海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん
Medial Temporal Lobe Epilepsy with Hippocampal Sclerosis
海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん(Medial Temporal Lobe Epilepsy with Hippocampal Sclerosis)|海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかん(MTLE-HS)は、側頭葉の内側にある海馬の神経細胞が脱落して硬くなる「海馬硬化」を原因とする焦点てんかんです。成人の薬剤抵抗性てんかんで最も頻度が高い病型の一つとされ、学童期から思春期に発症することが多いです。意識が曇る発作や記憶障害、心理社会的な困難をもたらします。一方で、外科治療で発作消失が期待できる代表的な「治せるてんかん」でもあります。適切な時期に専門施設で評価を受けることで、生活の質の大きな改善が期待できます。
海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんの要点
海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんは、側頭葉内側の海馬の神経細胞が脱落して硬くなる海馬硬化を背景に、意識が曇る発作などを起こす焦点てんかんです。薬が効きにくい例が多く記憶障害も伴いますが、外科治療で発作消失が期待できる指定難病です。
| 別名・略称 | MTLE-HS、MTLE、内側側頭葉てんかん、海馬硬化症、アンモン角硬化、mesial temporal lobe epilepsy with hippocampal sclerosis |
|---|---|
| 分野 | 小児神経・てんかん |
| 好発年齢 | 学童期から思春期に発症することが多い |
| 主な症状 | 意識が曇る発作、記憶障害、心理社会的な困難 |
| 主な検査 | 頭部MRI(海馬の萎縮・硬化の評価)、脳波 |
| 主な治療 | 抗てんかん薬、薬剤抵抗性では外科治療(側頭葉切除術など) |
| 受診する主な診療科 | 神経内科、脳神経外科、小児科(てんかん専門施設) |
| 難病指定 | 指定難病 |
海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんとは
MTLE-HSは、海馬・扁桃体・海馬傍回など側頭葉内側構造から発作が始まる焦点てんかんのうち、病理学的・画像的に海馬硬化(アンモン角硬化)を伴うものを指します。海馬硬化とは、海馬の錐体細胞層(特にCA1、CA4〈歯状回門〉、CA3)の神経細胞が選択的に脱落し、アストロサイトの増生(グリオーシス)によって海馬が萎縮・硬化した状態です。典型例では、乳幼児期の熱性けいれん重積などの初期損傷のあと数年の無症状期を経て、学童期から思春期に発作が始まり、思春期以降に薬が効きにくくなる経過をとります。わが国では指定難病(告示番号141)に指定されています。
病理分類には、国際抗てんかん連盟(ILAE)が2013年に提唱した海馬硬化の分類が用いられます。CA1とCA4を中心に広範な神経細胞脱落を示す1型(古典的海馬硬化、最多)、CA1に限局する2型、CA4に限局する3型、神経細胞脱落を伴わずグリオーシスのみの病型に分けられます。1型は術後の発作予後が良好とされます。海馬硬化に隣接する側頭葉皮質の構築異常を伴うものは限局性皮質異形成(FCD)ⅢA型に分類されます。一方、海馬硬化に腫瘍、血管奇形、FCDⅡ型などの独立した別病変を伴う場合は二重病理(dual pathology)と呼ばれます。歴史的には19世紀に剖検で海馬の硬化が見出され、20世紀半ばに側頭葉切除術の効果が報告されました。2001年には、薬物療法を続けるより手術の方が発作消失率で明らかに優れることがランダム化比較試験で示され、外科治療の位置づけが確立しました。
海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんの疫学・患者数
