慢性炎症性脱髄性多発神経炎
Chronic Inflammatory Demyelinating Polyneuropathy, CIDP
慢性炎症性脱髄性多発神経炎(Chronic Inflammatory Demyelinating Polyneuropathy, CIDP)|慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)は、免疫の異常によって末梢神経のミエリン(髄鞘)が繰り返し傷つき、手足の筋力低下やしびれが2か月以上かけて進行したり、良くなったり悪くなったりを繰り返したりする自己免疫性の神経疾患です。小児から高齢者まで発症し、中高年の男性にやや多い傾向があります。治療に反応しやすい「治せる神経障害」の代表とされ、早期に診断して適切な免疫治療を始めることで、歩行や手の機能を保てる可能性が高まります。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の要点
慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)は、免疫の異常で末梢神経のミエリンが傷つき、手足の筋力低下やしびれが2か月以上かけて進行、または再発を繰り返す自己免疫性の神経疾患です。ステロイドや免疫グロブリン療法などの免疫治療が有効なことが多く、日本では指定難病(告示番号14)に含まれます。
| 別名・略称 | CIDP、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、Chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy |
|---|---|
| 分野 | 神経・筋疾患 |
| 遺伝形式 | 遺伝性疾患ではなく、後天性の自己免疫性疾患 |
| 好発年齢 | 小児から高齢者まで。中高年の男性にやや多い |
| 主な症状 | 左右対称の手足の筋力低下、しびれ・感覚障害 |
| 主な検査 | 神経伝導検査、髄液検査、神経画像検査など |
| 主な治療 | 副腎皮質ステロイド、免疫グロブリン静注療法、血漿浄化療法 |
| 受診する主な診療科 | 神経内科 |
慢性炎症性脱髄性多発神経炎とは
CIDPは、運動神経と感覚神経の両方を含む末梢神経(脊髄神経根、神経叢、末梢神経幹)に、免疫が関わる炎症と脱髄(ミエリンの破壊)が起こる後天性の疾患です。ミエリンは神経線維(軸索)を包む絶縁体で、電気信号を速く跳躍伝導させる役割を持ちます。これが壊れると伝導が遅くなったり途中で途絶えたり(伝導ブロック)し、筋力低下や感覚障害が生じます。症状が8週間以上かけて進行する、または再発と寛解を繰り返す点で、4週間以内に症状がピークに達する急性のギラン・バレー症候群(GBS)と区別されます。日本では「慢性炎症性脱髄性多発神経炎/多巣性運動ニューロパチー」として指定難病(告示番号14)に含まれています。
CIDPという疾患概念は1970年代に確立し、その後、診断基準が何度も改訂されてきました。現在は、欧州神経学会と末梢神経学会(EAN/PNS)による2021年改訂ガイドラインが国際的な標準とされ、日本の診療ガイドラインもこれを踏まえています。病型は、四肢の近位筋と遠位筋が左右対称に障害される典型的CIDPと、CIDP亜型(バリアント)に分けられます。亜型には、遠位部優位型(distal CIDP)、左右非対称に複数の神経が障害される多巣型(multifocal CIDP、Lewis-Sumner症候群/MADSAMとも呼ばれる)、局所型(focal CIDP)、運動型(motor CIDP)、感覚型(sensory CIDP)があります。さらに2021年の改訂では、ランビエ絞輪やその近く(傍絞輪部)の蛋白質に対する自己抗体(抗neurofascin 155抗体、抗contactin-1抗体、抗Caspr1抗体、抗neurofascin 186/140抗体など)を持つ一群が「自己免疫性ノドパチー」としてCIDPから独立して扱われるようになりました。これらは臨床像や治療反応が異なるためです。運動神経だけが侵され伝導ブロックを特徴とする多巣性運動ニューロパチー(MMN)は、CIDPとは別の疾患ですが、日本の指定難病では同じ枠で扱われています。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の疫学・患者数
