神経細胞移動異常症
Neuronal Migration Disorders
神経細胞移動異常症(Neuronal Migration Disorders)|神経細胞移動異常症は、胎児期に脳の神経細胞が本来の位置(大脳皮質)まで移動できないために、脳の形に異常が生じる先天性の脳形成障害の総称です。多くは乳幼児期に、てんかん発作、発達の遅れ、筋緊張の異常などで気づかれます。重症度は病型によって大きく異なります。重い運動・知的障害と難治てんかんを伴う方から、成人になって初めててんかんで診断される方までいます。
神経細胞移動異常症の要点
神経細胞移動異常症は、胎児期に脳の神経細胞が大脳皮質へ正しく移動できず、滑脳症や異所性灰白質、多小脳回などの脳形成異常を生じる先天性疾患の総称です。てんかん発作や発達の遅れ、筋緊張の異常などがみられ、重症度は病型で異なり、日本では指定難病(告示番号138)です。
| 別名・略称 | 神経細胞遊走異常症、神経細胞遊走障害、神経細胞移動障害、大脳皮質形成異常、Neuronal migration disorder |
|---|---|
| 分野 | 小児神経・てんかん |
| 遺伝形式 | 病型により異なる(遺伝子変異によるものと、そうでないものがある) |
| 好発年齢 | 乳幼児期に気づかれることが多い(成人で診断される例もある) |
| 主な症状 | てんかん発作、発達の遅れ、筋緊張の異常 |
| 主な検査 | 頭部MRI、脳波、遺伝学的検査 |
| 主な治療 | 抗てんかん薬やリハビリテーションなどの対症療法(根本的に治す治療法は確立していない) |
| 受診する主な診療科 | 小児神経科、神経内科、脳神経外科 |
神経細胞移動異常症とは
ヒトの大脳皮質は、胎生期に脳室周囲の胚芽層で生まれた神経細胞が、放射状グリア線維を足場として脳表面に向かって移動し、規則正しい6層構造をつくることで形成されます。この移動はおおむね胎生8週頃から20数週頃にかけて活発に行われます。神経細胞移動異常症(Neuronal Migration Disorders)は、この神経細胞の産生後の移動や、移動の停止、皮質内での配置(層形成・脳回形成)の過程が障害されて起こる大脳皮質形成異常の一群です。結果として、脳の表面のしわ(脳回)が少ない・ない、本来皮質にあるべき灰白質が白質内や脳室壁に取り残される、小さな脳回が過剰にできる、といった特徴的な形態異常が生じます。日本では指定難病(告示番号138)に指定されています。
代表的な病型として、①滑脳症(脳回がほとんどない無脳回と、幅広く粗大な脳回を示す厚脳回を含むスペクトラム。古典型のほか、小脳低形成を伴う型、外性器異常を伴うX連鎖性滑脳症などがある)、②皮質下帯状異所性灰白質(白質内に帯状の灰白質があり「二重皮質」とも呼ばれる。滑脳症と同じスペクトラムに属する)、③脳室周囲結節状異所性灰白質(側脳室の壁に沿って灰白質の結節が並ぶ)、④多小脳回(細かく過剰な脳回で、シルビウス裂周囲型・前頭頭頂型などの分布がある)、⑤裂脳症(大脳半球を貫く裂隙が脳表から脳室まで達し、裂の縁が多小脳回様の灰白質で覆われる)、⑥敷石様(コブルストーン)皮質形成異常(神経細胞が脳表を越えて過剰に移動するもので、福山型先天性筋ジストロフィーなどの筋疾患・眼異常に伴う)などがあります。近年は、皮質形成異常を「神経細胞・グリアの増殖異常」「移動異常」「移動後の皮質構築異常」に分けるBarkovichらの分類が広く用いられ、遺伝学的解析の進歩に伴って改訂が重ねられています。なお、限局性皮質異形成や片側巨脳症は主に増殖・分化の異常として、それぞれ別の指定難病として扱われています。
神経細胞移動異常症の疫学・患者数