てんかんの有病率は人口の約0.5〜1%とされ、日本の患者数はおよそ100万人と推定されています。焦点てんかんのなかで側頭葉てんかんは最も多く、その中核をなすのがMTLE-HSです。てんかん外科で手術される成人例のなかで最も多い病態とされますが、海馬硬化の診断には専門的なMRI撮像と読影が必要なため、正確な患者数は把握されていません。発症年齢は小児期後半から思春期(おおむね4〜16歳頃)が多いものの、成人発症もあります。患者の半数前後で、乳幼児期の熱性けいれん(特に長く続く複雑型や重積)の既往が報告されています。明らかな性差はないとされます。
海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんの原因・病態生理
多くは孤発例で、単一遺伝子の病気ではありません。乳幼児期の遷延性熱性けいれん・熱性けいれん重積、中枢神経感染症(脳炎・髄膜炎)、頭部外傷、低酸素性脳障害などの「初期損傷」が海馬に障害を与え、てんかん原性を獲得する(てんかん原性獲得:epileptogenesis)と考えられています。ただし、初期損傷を受けた人の一部しか発症しないことから、熱性けいれんを起こしやすい体質など遺伝的な感受性の関与も想定されています。熱性けいれんを伴う海馬硬化とナトリウムチャネル遺伝子SCN1A周辺の遺伝子多型との関連を示した大規模研究がありますが、発症を決定する遺伝子ではありません。まれに家族内に発症する家族性内側側頭葉てんかんも知られています。また、自己免疫性辺縁系脳炎の後に海馬硬化が生じる例も報告されています。
発症機序としては、初期損傷によってストレスに弱いCA1やCA4の神経細胞と、抑制性介在ニューロンの一部が脱落します。その後、生き残った歯状回顆粒細胞の軸索(苔状線維)が本来とは異なり顆粒細胞層の内側分子層に再分布する苔状線維発芽が起こり、顆粒細胞同士の興奮性の反回回路が形成されます。さらに、顆粒細胞層の分散(granule cell dispersion)、GABA作動性抑制の変化、アストロサイトのカリウム・水チャネルやグルタミン酸取り込み機能の障害、IL-1βなど炎症性サイトカインやHMGB1を介した神経炎症、血液脳関門の破綻などが重なり、海馬回路が過剰興奮しやすくなります。こうして生じた発作は扁桃体・嗅内皮質・島回・前頭葉眼窩面などへ伝播し、多彩な症状を生みます。繰り返す発作がさらに神経細胞の脱落を進めるかについては議論がありますが、長期の発作持続が記憶機能や海馬容積の低下と関連するとの報告があります。
海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんの症状
- 前兆(焦点意識保持発作): 胃からこみ上げてくる不快感(上腹部前兆)が最も典型的で、発作の始まりを本人が自覚できます。意識は保たれ、これ自体が発作の一部です。
- 既視感・未視感、恐怖感: 「前にも同じ体験をした」という既視感(デジャヴ)や、理由のない恐怖・不安が突然起こります。扁桃体や嗅内皮質の関与を示します。
- 嗅覚・味覚の異常: 焦げた臭いや金属味など、実際にはない臭いや味を感じることがあります。鉤回を含む側頭葉内側部の関与を示唆します。
- 焦点意識減損発作: 動作が止まって一点を見つめ、呼びかけに反応しなくなる状態が1〜2分程度続きます。本人は発作中のことを覚えていないことが多いです。
- 口部・手の自動症: 口をもぐもぐさせる、舌なめずりをする、手で衣服をまさぐるなどの無意識の動作がみられます。手の自動症は発作焦点と同じ側に出やすいとされます。
- 対側上肢のジストニア肢位: 発作焦点と反対側の腕が不自然にこわばった姿勢をとることがあり、発作の左右を推定する重要な手がかりになります。
- 発作後のもうろう・失語: 発作後に数分〜数十分ぼんやりした状態が続きます。言語優位半球(多くは左)に焦点がある場合は、発作後に言葉が出にくくなることがあります。
- 焦点起始両側強直間代発作: 発作が両側の大脳へ広がると全身のけいれんに移行し、外傷や窒息のリスクが高まります。この発作の頻度は突然死(SUDEP)の最大の危険因子です。
- 記憶障害: 左側の海馬硬化では言語性記憶(言葉や話の記憶)、右側では視覚性記憶が低下しやすく、もの忘れや学業・仕事への支障として現れます。
- 精神症状: うつ病や不安障害の合併が多く、発作が集中した後に幻覚や妄想が一時的に現れる発作後精神病もみられることがあります。
