脊髄髄膜瘤
Spinal Meningocele
脊髄髄膜瘤(Spinal Meningocele)|脊髄髄膜瘤(英語では一般にmyelomeningoceleと呼ばれます)は、胎児期のごく早い時期に神経管が閉じきらないために起こる先天異常です。脊髄と髄膜が背中の皮膚欠損部から露出・突出した状態で生まれ、開放性二分脊椎の代表的な病型にあたります。下肢の運動・感覚障害や排尿・排便障害に加え、水頭症やキアリ奇形II型を高い頻度で合併します。このため、出生直後から生涯にわたり、脳神経外科・泌尿器科・整形外科・リハビリテーション科など多くの診療科による継続的な診療が必要になります。
脊髄髄膜瘤の要点
脊髄髄膜瘤は、胎児期に神経管が閉じきらず、脊髄と髄膜が背中の皮膚欠損部から露出・突出して生まれる先天異常で、開放性二分脊椎の代表です。下肢の運動・感覚障害、排尿・排便障害、水頭症やキアリ奇形II型を伴いやすく、生涯の継続的な診療が必要な指定難病です。
| 別名・略称 | 開放性二分脊椎、二分脊椎、髄膜脊髄瘤、myelomeningocele、meningomyelocele、MMC |
|---|---|
| 分野 | 神経・筋疾患 |
| 遺伝形式 | 多くは多因子(遺伝要因と環境要因)。葉酸不足などがリスク因子 |
| 発症時期 | 先天性(胎生3〜4週頃の神経管閉鎖の異常。出生時から病変あり) |
| 主な症状 | 下肢の運動・感覚障害、排尿・排便障害、水頭症、キアリ奇形II型 |
| 主な検査 | 胎児超音波・胎児MRI、頭部・脊髄MRI、尿流動態検査 |
| 主な治療 | 背部病変の閉鎖術、水頭症へのシャント術、清潔間欠導尿、リハビリ、胎児手術 |
| 受診する主な診療科 | 脳神経外科、小児科、泌尿器科、整形外科、リハビリテーション科 |
脊髄髄膜瘤とは
脊髄髄膜瘤は、胎生期(受精後およそ3〜4週)に神経板が管状に閉じて神経管となる過程(一次神経管形成)がうまくいかず、脊髄の一部が板状のまま残ることで生じます。病変部では、神経組織(神経プラコード)・髄膜・脳脊髄液が皮膚に覆われずに背部に露出、あるいは嚢状に突出します。発生部位は腰仙部が最も多く、胸椎部や頸椎部はまれです。病変より下位の脊髄神経の機能が障害されるため、病変の高さ(神経学的レベル)によって下肢機能や歩行能力の見通しが大きく変わります。さらに後脳の発生異常であるキアリ奇形II型と、それに伴う水頭症を高率に合併します。このため、本疾患は単なる背中の奇形ではなく、脳と脊髄全体に及ぶ中枢神経系の先天異常として理解されています。
二分脊椎は、病変が皮膚で覆われていない開放性二分脊椎と、皮膚で覆われている潜在性二分脊椎に大別されます。開放性二分脊椎には、脊髄髄膜瘤と、嚢を形成せず神経組織が平坦に露出する脊髄披裂(myeloschisis)が含まれます。潜在性二分脊椎には、脊髄脂肪腫、皮膚洞、終糸脂肪腫、割髄症などがあります。髄膜だけが脱出して神経組織を含まない「髄膜瘤(meningocele)」は名称が似ていますが、一般に神経症状は軽く、別の病態として扱われます。英語表記の“Spinal Meningocele”は誤解を招きやすいため注意が必要です。歴史的にみると、かつては多くの患児が乳児期に感染症や水頭症で亡くなっていました。1950年代以降の髄液シャントの実用化、早期閉鎖術の普及、1970年代に提唱された清潔間欠導尿(CIC)による腎機能保護などで、生命予後は大きく改善しました。2011年には米国の多施設ランダム化試験(MOMS試験)で胎児手術の有効性が示されています。日本では2015年に指定難病(告示番号118)に指定されました。
脊髄髄膜瘤の疫学・患者数
