皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症
CADASIL (Cerebral Autosomal Dominant Arteriopathy with Subcortical Infarcts and Leukoencephalopathy)
皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(CADASIL (Cerebral Autosomal Dominant Arteriopathy with Subcortical Infarcts and Leukoencephalopathy))|皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(CADASIL)は、NOTCH3遺伝子の変異によって脳の細い動脈(小血管)が障害される遺伝性の脳小血管病です。多くは30〜50歳代に、前兆を伴う片頭痛、繰り返す皮質下の脳梗塞、気分障害、認知機能低下などで発症し、ゆっくり進行します。親から子へ50%の確率で受け継がれるため、本人だけでなく家族全体の健康や生活設計に関わる疾患です。指定難病(告示番号124)に指定されています。
皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症の要点
CADASILはNOTCH3遺伝子の変異により脳の細い動脈が障害され、大脳白質病変と皮質下の小さな脳梗塞が多発する遺伝性の脳小血管病です。多くは30〜50歳代に前兆を伴う片頭痛、脳梗塞、気分障害、認知機能低下で発症し、指定難病(告示番号124)です。
| 別名・略称 | CADASIL、カダシル、遺伝性多発梗塞性認知症 |
|---|---|
| 分野 | 神経・筋疾患 |
| 原因遺伝子 | NOTCH3 |
| 遺伝形式 | 常染色体優性遺伝(子に50%の確率で遺伝) |
| 好発年齢 | 30〜50歳代に発症することが多い |
| 主な症状 | 前兆を伴う片頭痛、繰り返す皮質下の脳梗塞、気分障害、認知機能低下 |
| 主な検査 | 頭部MRI(白質病変)、NOTCH3遺伝子検査 |
| 受診する主な診療科 | 神経内科 |
皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症とは
CADASILは、脳の深部(皮質下)を灌流する細い穿通枝動脈や髄質動脈の壁が変性・肥厚し、内腔が狭くなる遺伝性の動脈症(arteriopathy)です。中膜の血管平滑筋細胞が変性・脱落し、その周囲に電子顕微鏡で顆粒状オスミウム好性物質(granular osmiophilic material:GOM)と呼ばれる特徴的な沈着物が見られます。その結果、大脳白質の慢性的な虚血による白質病変(白質脳症)と、ラクナ梗塞などの小さな脳梗塞が多発します。高血圧や糖尿病など一般的な動脈硬化の危険因子がなくても、若年から脳梗塞を繰り返す点が特徴です。なお、本疾患は血小板減少症や自己免疫疾患ではありません。血小板減少・紫斑などの血液の病気や、免疫の異常で起こる病気とは原因が異なり、感染症のように人にうつることもありません。
本症の家系は以前から「遺伝性多発梗塞性認知症」などの名称で報告されていました。1993年にフランスのグループが CADASIL という名称を提唱し、原因遺伝子が19番染色体短腕に位置することを示しました。1996年に原因遺伝子がNOTCH3であると同定されています。病型としての明確な下位分類はありませんが、変異がNOTCH3蛋白のどの領域(EGF様リピートの番号)にあるかで重症度に差があることが知られています。具体的には、EGF様リピート1〜6番の変異はより重症、7〜34番の変異はより軽症の傾向があると報告されています。日本では2015年に指定難病となり、国内の研究班により診断基準が整備されています。また、同じ遺伝性脳小血管病でも劣性遺伝形式をとるHTRA1関連脳小血管病(CARASILなど)は、別の指定難病として扱われます。
皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症の疫学・患者数
