遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん
Epilepsy with Migrating Focal Seizures in Infancy
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん(Epilepsy with Migrating Focal Seizures in Infancy)|遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん(EIMFS)は、生後半年以内、多くは生後数週から数か月のうちに発症する、まれで重い発達性てんかん性脳症です。焦点発作が左右の大脳半球や脳の異なる部位へ次々と移りながら繰り返し起こり、発作は多くの抗てんかん薬に強い抵抗性を示します。発作の頻発に伴って発達が停滞・退行し、重い知的障害や運動障害を残すことが多く、本人と家族の生活に長期にわたって大きな影響を及ぼします。
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの要点
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんは、生後6か月以内に発症し、焦点発作の起こる脳の部位が次々と移っていく発達性てんかん性脳症です。発作は多くの抗てんかん薬に抵抗して群発や重積を起こしやすく、発達の停滞や退行を伴い、日本では指定難病として医療費助成の対象です。
| 別名・略称 | 乳児悪性遊走性部分発作、乳児遊走性部分てんかん、EIMFS、MMPEI、MMPSI、Malignant migrating partial seizures in infancy |
|---|---|
| 分野 | 小児神経・てんかん |
| 好発年齢 | 生後6か月以内(多くは生後数週〜数か月) |
| 主な症状 | 発作部位が移る焦点発作、群発・重積、発達の停滞・退行 |
| 主な検査 | 発作時脳波、頭部MRI、遺伝学的検査 |
| 原因・遺伝 | KCNT1など原因遺伝子が同定される例と、原因不明の例がある |
| 主な治療 | 抗てんかん薬による治療(多くは薬剤抵抗性) |
| 受診する主な診療科 | 小児神経科、小児科 |
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんとは
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん(Epilepsy of Infancy with Migrating Focal Seizures:EIMFS)は、乳児期早期に発症する発達性てんかん性脳症(DEE)の一つです。最大の特徴は、発作のたびに、あるいは一つの発作の途中で、発作を起こす脳の部位(焦点)が一側の半球内や左右の半球間を移っていくことです。脳波では、発作時の律動性放電が異なる部位から順々に出現し、互いに重なり合いながら移っていく様子が記録されます。発作は群発や重積となりやすく、多剤の抗てんかん薬に抵抗します。発作の増加とともに、それまで獲得していた発達が停滞したり失われたりします。頭部MRIでは発症時に明らかな構造異常を認めないことが多く、これも診断上の特徴です。なお既存の簡易解説には「生後3か月以内の発症」「発作中は意識が保たれることが多い」との記載がありますが、実際の発症は生後6か月以内と幅があります。また乳児の焦点発作では意識の評価自体が難しく、発作の重積や群発により反応性が低下することがまれではありません。
本症は1995年にイタリアのCoppolaらが「乳児悪性遊走性部分発作(malignant migrating partial seizures in infancy:MMPSI)」として報告したのが最初とされます。その後、「乳児遊走性部分てんかん」など複数の名称で呼ばれてきました。国際抗てんかん連盟(ILAE)の2022年のてんかん症候群分類では、新生児期・乳児期に発症するDEEの一つとして「Epilepsy of Infancy with Migrating Focal Seizures(EIMFS)」の名称で位置づけられています。日本では指定難病148として医療費助成の対象です。病型としては、原因遺伝子が同定される群(KCNT1関連など)と、原因が特定できない群に大別されます。近年は遺伝学的検査の普及により、原因遺伝子ごとに臨床像や治療反応性の違いが議論されるようになっています。典型例のほか、遊走性の特徴が一部の時期にしか見られない非典型例があることも知られています。