日本における二分脊椎の発生頻度は、先天異常モニタリングなどの報告で出生1万人あたりおよそ5〜6人前後とされ、その多くを脊髄髄膜瘤が占めます。欧米では、葉酸の摂取推奨や小麦粉などへの葉酸添加(食品強化)の導入後に発生率の低下が報告されています。一方、日本では2000年に旧厚生省が妊娠可能な年齢の女性に葉酸摂取を推奨したものの、食品強化は義務化されておらず、明らかな減少は確認されていないとされます。性差は大きくありませんが、女児にやや多いとする報告があります。出生前診断の普及により、出生前に診断される例が増えています。医療の進歩で多くの患者さんが成人期に達しており、現在では小児だけでなく、成人の患者さんも相当数にのぼります。
脊髄髄膜瘤の原因・病態生理
脊髄髄膜瘤は、単一の遺伝子で説明できる遺伝病ではなく、複数の遺伝的素因と環境要因が重なって起こる多因子疾患と考えられています。最もよく確立した環境要因は、妊娠初期の母体の葉酸不足です。妊娠前から十分な葉酸を摂取すると発生リスクが大きく下がることが、複数の大規模研究で示されています。そのほか、妊娠初期の抗てんかん薬(特にバルプロ酸、カルバマゼピンなど)の服用、母体の糖尿病(血糖コントロール不良)、肥満、妊娠初期の高熱などが危険因子として知られています。遺伝的素因としては、葉酸代謝に関わる酵素(MTHFRなど)の遺伝子多型や、神経管の形成に関わる細胞極性(平面内細胞極性経路)関連遺伝子との関連が研究で報告されています。ただし、個々の患者さんで原因を特定できることはまれです。18トリソミーなどの染色体異常や、他の先天異常症候群の一部として生じることもあります。きょうだいに本症がいる場合の再発率は、一般集団より高く数%程度とされます。
神経管は受精後およそ28日前後までに閉鎖を完了します。この時期に閉鎖が障害されると、脊髄の一部が開いた板状のまま残り、その上を覆う椎弓・筋膜・皮膚も形成されません。神経障害は、この一次的な形成異常だけでなく、妊娠中に露出した神経組織が羊水の化学的刺激や子宮壁との機械的接触にさらされ続けることによる二次的損傷でも進むと考えられています(two-hit仮説)。これが胎児手術の理論的根拠となっています。また、開放部から脳脊髄液が持続的に漏れると、発生途中の脳室系が十分に拡張せず、後頭蓋窩が小さく形成されます。その結果、小脳虫部や脳幹、第四脳室が大後頭孔から脊柱管内へ下垂するキアリ奇形II型が生じるという統一理論が広く支持されています。キアリ奇形II型による第四脳室出口の通過障害や中脳水道狭窄により髄液の流れが妨げられ、多くの例で水頭症が出現します。脳梁形成異常や中脳被蓋の変形など、他の脳の形態異常を伴うことも少なくありません。
脊髄髄膜瘤の症状
- 背部の開放性病変: 出生時、腰仙部などに皮膚欠損を伴う嚢状の膨隆または平坦な神経組織の露出がみられます。髄液漏出があると髄膜炎の危険が高まります。
- 下肢の運動麻痺: 病変レベル以下の筋力が低下し、弛緩性麻痺を主体に痙性が混じることもあります。胸椎・上位腰椎レベルでは車椅子移動が中心となり、下位腰椎・仙椎レベルでは装具を用いて歩行できることが多くなります。
- 感覚障害: 病変レベル以下の痛覚・温度覚などが低下・消失します。気づかないうちに褥瘡、低温やけど、骨折を生じやすくなります。
- 水頭症: 多くの例で出生前後から脳室拡大を認めます。乳児では頭囲拡大、大泉門膨隆、落陽現象、嘔吐、不機嫌などが現れます。
- キアリ奇形II型による脳幹症状: 乳児期には吸気性喘鳴(声帯麻痺)、無呼吸発作、嚥下障害、誤嚥がみられることがあり、重症例では生命に関わります。年長児・成人では後頭部痛や上肢のしびれ・脱力として現れることがあります。
- 神経因性膀胱(排尿障害): ほぼ全例で、排尿筋の過活動や低活動、尿道括約筋との協調不全が生じます。尿失禁、残尿、尿路感染、膀胱尿管逆流などを起こし、放置すると腎機能障害につながります。
