脊髄空洞症

Syringomyelia

脊髄空洞症(Syringomyelia)|脊髄空洞症は、脊髄の内部に脳脊髄液(髄液)がたまった空洞(syrinx)ができ、それが少しずつ広がって脊髄の神経組織を内側から圧迫・障害する疾患です。手や腕の痛み・温度感覚の低下、しびれ、腕の筋力低下や筋萎縮、側弯症などがゆっくり進むのが典型で、小児から中年まで幅広い年代に発症します。原因の多くは頭蓋と頸椎の境目の形態異常であるキアリ奇形で、適切な時期に手術を行うことで進行を抑えられることが少なくありません。

脊髄空洞症の要点

脊髄空洞症は、脊髄の内部に髄液がたまった空洞ができて徐々に広がり、神経を内側から障害する疾患です。手や腕の温痛覚低下・しびれ、筋力低下、側弯などがゆっくり進み、国の指定難病(告示番号117)に指定されています。

別名・略称シリンゴミエリア、脊髄空洞症(SM)、syrinx、syringomyelia
分野神経・筋疾患
主な原因キアリ奇形I型が最多。外傷・癒着性くも膜炎、脊髄腫瘍、特発性もある
好発年齢小児から中年まで幅広い
主な症状上肢の温痛覚低下(解離性感覚障害)、しびれ、筋萎縮、側弯
主な検査MRI(脊髄・頭蓋頸椎移行部の評価)
主な治療大孔減圧術などの手術、経過観察
受診する主な診療科脳神経外科、神経内科、整形外科

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脊髄空洞症とは

脊髄空洞症は、脊髄実質内に髄液と同様の液体で満たされた管状の空洞が形成され、進行性の脊髄障害(ときに延髄障害)を来す病態の総称です。空洞は頸髄から上部胸髄に生じることが多く、脊髄の中心部(中心管周囲)から広がります。そのため、中心管の前を交差する温痛覚の線維が最初に障害されやすいのが特徴です。その結果、温痛覚は低下するのに触覚や位置覚は保たれる「解離性感覚障害」が、両肩から腕にかけて宙吊り型(ケープ状)に現れます。空洞が前角に及ぶと上肢の筋萎縮、側索に及ぶと下肢の痙性麻痺を生じます。延髄に及ぶと延髄空洞症(syringobulbia)となり、嚥下・構音障害などを生じます。

本症は単一の疾患というより、さまざまな基礎疾患によって髄液の流れが障害された結果として生じる二次的病態と理解されています。原因別には、(1)キアリ奇形I型に伴うもの(最多)、(2)脊髄髄膜瘤などに合併するキアリ奇形II型に伴うもの、(3)外傷・感染(髄膜炎、結核など)・くも膜下出血・手術後などによる癒着性くも膜炎に伴うもの(外傷後空洞症を含む)、(4)脊髄髄内腫瘍(血管芽腫、上衣腫など)に伴うもの、(5)原因を特定できない特発性、に分類されます。病理学的には、中心管が拡張した交通性(水髄症 hydromyelia を含む)と、中心管と連続しない非交通性・髄外型に分ける考え方もあります。1820年代にフランスのOllivierが「syringomyelia(syrinx=管、筒)」と命名し、20世紀にはGardnerの水力学説、Williamsの頭蓋脊髄圧較差説、Oldfieldらのピストン説など空洞形成の機序をめぐる学説が提唱され、現在の大孔減圧術などの治療概念の基盤となりました。日本では指定難病(告示番号117)に指定されています。

脊髄空洞症の疫学・患者数

わが国の全国疫学調査では、医療機関を受診している脊髄空洞症患者は約2,500人程度と推計され、人口10万人あたり2人前後の有病率と報告されています。ただしMRIの普及により無症候性の小さな空洞が偶然見つかる例が増えており、軽症例を含めた実際の頻度はこれより多い可能性があります。原因別ではキアリ奇形I型に伴うものが約半数を占め、次いで癒着性くも膜炎、脊髄髄膜瘤(キアリ奇形II型)、腫瘍、特発性などが続くとされます。発症年齢は小児期から高齢期まで幅広いものの、キアリ奇形I型に伴う例では10歳代以前の小児期(側弯症で発見されることが多い)と20〜40歳代の成人期に多く、やや女性に多い傾向が報告されています。外傷後空洞症は脊髄損傷から数か月〜数十年経過して発症することがあり、受傷者の年齢分布を反映して男性に多い傾向があります。