海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんの経過と合併症
典型的な自然歴は、①乳幼児期の初期損傷(熱性けいれん重積など)、②数年〜十数年の無症状期(潜伏期)、③学童期〜思春期の発作発症、の順に進みます。発症当初は抗てんかん発作薬(ASM)がよく効き、しばらく発作が止まる「ハネムーン期」を経ることもありますが、思春期から成人期にかけて再び増えて薬剤抵抗性となる例が少なくありません。適切に選んだ2種類のASMを十分に使っても発作が抑えられない状態を薬剤抵抗性てんかんと定義し(ILAE)、MTLE-HSでは大半が薬剤抵抗性に至るとする報告があります。発作が続く期間が長いほど、記憶障害、学業・就労の困難、社会的孤立が累積します。
合併症として、まず発作に伴う転倒・外傷・熱傷・溺水があります。焦点起始両側強直間代発作が続く例では、てんかん重積状態やてんかん患者の予期せぬ突然死(SUDEP)のリスクが高まります。精神面ではうつ病・不安障害・自殺念慮の頻度が一般人口より高く、発作後精神病や発作間欠期精神病も起こりえます。認知面では、記憶障害に加えて注意・遂行機能の低下を伴うことがあります。長期のASM服用による副作用(眠気、ふらつき、骨密度低下、薬剤による気分変化、妊娠時の催奇形性など)も、治療上の重要な合併症です。
海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんの診断・診断基準
診断は、①発作症状の詳しい聴取(本人の前兆の内容と、目撃者による発作中の様子。スマートフォンでの動画記録が非常に有用です)、②脳波、③てんかん用プロトコルによる頭部MRIの3本柱で行います。前兆から意識減損・口部自動症へ移行する典型的な発作症状、前側頭部の脳波異常、MRIでの海馬硬化所見がそろえば診断の確度が高まります。薬剤抵抗性で外科治療を検討する場合は、てんかんセンターなどの専門施設で長時間ビデオ脳波モニタリング、核医学検査、神経心理検査を組み合わせた術前評価を行い、発作焦点と病変が一致するか、手術で機能障害が生じるおそれがないかを総合的に判断します。指定難病の申請では、所定の診断基準(臨床症状、脳波、画像所見など)に加え、発作頻度や日常生活への支障の程度などの重症度基準を満たすことが求められます。
- 頭部MRI(てんかんプロトコル): 海馬の長軸に垂直な冠状断の薄いスライスで撮像し、海馬の萎縮、T2強調・FLAIR像での高信号、内部構造の不明瞭化を確認します。患側の側脳室下角の拡大や脳弓・乳頭体の萎縮を伴うこともあり、通常の撮像法では見逃されやすい点に注意が必要です。
- 発作間欠期脳波: 患側の前〜中側頭部に棘波・鋭波がみられ、側頭部の間欠性律動性デルタ活動(TIRDA)も参考になります。睡眠時記録や蝶形骨誘導などの追加電極で検出率が上がります。
- 長時間ビデオ脳波モニタリング: 入院中に発作を記録し、症状と脳波を同時に解析します。発作開始から30秒前後以内に患側の側頭部に律動性のθ波が出現するのが典型的で、焦点の左右判定と心因性非てんかん性発作との鑑別に欠かせません。
- FDG-PET: 発作間欠期に患側側頭葉のブドウ糖代謝低下がみられ、MRIで病変がはっきりしない例でも焦点の推定に役立ちます。
- 発作時脳血流SPECT: 発作中に放射性薬剤を注射して血流増加部位を描出します。間欠期との差分画像をMRIに重ね合わせる解析(SISCOM)で、焦点の局在精度を高めます。
- 脳磁図(MEG): てんかん性の異常活動の発生源を推定する検査で、側頭葉内側か外側(新皮質)かの区別や、他の焦点の有無の評価を補助します。
- 神経心理検査: WAIS(知能検査)やWMS-R(記憶検査)などで、言語性・視覚性記憶を中心に評価します。術前のベースラインとなり、手術後の記憶低下の予測にも用います。
- 言語優位半球・記憶機能の評価: 機能的MRIや、頸動脈から薬剤を注入して片側の大脳半球を一時的に麻酔する和田テストで、言語機能の左右と、反対側の海馬が記憶を支えられるかを評価します。
- 頭蓋内脳波: 非侵襲的検査の結果が一致しない場合や、両側性の焦点が疑われる場合に、深部電極(定位的頭蓋内脳波〈SEEG〉)や硬膜下電極を留置して発作起始部を直接同定します。
