難治頻回部分発作重積型急性脳炎

Febrile Infection-Related Epilepsy Syndrome (FIRES)

難治頻回部分発作重積型急性脳炎(Febrile Infection-Related Epilepsy Syndrome (FIRES))|難治頻回部分発作重積型急性脳炎(FIRES)は、それまで健康だった小児が発熱を伴う感染症にかかった後、焦点発作(部分発作)が頻繁に繰り返して止まらなくなる、まれで重い急性脳炎・てんかん症候群です。多くは学童期に発症します。急性期には数週から数か月に及ぶ集中治療が必要になることがあり、回復後も難治てんかんや知的・行動面の後遺症を残すことが多い疾患です。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の要点

難治頻回部分発作重積型急性脳炎(FIRES)は、発熱を伴う感染症の後に、それまで健康だった小児で焦点発作が頻発・重積して止まらなくなる、まれで重い急性脳炎・てんかん症候群です。通常の抗てんかん薬が効きにくく、後遺症として難治てんかんを残すことが多く、指定難病です。

別名・略称AERRPS、FIRES、DESC、acute encephalitis with refractory, repetitive partial seizures、devastating epileptic encephalopathy in school-aged children
分野小児神経・てんかん
好発年齢多くは学童期の小児
主な症状発熱性感染症の後に起こる焦点発作の群発・重積(難治性てんかん重積状態)
主な検査脳波、頭部MRI、髄液検査(感染性脳炎や自己免疫性脳炎など他の原因の除外。髄液・画像の所見は軽微なことが多い)
主な治療集中治療下で抗てんかん薬や麻酔薬により発作を抑える治療
経過急性期から発作のない期間をはさまず難治てんかんへ移行し、知的・行動面の後遺症を残すことが多い
受診する主な診療科小児神経科、小児科(集中治療を要することが多い)

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難治頻回部分発作重積型急性脳炎とは

FIRES(Febrile Infection-Related Epilepsy Syndrome)は、先行する発熱性感染症の後に難治性てんかん重積状態が出現し、既知の原因(感染性脳炎、自己抗体介在性脳炎、代謝・中毒・構造的病変など)が見つからない病態を指します。2018年の国際的な合意定義では、新規発症難治性てんかん重積状態(NORSE)の一亜型と位置づけられています。具体的には、難治性重積の発症より2週間前から24時間前までの間に発熱性感染症があったものをFIRESとし、重積の発症時に発熱があるかどうかは問いません。日本の指定難病名「難治頻回部分発作重積型急性脳炎」は、この病態に相当する疾患概念です。特徴は次の三点です。(1) 焦点発作が群発・重積し、通常の抗てんかん薬や麻酔薬にも強く抵抗する。(2) 脳脊髄液や頭部画像に炎症所見が乏しいことが多い。(3) 急性期から慢性期へ、発作のない潜伏期をはさまずにそのまま難治てんかんへ移行する。

この病態は国内外で別々に記載されてきたため、複数の名称があります。日本では2000年前後に粟屋、佐久間らが「acute encephalitis with refractory, repetitive partial seizures(AERRPS)」として報告し、これが日本語の疾患名の由来となりました。海外では DESC(devastating epileptic encephalopathy in school-aged children)、FIRES、特発性破局性てんかん性脳症(idiopathic catastrophic epileptic encephalopathy)などの呼称が使われ、現在はFIRESに統一されつつあります。成人を中心とする原因不明のNORSE(cryptogenic NORSE)と連続した疾患スペクトラムである可能性も議論されています。既存の簡易解説では「リンパ球優位の髄液細胞増多」「海馬の明瞭な異常信号」「焦点切除術」が典型的であるかのように書かれていました。実際には、髄液や画像の所見は軽微であることが多く、急性期に外科治療が中心となることはまれです。この点は本記事で訂正します。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の疫学・患者数

FIRESは非常にまれです。ドイツの調査では、小児の年間発症率は100万人あたり約1人程度と推定されています。日本でも全国調査が行われていますが、患者数は限られており、指定難病の受給者数も少数にとどまるとみられます(既存解説の「人口10万人あたり0.1〜0.2例」は過大な可能性があります)。発症年齢は乳児期後半から思春期まで幅がありますが、学童期(おおむね4〜10歳前後)に多く、報告されている発症年齢の中央値は6〜9歳前後です。成人発症例は、成人のcryptogenic NORSEとして扱われることが多いです。性差はやや男児に多いとする報告が複数あります。地域や人種による偏りは明らかではありません。発症前の発達は正常であることがほとんどで、先行する神経疾患はないのが典型です。家族内発症はきわめてまれです。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の原因・病態生理

