大田原症候群
Ohtahara Syndrome
大田原症候群(Ohtahara Syndrome)|大田原症候群は、生後3か月以内、多くは新生児期から乳児早期に始まる重いてんかんです。短い強直発作(強直スパスム)が1日に何十回も繰り返し、脳波に「サプレッション・バースト」と呼ばれる特徴的な波形が現れます。発作が止まりにくいだけでなく、脳の発達そのものが強く妨げられるため、多くの患児に重度の知的障害や運動障害が残り、家族の生活にも長期的な影響が及びます。なお、紫斑や血小板減少を主体とする疾患として説明されることがありますが、これは誤りで、本症は血液疾患ではなく乳児期早期発症の発達性てんかん性脳症です。
大田原症候群の要点
大田原症候群は、生後3か月以内に発症し、強直スパスムを繰り返して脳波にサプレッション・バーストを示す、乳児期早期発症の発達性てんかん性脳症です。原因は脳形成異常や遺伝子変異など多様で、発作は薬剤抵抗性で重い発達の遅れを伴いやすく、日本の指定難病(告示番号146)です。
| 別名・略称 | 早期乳児てんかん性脳症、サプレッション・バーストを伴う早期乳児てんかん性脳症、EIEE、early infantile epileptic encephalopathy with suppression-burst |
|---|---|
| 分野 | 小児神経・てんかん |
| 好発年齢 | 生後3か月以内(多くは新生児期〜乳児早期) |
| 主な症状 | 強直スパスム(単発またはシリーズ)、発達の遅れ |
| 主な検査 | 脳波(サプレッション・バースト)、頭部MRI、遺伝子検査 |
| 原因・遺伝形式 | 原因は多様で単一ではなく、遺伝形式も原因により異なる |
| 主な治療 | 抗てんかん薬を中心とした治療(発作は難治) |
| 受診する主な診療科 | 小児神経科 |
大田原症候群とは
大田原症候群は、1976年に日本の小児神経科医である大田原俊輔らが「サプレッション・バーストを伴う早期乳児てんかん性脳症(early infantile epileptic encephalopathy with suppression-burst:EIEE)」として報告した、年齢依存性のてんかん症候群です。中核となる特徴は三つあります。①生後3か月以内(多くは生後10日前後まで)の発症、②主な発作型が強直スパスム(数秒間、体幹や四肢を硬くこわばらせる発作)で、単発または数回〜十数回の連続(シリーズ)で起こり、覚醒時にも睡眠時にも出現すること、③脳波で、高振幅の棘波・鋭波・徐波が混在する「バースト」と、ほぼ平坦な「サプレッション」が数秒ごとに規則的に交互に現れるサプレッション・バースト(SB)パターンが、覚醒時・睡眠時を問わず持続して認められることです。発作が抗てんかん薬に強く抵抗するうえ、てんかん性異常活動そのものが脳の発達を障害すると考えられることから、「てんかん性脳症」の代表的疾患と位置づけられ、日本では指定難病(告示番号146)に指定されています。
病態の背景は単一ではなく、脳形成異常などの構造的異常、遺伝子変異、まれに代謝異常など多様な原因が「新生児・乳児早期の未熟な脳」に作用した結果として、共通の臨床像を呈する症候群と理解されています。類縁疾患として、ミオクロニー発作を主体とし代謝異常が原因となることの多い早期ミオクロニー脳症(EME)があり、従来は両者を区別してきました。しかし原因遺伝子や臨床像の重なりが大きいことから、2022年の国際抗てんかん連盟(ILAE)の分類では、両者を包含する「早期乳児発達性てんかん性脳症(early infantile developmental and epileptic encephalopathy:EIDEE)」という概念が提唱されています。国内の臨床・制度上は現在も「大田原症候群」の名称が用いられています。また本症は、年齢とともに発作型・脳波が変化する「年齢依存性てんかん性脳症」の一連の流れの最初に位置し、多くは乳児期にウエスト症候群へ、さらに一部は幼児期以降にレノックス・ガストー症候群へと移行することが古くから知られています。
大田原症候群の疫学・患者数