CADASILは遺伝性脳小血管病の中で最も頻度が高い疾患とされます。欧州の調査では、有病率は人口10万人あたり数人程度と推定されています。一方、大規模な一般集団の遺伝子データベースでは、システインが変化するNOTCH3変異をもつ人が数百人に1人の割合で見つかるとの報告があります。このため、症状が軽い、あるいは診断されていない保因者がかなり多い可能性が指摘されています。日本でも全国に患者・家系が報告されていますが、正確な患者数は明らかではありません。日本や台湾など東アジアでは、特定の変異(例:R544C)が比較的多いことが知られており、地域ごとに好発変異が異なります。典型的な発症年齢は、片頭痛が20〜40歳代、脳梗塞・一過性脳虚血発作が40〜50歳代とされます。ただし同じ家系内でも発症年齢や重症度には大きなばらつきがあり、高齢まで症状が乏しい例もあります。明確な性差はないとされますが、片頭痛は女性にやや多く、男性のほうが脳卒中の発症が早く、障害の進行が速い傾向があるとの報告があります。
皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症の原因・病態生理
原因は、19番染色体短腕(19p13)にあるNOTCH3遺伝子の変異です。遺伝形式は常染色体顕性(優性)遺伝で、患者の子が変異を受け継ぐ確率は性別にかかわらず50%です。ごく一部ですが、親に変異がない新生(de novo)変異の報告もあります。NOTCH3は細胞膜を貫通する受容体蛋白で、主に血管平滑筋細胞と周皮細胞(ペリサイト)に発現し、血管壁の成熟や維持に関わります。その細胞外ドメインには34個の上皮成長因子(EGF)様リピートがあり、各リピートには本来6個のシステインが含まれます。CADASILの病的変異のほとんどは、このシステインの数を奇数(5個または7個)に変えるシステイン関連ミスセンス変異です。この「奇数個のシステイン」という特徴は、変異の病原性を判断する際の重要な目安になります。システインが変化しない変異の病原性については、現在も議論があります。
発症機序の中心は、システイン数の異常により生じた不対システインが異常なジスルフィド結合を形成し、NOTCH3細胞外ドメイン(NOTCH3ECD)が凝集・多量体化することにあると考えられています。凝集したNOTCH3ECDは、血管平滑筋細胞の周囲に、TIMP3やビトロネクチンなど他の細胞外基質蛋白を巻き込みながら蓄積します。これが電子顕微鏡で見られるGOMの実体と考えられています。この蓄積によって、血管平滑筋細胞の変性・脱落、中膜の線維化、内膜の肥厚と内腔狭窄が起こります。さらに、血管の自動調節能(血圧が変動しても脳血流を一定に保つ働き)や、神経活動に応じて血流を増やす反応(神経血管カップリング)も低下します。その結果、深部白質に慢性的な低灌流が生じ、髄鞘や軸索が障害されて白質病変が広がり、閉塞した穿通枝の領域にはラクナ梗塞が生じます。白質の神経線維連絡が断たれるため、前頭葉と皮質下を結ぶ回路の機能が落ち、遂行機能障害、意欲低下(アパシー)、処理速度の低下が目立つ「皮質下性」の認知障害が現れます。片頭痛の前兆は、皮質拡延性抑制が起こりやすくなることとの関連が推測されていますが、詳しい機序は未解明です。喫煙や高血圧は脳卒中のリスクを高める修飾因子と報告されており、遺伝的背景に加えて血管危険因子も経過に影響します。
皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症の症状
- 前兆を伴う片頭痛: 患者の2〜4割程度にみられ、しばしば最初の症状となります。視覚性の前兆が多く、片麻痺・失語・錯乱などを伴う非典型的な長い前兆を示すこともあります。
- 一過性脳虚血発作・脳梗塞: 最も頻度の高い症状で、40〜50歳代に皮質下のラクナ梗塞として繰り返し起こります。純粋運動性片麻痺、感覚障害、構音障害、運動失調などのラクナ症候群を呈します。
- 認知機能障害: 遂行機能や注意、情報処理速度の低下が早期から現れ、脳梗塞の再発とともに段階的または緩徐に進行します。最終的には多くの例で血管性認知症に至るとされます。
- アパシー(意欲低下): 自発性や関心が乏しくなる症状で、比較的高頻度にみられます。抑うつとは別に起こることが多く、「怠けている」と誤解されやすい点に注意が必要です。
- 気分障害(うつ病・双極性障害): 患者の1〜2割程度に抑うつがみられ、まれに躁状態もあります。神経症状に先行して精神科で治療を受けていることもあります。
- 歩行障害・パーキンソニズム: 白質病変の進行により、小刻み歩行、すくみ、バランス障害などが現れます。転倒しやすくなります。
- 仮性球麻痺: 両側の皮質延髄路の障害により、構音障害、嚥下障害、感情失禁(強制泣き・笑い)が生じます。誤嚥性肺炎の原因になります。
- 排尿障害: 病期が進むと頻尿、尿意切迫、尿失禁などの神経因性膀胱症状がみられます。
