コステロ症候群

Costello Syndrome

コステロ症候群(Costello Syndrome)|コステロ症候群は、細胞の増殖シグナルを伝えるHRAS遺伝子の生まれつきの変化によって起こる先天異常症候群で、「RAS/MAPK症候群(RASopathy)」の一つです。乳児期の重い哺乳障害と体重増加不良、特徴的な顔貌や皮膚所見、肥大型心筋症や不整脈などの心疾患、発達の遅れ、小児期の悪性腫瘍リスクなど、複数の臓器に影響が及びます。症状は年齢によって変化するため、多くの診療科が連携した生涯にわたる管理が大切です。

コステロ症候群の要点

コステロ症候群は、HRAS遺伝子の生まれつきの変異で起こるRASopathy(RAS/MAPK症候群)の一つです。重い哺乳障害、特徴的な顔貌や皮膚所見、肥大型心筋症などの心疾患、発達の遅れ、悪性腫瘍のリスク上昇がみられ、日本では指定難病(告示番号104)です。

別名・略称Costello症候群、コステロ症候群、FCS症候群、Faciocutaneoskeletal syndrome
分野染色体・先天異常症候群
原因HRAS遺伝子の生殖細胞系列の機能獲得型変異(RAS/MAPK経路の異常)
遺伝形式常染色体顕性(優性)形式だが、多くは新たな変異による孤発例
発症時期先天性。胎児期の羊水過多や、乳児期の哺乳障害・体重増加不良で気づかれることが多い
主な症状哺乳障害、特徴的な顔貌、手掌・足底の深いしわ、乳頭腫、肥大型心筋症・不整脈、知的障害、悪性腫瘍リスク上昇
主な検査HRAS遺伝学的検査、心エコー、心電図
受診する主な診療科小児科、臨床遺伝科、小児循環器科

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コステロ症候群とは

コステロ症候群は、1971年と1977年にニュージーランドの小児科医J. Costelloが報告した症例に由来する疾患名です。出生前の羊水過多と出生時の比較的大きな体格、出生後の著しい哺乳障害と成長障害、厚みのある唇や大きめの口・低い鼻根などのやや粗な顔貌、手掌・足底の深いしわ、たるんだ柔らかい皮膚、鼻や口の周囲・肛門周囲の乳頭腫、巻き毛、肥大型心筋症や心房頻拍などの心疾患、知的障害、悪性腫瘍(特に横紋筋肉腫・神経芽腫・膀胱移行上皮癌)の発生リスク上昇を特徴とします。2005年に原因遺伝子としてHRASの生殖細胞系列の機能獲得型変異が同定され、現在は遺伝学的検査でHRAS病的バリアントを確認することが診断の中心となっています。

コステロ症候群は、ヌーナン症候群、CFC(心・顔・皮膚)症候群、神経線維腫症1型などとともに、RAS/MAPK経路の遺伝子異常による「RASopathy」と総称される疾患群に属します。HRAS遺伝子の原因変異発見以前は、臨床的に類似するヌーナン症候群やCFC症候群との区別が難しく、臨床診断のみで「コステロ症候群」とされた例の一部は、のちに別遺伝子の異常(BRAF、MAP2K1/2、KRASなど)によるCFC症候群であったことが判明しています。現在は「HRAS変異を持つもの」をコステロ症候群と定義する考え方が一般的です。変異の種類によって重症度が異なることが知られており、最も頻度の高いp.Gly12Serが典型像を示す一方、一部の稀な変異(p.Gly12Valなど)では新生児期から重篤で致死的な経過をとる例、逆に比較的軽症(attenuated)な表現型を示す変異も報告されています。日本では指定難病(告示番号104)および小児慢性特定疾病の対象疾患です。

コステロ症候群の疫学・患者数

コステロ症候群は非常にまれな疾患です。日本で行われた全国調査では、国内の患者数はおよそ150人程度、有病率は100万人あたり1人未満と推計された報告がありますが、診断されていない例も含めると実数は多少異なる可能性があります。海外でも出生数数十万〜百数十万人に1人程度と見積もられています。ほとんどの例は両親に変異がない新生突然変異(de novo)で発症し、父親由来の変異が多く、父親の年齢が高いと頻度がやや上がることが報告されています。性差は明らかではありません。症状は胎児期から現れ(羊水過多、胎児の大きさ・心拍異常など)、多くは新生児期から乳児期に哺乳障害や心疾患をきっかけに診断が疑われます。一方、軽症例では幼児期以降に発達の遅れや特徴的な外表所見から診断に至ることもあります。