脊髄空洞症の原因・病態生理

本症の本質は、頭蓋内と脊柱管内のあいだ、あるいは脊髄周囲のくも膜下腔における髄液の流れ(拍動性の往復運動)の障害です。キアリ奇形I型では小脳扁桃が大後頭孔から脊柱管内へ下垂し、大孔部のくも膜下腔を栓のように塞ぎます。癒着性くも膜炎では、炎症や出血のあとにくも膜が瘢痕化して脊髄周囲の髄液の通り道が局所的に途絶します。脊髄髄内腫瘍では、腫瘍からの滲出液や血液脳関門の破綻による液体貯留が空洞を形成します。遺伝性疾患ではなく、大半は孤発例ですが、キアリ奇形にはまれに家族内発生の報告があり、後頭骨の低形成(後頭蓋窩が狭い)など骨格要因の関与が考えられています。また、頭蓋底陥入症、環軸椎の形態異常、結合組織疾患などに合併することもあります。

空洞の形成・拡大の機序には諸説ありますが、現在有力なのは以下のような考え方です。心拍に同期して脳が拡張すると髄液は頭蓋内から脊柱管へ押し出されますが、大孔部が閉塞していると、下垂した小脳扁桃がピストンのように上下動して脊髄くも膜下腔に収縮期の圧波を生じさせます(ピストン説)。この圧が脊髄表面から血管周囲腔(Virchow-Robin腔)を通じて髄液を脊髄実質内へ押し込み、一方で空洞からの排出は妨げられるため、液体が蓄積していきます。咳・いきみ・くしゃみなどで胸腹腔圧が上がると硬膜外静脈叢を介して脊柱管内圧が急上昇し、頭蓋内との圧較差が生じて空洞内液が上下に揺さぶられ(スロッシング)、空洞の伸展や症状増悪につながると考えられています(頭蓋脊髄圧較差説)。拡大した空洞は、まず中心管前方の交連線維(温痛覚)、次いで前角細胞(下位運動ニューロン)、さらに錐体路・後索、自律神経中枢(中間外側核)へと障害を広げ、延髄に及ぶと脳神経核を侵します。

脊髄空洞症の症状

  • 解離性感覚障害: 肩から腕・上胸部にかけてケープ状に、痛みや熱さ・冷たさを感じにくくなる一方、触った感じは保たれます。本症に最も特徴的な所見です。
  • 無痛性の外傷・やけど: 温痛覚が低下するため、調理中のやけどや切り傷に気づかず、手指に傷跡や潰瘍が多発することがあります。
  • 神経障害性疼痛・しびれ: 首・肩・腕に焼けるような痛みやジンジンするしびれが続くことがあり、感覚が鈍い部位に痛みを感じる逆説的な状態もみられます。
  • 上肢の筋力低下・筋萎縮: 前角細胞の障害により手の小さな筋肉(骨間筋・母指球筋など)からやせて力が入りにくくなり、細かい作業が困難になります。左右差を伴うことが多いです。
  • 下肢の痙性・歩行障害: 空洞が側索の錐体路に及ぶと、脚のつっぱり、腱反射亢進、歩きにくさが出ます。
  • 側弯症: 特に小児では、空洞による体幹筋の不均衡から脊柱が曲がり、学校検診で側弯症として見つかることがよくあります。左凸の胸椎カーブや急速進行例では本症を疑う手がかりとされます。
  • 後頭部痛・咳嗽性頭痛: キアリ奇形を伴う場合、咳・くしゃみ・いきみ・笑いなどで誘発される短時間の後頭部〜頸部痛が特徴的です。
  • 自律神経症状: 発汗異常(片側の多汗や無汗)、皮膚の栄養障害、ホルネル症候群(まぶたが下がる、瞳孔が小さい)などがみられることがあります。
  • 神経原性関節症(シャルコー関節): 痛みの感覚が失われた肩・肘などの関節が破壊・変形し、腫れや不安定性を生じることがあります。
  • 延髄症状: 延髄空洞症やキアリ奇形では、飲み込みにくさ、むせ、声のかすれ、ろれつ障害、眼振、顔面の感覚低下、めまいなどが現れます。
  • 睡眠時無呼吸・呼吸障害: 脳幹の圧迫により中枢性・閉塞性の睡眠時無呼吸を来すことがあり、まれに重い呼吸障害につながります。
  • 排尿・排便障害: 空洞が広範囲に及ぶ例や進行例では、頻尿・尿失禁・残尿感や便秘がみられることがあります。

