ラスムッセン脳炎
Rasmussen Encephalitis
ラスムッセン脳炎(Rasmussen Encephalitis)|ラスムッセン脳炎は、片側の大脳半球だけに慢性の炎症が起こり、その半球が少しずつ萎縮していく、まれで重い脳の病気です。主に小児期(典型的には10歳未満)に発症しますが、思春期や成人で発症することもあります。薬が効きにくいてんかん発作と、片麻痺・言語障害・認知機能の低下が進行するのが特徴で、患者さん本人と家族の生活、教育、就労に長く影響します。
ラスムッセン脳炎の要点
ラスムッセン脳炎は、主に小児期に一側の大脳半球で免疫機序による慢性の炎症が起こり、その半球が徐々に萎縮していくまれな脳疾患です。薬が効きにくいてんかん発作と、片麻痺・言語障害・認知機能低下が進行するのが特徴で、日本では指定難病(告示番号151)です。
| 別名・略称 | ラスムッセン症候群、Rasmussen症候群、慢性限局性脳炎、Rasmussen encephalitis、Rasmussen's encephalitis、RE |
|---|---|
| 分野 | 小児神経・てんかん |
| 好発年齢 | 小児期(典型的には10歳未満)。思春期・成人発症もある |
| 遺伝形式 | 通常は遺伝性疾患とは考えられていない |
| 主な症状 | 薬が効きにくい焦点発作(持続性部分てんかん)、片麻痺、半盲、言語障害、認知機能低下 |
| 主な検査 | 頭部MRI(一側半球の進行性萎縮)、脳波、必要に応じて脳生検 |
| 主な治療 | 抗てんかん薬、免疫療法(ステロイド、免疫グロブリンなど)、大脳半球離断術などの外科治療 |
| 受診する主な診療科 | 小児神経科、神経内科、脳神経外科 |
ラスムッセン脳炎とは
ラスムッセン脳炎(Rasmussen encephalitis:RE)は、一側大脳半球に限局する慢性進行性の炎症性脳疾患です。中核となる症状は、①抗てんかん薬に抵抗する焦点発作(しばしば持続性部分てんかん:epilepsia partialis continua、EPC)、②病側と反対側の片麻痺や半盲、言語障害など半球機能の進行性低下、③画像上の一側半球の進行性萎縮、の3つです。病理学的にはT細胞(特にCD8陽性細胞傷害性T細胞)が主体の脳炎像を示し、免疫機序が病態の中心と考えられています。日本では指定難病(告示番号151)に指定されています。
1958年、カナダ・モントリオール神経研究所の脳神経外科医セオドア・ラスムッセン(Theodore Rasmussen)らが、焦点発作が続き脳に慢性炎症を認めた小児例を報告したことに由来します。長く原因不明でしたが、1990年代にグルタミン酸受容体GluR3に対する自己抗体が報告され、自己免疫疾患として注目されました。その後、GluR3抗体は本症に特異的ではないことが分かり、現在は脳組織での細胞傷害性T細胞による神経細胞傷害が主な機序と考えられています。2005年には欧州の専門家グループ(Bienら)が診断基準を提唱し、国際的に広く使われています。病型としては、典型的な小児発症型と、経過が比較的緩やかで機能が保たれやすいとされる思春期・成人発症型に分けて論じられることがあります。また、限局性皮質異形成などほかの病変を併せ持つ「二重病理(dual pathology)」の報告もあります。
ラスムッセン脳炎の疫学・患者数
非常にまれな疾患です。海外の調査では、18歳未満の小児で年間おおむね1000万人あたり2人前後の発症と報告されています。日本でも全国調査が行われていますが患者数は限られ、正確な数値は確立していません。発症年齢の中央値は6歳前後で、乳児期から思春期まで幅があります。一方で、全体の1割程度は青年期・成人期に発症するとされ、日本では成人発症例の報告が比較的多いことが知られています。明らかな性差はなく、病変側(左右)にも一定の偏りはないとされます。遺伝性の疾患ではなく、家族内発症はまれです。なお、国内の患者数や有病率については、信頼できる推計がまだ十分に得られていません。
ラスムッセン脳炎の原因・病態生理