コステロ症候群の原因・病態生理

原因は、11番染色体短腕(11p15.5)にあるHRAS遺伝子の生殖細胞系列での病的バリアント(ミスセンス変異)です。HRASは細胞膜の内側で増殖因子受容体からのシグナルを中継する低分子量GTP結合タンパク質で、GTPと結合した「オン」状態とGDPと結合した「オフ」状態を切り替えるスイッチとして働きます。コステロ症候群の変異の大部分はコドン12または13に集中しており、全体の約8割はp.Gly12Ser(c.34G>A)とされます。これらの変異はHRASのGTP加水分解能を低下させ、またGTPase活性化タンパク質(GAP)による不活化を受けにくくすることで、HRASを恒常的に活性化された状態に傾けます。遺伝形式は常染色体顕性(優性)遺伝で、患者本人が子を持った場合には理論上50%の確率で伝わりますが、実際にはほとんどが新生突然変異による孤発例です。

活性化したHRASは、下流のRAF→MEK→ERKからなるMAPK経路や、PI3K→AKT経路などを過剰に刺激します。これらの経路は細胞の増殖・分化・生存、心筋細胞の肥大、皮膚や結合組織の形成、神経発達、糖代謝など多様な過程を制御しているため、その過剰活性化が全身の多彩な症状につながると考えられています。心筋では肥大型心筋症や刺激伝導系の異常(多源性心房頻拍)、皮膚では角化異常や乳頭腫、弾性線維の異常によるたるみ、骨格系では関節の可動域制限や骨密度低下、中枢神経系では脳の相対的な過成長(大頭)と後頭蓋窩の狭さによるキアリ奇形Ⅰ型などが生じます。HRASは体細胞変異としては膀胱癌などの発がんにも関与する遺伝子であり、生殖細胞系列に活性化変異を持つことが、横紋筋肉腫・神経芽腫・膀胱移行上皮癌など特定の腫瘍の発生リスク上昇の背景にあると考えられています。なお、腫瘍内ではHRAS変異アレルを含む11p領域の片親性ダイソミーなど、追加の遺伝的変化が見られることも報告されています。

コステロ症候群の症状

  • 胎児期の羊水過多・出生時の大きな体格: 妊娠中に羊水過多や胎児の頭部・体格の大きさを指摘されることが多く、出生体重は在胎週数に比して大きめのことがあります。早産となる例も少なくありません。
  • 重度の哺乳障害・体重増加不良: 新生児期から吸啜・嚥下の弱さ、胃食道逆流、嘔吐などにより経口哺乳が困難で、多くの乳児が経管栄養や胃瘻を必要とします。出生後、体重が急速に落ち込み成長障害となります。
  • 低身長: 乳児期以降の成長は不良で、成人身長も低いことが多いとされます。成長ホルモン分泌不全を伴う例も報告されています。
  • 特徴的な顔貌と大頭: 相対的な大頭、厚い唇と大きな口、低い鼻根、内眼角贅皮、下がった耳介などの、やや粗な(coarse)顔貌がみられます。年齢とともに顔つきの特徴は変化します。
  • 皮膚・毛髪の所見: 柔らかくたるんだ皮膚、手掌・足底の深いしわ、黒色表皮腫様の色素沈着、巻き毛やまばらな毛髪がみられます。手のひらの皮膚が厚くなる角化異常を伴うこともあります。
  • 乳頭腫(パピローマ): 鼻孔周囲、口周囲、肛門周囲などに良性の乳頭腫が幼児期以降に出現することがあり、本症に比較的特徴的な所見です。
  • 心疾患(肥大型心筋症・不整脈・弁疾患): 患者の約6割に肥大型心筋症、多くに不整脈(特に多源性心房頻拍などの心房性頻拍)、一部に肺動脈弁狭窄などの先天性心疾患を認めます。乳児期の心疾患は生命予後に大きく関わります。
  • 発達の遅れ・知的障害: 運動発達・言語発達の遅れがみられ、知的障害は軽度から中等度のことが多いとされます。人懐っこく社交的な性格が指摘される一方、不安の強さや睡眠障害がみられることもあります。
  • 神経系の異常: キアリ奇形Ⅰ型、水頭症、脊髄空洞症、脊髄係留などが報告され、頭痛、首の痛み、歩行の変化、排尿障害の原因となりえます。乳児期の筋緊張低下や、てんかん発作を伴う例もあります。
  • 骨格・関節の異常: 手首の尺側偏位、指の過伸展、アキレス腱の短縮による尖足、側弯・後弯、股関節異形成、骨密度低下などがみられます。歩行や日常動作に影響することがあります。
  • 低血糖・内分泌の異常: 新生児期・乳児期に低血糖を起こすことがあり、高インスリン血症や成長ホルモン・コルチゾールの分泌不全が関与する例が報告されています。思春期の遅れがみられることもあります。
  • 悪性腫瘍の発生: 生涯で約15%前後に悪性腫瘍が発生するとされ、乳幼児期の胎児型横紋筋肉腫や神経芽腫、思春期以降の膀胱移行上皮癌が代表的です。

