先天性核上性球麻痺
Congenital Supranuclear Palsy
先天性核上性球麻痺(Congenital Supranuclear Palsy)|先天性核上性球麻痺は、生まれつき脳から唇・舌・軟口蓋・咽頭へ向かう運動の指令経路(皮質延髄路)がうまく働かないために、飲み込み(嚥下)、話すこと(構音)、よだれのコントロールなどが障害される非進行性の神経疾患です。英語圏ではWorster-Drought症候群とも呼ばれ、脳性麻痺の一型として位置づけられています。乳児期の哺乳障害で気づかれることが多く、成長とともに言葉の不明瞭さや学習・行動面の課題が目立つことがあり、医療・療育・教育が連携した長期的な支援が必要です。
先天性核上性球麻痺の要点
先天性核上性球麻痺は、大脳皮質から脳幹へ向かう両側の皮質延髄路が生まれつき障害され、嚥下・構音障害やよだれ、哺乳困難が生じる非進行性の神経疾患です。Worster-Drought症候群とも呼ばれ、脳性麻痺の一型で、日本では指定難病(告示番号132)です。
| 別名・略称 | Worster-Drought症候群、ウォースター・ドラウト症候群、WDS、Congenital Suprabulbar Paresis、先天性仮性球麻痺 |
|---|---|
| 分野 | 小児神経・てんかん |
| 病態 | 大脳皮質から脳幹へ至る両側性の皮質延髄路の先天的障害(偽性球麻痺) |
| 好発年齢 | 乳児期の哺乳障害で気づかれることが多い |
| 主な症状 | 嚥下障害、構音障害、よだれ、随意的な口・舌の動きの困難 |
| 主な検査 | 神経学的診察、頭部MRI、嚥下機能評価 |
| 主な治療 | 対症的支援(嚥下・言語リハビリ、栄養管理、必要に応じ経管栄養など) |
| 受診する主な診療科 | 小児神経科、小児科、リハビリテーション科 |
先天性核上性球麻痺とは
先天性核上性球麻痺(Congenital Supranuclear Palsy/Congenital Suprabulbar Paresis)は、口腔・咽頭・喉頭の筋を動かす脳幹の運動神経核(三叉神経・顔面神経・舌咽神経・迷走神経・舌下神経の各運動核)そのものではなく、それより上位(核上性)の大脳皮質運動野から脳幹へ至る両側性の経路が先天的に障害されることで生じる偽性球麻痺です。障害の主座は脳幹の神経核ではなく上位運動ニューロンにあるため、舌の萎縮や線維束性収縮は通常みられません。下顎反射の亢進など上位運動ニューロン徴候を伴い、意図的な口の動き(舌を出す、左右に動かすなど)は困難でも、あくびや笑い、反射的な嚥下は比較的保たれる「随意運動と自動運動の解離」が特徴的です。症状は胎生期または周産期に成立した障害によるもので、原則として進行しません。なお、本症は神経・発達領域の疾患であり、血小板減少や紫斑、脾臓摘出などとは関係しません(既存の一部の解説で特発性血小板減少性紫斑病と混同された記載がみられますが誤りです)。
本症は1956年に英国の神経科医Worster-Droughtが「先天性核上性球麻痺」としてまとまった症例群を報告したことから、Worster-Drought症候群(WDS)とも呼ばれます。現在では脳性麻痺の一亜型(両側性の皮質延髄路障害が前景に立つ型)と考えられています。四肢には軽度の痙性や腱反射亢進を伴うことがある一方、口腔・咽頭の運動障害に比べ四肢の運動障害は軽いことが多い点が、典型的な痙直型脳性麻痺と異なります。一部の症例では頭部MRIで両側シルビウス裂周囲の多小脳回(先天性両側シルビウス裂周囲症候群)が認められ、両者は連続したスペクトラムをなすとする考え方もあります。日本では指定難病(告示番号132)に指定されており、診断基準と重症度分類に基づいて医療費助成の対象となります。
先天性核上性球麻痺の疫学・患者数