原因はまだ完全には解明されていませんが、脳内での異常な免疫反応が中心と考えられています。病変部の脳組織では、グランザイムBを含むCD8陽性T細胞が神経細胞やアストロサイトに接して並び、細胞を傷害する像が確認されています。病変部のT細胞は特定の受容体(T細胞受容体)を持つ集団に偏っており、何らかの抗原に反応して増えた可能性が示唆されています。アストロサイトの脱落、活性化ミクログリアの結節、神経細胞を貪食する像(神経食現象)も特徴です。かつて重視されたGluR3抗体は、ほかのてんかんでも検出されるため、現在は診断や病態の決め手とはみなされていません。日本からはグルタミン酸受容体GluRε2(NMDA受容体NR2Bサブユニット)に対する抗体の報告もありますが、診断的意義はまだ確立していません。サイトメガロウイルス、EBウイルス、単純ヘルペスウイルスなどの感染を引き金とする説もありますが、一貫した証拠は得られていません。
発症の仕組みとしては、何らかのきっかけで脳内の抗原(ウイルス由来、あるいは神経細胞自体の成分)に反応した細胞傷害性T細胞が片側半球に入り込み、神経細胞やアストロサイトを傷害すると考えられています。アストロサイトが傷害されると、細胞外のグルタミン酸やカリウムの調節が乱れて神経が興奮しやすくなり、てんかん発作が起こりやすくなります。発作そのものも血液脳関門を壊し、炎症をさらに強めると推定され、「炎症→発作→さらなる炎症」という悪循環が生じます。その結果、皮質の神経細胞が失われ、病変は島回周囲や前頭・側頭葉から半球全体へ広がって、進行性の萎縮に至ります。炎症がなぜ片側にとどまるのかは、現在も大きな謎とされています。
ラスムッセン脳炎の症状
- 焦点てんかん発作: 最も多い初発症状で、病変側と反対側の顔や手足のけいれん、感覚発作、意識減損発作などが起こります。進行とともに回数が増え、複数の抗てんかん薬を使っても止まりにくくなります。
- 持続性部分てんかん(EPC): 顔面や手指などの一部がピクピクと動き続ける状態で、数時間から数日、ときには数か月続くこともあります。患者さんのおよそ半数にみられるとされ、本症を強く疑う重要な所見です。
- 焦点起始両側強直間代発作: 焦点発作が両側に広がり、全身性のけいれんになることがあります。転倒によるけがやけいれん重積につながることがあります。
- 進行性片麻痺: 病変と反対側の手足の動きが徐々に悪くなります。発作の直後に一時的に強まる麻痺(発作後麻痺)から始まり、次第に固定した麻痺になるのが典型です。
- 半側空間・視野の障害(同名半盲): 後頭葉や視放線まで障害が及ぶと、病変と反対側の視野が見えにくくなります。本人が気づきにくく、ぶつかりやすさなどで初めて分かることもあります。
- 言語障害(失語): 言語をつかさどる側(多くは左)の半球が障害されると、言葉が出にくい、理解しにくいなどの失語が生じます。顔や口の発作や麻痺により構音障害が加わることもあります。
- 認知機能の低下: 記憶力、注意力、学習能力などが徐々に低下し、学業成績の低下で気づかれることがあります。頻回の発作や薬の影響も重なります。
- 行動・情緒の変化: 易刺激性、感情の不安定さ、意欲の低下などが現れることがあります。病気そのものによる変化と、発作や生活の制限によるストレスの両方が関わります。
- 感覚障害: 病変と反対側の手足のしびれや感覚の鈍さが生じることがあります。発作の一部として感覚症状が出ることもあります。
- 成人発症例の特徴: 成人発症例では経過が緩やかで、麻痺や認知機能低下が比較的軽く、側頭葉症状が目立つ例もあるとされます。そのため診断が遅れやすい点に注意が必要です。
ラスムッセン脳炎の経過と合併症
自然経過は、Bienらによって3つの病期に分けて説明されています。①前駆期:発作の頻度は少なく、軽い片麻痺がみられる程度の時期です。数か月から年単位続くことがありますが、はっきりしない例もあります。②急性期:発作が急に増えてEPCが目立ち、片麻痺、半盲、失語、認知機能低下が数か月から1年程度で進行します。MRIでの萎縮も主にこの時期に進みます。③後遺期(残遺期):炎症の勢いが落ち着き、神経症状は重い状態のまま固定し、発作は続くものの急性期より減ることが多い時期です。小児では一般に発症から数年以内に後遺期に至るとされ、成人発症例ではより緩やかな経過をとることがあります。反対側の半球にまで病変が広がる例は極めてまれです。