原因は解明されていません。現在もっとも有力なのは、感染をきっかけに脳内で自然免疫系の過剰な炎症反応が起こるという仮説です。患者の髄液では、IL-1β、IL-6、IL-8、CXCL10などの炎症性サイトカインやケモカインが上昇しているとの報告があります。また、IL-1受容体拮抗因子(IL-1Ra)の機能不全が関与しうることも示されています。一方、自己免疫性脳炎で見られる抗NMDA受容体抗体などの既知の神経抗体は通常陰性です。ステロイドや免疫グロブリンといった一般的な免疫療法の効果も限定的なことが多く、「獲得免疫による抗体介在性脳炎」とは異なる病態と考えられています。先行感染は上気道炎や胃腸炎など一般的なものが多く、特定の病原体は同定されていません。病原体が脳に直接感染しているわけではないと考えられます。遺伝的素因についても、SCN1A、PCDH19、IL1RNなどの遺伝子との関連を調べた研究がありますが、一貫した原因遺伝子は見つかっていません。遺伝形式をもつ遺伝病ではなく、通常は家族への遺伝を心配する必要はありません。ただし、SCN1A関連てんかん(ドラベ症候群)、PCDH19関連てんかん、POLG関連ミトコンドリア病などは発熱を契機に重積を起こすことがあるため、FIRESと誤認されうる鑑別対象として遺伝学的検査が検討されることがあります。

発症機序は次のような悪循環として説明されています。感染によって全身の免疫系が活性化すると、脳内のミクログリアやアストロサイトが反応し、IL-1βなどのサイトカインを産生します。IL-1βは神経細胞のNMDA型グルタミン酸受容体の機能を高め、グリアのグルタミン酸取り込みを低下させます。その結果、神経細胞の興奮性が高まります。発作が繰り返されると、それ自体がさらに炎症を引き起こし、「炎症→発作→炎症」のループが形成されると考えられています。重積が長引くと、GABA-A受容体が細胞膜から細胞内へ取り込まれて減少し(受容体の内在化)、ベンゾジアゼピン系薬剤が効きにくくなります。同時にNMDA受容体は増えるため、時間とともに治療抵抗性が強まります。持続する興奮毒性は、神経細胞死、海馬を含む広範な皮質の萎縮、神経回路の再編成をもたらします。これが、急性期の後に潜伏期なく慢性難治てんかんへ移行する理由と考えられています。発作の起始部位は、シルビウス裂周囲(弁蓋部)、側頭葉、前頭葉など、両側の多焦点に及ぶことが多いとされます。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の症状

  • 先行する発熱性感染症: 発作の2週間前から前日までに、かぜ症状、咽頭痛、胃腸炎などの発熱性疾患がみられます。発作が始まる頃には解熱していることもあります。
  • 焦点発作の群発・重積: 顔面や口角のぴくつき、眼球や頭部が一方に向く、片側の手足のけいれんなどの焦点発作が、1日に数十回から百回以上繰り返されます。発作が両側性強直間代発作へ進展することもあります。
  • 抗てんかん薬・麻酔薬への抵抗性: ベンゾジアゼピン系薬や第二選択の静注抗てんかん薬で止まらず、全身麻酔薬の持続投与を要する超難治性重積へ進むことが多いのが特徴です。
  • 発作の頻度が段階的に増える経過: 数回の発作から始まり、数日以内に数分から十数分おきの群発へと増える経過が典型的です。
  • 意識障害: 発作の合間にも意識が十分に戻らない状態が続きます。重積や麻酔薬の影響も加わり、長期間の昏睡となることがあります。
  • 脳波上のみの発作(非けいれん性発作): 見た目にはけいれんがなくても、脳波上で発作が続いていることがあります。持続脳波モニタリングでしか捉えられません。
  • 自律神経症状: 発作に伴う頻脈、血圧変動、唾液分泌の増加、顔面紅潮などがみられることがあります。
  • 認知機能・言語の低下: 急性期を脱した後、記憶障害、言語障害、注意障害、知的能力障害などが明らかになることが多く、程度は軽度から重度までさまざまです。
  • 行動・情緒の変化: 回復期から慢性期に、多動、衝動性、易怒性、こだわりなどの行動上の問題が目立つことがあります。
  • 運動機能障害: 長期の集中治療による筋力低下(ICU関連筋力低下)や、脳障害による運動麻痺・協調運動障害がみられることがあります。
  • 慢性期の難治てんかん: 急性期後も焦点発作が持続し、多くは複数の抗てんかん薬でも完全には抑制できない薬剤抵抗性てんかんとなります。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の経過と合併症