大田原症候群はてんかん症候群の中でもまれで、小児てんかん全体に占める割合はごくわずかとされています。発生頻度については、海外・国内の地域調査で出生数万〜十数万人に1人程度との報告がありますが、診断基準の違いもあり正確な数は確立していません。国内の患者数も多くはなく、指定難病の受給者数などから推計して数百人規模以下と考えられています。発症年齢は定義上生後3か月以内で、大半は新生児期から生後1か月前後までに発症し、出生当日や数日以内に発作が始まる例もあります。明らかな性差はないとされますが、原因によっては偏りがあり、例えばX連鎖性のARX遺伝子異常では男児に多くみられます。原因の内訳は、かつては脳形成異常が多いとされていましたが、遺伝子解析技術の進歩により、MRIで異常を認めない例の相当数で原因遺伝子が見つかるようになっています。
大田原症候群の原因・病態生理
原因は大きく、構造的要因、遺伝的要因、代謝性要因に分けられます。構造的要因としては、片側巨脳症、限局性皮質異形成、滑脳症などの神経細胞移動異常、孔脳症、アイカルディ症候群、歯状核オリーブ核異形成などの脳形成異常が知られています。遺伝的要因としては、シナプス小胞の放出に関わるSTXBP1、神経細胞の興奮性を調節するカリウムチャネルKCNQ2、ナトリウムチャネルSCN2A、脳発生に関わる転写因子ARXなどの遺伝子の病的変異が代表的で、そのほかにも多数の関連遺伝子が報告されています。多くは両親に変異がなく患児で新たに生じた(de novo)ヘテロ接合性変異で、常染色体顕性(優性)の様式をとりますが、ARXのようにX連鎖性のものや、常染色体潜性(劣性)遺伝形式をとるものもあります。代謝性要因は早期ミオクロニー脳症でより多いものの、ピリドキシン(ビタミンB6)依存性てんかんやその関連疾患、非ケトーシス型高グリシン血症、モリブデン補酵素欠損症などの先天代謝異常が類似の臨床像を示すことがあり、治療可能な原因として見逃さないことが重要です。原因の検索を尽くしても特定できない例も一定数存在します。
発症機序の詳細は原因ごとに異なりますが、共通する仮説として、新生児・乳児早期という脳発達の特定の時期に、大脳皮質と皮質下構造(とくに脳幹・視床などの深部構造)の機能的な結合が障害されることが考えられています。サプレッション・バーストは、皮質の神経活動がほとんど停止する時相と、同期した過剰な放電が爆発的に起こる時相が交互に現れる状態で、正常な皮質ネットワークの成熟が阻害されていることを反映すると解釈されています。遺伝子変異による場合は、イオンチャネルの機能亢進または低下による神経細胞の興奮性の異常、シナプス伝達の障害、脳発生過程での神経細胞の配置異常などが想定されています。例えばKCNQ2変異ではM電流と呼ばれる抑制性カリウム電流が低下して神経細胞が過剰興奮しやすくなり、STXBP1変異では神経伝達物質放出の機構が障害されます。未熟な脳では興奮性と抑制性のバランスが成熟脳と異なるため、同じ遺伝子異常でも乳児早期に特有の発作型と脳波像が現れ、成長に伴って発作型がスパスム中心のウエスト症候群型へと変化していくと考えられています。さらに、絶え間ないてんかん性放電そのものが、シナプス形成や神経回路の発達を妨げ、発達障害を悪化させる要因となる点が「てんかん性脳症」と呼ばれるゆえんです。
大田原症候群の症状
- 強直スパスム(強直発作): 本症の中核となる発作で、数秒〜10秒程度、頸部・体幹・四肢を屈曲または伸展させて硬くこわばらせます。単発でも、数回〜十数回連続するシリーズでも起こり、覚醒時・睡眠時を問わず出現します。
- 非常に高い発作頻度: 発作は1日に数十回から百回以上に及ぶことがあり、短い間隔で繰り返し起こります。授乳や睡眠が細切れになり、患児の体力消耗や家族の疲弊につながります。
- 焦点発作(部分発作): 約3分の1から半数程度で、片側の手足や顔のけいれん、眼球や頭部が一方へ向く発作などの焦点発作を伴うとされます。脳の局所病変がある場合にみられやすい傾向があります。
- ミオクロニー発作: 瞬間的にピクッと筋肉が収縮する発作で、本症では頻度は高くありませんが、伴う例もあります。ミオクロニー発作が主体の場合は早期ミオクロニー脳症との鑑別が問題になります。