合併症として、けいれん重積状態やEPCの長期持続、発作による転倒・外傷、誤嚥性肺炎があります。抗てんかん薬の副作用(眠気、肝機能障害、骨密度低下など)や、免疫療法の副作用(ステロイドによる感染症・成長障害・骨粗鬆症・高血糖・高血圧、タクロリムスによる腎機能障害など)も問題になります。片麻痺に伴う関節拘縮、側弯、手足の成長の左右差もみられます。精神面では抑うつ、不安、注意欠如・多動症様の症状、学習の困難が生じやすく、まれながら発作に関連した突然死(SUDEP)にも注意が必要です。半球離断術後には水頭症などの術後合併症が起こることもあります。
ラスムッセン脳炎の診断・診断基準
診断は、臨床経過(薬剤抵抗性の焦点発作と一側半球の機能低下の進行)、脳波、MRIの所見を組み合わせて行います。国際的にはBienらの診断基準(2005年)が広く用いられ、指定難病の診断もこれに準じた考え方で行われます。A基準では、①焦点発作(EPCの有無を問わない)と一側の皮質症状、②脳波で一側半球の徐波化(てんかん性放電の有無を問わない)と一側起始の発作、③MRIで一側半球の局所的な皮質萎縮に加え、灰白質・白質のT2/FLAIR高信号、または同側尾状核頭の高信号・萎縮のいずれか、の3項目すべてを満たせば診断されます。A基準を満たさない場合は、B基準として、①EPCまたは進行性の一側皮質症状、②MRIで進行性の一側半球局所萎縮、③脳生検でT細胞優位の脳炎像(活性化ミクログリア、反応性アストログリオーシスを伴う)、の3項目中2項目を満たすかで判断します。発症初期は所見がそろわないことが多いため、MRIや脳波を一定間隔で繰り返し、変化を追うことが重要です。同時に、腫瘍、代謝性疾患、感染症、ほかの自己免疫性脳炎などを除外します。
- 頭部MRI: 初期には島回周囲・前頭葉・側頭葉の皮質や皮質下白質のT2/FLAIR高信号、のちに一側半球の進行性萎縮と脳室・シルビウス裂の拡大、同側尾状核頭の萎縮がみられます。数か月ごとに撮影して進行を確認することが診断上とても重要です。
- 脳波(長時間ビデオ脳波を含む): 病変側の背景活動の徐波化と、焦点性のてんかん性放電を認めます。発作時の記録で一側起始を確認しますが、EPCでは頭皮脳波に明らかな変化が出ないこともあります。
- Bienらの診断基準(2005): 臨床・脳波・MRIからなるA基準、または進行性の経過や病理を含むB基準で判断する国際的な基準です。早期例では満たさないこともあり、経過観察で再評価します。
- 脳脊髄液検査: 細胞数や蛋白は正常から軽度上昇にとどまることが多く、オリゴクローナルバンドが陽性となる例もあります。正常でも本症は否定できず、主に感染症などの除外に役立ちます。
- 自己抗体検査: GluR3抗体は特異性が低く、診断には用いられません。日本ではGluRε2抗体などが研究的に測定されることがありますが、陽性・陰性で診断が決まるわけではなく、NMDA受容体抗体脳炎などほかの自己免疫性脳炎の除外目的に抗体検査が行われます。
- 脳生検・病理: 診断が難しい場合に行われ、T細胞主体の炎症、ミクログリア結節、神経細胞脱落、アストロサイト脱落を認めます。病変は斑状に分布するため、採取部位によっては所見が得られないことがあります。
- FDG-PET・SPECT: 発作間欠期には病変側半球の糖代謝・血流が低下し、発作時やEPC中には局所的に上昇することがあります。病変の広がり評価や手術前検査として補助的に用いられます。
- 神経心理検査・言語機能評価: 知能、記憶、言語などの機能を定期的に評価し、進行の把握や教育支援に活用します。手術を検討する際には、機能的MRIなどで言語優位半球を確認することもあります。
- 除外のための検査: 血液・髄液の乳酸やピルビン酸、ウイルス抗体、膠原病関連抗体などを調べ、代謝性疾患、感染症、血管炎などを除外します。
ラスムッセン脳炎と鑑別すべき疾患