CIDPの頻度は、診断基準や調査方法によって大きく変わります。海外の報告では有病率は人口10万人あたりおおむね1〜9人程度と幅があり、年間発症率は10万人あたり1人未満から1人前後とされます。既存の解説では「発症率10万人に1〜2人」とされていますが、これは有病率に近い値で、年間の新規発症はそれより少ないと考えられます。日本の全国疫学調査では、有病率は人口10万人あたり1.6人程度と報告され、男性にやや多く、発症年齢は小児から高齢者まで幅広いものの中高年に多い傾向が示されています。小児例もまれではなく、小児CIDPは成人より再発寛解型をとりやすい一方、治療への反応は良好なことが多いとされます。指定難病の医療費助成を受けている方は全国で数千人規模ですが、MMNを含む数字であり、軽症で助成対象外の方や診断に至っていない方もいるため、実際の患者数はさらに多いと推定されます。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の原因・病態生理
CIDPは遺伝性疾患ではなく、特定の原因遺伝子は知られていません。家族内発症もまれです。基本的な病態は、本来は自分を守る免疫系が末梢神経の構成成分を異物とみなして攻撃する自己免疫機序と考えられています。細胞性免疫(T細胞やマクロファージ)と液性免疫(抗体や補体)の両方が関わるとされます。ただし典型的CIDPでは、病気の原因となる自己抗体の多くはまだ特定されていません。発症前に感染症やワクチン接種があったと報告される例もありますが、GBSほどはっきりした先行感染の関連はありません。糖尿病、単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)、HIV感染症、膠原病、悪性リンパ腫などに合併することがあります。また、がん治療に使われる免疫チェックポイント阻害薬によってCIDPに似た神経障害が起こることも報告されています。
発症機序としては、血液神経関門が破綻し、活性化したT細胞や抗体が神経内に入り込むと考えられています。神経内ではマクロファージがミエリンを剥ぎ取り、貪食する像が病理学的に確認されています。サイトカインや補体の活性化も、炎症と組織障害を強めると推定されています。脱髄が起こると、神経の電気信号が遅れる(伝導遅延)、信号の到達時間がばらつく(時間的分散)、信号が途中で通らなくなる(伝導ブロック)といった変化が生じ、筋力低下の直接の原因となります。脱髄と再髄鞘化を何度も繰り返すと、シュワン細胞が軸索のまわりに層状に増殖したオニオンバルブ(玉ねぎ状構造)が形成され、神経が太くなります(神経肥厚)。病変は神経根や神経叢など血液神経関門が弱い近位部に起こりやすく、髄液蛋白の上昇や神経根の腫大はこれを反映しています。炎症が長く続くと二次的に軸索も傷つきます(軸索変性)。軸索障害は回復に時間がかかり、残る障害の主な原因となるため、早期に炎症を抑えて軸索障害を防ぐことが治療の重要な目標です。自己免疫性ノドパチーでは、IgG4サブクラスが主体の自己抗体がランビエ絞輪周辺の構造を壊すとされ、マクロファージによる典型的な脱髄とは異なる機序が考えられています。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の症状
- 四肢の筋力低下(近位・遠位とも): 典型例では、手足の先(遠位)だけでなく、腕の付け根や太もも(近位)も左右対称に弱くなります。近位筋も侵される点は、多くの他の多発神経障害との重要な違いです。
- 歩行障害・階段昇降や立ち上がりの困難: 太ももの筋力低下により、椅子からの立ち上がりや階段の昇り降りが難しくなります。つま先が上がりにくくなり(下垂足)、つまずきやすくなることもあります。
