アイカルディ症候群

Aicardi Syndrome

アイカルディ症候群(Aicardi Syndrome)|アイカルディ症候群は、脳梁欠損、眼底の網脈絡膜裂孔(ラクナ)、乳児期早期に始まるてんかん性スパズム(点頭てんかん)を三主徴とする、まれな先天性の脳の形成異常症候群です。患者のほぼすべてが女児で、多くは生後数か月以内に発作で気づかれます。難治てんかん、知的障害、視覚障害、運動障害が生涯続くことが多いものの、その程度には大きな個人差があります。治療は発作のコントロールと、発達・栄養・呼吸などを支える多職種による包括的な支援が中心となります。

アイカルディ症候群の要点

アイカルディ症候群は、脳梁欠損、網脈絡膜裂孔、乳児期早期のてんかん性スパズムを三主徴とする、まれな先天性の脳形成異常症候群です。ほとんどが女児に発症し、難治てんかん、重い発達の遅れ、視覚障害などを伴い、日本では指定難病(告示番号135)に指定されています。

別名・略称Aicardi症候群、アイカルディー症候群、Aicardi's syndrome
分野小児神経・てんかん
遺伝形式原因遺伝子は未確定(ほとんどが孤発例)
好発年齢乳児期早期(多くは生後数か月以内に発作で気づかれる)
主な症状てんかん性スパズム、知的障害、視覚障害、運動障害
主な検査頭部MRI、眼底検査、脳波
主な治療抗てんかん薬などによる対症療法とリハビリテーション
受診する主な診療科小児神経科、眼科

この解説を、難病を知らない誰かに届けてください。

XでシェアLINEで送るFacebookはてブ

アイカルディ症候群とは

アイカルディ症候群(Aicardi syndrome)は、胎生期の脳と眼の発生異常によって起こる先天性の神経発達症候群です。中核となるのは、左右の大脳半球をつなぐ神経線維の束である脳梁が全部または一部できていない脳梁欠損(脳梁形成不全)、網膜と脈絡膜が境界明瞭な白〜黄白色の円形・楕円形に欠ける網脈絡膜裂孔(chorioretinal lacunae)、そして乳児期早期に始まるてんかん性スパズムの三つです。これに加えて、多小脳回などの大脳皮質形成異常、脳室周囲や皮質下の異所性灰白質、脳室周囲や大脳半球間の嚢胞、脈絡叢乳頭腫、視神経乳頭のコロボーマ(欠損)、小眼球、椎骨・肋骨の奇形など、多彩な所見を伴います。日本では指定難病(告示番号135)に指定されています。

本症は1965年にフランスの小児神経科医ジャン・アイカルディ(Jean Aicardi)が、脳梁欠損・網脈絡膜異常・点頭てんかんを併せ持つ女児例を報告したことに由来します。当初は三主徴すべてを満たすことが診断に必要とされましたが、画像診断の進歩で皮質形成異常や嚢胞などの特徴的所見が知られるようになり、2005年にSuttonらが改訂診断基準を提唱しました。これにより、三主徴がそろわなくても主要所見・支持所見の組み合わせで診断できるようになっています。明確な病型分類は確立していませんが、発作の重症度、皮質形成異常の範囲、眼所見の程度により重症度と発達予後には大きな幅があり、近年は歩行や簡単な言語表出が可能な比較的軽症例も報告されています。

アイカルディ症候群の疫学・患者数

非常にまれな疾患で、米国の推計では出生10万〜17万人に1人程度とする報告がありますが、日本の正確な患者数は明らかでなく、全国でも数百人規模以下と考えられています。ほぼすべての患者が女性で、男性例はX染色体を2本持つクラインフェルター症候群(47,XXY)の男児などごく少数の報告に限られます。ほとんどが家族内に同じ病気の人がいない孤発例で、両親の年齢や人種、地域による明らかな偏りは知られていません。症状は生後早期から現れ、多くは生後3か月以内(多くは生後数週〜数か月)にてんかん性スパズムを契機に診断されます。最近は胎児超音波やMRIで脳梁欠損や嚢胞が出生前に指摘され、出生後に眼底検査で確定される例もあります。