経過は大きく三期に分けられます。(1) 前駆期:先行する発熱性感染症の時期です。(2) 急性期:焦点発作が出現し、数日以内に群発・重積して超難治性てんかん重積状態となります。全身麻酔薬による発作抑制、人工呼吸管理を含む集中治療が数週から数か月に及ぶことがあり、麻酔薬を減量すると発作が再燃することを繰り返す例が少なくありません。(3) 慢性期:急性期の重積がおさまった後、発作のない潜伏期をはさまず、そのまま難治性てんかんに移行します。これが海馬硬化など他の原因によるてんかんとの大きな違いです。慢性期の発作は焦点発作が主体で、群発しやすい傾向があります。認知・行動面の後遺症は回復期に明らかになり、リハビリテーションや発達支援によってある程度改善する例もあります。

急性期には、重積そのものに加え、長期の麻酔薬投与と集中治療に伴う合併症が問題になります。主なものは、人工呼吸器関連肺炎やカテーテル関連血流感染などの感染症、麻酔薬による低血圧・循環不全、バルビツレートによる腸管麻痺・免疫抑制・低体温、プロポフォール注入症候群のリスク、横紋筋融解、肝障害、深部静脈血栓症、褥瘡、ICU関連筋力低下です。ケトン食療法の導入時には、低血糖、アシドーシス、脂質異常、腎結石などの管理が必要です。慢性期には、薬剤抵抗性てんかん、発作による外傷、睡眠障害、知的能力障害、注意欠如・多動症や自閉スペクトラム症様の行動特性、学習障害、精神症状などがみられます。まれに、てんかん関連の突然死(SUDEP)のリスクも念頭に置かれます。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の診断・診断基準

FIRESには、それだけで確定できる特異的な検査はありません。臨床経過と除外診断によって診断します。発熱性感染症の後に焦点発作の群発・重積が始まったら、まず治療可能な原因を並行して迅速に検索します。具体的には、単純ヘルペス脳炎などの感染性脳炎、細菌性髄膜炎、抗NMDA受容体脳炎などの自己免疫性脳炎、急性脳症、代謝異常、中毒、構造的病変です。ただし検査結果を待たずに、抗てんかん薬治療と経験的な抗ウイルス薬投与を開始するのが一般的です。持続脳波モニタリングで非けいれん性発作を含めた発作負荷を評価し、頭部MRIと髄液検査で他疾患を除外します。そのうえで、先行感染から重積発症までの時間関係、超難治性の経過、既知の原因がないことを総合して診断します。日本では指定難病として厚生労働省の診断基準が定められており、医療費助成の申請には難病指定医による診断と臨床調査個人票が必要です。

  • 持続脳波モニタリング(cEEG): 多焦点性・両側性の焦点発作が頻回に記録され、発作が部位を移りながら出現することもあります。β帯の速波とδ波が重なる特徴的なパターン(extreme delta brush類似のパターン)が報告されています。非けいれん性発作の検出と麻酔薬の調節にも不可欠です。
  • 頭部MRI: 発症初期は正常か軽微な所見のことが多いです。経過中に海馬、島回、前障(claustrum)、シルビウス裂周囲などにT2/FLAIR高信号がみられることがあります。慢性期には海馬萎縮やびまん性の脳萎縮が明らかになります。他疾患の除外にも重要です。
  • 脳脊髄液検査: 正常か、軽度の細胞増多・蛋白上昇にとどまることが多く、著しい炎症所見があれば他疾患を考えます。研究的には、IL-6、ネオプテリン、ケモカインなどの上昇が報告されています。
  • 病原体検査: 髄液の単純ヘルペスウイルスPCRなどの病原体検索、細菌培養、血液・呼吸器検体の病原体検索で、感染性脳炎・髄膜炎を除外します。
  • 神経抗体検査: 抗NMDA受容体抗体、抗GABA-A/GABA-B受容体抗体、抗LGI1/CASPR2抗体、抗GAD抗体などを血清と髄液で測定し、自己免疫性脳炎を除外します。FIRESでは通常陰性です。
  • 代謝・遺伝学的検査: 血液ガス、乳酸・ピルビン酸、アンモニア、アミノ酸・有機酸分析などで代謝異常を除外します。必要に応じて、POLG、SCN1A、PCDH19などを含む遺伝学的検査で、FIRESに似た経過をとる遺伝性疾患を検討します。
  • SPECT・PET(補助): 発作時には局所の血流・代謝の亢進、発作間欠期には低下がみられることがあります。診断の補助や病巣分布の把握に用いられますが、特異的ではありません。
  • 指定難病の診断基準: 先行する発熱性感染症、焦点発作の群発・重積と難治性、急性期から慢性てんかんへの移行、他疾患の除外などを組み合わせて判定します。重症度分類を満たす場合に医療費助成の対象となります。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎と鑑別すべき疾患