- 発達の遅れ・停滞: 追視、あやし笑い、首のすわりなどの発達がみられない、あるいは遅れることが多く、重度の知的障害に至る例が大半です。発作開始前から発達の異常を認める場合もあります。
- 筋緊張の異常: 体が柔らかすぎる筋緊張低下、または硬く突っ張る筋緊張亢進(痙性)がみられ、成長とともに四肢麻痺などの脳性麻痺様の運動障害として固定することがあります。
- 哺乳・嚥下障害: 吸う力や飲み込む力が弱く、哺乳量が不十分になったり、むせや誤嚥を起こしたりします。体重増加不良の原因となり、経管栄養が必要になることもあります。
- 呼吸の異常: 発作時に無呼吸やチアノーゼを伴うことがあるほか、筋緊張低下や誤嚥のため呼吸状態が不安定になることがあります。重症例では呼吸管理を要します。
- 視覚反応の乏しさ: 眼球自体に異常がなくても、大脳の視覚処理の障害(皮質性視覚障害)により、物や人の顔を目で追う反応が乏しいことがあります。
- 睡眠・覚醒リズムの障害: 頻回の発作や脳機能障害のため、昼夜のリズムが形成されにくく、睡眠が浅く途切れがちになることがあります。
- 原因疾患に伴う身体所見: 片側巨脳症では頭囲の左右差や大頭、脳形成異常症候群では顔貌や身体の特徴など、背景疾患に応じた所見を伴うことがあります。
大田原症候群の経過と合併症
大田原症候群の自然歴は「年齢依存性の変容」が特徴です。新生児期〜乳児早期に強直スパスムとサプレッション・バーストで発症した後、多くの例(報告によっては半数以上から7割程度)では、生後3〜6か月頃に脳波がヒプスアリスミア(高振幅で無秩序な徐波と棘波の混在)へ変化し、発作もシリーズ形成性のてんかん性スパスムを主体とするウエスト症候群へ移行します。さらにその一部は、1〜3歳以降に強直発作・非定型欠神発作・脱力発作などを特徴とし、脳波で遅棘徐波を示すレノックス・ガストー症候群へ移行するか、多焦点性の難治てんかんとして経過します。発作頻度が乳児期後半以降に減少する例もありますが、てんかんが完全に消失する例は少数です。発達面では、重度の知的障害や運動障害を残すことが大半で、座位や歩行、有意語の獲得に至らない例も多くみられます。ただし原因によって経過には幅があり、KCNQ2関連などで発作が比較的早期に抑制される例や、病変切除によって発作と発達が改善する例も報告されています。
合併症としては、まず発作に関連するものとして、てんかん重積状態、発作時の無呼吸・低酸素、発作に伴う外傷があります。運動障害に関連して、側弯症、股関節脱臼、関節拘縮が進行しやすく、姿勢管理が重要です。嚥下障害や胃食道逆流症により誤嚥性肺炎を繰り返すことがあり、これは乳幼児期の主要な死亡原因の一つです。栄養障害・成長障害、便秘、抗てんかん薬の副作用(眠気、唾液・気道分泌物の増加、肝機能障害、骨代謝への影響など)にも注意が必要です。重症例では、上気道閉塞や中枢性の呼吸障害に対して気管切開や人工呼吸器を要することもあります。これらの合併症は生活の質と生命予後に大きく影響するため、多職種による継続的な管理が求められます。
大田原症候群の診断・診断基準
診断は、臨床症状と脳波所見を軸に行い、並行して原因検索を進めます。生後3か月以内に強直スパスムを主とする頻回の発作が出現し、脳波で覚醒・睡眠を通じて持続するサプレッション・バーストを認めれば、本症を強く疑います。発作の様子はビデオ脳波同時記録で確認し、新生児にみられやすい非てんかん性の動き(ふるえ、睡眠時ミオクローヌスなど)と区別します。次に、頭部MRIで脳形成異常などの構造的原因を評価し、血液・尿・髄液の代謝検査で治療可能な先天代謝異常を除外し、さらに遺伝学的検査で原因遺伝子を検索します。とくにビタミンB6関連の代謝異常は、早期に治療すれば経過が大きく変わりうるため、原因が判明するまでの間にピリドキシンやピリドキサールリン酸の試験投与が行われることがあります。指定難病の申請では、発症時期、発作型、脳波所見などからなる診断基準に加え、発作の頻度や発達・運動障害の程度による重症度評価が用いられます。診断と原因検索には専門的な判断が必要なため、小児神経専門医やてんかん専門施設での評価が望まれます。
