神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症
Hereditary Diffuse Leukoencephalopathy with Neuroaxonal Spheroids
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(Hereditary Diffuse Leukoencephalopathy with Neuroaxonal Spheroids)|神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS)は、主にCSF1R遺伝子の変異によって起こる遺伝性の神経変性疾患です。脳の白質(神経線維の通り道)が進行性に障害されます。多くは30〜50歳代の働き盛りに発症します。性格や行動の変化、認知機能の低下、歩行障害、パーキンソン症状などが数年の経過で進み、本人と家族の生活に大きな影響を及ぼします。本疾患は血液の病気ではなく、脳の白質を侵す神経の病気です。
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症の要点
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS)は、主にCSF1R遺伝子の変異でミクログリアの機能が障害され、大脳白質が進行性に侵される遺伝性の神経疾患です。30〜50歳代に性格変化や認知機能低下、歩行障害、パーキンソン症状などで発症し、指定難病(告示番号125)です。
| 別名・略称 | HDLS、ALSP、CSF1R関連白質脳症、軸索スフェロイドと色素性グリアを伴う成人発症白質脳症、CSF1R-related leukoencephalopathy、adult-onset leukoencephalopathy with axonal spheroids and pigmented glia |
|---|---|
| 分野 | 神経・筋疾患 |
| 原因遺伝子 | CSF1R(ミクログリアの生存・維持に必須の受容体) |
| 遺伝形式 | 典型例は常染色体顕性(優性)遺伝 |
| 好発年齢 | 多くは30〜50歳代 |
| 主な症状 | 性格・行動の変化、認知機能低下、歩行障害、パーキンソン症状 |
| 主な検査 | 頭部MRI(大脳白質病変の評価)、CSF1R遺伝子検査 |
| 受診する主な診療科 | 神経内科 |
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症とは
HDLSは、成人期に発症する大脳白質脳症(白質ジストロフィー)の一つです。病理学的には、大脳白質で髄鞘(神経線維を包む絶縁体)と軸索が広く失われ、腫れて球状になった軸索(軸索スフェロイド)と、色素を貪食したマクロファージ・ミクログリア(色素性グリア)が多数みられます。2011年に、病因遺伝子として脳内の免疫細胞であるミクログリアの生存・維持に必須の受容体をコードするCSF1R(コロニー刺激因子1受容体)が同定されました。これにより、本症はミクログリアの機能異常を本態とする「ミクログリオパチー(microgliopathy)」の代表疾患と位置づけられています。
1984年にスウェーデンの家系をもとに病理学的概念としてHDLSが報告されました。その後、病理像がよく似た「色素性正染性白質ジストロフィー(POLD)」も同じCSF1R変異で起こることが判明し、両者は同一疾患スペクトラムとして「軸索スフェロイドと色素性グリアを伴う成人発症白質脳症(ALSP)」とまとめられました。現在は原因遺伝子に基づいて「CSF1R関連白質脳症」と呼ぶ考え方も広まっています。典型例は片方のアレルの変異(ヘテロ接合)による常染色体顕性(優性)遺伝です。一方、両アレルに変異をもつ場合は、小児期発症の脳奇形・白質病変・骨硬化性骨異形成を伴う、より重い病型をとることが報告されています。なお、ALSPに似た臨床・画像像をとる疾患としてAARS2遺伝子関連白質脳症などがありますが、これらは原因遺伝子の異なる別疾患として扱われます。日本では指定難病(告示番号125)に指定されています。
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症の疫学・患者数