神経細胞移動異常症は全体としてまれな疾患です。古典型滑脳症の頻度は海外の報告で出生10万人あたり1人前後と推定されていますが、軽症例や異所性灰白質を含めると実際の頻度はより高いと考えられています。MRIの普及により、難治てんかんの精査の過程で異所性灰白質や多小脳回が見つかる例が増えており、てんかん外科の対象となる患者の中では一定の割合を占めます。日本における正確な患者数は明らかではありませんが、指定難病の医療受給者は限られた数にとどまります。発症(症状に気づかれる時期)は、重症の滑脳症では新生児期から乳児期早期(哺乳不良、筋緊張低下、乳児てんかん性スパズムなど)、皮質下帯状異所性灰白質や多小脳回では乳幼児期から学童期、脳室周囲結節状異所性灰白質では思春期から成人期のてんかん発症が多いとされます。性差は病型によって異なり、X連鎖性の原因遺伝子によるもの(DCX、FLNAなど)では、男性は重症の滑脳症や胎生致死に、女性は皮質下帯状異所性灰白質や脳室周囲結節状異所性灰白質になりやすいという特徴があります。
神経細胞移動異常症の原因・病態生理
原因は遺伝的要因と、胎内環境による獲得性要因に大別されます。遺伝的要因としては、微小管やその関連蛋白、細胞骨格、細胞外マトリックス・基底膜に関わる遺伝子の異常が多く知られています。古典型滑脳症では、17番染色体短腕(17p13.3)にあるPAFAH1B1(LIS1)遺伝子の欠失・変異が代表的で、隣接するYWHAEなどを含むより大きな欠失では、特徴的な顔貌を伴うミラー・ディーカー症候群となります。X染色体上のDCX遺伝子の変異は、男性で滑脳症、女性で皮質下帯状異所性灰白質を起こします。外性器異常を伴うX連鎖性滑脳症ではARX遺伝子、小脳低形成を伴う滑脳症ではRELNやVLDLR遺伝子の異常が報告されています。TUBA1A、TUBB2B、TUBB3などのチューブリン遺伝子の異常(チューブリノパチー)は、滑脳症、多小脳回様の皮質異形成、基底核・脳梁・脳幹の形態異常などを組み合わせて呈します。脳室周囲結節状異所性灰白質では、X連鎖優性遺伝のFLNA(フィラミンA)遺伝子異常が最も多く、劣性遺伝のARFGEF2などの報告もあります。多小脳回ではADGRG1(GPR56)による両側前頭頭頂部多小脳回などの単一遺伝子疾患のほか、22q11.2欠失症候群など染色体異常に伴う例があります。敷石様皮質形成異常は、α-ジストログリカンの糖鎖修飾異常(福山型先天性筋ジストロフィーのFKTNなど)によって起こります。多くの孤発例は新生変異(de novo)で、親からの遺伝ではないことも少なくありません。
獲得性要因としては、妊娠中期前後の先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染が多小脳回や裂脳症の重要な原因として知られています。そのほか、胎内での虚血・循環障害、双胎間の血流異常などが多小脳回や裂脳症に関与するとされ、COL4A1/COL4A2遺伝子異常による血管の脆弱性が裂脳症の一因となることも報告されています。発症機序をみると、LIS1やDCXは微小管の働きを調節し、神経細胞の核の移動や突起の伸長に不可欠です。これらが障害されると神経細胞は皮質まで到達できず、本来6層であるべき皮質が厚く単純な4層程度の構造となり、脳回が形成されなくなります。FLNAは細胞骨格のアクチンを架橋する蛋白で、異常があると神経細胞が移動を始められず、脳室壁に結節として残ります。一方、敷石様皮質形成異常では、脳表の軟膜・基底膜(グリア境界膜)の破綻により、神経細胞が移動を止める場所を失って脳表を越えて流出します。こうした異常な位置にある神経細胞は、正常とは異なる神経回路を形成し、興奮と抑制のバランスが崩れやすくなるため、てんかん発作が高率に生じます。また、皮質の神経回路の構築そのものが損なわれることで、運動機能や認知機能の発達が障害されます。
神経細胞移動異常症の症状
- てんかん発作: 最も頻度の高い症状で、焦点発作、強直発作、脱力発作、ミオクロニー発作など多彩です。抗てんかん薬が効きにくい難治てんかんとなることも少なくありません。
- 乳児てんかん性スパズム(点頭てんかん): 滑脳症などでは乳児期に、首や体を一瞬かがめる発作が繰り返し起こるウエスト症候群を呈することがあります。発達の停滞・退行を伴いやすく、早期の診断と治療が重要です。
- 発達の遅れ・知的障害: 重症の滑脳症では首のすわりや寝返りが得られないなど重度の遅れを示します。一方、脳室周囲結節状異所性灰白質では知的発達が正常範囲の方も多く、程度は病型と範囲によって大きく異なります。