- 脳波検査(ビデオ脳波同時記録): 覚醒時・睡眠時を通じて規則的に繰り返すサプレッション・バーストが診断の決め手です。ビデオ同時記録により、強直スパスムと脳波変化の対応を確認し、非てんかん性の動きを除外できます。
- 頭部MRI: 片側巨脳症、限局性皮質異形成、滑脳症、孔脳症、脳梁欠損などの構造的原因を評価します。乳児期は髄鞘化が未熟で病変が見えにくいことがあり、成長に伴う再検査が有用な場合があります。
- 遺伝学的検査: てんかん関連遺伝子パネル、エクソーム解析、染色体マイクロアレイなどでSTXBP1、KCNQ2、SCN2A、ARXなどの変異やゲノムのコピー数異常を調べます。原因の特定は治療薬の選択、予後の見通し、遺伝カウンセリングに役立ちます。
- 代謝スクリーニング(血液・尿): 血糖、電解質、乳酸・ピルビン酸、アンモニア、血中アミノ酸、尿中有機酸、尿酸、尿中スルフィテストなどで先天代謝異常を検索します。治療可能な疾患を早期に見つけることが目的です。
- 髄液検査: 髄液と血漿のグリシン比(非ケトーシス型高グリシン血症)、髄液糖(グルコーストランスポーター1欠損症)、神経伝達物質代謝物などを評価します。感染症の除外にも用いられます。
- ビタミンB6(ピリドキシン/ピリドキサールリン酸)試験投与: ビタミンB6依存性てんかんおよび関連疾患を念頭に、脳波・発作の変化を観察しながら投与します。投与後に無呼吸や筋緊張低下が起こることがあるため、監視下で行われます。
- 指定難病の診断基準・重症度分類: 発症時期、強直スパスムなどの発作型、サプレッション・バーストの脳波所見などに基づき診断します。医療費助成の対象となる重症度は、発作頻度や日常生活・発達への影響を評価する基準で判定されます。
- 発達・神経学的評価: 運動・認知・視覚・聴覚の発達を定期的に評価し、リハビリテーションや療育の計画、合併症の早期発見に役立てます。
大田原症候群と鑑別すべき疾患
- 早期ミオクロニー脳症: 発症時期とサプレッション・バーストは共通しますが、不規則な断片的ミオクロニー発作が主体で、脳波のSBが睡眠時に目立ち、代謝異常(非ケトーシス型高グリシン血症など)が原因となることが多い点で区別されてきました。
- ウエスト症候群: シリーズ形成性のてんかん性スパスムとヒプスアリスミアを特徴とし、典型的には生後3〜12か月の発症で、大田原症候群から移行する場合も含め発症時期と脳波像で鑑別します。
- 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん: 乳児早期に発症する難治てんかんですが、発作が左右の脳の部位を移動しながら連続する焦点発作を主体とし、SBではなく移動する発作時脳波を示す点が異なります。
- 自然終息性(良性)家族性新生児てんかん: KCNQ2変異などで新生児期に発作を起こしますが、発作間欠期の脳波や発達はおおむね正常で、家族歴を伴い数か月以内に発作が終息する点が異なります。
- ビタミンB6依存性てんかんなどの治療可能な代謝性てんかん: 類似の発作やSB様脳波を示すことがありますが、ビタミンB6製剤などの特異的治療で発作が劇的に改善し、代謝検査や遺伝子検査で確定される点が鑑別の要となります。
- 新生児の非てんかん性の動き(ジッタリネス、良性新生児睡眠時ミオクローヌスなど): 発作に似た動きを示しますが、脳波に発作性の変化を伴わず、刺激や覚醒・体位変換で動きが変化・停止する点で区別されます。
大田原症候群の治療
大田原症候群には現時点で確立した標準治療がなく、発作の抑制、原因に応じた特異的治療、そして発達と生活の質を支える包括的ケアを並行して行うのが基本方針です。まず治療可能な代謝性原因(ビタミンB6関連疾患など)を早期に検索・治療します。次に、各種抗てんかん薬を発作型や原因を考慮しながら選択しますが、効果は限定的なことが多く、複数の薬剤を順次試すことになります。近年は原因遺伝子に応じた薬剤選択(プレシジョン・メディシン)の考え方が重視されつつあり、脳の局所病変が原因の場合は早期のてんかん外科手術が発作と発達の改善につながる可能性があります。ウエスト症候群へ移行した場合は、その治療に準じた対応が検討されます。いずれの治療も効果と副作用のバランス、家族の希望を踏まえて個別に判断されるもので、主治医やてんかん専門医と十分に相談することが大切です。
