前頭側頭葉変性症
Frontotemporal Lobar Degeneration (FTLD)
前頭側頭葉変性症(Frontotemporal Lobar Degeneration (FTLD))|前頭側頭葉変性症(FTLD)は、脳の前頭葉と側頭葉の前方部が選択的に萎縮し、人格・行動の変化や言葉の意味の障害が目立つ神経変性疾患です。40〜60歳代の働き盛りに発症することが多く、記憶は比較的保たれます。一方で社会的なふるまいが変わるため、家族・職場・地域生活に大きな影響を及ぼします。日本では指定難病(告示番号127)に指定されており、医療費助成の対象になります。早期に正しく診断し、ケアや支援制度を活用することが、本人と家族の生活を守るうえで重要です。
前頭側頭葉変性症の要点
前頭側頭葉変性症(FTLD)は、前頭葉と側頭葉前方が選択的に萎縮する神経変性疾患で、人格・行動の変化や言葉の意味の障害が目立ちます。40〜60歳代の発症が多く、行動障害型と意味性認知症が日本の指定難病(告示番号127)として医療費助成の対象になります。
| 別名・略称 | 前頭側頭型認知症、FTD、ピック病、Frontotemporal dementia |
|---|---|
| 分野 | 神経・筋疾患 |
| 遺伝形式 | 多くは孤発性。一部に家族性があり、MAPT・GRN・C9orf72などの遺伝子が関与 |
| 好発年齢 | 40〜60歳代に多い |
| 主な症状 | 脱抑制、アパシー、共感の欠如、常同行動、食行動の変化、語義の障害、病識の低下 |
| 主な検査 | 頭部MRI・CTで前頭葉や側頭葉前方の萎縮を確認。脳血流SPECTも用いる |
| 主な治療 | 根治療法はなく、行動症状への対症療法と環境調整・介護支援が中心 |
| 受診する主な診療科 | 脳神経内科、精神科 |
前頭側頭葉変性症とは
前頭側頭葉変性症(Frontotemporal Lobar Degeneration:FTLD)は、本来は病理学的な概念で、前頭葉・側頭葉に限局した神経細胞の脱落とグリオーシスを特徴とする疾患群をさします。臨床的には「前頭側頭型認知症(FTD)」という症候群として現れます。アルツハイマー病では初期から記憶障害が中心になりますが、FTLDでは脱抑制、無関心(アパシー)、共感の欠如、常同行動、食行動の変化などの行動障害や、言葉の意味がわからなくなる言語障害が前面に出ます。病識(病気であるという自覚)が乏しいことも特徴で、初期にはうつ病や統合失調症などの精神疾患、あるいは単なる性格の変化と誤解されることが少なくありません。
臨床病型は大きく、(1)行動障害が中心の行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)、(2)左優位の側頭葉前部萎縮により語の意味記憶が失われる意味性認知症(SD;意味型原発性進行性失語 svPPA)、(3)発話がたどたどしくなり文法が崩れる進行性非流暢性失語(PNFA;非流暢/失文法型PPA)に分けられます。日本の指定難病「前頭側頭葉変性症」の対象は、このうちbvFTDとSDです。歴史的には1892年にArnold Pickが前頭・側頭葉萎縮例を報告し、のちに神経細胞内の封入体(ピック球)を伴うものが「ピック病」と呼ばれました。1990年代以降、ピック球を伴わない例も多いことが明らかになり、FTLDという包括的概念に整理されました。病理学的には、蓄積する異常タンパク質によってFTLD-tau、FTLD-TDP、FTLD-FUSなどに分類されます。筋萎縮性側索硬化症(ALS)を合併する病型(FTD-ALS)もあり、両疾患は一連のスペクトラムと考えられています。
前頭側頭葉変性症の疫学・患者数
日本における全国調査では、患者数はおよそ1万2千人と推計されたと報告されていますが、診断されていない例も多く、実数はさらに多い可能性があります。発症年齢は40〜60歳代が中心で、65歳未満で発症する若年性認知症の原因としては、アルツハイマー病、血管性認知症に次ぐ重要な疾患です。高齢発症例もあり、高齢者ではアルツハイマー病などと区別されにくいことが指摘されています。明らかな性差はないとされます。欧米ではFTDの3〜4割に家族歴があり、遺伝子変異を伴う例も一定の割合を占めますが、日本では家族性の例は少なく、大部分が孤発性です。病型別では、日本ではbvFTDとSDが多く、PNFAは比較的少ないとする報告があります。
前頭側頭葉変性症の原因・病態生理