コステロ症候群の経過と合併症

コステロ症候群の経過は年齢によって大きく変化します。新生児期・乳児期は最も医療的ケアが必要な時期で、重い哺乳障害、低血糖、肥大型心筋症や心房性頻拍、呼吸の問題(喉頭・気道の軟化、閉塞性呼吸)などが重なり、集中治療を要することもあります。哺乳障害は多くの例で幼児期に入ると徐々に改善し、経口摂取が可能になっていきますが、食事への興味の乏しさや偏食が残ることもあります。幼児期以降は発達支援、整形外科的問題、皮膚の乳頭腫、腫瘍スクリーニングが中心的な課題となります。肥大型心筋症は乳児期に進行する例があり、その後安定または改善する例も多い一方、持続・進行する例もあるため継続的な評価が必要です。思春期から成人期には、膀胱癌の監視、骨粗鬆症、関節の拘縮や側弯、早期の加齢様変化(皮膚の老化様変化など)が問題となります。近年は医療の進歩により成人期に達する患者が増えていますが、成人期の自然歴に関する知見はまだ限られています。

主な合併症として、心臓では肥大型心筋症による左室流出路狭窄・心不全、多源性心房頻拍などの難治性不整脈、まれに突然死があります。神経系ではキアリ奇形Ⅰ型や脊髄空洞症による頭痛・神経症状、水頭症、てんかんが挙げられます。腫瘍では、乳幼児期の横紋筋肉腫(腹部・骨盤・泌尿生殖器領域に多い)や神経芽腫、10歳代以降の膀胱移行上皮癌が知られ、良性の乳頭腫も繰り返し生じます。そのほか、閉塞性睡眠時無呼吸、胃食道逆流、斜視・眼振などの眼科的問題、歯科的問題(歯列不正、エナメル質の問題)、骨密度低下による骨折、全身麻酔時の不整脈や心機能悪化のリスクにも注意が必要です。

コステロ症候群の診断・診断基準

診断は、胎児期の羊水過多、新生児期の哺乳障害と体重増加不良、特徴的な顔貌・皮膚所見、肥大型心筋症や心房性頻拍などの組み合わせから臨床的に疑い、HRAS遺伝子の遺伝学的検査で病的バリアントを確認して確定します。臨床像はヌーナン症候群やCFC症候群と重なる部分が大きく、特に乳児期は外表所見だけでの区別が困難なため、RASopathy関連遺伝子をまとめて調べる遺伝子パネル検査が用いられることもあります。指定難病の認定も、HRAS遺伝子の病的バリアントの同定を含む学会等の診断基準に基づいて行われます。確定診断後は、心臓・神経・整形外科・内分泌・眼科・腫瘍などの全身評価を行い、多診療科による長期管理計画を立てます。遺伝学的検査の実施にあたっては、遺伝カウンセリングを併せて受けることが勧められます。