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの疫学・患者数
本症は非常にまれな疾患です。英国での小児を対象とした調査では、発症率が小児10万人あたり0.1程度とする報告があります。ただし、診断基準の普及や遺伝学的検査の進歩により、以前より診断される例が増えているとみられます。国内の正確な患者数は明らかでなく、指定難病の受給者数などから推定すると、全国で数十〜100例前後の規模と考えられます。発症年齢は生後6か月以内で、多くは生後数日〜3か月ごろに初発します。新生児期に発症する例もあります。明らかな性差は報告されていません。大半は両親に症状のない孤発例です。既存解説にある「出生10万人あたり数例」「国内20〜50例」といった具体的数値は、根拠が確立したものではありません。
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの原因・病態生理
本症は、多くが遺伝子の新生(de novo)変異によって起こると考えられています。最も頻度の高い原因遺伝子は、ナトリウム依存性カリウムチャネルをコードするKCNT1です。報告によって差がありますが、患者の3〜5割程度でKCNT1変異が見つかるとされます。KCNT1変異の多くはチャネル機能を過剰に高める機能獲得型で、両親から受け継がない新生変異(常染色体顕性の形式)です。そのほか、SCN2A、SCN1Aなどのナトリウムチャネル遺伝子、PLCB1、SLC25A22、TBC1D24、SLC12A5、QARS1、BRAT1、KCNQ2、CHD2などの変異が報告されています。このうち一部の遺伝子では、両親がそれぞれ保因者である常染色体潜性(劣性)遺伝の形式をとります。一方、既存の簡易解説に挙げられていたARHGEF26、SYN1、CPLX2、NTNG2は、本症の確立した原因遺伝子とはいえません。PCDH19関連症候群も、通常は別の疾患(指定難病152)として扱われます。また原因遺伝子が特定できない例も少なくありません。
KCNT1がコードするチャネル(KNa1.1、Slackとも呼ばれる)は、神経細胞内のナトリウム濃度の上昇を感知してカリウムを外へ流し、興奮後の過分極や発火パターンの調整に関わります。機能獲得型変異でカリウム電流が増えると、一見すると興奮が抑えられそうに思えます。しかし実際には、抑制性介在ニューロンの発火が選択的に障害され、その結果として興奮と抑制のバランスが崩れるという仮説が、モデル動物などで示されています。SCN2Aの機能獲得型変異では、興奮性ニューロンの過剰な発火が関与すると考えられます。乳児期早期の脳はまだ未熟です。半球間・半球内の抑制回路も発達途上にあり、本症の遺伝的異常がこれに重なることで、発作の放電が一か所にとどまらず、異なる皮質領域へ次々と波及・移動すると推測されています。ただし、遊走が起こる詳しい仕組みは十分には解明されていません。頻回の発作そのものや、遺伝子異常による神経発達への直接的影響が重なることで、発達障害や後天性の小頭症につながると考えられています。
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの症状
- 遊走性焦点発作: 発作の起始部位が発作ごと、あるいは一つの発作の中で左右や異なる部位へ移ります。症状も、右上肢から左顔面へといったように移り変わります。本症の中核となる症状です。
- 眼球・頭部の偏位: 眼球や頭部が一方へ向く発作がよくみられます。向きが左右で入れ替わることもあり、遊走性を疑う手がかりになります。
- 顔面・四肢の間代発作: 眼瞼のぴくつき、口角や顔面のけいれん、一側の上下肢のリズミカルな動きなどが出現します。両側性の強直間代発作へ進展することもあります。
- 自律神経症状: 顔面の紅潮、流涎、無呼吸・呼吸リズムの乱れ、チアノーゼ、頻脈などがみられます。運動症状が目立たず、自律神経症状だけで発作が進むこともあります。