FTLDの多くは孤発性で、明確な原因はまだ分かっていません。病理学的には、神経細胞やグリア細胞に異常なタンパク質が蓄積することが中核にあります。主なものは、(1)タウ蛋白が蓄積するFTLD-tau(ピック病、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺など)、(2)TDP-43が蓄積するFTLD-TDP(病理像によりA〜D型などに細分類)、(3)FUSが蓄積するFTLD-FUSです。臨床病型と病理にはある程度の対応があり、SDの大部分はFTLD-TDP(主にC型)、FTD-ALSはFTLD-TDPが多いとされます。一方、bvFTDの病理はさまざまで、臨床症状から病理を正確に予測することは困難です。家族性FTLDの主な原因遺伝子には、MAPT(タウ遺伝子)、GRN(プログラニュリン遺伝子)、C9orf72があり、いずれも常染色体顕性(優性)遺伝形式をとります。このほか、TBK1、VCP、CHMP2Bなどの関連遺伝子も報告されています。C9orf72のリピート伸長は欧米ではFTD・ALSの主要な遺伝要因ですが、日本ではまれとされます。
発症機序として、異常タンパク質の凝集と機能喪失が考えられています。TDP-43は通常、核内でRNAのスプライシングや輸送を調節しています。FTLD-TDPでは、TDP-43が核から失われて細胞質に凝集し、本来の機能を失うとともに、凝集体そのものも細胞に毒性を及ぼすと考えられています。GRN変異ではプログラニュリンが不足し、リソソームの機能やミクログリアによる炎症の制御が障害されます。MAPT変異では、タウのアイソフォームのバランスや微小管への結合が変化します。C9orf72では、リピートRNAによる毒性、ジペプチドリピート蛋白、遺伝子産物の減少が関与するとされます。病変はまず、前帯状回や前頭島皮質など、社会的・情動的な判断を担う「サリエンスネットワーク」から始まりやすいとされます。この領域に多いフォン・エコノモ神経細胞が早期に障害されることが、共感の欠如や社会性の障害と関連すると考えられています。SDでは左側頭極・前部側頭葉の萎縮により語の意味(意味記憶)が失われ、右側優位の場合は人の顔や物の意味の認識(相貌失認など)が障害されます。異常タンパク質は神経回路に沿って細胞から細胞へ伝わる(伝播する)という仮説もあり、病変が隣接する領域へ順に広がることで症状が進行すると考えられています。
前頭側頭葉変性症の症状
- 脱抑制・反社会的行動: 社会のルールや周囲への配慮が失われ、万引き、無銭飲食、交通違反、場にそぐわない言動などがみられます。本人に悪意や罪の意識が乏しいことが特徴です。
- 無関心(アパシー)・自発性低下: 仕事や趣味、身だしなみへの関心がなくなり、何もせずに過ごす時間が増えます。初期にはうつ病と誤解されやすい症状です。
- 共感・感情移入の欠如: 家族の病気や悲しみに無関心になるなど、他者の気持ちへの配慮が失われ、冷たくなったように見えます。
- 常同行動・時刻表的生活: 毎日同じ時間に同じ道を歩く(周遊)、同じ物を食べる、同じ言葉をくり返すなど、行動が型にはまります。止めようとすると強く抵抗することがあります。
- 食行動の変化: 甘いものや特定の食品を偏って好むようになり、過食や早食いがみられます。進行すると、食べ物でない物を口に入れることもあります。
- 被影響性の亢進・立ち去り行動: 目に入った文字を読み上げる、相手の動作をまねる、診察や会話の途中で突然立ち去るなど、外からの刺激に反射的に反応しやすくなります。
- 遂行機能障害: 計画を立てる、段取りよく物事を進める、状況に応じて行動を切り替えるといった能力が低下します。一方、初期には記憶や道順の理解(視空間認知)は比較的保たれます。
- 病識の欠如: 自分の変化に気づかないか、気づいても深刻に受け止めないため、受診や治療を拒むことが多くあります。
- 語義失語(意味性認知症): 物の名前が出てこない、「『えんぴつ』って何ですか」と単語の意味そのものを問い返すなど、語の意味がわからなくなります。漢字を読みで当てはめて読み誤る(例:「海老」を「かいろう」と読む)類音的錯読もみられます。
- 相貌失認・意味記憶障害: 右側頭葉の萎縮が強い場合、よく知っている人の顔や物の意味がわからなくなり、行動異常を伴いやすいとされます。
- 非流暢な発話・失文法(PNFA): 発話に努力を要してたどたどしくなり、助詞の誤りや音の誤り(発語失行)がみられます。日本の指定難病の対象病型ではありませんが、FTLDの臨床病型の一つです。