- 神経因性腸(排便障害): 直腸の感覚低下や肛門括約筋の機能障害により、慢性便秘と便失禁が併存しやすくなります。社会生活上の大きな負担になります。
- 足部・股関節の変形: 筋力の不均衡や胎内での運動低下により、内反足・踵足・凹足などの足部変形や、股関節脱臼・拘縮がみられます。
- 脊柱変形: 側弯や後弯が成長とともに進行することがあります。座位の安定性、呼吸機能、皮膚トラブルに影響します。
- 認知・学習面の特性: 知的発達が正常範囲の人も多い一方、注意・実行機能、視空間認知、算数、読解の苦手さなど、非言語性の学習の困難がみられることがあります。
- ラテックスアレルギー: 乳児期から繰り返す手術や導尿で天然ゴムに感作されやすく、じんま疹からアナフィラキシーまで起こりえます。
- 性機能・内分泌の問題: 男性では勃起・射精障害、女性では性器の感覚低下がみられることがあります。また、水頭症に関連して思春期早発症が起こることがあります。
脊髄髄膜瘤の経過と合併症
出生後は48〜72時間以内を目安に病変の閉鎖術を行い、水頭症が進行する例では髄液シャント術などを追加します。乳児期は、キアリ奇形II型による喘鳴・無呼吸などの脳幹症状が最も問題になりやすい時期です。幼児期以降は、清潔間欠導尿による排尿管理や排便管理、装具やリハビリテーションによる移動能力の獲得が中心になります。神経学的レベル自体は原則として生後大きく変わらない固定性の障害です。したがって、歩行の悪化、下肢の筋力・感覚の低下、排尿状態の変化、側弯の急速な進行などの後から現れる神経症状の悪化は自然経過とみなしてはいけません。シャント機能不全、脊髄係留症候群(閉鎖部での再係留)、脊髄空洞症、症候性キアリ奇形などを疑って評価する必要があります。特に学童期から思春期の身長が伸びる時期には、係留症状が現れやすくなります。思春期から成人期にかけては、肥満、褥瘡、腎機能、性・生殖の問題、就学・就労などが新たな課題となり、小児科から成人診療科への移行期医療が重要になります。
主な合併症として、まずシャント関連のトラブルがあります。シャントの閉塞・感染・離断などは生涯にわたって起こりえ、急性の頭蓋内圧亢進は命に関わることがあります。泌尿器系では、尿路感染症の反復、膀胱尿管逆流、水腎症、尿路結石が起こりやすく、長期的には慢性腎臓病に至ることがあります。適切な排尿管理が行われるようになって減少しましたが、腎障害はなお重要な死亡原因の一つです。そのほか、感覚障害部位の褥瘡・やけど、運動不足や骨粗鬆症に伴う骨折、脊柱変形の進行、拘縮があります。てんかん(特にシャント術後や脳形成異常のある例)、ラテックスアレルギー、肥満・代謝異常、睡眠時無呼吸などの呼吸調節障害、抑うつ・不安なども問題になります。
脊髄髄膜瘤の診断・診断基準
現在では、妊娠中期の胎児超音波検査で多くが出生前に疑われ、胎児MRIで病変の高さや脳の所見を詳しく評価します。出生前に診断された場合は、新生児脳神経外科・新生児科・小児外科などが対応できる周産期医療施設での計画分娩(帝王切開を選ぶことが多い)が検討されます。出生後は、背部病変の視診、病変の高さと下肢の運動・感覚の評価(機能レベルの判定)、頭部画像による水頭症とキアリ奇形の評価、腎・膀胱機能の評価を早期に行います。その後は成長に合わせて繰り返し評価していきます。指定難病の申請では、臨床所見と画像所見に基づく診断に加え、定められた重症度分類を満たすことが求められます。
- 胎児超音波検査: 脊椎の欠損や嚢胞状病変のほか、頭蓋の前頭部が扁平化するレモンサイン、小脳がバナナ状に変形するバナナサイン、脳室拡大などの間接所見から診断の手がかりを得ます。