- 自動症・口部症状: 咀嚼や吸啜、嚥下様の動きなど口周囲の自動運動を伴うことがあります。哺乳中の発作では、誤嚥につながりやすくなります。
- 発作の群発・重積: 発症後しばらくすると、発作が1日数十回以上に及ぶ群発や、数日〜数週間続く重積状態が出現しやすくなります。この時期は入院管理を要することが多いです。
- 発達の停滞・退行: 発症前は正常にみえた発達が、発作の頻発とともに停滞・退行します。追視や笑顔、頸定などが失われることもあります。
- 筋緊張の異常: 体幹の筋緊張低下(低緊張)が目立ちます。年齢とともに四肢の痙性やジストニア様の姿勢異常を伴うことがあります。
- 後天性小頭症: 出生時の頭囲は正常でも、乳児期以降に頭囲の伸びが鈍くなります。多くの例で後天性の小頭症となります。
- 視覚の反応不良: 中枢性(皮質性)視覚障害により、追視や視線が合いにくくなることがあります。
- 哺乳・嚥下障害: 発作や筋緊張低下により哺乳量が減り、体重増加不良や誤嚥を生じやすくなります。
- 不随意運動: 成長に伴って、ジスキネジアや舞踏運動などの運動異常症がみられることがあります。
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの経過と合併症
典型的な経過は、おおむね三つの時期に分けて説明されます。第1期(発症初期)は生後数週〜数か月ごろで、散発的な焦点発作が始まります。この時期の発作は自律神経症状が中心のこともあり、てんかんと気づかれにくい場合があります。第2期(極期)は発症後数週〜数か月ごろで、多焦点性・遊走性の発作が急増し、群発・重積を繰り返します。この時期に発達の退行が顕著となります。第3期(後期)は1歳以降のことが多く、発作頻度がある程度減る例があります。一方で、重度の知的障害や運動障害、小頭症が残ることが多いです。発作が完全に消失する例は少なく、発作型がスパズムや強直発作などへ変化することもあります。原因遺伝子や個人による差が大きく、比較的発達を保つ軽症例も報告されています。
合併症として最も重要なのは、呼吸器合併症です。嚥下障害による誤嚥性肺炎や、発作時の無呼吸・低酸素が問題となります。重症例では経管栄養・胃瘻、気管切開、在宅人工呼吸管理が必要になることがあります。そのほか、栄養障害・成長障害、胃食道逆流症、便秘、側弯症や関節拘縮、骨粗鬆症と骨折、睡眠障害、皮質性視覚障害などがみられます。抗てんかん薬の副作用(過鎮静、肝機能障害、臭化物による皮疹・過鎮静など)にも注意が必要です。KCNT1関連例では、心臓の構造異常や肺の血管系の異常(主要大動脈肺動脈側副動脈など)の合併も報告されています。また、てんかんに伴う突然死(SUDEP)を含め、乳幼児期の死亡リスクがあることも知られています。
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの診断・診断基準
診断は、臨床症状、ビデオ脳波、画像検査、遺伝学的検査を組み合わせて行います。まず、生後6か月以内に発症した難治性の焦点発作について、発作症状の観察(家族が撮影した動画も有用です)と長時間ビデオ脳波で、発作起始部位の移動を確認することが重要です。同時に、低血糖・電解質異常・感染症・低酸素性虚血性脳症などの急性症候性発作を除外します。また、ピリドキシン依存性てんかんなどの先天代謝異常や、脳形成異常を検査で否定していきます。日本の指定難病の診断基準では、主に次の点を総合して診断します。①乳児期早期の発症、②部位が移動する焦点発作が群発・頻発すること、③発作時脳波で放電部位が移動すること、④発作が難治で発達の停滞・退行を伴うこと、⑤他の原因疾患が除外されること。遺伝学的検査で原因遺伝子が特定されれば、診断の裏付けや治療・遺伝カウンセリングの参考になります。ただし、遺伝子変異が見つからなくても、臨床的に診断は成立します。
- 長時間ビデオ脳波(発作時記録): 発作時の律動性放電が一側半球の異なる部位、あるいは左右半球間を移動し、ときに重なり合って出現します。これが最も重要な診断根拠です。症状と放電の対応を確認するため、ビデオ同時記録が推奨されます。
- 発作間欠期脳波: 初期には比較的保たれていることもあります。経過とともに背景活動の徐波化と多焦点性の棘波・鋭波が目立ってきます。ヒプスアリスミアやサプレッション・バーストは通常みられず、鑑別に役立ちます。