- 運動症状(運動ニューロン徴候・パーキンソニズム): 一部の患者では、筋萎縮、筋力低下、構音・嚥下障害などALSの症状や、動作緩慢・筋固縮などのパーキンソン症状を伴います。
前頭側頭葉変性症の経過と合併症
症状は数年から十数年をかけて、ゆっくりと確実に進行します。初期には性格の変化や仕事上のミス、対人トラブルで気づかれ、病識がないため受診が遅れがちです。中期になると常同行動や食行動の異常、脱抑制が目立ち、家族の介護負担が最も大きくなりやすい時期です。この頃、言語障害や記憶障害も加わってきます。病変が広がるにつれ、bvFTDでもSDでも症状が重なり合い、最終的には自発的な発話や活動がほとんどなくなります(無言・無動)。後期には歩行障害、筋固縮、嚥下障害が出現し、寝たきりの状態になります。進行の速さには個人差が大きく、ALSを合併する病型では進行が速い一方、SDは比較的ゆるやかに経過することが多いとされます。
合併症として、後期の嚥下障害による誤嚥性肺炎が最も重要で、主な死因になります。過食や偏食による体重増加・糖尿病・脂質異常症、逆に後期の低栄養や脱水、詰め込み食べによる窒息にも注意が必要です。転倒・骨折、寝たきりによる褥瘡、尿路感染症もみられます。ALSを合併した場合は、呼吸筋の筋力低下による呼吸不全が問題になります。社会的には、脱抑制に伴う万引きなどの触法行為、交通事故、浪費や契約トラブル、失職による経済的困窮が深刻な二次的問題になることがあります。
前頭側頭葉変性症の診断・診断基準
診断は、家族など本人をよく知る人からの詳しい病歴聴取が出発点です。病識が乏しいため本人の訴えだけでは情報が不十分で、いつからどのような行動や言葉の変化が出てきたかを具体的に聞き取ることが重要です。そのうえで、神経学的診察、神経心理検査、頭部MRI、脳血流SPECTなどの画像検査を組み合わせます。国際的にはbvFTDにRascovskyらの診断基準(2011年)、原発性進行性失語にGorno-Tempiniらの分類基準(2011年)が用いられ、日本の指定難病の診断基準もこれらを踏まえて作成されています。うつ病、統合失調症、双極性障害などの精神疾患や、アルツハイマー病、脳腫瘍、血管障害などの他の疾患を除外することが不可欠です。確定診断は病理診断によりますが、生前は臨床診断が中心となります。ALSの合併を確認するために、筋電図検査などを行うこともあります。
- 臨床診断基準(bvFTD・SD): bvFTDでは、脱抑制、アパシー、共感の欠如、常同行動、食行動の変化、遂行機能障害のうち複数を満たすかどうかで評価し、画像所見を加えて確からしさを判定します。SDでは、呼称障害と単語理解障害を中核に、物の知識の障害や表層失読などを評価します。
- 頭部MRI・CT: 前頭葉眼窩面・内側面、前部帯状回、島、側頭葉前部の萎縮がみられ、強い場合は脳回が薄く尖る「ナイフの刃様」萎縮を示します。SDでは左右差のある側頭極・中下側頭回前部の萎縮が特徴的です。
- 脳血流SPECT・FDG-PET: 前頭葉や側頭葉前部の血流・糖代謝の低下を示します。MRIで萎縮がはっきりしない初期にも異常が検出されることがあり、アルツハイマー病のパターン(頭頂・後部帯状回の低下)との区別に役立ちます。
- 神経心理検査: MMSEや改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は初期に保たれることがあり、FAB(前頭葉機能検査)、ウィスコンシンカード分類検査、言語流暢性課題などで前頭葉機能を評価します。SDでは呼称・語義理解の検査、WAB失語症検査などが用いられます。
- 行動評価尺度: NPI(Neuropsychiatric Inventory)や前頭葉性行動質問紙(FBI)などを用いて、介護者からの情報をもとに行動症状を定量的に評価し、経過を追跡します。
- アミロイドPET・脳脊髄液バイオマーカー: アミロイドβやリン酸化タウの所見から、前頭葉症状を示すアルツハイマー病との鑑別に役立つ場合があります。実施できる施設や保険適用には条件があります。
- 血液検査・脳波など(除外診断): 甲状腺機能、ビタミンB12、梅毒、HIV、代謝異常などの治療可能な認知機能障害を除外します。脳波はてんかんや脳症の除外に用いられ、FTLDでは初期に正常であることが多いとされます。
