先天性大脳白質形成不全症

Congenital Cerebral White Matter Hypoplasia

先天性大脳白質形成不全症(Congenital Cerebral White Matter Hypoplasia)|先天性大脳白質形成不全症は、脳の神経線維を包む髄鞘(ミエリン)が生まれつき十分に作られないために起こる、遺伝性の病気の総称です(指定難病139)。多くは乳児期に、眼の揺れ(眼振)、首のすわりの遅れ、筋緊張の異常などで気づかれます。その後、運動発達の遅れ、手足のつっぱり(痙性)、ふらつき、知的障害などが続き、生涯にわたる医療・療育・生活支援が必要になります。症状の現れ方や経過は病型によって大きく異なるため、正確な病型診断と継続的な支援が重要です。

先天性大脳白質形成不全症の要点

先天性大脳白質形成不全症は、神経線維を包む髄鞘が生まれつき十分に作られない髄鞘形成不全を中核とする遺伝性疾患の総称で、指定難病139です。乳児期に眼振や首のすわりの遅れ、筋緊張の異常で気づかれ、その後に運動発達の遅れ、痙性、ふらつき、知的障害が続きます。

別名・略称髄鞘形成不全症、大脳白質形成不全症、低髄鞘化疾患、hypomyelinating leukodystrophy、HLD
分野小児神経・てんかん
遺伝形式病型により異なる(ペリツェウス・メルツバッハー病はX連鎖性)
好発年齢多くは乳児期に気づかれる
主な症状眼振、首のすわりの遅れ、筋緊張異常、運動発達の遅れ、痙性、ふらつき、知的障害
主な検査頭部MRI(年齢相応の髄鞘化が持続的に欠如)、遺伝子検査
主な治療根治療法は確立しておらず、リハビリテーションなどの対症療法と生活支援
受診する主な診療科小児神経科、神経内科

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先天性大脳白質形成不全症とは

定義・概念:中枢神経の髄鞘は、オリゴデンドロサイトという細胞が作る脂質に富んだ膜です。神経の電気信号を速く正確に伝える働きを担っています。ヒトの髄鞘形成は胎生後期に始まり、主に生後2歳ごろまでに急速に進んで、その後も思春期にかけて成熟します。先天性大脳白質形成不全症は、この髄鞘がはじめから十分に形成されない髄鞘形成不全(hypomyelination)を中核とする疾患群です。いったん形成された髄鞘が壊れる「脱髄」や、代謝産物の蓄積で白質が傷む一般的な白質ジストロフィーとは、概念上区別されます。MRIでは、年齢に見合った髄鞘化が持続的に欠如していることが特徴です。

分類・病型・歴史的経緯:最も代表的なのは、19世紀末から20世紀初頭にPelizaeusとMerzbacherが記載したペリツェウス・メルツバッハー病(PMD)です。その後MRIと遺伝子解析が進歩し、類似の画像所見を示す複数の疾患が独立した病型として整理されました。日本の指定難病では、主に次の疾患がこの疾患群に含まれます。<br>・PMD<br>・ペリツェウス・メルツバッハー様病1(PMLD1)<br>・基底核および小脳萎縮を伴う髄鞘形成不全症(H-ABC)<br>・18q欠失症候群<br>・アラン・ハーンドン・ダドリー症候群(AHDS)<br>・先天性白内障を伴う髄鞘形成不全症(HCC)<br>・失調・歯牙低形成を伴う髄鞘形成不全症(4H症候群)<br>・Salla病<br>・小脳萎縮と脳梁低形成を伴うびまん性大脳白質形成不全症<br>・脱髄型末梢神経炎・中枢性髄鞘形成不全症・ワーデンブルグ症候群・ヒルシュスプルング病(PCWH)<br>・その他の髄鞘形成不全症<br>PMD自体も重症度により、新生児期から重い症状を示す先天型(connatal型)、乳児期に発症する古典型、それより軽症の病型に分けられます。最軽症型は痙性対麻痺(SPG2)として現れ、PMDと連続する病態と考えられています。