脊髄空洞症の経過と合併症

自然経過は個人差が大きく、一般には数年〜数十年の単位でゆっくり進行し、ある時期に増悪したのち長く停止する、あるいは階段状に悪化するなど多彩です。MRIで偶然見つかった細い空洞や、中心管がわずかに拡張しているだけの例では、長年変化しないことも少なくありません。一方、空洞が太く長く、症状が出始めている例では、無治療のままだと感覚障害・筋萎縮が徐々に広がる傾向があります。咳や強いいきみ、転倒・頸部の外傷などを契機に急に症状が悪化することもあります。小児例では側弯の進行速度が成長期に速まることがあり、小児期に空洞を治療すると側弯の進行が抑えられる例があると報告されています。いったん生じた筋萎縮や感覚脱失は手術後も回復しにくいため、症状が軽い段階で専門医の評価を受けることが重要です。

合併症として、無痛性のやけど・外傷とその感染、手指の潰瘍、神経原性関節症による関節破壊、進行性の側弯症とそれに伴う呼吸機能低下が問題になります。キアリ奇形II型や脊髄髄膜瘤に伴う例では水頭症、シャント機能不全、膀胱直腸障害、尿路感染症を合併しやすく、延髄症状が強い場合は誤嚥性肺炎や睡眠時無呼吸による突然の呼吸障害にも注意が必要です。慢性疼痛による睡眠障害や抑うつ、上肢機能障害による就労・家事の制限も、生活の質に大きく影響する合併症といえます。

脊髄空洞症の診断・診断基準

診断は、上肢の解離性感覚障害や筋萎縮、側弯、咳嗽性頭痛などの症状から本症を疑い、MRIで脊髄内の空洞を確認することが中心です。空洞を見つけたら次に「なぜ空洞ができたか(原因疾患)」を必ず調べます。具体的には、頭頸移行部のキアリ奇形の有無、脊髄腫瘍を除外するための造影MRI、くも膜炎の既往(外傷・髄膜炎・手術・出血)の確認を行い、全脊髄の撮像で空洞の範囲を把握します。指定難病の診断基準では、MRIなどで脊髄空洞が確認され、それに起因する神経症状を有することなどが要件とされ、医療費助成の対象となるかは修正ランキンスケール(mRS)や食事・呼吸に関する評価などを用いた重症度分類で判断されます。最終的な判断は脳神経外科・脳神経内科など専門医によって行われます。

  • 神経学的診察: 温痛覚と触覚・位置覚の解離、宙吊り型の感覚障害の分布、手内筋の萎縮、腱反射(上肢低下・下肢亢進のパターン)、ホルネル徴候などを系統的に確認し、空洞の高さと広がりを推定します。
  • 脊髄MRI(T1・T2強調像): 診断の決め手で、T1で低信号・T2で高信号の髄内空洞を描出します。空洞の長さ・太さ、隔壁の有無、脊髄の萎縮を評価し、全脊髄を撮像して範囲を確認します。
  • 頭部・頭頸移行部MRI: 小脳扁桃の下垂(一般に大後頭孔から5mm以上がキアリ奇形I型の目安とされる)、後頭蓋窩の狭小化、水頭症、脳幹の圧迫の有無を評価します。
  • 造影MRI: 血管芽腫や上衣腫など髄内腫瘍に伴う空洞を除外するために必須で、空洞の壁や周囲に造影される結節がないかを確認します。
  • シネMRI(髄液流動評価): 心拍に同期して大孔部や脊髄周囲の髄液の流れを可視化し、閉塞の程度や癒着の部位を評価して手術方針の決定に役立てます。
  • CT・単純X線(頭蓋頸椎移行部・全脊柱): 頭蓋底陥入症、環軸椎の異常、頸椎癒合などの骨形態異常を評価し、全脊柱X線で側弯の角度(Cobb角)を計測・追跡します。
  • 電気生理学的検査: 体性感覚誘発電位(SEP)や筋電図で脊髄・前角障害の程度を客観化し、末梢神経障害との鑑別や術前後の評価に用います。
  • 嚥下・睡眠・排尿の評価: 延髄症状がある場合は嚥下造影や睡眠ポリグラフ検査、排尿障害がある場合は残尿測定や尿流動態検査を行い、合併症を把握します。
  • 重症度評価: 指定難病の重症度分類では、mRS、食事・栄養、呼吸の各評価などを用い、一定以上の障害がある場合に医療費助成の対象となります(軽症でも高額な医療が続く場合の特例あり)。