- 手指の巧緻運動障害: ボタンを留める、箸を使う、字を書くといった細かい手作業がしにくくなります。握力の低下もよくみられます。
- しびれ・感覚鈍麻: 手足の先から始まるジンジン感や、触った感覚が鈍い感じが典型的です。感覚型CIDPでは、感覚症状が中心になります。
- 感覚性運動失調(ふらつき): 関節の位置や振動を感じる深部感覚が障害されると、暗い場所や目を閉じたときにふらつきが強くなります(ロンベルグ徴候陽性)。
- 深部腱反射の低下・消失: 膝蓋腱反射やアキレス腱反射などが弱くなるか、出なくなります。診断上とても重要な所見です。
- 振戦(手のふるえ): 手を伸ばしたときや動作中に細かいふるえが出ることがあります。抗neurofascin 155抗体陽性のノドパチーでは目立つことが知られています。
- 神経痛・疼痛: 焼けるような痛みや電撃痛を伴うことがあり、睡眠や生活の質に影響します。痛みが非常に強い場合は、ほかの疾患や自己免疫性ノドパチーの可能性も検討されます。
- 脳神経症状: 一部の患者さんで、顔面の筋力低下、物が二重に見える(複視)、飲み込みにくさなどの脳神経障害がみられます。
- 疲労感・易疲労性: 持続する疲れやすさは多くの患者さんが訴える症状で、筋力低下とは別に日常生活の負担になります。
- 自律神経症状(軽度): 立ちくらみや排尿・発汗の異常などが軽度にみられることがあります。目立つ場合は、アミロイドーシスなど他疾患との鑑別が必要です。
- 呼吸筋の筋力低下(まれ): GBSと比べるとまれですが、重症例や急性発症の例では呼吸筋が弱くなることがあり、注意が必要です。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の経過と合併症
CIDPの経過は、主に3つのパターンに分けられます。数か月から数年かけてゆっくり悪化し続ける慢性進行型、悪化と改善を繰り返す再発寛解型、そして一度の経過で治まる単相型です。成人では慢性進行型が、若年者や小児では再発寛解型が比較的多いとされます。また、患者さんの一部(1割前後と報告されています)は、発症から4週間以内に急速に悪化してGBSのように始まります。これは急性発症CIDP(A-CIDP)と呼ばれます。GBSと診断された後、発症から8週間以上たっても悪化が続く場合や、治療後に悪化(治療関連変動)を3回以上繰り返す場合には、CIDPを考えて診断を見直すことが推奨されています。治療をしなければ、軸索障害が加わって筋萎縮や筋力低下が固定し、杖や車いすが必要になることがあります。一方、適切な治療で多くの患者さんは改善し、再発を防ぎながら社会生活を続けられます。
合併症としては、長く続く筋力低下や運動不足による筋萎縮・関節拘縮、感覚性失調による転倒と骨折、慢性的な神経痛、疲労、抑うつなどがあります。治療に伴うものとして、ステロイドの長期使用では糖尿病、骨粗鬆症、感染症、白内障、緑内障、体重増加、消化性潰瘍などがあり、予防策が欠かせません。免疫グロブリン療法では、頭痛、発熱、まれに無菌性髄膜炎、血栓症、腎機能障害、溶血などがあります。血漿交換では血圧低下やカテーテル関連の合併症などが起こりえます。糖尿病やMGUSなどの基礎疾患がある場合は、その管理も重要です。神経根の著しい腫大が脊柱管内で神経を圧迫し、症状を悪化させる例もまれにあります。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の診断・診断基準
診断は、①臨床症状(典型的CIDPまたは亜型に当てはまるか、経過が8週間以上か)、②電気生理学的に末梢神経の脱髄を示す所見(神経伝導検査)、③補助的な検査所見(髄液検査、画像検査、治療への反応、神経生検)を組み合わせて行います。EAN/PNS 2021ガイドラインでは、これらの条件を満たす程度に応じて「CIDP」または「possible CIDP」に分類します。CIDPに特異的な単一のバイオマーカーは存在しません。神経伝導検査の判定基準を緩く当てはめたり、高齢者や糖尿病の方で軽度の髄液蛋白上昇を過大評価したりすると、誤診(過剰診断)につながることが国際的に問題視されています。そのため、末梢神経疾患を専門とする脳神経内科医による評価が重要です。また、M蛋白血症、POEMS症候群(クロウ・深瀬症候群)、遺伝性ニューロパチー、糖尿病性神経障害、アミロイドーシスなど、似た所見を示す疾患を除外する検査を並行して行います。自己免疫性ノドパチーを疑う場合は、ノドパチー関連抗体を測定します。