- 胎児MRI: 病変の高さと範囲、キアリ奇形II型の程度、脳室拡大、その他の脳形態異常を詳しく評価できます。分娩方法や胎児治療の検討に役立ちます。
- 母体血清・羊水のαフェトプロテイン(AFP)など: 開放性神経管欠損では上昇することがあります。ただし日本ではスクリーニングとして一般的には行われておらず、必要に応じた遺伝カウンセリングのうえで選択される検査です。
- 出生時の視診と神経学的評価: 病変の形態、髄液漏出の有無、皮膚欠損の大きさを確認します。下肢の自発運動、反射、肛門反射、感覚レベルから機能的な病変レベルを判定し、歩行の見通しや治療計画の基礎とします。
- 頭部超音波・CT・MRI: 脳室の大きさや水頭症の進行を経時的に評価し、キアリ奇形II型、脳梁形成異常などを確認します。乳児期は大泉門からの超音波検査が簡便で、被ばくもありません。
- 脊髄MRI: 閉鎖術後の脊髄係留、脊髄空洞症、合併する脂肪腫・類皮腫などの評価に用います。新たな神経症状が出たときの精査に欠かせません。
- 尿流動態検査(ウロダイナミクス): 膀胱内圧、膀胱容量、排尿筋の過活動、膀胱の伸展性(コンプライアンス)、尿道括約筋の活動を評価します。高圧膀胱など腎障害のリスクを見極め、導尿や薬物療法の方針を決めます。
- 腎・膀胱超音波、排尿時膀胱尿道造影、腎シンチグラフィ: 水腎症、膀胱壁の肥厚、膀胱尿管逆流、腎瘢痕を評価します。腎機能(血清クレアチニン、シスタチンCなど)とあわせて定期的に追跡します。
- 整形外科的評価(単純X線など): 股関節脱臼、足部変形、側弯・後弯の有無と進行を評価し、装具療法や手術の適応を判断します。
脊髄髄膜瘤と鑑別すべき疾患
- 髄膜瘤(meningocele): 嚢内に神経組織を含まず皮膚で覆われることが多く、神経症状や水頭症・キアリ奇形II型の合併は通常まれです。
- 脊髄脂肪腫などの潜在性二分脊椎: 皮膚で覆われた腰仙部の皮下腫瘤、陥凹、多毛、血管腫などの皮膚所見を伴い、キアリ奇形II型を通常合併しません。
- 仙尾部奇形腫: 仙尾骨部から発生する腫瘍で、脊椎欠損を伴わず、画像で充実成分や石灰化を含む点が異なります。
- 終末部脊髄嚢瘤(terminal myelocystocele): 皮膚で覆われた腰仙部の嚢胞で、拡張した脊髄中心管が嚢状に突出するもので、総排泄腔外反症などの合併がみられることがあります。
- 先天性皮膚洞: 背部正中の小さな皮膚の孔(瘻孔)が脊柱管内と交通するもので、開放性病変はありませんが、髄膜炎や膿瘍の原因になります。
脊髄髄膜瘤の治療
本疾患の治療は、一度の手術で終わるものではありません。①出生直後の感染予防と神経組織の保護、②水頭症とキアリ奇形II型の管理、③腎機能を守る排尿管理と排便管理、④運動機能と変形への対応、⑤発達・教育・心理社会的支援を、生涯にわたって組み合わせていく包括的医療が基本です。脳神経外科、新生児科・小児科、泌尿器科、整形外科、リハビリテーション科、看護師、理学療法士・作業療法士、医療ソーシャルワーカーなどによる多職種チームでの診療が推奨されます。治療法の選択は、病変レベル、合併症の状態、年齢、本人・家族の希望によって異なるため、専門医と十分に相談して決めることが大切です。
- 出生直後の管理: 病変を圧迫しないよう腹臥位または側臥位とし、生理食塩水で湿らせた清潔なガーゼなどで覆って乾燥と汚染を防ぎます。髄膜炎予防の抗菌薬投与を検討し、出生時からラテックスフリー環境で管理します。
- 脊髄髄膜瘤修復術(閉鎖術): 感染予防のため、出生後48〜72時間以内を目安に、神経プラコードを管状に形成し、硬膜・筋膜・皮膚を層ごとに閉鎖します。皮膚欠損が大きい場合は形成外科的な皮弁を用いることがあります。