先天性大脳白質形成不全症の疫学・患者数

いずれの病型もまれな疾患です。最も頻度が高いのはPMDで、日本を含む海外の調査では出生数十万人に1人程度と推定されています。指定難病としての受給者数は全体で数百人規模とみられますが、未診断例も含まれるため正確な実数は明らかではありません。PMDとAHDSはX連鎖性遺伝のため、ほぼ男児に発症します。女性保因者は通常無症状か軽症ですが、PLP1遺伝子の変異の種類によっては、成人期に軽い痙性や認知機能低下を示す例が報告されています。一方、PMLD1、4H症候群、HCC、Salla病などは常染色体潜性(劣性)遺伝で、性差はありません。H-ABCの多くは<i>de novo</i>(新生)の常染色体顕性変異によるとされます。発症は大部分が新生児期から乳児期で、成人になって初めて診断される例はまれです。近年は網羅的遺伝子解析の普及により、従来は「原因不明の髄鞘形成不全」とされていた例の診断が増えています。

先天性大脳白質形成不全症の原因・病態生理

病因・遺伝形式:原因は、髄鞘の構成成分や、オリゴデンドロサイトの分化・維持に関わる遺伝子の異常です。主な病型と原因は以下のとおりです。<br>・PMD:X染色体上のPLP1遺伝子の異常。髄鞘の主要タンパクであるプロテオリピッドタンパクをコードしています。異常の内訳は、遺伝子の重複が最も多く(半数以上)、ほかに点変異、欠失、三重複などがあります。<br>・PMLD1:ギャップ結合タンパクをコードするGJC2の両アレル変異。<br>・H-ABC:TUBB4A(チューブリン)の変異。<br>・AHDS:甲状腺ホルモン輸送体MCT8をコードするSLC16A2の変異。<br>・4H症候群:RNAポリメラーゼIIIのサブユニット遺伝子(POLR3A、POLR3Bなど)の変異。<br>・HCC:FAM126A(hyccin)の変異。<br>・Salla病:シアル酸輸送体の遺伝子SLC17A5の変異。<br>・PCWH:SOX10の変異。<br>・18q欠失症候群:ミエリン塩基性タンパク(MBP)遺伝子を含む領域の欠失が、髄鞘形成不全に関与すると考えられています。<br>免疫異常や血液疾患とは関係がなく、感染や生活習慣が原因で起こる病気でもありません。

発症機序の詳細:PMDでは、PLP1の変異の種類によって病態が異なります。<br>・重複:PLP1タンパクが過剰に作られ、細胞内(後期エンドソームなど)に蓄積し、コレステロールなど脂質の輸送が乱れて髄鞘の形成が障害されると考えられています。<br>・ミスセンス変異:折りたたみ異常のタンパクが小胞体に滞留し、小胞体ストレス(unfolded protein response)を介してオリゴデンドロサイトのアポトーシスを起こします。このため、しばしば重症の先天型となります。<br>・PLP1の欠失(null):髄鞘はある程度形成されるものの、軸索の維持が障害されます。軽症ですが、長期的には軸索変性が問題になります。<br>そのほかの病型の機序は次のように考えられています。<br>・AHDS:脳内へのT3(甲状腺ホルモン)の取り込みが障害され、脳は甲状腺機能低下の状態となって髄鞘化が遅れます。一方、末梢組織はT3過剰となり、体重増加不良や頻脈などを来します。<br>・4H症候群:tRNAなど小分子RNAの転写が障害され、髄鞘形成に必要なタンパク合成が不足するという仮説があります。<br>・H-ABC:微小管の機能異常が、オリゴデンドロサイトと基底核・小脳の神経細胞の双方に影響すると考えられています。<br>いずれの病型でも、髄鞘の不足は伝導速度の低下と軸索の脆弱化をもたらします。これが運動・感覚・認知のネットワーク全体の機能低下として症状に現れます。