  • HRAS遺伝子の遺伝学的検査: 血液などから得たDNAでHRAS遺伝子を解析し、p.Gly12Serなどの病的バリアントを確認することで確定診断となります。変異の種類は重症度や腫瘍リスクの推定に役立つことがあります。
  • 臨床所見の評価: 羊水過多の既往、哺乳障害、成長障害、顔貌、皮膚のたるみや手掌・足底の深いしわ、乳頭腫、巻き毛などを総合的に評価します。年齢により目立つ所見が異なる点に注意が必要です。
  • 心エコー検査: 心室壁の肥厚(肥大型心筋症)、左室流出路狭窄、肺動脈弁狭窄などの先天性心疾患を評価します。乳児期は進行しうるため繰り返しの評価が重要です。
  • 心電図・ホルター心電図: 多源性心房頻拍などの心房性頻拍や伝導異常を検出します。症状が乏しくても不整脈がみられることがあり、定期的な評価が推奨されます。
  • 頭部・脊椎MRI: キアリ奇形Ⅰ型、水頭症、脊髄空洞症、脊髄係留などの有無を評価します。頭痛・首の痛み・歩行や排尿の変化があれば早めの撮影が検討されます。
  • 腹部・骨盤超音波検査(腫瘍スクリーニング): 横紋筋肉腫や神経芽腫の早期発見を目的に、乳児期から8〜10歳頃まで3〜6か月ごとの腹部・骨盤超音波検査が国際的なガイドラインで提案されています。
  • 尿検査(血尿の確認): 膀胱移行上皮癌の早期発見のため、10歳頃からの定期的な尿検査で血尿の有無を確認することが提案されています。肉眼的血尿や持続する血尿があれば泌尿器科的精査を行います。
  • 血糖・内分泌検査: 乳児期の低血糖の評価として、血糖とともにインスリン、成長ホルモン、コルチゾールなどを測定します。成長障害が強い場合は成長ホルモン分泌能の評価も検討されます。
  • 眼科・聴覚・骨密度などの全身評価: 斜視・眼振・視神経の評価、聴力検査、骨密度測定、整形外科的評価などを行い、合併症を早期に把握します。

コステロ症候群と鑑別すべき疾患

  • ヌーナン症候群: PTPN11などの変異による同じRASopathyで、肺動脈弁狭窄が多い一方、重い哺乳障害・乳頭腫・皮膚のたるみや深い手掌しわは目立たず、腫瘍リスクも本症より低いのが一般的です。
  • CFC(心・顔・皮膚)症候群: BRAF、MAP2K1/2、KRASの変異で起こり、魚鱗癬様の皮膚や眉毛の欠如・まばらな毛髪が目立ち、乳頭腫や本症ほど高い悪性腫瘍リスクは典型的ではなく、遺伝子検査で区別します。
  • 神経線維腫症1型: NF1遺伝子の異常によるRASopathyで、多発するカフェオレ斑や神経線維腫が主体であり、乳児期の重い哺乳障害や肥大型心筋症は通常みられません。
  • ベックウィズ・ヴィーデマン症候群: 出生時の過成長や新生児低血糖、腫瘍リスクを共有しますが、巨舌・臍帯ヘルニア・片側肥大などが特徴で、出生後に強い成長障害をきたさない点が異なります。
  • ムコ多糖症などの代謝疾患: 粗な顔貌や関節拘縮が類似しますが、進行性の経過、骨変化、尿中ムコ多糖や酵素活性の異常によって区別されます。
  • 皮膚弛緩症(cutis laxa): 皮膚のたるみが共通しますが、特徴的な心筋症・心房頻拍・乳頭腫を欠き、別の原因遺伝子が同定されます。

コステロ症候群の治療

現時点でHRAS遺伝子の異常そのものを治す根本的な治療は確立していません。治療の基本は、年齢ごとに現れる合併症を早期に見つけて対応する対症療法と多診療科による包括的管理です。小児科(臨床遺伝・循環器・内分泌・神経)、小児外科、心臓血管外科、脳神経外科、整形外科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、腫瘍科、歯科、リハビリテーション、栄養・摂食嚥下の専門職などが連携し、国際的に作成された管理ガイドラインを参考に計画を立てます。治療方針は個々の病状や変異の種類によって大きく異なるため、主治医や専門医とよく相談しながら決めていくことが大切です。