アイカルディ症候群の原因・病態生理

原因遺伝子はまだ特定されていません。女性にほぼ限られること、47,XXYの男性例があること、ほとんどが新生(de novo)の発症であることから、X染色体上の遺伝子の新生変異によるX連鎖顕性(優性)遺伝で、変異を持つ男性(X染色体が1本)は胎生致死となるという仮説が広く支持されています。女性では2本のX染色体のどちらか一方がランダムに不活化されるため、正常なX染色体が働く細胞と変異を持つ細胞がモザイク状に混在し、これが症状の左右差や個人差の一因と考えられています。ただし、X染色体不活化の偏りや候補遺伝子の解析でも一貫した原因は見つかっておらず、常染色体上の遺伝子異常や複数の要因が関わる可能性も議論されています。現時点では一般的な染色体検査や遺伝子検査で本症を確定診断することはできません。

発症機序としては、胎生期(主に妊娠初期〜中期)の脳と眼の発生過程の異常が想定されています。大脳では、神経細胞が脳室周囲の発生母地で生まれ、表面の皮質へ移動して層構造を作りますが、本症ではこの神経細胞の移動と皮質形成の障害により、多小脳回(皮質の小さなひだが過剰で異常な構造)や異所性灰白質(本来の位置に到達できなかった神経細胞の集まり)が生じます。同じ時期に正中構造の形成も障害され、脳梁欠損、大脳半球間嚢胞、脳室拡大などが起こります。網膜でも色素上皮と脈絡膜の発生異常によって網脈絡膜裂孔や視神経乳頭コロボーマが生じ、脊椎・肋骨の分節異常も伴いやすいことから、胎生早期に複数の器官形成に関わる共通の制御機構の異常が背景にあると考えられています。てんかんは主にこの広範な皮質形成異常に由来し、脳梁欠損のため左右半球の脳波が同期しない「スプリットブレイン」と呼ばれる特徴的な脳波所見を示します。

アイカルディ症候群の症状

  • てんかん性スパズム(点頭てんかん): 生後数か月以内に、頭部を前屈し手足を一瞬こわばらせる発作が数秒〜数十秒ごとに繰り返す「シリーズ形成」をみることが多い症状です。左右非対称の発作や、片側だけのスパズムを示すことも本症の特徴です。
  • 焦点発作・その他の難治てんかん: スパズム以外に、片側の手足のけいれんや眼球偏位などの焦点発作、強直発作などが併存または移行し、多くは薬剤抵抗性で生涯にわたり持続します。新生児期から発作が始まる例もあります。
  • 知的障害・発達の遅れ: 大多数で重度〜最重度の知的障害と運動発達の遅れを認めますが、程度には幅があり、歩行や簡単な言葉・コミュニケーションが可能な人もいます。
  • 網脈絡膜裂孔(ラクナ): 視神経乳頭周囲に多発する境界明瞭な白〜黄白色の円形病変で、本症に非常に特徴的な所見です。大きさや位置(黄斑部の障害など)によって視力への影響が異なります。
  • 視神経乳頭コロボーマ・小眼球などの眼異常: 視神経乳頭の欠損や低形成、小眼球、白内障、眼振、斜視などを伴うことがあり、皮質性視覚障害と合わさって重い視覚障害の原因となります。
  • 筋緊張低下・痙性麻痺: 乳児期には体幹の筋緊張低下(体が柔らかい)が目立ち、成長とともに手足のつっぱり(痙性)や片麻痺を示すことがあります。
  • 椎骨・肋骨の奇形と側弯症: 半椎、蝶形椎、癒合椎、肋骨の欠損・癒合などの肋椎奇形を伴いやすく、筋緊張の異常と相まって進行性の側弯症をきたすことがあります。
  • 小頭症・頭部や顔の非対称: 脳の形成異常を反映して頭囲が小さい、頭蓋や顔が左右非対称になることがあります。上唇中央の突出、上向きの鼻先、外側がまばらな眉毛などの顔貌、小さな手が報告されています。
  • 摂食・嚥下障害と消化器症状: 哺乳や咀嚼・嚥下が苦手で、胃食道逆流、便秘、体重増加不良がよくみられ、誤嚥性肺炎の原因にもなります。
  • 呼吸器感染症・誤嚥: 嚥下障害、筋緊張低下、側弯による胸郭変形などから、肺炎や気管支炎を繰り返しやすく、重症例では生命予後に影響します。
  • 睡眠障害・行動の問題: 睡眠覚醒リズムの乱れ、夜間覚醒がみられることがあり、比較的軽症例では自閉的傾向や多動など行動面の特徴を伴うこともあります。
  • 皮膚・血管の異常や腫瘍: 色素沈着異常や血管腫などの血管異常を伴うことがあり、脈絡叢乳頭腫のほか、まれに他の腫瘍の合併も報告されています。