  • 単純ヘルペス脳炎などの感染性脳炎: 髄液の明らかな細胞増多やウイルスPCR陽性、側頭葉の壊死性病変などで区別し、否定されるまでアシクロビルの投与が考慮されます。
  • 抗NMDA受容体脳炎などの自己免疫性脳炎: 精神症状、不随意運動、自律神経障害が前景に立つことが多く、血清・髄液の神経抗体の陽性で区別されます。
  • 痙攣重積型(二相性)急性脳症(AESD): 乳幼児に多く、発熱当日のけいれん重積の後、数日してから発作が群発し、MRI拡散強調画像で皮質下白質の高信号(bright tree appearance)がみられる点で異なります。
  • ラスムッセン脳炎: 片側大脳半球に限局した進行性の萎縮と、持続性部分てんかん、進行性の片麻痺を呈し、亜急性から慢性の経過をとる点で異なります。
  • ドラベ症候群・PCDH19関連症候群: 乳児期から発熱を契機とした発作を繰り返す既往があり、遺伝学的検査でSCN1AやPCDH19の病的変異が確認される点で区別されます。
  • ミトコンドリア病(POLG関連など): 難治性の焦点発作や部分てんかん重積で発症することがあります。乳酸の上昇、肝障害(バルプロ酸による増悪に注意)、遺伝学的検査で区別されます。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の治療

FIRESの治療には、発作(重積)を止めること、脳内の炎症を抑えること、全身状態を守ることの三本柱があります。現時点で有効性が確立した単一の治療法はありません。NORSE/FIRESに関する国際的な専門家コンセンサスなどを参考に、各施設の小児神経科医と集中治療医が連携して段階的に治療を進めます。初期はけいれん重積のガイドラインに沿って、ベンゾジアゼピン系薬と静注抗てんかん薬を用います。止まらなければ全身麻酔薬による発作抑制に移ります。ただし、深い脳波抑制(burst-suppression)を長期間続けることは予後不良と関連するという報告もあります。そのため、抑制の深さと期間を慎重に調整しながら、早期からケトン食療法や免疫療法を組み合わせる方針が近年重視されています。保険適用外の薬剤や研究段階の治療も含まれるため、個々の治療選択は主治医・専門医とよく相談して決めることが大切です。

  • 初期の抗てんかん薬治療: ミダゾラムやジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬の後、ホスフェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタムなどの静注薬を用います。FIRESでは多くの場合これらで止まらず、次の段階に進みます。
  • 全身麻酔薬による発作抑制: ミダゾラム持続静注、チオペンタール・チアミラールなどのバルビツレート、ケタミンなどを人工呼吸管理下で用います。脳波を見ながら発作抑制を図りますが、長期の深い抑制は合併症や予後との関連から慎重に判断されます。
  • 高用量フェノバルビタールなどの離脱補助: 麻酔薬の減量時に発作が再燃しやすいため、高い血中濃度を目標としたフェノバルビタールや、その他の抗てんかん薬の併用で離脱を助ける方法が国内外で報告されています。
  • ケトン食療法: 高脂肪・低糖質の食事(経管栄養のケトン食製剤を含む)で体内をケトーシス状態にします。FIRESでは有効例の報告が比較的多く、急性期の早い段階での導入が検討されます。栄養士を含む専門チームによる管理が必要です。
  • 第一選択の免疫療法: ステロイドパルス療法、静注免疫グロブリン(IVIG)、血漿交換療法などが、自己免疫性脳炎の可能性も考慮して早期に試みられることが多いです。ただし、FIRESに対する効果は限定的とする報告が多いです。
  • 抗サイトカイン療法(第二選択の免疫療法): IL-1受容体拮抗薬アナキンラやIL-6受容体抗体トシリズマブで、発作の減少や麻酔薬からの離脱が得られたとの報告があります。いずれもFIRESに対しては日本で承認された用法ではなく(アナキンラは国内未承認)、臨床研究や施設判断のもとで慎重に検討されます。
  • 集中治療・全身管理: 呼吸・循環の管理、感染対策、栄養管理、電解質・体温の管理、深部静脈血栓や褥瘡の予防などを行い、重積や薬剤による二次的な脳障害と臓器障害を防ぎます。
  • 慢性期のてんかん治療: 複数の抗てんかん薬を組み合わせて発作の軽減を図ります。ケトン食の継続や、薬剤抵抗性の場合の迷走神経刺激療法などが検討されます。病変が多焦点・両側性であることが多いため、焦点切除術の適応となる例は限られます。
  • リハビリテーションと発達支援: 急性期からの理学療法・作業療法・言語聴覚療法に加え、回復期以降は神経心理学的評価に基づく学習支援、行動面への支援、就学調整を多職種で行います。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の予後・長期フォロー