  • 栄養管理・摂食支援: 重い哺乳障害には経鼻胃管や胃瘻による経管栄養を行い、胃食道逆流に対しては薬物療法や必要に応じて噴門形成術が検討されます。言語聴覚士などによる摂食嚥下訓練で、段階的に経口摂取を目指します。
  • 肥大型心筋症の管理: β遮断薬などの薬物療法で心筋の負担や流出路狭窄の軽減を図り、重症例では外科的治療が検討されることもあります。循環器専門医による定期的な評価が欠かせません。
  • 不整脈の治療: 多源性心房頻拍などの心房性頻拍に対しては抗不整脈薬が用いられ、複数の薬剤の組み合わせが必要になることもあります。乳児期の頻拍は自然に軽快していく例も多いとされます。
  • 脳神経外科的治療: 症状のあるキアリ奇形Ⅰ型や脊髄空洞症に対して後頭蓋窩減圧術、水頭症にはシャント術、脊髄係留には係留解除術などが検討されます。
  • 整形外科的治療・リハビリテーション: アキレス腱短縮による尖足には装具療法や腱延長術、側弯には装具や手術が検討されます。理学療法・作業療法で運動機能と日常生活動作の向上を図ります。
  • 発達支援・療育: 早期から理学・作業・言語療法を含む療育を行い、就学時には特別支援教育など本人に合った学習環境を整えます。
  • 内分泌治療: 低血糖には頻回授乳や持続注入、原因に応じた薬物治療を行います。成長ホルモン分泌不全を伴う場合の成長ホルモン療法は、心筋症や腫瘍リスクへの影響を慎重に考慮する必要があり、専門医と十分に相談のうえで判断されます。
  • 腫瘍の監視と治療: 定期的な画像検査・尿検査で早期発見に努め、悪性腫瘍が見つかった場合は小児がん専門施設で標準的な治療を行います。乳頭腫は症状や外見に応じて切除や凍結療法などで対応します。
  • 麻酔・手術時の配慮と研究段階の治療: 全身麻酔の際は心筋症や不整脈、気道の問題を考慮し、事前の心評価を行います。MEK阻害薬などRAS/MAPK経路を標的とする薬剤のRASopathyへの応用が研究されていますが、現時点では研究段階の位置づけです。

コステロ症候群の予後・長期フォロー

生命予後は、乳児期の心疾患(重症の肥大型心筋症や難治性不整脈)、呼吸の問題、悪性腫瘍の有無に大きく左右されます。乳児期を乗り越えると全身状態は安定してくることが多く、成人期まで生存する患者も少なくありません。ただし、一部の稀な変異をもつ例では新生児期から重篤な経過をとり、早期に亡くなる場合があることも報告されています。悪性腫瘍は生涯で約15%前後に発生するとされ、早期発見が予後の改善に重要です。知的障害は軽度〜中等度のことが多く、多くの患者は支援を受けながら言葉でのコミュニケーションや身の回りの動作を身につけていきます。社交的で人懐っこい性格を持つ人が多いとされ、適切な支援によって学校生活・地域生活・就労(福祉的就労を含む)を含めたQOLの向上が期待できます。

長期フォローアップは生涯にわたって必要です。心エコー・心電図による心臓評価を定期的に行い、乳幼児期から8〜10歳頃までは腹部・骨盤超音波による腫瘍スクリーニング、10歳頃からは尿検査による血尿の確認を継続することが国際的な管理指針で提案されています。成長・栄養状態、発達、眼科・聴覚、側弯や関節拘縮、骨密度、睡眠時無呼吸、歯科の状態も定期的に評価します。キアリ奇形や脊髄空洞症は年齢とともに症状が出ることがあるため、新たな神経症状があれば画像による再評価を行います。成人期に向けては、小児診療科から成人診療科への移行(トランジション)を計画的に進め、本症に詳しい医療機関との連携を保つことが望まれます。

コステロ症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

乳児期は栄養摂取が最大の課題です。経管栄養や胃瘻の管理方法、嘔吐時の対応、低血糖の兆候(顔色不良、ぐったりする、けいれんなど)について医療者から具体的に指導を受けておくと安心です。体調不良で食事量が落ちたときは低血糖や脱水に早めに気づくよう注意します。心疾患がある場合は、運動制限の要否を主治医に確認し、動悸や失神の有無に注意します。乳頭腫や皮膚の角化に対しては保湿などのスキンケアを行い、気になる変化は皮膚科で相談します。骨密度低下があるため転倒予防や適度な運動、栄養(カルシウム・ビタミンDなど)にも配慮します。全身麻酔を伴う処置や歯科治療を受ける際は、本症であることや心臓の状態を必ず担当医に伝えましょう。遺伝については、ほとんどが新生突然変異であるため、次の子どもでの再発率は一般より高いものの低い(親の生殖細胞モザイクの可能性を考慮しても数%未満とされる)と考えられています。ただし患者本人が子を持つ場合は50%の確率で遺伝します。出生前診断の可否や考え方を含め、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングで相談することをお勧めします。