- 神経学的診察: 四肢の近位・遠位の筋力低下、感覚障害の分布、すべての腱反射の低下・消失を評価し、典型例か亜型かを判断します。INCATスコアやI-RODSなどの障害度尺度、握力も、治療効果を判定するための基準値として記録します。
- 神経伝導検査(NCS): 診断の中核となる検査です。遠位潜時の延長、伝導速度の低下、F波潜時の延長または消失、伝導ブロック、時間的分散といった脱髄を示す所見を、複数の神経で確認します。感覚神経でも、2本以上の神経で異常がみられることが条件とされます。正中神経の感覚電位が低下しているのに腓腹神経は保たれる「腓腹神経回避パターン」は、CIDPを支持する所見です。
- 脳脊髄液検査(腰椎穿刺): 細胞数は正常なのに蛋白だけが上昇する「蛋白細胞解離」が多くの例でみられ、診断を支持します。ただし、加齢や糖尿病でも軽度の上昇はありうるので、単独では決め手になりません。細胞数が明らかに増えている場合は、感染症、リンパ腫、サルコイドーシスなど他の疾患を考えます。
- MRI(神経根・神経叢): 腕神経叢や腰仙部神経根の腫大、T2強調画像での高信号、ガドリニウム造影による増強効果がみられることがあり、補助的な所見となります。
- 末梢神経超音波検査: 神経の断面積が大きくなっている(神経肥厚)かどうかを、体への負担なく評価できます。補助検査として普及しつつあります。
- 治療反応性の評価: 免疫グロブリン、ステロイド、血漿交換などの免疫治療で客観的な改善が得られることは、診断を支持する所見とされます。逆に、まったく反応しない場合は診断を見直すきっかけになります。
- 神経生検(主に腓腹神経): 診断がつきにくい例で行われることがあります。マクロファージを伴う脱髄、オニオンバルブ形成、炎症細胞浸潤などを確認し、アミロイドーシスや血管炎など他の疾患の除外にも役立ちます。
- 血液検査(除外診断): 血糖・HbA1c、血清・尿の免疫電気泳動(免疫固定法)によるM蛋白の検索、VEGF(POEMS症候群の除外)、甲状腺機能、ビタミンB12、HIV、抗核抗体などを調べます。IgM型のM蛋白がある場合は、抗MAG抗体も測定します。
- ノドパチー関連抗体・遺伝子検査: 抗neurofascin 155抗体、抗contactin-1抗体などは、自己免疫性ノドパチーの診断と治療方針の決定に重要です。家族歴がある場合や、伝導速度が全体に均一に遅い場合は、シャルコー・マリー・トゥース病などの遺伝子検査を検討します。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎と鑑別すべき疾患
- ギラン・バレー症候群: 4週間以内に症状がピークに達し、単相性の経過をとる点で区別されます。ただし、急性発症CIDPとの区別には、発症から8週間以降の経過観察が必要です。
- シャルコー・マリー・トゥース病(遺伝性脱髄性ニューロパチー): 家族歴、凹足などの足の変形、きわめてゆっくりした進行、伝導速度が全体に均一に遅く伝導ブロックや時間的分散が乏しい点が鑑別の手がかりになります。
- POEMS症候群(クロウ・深瀬症候群): λ型M蛋白、血清VEGFの著しい上昇、浮腫、皮膚の変化、臓器の腫大などを伴い、免疫グロブリン療法に反応しにくく、治療方針がまったく異なります。
- 抗MAG抗体関連ニューロパチー(IgM-M蛋白血症): 高齢男性に多く、感覚障害と失調が主体で遠位部が優位に障害され、遠位潜時が著しく延長し、抗MAG抗体が陽性になる点で区別されます。
- 多巣性運動ニューロパチー(MMN): 感覚障害を伴わない非対称な運動障害で、伝導ブロックがみられ、抗GM1 IgM抗体が陽性になることがあります。ステロイドは無効または悪化させうる点が重要です。
