、検査結果が陰性でも臨床診断が否定されるわけではありません。診断と並行して、心臓・眼・腎尿路・聴力など合併症の全身評価を行い、管理計画を立てます。
- 臨床的評価(身体診察): 母指・母趾の形態、顔貌、身長・体重・頭囲、筋緊張、発達の状態などを系統的に評価します。成長は一般の成長曲線に加え、本症候群専用の成長曲線を参考にすることがあります。
- 手足のX線検査: 母指・母趾の末節骨が幅広く短いこと、基節骨の形態異常(三角状の骨など)による橈側偏位などを確認します。手術計画を立てる際にも用いられます。
- 遺伝子解析(CREBBP・EP300の配列解析): 次世代シーケンサーなどを用いてCREBBPとEP300の点変異や小さな欠失・挿入を調べ、病的バリアントが見つかれば確定診断となります。医療機関によっては保険診療で実施可能であり、検査前後には遺伝カウンセリングが推奨されます。
- 欠失・重複の解析(MLPA法・マイクロアレイ・FISH法): 配列解析で検出しにくいエクソン単位の欠失や、16p13.3を含む微細欠失を検出します。大きな欠失では隣接遺伝子の欠失による症状の重さの評価にも役立ちます。
- 心エコー検査: 診断時に全例で先天性心疾患の有無を評価します。異常があれば小児循環器科で治療方針を検討します。
- 眼科検査: 視力・屈折、斜視、眼圧、眼底などを評価し、特に乳児期の先天緑内障や鼻涙管閉塞を見逃さないことが大切です。定期的な診察が推奨されます。
- 腹部・腎臓超音波検査と泌尿器科評価: 水腎症などの腎尿路奇形や停留精巣の評価を行い、尿路感染を繰り返す場合は排尿時膀胱尿道造影などを追加します。
- 聴力検査・発達検査: 中耳炎の反復などによる難聴の有無を確認し、発達検査・知能検査で発達特性を評価して療育や教育的支援の計画に役立てます。
- 睡眠検査・その他の画像検査: いびきや無呼吸があれば睡眠ポリグラフ検査を行います。てんかん発作が疑われる場合は脳波・頭部MRI、腰仙部の皮膚所見や排尿障害があれば脊髄MRIなどを症状に応じて行います。
ルビンシュタイン・テイビ症候群と鑑別すべき疾患
- コルネリア・デ・ランゲ症候群: 知的障害や成長障害、多毛は共通しますが、つながった眉、短い鼻と長い人中、上肢の欠損などの特徴をもち、母指・母趾の幅広さは典型的ではありません。
- フローティング・ハーバー症候群: CBPと機能的に関わるSRCAP遺伝子の異常で起こり顔貌がやや似ますが、言語表出の著しい遅れと骨年齢の遅延が目立ち、母指・母趾の幅広さは軽度です。
- メンケ・ヘネカム症候群: CREBBP・EP300の特定領域のミスセンス変異によるもので、知的障害は共通しますが典型的な幅広い母指・母趾や顔貌を欠き、遺伝子解析の結果で区別されます。
- ファイファー症候群・アペール症候群(頭蓋骨縫合早期癒合症): 幅広い母指・母趾を伴うことがありますが、頭蓋骨縫合早期癒合による頭の形の変化や合指(趾)が主体で、FGFR遺伝子の異常で区別されます。
- 歌舞伎症候群: ヒストン修飾関連遺伝子の異常による知的障害・先天異常症候群ですが、切れ長の眼裂と下眼瞼外側の外反、指先の膨らみ(胎児指尖パッド)などが特徴です。
- コフィン・シリス症候群: 知的障害、多毛、粗な顔貌は共通することがありますが、第5指の爪・末節の低形成が特徴で、クロマチン再構成複合体遺伝子の異常で区別されます。
ルビンシュタイン・テイビ症候群の治療
現時点で本症候群の原因そのものを治す治療法(根本治療)は確立していません。治療の基本は、年齢ごとに起こりやすい合併症を予測して早期に発見し、個別に治療することと、発達・生活を支える療育・教育・福祉的支援を組み合わせることです。小児科(遺伝・神経・発達)を中心に、循環器科、眼科、整形外科・形成外科、泌尿器科、耳鼻咽喉科、歯科、皮膚科、精神科・児童精神科、リハビリテーション部門などが連携する多職種・多診療科チームでの管理が望まれます。手術の適応や時期、薬物療法の要否は症状や生活への影響を踏まえて個別に判断されるため、主治医・専門医とよく相談しながら方針を決めていくことが大切です。
- 栄養・摂食嚥下支援: 乳児期の哺乳困難には哺乳方法の工夫、とろみ付けなどの食形態調整、必要に応じて経鼻胃管栄養を行います。胃食道逆流には体位の工夫や薬物療法、重症例では外科治療(噴門形成術など)が検討されます。
- 先天性心疾患の治療: 小児循環器科の評価に基づき、経過観察、カテーテル治療、外科手術などが選択されます。心疾患の種類によっては感染性心内膜炎予防などの管理も行われます。
- 整形外科・形成外科的治療: 母指の偏位が強く、つまみ動作など手の機能や靴の着用に支障がある場合に骨切り術などの手術が検討されます。側弯や膝蓋骨脱臼、扁平足などにも整形外科的な対応を行います。