本症はまれな疾患であり、国内の正確な患者数は十分に把握されていません。指定難病としての受給者数も少数にとどまるとされますが、軽症例や「構音障害」「発達性の言語障害」として診断されないまま経過している例が少なくないと考えられており、実際の有病者はより多い可能性があります。英国の報告では、脳性麻痺児の一定割合を本症が占めるとする報告もあります。症状は生下時から存在しますが、診断がつく時期は乳児期の哺乳障害から学童期の構音障害まで幅があり、確定診断が幼児期以降になることも珍しくありません。性差については男児にやや多いとする報告がありますが、明確な結論は出ていません。大部分は孤発例ですが、家族内発症の報告もあります。
先天性核上性球麻痺の原因・病態生理
本症の原因は単一ではなく、胎生期の脳発生過程で両側の皮質延髄路やその起始部である弁蓋部(前頭・頭頂弁蓋、シルビウス裂周囲皮質)が障害されることが共通の病態と考えられています。原因としては、大脳皮質形成異常(特にシルビウス裂周囲の多小脳回)、胎内感染(サイトメガロウイルス感染は多小脳回の原因の一つとして知られています)、胎生期の血流障害などが推定されています。ただし多くの症例では頭部MRIで明らかな構造異常を認めず、原因不明にとどまります。遺伝的要因については、家族例において常染色体顕性(優性)、常染色体潜性(劣性)、X連鎖性など多様な遺伝形式が報告されており、単一の原因遺伝子は確立していません。シルビウス裂周囲多小脳回は22q11.2欠失症候群など一部の染色体異常に伴うことも知られており、症例によっては遺伝学的評価の対象となります。
口唇・舌・軟口蓋・咽頭・喉頭の筋は、両側の大脳皮質から二重の支配(両側性支配)を受けています。そのため一側のみの障害では症状が目立ちにくく、両側の皮質延髄路または両側の弁蓋部皮質が障害されて初めて明らかな偽性球麻痺が生じます。障害されるのは上位運動ニューロンであるため、脳幹の運動核と末梢神経・筋は保たれ、筋萎縮は生じず、反射弓は残存して下顎反射や咽頭反射はむしろ亢進することがあります。一方で、あくび・笑い・泣きなど情動に伴う運動や、脳幹レベルで自動的に制御される反射性嚥下は、随意運動の経路とは別の経路で調節されるため比較的保たれます(自動運動・随意運動の解離)。随意的な口腔運動の協調性の低下により、哺乳・咀嚼・食塊形成・咽頭への送り込みが障害され、嚥下のタイミングのずれから誤嚥が生じます。また口唇閉鎖や嚥下の頻度が不十分なため唾液が口腔内に貯留し、流涎(よだれ)となります。軟口蓋の挙上不全は鼻咽腔閉鎖不全をきたし、開鼻声や鼻への逆流の原因となります。病変が弁蓋部やその周囲に及ぶ場合、てんかんや言語・認知機能の障害を合併しやすくなります。
先天性核上性球麻痺の症状
- 哺乳障害・摂食障害: 新生児期から吸啜が弱い、哺乳に時間がかかる、むせやすいなどの症状がみられ、離乳食の段階で咀嚼や食塊形成の困難が明らかになることが多いです。体重増加不良の原因となることがあります。
- 嚥下障害(口腔期・咽頭期): 食物を口の奥へ送り込む動きや嚥下反射のタイミングが障害され、むせ・咳込み・誤嚥が生じます。むせのない不顕性誤嚥がみられることもあります。
- 流涎(よだれ): 口唇閉鎖や自発的な嚥下が不十分なために唾液が口から流れ出し、年齢が上がっても持続することがあります。皮膚炎や衣服の汚れ、社会生活上の負担につながります。
- 構音障害: 舌・口唇・軟口蓋の運動障害により、発話が不明瞭で聞き取りにくくなります。軽症例では学童期まで構音障害のみが主訴となることもあります。
- 開鼻声・鼻咽腔閉鎖不全: 軟口蓋の挙上が不十分なため声が鼻に抜け、飲食物が鼻へ逆流することがあります。
- 舌の随意運動障害: 舌を前に突き出す、左右に動かす、口唇をなめるといった意図的な動きが困難ですが、萎縮や線維束性収縮は通常みられません。
- 随意運動と自動運動の解離: 命令に応じて口を動かすことは苦手でも、笑う・あくびをするなどの自然な動きは比較的保たれます。診断の手がかりとなる重要な所見です。
- 下顎反射亢進などの上位運動ニューロン徴候: 下顎反射や口とがらし反射の亢進がみられ、偽性球麻痺であることを示唆します。四肢の腱反射亢進や軽度の痙性を伴うこともあります。