- 糖尿病性神経障害・遺伝性ATTRアミロイドーシス・血管炎性ニューロパチー: いずれも主に軸索が障害される疾患で、自律神経症状、全身症状、炎症反応の上昇、生検所見などから区別されます。CIDPの過剰診断が起こりやすい代表的な疾患です。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の治療
治療の目的は、炎症を早く抑えて神経機能を回復させ、軸索障害による後遺症を防ぎ、再発・悪化を防いで生活の質を保つことです。第一選択の治療(導入療法)は、免疫グロブリン静注療法(IVIg)、副腎皮質ステロイド、血漿交換の3つで、いずれも有効性が示されています。どれを選ぶかは、重症度、病型、合併症(糖尿病・骨粗鬆症・心血管疾患など)、通院のしやすさ、本人の希望を考えて決めます。運動型CIDPではステロイドで悪化した報告があり、IVIgが優先されることが多いとされます。導入療法で効果が得られた後は、症状が再び悪化しないよう維持療法を行います。そのうえで、定期的に減量や中止を試み、治療を続ける必要があるかを確認します。効果は握力や障害度尺度などで客観的に評価します。効果が不十分な場合は、診断の再検討(ノドパチーやPOEMS症候群などの見落としがないか)を必ず行ったうえで、他の治療法への切り替えや併用を検討します。リハビリテーションは、すべての時期を通じて大切です。個々の治療の選択と調整は、主治医・専門医とよく相談して決めてください。
- 免疫グロブリン静注療法(IVIg): 献血から作られた免疫グロブリン製剤を、通常5日間かけて点滴する導入療法で、日本でも保険適用があり、効果が比較的早く現れるのが特徴です。導入後は、一定間隔で点滴を繰り返す維持療法が行われることもあります。
- 皮下注射用免疫グロブリン(SCIG): 維持療法として、週1回程度、自宅などで皮下に注射する製剤が日本でも使用可能です。血中濃度の変動が小さく通院の負担を減らせるため、IVIgで効果が安定している患者さんで検討されます。
- 副腎皮質ステロイド: 経口のプレドニゾロンを毎日または隔日で服用する方法や、メチルプレドニゾロン・デキサメタゾンを間欠的に大量投与するパルス療法があります。費用が安く長期寛解も期待できる一方、副作用対策(骨粗鬆症予防、血糖管理、感染予防など)が欠かせません。
- 血漿交換療法(単純血漿交換・免疫吸着療法など): 血液から抗体などを取り除く治療で、効果は速いものの持続が短いため、重症例や他の治療が効かない例での短期的な改善に用いられます。専門施設での実施が必要です。
- FcRn阻害薬: 抗体(IgG)の分解を促して血中IgGを下げる新しい作用機序の薬で、皮下注射製剤がCIDPの維持療法として日本でも承認されています。適応や位置づけについては専門医との相談が必要です。
- 免疫抑制薬: アザチオプリン、シクロスポリン、メトトレキサート、シクロホスファミドなどが、ステロイドの減量や難治例に使われることがあります。ただし、有効性の科学的根拠は限られており、多くはCIDPに対して保険適用外です。
- リツキシマブ(抗CD20抗体): 自己免疫性ノドパチー(抗neurofascin 155抗体・抗contactin-1抗体陽性例など)や、血液疾患を合併する難治例で有効性が報告されています。CIDPに対しては保険適用外で、専門施設で慎重に検討されます。
- リハビリテーション・装具療法: 筋力維持、バランス訓練、関節可動域訓練、作業療法を行い、下垂足には短下肢装具を用いて転倒を予防します。過度な疲労を避けながら、継続することが大切です。
- 疼痛・症状に対する治療: 神経障害性疼痛には、プレガバリン、ミロガバリン、デュロキセチン、三環系抗うつ薬などが使われます。疲労や睡眠障害、気分の落ち込みにも、あわせて対処します。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の予後・長期フォロー