- 抗てんかん薬: フェノバルビタール、ゾニサミド、トピラマート、レベチラセタムなどが用いられますが、単剤で発作が止まる例は少なく、効果と副作用を見ながら調整します。保険適用の範囲や使用法は薬剤ごとに異なるため、専門医の判断が必要です。
- 原因遺伝子に応じた薬剤選択: KCNQ2変異や一部のSCN2A変異(機能亢進型)では、カルバマゼピンなどのナトリウムチャネル遮断薬が有効であったとする報告があります。一方で同じ遺伝子でも変異の性質によっては悪化しうるため、遺伝子診断に基づく慎重な選択が求められます。
- ビタミンB6製剤: ピリドキシンまたはピリドキサールリン酸の投与は、診断的治療として行われるほか、関連する代謝異常が確定すれば継続治療となります。
- ACTH療法・副腎皮質ステロイド: ウエスト症候群へ移行した場合などに、ACTH療法が検討されます。大田原症候群の段階での効果は限定的とされ、感染症、高血圧、脳の萎縮様変化、心筋肥大などの副作用に注意が必要です。
- ビガバトリン: 日本では点頭てんかん(ウエスト症候群)に対して承認されている薬剤で、移行例や結節性硬化症合併例などで検討されることがあります。視野障害などの副作用に対する評価が必要です。
- ケトン食療法: 高脂肪・低糖質の食事で体内にケトン体を産生させる治療で、薬剤抵抗性の場合に選択肢となります。栄養士を含む専門チームの管理下で導入・継続されます。
- てんかん外科手術: 片側巨脳症や限局性皮質異形成など、病変が局所または片側の大脳半球に限られる場合、半球離断術や焦点切除術により発作が抑制され、発達が改善する可能性があります。手術適応と時期はてんかん外科の専門施設で検討されます。
- リハビリテーション・療育: 理学療法・作業療法・言語聴覚療法により、姿勢保持、拘縮予防、摂食嚥下機能の向上、コミュニケーションの発達を支援します。座位保持装置などの補装具の活用も含まれます。
- 栄養・呼吸の管理と医療的ケア: 哺乳・嚥下障害には経管栄養や胃ろう、胃食道逆流症には内科的・外科的治療を検討します。呼吸障害には吸引、在宅酸素、気管切開や人工呼吸器などが必要になることがあります。
大田原症候群の予後・長期フォロー
大田原症候群は、てんかんの中でも予後が厳しい疾患とされています。乳幼児期の死亡率は高く、とくに重度の脳形成異常を伴う例や重い呼吸・嚥下障害を伴う例では、感染症や呼吸不全で乳児期〜幼児期に亡くなることがあります。生存した場合も多くは重度の知的障害と運動障害を残し、ウエスト症候群やレノックス・ガストー症候群などへ移行して難治てんかんが続くことが少なくありません。一方で、原因によって経過には幅があり、KCNQ2関連の一部や、早期に病変切除が行えた例、ビタミンB6関連の代謝異常が早期に治療された例などでは、比較的良好な発作・発達予後が得られることもあります。そのため、原因を特定する意義は大きいといえます。生活の質の観点では、発作の頻度を減らすことに加え、栄養、呼吸、睡眠、姿勢、痛みの管理を整えることで、本人が穏やかに過ごせる時間を増やすことが重要な目標になります。
長期フォローアップでは、小児神経科を中心に、脳波による発作・脳波像の変化の評価、抗てんかん薬の血中濃度や副作用(肝機能、血球、骨代謝など)の定期チェック、発達評価を継続します。ウエスト症候群やレノックス・ガストー症候群への移行の兆候(発作型の変化、発作の増加、発達の後退)を早期に捉え、治療を見直すことが大切です。整形外科による側弯・股関節の評価、消化器・栄養面の管理、呼吸器管理、眼科・耳鼻科での感覚機能評価、歯科でのケアなど、多職種の連携が欠かせません。思春期以降には、体格の変化に伴う介護量の増加や、小児科から成人診療科への移行(トランジション)が課題となるため、早めに移行先の医療機関や支援体制を準備しておくことが勧められます。