- 筋緊張の異常(低緊張から痙性へ): 乳児期には体が柔らかい筋緊張低下を示し、成長とともに手足が突っ張る痙性麻痺に移行することがあります。裂脳症や片側性の多小脳回では片麻痺を示すことがあります。
- 摂食・嚥下障害: 哺乳力の弱さ、むせ、飲み込みの困難がみられ、誤嚥性肺炎や栄養不良の原因になります。両側シルビウス裂周囲多小脳回では、口・舌・咽頭の運動障害(仮性球麻痺)が目立ちます。
- 言語・構音の障害: 話し言葉の発達が遅れたり、発音が不明瞭になったりします。重度例では言語表出がほとんどみられないこともあります。
- 小頭症: 滑脳症の一部では出生後に頭囲の伸びが乏しく小頭症を示します。頭囲の推移は診断の手がかりになります。
- 特徴的な顔貌: ミラー・ディーカー症候群では、前額部の突出、こめかみのくぼみ、短い鼻、上向きの鼻孔、薄い上唇などの特徴がみられます。
- 視覚の障害: 皮質性視覚障害により、目は見えていても視覚情報の処理がうまくできないことがあります。敷石様皮質形成異常では網膜や眼球の構造異常を伴うこともあります。
- 呼吸の問題: 嚥下障害や筋緊張の異常、側弯の進行に伴い、痰の排出が困難になり呼吸器感染を繰り返すことがあります。重症例では睡眠時の低換気がみられます。
- 行動・情緒の問題: 注意欠如・多動、自閉スペクトラム症の特性、睡眠障害などを伴うことがあります。比較的軽症の病型でも学習面の困難として表れることがあります。
- 他臓器の症状(病型による): FLNA異常による異所性灰白質では、大動脈拡張、動脈管開存、弁膜症などの心血管異常や関節過可動を伴うことがあります。敷石様皮質形成異常では筋力低下や血清CK高値などの筋症状を伴います。
神経細胞移動異常症の経過と合併症
神経細胞移動異常症は脳の構造の異常であり、脳の形態異常そのものが年齢とともに進行する「変性疾患」ではありません。しかし、てんかん発作の推移や二次的な合併症によって、臨床経過は大きく変化します。重症の滑脳症では、新生児期から乳児期に哺乳不良や筋緊張低下で気づかれ、生後数か月以内に乳児てんかん性スパズムを発症することが多く、その後は強直発作などを含む難治てんかん(レノックス・ガストー症候群様の経過をとる例もある)へ移行することがあります。運動発達は寝たきりから座位獲得程度にとどまることが多い一方、皮質下帯状異所性灰白質では、帯の厚さや範囲に応じて正常知能から重度知的障害まで幅広く、てんかんの発症時期も幼児期から成人期まで多様です。脳室周囲結節状異所性灰白質では、思春期以降に焦点てんかんで発症し、MRIで初めて診断される例が多くみられます。多小脳回や裂脳症では、病変の部位・範囲(片側か両側か、運動野・言語野を含むか)によって、片麻痺や言語障害の程度、てんかんの有無が決まります。
合併症としては、てんかん重積状態が生命に関わる重要な合併症で、発作が長く続くと脳へのさらなる障害や呼吸不全を招きます。嚥下障害に伴う誤嚥性肺炎は重症例の主要な死因の一つであり、胃食道逆流症がこれを悪化させます。そのほか、栄養障害・成長障害、便秘、側弯症や股関節脱臼などの整形外科的合併症、骨密度低下と骨折、睡眠障害、歯科的問題がみられます。抗てんかん薬の副作用(眠気、肝機能障害、骨への影響など)にも注意が必要です。FLNA異常の場合は大動脈の拡張・解離などの心血管合併症、敷石様皮質形成異常の場合は筋力低下の進行、心筋障害、眼合併症などが問題となるため、病型に応じた全身の管理が求められます。
神経細胞移動異常症の診断・診断基準
診断は、症状(てんかん発作、発達の遅れ、筋緊張異常など)をきっかけに行われる頭部MRIで、特徴的な大脳皮質の形態異常を確認することが中心となります。脳の形態異常の種類と分布(前方優位か後方優位か、片側か両側か、小脳・脳梁・脳幹の異常を伴うか)は、原因遺伝子の推定にも役立ちます。続いて、てんかんの評価のための脳波検査、原因検索のための染色体・遺伝子検査、先天性感染症の検査、合併症評価のための眼科・心臓・筋の検査などを組み合わせます。指定難病としての認定には、診断基準に基づいて画像所見と臨床症状などから診断が確定していることに加え、重症度分類(てんかん発作の頻度や、運動障害・知的障害などによる日常生活上の障害の程度)で一定以上に該当することが求められます。診断や病型の判断には専門的な読影を要するため、小児神経専門医やてんかん専門医のいる施設での評価が勧められます。