- 急性脳症(CADASIL昏睡): 一部の患者に、意識障害、錯乱、発熱、けいれんなどを伴う可逆性の急性脳症が起こることがあります。片頭痛発作に続いて起こる例が多く、多くは数日〜2週間程度で回復すると報告されています。
- てんかん発作: 少数例(5〜10%程度とされる)にけいれん発作がみられ、多くは脳梗塞や急性脳症に続いて起こります。
- 脳出血: 頻度は高くありませんが、脳微小出血が多い例や高血圧を合併する例では脳内出血が起こることがあります。日本など東アジアの患者では欧米より多いとの報告があります。
皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症の経過と合併症
典型的な自然歴は、おおむね次の段階をたどるとされます。①20〜40歳代:前兆を伴う片頭痛。②40〜50歳代:一過性脳虚血発作やラクナ梗塞の反復、気分障害。③50〜60歳代:認知機能低下、歩行障害、仮性球麻痺が進み、日常生活の介助が必要となる。④その後:寝たきりに近い状態。ただし、MRIでは症状が出る10〜20年前から白質病変が見つかることがあります。進行速度は個人差が大きく、同じ変異をもつ家族の間でも経過は大きく異なります。進行を予測する画像所見としては、ラクナ梗塞の数、脳萎縮の程度、脳微小出血の数が重要と報告されています。白質病変の広がりそのものよりも、ラクナ梗塞の蓄積と脳萎縮が臨床的な障害とより強く関連するとされます。
合併症としては、嚥下障害による誤嚥性肺炎、転倒による骨折、寝たきりに伴う褥瘡・尿路感染症・深部静脈血栓症などが問題となります。脳出血、てんかん発作、急性脳症も重要な神経学的合併症です。精神面では、うつ病やアパシーにより社会的に孤立したり、服薬や生活管理が難しくなったりすることがあります。妊娠・出産の時期、特に産褥期に片頭痛の前兆や神経症状が出現・悪化した例が報告されています。また、脳血管造影検査の後に神経症状が悪化した例も報告されているため、侵襲的な検査は慎重に検討されます。
皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症の診断・診断基準
次のような場合にCADASILを疑います。①若年〜中年で、高血圧などの危険因子が乏しいのにラクナ梗塞を繰り返す。②前兆を伴う片頭痛、気分障害、皮質下性認知症がある。③家族にも若年の脳卒中や認知症、片頭痛が多い(常染色体顕性遺伝を示唆)。④MRIで広範な白質病変があり、特に側頭極や外包に病変がある。日本の診断基準(指定難病)では、55歳以下の発症、皮質下性認知症・錐体路徴候・仮性球麻痺などの臨床症状、危険因子が乏しいこと、家族歴、画像上の白質病変などを総合し、他の疾患を除外します。そのうえで、NOTCH3遺伝子のシステイン関連変異の同定、または皮膚生検などの電子顕微鏡検査によるGOMの確認によって確定診断します。家族歴がはっきりしない例や孤発例のように見える例も少なくないため、画像所見から疑うことが重要です。遺伝学的検査は、遺伝カウンセリングの体制のもとで行うことが望まれます。
- 頭部MRI(FLAIR・T2強調画像): 両側大脳白質に左右対称性の広範な高信号域がみられます。側頭極前部と外包の病変はCADASILに特徴的で、他の脳小血管病との鑑別に有用です。脳梁、基底核、視床、脳幹にも病変が及ぶことがあります。
- 拡散強調画像・ラクナ梗塞の評価: 新しい梗塞は拡散強調画像で高信号として描出されます。陳旧性のラクナ梗塞や拡大した血管周囲腔の数は、障害の程度と関連します。
- T2*強調画像・SWI: 脳微小出血の有無と分布を評価します。微小出血が多い場合は脳出血のリスクを示唆し、抗血栓薬を選ぶ際の参考になります。
- NOTCH3遺伝子検査: EGF様リピートをコードする領域(主にエクソン2〜24)を解析し、システイン数を変化させる病的変異を同定すれば確定診断となります。保険適用の有無や実施施設については、主治医や遺伝子医療部門に確認が必要です。
- 皮膚生検(電子顕微鏡・免疫染色): 皮膚の小動脈の平滑筋細胞周囲にGOMを確認すれば診断的価値が高いとされます。NOTCH3ECD抗体による免疫染色で顆粒状の沈着を確認する方法もあります。遺伝子検査で病原性の判断が難しい変異の評価にも役立ちます。
- 神経心理検査: MMSEやMoCA-J、前頭葉機能検査(FABなど)、Trail Making Testなどで、遂行機能や処理速度の低下を評価します。MMSEは皮質下性の障害に感度が低いため、複数の検査を組み合わせます。