大田原症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、発作時の安全確保が基本です。発作が起きたら、慌てずに周囲の危険物を除き、顔を横向きにして吐物による窒息を防ぎ、発作の始まった時刻、持続時間、様子を記録します。可能であればスマートフォンで動画を撮っておくと、主治医が発作型を判断する重要な情報になります。発作が長く続く場合の対応(頓用薬の使い方や救急要請の基準)は、あらかじめ主治医と具体的に決めておきましょう。抗てんかん薬は自己判断で中断・減量すると発作が悪化するおそれがあるため、指示どおりに続けることが大切です。授乳・食事は誤嚥しにくい姿勢や形態を言語聴覚士などと相談し、体重の推移を確認します。感染症は発作の悪化や肺炎のきっかけになるため、主治医と相談のうえ予防接種を計画的に受け、手洗いなどの感染対策を心がけます。在宅で医療的ケアが必要な場合は、訪問看護や短期入所(レスパイト)を活用し、介護する家族が休息をとれる体制をつくることも重要です。遺伝子変異が判明した場合や原因が不明な場合には、次子の再発リスクや出生前検査について、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることができます。多くの原因遺伝子変異は両親に由来しない新生変異ですが、遺伝形式によっては再発の可能性があるほか、親の体細胞・生殖細胞モザイクの可能性もあるため、個別の評価が必要です。
利用できる制度・相談窓口
大田原症候群は指定難病(告示番号146)であり、診断基準を満たし重症度基準に該当する場合などに、医療費助成を受けられます。また18歳未満(継続の場合は20歳未満まで)では、小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象疾病にも含まれています。どちらも申請には指定医による診断書(医療意見書・臨床調査個人票)が必要で、窓口は都道府県・指定都市(多くは保健所や各自治体の担当課)です。このほか、各自治体の乳幼児・子ども医療費助成も利用できます。障害に関しては、身体障害者手帳(肢体不自由、呼吸機能障害など)、療育手帳(知的障害)、精神障害者保健福祉手帳(てんかんによる)を状態に応じて申請でき、特別児童扶養手当、障害児福祉手当などの手当の対象となる場合があります。障害者総合支援法・児童福祉法に基づく居宅介護、短期入所、児童発達支援、放課後等デイサービス、補装具・日常生活用具の給付も活用できます。医療的ケア児については、各都道府県の医療的ケア児支援センターが相談に応じています。20歳以降は障害基礎年金(20歳前傷病による障害基礎年金)の対象となりうるため、時期が近づいたら年金事務所や社会保険労務士に相談するとよいでしょう。相談窓口としては、病院の医療ソーシャルワーカー、市区町村の障害福祉担当課や相談支援事業所、各都道府県の難病相談支援センター、てんかん診療拠点病院、公益社団法人日本てんかん協会(波の会)などの患者・家族会があります。
大田原症候群に伴う心のケア・心理社会的支援
大田原症候群の診断は、生まれて間もない時期に突然告げられることが多く、家族にとって大きな衝撃となります。「何か原因があったのでは」という自責の念、子どもの将来や命に対する不安、思い描いていた育児とのギャップによる喪失感を抱くことは自然な反応です。さらに、昼夜を問わない頻回の発作への対応、哺乳や医療的ケア、通院・入院の繰り返しにより、睡眠不足と慢性的な疲労が蓄積し、抑うつ状態や不安障害、適応障害に至ることもあります。きょうだい児への関わりが手薄になることへの悩み、夫婦間の負担の偏り、仕事との両立、社会からの孤立感も、この疾患に特有の心理社会的課題です。遺伝子検査の結果をどう受け止めるか、次の妊娠をどう考えるかといった問題も、心の負担になりえます。気持ちの落ち込みや眠れない状態が続く場合は、一人で抱え込まず、主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士、地域の保健師に早めに相談してください。必要に応じて精神科・心療内科の受診も選択肢です。同じ病気の子どもを育てる家族とつながれる患者・家族会や、レスパイトサービスの利用は、孤立を防ぎ、介護を長く続けるための大切な支えとなります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