アイカルディ症候群の経過と合併症

多くは出生時に大きな異常に気づかれず、生後数週〜数か月でてんかん性スパズムが出現して受診し、脳MRIと眼底検査で診断されます。乳児期は発作の頻度が高く、発作のたびに発達が停滞または後退しやすい時期で、てんかん性脳症の病態を示します。年齢とともにスパズムは焦点発作や強直発作など別の発作型に移行し、レノックス・ガストー症候群様の経過をとることもありますが、発作が完全に消失する例は少数です。脳の形成異常そのものは進行性ではないため、発作がある程度コントロールされれば、ゆっくりとではあっても発達を積み重ねていくことができます。一方で、思春期以降は側弯症の進行、栄養・呼吸の問題が前面に出やすくなります。

合併症として重要なのは、てんかん重積状態、誤嚥性肺炎や繰り返す呼吸器感染症、胃食道逆流症、慢性便秘、栄養障害と骨粗鬆症(骨折しやすさ)、進行性側弯症による呼吸機能低下などです。脈絡叢乳頭腫は脳脊髄液の過剰産生や通過障害を介して水頭症の原因となることがあり、嚢胞の増大も含め頭囲拡大や嘔吐、活気低下などに注意が必要です。視覚障害は眼所見と皮質性視覚障害が重なり合って起こります。また、抗てんかん発作薬の副作用(眠気、肝機能障害、ビガバトリンによる視野障害など)にも配慮が必要です。

アイカルディ症候群の診断・診断基準

乳児期のてんかん性スパズムをきっかけに、脳波で非対称なヒプスアリスミアや左右非同期の脳波を認め、脳MRIで脳梁欠損や皮質形成異常・嚢胞が見つかり、眼科医による散瞳下眼底検査で網脈絡膜裂孔を確認することで診断に至るのが典型的な流れです。原因遺伝子が未同定のため、遺伝子検査で確定することはできず、臨床所見と画像・眼底所見の組み合わせによって診断します。日本の指定難病の診断基準も、三主徴と付随所見を組み合わせた臨床診断の考え方に基づいています。同時に、先天感染症、染色体異常、他の遺伝性症候群など、似た所見を呈する疾患を除外することが重要です。診断後は、眼・脊椎・消化器・発達など全身の評価を行い、多職種による長期管理の計画を立てます。

  • 改訂診断基準(Suttonら, 2005): 三主徴(脳梁欠損、網脈絡膜裂孔、てんかん性スパズム)がすべてそろうもの、または三主徴のうち2つに加えて主要所見・支持所見のうち2つ以上を満たすものを本症とする考え方です。主要所見には皮質形成異常(主に多小脳回)、脳室周囲・皮質下異所性灰白質、第三脳室周囲や脈絡叢の嚢胞、脈絡叢乳頭腫、視神経乳頭・視神経コロボーマが含まれます。
  • 脳MRI: 脳梁の完全・部分欠損、多小脳回、異所性灰白質、大脳半球間嚢胞、脳室拡大、脈絡叢乳頭腫、大脳半球の左右非対称などを評価する最も重要な検査です。初回だけでなく、水頭症や腫瘍の評価のため経過観察にも用います。
  • 散瞳下眼底検査(眼科): 視神経乳頭周囲に多発する境界明瞭な網脈絡膜裂孔は本症の診断に極めて重要で、視神経乳頭コロボーマや小眼球の有無も確認します。乳児では眼科専門医による丁寧な観察が必要で、必要に応じて眼底写真で記録します。
  • 脳波検査(ビデオ脳波): 左右非対称なヒプスアリスミアや、脳梁欠損を反映して両半球の脳波活動が同期しない「スプリットブレイン」所見、サプレッション・バーストが特徴的です。発作型の確認と治療効果の判定にも用います。
  • 脊椎・胸部X線検査: 半椎、蝶形椎、肋骨の欠損・癒合などの肋椎奇形を確認し、側弯症の有無と進行を評価します。肋椎奇形は改訂診断基準の支持所見の一つです。
  • 先天感染症・代謝・染色体の検査: TORCH症候群などの先天感染症、先天代謝異常、染色体異常(染色体マイクロアレイなど)を必要に応じて評価し、鑑別疾患を除外します。男児例では染色体検査で47,XXYなどの性染色体構成を確認します。
  • 胎児超音波・胎児MRI: 出生前に脳梁欠損や大脳半球間嚢胞が指摘されることがありますが、網脈絡膜裂孔は胎児期に確認できないため、出生前に本症を確定することは通常困難です。
  • 全身・発達評価: 発達検査、視機能評価、嚥下・栄養評価(嚥下造影など)、消化器症状の評価を行い、療育や栄養管理の計画に役立てます。