CIDPが直接の原因で命に関わることは少なく、生命予後はおおむね良好とされます。第一選択の治療には多くの患者さん(報告により6〜8割程度)が反応し、一部の方は治療を中止しても寛解を保てます。一方、長期にわたって維持療法が必要な方や、治療を減らすと悪化する「治療依存」の状態が続く方も少なくありません。日常生活が自立している方が多い一方、1〜2割程度の方には杖や車いすが必要な障害が残るとする報告もあります。若年発症、再発寛解型、治療開始が早いこと、軸索障害が軽いことは、良好な予後と関連するとされます。反対に、高齢発症、診断・治療の遅れ、筋萎縮の進行は、機能障害が残る要因になります。小児CIDPは治療反応が良く、長期的な機能予後も比較的良好と報告されています。
長期フォローアップでは、握力、INCATスコアやI-RODSなどの障害度尺度、歩行能力を定期的に評価し、治療効果と再発を客観的に把握します。維持療法を続けている方では、「治療が多すぎていないか」を確認するため、主治医の判断のもとで計画的に減量・投与間隔の延長を試みることが推奨されています。ステロイド使用中は、骨密度、血糖、血圧、眼科の検査を定期的に受けます。IVIg使用中は、腎機能や血栓症のリスクに注意します。経過中に効果が乏しくなった場合は、診断の再検討(ノドパチー、POEMS症候群、アミロイドーシス、遺伝性ニューロパチーなど)が重要です。MGUSを伴う方では、血液疾患への進展がないかも経過を観察します。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、疲れすぎない範囲で体を動かし続けることが筋力と体力の維持に役立ちます。ウォーキング、水中運動、ストレッチなど、主治医やリハビリ担当者と相談した無理のない運動がすすめられます。感覚障害やふらつきがある方は転倒予防が重要です。夜間の足元の照明、手すりの設置、段差の解消、滑りにくい靴を工夫し、必要に応じて装具や杖を使いましょう。しびれのある手足は、やけどや傷に気づきにくいため、入浴時の湯温の確認やこまめな皮膚の観察を心がけてください。感染症をきっかけに悪化することがあるため、手洗いなどの感染予防が大切です。ワクチン接種は、一般には有益性が上回ると考えられていますが、治療内容(ステロイドや免疫抑制薬の使用中は生ワクチンを避けるなど)によって注意点があるため、主治医に相談してください。ステロイドを服用中の方は、自己判断で中止すると危険です。CIDPは遺伝する病気ではないため、遺伝カウンセリングは通常必要ありません。ただし、遺伝性ニューロパチーとの鑑別が問題になる場合は、遺伝専門外来で相談できます。妊娠・出産を考えている方は、治療薬の調整が必要になることがあるため、事前に主治医と相談しましょう。仕事や学業については、通院(点滴)日程や疲労に応じた勤務調整について、職場や学校に理解を求めることが助けになります。
利用できる制度・相談窓口
CIDPは指定難病(「慢性炎症性脱髄性多発神経炎/多巣性運動ニューロパチー」、告示番号14)に指定されています。診断基準を満たし、重症度基準(日常生活の障害度など)に該当する場合、または軽症でも高額な医療を継続している場合(軽症高額該当)には、特定医療費(指定難病)の医療費助成を受けられ、所得に応じて自己負担に上限が設けられます。申請には、難病指定医が作成した臨床調査個人票が必要で、窓口は住所地の保健所や都道府県・指定都市の担当課です。免疫グロブリン療法は高額になるため、高額療養費制度とあわせて早めに相談しましょう。18歳未満(継続の場合は20歳未満まで)の方は、小児慢性特定疾病医療費助成の対象となる場合があります。障害が残る場合は、身体障害者手帳(肢体不自由)の取得により、補装具の給付や各種の減免を受けられることがあります。CIDPは障害者総合支援法の対象疾病に含まれており、手帳がなくても障害福祉サービスを利用できる場合があります。日常生活や就労が制限される場合は、障害年金の対象となる可能性もあります。65歳以上の方は、介護保険による介護サービスや福祉用具の貸与も利用できます。相談窓口として、各都道府県の難病相談支援センター、保健所の保健師、病院の医療ソーシャルワーカー、ハローワークの難病患者就職サポーターなどがあり、患者会からも療養や仕事に関する情報が得られます。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎に伴う心のケア・心理社会的支援