- 四肢の軽度運動障害: 一部の例で歩行開始の遅れ、軽度の痙性、不器用さなどがみられますが、口腔・咽頭の症状に比べて軽いことが一般的です。
- てんかん: 一定の割合でてんかん発作を合併し、特にシルビウス裂周囲多小脳回を伴う例で頻度が高いとされます。
- 知的障害・学習障害: 知的発達は正常から中等度の障害まで幅があり、読み書きなどの学習の困難を伴うことがあります。
- 行動・情緒面の問題: 注意欠如・多動、自閉スペクトラム症様の特性、情緒の不安定さなどを伴う例が報告されており、コミュニケーションの困難が二次的に影響することもあります。
先天性核上性球麻痺の経過と合併症
本症は脳の障害が胎生期・周産期に成立した非進行性の病態であり、神経変性疾患のように症状が年々悪化することは基本的にありません。乳児期には哺乳障害や体重増加不良、反復する誤嚥・気道感染が問題となり、経管栄養を要する例もあります。幼児期には言葉の遅れや不明瞭な発話、流涎が目立ち、構音訓練や摂食指導が中心となります。多くの例では成長に伴う口腔機能の発達とリハビリテーションにより摂食機能が改善し、経口摂取が可能になる例も少なくありません。一方で構音障害や流涎は学童期以降も残存しやすく、学業や対人関係に影響することがあります。成人期の長期経過に関する系統的なデータは限られていますが、加齢や体力低下、併存症により嚥下機能が低下する可能性に留意が必要です。
最も重要な合併症は誤嚥性肺炎であり、乳幼児期を中心に反復すると成長や生活の質に大きく影響します。そのほか、低栄養・成長障害、脱水、胃食道逆流症、流涎による口周囲の皮膚炎、う蝕・歯周病・不正咬合などの口腔の問題、滲出性中耳炎(鼻咽腔閉鎖不全や耳管機能との関連が考えられる)、てんかん発作とその外傷、学習障害や行動上の問題、コミュニケーション困難に伴う心理的ストレスなどがみられます。四肢の痙性がある例では、関節拘縮や側弯に注意が必要です。
先天性核上性球麻痺の診断・診断基準
診断は主に臨床症状と神経学的診察に基づきます。生来性(乳児期から)の口唇・舌・軟口蓋・咽頭の運動障害があり、下顎反射亢進などの上位運動ニューロン徴候、舌萎縮や線維束性収縮の欠如、随意運動と自動運動の解離といった偽性球麻痺の特徴を確認します。そのうえで、症状を説明しうる他の疾患(脳幹の神経核や末梢神経・筋の疾患、神経筋接合部疾患、他の脳性麻痺や進行性疾患、構造的な口蓋・咽頭の異常など)を除外することが重要です。頭部MRIでシルビウス裂周囲多小脳回などの所見が得られれば診断を支持しますが、MRIが正常でも本症は否定されません。指定難病の申請では、厚生労働省の定める診断基準に沿って臨床所見・画像所見・除外診断を記載し、重症度分類(日常生活機能や摂食・嚥下、呼吸などの評価)に基づいて判定されます。診断・申請の詳細は小児神経科医などの難病指定医にご相談ください。
- 神経学的診察: 舌・口唇・軟口蓋の随意運動障害、下顎反射や口とがらし反射の亢進、舌萎縮・線維束性収縮の欠如、自動運動の保持を確認します。四肢の痙性や腱反射亢進の有無も評価します。
- 頭部MRI: 両側シルビウス裂周囲の多小脳回や皮質形成異常、白質病変の有無を評価します。正常所見の例も多い一方、進行性疾患や他の脳形成異常の除外にも重要です。
- 嚥下造影検査(VF)・嚥下内視鏡検査(VE): 口腔期・咽頭期のどこに障害があるか、誤嚥や不顕性誤嚥の有無、安全な食形態や姿勢を評価し、栄養方法の選択に役立てます。
- 言語聴覚評価: 構音・発声・鼻咽腔閉鎖機能、言語理解と表出、口腔運動機能を言語聴覚士が評価し、訓練計画を立てます。
- 発達・知能検査: 新版K式発達検査やWISCなどの検査で発達・知的水準や認知特性を評価し、療育・教育支援に活用します。発話の困難が結果に影響しないよう配慮が必要です。
- 脳波検査: てんかんの合併が疑われる場合に行い、発作型の把握や治療方針の決定に用います。
- 聴力検査: 言葉の遅れの原因として難聴を除外し、合併しうる滲出性中耳炎などを評価します。