脊髄空洞症と鑑別すべき疾患

  • 脊髄髄内腫瘍(上衣腫・血管芽腫・星細胞腫など): 腫瘍性空洞では造影される実質成分や脊髄の腫大を伴うため、造影MRIでの確認が不可欠です。
  • 頸椎症性脊髄症・後縦靱帯骨化症: 脊柱管の外からの圧迫による脊髄障害で、MRI・CTで骨棘や靱帯骨化による圧迫が確認され、解離性感覚障害は典型的ではありません。
  • 筋萎縮性側索硬化症(ALS): 上肢の筋萎縮は似ますが、ALSでは感覚障害がなく、上位・下位運動ニューロン徴候が広範に進行し、MRIで空洞は認めません。
  • 多発性硬化症・視神経脊髄炎: MRIで脊髄の長い病変がみられることがありますが、空洞ではなく炎症性病変で、急性〜亜急性発症と再発、造影効果、髄液所見や抗体検査で区別します。
  • 手根管症候群・肘部管症候群など末梢神経障害: 手のしびれや萎縮は似ますが、感覚障害が特定の末梢神経の支配域に限局し、神経伝導検査で局所の伝導障害を認めます。
  • 中心管遺残・終末脳室(ventriculus terminalis): MRIで中心管がわずかに拡張して見える正常変異で、細く短く症状を伴わず経時的に変化しない点で病的な空洞と区別します。

脊髄空洞症の治療

治療の基本は、空洞そのものではなく空洞を作り出している原因(髄液の流れの障害)を取り除くことです。無症状または症状が軽く安定している場合は、定期的なMRIと診察による経過観察が選ばれることが多く、症状が進行している場合、空洞が拡大している場合、小児で側弯が進行する場合などに手術が検討されます。原因別に、キアリ奇形には大孔減圧術、癒着性くも膜炎には癒着剥離や髄液短絡(シャント)術、腫瘍性には腫瘍摘出が基本となります。並行して、神経障害性疼痛の薬物療法、リハビリテーション、側弯や延髄症状などの合併症管理を行います。手術の適応や術式、時期は症状の経過や画像所見によって判断が分かれるため、脳神経外科・脊髄外科の専門医とよく相談して決めることが大切です。