- 限局性皮質異形成・片側巨脳症: 先天的な脳の形成異常で薬剤抵抗性てんかんを起こしますが、通常は半球萎縮が進行せず、MRIで皮質の形態異常がみられます(本症との合併例もあります)。
- スタージ・ウェーバー症候群: 顔面のポートワイン母斑、造影MRIでの軟膜血管腫、皮質石灰化が特徴で、片側萎縮があっても炎症性の進行とは機序が異なります。
- ミトコンドリア病(MELASなど): 脳卒中様発作やEPCを起こしますが、病変が血管支配域に一致せず移動し、両側にもみられる点や、乳酸値上昇、遺伝子検査で区別します。
- 片側痙攣・片麻痺・てんかん症候群(HHE): 乳幼児期の長い片側けいれん重積の後に片麻痺と半球萎縮が生じるもので、急性に発症し、その後は慢性的な炎症による進行を示さない点が異なります。
- ほかの自己免疫性脳炎・中枢神経血管炎: 抗NMDA受容体脳炎などは両側性の症状や精神症状が前景に立つことが多く、自己抗体や血管画像で鑑別します。
- 脳腫瘍(びまん性グリオーマなど): 片側の信号変化と焦点発作を示すことがありますが、腫瘤効果(圧排)や増大があり、萎縮とは逆向きの所見となるため、必要に応じて生検で確認します。
ラスムッセン脳炎の治療
治療の目標は、①てんかん発作を減らすこと、②炎症による半球機能の低下をできるだけ遅らせること、③残された機能を生かして発達・生活を支えること、の3つです。抗てんかん薬は必須ですが、単独では効果が不十分なことがほとんどです。現在、発作を止める効果が最も確実なのは、病変側半球を健常側から切り離す外科治療(半球離断術)です。ただし手術により、病変と反対側の手指の細かい動きの障害や同名半盲が残る(多くは既にある症状が固定する)ため、手術の時期は大きな論点になります。すでに重い片麻痺や半盲がある場合は早めの手術が検討されやすく、機能がまだ保たれている場合や、言語優位半球が病変側の年長児・成人では、免疫療法で進行を抑えながら慎重に時期を判断します。免疫療法は、病気の進行を遅らせ機能を保つ目的で行われますが、発作を完全に止める効果は限られ、どの治療が最適かを示す大規模な比較試験は乏しいのが現状です。いずれの選択にも利点と負担があり、てんかん専門施設で、本人・家族と主治医がよく話し合って決めることが大切です。
- 抗てんかん薬: 焦点発作に用いる薬を中心に、複数を組み合わせて使います。発作を完全に止めることは難しいことが多いものの、全身けいれんや重積を減らす目的で継続し、眠気などの副作用と効果のバランスを見て調整します。
- ステロイド療法: メチルプレドニゾロンの大量静注(パルス療法)や経口ステロイドで炎症を抑えます。急性期の発作増加やEPCに一時的な効果を示すことがありますが、長期使用では成長障害、感染症、骨粗鬆症などの副作用に注意が必要です。
- 免疫グロブリン大量静注療法(IVIG): 定期的に点滴して免疫反応の調整を図る治療で、一部の患者さんで進行の抑制や発作の軽減が報告されています。日本での保険適用の扱いは疾患や状況によって異なるため、主治医に確認してください。
- タクロリムスなどの免疫抑制薬: T細胞の働きを抑える薬で、海外の比較研究ではタクロリムスやIVIGが片麻痺などの進行を遅らせる可能性が示されています。ただし発作の抑制効果は限定的で、血中濃度測定や腎機能・感染症の監視が必要です。
- 血漿交換・免疫吸着療法: 血液中の抗体などを除去する治療で、短期的な改善が報告されています。効果が一時的なことが多く、補助的な位置づけです。
- その他の免疫療法: リツキシマブ、ナタリズマブ、アダリムマブなどの生物学的製剤が少数例で試みられた報告がありますが、効果は確立しておらず、研究的・個別的な選択肢にとどまります。
- 半球離断術(機能的半球切除術): 病変側半球と健常側・脳幹との神経線維連絡を切り離す手術で、多くの報告で6〜8割程度の患者さんが発作消失に至るとされます。手術後も歩行は可能となる例が多い一方で、反対側の手指の巧緻運動障害と同名半盲は残ります。言語優位半球の場合は、年齢による脳の可塑性も考慮して時期を検討します。