- 胎児手術: 妊娠中期に子宮内で病変を閉鎖する治療で、海外の試験ではシャント必要率の低下や運動機能の改善が示されました。一方で、早産や母体合併症のリスクがあります。日本では臨床研究として限られた施設で実施されている段階であり、適応は専門施設で慎重に検討されます。
- 水頭症の治療: 進行性の水頭症には、脳室腹腔シャント術(VPシャント)が標準的に行われます。症例によっては内視鏡的第三脳室開窓術(脈絡叢焼灼の併用を含む)が選択されることもあります。シャント術後は機能不全や感染への長期的な注意が必要です。
- キアリ奇形II型・脊髄係留・脊髄空洞症に対する手術: 脳幹症状がある場合は、まずシャント機能を確認・是正します。それでも改善しないときは後頭蓋窩減圧術を検討します。症状を伴う再係留には係留解除術、症候性の空洞症にはその病態に応じた手術が検討されます。
- 排尿管理: 清潔間欠導尿(CIC)が基本で、乳児期から家族が、成長後は本人が実施します。高圧膀胱には抗コリン薬などの薬物療法を併用し、効果不十分な場合はボツリヌス毒素の膀胱壁内注入(適応には年齢等の条件があります)、膀胱拡大術、導尿路の作成などが検討されます。
- 排便管理: 食事・水分の調整、緩下剤、坐薬・浣腸による定時排便から始めます。改善が乏しい場合は、経肛門的洗腸療法や、虫垂などを利用した順行性浣腸(マローン手術)などが選択肢となります。
- 整形外科治療とリハビリテーション: 内反足や股関節の問題には、装具療法やギプス、必要に応じて手術を行います。進行する側弯には装具や脊椎固定術を検討します。病変レベルに応じた理学療法と、下肢装具・杖・車椅子などで、移動能力と日常生活動作の自立を目指します。
- 発達・教育・成人期の支援: 発達評価と学習支援、就学先の調整を行います。思春期以降は肥満予防、性と生殖に関する相談、就労支援を継続し、成人診療科への計画的な移行を進めます。
脊髄髄膜瘤の予後・長期フォロー
早期閉鎖術、髄液シャント、清潔間欠導尿の普及などにより、現在では多くの患者さんが成人期に達し、進学・就労・結婚・出産など社会生活を送る人も増えています。一方で、乳児期のキアリ奇形II型による重い脳幹症状、シャント機能不全、腎不全、呼吸調節障害による突然死などは、今なお生命予後に関わる重要な要因です。生涯にわたる観察が欠かせません。移動能力はおおむね病変レベルと相関します。胸椎・上位腰椎レベルでは車椅子が主な移動手段となることが多く、下位腰椎・仙椎レベルでは装具の有無にかかわらず歩行できる例が多いとされます。ただし、成長や体重増加に伴い、成人期に歩行能力が低下することもあります。生活の質(QOL)には、運動機能だけでなく、排尿・排便の自立度(尿・便のコントロール)、認知・学習面の特性、家族や社会の支援が大きく影響します。
長期フォローアップでは、主に次の項目を定期的に確認します。シャント機能(頭痛・嘔吐・意識や学業成績の変化)、新たな神経症状の有無(歩行・筋力・感覚・排尿状態の変化、側弯の進行)、腎機能と尿路(超音波、尿検査、血液検査、必要に応じて尿流動態検査)、皮膚の状態、骨密度、体重・血圧・代謝、心理・発達面です。小児期には複数の専門診療科が関わるため、受診の調整役となる主治医や二分脊椎外来の存在が重要です。成人期には小児医療から成人医療への移行で受診が途切れやすく、その結果、腎機能の悪化やシャントトラブルの発見が遅れることが指摘されています。移行支援を活用し、成人後も脳神経外科・泌尿器科などでの定期受診を継続することが望まれます。