  • 経過観察: 無症状の小さな空洞や安定した軽症例では、半年〜1年ごとのMRIと神経診察で変化を追跡します。症状の新たな出現や空洞拡大があれば治療を再検討します。
  • 大孔減圧術(FMD): キアリ奇形I型に伴う空洞に対する第一選択の手術で、後頭骨下部と環椎後弓を切除して大孔部の髄液通過を回復させます。硬膜形成(硬膜を開いて人工・自家膜でパッチを当てる)を併用するか、骨のみの減圧にとどめるかは施設や病態により異なります。
  • 空洞短絡術(シャント術): 空洞内にチューブを留置して髄液をくも膜下腔(S-Sシャント)や腹腔などへ流す手術で、大孔減圧術で改善しない例や癒着性くも膜炎例などで検討されます。チューブの閉塞や再発の可能性があるため、適応は慎重に判断されます。
  • 癒着剥離術・くも膜下腔再建: 外傷後・感染後の癒着性くも膜炎に伴う空洞では、癒着部位を剥離して硬膜形成を行い、髄液の通り道を再建する手術が行われることがあります。癒着が広範な場合は効果が限られることもあります。
  • 原因疾患の治療(腫瘍摘出・水頭症治療): 髄内腫瘍に伴う空洞では腫瘍の摘出により空洞が縮小することが多く、キアリ奇形II型や水頭症を伴う場合は脳室シャントの機能確認・再建がまず優先されます。
  • 神経障害性疼痛の薬物療法: プレガバリンなどのガバペンチノイド、デュロキセチンなどの抗うつ薬、抗てんかん薬などが症状に応じて用いられます。眠気・ふらつきなどの副作用があり、効果と副作用を見ながら主治医が調整します。
  • リハビリテーション・作業療法: 上肢の筋力・巧緻性の維持、下肢痙性に対するストレッチ、歩行訓練、自助具の活用などにより日常生活動作を保ちます。術後の機能回復にも重要です。
  • 側弯症の管理: 小児では空洞の治療を先行させたうえで、装具療法や、高度・進行性の側弯に対する脊柱矯正固定術が整形外科と連携して検討されます。
  • 延髄・呼吸・排尿障害への対応: 嚥下障害には食形態の工夫や嚥下訓練、睡眠時無呼吸には持続陽圧呼吸療法(CPAP)などの換気補助、神経因性膀胱には自己導尿や薬物療法など、各症状に応じた支持療法を行います。

脊髄空洞症の予後・長期フォロー

生命予後は、延髄症状や重い呼吸障害を伴う例を除けば一般に良好で、多くの患者さんは社会生活を続けています。キアリ奇形I型に伴う空洞では、大孔減圧術後に多くの例で空洞の縮小が得られ、頭痛や痛み、最近出現した筋力低下・しびれは改善が期待できるとされます。一方、長期間続いた筋萎縮や温痛覚脱失、神経障害性疼痛は術後も残存しやすく、「進行を止める」ことが手術の主目的となる場合が多い点を理解しておく必要があります。癒着性くも膜炎や外傷後の空洞は治療抵抗性で再発しやすい傾向があり、複数回の手術を要することもあります。生活の質の面では、慢性疼痛、上肢機能障害、側弯による姿勢・呼吸への影響が主な課題となります。

手術の有無にかかわらず、長期的なフォローアップが必要です。術後は数か月〜1年程度でMRIによる空洞の縮小を確認し、その後も症状の変化に応じて定期的に画像検査と神経診察を行います。シャント術後はチューブ閉塞による再拡大、大孔減圧術後は髄液漏・偽性髄膜瘤や、まれに再癒着による再発に注意します。小児では成長終了まで側弯の進行を追跡します。新たなしびれ・筋力低下・頭痛の再燃は空洞の再拡大を示すことがあるため、早めに主治医に伝えることが大切です。

脊髄空洞症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

温痛覚が低下した部位は、やけどやけがに気づきにくいため、調理・入浴・暖房器具・カイロ・湯たんぽの使用時には温度計を使う、感覚が保たれた部位で温度を確かめる、耐熱手袋を着けるなどの工夫が重要です。手指は毎日目で見て傷や腫れがないか確認し、傷があれば早めに処置しましょう。強いいきみや咳、重い物を持ち上げる動作、頸部を急に強く曲げ伸ばしする動作は、空洞内圧を上げて症状を悪化させる可能性があるため、便秘の予防や咳の早期治療を心がけ、コンタクトスポーツやジェットコースターのような頸部に強い衝撃が加わる活動は主治医と相談してください。適度な運動やリハビリは筋力・関節可動域の維持に役立ちます。本症の大半は遺伝しないとされますが、家族内にキアリ奇形がある場合や、妊娠・出産(分娩時のいきみや麻酔方法)について不安がある場合は、主治医や産科医、必要に応じて遺伝カウンセリングの専門家に相談すると安心です。手術や全身麻酔を受ける際は、本症とキアリ奇形の有無を必ず医療者に伝えましょう。