- リハビリテーション: 理学療法・作業療法・言語聴覚療法により、麻痺や言語障害に対する機能訓練、装具の使用、日常生活動作の練習を行います。手術の前後を通じて継続することが機能の回復と維持に重要です。
- 発作時の救急対応: けいれん重積に備え、医療機関の指示のもとで発作時に使う頓用薬(口腔内や鼻腔内に投与するベンゾジアゼピン系製剤など)をあらかじめ準備しておくことがあります。
ラスムッセン脳炎の予後・長期フォロー
生命予後は一般に保たれますが、機能予後は治療の時期と内容に大きく左右されます。外科治療を行わない場合、多くは後遺期に入っても発作が続き、重い片麻痺、半盲、失語、認知障害が残ります。半球離断術後は多くの患者さんで発作が消失または大きく減少し、発作や薬の負担が減ることで、認知・行動面や発達が改善する例もあります。小児では脳の可塑性が高いため、言語優位半球の手術後も言語機能がある程度健常側に移って回復することがありますが、年齢が上がるほど回復は限られます。成人発症例は進行が緩やかで手術を選ばない場合も多く、免疫療法と抗てんかん薬で長く経過をみることがあります。生活の質(QOL)は、発作の程度に加えて、教育・就労・社会参加への支援によって大きく変わります。
長期フォローアップでは、てんかん専門医(小児神経科・脳神経内科・脳神経外科)を中心に、定期的な脳波・MRIで病勢と発作の評価を行います。手術を受けていない場合は、進行の有無を見て治療方針を見直します。手術後も、まれに発作の再発や残存があり、抗てんかん薬を減らす際は慎重に進めます。免疫療法の副作用監視(血液検査、血圧、血糖、骨密度、成長、感染症)も必要です。さらに、神経心理検査による発達・認知の評価、リハビリテーション、装具の調整、側弯や関節拘縮のチェック、精神面のケアを継続します。小児期から成人期への移行医療(小児科から成人診療科への引き継ぎ)を早めに計画しておくことも大切です。
ラスムッセン脳炎の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
発作への備えとして、入浴は一人で長湯をしない、水泳は必ず監視下で行う、高い場所や火・刃物の扱いに注意するなど、生活の中の危険を減らす工夫をします。睡眠不足、過労、服薬忘れは発作を誘発しやすいため、規則正しい生活と確実な服薬が基本です。家族や学校・職場の人は、発作時の対応(周囲の危険物をよける、体を横向きにする、口に物を入れない、発作の時間を計る、5分以上続く場合などは救急要請)を共有しておくと安心です。片麻痺がある場合は、装具や手すり、利き手でない手での生活動作の工夫など、作業療法士と相談して環境を整えます。学校では個別の教育支援計画や特別支援教育の活用を検討し、病状を担任・養護教諭に伝えておきましょう。運転免許は、てんかんの方には道路交通法による条件があるため、主治医と相談が必要です。免疫抑制治療中は感染症にかかりやすく、予防接種(特に生ワクチン)の可否も主治医に確認してください。本症は遺伝性疾患ではなく、きょうだいや子どもに遺伝する可能性は低いと考えられていますが、心配があれば主治医に相談してください。
利用できる制度・相談窓口
ラスムッセン脳炎は指定難病(151)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、医療費助成を受けられます(軽症でも医療費の高い状態が続く場合の「軽症高額該当」の仕組みもあります)。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では小児慢性特定疾病の医療費助成の対象となりうるため、どちらの制度が適しているか主治医や窓口で確認してください。てんかんの通院医療には自立支援医療(精神通院医療)も利用できます。障害の状態に応じて、身体障害者手帳(肢体不自由・視覚障害など)、精神障害者保健福祉手帳(てんかん)、療育手帳(知的障害)の取得が可能で、補装具費の支給、障害福祉サービス(居宅介護、放課後等デイサービス、就労支援など)につながります。子どもの場合は特別児童扶養手当や障害児福祉手当、20歳以降は障害年金(20歳前に初診日がある場合の障害基礎年金を含む)の対象となることがあります。相談窓口として、都道府県の難病相談支援センター、保健所、市区町村の障害福祉担当窓口、病院の医療ソーシャルワーカー、てんかん支援拠点病院、患者・家族会(日本てんかん協会など)があります。