CIDPは長く付き合う病気で、「いつ悪化するかわからない」という先の見えにくさや、点滴のための定期的な通院・入院、仕事や家庭での役割の変化が、大きな心理的負担になります。慢性疾患や難病を抱える方では、抑うつ、不安、適応障害、不眠が起こりやすいことが知られています。CIDPに特有の課題として、まず外見からはわかりにくい疲労やしびれ・痛みがあり、周囲の理解を得にくいことが挙げられます。また、免疫グロブリン療法を続けることへの経済的・時間的負担や、治療の減量・中止を試みる際の「また悪くなるのでは」という不安もあります。発症当初は診断がつかず、複数の医療機関を受診した経験が不信感や疲弊として残ることもあります。ステロイドの副作用で気分が不安定になる場合もあります。気分の落ち込み、意欲の低下、眠れない状態が2週間以上続くときは、我慢せずに主治医に伝えてください。必要に応じて心療内科・精神科、臨床心理士、医療ソーシャルワーカーにつないでもらえます。患者会などで同じ病気の人と経験を分かち合うことも、孤立感の軽減に役立ちます。家族も介護や将来への不安を抱えやすいため、家族自身が相談できる場を持つことが大切です。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の受診の目安
- 手足のしびれや筋力低下が数週間から数か月かけて少しずつ強くなっている場合は、脳神経内科を受診してください。
- 立ち上がりや階段昇降が難しくなった、つまずきやすくなった、物を落としやすくなったなど、日常動作の変化に気づいたときは早めに受診しましょう。
- ギラン・バレー症候群と診断された後、2か月以上たっても悪化が続く場合や、改善と悪化を繰り返す場合は、主治医にCIDPの可能性について相談してください。
- 治療中に握力や歩行能力が明らかに落ちてきた場合は、再発や治療の調整が必要な可能性があるため、次の予約を待たずに連絡しましょう。
- 息苦しさ、飲み込みにくさ、急激に歩けなくなるなどの症状が出た場合は、ためらわず救急受診してください。
- 免疫グロブリン療法の後に、強い頭痛と首の硬さ、片側の手足の麻痺、胸痛、尿量の減少などが出た場合は、すぐに医療機関を受診してください。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎についてのよくある質問
Q. CIDPは治る病気ですか?
A. 多くの患者さんは免疫治療によく反応し、一部の方は治療をやめても良い状態を保てる「寛解」に至ります。一方で、長期にわたって維持療法が必要な方もいます。早期に治療を始めて神経の軸索障害を防ぐことが、良い経過につながります。
Q. ギラン・バレー症候群とはどう違うのですか?
A. どちらも免疫が末梢神経を攻撃する病気ですが、ギラン・バレー症候群は4週間以内に症状がピークに達し、多くは一度きりの経過で回復に向かいます。CIDPは8週間以上かけて進行したり、再発を繰り返したりします。発症当初はギラン・バレー症候群のように見えて、後からCIDPと診断される例もあります。
Q. 免疫グロブリンの点滴はずっと続けなければなりませんか?
A. 必要な期間は人によって大きく異なります。症状が安定していれば、主治医の判断で投与間隔を延ばしたり、量を減らしたりして、治療が必要かどうかを定期的に確認するのが一般的です。自己判断で中止せず、悪化の兆候を記録しながら主治医と相談してください。
Q. 子どもに遺伝しますか?
A. CIDPは後天的な自己免疫疾患であり、遺伝する病気ではありません。家族内で発症することもまれです。ただし、遺伝性ニューロパチーとの区別が問題になる場合には、遺伝子検査を行うことがあります。
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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。