- 眼科的治療: 鼻涙管閉塞にはマッサージやブジーなどの処置、緑内障には点眼薬や手術、屈折異常には眼鏡、斜視には眼鏡・手術などを行います。視機能は発達や学習に直結するため早期対応が重要です。
- 泌尿器科的治療: 停留精巣には通常乳幼児期に精巣固定術が行われます。膀胱尿管逆流などの尿路異常があれば、予防的抗菌薬や手術の適応が検討されます。
- 便秘・排便管理: 食物繊維や水分摂取、生活リズムの調整に加え、緩下剤や浣腸などを用いて継続的に管理します。難治例ではヒルシュスプルング病など他疾患の除外が考慮されることもあります。
- 療育・リハビリテーション・教育的支援: 理学療法、作業療法、言語聴覚療法を早期から行い、運動・コミュニケーション・日常生活動作の発達を支えます。サイン、絵カード、タブレットなどの補助代替コミュニケーション(AAC)も有用で、就学時には特別支援教育の活用を検討します。
- 行動・精神面への対応: 環境調整や視覚的な見通しの提示などの行動支援を基本とし、不安、気分の変動、強い攻撃性、睡眠障害などが生活に大きく影響する場合は、児童精神科・精神科と相談のうえ薬物療法が検討されることがあります。
- 皮膚・歯科・麻酔時の配慮: ケロイドには圧迫療法、ステロイドの外用・局所注射などが行われ、不要な皮膚切開やピアスは避けることが勧められます。歯科では定期的なう蝕予防と歯列管理を行い、全身麻酔が必要な処置では気道管理や誤嚥への配慮を麻酔科と事前に共有します。
ルビンシュタイン・テイビ症候群の予後・長期フォロー
重篤な先天性心疾患や乳児期の重い呼吸器合併症がなければ、生命予後は比較的良好であり、多くの患者さんが成人期を迎えると考えられています。乳児期は誤嚥性肺炎や呼吸器感染症が健康上の最大のリスクとなるため、この時期の栄養・呼吸管理が重要です。知的障害の程度は個人差が大きいものの、多くの人が歩行を獲得し、身の回りのことをある程度自分で行えるようになり、支援を受けながら学校生活や作業所・就労支援の場などで社会参加を続けています。成人期のQOLには、肥満、睡眠時無呼吸、行動・情緒面の課題、ケロイド、視機能などが影響するため、成人後も継続した医療的支援が必要です。
長期フォローアップでは、成長(身長・体重・頭囲)、発達、栄養状態を定期的に確認するとともに、眼科診察(緑内障・屈折異常)、聴力、歯科、血圧、体重管理、睡眠の状態を定期的に評価します。心疾患や腎尿路異常がある場合はそれぞれの専門科で継続的に経過をみます。腫瘍については全例への一律の画像スクリーニングは一般的ではありませんが、しこり、頭痛、持続する発熱・顔色不良、出血傾向などの症状があれば早めに受診し評価を受けることが勧められます。思春期以降は精神面の変化にも注意を払い、小児科から成人診療科への移行期医療を計画的に進め、成人後に相談できる医療機関を確保しておくことが大切です。
ルビンシュタイン・テイビ症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、乳幼児期の誤嚥予防(食事時の姿勢、食形態の工夫、食後すぐに横にならない)、便秘予防のための食事・水分・運動、体重管理を意識することが大切です。ケロイドができやすいため、ピアスや不要な皮膚処置は避け、けがの傷はていねいに手当てしましょう。いびきや睡眠中の呼吸の停止に気づいたら主治医に伝えてください。他院の受診や手術・歯科治療の際には、本症候群であることと全身麻酔時の注意点を伝えられるよう、診断名や合併症・治療歴をまとめたメモ(サポートブックなど)を携帯すると安心です。行動面では、予定を写真や絵で示す、急な変化を避ける、感覚過敏に配慮するなど、本人が安心できる環境づくりが役立ちます。遺伝については、ほとんどが新生変異であるため、両親が遺伝子の変化をもたないことが確認された場合、きょうだいが同じ病気になる確率は一般には低いとされます。ただし、親の一部の細胞にのみ変化がある性腺モザイクの可能性からわずかな再発リスクは残るとされます。一方、患者さん本人が子どもをもつ場合、その子に遺伝する確率は50%です。再発リスクや出生前検査などについては、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングで個別に相談することをお勧めします。
利用できる制度・相談窓口