海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんと鑑別すべき疾患
- 自己免疫性辺縁系脳炎: 亜急性の記憶障害や精神症状で発症し、MRIで扁桃体・海馬の腫大を伴い、髄液検査や抗LGI1抗体などの自己抗体検査で区別されます。免疫治療が必要となります。
- 側頭葉の腫瘍・血管奇形(てんかん原性腫瘍、海綿状血管腫など): 胚芽異形成性神経上皮腫瘍(DNT)や神経節膠腫などは造影効果や腫瘤性病変の有無をMRIで評価し、治療方針が異なります。
- 限局性皮質異形成・外側側頭葉(新皮質)てんかん: 聴覚性・視覚性の前兆や早期の言語症状を示しやすく、MRIで海馬以外の皮質の異常や、脳波で外側側頭部の焦点がみられます。
- 前頭葉てんかん: 睡眠中に多く、持続が短く、激しい運動症状を伴い、発作後のもうろうが軽い点が側頭葉てんかんと異なります。
- 心因性非てんかん性発作(PNES): 発作時に閉眼している、左右非同期の動きがあるなどの特徴を示し、ビデオ脳波で発作中に脳波異常がないことにより鑑別されます。ただし、てんかんと併存することもあります。
- 失神・一過性全健忘・欠神発作: 失神は立位などの誘因と速やかな回復、一過性全健忘は数時間に及ぶ記憶の空白と反復質問、欠神発作は数秒程度と短く脳波で全般性棘徐波を示す点が異なります。
海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんの治療
治療の第一段階は抗てんかん発作薬(ASM)による薬物療法で、焦点てんかんに有効な薬を1剤から開始し、効果と副作用をみながら調整します。ただし、MTLE-HSは薬剤抵抗性になりやすい代表的な病型であり、適切な2剤で発作が抑制されない時点で、てんかん外科のある専門施設へ早期に紹介し、手術の適否を評価することが国内外のガイドラインで推奨されています。手術で発作が消失すれば、事故・突然死リスクの低下、就労・運転などの社会的自立、精神症状の改善が期待できます。手術の適応がない場合や手術後も発作が残る場合は、緩和的な外科治療(迷走神経刺激療法)や薬の最適化を行います。生活指導、精神症状への対応、心理社会的支援も並行して行います。どの治療を選ぶかは、発作の重さ、記憶・言語機能への影響、ライフステージ(妊娠希望など)を踏まえ、主治医・てんかん専門医と十分に相談して決めることが大切です。
- 抗てんかん発作薬(ASM): 焦点発作に対しては、ラモトリギン、レベチラセタム、カルバマゼピン、ラコサミド、オクスカルバゼピン、ペランパネル、ゾニサミド、トピラマートなどから選択します。選択にあたっては、年齢・性別・併存症・薬物相互作用を考慮します。発症初期は有効でも、経過中に効きにくくなることが少なくありません。
- 薬剤抵抗性の判定と専門施設への紹介: 適切に選び十分量使用した2種類のASMで発作が消失しない場合を薬剤抵抗性とし、3剤目以降で発作が消失する可能性は低いとされます。漫然と薬を追加し続けず、てんかんセンターでの術前評価を検討します。
- 前側頭葉切除術: 側頭葉前部と海馬・扁桃体を切除する標準術式です。適切に選ばれた症例では約6〜8割で発作消失が得られ、薬物療法を続けるより発作消失率が明らかに高いことがランダム化比較試験で示されています。
- 選択的扁桃体海馬切除術: 側頭葉外側の新皮質を温存して内側構造のみを切除する術式で、認知機能への影響を抑えることを目指します。発作予後は前側頭葉切除術とおおむね同等とする報告が多いですが、施設ごとの方針により選ばれます。
- 手術の合併症と対策: 視放線の障害による反対側上方の視野欠損(1/4盲)、言語優位側の手術での言語性記憶低下や物の名前が出にくくなる症状、気分変調などが起こりえます。術前評価で危険度を予測し、本人・家族が利点と危険を理解したうえで決定します。
- レーザー間質温熱療法などの低侵襲治療: MRIで確認しながら細いレーザープローブで海馬を焼灼する方法が海外で普及しつつあり、切除術より侵襲が小さい一方、発作消失率はやや低いとの報告があります。国内で実施できる施設は限られます。
- 迷走神経刺激療法(VNS): 頸部の迷走神経に電極を巻き、胸部に埋め込んだ装置で間欠的に刺激する緩和的治療です。開頭手術が適さない例や手術後も発作が残る例で、発作の頻度や重症度の軽減を目的に行われます。
