多発性硬化症と視神経脊髄炎
Multiple Sclerosis, MS/Neuromyelitis Optica, NMO
多発性硬化症と視神経脊髄炎(Multiple Sclerosis, MS/Neuromyelitis Optica, NMO)|多発性硬化症(MS)と視神経脊髄炎(NMO、現在は視神経脊髄炎スペクトラム障害:NMOSDとして扱われることが多い)は、脳・脊髄・視神経といった中枢神経に炎症が繰り返し起こる自己免疫性疾患です。どちらも若年〜中年の女性に多く、視力低下や手足の麻痺・しびれ、排尿障害などが起こります。かつては同じ病気と考えられていましたが、現在は病態も治療も異なる別の疾患と理解されています。適切な診断と早期からの再発予防治療によって、長期の経過は大きく改善してきています。
多発性硬化症と視神経脊髄炎の要点
多発性硬化症(MS)とNMO(NMOSD)は、脳・脊髄・視神経に炎症を繰り返す自己免疫性の中枢神経疾患です。MSは髄鞘、NMOSDは主に抗AQP4抗体によるアストロサイトが標的となる別の病気です。視力低下、手足の麻痺やしびれ、排尿障害などが起こり、国の指定難病です。
| 別名・略称 | MS、NMO、NMOSD、デビック病、視神経脊髄炎スペクトラム障害、Devic病 |
|---|---|
| 分野 | 神経・筋疾患 |
| 好発年齢・性別 | 若年〜中年の女性に多い |
| 主な症状 | 視力低下、手足の麻痺・しびれ、排尿障害 |
| 主な検査 | MRI、抗AQP4抗体検査、髄液検査 |
| 主な治療 | 急性期の免疫治療と、再発予防のための長期治療 |
| 受診する主な診療科 | 神経内科 |
| 病態の違い | MSは髄鞘の脱髄、NMOSDはアストロサイト障害が中心 |
多発性硬化症と視神経脊髄炎とは
多発性硬化症(MS)は、中枢神経の髄鞘(ミエリン)を標的とする炎症性脱髄疾患です。病変が脳・脊髄・視神経のあちこちに(空間的多発)、時期を変えて繰り返し(時間的多発)現れることが特徴です。脱髄の後には神経膠細胞による瘢痕(硬化)が残り、これが病名の由来です。髄鞘だけでなく神経軸索も傷つき、それが長期的な障害の蓄積につながります。視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)の主な病態は、アストロサイト(星状膠細胞)の足突起にある水チャネル蛋白アクアポリン4(AQP4)に対する自己抗体が引き起こすアストロサイト障害(アストロサイトパチー)です。脱髄はその二次的な結果と考えられています。重い視神経炎や、長い範囲に及ぶ脊髄炎を起こしやすく、1回の発作で重い後遺症が残りやすい点がMSと大きく異なります。
MSは経過によって病型が分かれます。まず、最初の1回の発作のみの臨床的孤立症候群(CIS)があります。続いて、再発と寛解を繰り返す再発寛解型(RRMS)、再発寛解型の後に再発とは関係なく徐々に障害が進む二次性進行型(SPMS)、発症時から緩徐に進行する一次性進行型(PPMS)があります。症状はないのにMRIでMSに似た病変が見つかる場合は、放射線学的孤立症候群(RIS)と呼ばれます。NMOは19世紀末にDevicが報告し、長くMSの一亜型とみなされてきました。日本で多いとされた「視神経脊髄型MS」も、その多くがNMOに相当すると考えられています。2004年にNMOに特異的な自己抗体(NMO-IgG)が発見され、翌2005年にその標的がAQP4であると判明しました。これにより、NMOはMSとは独立した疾患として確立しました。2015年には国際診断基準(IPND基準)でNMOSDという包括的な概念が提唱されています。また、AQP4抗体陰性で抗MOG抗体が陽性となる病態はMOG抗体関連疾患(MOGAD)として、さらに別の疾患単位と考えられるようになっています。指定難病では「多発性硬化症/視神経脊髄炎」(告示番号13)として一つの項目にまとめられています。