利用できる制度・相談窓口

脊髄空洞症は指定難病(告示番号117)であり、診断基準を満たし重症度分類で一定以上の場合(または軽症でも医療費が高額な月が一定回数以上ある場合の軽症高額該当)には、医療費助成を受けられます。申請は難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、住所地の都道府県・指定都市の窓口(保健所など)に行います。18歳未満(継続の場合20歳未満)では小児慢性特定疾病医療費助成の対象疾病にも含まれているため、主治医に確認してください。上肢・下肢の機能障害の程度に応じて身体障害者手帳(肢体不自由)、日常生活や就労に支障がある場合は障害年金の対象となりうるほか、指定難病は障害者総合支援法の対象疾病であるため手帳がなくても障害福祉サービスを利用できる場合があります。介護保険は65歳以上であれば原因を問わず利用できます。療養や制度、就労に関する相談は、各都道府県の難病相談支援センター、保健所の保健師、医療機関の医療ソーシャルワーカー、ハローワークの難病患者就職サポーターなどが窓口になります。

脊髄空洞症に伴う心のケア・心理社会的支援

脊髄空洞症は外見からは症状がわかりにくく、絶え間ない痛みやしびれ、手の使いにくさを周囲に理解してもらえないことが大きな心理的負担になります。慢性疼痛は睡眠障害、抑うつ、不安と互いに悪化させ合うことが知られており、手術を受けるかどうかの決断、術後も症状が残ることへの落胆、再発への不安、側弯による外見の悩み(特に思春期)なども重なりやすい疾患です。若い世代に多いため、進学・就職・妊娠出産といったライフイベントとの両立に悩む方も少なくありません。気分の落ち込み、意欲低下、眠れない状態が続く場合は、我慢せず主治医に伝え、必要に応じて心療内科・精神科、ペインクリニック、臨床心理士などの支援を受けることが大切です。患者会や難病相談支援センターで同じ病気の人と経験を共有することも、孤立感の軽減に役立ちます。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

脊髄空洞症の受診の目安

  • 手や腕のしびれ・痛み、熱さや痛みを感じにくい、気づかないうちにやけどや傷ができているといった症状があるとき。
  • 手の筋肉がやせてきた、箸やボタン操作などの細かい動作がしにくくなったとき。
  • 咳・くしゃみ・いきみで後頭部や首に強い痛みが出るとき、学校検診などで側弯を指摘されたとき。
  • 既に診断を受けている方で、しびれ・筋力低下・歩行障害が新たに出現または急に悪化したとき(早めに主治医へ)。
  • 飲み込みにくさやむせ、声のかすれが急に強くなった、睡眠中の呼吸停止を指摘された、呼吸が苦しいときは速やかに受診(重い場合は救急受診)してください。
  • 手術後に発熱を伴う強い頭痛、首の硬さ、傷からの液体の漏れや腫れが出たときは至急受診してください。

脊髄空洞症についてのよくある質問

Q. MRIで偶然空洞が見つかりましたが、すぐに手術が必要ですか?

A. 症状がなく空洞が小さい、あるいは中心管がわずかに広がっているだけの場合は、すぐに手術せず定期的なMRIで経過をみることが多いです。ただし原因(キアリ奇形や腫瘍など)の確認は必要なので、脳神経外科などの専門医で一度評価を受けてください。

Q. 手術をすれば症状は元に戻りますか?

A. 大孔減圧術などで空洞が縮小すると、頭痛や比較的最近出た痛み・しびれ・筋力低下は改善が期待できます。一方、長く続いた筋萎縮や温痛覚の低下は残りやすく、手術の主な目的は進行を止めることにあると理解しておくとよいでしょう。

Q. 子どもに遺伝しますか?

A. 脊髄空洞症の多くは遺伝性疾患ではなく、親から子へ受け継がれることは一般的ではありません。キアリ奇形ではまれに家族内発生の報告があるため、心配な場合は主治医や遺伝カウンセリングの専門家に相談してください。

Q. 日常生活で避けたほうがよい動作はありますか?

A. 強いいきみ、重い物の持ち上げ、首に強い衝撃が加わる運動などは空洞内の圧を高め症状を悪化させる可能性があるとされます。また感覚が鈍い部位のやけど・けがに注意が必要で、具体的な運動や仕事の制限は病状に応じて主治医と相談してください。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。