非常にまれな疾患で、正確な有病率は明らかではありません。日本でも患者数は限られていますが、遺伝子診断が普及した近年は報告例が増えています。成人発症の白質脳症の中では一定の割合を占めると考えられています。日本は世界的に見ても症例報告や臨床研究が多い国の一つです。発症年齢は多くが30〜50歳代で、平均は40歳代前半前後とされます。ただし10歳代後半から60歳以降まで幅があります。女性の方が若く発症する傾向が報告されています。家族歴が明らかでない孤発例も少なくありません。その背景として、新生(de novo)変異、浸透率が100%ではないこと、家族の早期死亡や誤診などが考えられます。多発性硬化症、前頭側頭型認知症、若年性アルツハイマー病、パーキンソン症候群などと診断されたまま経過している例も一定数あると推測されます。
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症の原因・病態生理
原因の大部分は、5番染色体上のCSF1R遺伝子の変異です。CSF1Rは、リガンドであるCSF-1(M-CSF)やIL-34と結合して活性化する受容体型チロシンキナーゼです。脳内ではほぼミクログリアに選択的に発現し、ミクログリアの増殖・生存・分化を支えています。報告されている変異の多くは、細胞内のチロシンキナーゼドメイン(エクソン12〜22付近)に集中するミスセンス変異やスプライス異常です。その結果、受容体の自己リン酸化と下流のシグナル伝達が障害されます。遺伝形式は常染色体顕性遺伝で、患者の子が変異を受け継ぐ確率は50%です。ただし浸透率は年齢依存的で完全ではなく、同じ変異でも発症年齢や症状には大きな個人差があります。
発症機序は完全には解明されていません。現在有力なのは、CSF1Rのシグナル低下(機能喪失、主にハプロ不全)によってミクログリアの数と機能が減少する、という考え方です。患者脳や動物モデルでは、白質のミクログリアの減少や形態変化が示されています。ミクログリアは、髄鞘の維持、老廃物の除去、軸索やオリゴデンドロサイトの恒常性の維持を担っています。その機能が失われると、髄鞘の変性や軸索輸送障害が起こり、軸索スフェロイドが形成されて白質が進行性に破壊されると考えられています。病変は前頭葉・頭頂葉の深部白質や脳梁から始まることが多く、早期から前頭葉症状が目立つことと対応しています。白質には特徴的な微小石灰化が生じることも知られています。また、副腎皮質ステロイドなどの外的要因が発症時期や経過に影響する可能性を示唆する報告もあります。ただし、確立した知見ではありません。
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症の症状
- 性格・行動の変化(前頭葉症状): 無関心、脱抑制、易怒性、身だしなみへの無頓着、判断力低下などが初発症状となることが多いです。精神疾患と誤認されることがあります。
- 認知機能障害: 遂行機能・注意・記憶の障害が進行し、比較的若い年齢で認知症の状態に至ります。仕事や家事の段取りが立てられなくなることで気づかれる場合があります。
- 抑うつ・不安などの精神症状: 抑うつ、不安、幻覚・妄想がみられることがあります。発症早期にはうつ病や統合失調症などと診断されることもあります。
- 歩行障害: すり足、ふらつき、歩行開始困難などが現れ、進行すると転倒しやすくなり、歩行に介助が必要になります。
- パーキンソン症状: 動作緩慢、筋強剛、姿勢反射障害がみられることがあります。レボドパの効果は乏しいことが多いとされます。
- 錐体路徴候(痙性・腱反射亢進): 下肢のつっぱり、腱反射の亢進、バビンスキー徴候などが出現し、痙性歩行や四肢麻痺へ進行することがあります。
- 失行・言語障害: 道具の使い方や着衣の手順がわからなくなる失行や、言葉が出にくい・話す量が減るといった症状がみられます。
- てんかん発作: 経過中にけいれん発作を起こすことがあります。初発症状となる例もあります。
- 構音障害・嚥下障害: 進行期に話しにくさやむせが目立つようになり、誤嚥性肺炎の原因となります。
- 排尿障害: 頻尿や尿失禁が出現し、進行とともに介護負担が増える要因となります。
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症の経過と合併症
症状は多くの場合、精神症状や認知機能低下などの前頭葉症状で始まります。その後、歩行障害、パーキンソン症状、錐体路徴候が加わり、数年の経過で進行します。進行期には寝たきりとなり、発語の減少や無動無言状態に至ることもあります。発症から死亡までの期間は平均6〜7年前後とする報告が多いものの、1年程度の急速な経過から10年以上の緩徐な経過まで個人差が大きいです。進行の速さを発症時点で正確に予測することは困難です。MRIの白質病変は症状に先行して現れることがあり、無症候の変異保因者でも病変を認める場合があります。