多発性硬化症と視神経脊髄炎の疫学・患者数
日本のMSの有病率は人口10万人あたり十数人程度と推定されています。欧米(北欧・北米では10万人あたり100人を超える地域もある)と比べると低いものの、ここ数十年で明らかに増加しています。指定難病の医療受給者証の所持者は、MSとNMOを合わせて約2万人規模です。ただし、軽症で申請していない人もいるため、実際の患者数はこれより多いと考えられます。MSは20〜40歳代での発症が多く、女性は男性の2〜3倍程度です。NMOSDの有病率はMSより低く、日本では10万人あたり数人程度とされます。女性が約9割を占めるといわれ、発症年齢は平均30〜40歳代とMSよりやや高めです。高齢になってからの発症もまれではありません。どちらの疾患も小児期に発症することがあります。
多発性硬化症と視神経脊髄炎の原因・病態生理
MSは単一遺伝子が原因の遺伝病ではなく、複数の遺伝的要因と環境要因が重なって発症する多因子疾患です。遺伝的要因で最も強いのはHLAクラスII領域(とくにHLA-DRB1*15:01)で、ほかにも免疫関連の多数の遺伝子多型が少しずつ関わっています。環境要因としては、Epstein-Barrウイルス(EBV)感染(とくに伝染性単核球症の既往)、日光照射やビタミンDの不足、喫煙、思春期の肥満などが知られています。日本で患者が増えている背景には、食生活など生活様式の欧米化が関わっている可能性も指摘されています。NMOSDも遺伝性疾患ではありません。家族内で発症することはまれで、シェーグレン症候群や全身性エリテマトーデス、重症筋無力症など他の自己免疫疾患をしばしば合併します。
MSでは、末梢で活性化された自己反応性のT細胞(Th1、Th17など)やB細胞が血液脳関門を越えて中枢神経に入り込み、ミクログリアやマクロファージとともに髄鞘を攻撃して脱髄巣をつくります。B細胞は抗体を作るだけでなく、抗原を提示したりサイトカインを出したりする役割も担っています。抗CD20抗体が有効であることから、B細胞が病態の中心に関わっていることがわかります。病気が長く続くと、髄膜のリンパ濾胞様構造、辺縁が慢性的に活動している病変(slowly expanding lesion)、ミクログリアの活性化など、中枢神経内に閉じ込められた炎症(compartmentalized inflammation)と神経変性が主体になります。これが再発とは無関係に進む障害の進行(PIRA)や脳萎縮の背景と考えられています。NMOSDでは、主にIgG1サブクラスのAQP4抗体がアストロサイトのAQP4に結合し、補体を活性化します。その結果、アストロサイトが壊れ、好中球や好酸球が入り込み、二次的に髄鞘や軸索も傷害されます。AQP4は視神経、脊髄の灰白質、第三・第四脳室周囲、延髄の最後野などに多く存在し、これがNMOSDの病変の分布と一致しています。抗体産生にはIL-6が生存因子として関わるプラズマブラストが重要です。補体阻害薬、IL-6受容体阻害薬、B細胞を除去する薬が効くのは、この病態に基づいています。
多発性硬化症と視神経脊髄炎の症状
- 視神経炎(視力低下・眼痛): 片眼の視力低下、中心が見えにくくなる(中心暗点)、色の見え方の変化が数日かけて進み、眼を動かすと痛むことが多い症状です。NMOSDでは両眼に同時に起こったり、重い視力低下(失明に近い状態)となって回復が悪かったりしやすい傾向があります。
- 感覚障害・しびれ: 手足や体幹のしびれ、ビリビリ感、感覚の鈍さが現れます。脊髄病変では、胸やお腹の高さを境に感覚が低下したり、体を帯で締めつけられるような感覚(帯状感覚)が出たりします。