ラスムッセン脳炎に伴う心のケア・心理社会的支援
慢性の難病では、先の見えない不安、抑うつ、適応障害が起こりやすく、てんかんのある人ではうつ病や不安症の頻度が高いことが知られています。ラスムッセン脳炎に特有の課題として、まず、元気に過ごしていた子どもが数か月から数年で麻痺や言語の障害を負っていく経過を目の当たりにする、家族の強い喪失感や罪悪感があります。さらに、手術で発作を止める代わりに一部の機能を確定的に失うという、重い決断を迫られる点も大きな負担です。本人にとっても、できていたことができなくなる体験、学校での孤立や学業の遅れ、思春期の自己像の揺らぎ、成人発症例では仕事や運転・家庭での役割の変化が心理的負担になります。きょうだいへの影響や、介護による家族の疲弊も見逃せません。気分の落ち込み、眠れない、意欲がわかない、イライラが続くといった変化は、病気の進行や薬の影響とも重なるため、我慢せずに主治医に伝えてください。必要に応じて臨床心理士・公認心理師、児童精神科・精神科と連携したり、患者・家族会で同じ経験を持つ人とつながったりすることが、気持ちの支えになります。治療方針を決める際には、納得できるまで質問し、セカンドオピニオンを求めることも大切な権利です。
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ラスムッセン脳炎の受診の目安
- けいれん発作が5分以上続く場合、または意識が戻らないうちに発作を繰り返す場合は、ためらわず救急車を呼んでください。
- 顔や手足のピクつきが止まらない状態(持続性部分てんかん)が新たに現れたり、長引いたりしている場合は、早めに主治医に連絡してください。
- 片側の手足の動きにくさ、言葉の出にくさ、見えにくさが新たに現れたり悪化したりした場合は、病気の進行の可能性があるため受診してください。
- 発作の回数や形が明らかに変わった、または服薬しているのに増えている場合は、治療の見直しのため受診してください。
- 免疫療法中に発熱、咳、強いだるさなど感染症を疑う症状がある場合は、早めに医療機関に相談してください。
- 気分の落ち込みや不安が強く日常生活に支障がある場合、あるいは死にたい気持ちがある場合は、すぐに主治医や相談窓口に連絡してください。
ラスムッセン脳炎についてのよくある質問
Q. ラスムッセン脳炎は治りますか?
A. 炎症そのものを確実に止める治療はまだ確立していません。ただし、半球離断術により多くの方で発作が消失または大きく減り、免疫療法で進行を遅らせられる場合もあります。後遺期に入ると病気の勢いは落ち着く傾向があり、その後はリハビリや支援で生活の質を高めていくことが目標になります。
Q. 半球離断術を受けると、どんな後遺症が残りますか?
A. 病変と反対側の手指の細かい動きの障害と、同じ側の視野が見えにくくなる同名半盲が残ります。一方で、多くの方は手術後も歩くことができ、肩や肘など大まかな動きも保たれることが多いとされます。言語や認知への影響は年齢や病変側によって異なるため、専門施設で手術前に詳しく評価し、説明を受けてください。
Q. 遺伝しますか?きょうだいも発症しますか?
A. ラスムッセン脳炎は遺伝性の病気とは考えられておらず、家族内での発症は極めてまれです。きょうだいや将来の子どもが発症する可能性は低いと考えられますが、心配な点は主治医に相談してください。
Q. 大人になってから発症することはありますか?
A. あります。全体の1割程度は思春期以降、成人期に発症するとされ、日本からの報告も少なくありません。成人発症例は経過が緩やかで症状が比較的軽いことが多い一方、診断が遅れやすいため、薬が効きにくい焦点発作が続く場合はてんかん専門医の評価を受けることが勧められます。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。