- 頭部MRI: 診断の要となる検査で、脳回の欠如・粗大化、白質内の帯状灰白質、脳室壁の結節、細かな脳回、脳表から脳室に至る裂隙などを描出します。LIS1異常では後頭部優位、DCX異常では前頭部優位に滑脳症が強いなど、分布が原因推定の手がかりになります。
- 高磁場・薄層撮像(てんかん精査用プロトコル): 3テスラ装置などを用いた高分解能の撮像により、小さな異所性灰白質や限局した多小脳回を見逃しにくくなります。乳児期は髄鞘化が未熟なため所見が分かりにくいことがあり、成長後の再検査が有用な場合があります。
- 脳波検査: てんかん性異常波の有無や部位を評価します。滑脳症では高振幅の速波律動が特徴的とされ、乳児てんかん性スパズムではヒプスアリスミア(高振幅で無秩序な脳波)がみられることがあります。
- 染色体検査・マイクロアレイ・FISH法: 17p13.3領域の欠失(ミラー・ディーカー症候群など)や22q11.2欠失などの染色体の微細な欠失・重複を検出します。古典型滑脳症では最初に検討される検査の一つです。
- 遺伝子検査(遺伝子パネル・エクソーム解析など): PAFAH1B1、DCX、TUBA1A、FLNA、ARXなどの原因遺伝子を調べます。結果は再発率の推定や合併症の予測に役立ちますが、原因が特定できない例も少なくなく、検査前後に遺伝カウンセリングを行うことが望まれます。
- 先天性サイトメガロウイルス感染の検査: 多小脳回や裂脳症では先天性CMV感染の関与を検討します。生後早期であれば尿などのPCR検査、それ以降は保存された臍帯などを用いた検査で評価されることがあります。頭部CTでの脳室周囲石灰化も参考になります。
- 頭部CT: 石灰化の検出に優れ、先天性感染症や結節性硬化症などとの鑑別に用いられます。皮質形態の詳細な評価はMRIが優れています。
- 血清CK・眼科検査: 敷石様皮質形成異常が疑われる場合、血清CK高値などの筋疾患の所見や網膜・眼球の異常の有無を確認し、福山型先天性筋ジストロフィーなどの診断につなげます。
- 心エコー・全身評価: FLNA異常による脳室周囲結節状異所性灰白質では、大動脈拡張や弁膜症の評価のため心エコーなどの心血管評価が勧められます。そのほか、外性器異常(ARX)など病型に応じた全身評価を行います。
神経細胞移動異常症と鑑別すべき疾患
- 限局性皮質異形成: MRIで局所の皮質肥厚や灰白質・白質境界の不明瞭化を示す点が類似しますが、主に神経細胞の増殖・分化の異常で、病変は通常局所的であり、てんかん外科の主要な対象です。
- 片側巨脳症: 一側大脳半球全体の腫大と皮質形成異常を示し、病変の片側性と半球の明らかな拡大が鑑別点です。
- 結節性硬化症: 上衣下結節が脳室周囲結節状異所性灰白質に似ますが、上衣下結節はしばしば石灰化し、皮質結節や皮膚・腎などの全身症状を伴う点で区別されます。
- 先天性サイトメガロウイルス感染症: 多小脳回や裂脳症の原因となり得る獲得性疾患で、脳室周囲石灰化、感音難聴、白質病変などの併存が鑑別の手がかりとなります。
- 福山型先天性筋ジストロフィーなどのジストログリカノパチー: 敷石様皮質形成異常を伴いますが、筋力低下や高CK血症など筋疾患の所見と眼異常の合併が特徴で、筋ジストロフィーとしての診療も必要です。
- アイカルディ症候群: 多小脳回や異所性灰白質を伴うことがありますが、脳梁欠損、特徴的な網脈絡膜裂孔、乳児てんかん性スパズムの三徴がみられ、ほぼ女児に発症します。
神経細胞移動異常症の治療