FIRESの予後は依然として厳しいです。急性期の死亡率は、報告によって異なるもののおおむね1割前後とされています。主な死因は、長期集中治療に伴う感染症や循環不全などの合併症です。生存者の大多数(多くの報告で9割前後)は慢性期に薬剤抵抗性てんかんへ移行し、発作が完全に消失する例は少数にとどまります(既存解説の「30〜50%が寛解」は実態より楽観的と考えられます)。知的能力障害は多くの患者にみられ、程度は正常範囲に近いものから重度まで幅広く、記憶障害、言語障害、注意・行動の問題を伴うこともよくあります。麻酔薬による抑制期間が長いこと、急性期が長引くことは、不良な転帰と関連するとの報告があります。一方で、近年はケトン食療法や抗サイトカイン療法の早期導入により、転帰が改善する可能性も示唆されています。生活の質(QOL)は、発作の頻度と重さ、認知・行動面の障害、家族や学校の支援体制に大きく左右されます。

急性期を乗り越えた後も、小児神経科・てんかん専門医による長期的なフォローアップが欠かせません。具体的には、発作の頻度と型の記録、抗てんかん薬の血中濃度と副作用(肝機能、血球、骨密度、体重、行動面への影響など)の確認、定期的な脳波検査、必要に応じた頭部MRIを行います。成長とともに学習上の課題が変化するため、神経心理検査を定期的に行い、学校と情報を共有して支援計画を見直すことが勧められます。ケトン食を続けている場合は、成長、脂質、腎結石、骨の状態の評価が必要です。思春期以降は、精神面の不調、運転免許や就労、妊娠出産と抗てんかん薬の問題などを含め、小児科から成人診療科への移行期医療を計画的に進めることが重要です。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

慢性期の生活では、発作の誘因になりやすい睡眠不足、過労、服薬忘れを避け、規則正しい生活リズムを保つことが基本です。抗てんかん薬は自己判断で中止・減量せず、ほかの薬やサプリメントを使うときは主治医や薬剤師に相談します。発作時の対応(安全確保、時間の計測、発作の様子の記録や動画撮影)と、救急搬送の目安、主治医から処方された発作時の頓用薬(ミダゾラム口腔用液など)の使い方を、家族、学校、保育・福祉施設で共有しておくと安心です。入浴は一人で行わず、水泳や高所での活動では監視者をつけるなど、発作の状況に応じて活動内容を調整します。ただし、過度な制限は避けます。発熱を伴う感染症の際は発作が増えることがあるため、早めに主治医へ連絡できる体制を整えておきます。予防接種は原則として主治医と相談のうえで計画的に受けることが勧められます。就学では、特別支援教育や通級、合理的配慮について学校とよく話し合い、個別の教育支援計画に発作時の対応を盛り込んでおくと役立ちます。FIRESは通常、親から子へ遺伝する病気ではありません。きょうだいの発症リスクが高いという根拠も乏しいとされています。ただし、遺伝学的検査を行った場合の結果の解釈については、遺伝カウンセリングの専門家に相談できます。