主な合併症は、嚥下障害による誤嚥性肺炎、転倒による骨折・頭部外傷、長期臥床に伴う褥瘡・関節拘縮・深部静脈血栓症、尿路感染症、低栄養です。てんかん発作の重積も重要な合併症です。生命予後を最も左右するのは呼吸器感染症です。精神症状に伴う行動障害や、判断力低下による経済的・社会的トラブル(浪費や運転事故など)も、本人と家族の生活に深刻な影響を及ぼします。
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症の診断・診断基準
若年〜中年で、認知機能低下や性格変化に運動症状が加わり、頭部MRIで前頭葉・頭頂葉優位の白質病変や脳梁の菲薄化がみられた場合に本症を疑います。家族歴の聴取は重要ですが、家族歴がなくても否定はできません。まず多発性硬化症、脳血管障害、感染症、代謝性疾患など治療可能な白質脳症を除外します。そのうえで、頭部CTでの白質微小石灰化の有無を確認し、遺伝カウンセリングを経てCSF1R遺伝子検査を行い、病的変異を確認して確定します。日本の指定難病の診断基準では、臨床症状、画像所見、遺伝子検査(または病理所見)、鑑別診断を組み合わせて判定します。国内研究者により提唱された臨床診断基準(Konnoらの基準)も参照されます。かつては脳生検が行われることもありましたが、現在は遺伝子検査が診断の中心です。
- 頭部MRI: 前頭葉・頭頂葉の深部〜脳室周囲白質に、左右対称性または非対称性のT2/FLAIR高信号域がみられ、脳梁の菲薄化やT2高信号を伴います。病変は進行とともに拡大し、脳室が拡大します。
- 拡散強調画像(DWI): 白質内に拡散制限を示す小病変が数か月以上持続してみられることがあり、本症を示唆する特徴の一つです。急性脳梗塞との区別に注意が必要です。
- 頭部CT(薄いスライス): 前頭葉白質や脳室周囲に点状の微小石灰化がみられることがあります。矢状断で連続して並ぶ「飛び石状」の石灰化は診断の手がかりになります。
- CSF1R遺伝子検査: 病的変異の同定が確定診断となります。発症前診断や家族への影響を伴うため、遺伝カウンセリング体制のもとで実施します。
- 神経心理検査: MMSE、FAB、WAISなどで遂行機能障害・注意障害を中心とした認知機能の低下を評価し、経過の追跡にも用います。
- 血液・髄液検査(除外目的): ビタミン、甲状腺機能、極長鎖脂肪酸、ライソゾーム酵素、感染症などを調べ、他の白質脳症を除外します。髄液のオリゴクローナルバンドは通常陰性です。
- 脳波: 徐波化やてんかん性放電の有無を評価し、てんかん発作の診断と治療方針の決定に役立てます。
- 病理検査: 脳生検または剖検で、髄鞘・軸索の脱落、軸索スフェロイド、色素性マクロファージを確認します。遺伝子検査で確定できない場合に参考となります。
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症と鑑別すべき疾患
- 多発性硬化症: 多発性硬化症は再発寛解を示しやすく、造影増強病変や髄液オリゴクローナルバンド陽性を伴う点で、緩徐進行で微小石灰化を伴いうる本症と区別します。
- CADASIL・HTRA1関連脳小血管病(CARASIL含む): これらは片頭痛、脳梗塞発作、側頭極・外包病変、脳微小出血など血管性の特徴をもち、NOTCH3やHTRA1の遺伝子検査で区別します。
- 那須・ハコラ病: TREM2やTYROBPの変異によるミクログリア関連疾患で、白質脳症と認知症に先行して長管骨の骨嚢胞や病的骨折を伴う点が特徴です。
- 成人型副腎白質ジストロフィー: X連鎖性で後頭葉優位または前頭葉の白質病変を示し、血中の極長鎖脂肪酸高値と副腎不全の有無で区別します。
- 前頭側頭型認知症: 臨床症状は似ていますが、前頭側頭型認知症では前頭・側頭葉の皮質萎縮が主体で、広範な白質病変は通常目立ちません。
- AARS2関連白質脳症・成人型アレキサンダー病: いずれも成人発症の遺伝性白質脳症です。AARS2関連白質脳症は女性で卵巣機能不全を伴いやすく、成人型アレキサンダー病は延髄・頸髄の萎縮が目立つことなどが手がかりとなり、遺伝子検査で確定します。
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症の治療