- 振幅統合脳波(aEEG)・持続脳波モニタリング: NICUや小児集中治療室で、臨床症状に乏しい発作や重積の把握、治療効果の評価に用いられます。
- 頭部MRI: 発症時には明らかな構造異常がないことが多いです。経過とともに、脳萎縮、髄鞘化遅延、海馬の信号異常などが出現することがあります。脳形成異常や虚血性病変の除外にも必須の検査です。
- 血液・尿・髄液の代謝検査: 血糖、電解質、アンモニア、乳酸、アミノ酸・有機酸分析、髄液糖・乳酸・アミノ酸などを調べます。先天代謝異常、GLUT1欠損症、非ケトーシス型高グリシン血症などを除外します。
- ビタミンB6・葉酸関連の治療的診断: ピリドキシン依存性てんかんなどのビタミン反応性てんかんを除外する目的で、ピリドキシンやピリドキサールリン酸の投与試験が行われることがあります。
- 遺伝学的検査: てんかん関連遺伝子パネル、全エクソーム解析などで、KCNT1、SCN2A、SCN1A、PLCB1、SLC25A22などの変異を調べます。保険診療の範囲や実施施設は限られるため、専門施設との連携が必要です。
- 染色体マイクロアレイ等: 微細な欠失・重複などのコピー数異常を評価します。他のDEEや先天異常症候群との鑑別に用いられます。
- 感染症・炎症の評価: 髄液検査や血液検査で、髄膜炎・脳炎などの感染症や炎症性疾患を除外します。
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんと鑑別すべき疾患
- 大田原症候群(早期乳児てんかん性脳症): 新生児期〜乳児早期にてんかん性スパズム・強直発作で発症し、脳波でサプレッション・バーストを示す点が鑑別のポイントです。
- 早期ミオクロニー脳症: 不規則な断片的ミオクロニーと、サプレッション・バーストを特徴とします。代謝異常を背景にすることが多い点で異なります。
- ドラベ症候群: 発症は生後6か月前後で、発熱誘発性の長い片側性・全身性けいれんが主体です。発症当初は発達が保たれる点で区別されます。
- 自己終息性(家族性)新生児・乳児てんかん: 焦点発作で発症しても、発作は短期間で消失し、発達は正常です。家族歴を伴うことがある点で異なります。
- 急性症候性発作(低酸素性虚血性脳症・脳炎・代謝障害など): 周産期の病歴、画像の病変、検査異常、急性の誘因から鑑別します。
- 先天代謝異常に伴うてんかん(ピリドキシン依存性てんかん・非ケトーシス型高グリシン血症など): 特異的な代謝検査の異常やビタミン投与への反応で鑑別します。治療可能なものを見逃さないことが重要です。
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの治療
本症に対する根治療法は現時点で確立していません。治療の目標は、①発作重積や群発をできるだけ抑えて、呼吸・栄養など全身状態を守ること、②発作頻度を減らして発達への悪影響を少なくすること、③合併症を予防し、本人と家族の生活の質を保つことです。発作は多くの抗てんかん薬に抵抗し、標準的な第一選択薬は定まっていません。そのため、効果と副作用を見ながら薬剤を順次試し、多くは複数の薬剤を併用します。重積時には集中治療下での管理が必要です。原因遺伝子が判明した場合は、その遺伝子の機能異常に応じた薬剤選択が検討されることがあります。ただし、効果のエビデンスは限られています。治療方針は症例ごとに大きく異なるため、小児神経専門医・てんかん専門施設と相談しながら進めることが大切です。
- 抗てんかん薬の多剤併用: フェノバルビタール、レベチラセタム、トピラメート、ゾニサミド、クロバザム、スチリペントール、ルフィナミドなどが試みられます。部分的な効果の報告がありますが、多くの例で効果は限定的です。
- 臭化カリウム(臭化物): 国内外から、発作の減少に有効だったとする報告があります。難治例で選択肢の一つとして検討されます。皮疹、過鎮静、食欲低下などの副作用に注意し、血中濃度を管理する必要があります。
- ナトリウムチャネル遮断薬: SCN2Aの機能獲得型変異例などでは、フェニトインやカルバマゼピンなどが有効な場合があるとされます。一方、SCN1A関連例では悪化させる可能性があり、遺伝子情報を踏まえた慎重な判断が必要です。