アイカルディ症候群と鑑別すべき疾患

  • 他の原因による脳梁欠損症: 脳梁欠損は単独や多くの症候群で生じますが、網脈絡膜裂孔を伴わない点、男児にも同様にみられる点などで区別します。
  • 先天感染症(先天性トキソプラズマ症、サイトメガロウイルス感染症など): 網脈絡膜瘢痕や脳の異常、てんかんを呈しますが、頭蓋内石灰化、血清・尿・臍帯などの感染検査陽性により鑑別します。
  • 他の原因によるウエスト症候群・早期乳児てんかん性脳症(大田原症候群など): 同様の発作や脳波所見を示しますが、本症に特徴的な網脈絡膜裂孔、脳梁欠損と嚢胞・多小脳回の組み合わせがない点で区別します。
  • 結節性硬化症: 乳児期のてんかん性スパズムと眼底病変(網膜過誤腫)を伴いますが、皮膚の白斑、皮質結節や上衣下結節など特徴的な所見と遺伝子検査で鑑別します。
  • 中隔視神経形成異常症(ドモルシア症候群): 視神経低形成と正中構造の異常を伴いますが、透明中隔欠損や下垂体機能低下が中心で、網脈絡膜裂孔は認めません。
  • 線状皮膚欠損を伴う小眼球症(MLS症候群)・眼脳皮膚症候群: 小眼球や脳梁異常を伴うことがありますが、特徴的な顔面の線状皮膚欠損や皮膚付属器の異常で区別します。

アイカルディ症候群の治療

原因に対する根本的な治療はまだなく、治療の柱はてんかん発作のコントロールと、発達・視覚・運動・栄養・呼吸などを支える多職種による包括的な支援です。乳児期のてんかん性スパズムに対しては、発達への影響を少しでも減らすため、診断後できるだけ早く有効性の確立した治療を始めることが重視されます。ただし本症の発作は薬剤抵抗性であることが多く、完全な発作消失を目標にしすぎると副作用で眠気が強くなり、覚醒している時間や生活の質が損なわれることがあります。そのため、発作の頻度・重症度と副作用、本人の生活の質のバランスを、主治医(小児神経専門医・てんかん専門医)と家族で相談しながら治療方針を決めていくことが大切です。