利用できる制度・相談窓口

「難治頻回部分発作重積型急性脳炎」は指定難病(告示番号153)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、医療費助成(特定医療費)を受けられます。申請には難病指定医が作成した臨床調査個人票が必要で、窓口は都道府県・指定都市の保健所などです。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では、小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象にもなっており、どちらの制度を利用するかは窓口や主治医と相談します。医療費については、高額療養費制度や自治体の子ども医療費助成も併用できる場合があります。障害の状況に応じて、精神障害者保健福祉手帳(てんかんを含む)、療育手帳、身体障害者手帳の取得が検討でき、特別児童扶養手当、障害児福祉手当、障害福祉サービス(居宅介護、短期入所、放課後等デイサービス、児童発達支援など)の利用につながります。医療的ケアが必要な場合は、医療的ケア児支援センターや訪問看護も活用できます。20歳以降も日常生活や就労に制限が続く場合は、障害基礎年金などの障害年金の対象となる可能性があります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所の保健師、病院の医療ソーシャルワーカー、てんかん支援拠点病院、患者・家族会などがあります。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎に伴う心のケア・心理社会的支援

FIRESは、昨日まで元気だった子どもが突然集中治療室で長期間の昏睡状態に置かれるという、きわめて衝撃的な形で発症します。そのため、保護者は急性期に強い不安、無力感、睡眠障害を経験しやすく、後になって急性ストレス障害や心的外傷後ストレス症状、抑うつが現れることもあります。救命された後も、発症前とは異なるわが子の姿を受け入れていく過程には、「あいまいな喪失」と呼ばれる複雑な悲嘆が伴うことがあります。原因が分からないことから自分を責める気持ちを抱く家族も少なくありません。しかし、FIRESは家族の対応によって起こる病気ではありません。きょうだいも、親の不在や家庭環境の変化から寂しさや不安を抱えやすいため、年齢に応じた説明と関わりが大切です。本人も成長とともに、発作への不安、学習や友人関係の難しさ、自己肯定感の低下、思春期のうつや不安に直面することがあります。主治医や看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士(公認心理師)、児童精神科、家族会などに早めに相談し、ひとりで抱え込まないことが重要です。レスパイト(短期入所など)を利用して介護者が休息をとることも、長く支え続けるために必要なケアです。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の受診の目安

  • 発熱を伴うかぜなどの後に、顔や手足のぴくつき、目や頭が一方に向く発作が繰り返し起こり始めたら、すぐに医療機関を受診してください。
  • けいれんが5分以上続く場合、または発作の合間に意識が戻らないまま次の発作が起こる場合は、ためらわず救急車を呼んでください。
  • 慢性期に、普段より発作の回数が明らかに増えた、群発するようになった、発作の型が変わったという場合は、早めに主治医に連絡してください。
  • 処方された発作時の頓用薬を使っても発作が止まらない場合は、救急受診してください。
  • 発熱や感染症にかかったとき、薬を飲めない・吐いてしまうとき、新たな薬の副作用(発疹、ふらつき、ぼんやりが強いなど)が疑われるときは、主治医に相談してください。
  • 気分の落ち込み、強い不安、眠れない状態が続くなど、本人や家族の心の不調が長引くときも、主治医や相談窓口に遠慮なく相談してください。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎についてのよくある質問

Q. ワクチンや特定のウイルスが原因なのですか?

A. FIRESの先行感染は、かぜや胃腸炎など日常的な感染症であることが多く、特定のウイルスやワクチンが原因であるとは証明されていません。病原体が脳に直接感染するのではなく、感染をきっかけに脳内で過剰な炎症反応が起こると考えられています。予防接種については、個別の状況を主治医と相談してください。

Q. きょうだいや将来の子どもに遺伝しますか?

A. FIRESは遺伝形式をもつ遺伝病ではなく、家族内で発症することはきわめてまれです。現時点で、きょうだいの発症リスクが高いという根拠は乏しいとされています。遺伝学的検査を受けた場合や心配が強い場合は、遺伝カウンセリングで相談できます。

Q. 発作は将来なくなりますか?

A. 多くの患者さんは急性期の後も発作が続く難治てんかんに移行し、発作が完全になくなる方は少数です。それでも、薬の調整やケトン食などで発作の回数や重さが軽くなり、学校生活や社会生活を送っている方もいます。見通しは一人ひとり異なるため、主治医と定期的に相談してください。

Q. アナキンラやトシリズマブという薬を使えば治りますか?

A. これらの抗サイトカイン薬は、炎症を抑えることで発作が減ったという報告があり注目されています。ただし、FIRESへの有効性はまだ確立していません。日本ではFIRESに対する承認はなく、アナキンラは国内未承認です。使用するかどうかは、効果と副作用、制度上の扱いを含めて専門医と十分に話し合って判断されます。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。