- 運動麻痺・痙性: 片麻痺、対麻痺、四肢麻痺などの筋力低下と、筋肉のつっぱり(痙性)が起こり、歩行障害の主な原因になります。NMOSDの長大な脊髄炎では、急速に重い対麻痺に至ることがあります。
- 膀胱直腸障害: 頻尿、尿意切迫、尿失禁、残尿、便秘などが起こります。脊髄病変による神経因性膀胱が原因で、尿路感染症の誘因にもなります。
- 脳幹・小脳症状: 物が二重に見える複視(核間性眼筋麻痺が代表的)、めまい、ふらつき、ろれつが回らない、手のふるえ、三叉神経痛などがみられます。
- 難治性しゃっくり・嘔吐(最後野症候群): 延髄最後野の病変により、原因のはっきりしない吃逆や悪心・嘔吐が数日以上続く症状です。NMOSDに特徴的で、消化器の病気と誤認されやすいため注意が必要です。
- 有痛性強直性けいれん・神経障害性疼痛: 手足が数十秒間、痛みを伴って突っ張る発作や、焼けるような慢性の痛みです。とくにNMOSDの脊髄炎の後に多くみられます。
- レルミット徴候: 首を前に曲げたときに、背中から手足へ電気が走るような感覚が出る症状で、頸髄病変を示唆します。
- ウートホフ現象: 入浴、運動、発熱などで体温が上がると、一時的に視力低下や脱力が悪化する現象です。脱髄した神経の伝導障害によるもので、体温が下がれば元に戻ります。
- 疲労(易疲労性): MSで最も多い症状の一つです。休んでも抜けにくい強いだるさとして現れ、外見からわかりにくいため周囲に理解されにくいことがあります。
- 認知機能障害: 情報処理の速さ、注意力、記憶などが低下します。病初期から出ることがあり、就学や就労に影響します。
- 抑うつ・気分の変化: 病変による直接の影響と、慢性疾患に伴う心理的負担の両方から生じ、一般人口より頻度が高いとされます。
多発性硬化症と視神経脊髄炎の経過と合併症
MSの多くは再発寛解型で始まります。再発は数日〜数週かけて悪化し、その後、数週〜数か月で回復します。ただし、回復が不完全な場合もあります。治療を行わない場合、自然経過では発症から10〜20年ほどで二次性進行型に移行する人が少なくないとされてきました。近年は早期から疾患修飾療法を行うことで、この移行が遅れることが示唆されています。一次性進行型はMS全体の1割前後で、欧米より日本のほうが少ないとされます。NMOSDは基本的に再発性の経過をたどり、明らかな進行型はまれです。その一方で、1回の発作が重く、回復も不十分になりやすいため、再発のたびに障害が段階的に積み重なることが最大の特徴です。そのため、発症早期から再発予防を確実に行うことが極めて重要です。
合併症としては、まず神経因性膀胱に伴う尿路感染症や腎機能障害があります。ほかに、痙性や関節拘縮、転倒による骨折、長く寝ていることによる褥瘡や深部静脈血栓症、ステロイドの長期使用による骨粗鬆症・糖尿病・感染症・白内障などが問題になります。抑うつは両疾患でみられます。NMOSDでは、高位の頸髄や延髄の病変により呼吸不全をきたすことがあり、急性期には呼吸管理が必要になる場合があります。また、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、橋本病などの合併に注意が必要です。治療薬に関連する合併症として、ナタリズマブやフィンゴリモドなどによる進行性多巣性白質脳症(PML)、帯状疱疹などの感染症、補体阻害薬による髄膜炎菌感染症にも注意を要します。
多発性硬化症と視神経脊髄炎の診断・診断基準