  • ACTH療法・ビガバトリン(てんかん性スパズムに対して): てんかん性スパズムに対する代表的な初期治療で、ACTH療法は高血圧・感染症・脳萎縮様変化などの副作用に、ビガバトリンは不可逆的な視野障害の可能性に注意しながら専門施設で行います。もともと視覚障害がある本症では、眼科と連携した評価が特に重要です。
  • 抗てんかん発作薬: スパズム以外の焦点発作や強直発作に対し、発作型に応じてバルプロ酸、ゾニサミド、トピラマート、レベチラセタム、ラモトリギン、クロバザムなどが用いられます。多剤併用となることが多く、眠気・食欲低下・肝機能などの副作用を定期的に確認します。
  • ケトン食療法: 高脂肪・低炭水化物の食事でケトン体を産生させる治療で、薬剤抵抗性てんかんに有効な例があります。栄養士と医師の管理下で行い、経管栄養でも実施可能です。
  • 迷走神経刺激療法(VNS)・てんかん外科: 薬剤抵抗性てんかんに対し、発作頻度の軽減を目的に迷走神経刺激療法が検討されることがあります。病変が一側に偏る例では切除術や半球離断術が検討された報告もありますが、適応は専門施設で慎重に判断されます。
  • リハビリテーション・療育: 理学療法・作業療法・言語聴覚療法により姿勢保持、運動機能、摂食、コミュニケーションを支援し、視覚障害に配慮した感覚刺激や環境調整を行います。早期から児童発達支援などの療育につなげることが重要です。
  • 栄養・摂食嚥下と消化器症状の管理: 食形態の工夫、胃食道逆流症の治療、便秘の管理を行い、体重増加不良や誤嚥を繰り返す場合には経管栄養や胃瘻造設(必要に応じて噴門形成術)を検討します。
  • 整形外科的管理(側弯症・拘縮): 側弯症の進行を定期的なX線で評価し、座位保持装置や装具を用い、重度で呼吸や座位に影響する場合は脊椎固定術が検討されます。股関節脱臼や関節拘縮への対応も行います。
  • 眼科・脳神経外科的管理: 視機能の評価、斜視・屈折異常への対応、ロービジョンケアを行います。脈絡叢乳頭腫や嚢胞による水頭症がある場合は、脳神経外科で摘出術やシャント術などが検討されます。
  • 呼吸管理・感染予防: 排痰ケア、体位の工夫、予防接種、誤嚥予防を行い、重症例では吸引、在宅酸素、非侵襲的換気などの医療的ケアが必要になることがあります。

アイカルディ症候群の予後・長期フォロー

予後は個人差が非常に大きい疾患です。多くの患者では重度の知的障害と難治てんかんが持続し、日常生活の大部分で介助を必要としますが、一部には歩行や簡単な会話が可能で、学校生活を送る比較的軽症の人もいます。生命予後については、海外の報告で15歳前後の生存率が6割前後、死亡時の年齢の中央値が10代後半とされるなど、乳児期から思春期にかけての死亡が少なくないことが示されていますが、成人期まで生存する人も多く、近年は医療的ケアの進歩により長期生存例が増えていると考えられます。主な死因は呼吸器感染症(誤嚥性肺炎など)や、てんかん重積状態、全身状態の悪化などです。発作の重症度、皮質形成異常の範囲、運動機能、嚥下機能が予後と関連するとされています。

長期フォローアップでは、小児神経科を中心に、眼科、整形外科、消化器科、脳神経外科、リハビリテーション科、栄養士、訪問看護、療育機関、学校などが連携します。発作の状況と抗てんかん発作薬の副作用、成長と栄養状態、側弯症の進行、嚥下機能と呼吸状態、視機能、骨密度などを定期的に評価し、必要に応じて脳MRIで嚢胞や脈絡叢乳頭腫の変化を確認します。思春期以降は月経や体の変化への対応、そして成人診療科への移行期医療を計画的に進めることが、切れ目のない支援のために重要です。

アイカルディ症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活では、発作時の対応を家族や保育・学校関係者と共有しておくことが大切です。発作の様子(時間、型、回数)を記録し、動画を撮影して受診時に見せると、治療方針の検討に役立ちます。主治医から発作時の頓用薬(坐薬や口腔用製剤など)が処方されている場合は、使い方と救急受診の基準を事前に確認しておきましょう。入浴中の溺水、転倒による外傷を防ぐ環境調整、誤嚥を減らす姿勢と食形態の工夫、こまめな水分補給と排便管理、口腔ケアも重要です。視覚障害がある場合は、声かけや触覚・聴覚を活用した関わりがコミュニケーションの助けになります。感染症は発作の悪化や肺炎の契機となるため、予防接種は主治医と相談のうえ計画的に受けてください。遺伝については、ほぼすべてが新生発症の孤発例と考えられており、同胞(きょうだい)の再発はきわめてまれとされています。ただし原因遺伝子が不明で正確なリスク評価が難しい面もあるため、次子を考える際や不安がある場合には、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを利用することをお勧めします。