神経細胞移動異常症そのものの形態異常を元に戻す根本的な治療法は、現時点ではありません。治療の中心は、てんかん発作のコントロール、発達支援とリハビリテーション、摂食・呼吸・整形外科的合併症への対応といった対症療法と包括的ケアです。病型や重症度により課題は大きく異なるため、小児神経科・てんかん専門医を中心に、リハビリテーション科、整形外科、消化器科・小児外科、循環器科、歯科、看護師、療法士、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、教育・福祉機関などが連携する多職種チームでの支援が望まれます。治療の目標は発作をなくすことだけでなく、発作と薬の副作用のバランスを取りながら、本人の発達と生活の質を最大限に高めることにあります。個々の治療法の選択については、主治医・専門医とよく相談してください。
- 抗てんかん薬による薬物療法: 発作型やてんかん症候群に応じて抗てんかん薬を選択し、効果と副作用をみながら調整します。複数の薬剤を組み合わせても発作が残る難治例も多く、定期的な見直しが重要です。
- 乳児てんかん性スパズム(ウエスト症候群)への治療: ACTH療法やビガバトリンなどが用いられ、早期に治療を開始することが発達への影響を抑える上で重要とされます。いずれも副作用(感染症、高血圧、視野障害など)の管理が必要なため、専門施設で実施されます。
- 食事療法(ケトン食療法など): 薬で抑えにくいてんかんに対し、脂肪を多く糖質を制限するケトン食療法などが選択肢となることがあります。管理栄養士を含む専門チームのもとで行います。
- てんかん外科治療: 脳室周囲結節状異所性灰白質や限局した多小脳回など、発作の起始部位が特定できる一部の症例では、精密な術前評価のうえ切除術などが検討されることがあります。転倒を伴う発作には脳梁離断術、また迷走神経刺激療法が選択肢となる場合があります。
- 発作時の対応と救急薬: けいれん重積に備えて、家族が使用できる救急薬(口腔内投与製剤など)を主治医の指示のもとで準備し、発作時の対応手順をあらかじめ決めておくことが重要です。
- リハビリテーション・発達支援: 理学療法・作業療法・言語聴覚療法により、姿勢・運動機能、手の使用、コミュニケーション手段の獲得を支援します。座位保持装置や車椅子、装具などの補装具の活用も含まれます。
- 摂食・栄養・呼吸の管理: 食形態の工夫や姿勢調整を行い、誤嚥のリスクが高い場合は経管栄養や胃瘻造設、胃食道逆流に対する噴門形成術などが検討されます。重症例では排痰支援、吸引、必要に応じて呼吸補助を行います。
- 痙縮・整形外科的合併症への対応: 痙縮に対して内服薬、ボツリヌス毒素療法などが用いられることがあり、側弯症や股関節脱臼には装具療法や手術が検討されます。
- 合併症の病型別管理: FLNA異常では心血管の定期評価、敷石様皮質形成異常では筋疾患・心筋・眼の管理など、原因に応じた全身フォローアップを行います。
神経細胞移動異常症の予後・長期フォロー
予後は病型・重症度によって大きく異なります。古典型滑脳症やミラー・ディーカー症候群などの重症例では、重度の運動・知的障害と難治てんかんを伴い、誤嚥性肺炎や呼吸不全、てんかん重積などのため小児期に亡くなる方も少なくありません。ただし近年は、栄養・呼吸管理や感染対策の進歩により、成人期まで生活される方も増えています。皮質下帯状異所性灰白質や多小脳回では、病変の厚さ・範囲によって、日常生活が自立し就労する方から、全面的な介助を要する方まで幅があります。脳室周囲結節状異所性灰白質では、てんかんの管理が主な課題となり、多くの方は通常の生活を送ることができますが、発作が抑えられない場合は就学・就労・運転などに影響します。QOLを左右する最大の因子は、てんかん発作のコントロールと摂食・呼吸機能の維持であることが多く、早期からの包括的な支援が重要です。
長期的には、小児期から成人期への移行(トランジション)が大きな課題です。小児科で診療を受けてきた方が成人診療科(脳神経内科、てんかん専門医など)へ円滑に移れるよう、思春期頃から準備を始めることが望まれます。定期的なフォローアップでは、発作の状況と脳波、抗てんかん薬の効果・副作用(血液検査、骨密度など)、成長と栄養状態、嚥下機能、呼吸状態、側弯や関節の状態、歯科的問題、睡眠、行動・情緒面を評価します。FLNA異常では大動脈などの心血管評価を継続し、敷石様皮質形成異常では筋力・心機能・眼の評価を行います。女性のてんかん患者では、妊娠・出産を見据えた抗てんかん薬の選択や葉酸の補充などについて、早めに主治医と相談しておくことが勧められます。