- 発作時の対応・救急治療: けいれんが5分以上続く場合や発作が繰り返し意識が戻らない場合は、てんかん重積状態としてベンゾジアゼピン系薬などで速やかに治療します。発作時に家族が使用できる頓用薬(口腔用液など)が処方されることもあります。
- 精神症状・認知機能への対応: うつ病・不安障害には精神科医と連携した薬物療法や精神療法を行います。記憶障害には、メモ・スマートフォンを使った代償手段や認知リハビリテーションを取り入れます。
海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんの予後・長期フォロー
MTLE-HSそのものが生命を直接脅かすことは少ないものの、発作が続く例では外傷、溺水、てんかん重積状態、SUDEPによる死亡リスクが一般人口より高くなります。外科治療の成績は良好で、術後1〜2年の時点で約6〜8割が発作消失に至るとされます。長期的にも半数前後が10年以上発作のない状態を維持すると報告されていますが、一部では数年後に発作が再発します。発作が消失すると、SUDEPリスクの低下、運転・就労の可能性の拡大、抑うつの改善など、生活の質が大きく向上します。罹病期間が短いうちに手術した方が心理社会的な予後がよいことが示唆されており、早期の手術評価が重視されています。薬物療法のみで長期間発作がコントロールされる例も一部に存在します。
長期フォローアップでは、発作の頻度、ASMの血中濃度と副作用、骨密度、精神症状、記憶機能を定期的に評価します。術後は少なくとも1〜2年はASMを継続し、発作消失が続けば専門医の判断で慎重に減量・中止を検討しますが、減量中に再発することもあるため自己判断での中止は避けます。術後も神経心理検査や脳波で経過を確認し、記憶低下への支援や復学・復職の調整を行います。女性では妊娠可能年齢に入る前から、妊娠・出産を見据えた薬の選択(バルプロ酸の催奇形性への配慮、葉酸補充など)を主治医と計画しておくことが重要です。
海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんの日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
規則正しい睡眠、服薬の継続、過度の飲酒を避けることが発作予防の基本で、睡眠不足や飲み忘れは発作の大きな誘因です。服薬アプリや発作日誌(動画記録を含む)を活用すると、受診時の治療判断に役立ちます。入浴はシャワー中心にするか家族に声をかけてから入り、高所作業や一人での水泳は避けるなど、発作が起きても危険が少ない環境を整えます。自動車運転は、道路交通法により一定期間(原則として2年間)発作がなく、医師が支障なしと判断した場合などに限って認められており、病状の申告を正しく行う必要があります。家族は、発作中は本人を無理に押さえつけず、口に物を入れず、周囲の危険物を除いて時間を計る、全身けいれん後は横向きに寝かせる、といった対応を身につけておくと安心です。本疾患は大半が遺伝性ではないため子どもへの遺伝を過度に心配する必要はありませんが、家族歴がある場合や妊娠・出産に不安がある場合は、主治医や遺伝カウンセリングで相談できます。学校や職場には、発作時の対応を記したカードなどで情報共有しておくと、周囲の理解と安全につながります。
利用できる制度・相談窓口
本疾患は指定難病(告示番号141)であり、診断基準と重症度基準を満たせば、都道府県・指定都市に申請して医療費助成(自己負担上限額の設定)を受けられます。重症度基準を満たさない場合でも、医療費が一定以上かかる場合は「軽症高額該当」として対象となることがあります。てんかんの通院医療費は、自立支援医療(精神通院医療)により原則1割負担となる制度も利用可能で、どちらを利用するのが有利かは状況によって異なります。発作や精神・認知の症状により日常生活に制限がある場合は、精神障害者保健福祉手帳の取得や障害年金の申請が可能で、手帳による税の控除、公共料金の割引、障害者雇用枠での就労などにつながります。18歳未満では小児慢性特定疾病の対象となる場合があるため、主治医に確認してください。相談窓口としては、主治医、医療機関の医療ソーシャルワーカー、保健所、難病相談支援センター、精神保健福祉センターのほか、全国てんかん対策地域診療連携体制整備事業によるてんかん支援拠点病院、患者・家族団体(日本てんかん協会)などがあります。