利用できる制度・相談窓口

アイカルディ症候群は指定難病であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、難病指定医の診断書をもとに都道府県・指定都市に申請すると医療費助成を受けられます。18歳未満(継続の場合は20歳未満まで)では小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象となり、自己負担上限額の軽減や日常生活用具の給付などが利用できます。障害の程度に応じて、身体障害者手帳(肢体不自由・視覚障害など)、療育手帳の取得が可能で、補装具(座位保持装置、車椅子など)の支給、児童発達支援・放課後等デイサービス、短期入所などの障害福祉サービスを利用できます。経済的支援として、特別児童扶養手当、障害児福祉手当、成人後の特別障害者手当、20歳前に初診日のある障害基礎年金などがあります。医療的ケアが必要な場合は、訪問看護や医療的ケア児支援センターも活用できます。相談窓口としては、主治医や病院の医療ソーシャルワーカー、市区町村の障害福祉窓口、保健所・保健センター、各都道府県の難病相談支援センター、小児慢性特定疾病児童等自立支援事業の窓口などがあります。

アイカルディ症候群に伴う心のケア・心理社会的支援

重い障害を伴う難病の診断を乳児期に告げられることは、家族にとって大きな衝撃です。診断直後のショックや悲嘆、「妊娠中の何かが原因ではないか」という自責の念、将来への不安を抱くのは自然な反応ですが、本症は親の行動や妊娠中の過ごし方が原因で起こるものではないと考えられています。頻回の発作、夜間の介護や睡眠不足、医療的ケアの負担が長期間続くと、保護者に抑うつ、不安、適応障害、燃え尽きが生じやすくなり、きょうだい児が寂しさや我慢を抱えることもあります。本症は患者数が非常に少なく、同じ病気の家族と出会いにくいことから、孤立感が強まりやすいことも特有の課題です。つらさを一人で抱え込まず、主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー、心理士、保健師などに早めに相談し、短期入所や訪問看護などのレスパイト(介護者の休息)を積極的に利用することが大切です。気分の落ち込みや眠れない状態が続く場合は、家族自身が心療内科や精神科を受診することも、ためらわずに検討してください。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

アイカルディ症候群の受診の目安

  • 乳児が頭を前に倒す、手足を一瞬こわばらせる動きを繰り返す(特に寝起きに連続する)場合は、てんかん性スパズムの可能性があるため早めに小児科を受診してください。
  • けいれんが5分以上続く、または意識が戻らないまま発作を繰り返す場合は、てんかん重積状態の恐れがあるため救急車を呼んでください。
  • 発作の回数が普段より明らかに増えた、新しい型の発作が出てきた場合は、主治医に連絡・受診してください。
  • 発熱、咳、呼吸が速く苦しそう、顔色や唇の色が悪いなど、肺炎や呼吸状態の悪化が疑われる場合は速やかに受診してください。
  • 頭囲が急に大きくなる、繰り返す嘔吐、ぐったりして活気がないなどは水頭症の可能性があるため、すぐに受診してください。
  • 哺乳量・食事量の著しい低下、体重減少、脱水が疑われる場合も早めに相談してください。

アイカルディ症候群についてのよくある質問

Q. アイカルディ症候群は親から遺伝するのですか?

A. ほとんどは家族歴のない孤発例で、受精前後に新たに生じた遺伝子の変化(新生変異)が原因と考えられています。同胞での再発はきわめてまれとされていますが、原因遺伝子は未同定のため、不安がある場合は遺伝カウンセリングで個別に相談してください。

Q. 男の子もこの病気になりますか?

A. 患者のほぼすべてが女の子で、男の子の報告はX染色体を2本持つクラインフェルター症候群(47,XXY)の例などごく少数です。X染色体上の原因遺伝子の変化を持つ男の子は胎児期に生存できないため、と考えられています。

Q. 発作は治りますか?

A. 多くの場合、発作は薬が効きにくく完全に止めることは難しいですが、薬物療法、ケトン食療法、迷走神経刺激療法などで発作を減らせることがあります。発作の抑制と副作用、生活の質のバランスを主治医とよく相談することが大切です。

Q. 成長するとどのくらいのことができるようになりますか?

A. 重症度には大きな個人差があり、多くは日常生活に介助が必要ですが、ゆっくりでも発達を積み重ね、なかには歩行や簡単な会話ができる人もいます。早期からのリハビリテーションや療育、視覚に配慮した関わりが、その子の力を伸ばす助けになります。

この記事をシェア

この解説を、難病を知らない誰かに届けてください。

XでシェアLINEで送るFacebookはてブ

関連記事(関連する指定難病)

同じ分野(小児神経・てんかん)の指定難病

小児神経・てんかんの指定難病を一覧で見る / 指定難病リスト(全341疾患)

この記事について

最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。