脊髄髄膜瘤の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、まず感覚が鈍い部分の皮膚を守ることが大切です。毎日、殿部・足部などを目で見て確認し、長時間同じ姿勢を避け、除圧クッションを使用し、合う靴や装具を選びます。カイロ・湯たんぽ・暖房器具による低温やけどにも注意します。清潔間欠導尿は決められた間隔で継続し、尿の濁り・においの変化や発熱に早めに気づけるようにします。排便は毎日の定時排便の習慣化が基本で、便秘の悪化は膀胱機能や係留症状にも影響することがあります。体重の増加は移動能力の低下や褥瘡の原因となるため、成長期から食事と運動(車椅子スポーツや水泳など)に配慮します。ラテックスアレルギーの予防・既往がある場合は、手術・歯科・検査の際に必ず申告し、風船やゴム手袋など天然ゴム製品との接触を避けます。学校には導尿の時間と場所、体育や行事での配慮について、主治医の意見書なども活用して相談します。妊娠を希望する女性(患者さん本人や、患児を出産した母親を含む)は、次の妊娠に向けて妊娠前から葉酸を摂取することが特に重要です。再発リスクがある場合は通常より多い量が勧められることもあるため、妊娠を考えた時点で主治医や遺伝カウンセリング外来に相談してください。患者さん本人が妊娠を希望する場合も、事前に泌尿器科・脳神経外科・産科で連携した計画が望まれます。
利用できる制度・相談窓口
脊髄髄膜瘤は指定難病(告示番号118)です。診断基準と重症度分類を満たす場合、都道府県・指定都市に申請すると「特定医療費(指定難病)受給者証」が交付され、所得に応じた自己負担上限額のもとで医療費の助成を受けられます。申請には難病指定医が作成した臨床調査個人票が必要です。重症度基準に満たない場合でも、医療費の総額が一定以上となる月が一定回数以上ある場合に対象となる「軽症高額該当」の仕組みがあります。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では小児慢性特定疾病医療費助成の対象となり、成人後は指定難病制度への切り替えを検討します。身体障害者手帳は、肢体不自由に加え、程度によってはぼうこう又は直腸機能障害でも取得できる場合があり、補装具(装具・車椅子など)の支給、税の控除、交通機関の割引などにつながります。障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス(居宅介護、短期入所、児童発達支援・放課後等デイサービスなど)、特別児童扶養手当や障害児福祉手当、20歳以降の障害年金(20歳前に初診日がある傷病として扱われることが多い)も、要件に応じて利用できます。相談窓口としては、病院の医療ソーシャルワーカー、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、市区町村の障害福祉窓口、小児慢性特定疾病児童等自立支援事業、移行期医療支援センター(設置地域)があります。二分脊椎の患者・家族会などの当事者団体も情報交換の場となります。
脊髄髄膜瘤に伴う心のケア・心理社会的支援
出生前診断や出生直後の手術、長期入院は、家族、特に両親に大きな衝撃と不安をもたらします。罪悪感(妊娠中の葉酸摂取や服薬への自責など)、抑うつ、育児への不安を抱えることは決して珍しくありません。多くの場合、原因は単一の行動に帰せられるものではないことを知っておくことも大切です。患者さん本人には、成長とともに、移動の制限、尿や便の失禁への恥ずかしさ、導尿を人前で隠したい気持ち、外見や体型への悩み、友人関係やいじめ、性や恋愛の悩みなどが生じえます。思春期以降は、抑うつ・不安・適応障害の頻度が高いことが報告されています。注意や実行機能の苦手さが学業や就労のつまずきとして表れ、自己肯定感を下げることもあります。きょうだいが寂しさや負担を感じることにも配慮が必要です。気分の落ち込み、不眠、登校・出勤の困難、セルフケア(導尿や皮膚管理)が続けられないといったサインは心理的な不調の表れであることがあります。主治医、看護師、臨床心理士・公認心理師、医療ソーシャルワーカーに早めに相談し、必要に応じて精神科・児童精神科の支援を受けることが勧められます。同じ疾患をもつ仲間や家族会とのつながりも、孤立を防ぐ大きな力になります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