診断は「中枢神経の炎症性病変が空間的・時間的に多発していること」を神経診察とMRIで確認し、他の疾患を十分に除外することが基本です。MSでは国際的なMcDonald基準(2017年版が広く用いられ、さらなる改訂も進められています)が用いられます。MRIで空間的多発と時間的多発を満たせば、初回の発作時点でも診断できることがあります。この基準では、脳脊髄液のオリゴクローナルバンド陽性を時間的多発の代わりとして扱うことができます。視神経炎や脊髄炎を起こした患者では、MSとNMOSDの区別が治療方針を大きく左右します。MSの一部の治療薬はNMOSDを悪化させるおそれがあるため、治療を始める前にAQP4抗体を確認することが強く推奨されます。NMOSDは2015年のIPND国際診断基準に従います。AQP4抗体陽性の場合は、視神経炎、急性脊髄炎、最後野症候群などの中核症状が1つあれば診断できます。抗体陰性の場合は、より厳しい臨床・MRIの条件を満たす必要があります。日本の指定難病の申請では、これらの国際基準に沿った診断基準と、重症度(EDSSや視力障害の程度)に基づいて判定されます。
- 頭部・脊髄MRI: MSでは脳室周囲、皮質・皮質近傍、テント下、脊髄に卵円形のT2高信号病変がみられます。脳室に対して垂直に並ぶ病変(Dawson's fingers)や、ガドリニウム造影で増強される活動性病変が特徴です。NMOSDでは、3椎体以上に連続する長大な脊髄病変(LETM)、脊髄中心部(灰白質)の病変、最後野・視床下部・脳室周囲の病変が特徴的です。
- 抗AQP4抗体検査: NMOSDの診断に最も重要な血清検査で、特異度は非常に高いとされます。感度と特異度に優れたcell-based assay(CBA)法が推奨されます。陰性でも臨床的に疑いが強い場合は、測定法を変えたり、時期を変えたりして再検査を考慮します。
- 抗MOG抗体検査: AQP4抗体陰性の視神経炎・脊髄炎・脳炎、とくに小児の急性散在性脳脊髄炎(ADEM)様の病像で陽性となることがあります。MS・NMOSDとは別の疾患単位(MOGAD)を示唆します。
- 脳脊髄液検査: MSではIgGオリゴクローナルバンドの陽性やIgGインデックスの上昇がみられ、診断を支持します。細胞数の増加は軽度にとどまります。NMOSDではオリゴクローナルバンドが陰性のことが多く、急性期に好中球を含む細胞数の増加がみられることがあります。
- 視覚誘発電位(VEP)・光干渉断層計(OCT): VEPでは潜時の延長により、自覚症状のない視神経病変も検出できます。OCTでは網膜神経線維層や神経節細胞層の菲薄化を定量でき、視神経障害の程度の評価に役立ちます。
- 体性感覚誘発電位・その他の誘発電位: 臨床症状に現れない脊髄・脳幹の伝導障害を補助的に捉える検査です。
- 除外のための血液検査: ビタミンB12、抗核抗体・抗SS-A抗体などの自己抗体、ACE、HTLV-1抗体、梅毒、甲状腺機能、感染症などを調べます。類似疾患を除外するとともに、合併する自己免疫疾患を評価します。
- McDonald基準(MS)/IPND基準(NMOSD): 国際的な診断基準です。MSでは空間的・時間的多発の証明と他疾患の除外、NMOSDでは中核症状とAQP4抗体の有無の組み合わせで診断します。
- EDSS(総合障害度評価尺度): 神経機能の障害度を0〜10で評価する国際的な尺度です。重症度の判定や治療効果の評価に用いられ、指定難病の重症度基準にも関わります。
多発性硬化症と視神経脊髄炎と鑑別すべき疾患
- MOG抗体関連疾患(MOGAD): 抗MOG抗体が陽性で、視乳頭の腫脹を伴う視神経炎、ADEM様の脳病変、脊髄円錐の病変などを示します。ステロイドへの反応は比較的良好で、MSやNMOSDとは治療方針が異なります。
- 神経サルコイドーシス・神経ベーチェット病: 全身の肉芽腫や粘膜・皮膚症状の有無で見分けます。MRIの軟膜や硬膜の造影効果、ACEや髄液所見なども手がかりになります。