現時点で、病気の進行を確実に止める根本治療は確立していません。治療の中心は、症状を和らげる対症療法、リハビリテーション、合併症の予防、介護・社会的支援です。一方、病態の本質がミクログリアの異常であることから、ドナー由来の細胞でミクログリアを置き換えることを狙った造血幹細胞移植が、発症早期の一部の患者で進行を抑えた可能性があるとして国内外から報告されています。ただし症例数は少なく、移植関連の重篤な合併症のリスクもあるため、標準治療ではありません。適応は専門施設で慎重に検討されます。治療法の選択は病期や全身状態、本人・家族の意向によって異なるため、神経内科専門医と十分に相談することが大切です。
- 造血幹細胞移植(研究的治療): 発症早期で全身状態が良好な例に限り、進行抑制を目的として専門施設で検討されることがあります。効果と長期成績は未確立で、移植片対宿主病や感染症などのリスクも伴います。
- 抗てんかん薬: てんかん発作がある場合に使用します。認知機能や精神症状への影響、薬物相互作用に配慮して薬剤を選択します。
- 精神症状への薬物療法: 抑うつ、不安、易怒性、幻覚などに対し、抗うつ薬や抗精神病薬などを少量から慎重に用います。抗精神病薬はパーキンソン症状を悪化させることがあるため注意が必要です。
- パーキンソン症状・痙縮への対症療法: レボドパの効果は限定的とされますが、試みられることがあります。痙縮には抗痙縮薬やボツリヌス毒素療法などが検討されます。
- リハビリテーション: 理学療法・作業療法・言語聴覚療法により、歩行機能や日常生活動作の維持、転倒予防、コミュニケーション手段の確保を図ります。
- 嚥下・栄養管理: 食形態の工夫や嚥下訓練で誤嚥を予防し、経口摂取が難しくなった場合には胃瘻などの経管栄養を本人・家族と話し合って検討します。
- 呼吸・感染症管理: 口腔ケア、体位管理、予防接種などで誤嚥性肺炎や感染症の予防に努め、発症時には早期に治療します。
- 在宅・施設ケアと意思決定支援: 訪問診療・訪問看護・介護サービスを組み合わせて療養環境を整えます。判断能力が保たれているうちに、将来の医療・ケアの希望を話し合っておく(アドバンス・ケア・プランニング)ことが重要です。
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症の予後・長期フォロー
本症は進行性で、生命予後は不良とされます。発症から寝たきりや死亡に至るまでの期間は平均で数年〜10年程度ですが、個人差が大きく、長期間比較的安定して経過する例もあります。主な死因は誤嚥性肺炎などの感染症です。QOLは、精神・行動症状への対応、介護体制、栄養・呼吸管理の質に大きく左右されます。そのため、早期から多職種でケアを行うことにより、合併症を減らし、生活の質を保つことが期待されます。
長期フォローアップでは、神経内科医が定期的に神経学的診察、神経心理検査、頭部MRIを行い、進行度を評価します。あわせて、嚥下機能、栄養状態、転倒リスク、てんかん発作、精神症状、介護者の負担を継続的に確認します。病期に応じて、リハビリ、在宅サービス、施設入所、経管栄養などの方針を見直します。また、未発症の血縁者が不安を抱えている場合には、遺伝カウンセリングへの紹介も含めて家族全体を視野に入れた支援を行います。
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
転倒予防のため、住環境の段差解消、手すりの設置、滑りにくい履物の使用を心がけましょう。判断力や注意力の低下がみられる場合は、自動車運転、火の扱い、金銭管理、服薬管理について、家族や支援者と早めに対策を話し合うことが大切です。成年後見制度の活用も選択肢になります。食事はむせに注意し、姿勢や食形態を工夫します。口腔ケアは肺炎予防に有効です。本症は常染色体顕性遺伝のため、子や兄弟姉妹が変異をもつ可能性があります。ただし、未発症の家族が遺伝子検査を受けるかどうかは本人の自由意思に基づくべき問題です。結婚・出産・保険・就労などへの影響も含め、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーがいる遺伝カウンセリング外来で、十分な情報提供を受けたうえで判断することが勧められます。また、ステロイド薬などを含め新たな薬を使用する際は、本症であることを担当医に伝えておくと安心です。
利用できる制度・相談窓口