先天性大脳白質形成不全症の症状

  • 眼振: 生後早期から、眼球が振り子のように揺れる眼振や回旋性の眼振がみられ、PMDで最初に気づかれる症状となることが多いです。成長とともに軽くなることがあります。
  • 運動発達の遅れ: 首のすわり、寝返り、座位、歩行の獲得が遅れます。古典型PMDでは支え歩きや独歩に至る例もありますが、先天型では座位の獲得も難しいことが多いです。
  • 筋緊張低下から痙性への移行: 乳児期は体幹の筋緊張が低く、ぐにゃっとした状態ですが、成長とともに四肢、特に下肢のつっぱり(痙性)、腱反射亢進、尖足が目立ってきます。
  • 運動失調・企図振戦: 小脳系の伝導障害によって、手を伸ばすときのふるえ、体幹のぐらつき、協調運動の拙劣さがみられます。
  • 不随意運動(ジストニア・アテトーゼ): 四肢や頸部がねじれる、くねるような動きがみられることがあり、とくにH-ABCではジストニアが目立ちます。
  • 知的障害・言語の遅れ: 程度は病型と重症度によって大きく異なります。言葉の理解は比較的保たれていても、構音障害のために発語が難しい例も少なくありません。
  • 嚥下障害・喘鳴: 咽頭・喉頭の協調運動障害により、むせ、誤嚥、喘鳴がみられ、重症例では栄養摂取や呼吸に影響します。
  • てんかん発作: PMDの先天型などでみられることがありますが、全体としては主要症状ではない病型も多いです。
  • 視覚・聴覚の異常: 視神経萎縮による視力低下や、聴性脳幹反応の異常を伴うことがあります。HCCでは先天性白内障、PCWHでは感音難聴が特徴です。
  • 末梢神経障害: HCC、PCWH、PLP1欠失型PMDなどでは末梢神経の障害を合併し、筋力低下や感覚障害がみられることがあります。
  • 病型特有の全身症状: 4H症候群では歯の欠損・萌出異常と、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症がみられます。AHDSでは体重増加不良、頻脈など末梢の甲状腺ホルモン過剰症状がみられます。PCWHでは色素異常やヒルシュスプルング病を伴います。
  • 側弯・関節拘縮: 痙性や筋力の左右差が長く続くことで、脊柱側弯症や股関節脱臼、関節拘縮が進行しやすくなります。

先天性大脳白質形成不全症の経過と合併症

経過・自然歴:古典型PMDでは、乳児期から幼児期にかけてゆっくりと運動機能を獲得し、学童期ごろまで発達が緩やかに進むことが多いです。その後、思春期から成人期にかけて痙性や失調が増強し、獲得した機能が少しずつ失われる経過をたどる例があります。先天型PMDは新生児期から重度の筋緊張低下、喘鳴、嚥下障害を示し、運動発達はほとんど得られないことが多く、呼吸器合併症によって生命予後が限られる場合があります。H-ABCや4H症候群は、乳幼児期にいったん発達したのち、運動機能が退行する進行性の経過をとりやすいとされます。このように、病型や遺伝子変異によって自然歴は大きく異なります。そのため、同じ病名でも個々の経過を見通すには、遺伝学的診断と継続的な評価が重要です。

合併症:臨床上とくに重要な合併症は次のとおりです。<br>・誤嚥性肺炎や反復性の呼吸器感染症<br>・上気道閉塞や中枢性呼吸障害による睡眠時無呼吸<br>・胃食道逆流症<br>・栄養障害・成長障害<br>・便秘<br>・脊柱側弯症<br>・股関節脱臼・関節拘縮<br>・活動量低下や抗てんかん薬による骨粗鬆症と骨折<br>・てんかん<br>・視力・聴力障害<br>病型特有の合併症もあり、4H症候群では内分泌障害、AHDSでは甲状腺ホルモン異常による体重減少や心血管系への負担に注意が必要です。重症例では、気管切開、人工呼吸、経管栄養などの医療的ケアが必要になることがあります。

先天性大脳白質形成不全症の診断・診断基準

診断は、①乳児期からの眼振、運動発達の遅れ、痙性・失調などの臨床症状、②頭部MRIでの持続的な髄鞘形成不全、③他の白質疾患の除外、④遺伝学的検査による原因の確定、という流れで行われます。乳児期早期は正常でも髄鞘化が未熟なため、1回のMRIだけで判断するのは困難です。一定の月齢(おおむね1歳以降)で、間隔をあけて繰り返し撮影し、髄鞘化が年齢相応に進んでいないことを確認するのが基本です。指定難病の認定では、学会などが作成した診断基準に基づき、臨床所見、MRI所見、遺伝学的検査の結果を組み合わせて評価します。小児神経専門医のいる医療機関での精査が望まれます。