大田原症候群の受診の目安
- 発作が5分以上続く場合、または発作と発作の間に意識や呼吸が回復しないまま発作を繰り返す場合は、救急車を呼んでください。
- 発作中・発作後に唇や顔色が紫色になる、呼吸が止まりそうになる、呼吸が苦しそうな状態が続く場合は、ただちに救急受診してください。
- 発作の回数が普段より明らかに増えた、これまでと違う型の発作が出てきた場合は、早めに主治医に連絡してください。
- 発熱、ぐったりしている、ミルクや食事・薬がとれない、嘔吐を繰り返す場合は、発作悪化や脱水の危険があるため受診してください。
- 新生児・乳児で、体を硬くする動きや手足のぴくつきを繰り返す、目が一点を見つめて反応しない時期がある場合は、早めに小児科を受診してください。
- 発疹、黄疸、強い眠気、ふらつきなど、薬の副作用が疑われる症状が出た場合は、自己判断で中止せずに主治医に相談してください。
大田原症候群についてのよくある質問
Q. 大田原症候群は血小板が減る病気だと聞きましたが本当ですか?
A. いいえ、それは誤りです。大田原症候群は乳児期早期に発症する重いてんかん(発達性てんかん性脳症)で、血液の病気ではありません。紫斑や血小板減少を主とする疾患は特発性血小板減少性紫斑病など別の病気です。
Q. 妊娠中の過ごし方や出産時のことが原因でしょうか?
A. 多くの場合、脳形成異常や遺伝子の変化など、ご両親の行動とは関係のない要因によって起こります。遺伝子の変化の多くは、お子さんで新たに生じたものです。原因について気がかりなことがあれば、主治医や遺伝カウンセリングの場で遠慮なく尋ねてください。
Q. 発作は将来止まりますか?
A. 原因や経過によって大きく異なります。成長とともに発作が減る例や、手術や原因に合った治療で発作が抑えられる例もありますが、ウエスト症候群などへ移行して難治てんかんが続く例も少なくありません。定期的な評価を受けながら、主治医と治療方針を相談していくことが大切です。
Q. 次の子どもにも同じ病気が起こる可能性はありますか?
A. 原因によって異なります。両親に由来しない新生変異の場合は再発の可能性は一般に低いとされますが、親のモザイクの可能性などから完全にゼロとは言えず、遺伝形式によっては再発率が高くなる場合もあります。臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングで、個別に説明を受けることをお勧めします。
関連記事(関連する指定難病)
- ウエスト症候群 West Syndrome
- 早期ミオクロニー脳症 Early Myoclonic Encephalopathy
- 遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん Epilepsy with Migrating Focal Seizures in Infancy
- レノックス・ガストー症候群 Lennox-Gastaut Syndrome
- 片側巨脳症 Hemimegalencephaly
- 限局性皮質異形成 Focal Cortical Dysplasia
- 神経細胞移動異常症 Neuronal Migration Disorders
- 非ケトーシス型高グリシン血症 Non-Ketotic Hyperglycinemia
- 先天性グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)欠損症 Congenital Glycosylphosphatidylinositol (GPI) Deficiency
- アイカルディ症候群 Aicardi Syndrome
同じ分野(小児神経・てんかん)の指定難病
この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。