利用できる制度・相談窓口

コステロ症候群は指定難病(告示番号104)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、医療費助成(特定医療費)を受けることができます。重症度基準を満たさない場合でも、医療費が一定額を超える月が年間一定回数以上ある「軽症高額該当」により対象となる場合があります。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では小児慢性特定疾病の医療費助成の対象であり、成人期に移行する際には指定難病の申請へ切り替えることが重要です。そのほか、知的障害に対する療育手帳、心疾患や肢体の障害等に対する身体障害者手帳、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス(居宅介護、短期入所、日中一時支援、補装具など)、児童発達支援・放課後等デイサービス、特別児童扶養手当や障害児福祉手当、20歳以降の障害基礎年金(20歳前傷病による)などが、要件に応じて利用できる可能性があります。医療的ケアが必要な場合は、医療的ケア児支援センターや訪問看護も活用できます。相談窓口としては、主治医や病院の医療ソーシャルワーカー、市区町村の障害福祉・子育て支援窓口、保健所、各都道府県の難病相談支援センター、小児慢性特定疾病の自立支援事業の相談窓口、難病情報センターや小児慢性特定疾病情報センターのウェブサイト、RASopathyの患者家族会などがあります。

コステロ症候群に伴う心のケア・心理社会的支援

まれな先天性疾患の診断は、家族にとって大きな衝撃となり、悲嘆、不安、自責感、将来への不安を抱くことは自然なことです。特にコステロ症候群では、乳児期に哺乳障害や心疾患のため長期入院や頻回の通院が続き、経管栄養の管理や睡眠不足が重なることで、養育者の心身の疲労、抑うつ、不安障害、適応障害が生じやすくなります。また、悪性腫瘍の発生リスクがあることから、定期的なスクリーニングのたびに不安が高まる家族も少なくありません。きょうだいへの配慮や、仕事・家庭生活との両立も課題となります。本人については、成長とともに外見の違いや乳頭腫への周囲の反応、学校生活でのつまずき、環境の変化への不安や睡眠の問題がみられることがあります。こうした負担は一人や家族だけで抱え込まず、主治医、看護師、心理職、医療ソーシャルワーカー、保健師などに早めに相談することが大切です。レスパイトケア(短期入所など)の利用や、同じ疾患・RASopathyの家族とつながる患者家族会での情報交換は、孤立感を和らげる助けになります。気分の落ち込みや不眠が続く場合は、精神科や心療内科の受診もためらわず検討してください。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

コステロ症候群の受診の目安

  • 哺乳量や食事量が明らかに減った、嘔吐が続く、尿が少ないなど脱水が疑われるときは早めに受診してください。
  • 顔色が悪くぐったりしている、意識がぼんやりする、けいれんを起こしたときは、低血糖や不整脈の可能性があるため救急受診してください。
  • 呼吸が苦しそう、脈が異常に速い・乱れる、失神した、むくみが出てきたなどの症状は、心不全や不整脈の可能性があるため速やかに受診してください。
  • 頭痛や首の痛みの悪化、歩き方の変化、手足のしびれ・力の入りにくさ、排尿・排便の変化がみられたら、キアリ奇形や脊髄の問題の可能性があるため主治医に相談してください。
  • 腹部のしこりやふくらみ、原因不明の腹痛、血尿(尿が赤い・茶色い)がみられたら、腫瘍の可能性も考えて早めに受診してください。

コステロ症候群についてのよくある質問

Q. コステロ症候群は親の遺伝によるものですか?

A. ほとんどの患者さんは、両親には変化がなく、受精前後に偶然生じた新生突然変異によって発症しています。妊娠中の過ごし方や養育が原因となるものではありません。次のお子さんでの再発率や本人が子を持つ場合の遺伝については、遺伝カウンセリングで相談することをお勧めします。

Q. がんになりやすいと聞きましたが、どうすればよいですか?

A. 生涯で約15%前後に悪性腫瘍が発生するとされ、乳幼児期の横紋筋肉腫・神経芽腫、思春期以降の膀胱癌が代表的です。乳幼児期から定期的な腹部・骨盤超音波検査、10歳頃からの尿検査などで早期発見に努めることが提案されています。具体的なスケジュールは主治医と相談して決めてください。

Q. 経管栄養はずっと必要ですか?

A. 乳児期の哺乳障害は重いことが多いものの、多くの場合は幼児期に入ると少しずつ改善し、経口摂取が可能になっていきます。必要な期間には個人差が大きいため、摂食嚥下の専門職と連携しながら段階的に進めていきます。

Q. 成長ホルモン治療を受けることはできますか?

A. 成長ホルモン分泌不全を伴う例では治療が検討されることがありますが、心筋症への影響や腫瘍リスクとの関係を慎重に考える必要があります。適応や利点・リスクについては、小児内分泌専門医や循環器専門医と十分に相談したうえで判断することが大切です。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。