- KCNT1関連例への試み: チャネル抑制作用をもつキニジンが試みられた報告があります。しかし効果は一定せず、QT延長などの不整脈リスクがあり、確立した治療ではありません。現在、KCNT1を標的とする新規治療の研究が進められています。
- 発作重積時の治療: ベンゾジアゼピン系薬、ホスフェニトイン、フェノバルビタール、ミダゾラム持続静注などを用います。必要に応じて、人工呼吸管理を含む集中治療を行います。
- ケトン食療法: 高脂肪・低炭水化物の食事療法で、一部の例で発作減少が報告されています。乳児では専用ミルクを用い、栄養士を含む専門チームの管理下で行います。
- その他の補助療法: ステロイドやACTH療法、迷走神経刺激療法などが試みられることがあります。ただし効果は限定的で、適応は個別に判断されます。焦点が多発・移動するため、切除外科は通常は対象になりません。
- 呼吸・栄養の支持療法: 誤嚥予防のための経管栄養・胃瘻、吸引、在宅酸素や人工呼吸管理、胃食道逆流への対応などを行います。全身状態を保つうえで治療の柱となります。
- リハビリテーション・療育: 理学療法・作業療法・摂食嚥下訓練・視覚刺激などを行います。姿勢管理や拘縮予防、残された機能を引き出すことを目指します。
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの予後・長期フォロー
本症の予後は、全体として厳しいものです。多くの例で重度の知的障害と運動障害が残り、自力での歩行や有意語の獲得に至らないことが少なくありません。乳幼児期に、重積・呼吸器感染症・突然死などで亡くなる例も一定の割合で報告されています。一方で、1歳以降に発作頻度が減って全身状態が安定する例や、一部の発達を獲得する例もあります。予後は原因遺伝子や発作のコントロール状況によって幅があります。比較的軽症の経過をたどる遺伝子型・症例の報告もありますが、個々の予後を早期に正確に予測することは困難です。なお、既存解説にある「ARHGEF26変異例は予後良好」という記載には根拠がありません。
長期フォローアップでは、小児神経専門医を中心に多職種で継続的に評価していきます。主な項目は、発作の状況と脳波、抗てんかん薬の血中濃度・副作用(肝機能、血球、骨代謝など)、成長・栄養状態、呼吸状態、側弯・拘縮、視覚・聴覚です。また、てんかんの発作型は年齢とともに変化することがあり、その都度、治療の見直しが必要です。思春期以降は成人診療科への移行(トランジション)も課題となり、移行支援の体制づくりを早めに相談しておくことが望まれます。遺伝子治療やチャネルを標的とした新規薬の研究も進行中であり、臨床研究・治験の情報を主治医と共有しておくことも大切です。
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、発作時の安全確保と、呼吸・栄養の管理が中心になります。発作の様子(持続時間、左右、顔色、呼吸)を記録し、可能なら動画を撮っておくと、診療に役立ちます。主治医からの指示があれば、発作が長引いた場合の頓用薬(ミダゾラム口腔用液やジアゼパム坐剤など)の使い方と、救急要請の基準を家族で共有しておきます。哺乳・食事は姿勢を工夫し、むせや呼吸音の変化に注意します。経管栄養や吸引が必要な場合は、訪問看護などの支援を活用します。感染症は発作を悪化させやすいため、予防接種は主治医と相談のうえで計画的に受けることが推奨されます。原因遺伝子が判明した家族では、きょうだいや次の妊娠における再発リスクについて、臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることができます。多くは新生変異で再発率は低いと考えられますが、親の性腺モザイクや潜性遺伝の可能性があり、個別の評価が必要です。
利用できる制度・相談窓口
本症は指定難病(告示番号148)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、難病法に基づく医療費助成を受けられます。申請には難病指定医による臨床調査個人票が必要です。窓口はお住まいの都道府県・指定都市の保健所等です。18歳未満では小児慢性特定疾病医療費助成の対象となりうるため、どちらの制度を使うかは主治医や窓口に相談してください。そのほか、身体障害者手帳(肢体不自由、呼吸器機能など)・療育手帳の取得、特別児童扶養手当・障害児福祉手当の受給が考えられます。医療的ケア児については、訪問看護、障害児通所支援(児童発達支援・放課後等デイサービス)、短期入所(レスパイト)、日常生活用具・補装具の給付などが利用できます。20歳以降は障害年金や障害福祉サービスの対象となりえます。相談先としては、病院の医療ソーシャルワーカー、市区町村の障害福祉窓口、難病相談支援センター、小児慢性特定疾病の自立支援員、医療的ケア児支援センター、てんかん関連の患者・家族会などがあります。