  • 頭部MRI(T1・T2強調画像): 最も重要な検査です。髄鞘形成不全では、大脳白質がT2強調画像でびまん性に軽度高信号、T1強調画像でほぼ等〜軽度高信号を示し、これが年齢相応の髄鞘化の欠如として持続します。脱髄性疾患(T1で明瞭な低信号)との違いが鑑別の手がかりになります。
  • MRIでの病型特異的所見: H-ABCでは被殻の萎縮・消失と小脳萎縮、4H症候群では小脳萎縮と、視床外側部などに比較的保たれた髄鞘がみられます。PMLD1やAHDSでも特徴的な分布が報告されており、遺伝子検査の方針決定に役立ちます。
  • MRスペクトロスコピー: N-アセチルアスパラギン酸(NAA)などの代謝物を評価します。カナバン病(NAAの著明な上昇)の除外や、軸索障害の程度の推定に用いられることがあります。
  • 聴性脳幹反応(ABR): PMDではI波が保たれ、III波以降が消失または低振幅となる所見が特徴的とされます。PMLD1では比較的保たれることがあり、両者の鑑別に有用です。
  • 神経伝導検査・視覚誘発電位など: 末梢神経障害の有無(HCC、PCWH、PLP1欠失など)や視覚路の伝導障害を評価し、病型の推定と合併症の把握に役立てます。
  • 遺伝学的検査: PLP1の重複・欠失はMLPA法やマイクロアレイ染色体検査で、点変異はシーケンス解析で検出します。原因が特定できない場合は、遺伝子パネルや全エクソーム解析が行われます。18q欠失はマイクロアレイ染色体検査などで確認します。
  • 甲状腺機能検査: AHDSでは、血中遊離T3の高値、遊離T4の低値、TSHの正常〜軽度高値という特徴的なパターンを示します。原因不明の髄鞘形成不全では、スクリーニングとして有用です。
  • 尿中遊離シアル酸・代謝検査: Salla病では尿中遊離シアル酸が増加します。そのほか、ライソゾーム病、ペルオキシソーム病などの白質ジストロフィーを除外するため、酵素活性や極長鎖脂肪酸などを必要に応じて測定します。
  • 眼科・歯科・内分泌評価: 白内障(HCC)、歯牙の異常や性腺機能低下(4H症候群)、難聴・色素異常(PCWH)などの随伴症状を確認することは、病型診断の重要な手がかりになります。

先天性大脳白質形成不全症と鑑別すべき疾患

  • 副腎白質ジストロフィー・異染性白質ジストロフィーなど脱髄性・代謝性白質ジストロフィー: いったん獲得した髄鞘が壊れる脱髄性疾患です。T1低信号を伴う明瞭な病変、病変分布の特徴、極長鎖脂肪酸や酵素活性の異常で区別します。
  • アレキサンダー病: 前頭部優位の白質病変、造影効果、大頭症などを伴い、GFAP遺伝子変異で確定します。
  • カナバン病: 大頭症とびまん性白質病変を示し、MRスペクトロスコピーや尿中でN-アセチルアスパラギン酸が著明に増加する点で区別されます。
  • 周産期の脳障害(脳室周囲白質軟化症など)・脳性麻痺: 早産や新生児仮死などの周産期歴があり、MRIで白質容積の減少や脳室拡大などの限局性病変を示す点で区別されます。
  • 単純な髄鞘化遅延(低栄養・甲状腺機能低下・染色体異常など): 経時的なMRIで髄鞘化が進行していくことや、原因疾患の存在により区別されます。
  • ミトコンドリア病・ペルオキシソーム病: 乳酸値、代謝スクリーニング、多臓器症状、MRIでの基底核病変などにより鑑別します。

先天性大脳白質形成不全症の治療

現時点で、髄鞘形成不全そのものを根本的に治す確立した治療法はありません。治療の中心は、症状や合併症に対する対症療法、リハビリテーション、栄養・呼吸管理、療育・教育支援です。小児神経科を中心に、リハビリテーション科、整形外科、耳鼻咽喉科、眼科、歯科、内分泌科、看護、医療ソーシャルワーカーなどが連携する多職種チーム医療が基本となります。目標は、合併症を予防して生命予後を守ること、本人ができることを最大限に伸ばすこと、そして本人と家族の生活の質(QOL)を高めることです。AHDSに対する甲状腺ホルモン類似物質(Triacなど)の投与や、PMDに対する遺伝子治療・細胞治療などは、国内外で研究や臨床試験が進められている段階です。適応や参加の可否については、専門医とよく相談してください。