- 遺伝学的検査・染色体検査: 症候群性の特徴や家族歴がある場合、22q11.2欠失などの染色体微細欠失の評価(マイクロアレイ染色体検査など)を検討します。実施にあたっては遺伝カウンセリングを伴うことが望まれます。
- 除外のための検査: 必要に応じて筋電図・神経伝導検査、血清CK、反復刺激試験、先天性サイトメガロウイルス感染の評価などを行い、神経筋疾患や他の原因を除外します。
先天性核上性球麻痺と鑑別すべき疾患
- メビウス症候群: 顔面神経・外転神経など脳神経核レベル(下位運動ニューロン)の先天性麻痺で、顔面筋麻痺や眼球外転障害を伴い、下顎反射亢進などの上位運動ニューロン徴候はみられません。
- 先天性筋無力症候群・先天性ミオパチー・先天性筋ジストロフィー: 哺乳・嚥下障害を呈しますが、全身の筋緊張低下や筋力低下、易疲労性、筋電図・CK・遺伝学的検査の異常などで鑑別します。
- 脊髄性筋萎縮症: 球麻痺を伴うことがありますが、舌の線維束性収縮や萎縮、腱反射消失、全身の筋力低下を特徴とする下位運動ニューロン疾患です。
- 他の型の脳性麻痺(痙直型・アテトーゼ型など): 四肢・体幹の運動障害が前景に立ち、口腔・咽頭の障害が相対的に軽い点が異なりますが、境界は連続的なこともあります。
- 22q11.2欠失症候群: 鼻咽腔閉鎖不全による開鼻声や哺乳障害を呈しますが、心疾患、口蓋の構造異常、免疫・カルシウム代謝異常などの特徴と遺伝学的検査で区別します(多小脳回を合併し本症様の症状を示すこともあります)。
- キアリ奇形・脳幹病変・進行性神経疾患: 後天的・進行性の経過や脳幹症状を示す場合は、MRIでキアリ奇形、腫瘍、脱髄、代謝・変性疾患などを除外します。
先天性核上性球麻痺の治療
本症の原因そのものを治す治療は現時点では確立しておらず、治療の中心は症状に応じたリハビリテーション、栄養・呼吸管理、合併症への対応、療育・教育支援です。乳児期には安全な栄養確保と誤嚥性肺炎の予防が最優先となり、成長に伴って摂食・構音訓練、コミュニケーション支援、学習支援へと重点が移ります。小児神経科医、小児科医、リハビリテーション科医、言語聴覚士、作業療法士、理学療法士、歯科医師・歯科衛生士、管理栄養士、耳鼻咽喉科医、臨床心理士、保育・教育関係者などが連携する多職種チームによる支援が望まれます。個々の治療法の適否は症状や年齢によって異なるため、主治医・専門医と相談しながら選択してください。
- 摂食・嚥下リハビリテーション: 言語聴覚士や歯科などによる口腔運動訓練、間接訓練(嚥下に関わる筋の訓練)、食形態(とろみ調整など)・姿勢・介助方法の工夫を行います。嚥下造影などの評価結果に基づき安全な方法を段階的に進めます。
- 栄養管理(経管栄養・胃瘻): 経口摂取だけで十分な栄養が得られない場合や誤嚥が多い場合には、経鼻胃管による経管栄養や胃瘻造設を検討します。経口摂取の練習と併用し、成長に伴い経口へ移行できる例もあります。
- 言語・構音訓練とコミュニケーション支援: 構音訓練や発声訓練に加え、サイン・絵カード・文字盤・タブレット端末などの拡大・代替コミュニケーション(AAC)を活用し、言葉で伝えにくい子どもの表出手段を確保します。
- 流涎への対応: 口唇閉鎖や嚥下の訓練、姿勢調整を基本とし、必要に応じて抗コリン作用をもつ薬剤や唾液腺へのボツリヌス毒素注射などが検討されることがあります。国内では適応外使用となる場合があり、副作用も含めて専門医と十分に相談が必要です。
- 鼻咽腔閉鎖不全への対応: 開鼻声や鼻逆流が強い場合、言語訓練に加えて軟口蓋挙上装置(パラタルリフト)などの補綴的治療が検討されることがあります。
- てんかんの治療: てんかんを合併する場合は、発作型や脳波所見に応じて抗てんかん発作薬を選択します。嚥下障害がある場合は剤形(散剤・液剤など)にも配慮します。
- 誤嚥性肺炎の予防と治療: 口腔ケア、食後の姿勢保持、胃食道逆流症の治療、予防接種の励行などで予防し、発熱や呼吸状態の悪化時には早期に受診して抗菌薬治療などを行います。
- 運動機能へのリハビリテーション: 四肢の痙性や協調運動障害がある場合、理学療法・作業療法により粗大運動・巧緻動作の発達を支援し、拘縮予防や装具の検討を行います。