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんに伴う心のケア・心理社会的支援
本症は乳児期早期に突然発症し、頻回の発作、入院・集中治療、発達の退行、そして厳しい予後の説明が短期間に重なります。そのため家族は強いショック、悲嘆、不安を抱えやすい状況に置かれます。昼夜を問わない発作対応や医療的ケアによる慢性的な睡眠不足と疲労から、保護者が抑うつ状態や適応障害、不安障害を来すことも少なくありません。また、「妊娠中の行動が原因ではないか」と自分を責める気持ち、きょうだいへの関わりが不十分になることへの葛藤、就労継続の困難や経済的負担、社会的孤立も、この疾患に特有の課題です。遺伝子の新生変異は親の行動によって生じるものではないことを、医療者から丁寧に説明してもらうことが助けになります。つらさを一人で抱え込まず、主治医・看護師・医療ソーシャルワーカー、臨床心理士、地域の保健師に早めに相談してください。必要に応じて、精神科・心療内科の受診やレスパイトの利用を検討することも大切です。同じ疾患・状況の家族とつながれる家族会も、心の支えになりえます。
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遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんの受診の目安
- 発作が主治医から指示された時間(一般に5分前後)を超えて続く、または意識が戻らないうちに発作を繰り返す場合は、救急車を要請してください。
- 発作中・発作後に顔色が悪い、呼吸が止まる・弱い、チアノーゼが続く場合は、すぐに救急受診してください。
- 発作の回数がいつもより明らかに増えた、群発するようになった場合は、早めに主治医に連絡してください。
- 発熱、咳、痰の増加、呼吸が速い・苦しそうなど、肺炎を疑う症状がある場合は受診してください。
- 哺乳量・食事量の著しい低下、嘔吐の反復、尿量の減少、ぐったりしている場合は受診してください。
- 薬の変更後に強い眠気、発疹、不機嫌、食欲低下などの副作用が疑われる場合は、主治医に相談してください。
遊走性焦点発作を伴う乳児てんかんについてのよくある質問
Q. 親の育て方や妊娠中の行動が原因ですか?
A. いいえ。本症の多くは、受精前後に偶然生じた遺伝子の新生変異によると考えられており、育て方や妊娠中の生活が原因ではありません。ご自身を責める必要はありません。気になる点は主治医や遺伝カウンセラーに相談してください。
Q. 次の子どもにも同じ病気が起こりますか?
A. 新生変異による場合、再発の可能性は一般に低いとされます。ただし、親の性腺モザイクや常染色体潜性遺伝の遺伝子が原因の場合は、リスクが高くなります。原因遺伝子と遺伝形式によって異なるため、遺伝カウンセリングで個別に確認することをお勧めします。
Q. 発作はいつか止まりますか?
A. 1歳以降に発作の頻度が減る例はありますが、完全に消失する例は多くありません。経過には個人差が大きく、発作型が変化することもあります。主治医と相談しながら、治療を調整していくことになります。
Q. 遺伝子が分かると治療は変わりますか?
A. 一部では、原因遺伝子に応じて薬の選び方が変わることがあります。たとえば、SCN2Aの機能獲得型変異でナトリウムチャネル遮断薬が検討される場合があります。KCNT1関連例に対するキニジンのように、試みられている治療もありますが、効果は確立していません。治療法は研究段階のものも多いため、専門医とよく相談してください。
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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。