- 膠原病・血管炎に伴う中枢神経障害(SLE、シェーグレン症候群など): 全身症状や自己抗体の所見で鑑別します。ただし、NMOSDとの合併も多いため、AQP4抗体を必ず確認します。
- 脳小血管病・CADASILなどの白質病変: 高齢、血管危険因子、病変の分布(側頭極や外包など)、臨床経過の違いで鑑別します。
- HTLV-1関連脊髄症・亜急性連合性脊髄変性症: 緩徐に進行する痙性対麻痺では、HTLV-1抗体やビタミンB12・銅の欠乏を調べて鑑別します。
- レーベル遺伝性視神経症・虚血性視神経症: 痛みを伴わない視力低下、母系遺伝、高齢・血管危険因子などが手がかりです。ミトコンドリアDNA検査などで鑑別します。
多発性硬化症と視神経脊髄炎の治療
治療は、①急性期の再発を速やかに抑えて後遺症を最小限にする急性期治療、②再発や障害の進行を防ぐ再発予防・疾患修飾療法、③残った症状を和らげる対症療法とリハビリテーション、の3本柱で行います。最も重要なのは、MSとNMOSDでは再発予防薬が異なることです。インターフェロンβ、フィンゴリモド、ナタリズマブなど一部のMS治療薬はNMOSDを悪化させる可能性が報告されているため、診断を正確に区別する必要があります。MSでは、病気の活動性、予後不良因子、妊娠の希望、副作用リスクなどを考慮して薬を選びます。近年は、早い段階から有効性の高い薬を使う考え方も広がっています。NMOSDでは、再発そのものが重い障害につながるため、診断後すぐに長期の再発予防を始めることが原則です。具体的な薬剤の選択は、主治医や神経内科の専門医とよく相談して決めることが大切です。
- ステロイドパルス療法: 急性増悪期の第一選択で、メチルプレドニゾロンを大量に3〜5日間点滴します。NMOSDでは再発を防ぐため、その後経口ステロイドを継続して漸減することが一般的です。
- 血液浄化療法(血漿交換・免疫吸着): ステロイドの効果が不十分な重い再発に行います。NMOSDでは病原性抗体を除去できるため有効性が高いとされ、早期に始めるほど予後が良いと報告されています。保険適用の条件があります。
- MSの疾患修飾療法(注射薬): インターフェロンβ製剤やグラチラマー酢酸塩の自己注射、抗CD20抗体オファツムマブの皮下注射、抗α4インテグリン抗体ナタリズマブの点滴などがあります。ナタリズマブではJCウイルス抗体価を確認し、PMLのリスクを管理します。
- MSの疾患修飾療法(経口薬): フィンゴリモド、フマル酸ジメチル、二次性進行型MSに用いるシポニモドなどがあります。リンパ球数の減少、徐脈、黄斑浮腫、感染症など、薬ごとに異なるモニタリングが必要です。
- NMOSDの再発予防(従来療法): 少量の経口ステロイドに、アザチオプリンなどの免疫抑制薬を組み合わせて用います。長期使用に伴う副作用(骨粗鬆症、糖尿病、感染症など)への対策が欠かせません。
- NMOSDの再発予防(生物学的製剤): AQP4抗体陽性のNMOSDに対して、補体C5阻害薬(エクリズマブ、ラブリズマブ)、IL-6受容体阻害薬(サトラリズマブ)、抗CD19抗体(イネビリズマブ)、抗CD20抗体(リツキシマブ)が使用可能となっています。臨床試験で再発を大きく減らすことが示されています。補体阻害薬では、使用前の髄膜炎菌ワクチン接種が必須です。
- 対症療法: 痙性にはバクロフェンやチザニジン、有痛性強直性けいれんや三叉神経痛にはカルバマゼピンなどを用います。神経障害性疼痛には鎮痛補助薬、神経因性膀胱には抗コリン薬や間欠自己導尿などを、症状に応じて使います。
- リハビリテーション: 理学療法、作業療法、言語療法、視覚リハビリなどで、筋力・バランス・歩行・日常生活動作の維持向上を図ります。疲労やウートホフ現象を考え、体温管理と休憩を取り入れたプログラムにします。