- 筋電図・神経伝導検査: 筋萎縮や線維束性収縮、嚥下障害などがある場合に、ALSの合併(FTD-ALS)を評価します。合併すると予後や療養方針が大きく変わるため重要です。
- 遺伝子検査: 家族歴がある場合や若年発症例では、MAPT、GRN、C9orf72などの検査が検討されます。結果は本人と血縁者に影響するため、遺伝カウンセリングを伴って慎重に行います。
前頭側頭葉変性症と鑑別すべき疾患
- アルツハイマー病(前頭葉型を含む): 初期からの近時記憶障害や視空間認知障害、頭頂葉・後部帯状回の血流低下、アミロイド・タウバイオマーカーの陽性で区別します。
- 精神疾患(うつ病・双極性障害・統合失調症など): 中年期以降に初めて人格変化が出現し、進行性で画像上の萎縮や血流低下を伴う場合はFTLDを強く疑います。経過観察で進行しないbvFTD類似の例(phenocopy)にも注意が必要です。
- レビー小体型認知症: 幻視、認知機能の変動、レム睡眠行動障害、パーキンソニズム、MIBG心筋シンチやDATスキャンの異常などが鑑別の手がかりになります。
- 大脳皮質基底核変性症・進行性核上性麻痺: 左右差のある肢節運動失行や筋固縮、垂直性眼球運動障害、早期からの転倒などの運動症状の有無が鑑別点で、病理的にもFTLD-tauとして重なります。
- 血管性認知症・脳腫瘍・正常圧水頭症: 画像検査で前頭葉の梗塞や腫瘍、脳室拡大などの器質的病変を確認することで区別します。
- ハンチントン病・那須ハコラ病など遺伝性疾患: 舞踏運動、骨嚢胞、家族歴、特徴的な画像所見などがあれば、遺伝子検査で鑑別します。
前頭側頭葉変性症の治療
現時点で、FTLDの進行を止めたり、病気そのものを治したりする治療(疾患修飾療法)は確立していません。治療の目標は、行動症状を軽くして本人の生活の質(QOL)を保つこと、介護者の負担を減らすこと、合併症を予防することです。治療は、非薬物的なケア(環境調整・ケアの工夫)が基本で、薬物療法は補助的に、慎重に用います。アルツハイマー病で使われるコリンエステラーゼ阻害薬は、FTLDでは有効性が示されておらず、かえって易怒性や脱抑制を悪化させることがあるため、一般的には推奨されません。メマンチンも臨床試験で明らかな効果は示されていません。神経内科医・精神科医、看護師、言語聴覚士、作業療法士、ケアマネジャー、医療ソーシャルワーカーなどの多職種チームで支えることが重要です。具体的な治療方針は主治医・専門医と相談してください。
- 環境調整とルーティン化療法: 常同行動の特性を逆に利用し、決まった時間に決まった活動(散歩、作業、デイサービスなど)を組み込むことで、行動を安定させる方法が日本で工夫されています。問題行動を叱って止めるより、別の行動に置き換えるほうが有効なことが多いとされます。
- 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)・トラゾドン: 脱抑制、常同行動、過食などに一定の効果を示した報告があり、使われることがあります。ただし、保険適用や効果の程度は限られるため、主治医が利益と副作用を検討したうえで判断します。
- 抗精神病薬: 激しい興奮や攻撃性がある場合に、少量を短期間に限って検討されることがあります。FTLDの患者はパーキンソン症状などの副作用が出やすく、高齢の認知症患者では死亡リスクの増加も指摘されているため、慎重に使用します。
- 言語療法(意味性認知症): 言語聴覚士による訓練で、日常生活に必要な語彙をくり返し学習したり、写真や絵カードなどのコミュニケーション手段を整えたりします。早期から始めることで、意思疎通の維持に役立つ場合があります。
- 食行動・栄養管理: 過食や甘い物への偏りには、食べ物を目につく場所に置かない、一口量を調整するなどの工夫をします。後期には嚥下評価に基づいて食形態を調整し、誤嚥や窒息を予防します。
- 介護サービスの活用: デイサービス、ショートステイ、若年性認知症に対応したプログラム、訪問看護などを利用し、本人の活動の場を確保するとともに、家族の休息(レスパイト)を図ります。行動症状が強い時期には、認知症治療病棟などへの一時的な入院が検討されることもあります。
- ALS合併時の対応: 呼吸機能や嚥下機能を定期的に評価し、非侵襲的陽圧換気(NPPV)や胃瘻の導入を検討します。本人の意思を早めに確認しておくことが重要です。