ルビンシュタイン・テイビ症候群は指定難病(告示番号102)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、都道府県・指定都市に申請することで医療費助成(特定医療費)を受けられます。申請には難病指定医が作成する臨床調査個人票が必要です。18歳未満(継続の場合は20歳未満まで)では小児慢性特定疾病医療費助成の対象となる場合があり、小児期は自治体の子ども医療費助成制度もあわせて利用できます。知的障害がある場合は療育手帳、心疾患や視覚・肢体の障害の程度によっては身体障害者手帳の対象となることがあり、特別児童扶養手当や障害児福祉手当、20歳以降は障害基礎年金(20歳前傷病による障害年金)や特別障害者手当の受給が検討できます。障害者総合支援法・児童福祉法に基づく児童発達支援、放課後等デイサービス、短期入所、生活介護、グループホームなどの障害福祉サービスも利用可能です。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、市区町村の障害福祉担当窓口や保健センター、医療機関の医療ソーシャルワーカー、相談支援事業所などがあり、同じ病気をもつ患者家族会からも情報や体験を得ることができます。制度の詳細や要件は改定されることがあるため、最新情報は自治体窓口で確認してください。
ルビンシュタイン・テイビ症候群に伴う心のケア・心理社会的支援
お子さんがまれな遺伝性疾患と診断されたとき、多くのご家族は衝撃、悲しみ、「自分のせいではないか」という自責感、将来への不安を経験します。本症候群の多くは誰の責任でもない新生変異によって起こることを、正確な情報として知っておくことが大切です。乳児期の哺乳困難や頻回の入院・手術、通院や療育の負担は大きく、養育者が睡眠不足や疲労から抑うつ状態や不安障害、適応障害に陥ることも少なくありません。きょうだい児が寂しさや我慢を抱えることもあり、家族全体への配慮が必要です。本症候群に特有の課題として、言葉で気持ちを伝えにくいために、痛みや不調が行動の変化(かんしゃく、自傷、睡眠の乱れ)として現れることがあり、行動の背景に身体的な原因が隠れていないかを確認する視点が重要です。また、思春期〜成人期には本人に不安や気分の変動、強迫的な傾向などが現れることがあるとされ、早めに児童精神科・精神科や心理職に相談することで、環境調整や適切な治療につなげられます。家族だけで抱え込まず、主治医、医療ソーシャルワーカー、保健師、相談支援専門員、患者家族会などに気軽に相談し、レスパイト(短期入所など)を活用して介護者自身の休息と心の健康を守ることが、長い療育生活を続けるうえで欠かせません。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
ルビンシュタイン・テイビ症候群の受診の目安
- 発熱とともに呼吸が速い・苦しそう、ぜーぜーする、顔色が悪いなど、肺炎(誤嚥性肺炎を含む)が疑われる場合は速やかに受診してください。
- ミルクや食事のたびにむせる、嘔吐を繰り返す、体重が増えない・減るといった場合は早めに主治医に相談してください。
- 目の痛み、黒目が大きく白く濁って見える、強いまぶしがり・涙目が続くなど緑内障が疑われる症状があれば、早めに眼科を受診してください。
- けいれん発作が5分以上続く、意識が戻らない、チアノーゼ(唇が紫色)を伴う場合は救急車を呼んでください。
- 強い腹痛やお腹の張り、何日も排便がなく嘔吐を伴う場合は、腸閉塞などの可能性があるため救急受診してください。
- 睡眠中のいびき・無呼吸、急な行動の変化や強い不安・気分の落ち込み、新たなしこり、原因不明の発熱や出血しやすさが続く場合も主治医に相談してください。
ルビンシュタイン・テイビ症候群についてのよくある質問
Q. 親の遺伝やお母さんの妊娠中の過ごし方が原因ですか?
A. ほとんどの場合、両親には遺伝子の変化はなく、受精前後に偶然新たに生じた変化(新生変異)によって起こります。妊娠中の生活や薬、食事などが原因になったわけではありません。ご心配な点は遺伝カウンセリングで詳しく相談できます。
Q. 既存の解説に血小板減少や自己免疫と書かれていましたが、本当ですか?
A. それは誤りで、本症候群は自己抗体や血小板減少を原因とする病気ではなく、CREBBPやEP300という遺伝子の変化による先天異常症候群です。ステロイドや脾臓摘出などの治療も本症候群の標準的な治療ではありません。正確な情報は主治医や難病情報センターなどの信頼できる情報源で確認してください。
Q. 歩いたり話したりできるようになりますか?
A. 発達のペースはゆっくりですが、多くのお子さんが歩行を獲得し、言葉やサイン、絵カードなどを使ってコミュニケーションできるようになります。程度には個人差が大きいため、早期からの療育やリハビリテーションで本人の力を伸ばしていくことが大切です。
Q. 手術や歯科治療で全身麻酔を受けるときに注意することはありますか?
A. 本症候群では気道確保が難しい場合や誤嚥、麻酔薬に関連した不整脈の報告があるため、事前に麻酔科医へ診断名と合併症を必ず伝えてください。可能であれば、複数の処置を一度の麻酔でまとめて行えるよう主治医と相談することもあります。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。