- ワクチン・感染対策と骨の健康管理: 免疫抑制や生物学的製剤を始める前に、ワクチンの接種歴や結核・肝炎ウイルスなどを確認します。生ワクチンは薬によって禁忌となる場合があります。ステロイドを長く使う人には骨粗鬆症の予防も行います。
多発性硬化症と視神経脊髄炎の予後・長期フォロー
MSの生命予後は一般人口よりやや短いとする報告がありますが、多くの人が長い期間社会生活を続けています。疾患修飾療法が普及した現在では、歩行に支援が必要になる時期は以前より大きく遅くなっていると考えられます。予後不良と関連する因子には、男性、高齢発症、発症初期の再発の多さと回復の悪さ、運動・小脳症状での発症、MRI病変の多さ(とくに脊髄・テント下)、早期からの脳萎縮などがあります。NMOSDは、かつては発症後数年で重い視覚障害や歩行障害に至り、呼吸不全で命に関わる例も少なくありませんでした。しかし、適切な再発予防、とくに新しい生物学的製剤の登場によって、再発を高い割合で抑えられるようになり、予後は大きく改善しつつあります。
長期のフォローアップでは、定期的な神経診察とEDSS評価、頭部・脊髄MRI(MSでは症状がなくても新たな病変や造影病変を確認します)、視力・OCT評価を行います。あわせて、治療薬ごとの血液検査(リンパ球数、肝機能など)、JCウイルス抗体などの安全性モニタリングも続けます。MSでは「再発がない、MRIの活動性がない、障害が進行しない」状態(NEDA)を目標にし、活動性が残る場合は治療の変更を検討します。NMOSDでは、自己判断での服薬中止や急な減量が再発の引き金になりうるため、継続的な通院が重要です。妊娠・出産、加齢、併存疾患に応じて、治療方針を定期的に見直します。
多発性硬化症と視神経脊髄炎の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
規則正しい睡眠と栄養、適度な運動は、体力や気分、疲労の改善に役立ちます。喫煙はMSの進行との関連が指摘されているため、禁煙が勧められます。ウートホフ現象がある場合は、熱い風呂や長風呂、炎天下での活動を避け、冷却グッズやこまめな休憩を活用しましょう。感染症や過労、強いストレスは再発の誘因となりうるため、手洗いや予防接種(主治医と相談のうえで)を心がけます。発熱時の一時的な症状悪化を再発と区別するためにも、症状の記録をつけておくと診療に役立ちます。妊娠を希望する場合は、計画的に主治医と相談することが重要です。MSでは妊娠後期に再発が減り、産後3か月ほどは再発が増える傾向があります。NMOSDでも産後の再発に注意が必要です。治療薬の中には、妊娠前に中止や変更が必要なものがあります。どちらの疾患も遺伝病ではありません。家族がわずかに発症しやすくなる程度にとどまり、子どもへの遺伝を過度に心配する必要はないとされますが、不安があれば遺伝カウンセリングを利用できます。職場や学校には、外からは見えにくい疲労や排尿の問題などについて伝え、勤務時間や配置への配慮(合理的配慮)を相談するとよいでしょう。
利用できる制度・相談窓口
多発性硬化症/視神経脊髄炎は指定難病(告示番号13)です。診断基準を満たし、重症度基準(EDSSや視力障害の程度など)に該当する人は、都道府県等に申請して医療費助成を受けられます。重症度基準に該当しなくても、医療費の総額が一定以上の状態が続く場合には「軽症高額該当」として対象となることがあります。高額な疾患修飾療法を受ける人にとって、重要な制度です。18歳未満(継続の場合は20歳未満)の人は、小児慢性特定疾病医療費助成の対象となりえます。障害の程度に応じて、身体障害者手帳(肢体不自由、視覚障害、膀胱・直腸機能障害など)の取得や障害年金の申請ができます。障害者総合支援法では難病患者も対象になり、補装具や居宅介護などの福祉サービスを利用できます。65歳以上の人は介護保険サービスも利用可能です。そのほか、高額療養費制度、勤務先の健康保険の傷病手当金、障害者雇用や難病患者就職サポーター(ハローワーク)などの就労支援もあります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、医療機関の医療ソーシャルワーカー、患者会があります。