- 人生会議(アドバンス・ケア・プランニング): 判断能力が保たれているうちに、胃瘻や人工呼吸などの延命処置、療養場所についての希望を、本人・家族・医療者で話し合い、記録しておきます。
- 臨床研究・治験: GRNやC9orf72などの遺伝性FTLDを対象とした遺伝子治療・核酸医薬などの開発が海外を中心に進められています。参加の可否は専門施設で相談します。
前頭側頭葉変性症の予後・長期フォロー
FTLDは進行性の疾患で、発症からの生存期間は報告によって差がありますが、bvFTDではおおむね8年前後、SDではそれより長い傾向、FTD-ALSでは数年程度と短い傾向が示されています。個人差が大きく、10年以上経過する人もいます。主な死因は誤嚥性肺炎などの感染症で、ALSを合併した場合は呼吸不全です。生活の質(QOL)の面では、記憶や身体機能が比較的保たれている初期から中期に、行動症状による社会生活上の困難が大きくなるのが特徴です。適切なケアと環境調整によって、穏やかな生活を長く維持できることも少なくありません。
長期フォローアップでは、数か月ごとの外来受診で、行動症状、言語・認知機能、体重、嚥下機能、運動症状(ALSやパーキンソン症状の出現)を評価します。必要に応じて画像検査をくり返し、診断が妥当かどうかも見直します。薬を使っている場合は、効果と副作用(過鎮静、転倒、錐体外路症状)を定期的に確認し、不要になった薬は減量・中止を検討します。病期に応じて介護保険の区分変更、福祉サービスの見直し、後見制度の利用、緩和ケアへの移行などを、かかりつけ医、専門医、ケアマネジャーが連携して進めることが大切です。
前頭側頭葉変性症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、本人のこだわりや生活リズムを尊重し、できるだけ毎日同じ流れで過ごせるように整えることが安定につながります。叱責や説得は効果が乏しく、かえって興奮を招きやすいため、穏やかに声をかけて別の行動へ誘導することを心がけましょう。自動車の運転は、判断力の低下や信号無視などにより重大事故につながるおそれがあります。認知症と診断された場合は法令上の取り扱いもあるため、早めに主治医と相談し、運転をやめる方向で準備します。万引きなどの触法行為が心配な場合は、行きつけの店に事情を伝えておく、医師の診断書を準備しておく、お金の管理方法を工夫するなどの対策が役立ちます。浪費や不要な契約を防ぐため、成年後見制度や日常生活自立支援事業の利用も検討します。家族歴があり遺伝性が疑われる場合は、本人や血縁者が検査を受けるかどうかを含めて、臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。発症前の血縁者が遺伝子検査を受けるかどうかは、心理的な影響も大きいため、十分な情報提供のうえで本人が自ら判断することが原則です。
利用できる制度・相談窓口
前頭側頭葉変性症(bvFTD・SD)は指定難病に指定されており、診断基準を満たし、重症度分類で一定以上と判定された場合(または軽症でも医療費が高額な場合の「軽症高額該当」)には、医療費助成を受けられます。申請には難病指定医による臨床調査個人票が必要で、窓口はお住まいの都道府県・指定都市の保健所などです。介護保険は、40〜64歳の方でも「初老期における認知症」として特定疾病に該当するため、要介護認定を受ければサービスを利用できます。精神科・神経内科への通院費については自立支援医療(精神通院医療)、日常生活や就労に支障がある場合には精神障害者保健福祉手帳、ALS合併などで身体機能が低下した場合には身体障害者手帳の対象となることがあります。働き盛りで発症した場合は、障害年金、傷病手当金、雇用保険なども確認しましょう。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、若年性認知症支援コーディネーター、若年性認知症コールセンター、認知症疾患医療センター、地域包括支援センター、医療機関の医療ソーシャルワーカーがあります。家族会や認知症の人と家族の会などの当事者団体も、情報交換や心理的な支えとして役立ちます。
前頭側頭葉変性症に伴う心のケア・心理社会的支援