神経細胞移動異常症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、てんかん発作への備えが基本となります。服薬を規則正しく続け、睡眠不足、発熱、過度の疲労など発作を誘発しやすい状況を避けることが大切です。入浴は発作時の溺水に注意して一人で入らないようにし、高所や水辺での活動、運動時には見守りや保護具を検討します。発作の様子(時刻、持続時間、症状)を記録したり動画に残したりすると、診療に大変役立ちます。摂食・嚥下障害がある場合は、食事の姿勢、とろみの付け方、一口量を専門職と相談して工夫し、口腔ケアを丁寧に行うことで誤嚥性肺炎の予防につながります。予防接種は感染症を防ぐ上で重要であり、てんかんがあっても多くの場合接種可能ですので、接種時期について主治医と相談してください。保育所・学校には、発作時の対応や医療的ケアの内容を事前に共有し、特別支援教育や合理的配慮を活用しましょう。原因によっては次の子どもへの再発の可能性が異なり、新生変異によるもの、X連鎖遺伝によるもの、常染色体劣性遺伝によるもの、先天性CMV感染など遺伝しないものなどで説明が大きく変わります。次子の妊娠や家族の検査を考える際には、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。
利用できる制度・相談窓口
神経細胞移動異常症は指定難病(告示番号138)であり、診断基準を満たし、重症度分類で一定以上に該当する場合(または軽症でも高額な医療費が継続する場合)には、難病指定医の診断書をもとに都道府県・指定都市へ申請することで医療費助成を受けられます。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では、小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象となる病型があり、自立支援事業なども利用できます。障害の状態に応じて、身体障害者手帳(肢体不自由、音声・言語機能障害など)、療育手帳(知的障害)、精神障害者保健福祉手帳(てんかん)が交付され、補装具・日常生活用具の給付、障害福祉サービス(居宅介護、短期入所、児童発達支援、放課後等デイサービス、生活介護など)を利用できます。てんかんの通院医療費には自立支援医療(精神通院医療)が適用される場合があります。子どもでは特別児童扶養手当、障害児福祉手当、成人では特別障害者手当、障害基礎年金(20歳前に初診日がある場合を含む)などの所得保障制度があります。経管栄養や吸引などを要するお子さんは医療的ケア児として、医療的ケア児支援センターや訪問看護、保育所・学校での支援の対象となります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所・保健センター、市区町村の障害福祉担当課、医療機関の医療ソーシャルワーカー、てんかんについては、てんかん支援拠点病院や患者・家族会などがあります。制度の要件や手続きは変更されることがあるため、最新の情報は自治体や医療機関で確認してください。
神経細胞移動異常症に伴う心のケア・心理社会的支援
生まれつきの脳の病気と診断されることは、ご家族にとって大きな衝撃であり、「妊娠中に何か悪いことをしたのでは」という自責の念を抱く方も少なくありません。しかし本疾患の多くは、遺伝子の新生変異や胎内感染など、親の行動では防ぎようのない原因によるものです。重症例では、頻回な発作、昼夜を問わない介護や医療的ケア、繰り返す入院によって、保護者が慢性的な睡眠不足・疲労に陥り、抑うつや不安、適応障害を生じることがあります。また、きょうだい児が寂しさや我慢を抱えやすいこと、将来の見通しの不確かさ、親亡き後の生活への不安、就労との両立の難しさなど、この疾患に特有の心理社会的課題があります。本人についても、比較的軽症の病型では、てんかんに伴う不安、学業や就労・運転の制限、周囲の理解不足から自己評価が下がりやすく、抑うつや不安障害を合併することがあります。気持ちのつらさは我慢せず、主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー、心理士、保健師などに早めに相談してください。短期入所(レスパイト)などで介護から休息をとること、同じ疾患やてんかんの患者・家族会で経験を分かち合うことも大きな支えになります。必要に応じて精神科や心療内科での専門的な支援を受けることも大切です。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