多発性硬化症と視神経脊髄炎に伴う心のケア・心理社会的支援
若い時期に発症し、いつ再発するかわからない、将来障害が進むかもしれないという不確かさを抱えながら、就学・就職・結婚・出産といった人生の大切な時期を過ごすことは、大きな心理的負担になります。MSでは、抑うつが一般人口よりかなり多いことが知られています。病変そのものによる影響、疲労、認知機能の低下、痛み、排尿の問題などが重なり、不安や適応障害も起こりやすくなります。疲労や認知の問題は外から見えにくいため、「怠けている」と誤解されたり、周囲との関係に悩んだりすることも少なくありません。NMOSDでは、突然の失明や対麻痺という急激な喪失体験や、慢性の痛みが精神的な負担を強めます。ステロイドなどの薬剤によって気分が変動することもあります。気分の落ち込み、眠れない、意欲がわかないといった状態が続くときは、我慢せず主治医に伝えてください。必要に応じて精神科・心療内科、臨床心理士・公認心理師、医療ソーシャルワーカーにつながることが大切です。同じ病気の人と体験を共有できる患者会も、孤立を防ぐ助けになります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
多発性硬化症と視神経脊髄炎の受診の目安
- 片眼または両眼の視力低下、見えにくさ、眼を動かしたときの痛みが数日かけて進むときは、早めに受診してください。
- 手足のしびれや脱力、歩きにくさ、尿が出にくい・漏れるといった症状が新たに出たり、24時間以上続いて悪化したりする場合は、再発の可能性があるため速やかに主治医に連絡してください。
- 急に両脚が動かなくなった、尿が出ない、呼吸が苦しい、飲み込めないといった症状は、救急受診が必要です。
- 原因のわからないしゃっくりや吐き気・嘔吐が何日も続く場合は、NMOSDの再発の可能性があるため、神経内科の主治医に相談してください。
- 治療中に発熱が続く、意識や言葉・行動に新たな変化が出る、強い頭痛と発熱があるときは、感染症や薬の副作用の可能性があるため早急に受診してください。
多発性硬化症と視神経脊髄炎についてのよくある質問
Q. 多発性硬化症と視神経脊髄炎は同じ病気ですか?
A. かつては同じ病気と考えられていましたが、現在はAQP4抗体の発見によって別の病気と理解されています。再発予防の薬が異なり、MSの薬の一部はNMOSDを悪化させることがあるため、正確に診断を区別することが重要です。
Q. 症状が落ち着いているのに、治療を続ける必要がありますか?
A. MSでは、症状がない時期にもMRIで新しい病変ができていることがあり、NMOSDでは1回の再発で重い後遺症が残るおそれがあります。そのため、自己判断で中止せず、継続や変更については主治医とよく相談してください。
Q. 妊娠・出産はできますか?
A. 多くの患者さんが妊娠・出産をしています。ただし、薬によっては妊娠前に中止や変更が必要なものがあり、産後は再発しやすい時期になります。計画段階から主治医や産科医と相談しておくことが大切です。
Q. 子どもに遺伝しますか?
A. どちらも親から子へ直接受け継がれる遺伝病ではありません。家族がやや発症しやすくなる程度とされます。心配な場合は、主治医や遺伝カウンセリングで相談できます。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。