- 療育・教育・心理的支援: 児童発達支援や特別支援教育を活用し、知的・学習面や行動面の特性に応じた支援を行います。必要に応じて臨床心理士や児童精神科と連携します。
先天性核上性球麻痺の予後・長期フォロー
本症は非進行性であり、適切な栄養管理と誤嚥性肺炎の予防が行われれば、生命予後は一般に良好と考えられています。ただし乳幼児期に重度の嚥下障害がある場合、反復する誤嚥性肺炎や低栄養が生命や成長に影響しうるため、早期からの評価と管理が重要です。多くの例で摂食機能は成長とともに改善しますが、構音障害や流涎は残存しやすく、これらが就学・就労・対人関係などの社会生活に影響することがあります。知的障害やてんかん、行動面の問題の有無と程度は、長期的な生活の質を左右する重要な因子です。早期から適切なリハビリテーションとコミュニケーション支援を受けることで、自立した社会生活を送っている人も少なくありません。
長期的には、小児神経科などによる定期診察で発達、栄養状態、嚥下機能、てんかんの状況を確認し、成長段階に応じて支援内容を見直します。歯科での定期的な口腔管理、耳鼻咽喉科での聴力・中耳の評価、必要に応じた嚥下造影の再評価が有用です。思春期以降は学習・進路・就労、心理社会面の課題が中心となるため、学校や福祉機関との連携が重要です。小児期から成人期への移行期医療(トランジション)では、成人診療科への引き継ぎ、指定難病や障害福祉サービスなどの制度の継続手続きを計画的に進めることが勧められます。
先天性核上性球麻痺の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
食事は、主治医や言語聴覚士の評価に基づいた食形態(刻み・ペースト状・とろみ付けなど)、姿勢(頭頸部をやや前屈させる、体幹を安定させるなど)、一口量とペースを守ることが基本です。食事中や食後のむせ、湿った声、食後の咳や発熱は誤嚥のサインであることがあり、注意が必要です。食後はしばらく上体を起こした姿勢を保ち、毎日の丁寧な口腔ケアで口腔内を清潔に保つことが誤嚥性肺炎の予防につながります。流涎に対しては、こまめに拭き取り保湿剤で皮膚を保護するとともに、本人が自尊心を損なわないような配慮が大切です。話しにくさがあっても、周囲がゆっくり待つ、聞き返しを工夫する、AACを併用するなど、伝えたい気持ちを尊重する環境づくりが言語発達と心の発達を支えます。保育所・幼稚園・学校には、食事介助や窒息時の対応、てんかん発作時の対応を共有しておくと安心です。大部分は孤発例ですが、家族内発症例もあるため、次子の再発率や遺伝学的検査について不安がある場合は、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることができます。
利用できる制度・相談窓口
先天性核上性球麻痺は指定難病(告示番号132)であり、診断基準を満たし重症度分類で一定以上の重症度と判定された場合、または軽症でも医療費が高額となる場合(軽症高額該当)には、難病医療費助成制度により医療費の自己負担が軽減されます。申請には難病指定医による臨床調査個人票が必要で、窓口はお住まいの都道府県・指定都市(保健所など)です。小児期に利用できる医療費助成制度や自治体独自の子ども医療費助成については、自治体窓口で確認してください。障害の状態に応じて、身体障害者手帳(音声・言語・そしゃく機能障害、肢体不自由など)、療育手帳(知的障害がある場合)の取得が可能な場合があり、障害者総合支援法・児童福祉法に基づく障害福祉サービス(児童発達支援、放課後等デイサービス、補装具・日常生活用具の給付など)を利用できます。経済的支援として特別児童扶養手当や障害児福祉手当、20歳以降は障害の程度に応じて障害基礎年金の対象となることがあります。経管栄養などの医療的ケアが必要な場合は、医療的ケア児支援センターや訪問看護の利用も検討できます。相談窓口として、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、市区町村の障害福祉担当課、病院の医療ソーシャルワーカー、教育委員会の就学相談などがあります。