  • リハビリテーション: 理学療法、作業療法、言語聴覚療法により、姿勢保持、運動機能、コミュニケーション、摂食機能の発達を支えます。あわせて、関節拘縮や変形を予防します。座位保持装置、車椅子、装具、意思伝達のための補助具の導入も重要です。
  • 痙性・ジストニアの治療: バクロフェン、ジアゼパムなどの内服、局所のボツリヌス毒素注射、重症例ではバクロフェン髄注療法が、症状と年齢に応じて検討されます。
  • てんかんの治療: 発作がある場合は、発作型に応じて抗てんかん薬を選択します。眠気や筋緊張・嚥下への影響に配慮しながら調整します。
  • 摂食・栄養管理: 嚥下造影などで嚥下機能を評価し、食形態の工夫を行います。誤嚥や体重増加不良があれば、経鼻胃管や胃瘻による経管栄養を検討し、必要に応じて胃食道逆流への対策も行います。
  • 呼吸管理: 排痰補助、体位管理、吸引を行い、睡眠時無呼吸には非侵襲的換気療法を検討します。重症例では気管切開や在宅人工呼吸が選択肢となり、誤嚥防止手術が検討されることもあります。
  • 整形外科的管理: 側弯や股関節脱臼を定期的に評価し、装具療法や、必要に応じて手術を検討します。骨粗鬆症や骨折の予防にも配慮します。
  • 病型特異的な管理: 4H症候群では性腺機能低下に対するホルモン補充、HCCでは白内障手術、PCWHではヒルシュスプルング病や難聴への対応を行います。AHDSでは末梢の甲状腺ホルモン過剰への対応が検討されます。
  • 感覚障害への支援: 視力・聴力を定期的に評価し、眼鏡、補聴器、視覚支援、拡大・代替コミュニケーション(AAC)など、本人に合った情報入手の手段を整えます。
  • 研究段階の治療: PMDに対する神経幹細胞移植、遺伝子治療、PLP1の発現を抑える治療法などが研究されています。国内外の臨床研究の情報は、主治医や患者会を通じて確認できます。

先天性大脳白質形成不全症の予後・長期フォロー

予後は病型と重症度によって大きく異なります。古典型PMDでは、成人期まで生存し、本人なりの社会参加を続ける方も多くいます。ただし、思春期以降に運動機能が緩やかに低下することがあります。PLP1欠失型など軽症の病型では、歩行が可能な例もあります。一方、先天型PMDや重症の病型では、呼吸器合併症によって小児期に生命の危険が高まることがあります。主な死因は、誤嚥性肺炎や呼吸不全などの合併症です。そのため、呼吸・栄養管理の質が生命予後とQOLを大きく左右します。知的障害の程度にかかわらず、本人は周囲の声かけや表情によく反応することが多いです。本人に合ったコミュニケーション手段を見つけることが、QOLの向上につながります。

長期フォローアップでは、成長・発達、神経症状、てんかん、嚥下・栄養状態、呼吸(睡眠時無呼吸を含む)、側弯・股関節、視力・聴力を定期的に評価します。病型によっては、内分泌機能や甲状腺機能の評価も加えます。MRIは診断時に加え、経過の確認のために適宜行われます。小児期から成人期へ移行する時期には、小児科から成人診療科への移行(トランジション)が課題となります。かかりつけ医、在宅医療、訪問看護、相談支援専門員を含めて、早めに体制を整えておくことが望まれます。

先天性大脳白質形成不全症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活では、次の点が大切です。<br>・誤嚥を防ぐため、食事の姿勢や食形態を工夫し、食後しばらく上体を起こしておく<br>・口腔ケアを丁寧に行い、肺炎を予防する<br>・感染症予防のため、主治医と相談のうえ、予防接種を年齢と体調に応じて計画的に受ける<br>・体位変換やストレッチを習慣にし、関節拘縮と褥瘡を予防する<br>本人の理解力は表出よりも保たれていることが多いため、日常的に語りかけ、選択の機会を設けることが発達と心の安定を支えます。保育・教育の場では、特別支援学校や通常の学校の特別支援学級などで、医療的ケアへの対応も含めて関係者と相談します。本疾患の多くは遺伝性です。PMDやAHDSはX連鎖性遺伝のため、母親や姉妹が保因者である可能性があり、常染色体潜性遺伝の病型では、次の子が同じ病気をもつ確率は理論上4分の1となります。家族の保因者診断、次子の出生前診断の可能性やその倫理的側面については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングで、十分な情報を得たうえで考えることが勧められます。