海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんに伴う心のケア・心理社会的支援
MTLE-HSは、てんかんのなかでも特にうつ病・不安障害の合併が多いことが知られています。その背景には、感情を担う辺縁系(扁桃体・海馬)そのものが病気の舞台であるという生物学的要因と、いつ発作が起こるかわからない予測不能性、運転や就労の制限、周囲の偏見(スティグマ)、記憶力の低下による自信喪失といった心理社会的要因の両方があります。思春期に発症することが多いため、進学・就職・恋愛など人生の重要な時期に病気と向き合わざるをえず、孤立しやすい点も特徴です。外科治療を検討する際には「手術への恐怖」と「発作が消えるかもしれない期待」の間で揺れることも自然な反応であり、手術後には発作がなくなった生活への適応の難しさ(役割や人間関係の変化)を感じる人もいます。また、一部のASMでは気分の落ち込みやいらいらが副作用として現れることがあるため、気分の変化は遠慮せず主治医に伝えてください。抑うつや不安は治療で改善が見込める症状です。気分の落ち込みが続く、眠れない、死にたい気持ちがあるといった場合は、早めに主治医・精神科医・臨床心理士などに相談し、患者会などで同じ病気の人とつながることも支えになります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんの受診の目安
- けいれんが5分以上続く場合、または発作を繰り返して間に意識が回復しない場合は、てんかん重積状態の可能性があるため、ただちに救急車を呼んでください。
- 発作で頭を強く打った、溺れかけた、呼吸状態が悪い、発作後に普段と明らかに異なる麻痺や意識障害が続く場合は、速やかに救急受診してください。
- 胃のこみ上げ感や既視感の後にぼんやりして口をもぐもぐさせる、といった発作が疑われる場合は、神経内科・脳神経外科・小児科などの専門医を受診してください。
- 2種類以上の薬を適切に使っても発作が続く場合は、外科治療の適否を評価するため、てんかんセンターなどの専門施設への紹介を主治医に相談してください。
- 発作の頻度や様子が変わった場合、薬の副作用(強い眠気、ふらつき、発疹、気分の変化)が出た場合は、早めに主治医に連絡してください。
- 気分の落ち込みが続く、死にたい気持ちがある、幻覚や妄想が現れた場合は、すぐに主治医や精神科に相談してください。
海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんについてのよくある質問
Q. 熱性けいれんを起こした子どもは、将来このてんかんになりますか?
A. 熱性けいれんの大部分は自然に治まり、てんかんに移行することはまれです。MTLE-HSの患者さんに長く続いた熱性けいれんの既往が多いことは知られていますが、熱性けいれんを起こした子どものごく一部が発症するにすぎません。けいれんが長く続いた場合や、発熱のない発作がみられた場合は主治医に相談してください。
Q. 薬で発作が止まらないとき、手術はどのくらい効果がありますか?
A. 適切な術前評価で手術に適すると判断された場合、約6〜8割の方で発作が消失するとされ、薬を続けるより高い効果がランダム化比較試験で示されています。一方で、視野の一部の欠損や記憶低下などのリスクもあるため、専門施設で詳しい検査を受け、利点と危険を十分理解したうえで判断します。
Q. 手術で発作がなくなったら、薬はやめられますか?
A. 手術後も通常は1〜2年程度は薬を続け、発作のない状態が保たれていれば、専門医の判断で慎重に減量を検討します。減量中や中止後に再発する例もあるため、自己判断で中止せず、主治医と相談しながら進めることが大切です。
Q. 妊娠・出産はできますか?
A. 多くの方が妊娠・出産をしています。ただし、薬の種類によっては胎児への影響(特にバルプロ酸)があるため、妊娠を希望する段階から主治医と薬の調整や葉酸の補充を計画することが勧められます。妊娠中に自己判断で薬をやめると発作が増え、母子ともに危険になるため避けてください。
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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。