神経細胞移動異常症の受診の目安
- けいれん発作が5分以上続く、または意識が戻らないうちに発作を繰り返す場合は、救急車を呼んで直ちに受診してください。
- 呼吸が苦しそう、顔色や唇の色が悪い、発熱とともにぜーぜーする・むせ込みが続くなど、誤嚥性肺炎や呼吸不全が疑われる場合は速やかに受診してください。
- 乳児が首や体を一瞬かがめる動作を繰り返す(特に寝起きに連続する)、それまでできていたことができなくなった場合は、早めに小児神経科を受診してください。
- 発作の回数や型が変わった、薬を変更した後に強い眠気・ふらつき・発疹などが現れた場合は、主治医に連絡してください。
- 哺乳量・食事量が減る、体重が増えない、嘔吐を繰り返すなど、栄養や消化の問題がある場合は受診してください。
- FLNA異常と診断されている方で、突然の胸や背中の激しい痛みがある場合は、大動脈の病気の可能性があるため救急受診してください。
神経細胞移動異常症についてのよくある質問
Q. 神経細胞移動異常症は治る病気ですか?
A. 脳の形の異常そのものを治す治療法は現時点ではありません。しかし、てんかんの治療、リハビリテーション、栄養・呼吸の管理などにより、症状を和らげ、発達や生活の質を高めることは十分に可能です。病型によっては通常に近い生活を送れる方も多くいます。
Q. 妊娠中の生活が原因だったのでしょうか?
A. 多くは遺伝子の偶発的な変化(新生変異)や、防ぐことの難しい胎内感染などが原因で、妊娠中の通常の生活習慣が原因となることはほとんどありません。ご自身を責める必要はありません。原因についての詳しい説明は、主治医や遺伝カウンセリングで受けることができます。
Q. 次の子どもにも同じ病気が起こる可能性はありますか?
A. 原因によって大きく異なります。新生変異では再発の可能性は一般に低いとされますが、X連鎖遺伝や常染色体劣性遺伝の場合は一定の確率で再発し得ます。遺伝子検査の結果を踏まえ、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーに相談することをお勧めします。
Q. 大人になってから診断されることもありますか?
A. あります。特に脳室周囲結節状異所性灰白質や軽度の皮質下帯状異所性灰白質では、知的発達が正常で、思春期以降のてんかん発作をきっかけにMRIで初めて見つかることが少なくありません。成人でもてんかんの原因精査として専門的なMRI検査を受けることが大切です。
関連記事(関連する指定難病)
- 限局性皮質異形成 Focal Cortical Dysplasia
- 片側巨脳症 Hemimegalencephaly
- ウエスト症候群 West Syndrome
- レノックス・ガストー症候群 Lennox-Gastaut Syndrome
- アイカルディ症候群 Aicardi Syndrome
- 結節性硬化症 Tuberous Sclerosis Complex
- 筋ジストロフィー Muscular Dystrophy
- ペルオキシソーム病 Peroxisome Biogenesis Disorders
- 大田原症候群 Ohtahara Syndrome
- 徐波睡眠期持続性棘徐波を示すてんかん性脳症 Epileptic Encephalopathy with Continuous Spike-and-Wave During Sleep (CSWS)
同じ分野(小児神経・てんかん)の指定難病
この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。