- 血管危険因子・除外のための血液検査: 血圧、血糖、脂質、ホモシステインなどを評価します。あわせて抗リン脂質抗体、自己抗体、α-ガラクトシダーゼ活性(ファブリー病)、乳酸・ピルビン酸(ミトコンドリア病)など、鑑別に必要な項目を検査します。
- 脳脊髄液検査: 通常は特異的な異常を示しません。多発性硬化症や中枢神経血管炎、感染症などを除外する目的で行われます。
- 指定難病の診断基準・重症度評価: 研究班の診断基準でDefinite(確実)と判定され、かつ重症度基準(modified Rankin Scaleなどによる評価)で一定以上の場合に医療費助成の対象となります。
皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症と鑑別すべき疾患
- 孤発性脳小血管病(高血圧性・加齢性): 高血圧などの危険因子と高齢発症が主体で、側頭極や外包の病変は目立たない点が鑑別のポイントです。
- HTRA1関連脳小血管病(CARASILなど): 劣性型(CARASIL)は若年からの禿頭と変形性脊椎症を伴うことが特徴で、HTRA1遺伝子検査で区別します。顕性(優性)遺伝のHTRA1変異による脳小血管病もあります。
- 多発性硬化症: 若年の白質病変という点で似ていますが、脳室周囲の卵円形病変、造影効果、髄液のオリゴクローナルバンド、再発寛解型の経過などで区別します。
- ファブリー病: 若年性脳梗塞と白質病変を示しますが、四肢の疼痛、被角血管腫、腎障害・心肥大を伴い、X連鎖遺伝で酵素活性が低下している点が異なります。
- ミトコンドリア病(MELASなど): 脳卒中様発作を起こしますが、病変は血管支配に一致しない皮質主体で、乳酸上昇、低身長、難聴、糖尿病などを伴う点が異なります。
- 中枢神経血管炎・抗リン脂質抗体症候群: 炎症反応、髄液の細胞数増加、血管造影での不整、抗リン脂質抗体陽性などで区別し、免疫治療や抗凝固療法の適応を判断します。
皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症の治療
現時点では、NOTCH3の異常そのものを治す根本的な治療(疾患修飾療法)は確立されていません。治療の柱は、脳梗塞の再発予防、血管危険因子の厳格な管理、片頭痛・精神症状・認知障害への対症療法、リハビリテーションと介護支援です。CADASILを対象とした大規模な臨床試験は少なく、多くの治療は一般的な脳卒中診療や専門家の経験に基づいて選択されています。そのため、効果とリスクを個別に検討することが大切です。特に抗血栓薬の使い方や片頭痛治療薬の選択には本症特有の注意点があるため、神経内科(脳神経内科)専門医と相談しながら方針を決めます。核酸医薬や抗体などを用いて異常なNOTCH3蛋白の蓄積を減らす治療法が研究段階にありますが、実用化はまだです。
- 血管危険因子の管理: 禁煙は最も重要で、喫煙は脳卒中の早期発症と関連すると報告されています。高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満があれば積極的に治療します。一方で、過度の降圧は低灌流を招くおそれがあるため、目標値は主治医と相談します。
- 抗血小板療法: 虚血性脳卒中の再発予防として、アスピリンなどの抗血小板薬が用いられることが多いです。ただし本症での有効性を示す確かな根拠は限られています。脳微小出血が多い例では出血リスクを考え、薬の選択や併用を慎重に判断します。
- 急性期脳梗塞の治療: 一般的な脳梗塞と同様に救急対応を行います。血栓溶解療法の可否は個々の状況や出血リスクを踏まえて判断され、CADASILであることを医療者に伝えることが重要です。
- 片頭痛の治療: 発作時はアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬が基本です。トリプタン製剤やエルゴタミン製剤は血管収縮作用があるため、一般に避けるか慎重に使用すべきとされます。予防薬の選択も専門医と相談します。
- 精神症状への治療: うつ病には抗うつ薬(SSRIなど)や精神療法を用い、双極性障害やアパシーにも精神科と連携して対応します。抑うつの治療は生活の質の改善に直結します。
- 認知機能障害への対応: コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル)の臨床試験では、主要評価項目での有効性は示されませんでした。ただし一部の遂行機能指標で改善がみられたと報告されています。薬物よりも生活環境の調整や介護サービスの活用が中心となります。