利用できる制度・相談窓口

本疾患は指定難病(告示番号139)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、難病医療費助成制度により、医療費の自己負担割合の軽減と所得に応じた月額上限が適用されます。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では、小児慢性特定疾病医療費助成の対象となり、自立支援事業も利用できます。申請窓口は都道府県・指定都市の担当課や保健所で、指定医による診断書が必要です。運動・視覚・聴覚・呼吸機能などの障害の程度に応じて、次の制度が利用できる場合があります。<br>・身体障害者手帳<br>・療育手帳(知的障害の場合)<br>・特別児童扶養手当、障害児福祉手当、特別障害者手当<br>・補装具費・日常生活用具の給付<br>・障害福祉サービス(居宅介護、短期入所、児童発達支援、放課後等デイサービス、生活介護など)<br>20歳以降は、20歳前傷病による障害基礎年金の対象となる場合があります。医療的ケアが必要な場合は、医療的ケア児等コーディネーターや医療的ケア児支援センターに相談できます。相談先としては、病院の医療ソーシャルワーカー、市区町村の障害福祉担当窓口、相談支援事業所、各都道府県の難病相談支援センター、難病情報センターのウェブサイト、患者会・家族会が役立ちます。

先天性大脳白質形成不全症に伴う心のケア・心理社会的支援

生まれつきの重い神経疾患と診断されることは、家族にとって大きな衝撃です。罪悪感、喪失感、将来への不安、抑うつ、適応障害が生じることは珍しくありません。とくに、X連鎖性遺伝であることを知った母親が自責の念を抱いたり、家族内の遺伝の問題が人間関係に影響したりすることがあります。こうした遺伝性疾患に特有の悩みには、遺伝カウンセリングや心理職による支援が有効です。また、長期にわたる介護、夜間の吸引や体位変換による睡眠不足、きょうだい児への関わりの不足、就労との両立の難しさなども、家族の心身を消耗させます。短期入所(レスパイト)や訪問看護などを積極的に活用し、「頼ることは悪いことではない」と考えることが大切です。本人も、成長とともに自分の障害を意識したり、思うように伝えられないもどかしさを感じたりします。気持ちを表現できる手段と、安心できる関係づくりが欠かせません。つらさが続くときは、主治医、看護師、心理士、医療ソーシャルワーカー、精神科・心療内科に早めに相談してください。同じ病気の家族とつながれる患者会も、心の支えになります。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

先天性大脳白質形成不全症の受診の目安

  • 乳児期に、眼が細かく揺れる、首のすわりや寝返りが遅いなど発達の遅れが気になる場合は、早めに小児科・小児神経科を受診してください。
  • それまでできていた動作ができなくなる、つっぱりや不随意運動が急に強まるなど、機能の低下に気づいたときは主治医に相談してください。
  • 発熱に加えて呼吸が速い・苦しそう、痰が増えてゴロゴロする、顔色や唇の色が悪いときは、誤嚥性肺炎などの可能性があり、速やかな受診が必要です。
  • けいれんが5分以上続く、またはけいれんを繰り返して意識が戻らない場合は、救急車を要請してください。
  • むせが増える、食事量や体重が減る、脱水が疑われる(尿が少ない、ぐったりしている)ときは、早めに受診してください。
  • 睡眠中のいびきや無呼吸、日中の強い眠気が目立つ場合は、呼吸評価のため主治医に相談してください。

先天性大脳白質形成不全症についてのよくある質問

Q. 白血病や血小板の病気と関係がありますか?

A. 関係はありません。本疾患は脳の白質で髄鞘が生まれつき十分に作られない神経の病気であり、血小板減少や紫斑、免疫の異常で起こるものではありません。インターネット上には誤った情報もあるため、主治医や難病情報センターなど信頼できる情報源を確認してください。

Q. 病気は進行しますか?

A. 病型によって異なります。古典型PMDでは、幼少期は緩やかに発達し、思春期以降に運動機能がゆっくり低下することがあります。一方、H-ABCなどでは比較的はっきりした退行がみられることがあります。個々の見通しは、遺伝子診断の結果と経過をもとに主治医と相談してください。

Q. 妊娠中や出生前に分かりますか?

A. 家族内で原因遺伝子の変異が特定されている場合は、出生前診断や保因者診断が技術的に可能なことがあります。ただし、検査を受けるかどうかには医学的・倫理的な検討が必要なため、遺伝カウンセリングを受けたうえで判断することが勧められます。

Q. 根本的な治療法はありますか?

A. 現時点で確立した根本治療はなく、リハビリテーションや合併症の管理が中心です。AHDSに対する甲状腺ホルモン類似物質や、PMDに対する遺伝子治療・細胞治療などの研究が進められており、臨床試験の情報は主治医を通じて確認できます。

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この記事について

最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。