本症は指定難病であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、難病指定医の診断書をもとに都道府県・指定都市へ申請すると、医療費助成(自己負担上限額の設定)を受けられます。重症度基準を満たさない場合でも、医療費が一定額以上になれば軽症高額該当として対象となることがあります。認知症症状がある40〜64歳の方は、介護保険の特定疾病「初老期における認知症」に該当すれば介護保険サービスを利用できる場合があります。65歳以上の方は原因を問わず要介護認定を受けられます。ほかにも、障害の程度に応じて、身体障害者手帳(肢体不自由など)、精神障害者保健福祉手帳、障害福祉サービス(障害者総合支援法の対象疾病として)、障害年金、自立支援医療(精神通院医療)などの制度があります。就労中の方は傷病手当金の利用も検討できます。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、地域包括支援センター、病院の医療ソーシャルワーカー、若年性認知症支援コーディネーターなどがあります。
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症に伴う心のケア・心理社会的支援
若い年齢で進行性の神経難病と診断されることは、本人にも家族にも大きな衝撃です。抑うつ、不安、適応障害、怒りや否認が生じるのは自然な反応です。本症では、病気そのものによる前頭葉症状として、無関心や抑うつ、病識の低下が出やすいという特徴があります。そのため、本人が困りごとを訴えにくく、家族が「性格が変わった」「怠けている」と誤解して関係がこじれることも少なくありません。また、遺伝性疾患であることから、子どもに遺伝させたかもしれないという自責感や、血縁者が自分の発症リスクに向き合う不安など、家族全体に及ぶ心理的課題があります。働き盛りの発症は、収入減少、子育てと介護の両立、介護者の燃え尽きにもつながります。主治医、精神科医・心療内科医、公認心理師、遺伝カウンセラー、ソーシャルワーカー、患者・家族会などに早めに相談し、ひとりで抱え込まないことが大切です。
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神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症の受診の目安
- 30〜50歳代で、性格の変化、意欲低下、仕事上のミスの増加などが続き、家族に同様の症状をもつ人がいる場合は、神経内科を受診してください。
- けいれん発作が初めて起きた場合や、発作が5分以上続く、意識が戻らないうちに発作を繰り返す場合は、救急車を要請してください。
- 発熱、咳、痰の増加、呼吸が苦しそうなど、誤嚥性肺炎が疑われる症状がある場合は、早めに受診してください。
- 食事中のむせが増えた、食事量や体重が減ったなどの変化があれば、主治医に相談してください。
- 転倒して頭を打った後に、意識の変化、嘔吐、普段と違う麻痺が現れた場合は、すぐに受診してください。
- 興奮や暴力、強い抑うつ、死にたい気持ちの表明など、精神症状が急に悪化した場合は、速やかに主治医または精神科に相談してください。
神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症についてのよくある質問
Q. 親がこの病気と診断されました。子どもの私も必ず発症しますか?
A. 常染色体顕性遺伝のため、変異を受け継ぐ確率は50%です。ただし、変異をもっていても発症しない人や発症年齢が遅い人もいます。発症前の遺伝子検査を受けるかどうかは重要な選択ですので、まず遺伝カウンセリング外来で相談することをお勧めします。
Q. 多発性硬化症や認知症と言われていましたが、この病気の可能性はありますか?
A. 本症は画像や症状が多発性硬化症、前頭側頭型認知症、パーキンソン症候群などと似ているため、当初は別の診断を受けていることがあります。経過や画像に疑問がある場合は、白質脳症に詳しい神経内科専門医に相談し、遺伝子検査の要否を検討してもらうとよいでしょう。
Q. 治療法はないのでしょうか?
A. 現時点で根本治療は確立していません。ただし、発症早期の一部の患者で造血幹細胞移植により進行が抑えられた可能性が報告されており、研究が進められています。症状を和らげる薬物療法やリハビリ、合併症の予防によって生活の質を保つことは可能ですので、主治医と相談しながら治療方針を決めてください。
Q. 以前の説明では血小板が減って紫斑が出る病気とされていましたが、本当ですか?
A. いいえ、それは特発性血小板減少性紫斑病などの血液疾患の説明と混同された誤りです。本症はCSF1R遺伝子変異による脳の白質の病気で、血小板減少や脾臓摘出とは関係ありません。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。