脊髄髄膜瘤の受診の目安
- シャントが入っている人に、強い頭痛、繰り返す嘔吐、ぼんやりする・眠り続けるなどの意識の変化、けいれん、乳児の大泉門の膨隆や急な頭囲拡大がみられた場合は、シャント機能不全の可能性があるため、直ちに救急受診してください。
- 乳児で、ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音(喘鳴)、呼吸が止まる、顔色が悪くなる、ミルクをむせて飲めないといった症状がある場合は、キアリ奇形II型による脳幹症状の可能性があるため、急いで受診してください。
- 高熱、わき腹や背部の痛み、尿の濁りや強いにおいなど、腎盂腎炎を疑う症状がある場合は、当日中に受診してください。
- 歩き方が悪くなった、足の力や感覚が落ちた、尿や便の状態が変わった、背骨の曲がりが急に進んだなど、新しい神経症状に気づいた場合は、早めに主治医(脳神経外科)を受診してください。
- 治りにくい皮膚の傷、赤み、黒色の変化(褥瘡)や、やけど、原因のはっきりしない下肢の腫れ・熱感(骨折の可能性)がある場合は、早めに受診してください。
- 手術・検査・歯科治療中などに、じんま疹、息苦しさ、唇の腫れなどが出た場合は、ラテックスによるアナフィラキシーの可能性があるため、直ちに医療者に伝え、救急対応を受けてください。
脊髄髄膜瘤についてのよくある質問
Q. 妊娠中に脊髄髄膜瘤と診断されました。生まれた後はどうなりますか?
A. 多くの場合、新生児の手術に対応できる周産期医療施設で計画的に分娩し、出生後48〜72時間以内を目安に背中の病変を閉じる手術を行います。その後、水頭症の有無、下肢の動き、排尿機能を評価しながら、必要な治療を段階的に進めます。病変の高さや脳の所見によって見通しは異なるため、出生前から脳神経外科・新生児科などの専門医と面談し、具体的に説明を受けることをお勧めします。
Q. 歩けるようになりますか?
A. 歩行能力は病変の高さとおおむね関係しています。下位腰椎・仙椎レベルでは装具の有無にかかわらず歩ける人が多い一方、胸椎・上位腰椎レベルでは車椅子が主な移動手段になることが多いとされます。ただし、水頭症や体重、リハビリテーションの継続など多くの要因が影響します。歩行の有無にかかわらず、車椅子などを活用して自立した生活を送る人も大勢います。
Q. 自己導尿はずっと続けなければいけないのですか?
A. 神経因性膀胱は一般に生涯続くため、多くの人で長期的な導尿が必要になります。導尿は尿路感染や腎機能障害を防ぐための大切な方法です。成長とともに本人が自分で実施できるようになり、学校や職場でも行えるよう環境を整えていきます。膀胱の状態に応じて薬物療法や手術を組み合わせることもあるため、泌尿器科での定期的な評価を受けてください。
Q. 次の子どもも同じ病気になりますか?予防はできますか?
A. きょうだいでの再発率は一般より高く数%程度とされますが、多くの場合、次の子どもは発症しません。妊娠前から十分な葉酸を摂取することでリスクを下げられることが示されており、再発リスクがある場合は通常より多い量を医師の管理下で摂取することが勧められる場合があります。妊娠を考えた段階で、産科医や遺伝カウンセリングの専門家に相談してください。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。