- リハビリテーション: 片麻痺や歩行障害には理学療法、日常生活動作には作業療法、構音・嚥下障害には言語聴覚療法を行います。転倒予防と誤嚥性肺炎の予防が重要です。
- てんかん・急性脳症への対応: けいれん発作には抗てんかん薬を用います。急性脳症では感染症や脳炎などとの鑑別を行い、全身管理を中心とした支持療法を行います。
- 侵襲的処置への配慮: 脳血管造影検査後の症状悪化が報告されているため、必要性を十分に検討します。手術・麻酔・出産の際も、血圧や脱水を管理して脳灌流を保つよう配慮します。
皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症の予後・長期フォロー
CADASILは緩徐進行性で、症状が出てから20年前後で高度の障害に至ることが多いとされます。欧州の大規模研究では、自力歩行が困難となる年齢の中央値は60歳前後、死亡年齢の中央値は60歳代半ば〜70歳前後と報告されています。男性のほうが予後不良の傾向があります。主な死因は、誤嚥性肺炎などの感染症や全身の衰弱です。ただし、変異の部位(EGF様リピート7〜34番の変異は軽症傾向)、喫煙・高血圧の有無、個人の体質などにより経過は大きく異なり、高齢まで自立した生活を送る人もいます。片頭痛のみの時期や軽い症状の時期は、就労や家庭生活を通常どおり続けられることが多く、危険因子を管理して脳卒中を予防することが、生活の質を長く保つ鍵となります。
長期フォローアップでは、脳神経内科医による定期的な診察を受けます。具体的には、神経学的評価、血圧や血液検査による危険因子の管理、必要に応じたMRI(新しい梗塞や微小出血、脳萎縮の確認)、神経心理検査を行います。病期に応じて、精神科、リハビリテーション科、かかりつけ医、訪問看護、ケアマネジャーなどと多職種で連携します。嚥下機能の評価や栄養管理、転倒予防、排尿管理も、進行期には重要です。認知機能が低下する前の段階で、治療方針、財産管理、介護の希望などを家族と話し合っておくこと(アドバンス・ケア・プランニング)が勧められます。
皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、禁煙(受動喫煙を含む)、適正体重の維持、減塩を中心としたバランスのよい食事、適度な有酸素運動、十分な睡眠を心がけます。家庭血圧を測定して主治医と共有し、処方薬は自己判断で中断しないことが大切です。脱水は脳血流の低下につながるおそれがあるため、夏場や発熱時、入浴・サウナの際には水分補給に気をつけます。片頭痛の誘因(睡眠不足、ストレス、空腹など)を避けましょう。市販の片頭痛薬や血管収縮作用のある薬を使う前には、医師や薬剤師に相談してください。歯科治療、手術、妊娠・出産の際は、CADASILであることを担当医に伝えましょう。認知機能や意欲が低下してきたら、服薬カレンダーの利用、予定の見える化、運転可否の評価など、家族と一緒に生活を工夫します。遺伝については、患者の子やきょうだいが変異を受け継いでいる可能性があります。症状のない血縁者の遺伝学的検査(発症前診断)は、結果が人生設計や心理に大きく影響するため、本人の自由意思に基づき、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けたうえで判断することが強く勧められます。検査を受けない選択も尊重されます。また、家族に病気をどう伝えるかについても、カウンセリングで相談できます。
利用できる制度・相談窓口
CADASILは指定難病(告示番号124)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合は、難病医療費助成制度により医療費の自己負担が軽減されます。重症度基準を満たさなくても、医療費が一定額以上かかる場合(軽症高額該当)は対象となることがあります。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、住所地の都道府県・指定都市の窓口(保健所など)で行います。40〜64歳の方でも、脳血管疾患や初老期の認知症は介護保険の「特定疾病」に含まれるため、要介護認定を受ければ介護保険サービス(訪問介護、通所リハビリ、福祉用具など)を利用できます。このほか、症状に応じて次の制度が利用できます。身体障害者手帳(肢体不自由、音声・言語・そしゃく機能障害など)、精神障害者保健福祉手帳と自立支援医療(精神通院医療)(うつ病、認知症、高次脳機能障害)、障害年金、障害福祉サービス、傷病手当金、高額療養費制度などです。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、病院の医療ソーシャルワーカー(医療相談室)、地域包括支援センター、若年性認知症支援コーディネーターや若年性認知症コールセンター、遺伝子医療部門(遺伝カウンセリング外来)があります。難病情報センターのウェブサイトでも最新の制度情報を確認できます。
皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症に伴う心のケア・心理社会的支援
CADASILでは、病気そのものが脳の白質を傷つけるため、抑うつやアパシーが症状の一部として生じます。これに、進行性の難病と向き合う心理的負担が重なります。働き盛りの年代に発症するため、仕事の継続、収入、子育て、住宅ローンなどの現実的な不安が大きいことも特徴です。さらに遺伝性疾患であるため、「子どもにうつしたかもしれない」という罪悪感、親や兄弟を同じ病気で介護・看取った経験からくる将来への恐怖、検査を受けるかどうかの葛藤など、本症に特有の心理社会的課題があります。家族内で病気の受け止め方が異なり、関係がぎくしゃくすることもあります。アパシーは周囲から「やる気がない」と誤解されやすく、本人と介護者の双方の負担を増やすため、病気の症状であると理解しておくことが大切です。気分の落ち込み、不眠、強い不安、イライラが続くときは、我慢せずに主治医や精神科・心療内科、公認心理師、遺伝カウンセラーに相談してください。介護する家族も、介護負担やうつ状態に陥りやすいため、ショートステイなどのレスパイトサービスや家族会・患者会の利用を検討し、自分自身のケアも大切にしましょう。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症の受診の目安
- 突然の片側の手足の脱力やしびれ、ろれつが回らない、言葉が出ない、顔がゆがむ、片目が見えないなどの症状があれば、症状が短時間で消えても、ただちに救急車(119番)を要請してください。
- いつもの片頭痛の前兆と違う、または前兆が1時間以上続く場合、意識がもうろうとする、錯乱する、発熱やけいれんを伴う場合は、すぐに医療機関を受診してください。
- 突然の激しい頭痛や嘔吐、意識障害は脳出血の可能性があるため、救急受診が必要です。
- 物忘れや段取りの悪さ、意欲低下、歩きにくさ、飲み込みにくさ、尿失禁が以前より目立ってきたときは、早めに主治医に相談してください。
- 気分の落ち込みが2週間以上続く、死にたい気持ちがあるなどの場合は、主治医や精神科・心療内科にすぐ相談してください。
- 家族にCADASILと診断された人がいて、片頭痛や若年の脳卒中があるときや、遺伝について知りたいときは、脳神経内科や遺伝カウンセリング外来を受診してください。
皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症についてのよくある質問
Q. CADASILは必ず子どもに遺伝しますか?
A. 常染色体顕性(優性)遺伝のため、患者の子どもが変異を受け継ぐ確率は、性別に関係なく1人ごとに50%です。変異を受け継いでも、発症年齢や重症度には大きな個人差があります。家族の検査や将来の妊娠については、遺伝カウンセリングで相談することをお勧めします。
Q. 片頭痛にはどんな薬を使えばよいですか?
A. 一般にアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬が用いられます。トリプタン製剤やエルゴタミン製剤は血管を収縮させる作用があるため、避けるか慎重に使うべきとされています。自己判断で市販薬を続けず、主治医と相談して治療薬を決めてください。
Q. MRIで白質病変があるといわれましたが、すぐに認知症になりますか?
A. CADASILでは、症状が出る何年も前からMRIで白質病変が見られることがあり、画像の見た目と症状の重さは必ずしも一致しません。禁煙や血圧管理などで脳卒中を予防することが、機能を長く保つうえで大切です。経過は主治医と定期的に確認しましょう。
Q. 根本的な治療法は開発されていますか?
A. 現時点では、病気の進行そのものを止める治療は確立されていません。異常なNOTCH3蛋白を標的とする治療法の研究が国内外で進められていますが、まだ研究段階です。臨床研究や治験に関する情報は、専門医療機関や難病情報センターなどで確認できます。
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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。