先天性核上性球麻痺に伴う心のケア・心理社会的支援
慢性の疾患や障害とともに生活することは、本人・家族の双方に心理的な負担をもたらします。家族、特に養育者は、乳児期の哺乳困難や頻回の通院・入院、経管栄養の管理、診断がつくまでの不安などから、抑うつ、不安、睡眠障害、育児疲れを生じやすくなります。本症に特有の課題として、知的能力に比べて「話すこと」の障害が目立つ場合、本人が言いたいことを理解されないもどかしさや、話し方・流涎を周囲にからかわれる経験から、自己肯定感の低下、緊張、不登校、社交不安などにつながることがあります。また外見上は分かりにくい障害であるため、周囲から誤解されやすい点も負担となります。思春期以降は、進学・就労・恋愛などのライフイベントの中で適応障害や抑うつが生じることもあります。つらさを一人で抱え込まず、主治医、臨床心理士、スクールカウンセラー、医療ソーシャルワーカー、難病相談支援センターなどに早めに相談すること、同じ疾患や障害をもつ家族の会・患者会などで経験を共有することが、心の負担を和らげる助けになります。きょうだいへの配慮や、養育者自身の休息(レスパイト)の確保も重要です。
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先天性核上性球麻痺の受診の目安
- 食事のたびに強くむせる、食後に湿った声やゼーゼーする呼吸が続く場合は、誤嚥の可能性があるため早めに主治医を受診してください。
- 発熱に咳・痰・呼吸が速い・苦しそうといった症状を伴う場合は、誤嚥性肺炎の可能性があるため速やかに受診してください。
- 食べ物を詰まらせて顔色が悪くなる、声が出ない、呼吸ができない場合は窒息の危険があり、直ちに救急要請(119番)してください。
- けいれん発作が5分以上続く、または意識が戻らないうちに発作を繰り返す場合は救急受診が必要です。
- 体重が増えない・減っている、尿量が少ない、ぐったりしているなど、栄養不良や脱水が疑われる場合は受診してください。
- 言葉の遅れや発話の不明瞭さ、よだれが年齢相応に改善しないと感じる場合は、小児科・小児神経科への相談をお勧めします。
先天性核上性球麻痺についてのよくある質問
Q. この病気は進行して悪くなっていくのですか?
A. 先天性核上性球麻痺は、胎生期などに生じた脳の障害による非進行性の疾患で、神経変性疾患のように年々悪化するものではありません。むしろ成長とリハビリテーションにより摂食機能などが改善することが多いです。ただし誤嚥性肺炎などの合併症には継続的な注意が必要です。
Q. 血小板が減る病気や紫斑が出る病気と関係がありますか?
A. 関係ありません。本症は嚥下や構音に関わる脳の運動経路の先天的な障害による神経の病気で、血液疾患ではありません。インターネット上には特発性血小板減少性紫斑病などと混同した誤った情報がみられることがあるため注意してください。
Q. 将来、口から食べたり話したりできるようになりますか?
A. 程度には個人差がありますが、乳児期に経管栄養が必要だった子どもでも、成長とともに経口摂取が可能になる例は少なくありません。話し言葉も訓練によって改善が期待でき、話しにくさが残る場合でもAAC(代替コミュニケーション手段)を活用することで意思疎通を広げられます。具体的な見通しは主治医や言語聴覚士にご相談ください。
Q. 次の子どもにも同じ病気が起こる可能性はありますか?
A. 大部分は家族内に同じ病気の人がいない孤発例ですが、家族内発症の報告もあり、原因によって再発の可能性は異なります。原因となる脳形成異常や染色体異常が分かっている場合は、より具体的な説明が可能なこともあります。臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングをご利用ください。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。