FTLDでは、本人に病識がないことが多いため、心理的負担は介護する家族に強くかかるのが大きな特徴です。人格が変わり、共感を示さなくなった配偶者や親に対して、家族は「以前のあの人ではない」という喪失感(あいまいな喪失)、怒り、罪悪感、恥ずかしさを抱きやすく、抑うつや不安、不眠、適応障害を生じることもまれではありません。若年発症のため、失職による経済的困窮、子どもの進学や就職、親の介護との重なり(ダブルケア)など、社会的な課題も重なります。触法行為などで周囲から誤解されることもあり、家族が孤立しやすい状況にあります。一方、初期の本人は不安や抑うつを感じていることもあり、診断の告知や将来の話し合いは本人の理解度に配慮して慎重に行う必要があります。家族だけで抱え込まず、主治医、精神科医、心療内科医、公認心理師、家族会などに早めに相談し、レスパイトケアを活用して休息をとることが、本人と家族双方の生活を守ることにつながります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
前頭側頭葉変性症の受診の目安
- 中年期以降に、性格が別人のように変わった、無関心になった、身勝手な行動や万引きなどが急に目立つようになった場合は、精神科・神経内科・もの忘れ外来を受診してください。
- 物の名前が出てこない、よく知っているはずの単語の意味を尋ねるといった言葉の変化が続く場合は、早めに専門医へ相談してください。
- 食事中のむせ、飲み込みにくさ、体重の急な減少がみられる場合は、主治医に相談してください。
- 発熱、咳、痰、呼吸が苦しそうな様子があり誤嚥性肺炎が疑われる場合や、食べ物を詰まらせた場合は、すぐに救急受診(必要なら119番)をしてください。
- 興奮や暴力が激しく、本人や家族の安全が保てない場合は、主治医または地域の精神科救急に連絡してください。
- 手足の筋力低下・筋肉のやせ、ろれつが回らない、息切れなどの新しい症状が出た場合は、ALSの合併の可能性があるため速やかに受診してください。
前頭側頭葉変性症についてのよくある質問
Q. アルツハイマー型認知症とはどう違うのですか?
A. アルツハイマー病は記憶障害から始まることが多いのに対し、前頭側頭葉変性症は人格や行動の変化、または言葉の意味の障害から始まり、初期には記憶が比較的保たれます。萎縮する脳の部位や蓄積するタンパク質も異なり、アルツハイマー病の薬は効果が期待しにくいとされます。
Q. 遺伝しますか?
A. 日本の患者の大部分は家族歴のない孤発性で、遺伝性の例は少ないとされます。ただし、MAPT、GRN、C9orf72などの遺伝子変異による家族性の例もあるため、血縁者に同様の病気の方がいる場合は遺伝カウンセリングで相談してください。
Q. 本人が受診を嫌がります。どうしたらよいですか?
A. 病識が乏しいことがこの病気の特徴なので、無理に説得するより「健康診断」「血圧の相談」など本人が受け入れやすい理由で、かかりつけ医から紹介してもらう方法があります。家族だけで先に専門外来や地域包括支援センター、若年性認知症支援コーディネーターに相談することも有効です。
Q. 仕事は続けられますか?
A. 判断力や対人関係の障害により、従来どおり働くことが難しくなる場合が多いですが、業務内容の調整や配置転換によってしばらく就労を続けられることもあります。退職を決める前に、傷病手当金や障害年金などの制度について、医療ソーシャルワーカーや若年性認知症支援コーディネーターに相談することをお勧めします。
関連記事(関連する指定難病)
- 筋萎縮性側索硬化症 Amyotrophic Lateral Sclerosis, ALS
- 大脳皮質基底核変性症 Corticobasal Degeneration, CBD
- 進行性核上性麻痺 Progressive Supranuclear Palsy, PSP
- 原発性側索硬化症 Primary Lateral Sclerosis, PLS
- 那須・ハコラ病 Nasu-Hakola Disease
- ハンチントン病 Huntington's disease, HD
- プリオン病 Prion Disease
- パーキンソン病 Parkinson's Disease, PD
- 神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症 Hereditary Diffuse Leukoencephalopathy with Neuroaxonal Spheroids
- 脆弱X症候群関連疾患 Fragile X-Associated Disorders
同じ分野(神経・筋疾患)の指定難病
この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。