ランドウ・クレフナー症候群

Landau-Kleffner Syndrome

ランドウ・クレフナー症候群(Landau-Kleffner Syndrome)|ランドウ・クレフナー症候群(Landau-Kleffner Syndrome:LKS)は、それまで年齢相応に言葉を獲得していた幼児が、主に3〜7歳頃に言葉を聞いて理解する力(言語性聴覚認知)を失い、続いて話す力も失っていく、まれなてんかん性脳症です。脳波では、睡眠中に側頭部を中心とするてんかん性放電が著しく増加します。耳の聞こえ(聴力)そのものは保たれているため、難聴や自閉スペクトラム症と間違われることがあります。早期に診断して治療を始めることが、言語機能の予後を左右すると考えられています。

ランドウ・クレフナー症候群の要点

ランドウ・クレフナー症候群は、言葉を獲得していた幼児が主に3〜7歳頃に言葉の聞き取りと理解を失い、続いて話す力も失っていく、まれなてんかん性脳症です。睡眠中に側頭部優位のてんかん性放電が著しく増え、発作を伴うこともあり、国の指定難病です。

別名・略称後天性てんかん性失語、獲得性てんかん性失語、LKS、acquired epileptic aphasia、Landau-Kleffner症候群
分野小児神経・てんかん
好発年齢主に3〜7歳頃
主な症状言語性聴覚失認で始まり、進行すると表出言語も障害される
てんかん発作約7割にみられるが、発作がない例もある
主な検査脳波(睡眠中に側頭部優位のてんかん性放電が増加)
その他の特徴聴力は保たれ、非言語性の知能は比較的保たれやすい

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ランドウ・クレフナー症候群とは

ランドウ・クレフナー症候群は「後天性てんかん性失語(acquired epileptic aphasia)」とも呼ばれます。中心となる特徴は二つです。一つは、正常に発達していた言語機能が後から失われる獲得性失語です。もう一つは、睡眠時に著しく増強する側頭部優位のてんかん性脳波異常です。失語は多くの場合、話しかけられても反応しない、名前を呼んでも振り向かないといった言語性聴覚失認(音は聞こえているのに言葉として認識できない状態)で始まります。そのため当初は難聴が疑われることが少なくありません。進行すると表出言語も障害され、発語の減少、錯語、ジャルゴン(意味の通らない発話)を経て、無言に至ることもあります。てんかん発作は約7割の患者さんにみられるとされます。一方で、発作がまったくない例もあり、発作の重さと言語障害の重さは必ずしも一致しません。非言語性の知能(視覚的な推論や動作性の能力)は比較的保たれることが多い点も特徴です。

本症候群は1957年、William LandauとFrank Kleffnerがけいれん性疾患を伴う獲得性失語の小児6例を報告したことに由来します。その後、徐波睡眠期に棘徐波がほぼ持続して出現する現象(ESES:electrical status epilepticus during slow-wave sleep)や、それに伴う全般的な認知退行を示す「徐波睡眠期持続性棘徐波を示すてんかん性脳症(CSWS)」との共通性が注目されました。現在では両者は一連のスペクトラムとして理解されています。2022年の国際抗てんかん連盟(ILAE)の分類では、睡眠時に棘徐波が活性化するてんかん性脳症(EE-SWAS/DEE-SWAS)の枠組みに含まれ、その中で言語性聴覚失認が前景に立つ病型として位置づけられています。さらに、中心・側頭部棘波を示す自然終息性てんかん(従来のローランドてんかん)、非定型良性部分てんかん、CSWS、LKSを一つの連続体とみる「てんかん-失語スペクトラム(epilepsy-aphasia spectrum)」という概念も提唱されています。日本では指定難病(告示番号155)に指定されています。

ランドウ・クレフナー症候群の疫学・患者数

ランドウ・クレフナー症候群は非常にまれな疾患で、報告例は世界的に見ても数百例規模にとどまります。日本で行われた全国調査では、年間発症率は小児100万人あたり1人前後と推計された報告があります。ただし、正確な患者数は明らかではありません。発症年齢は2〜8歳に分布し、3〜7歳頃が多いとされます。1〜3歳での発症はむしろ少なく、多くはある程度の言語を獲得した後に発症します。男児にやや多く、男女比はおよそ2:1とする報告が多くみられます。発症前の発達は正常であることが原則です。家族内発症はまれです。ただし、後述のGRIN2A遺伝子変異を有する家系では、類縁のてんかんや言語・構音の問題が家族内に複数みられることがあります。診断がつくまでに時間がかかる例が多いことも知られています。難聴、自閉スペクトラム症、発達性言語障害などと診断されて経過をみられている例もあり、実際の有病率は報告より高い可能性が指摘されています。

ランドウ・クレフナー症候群の原因・病態生理

原因は完全には解明されていません。最も広く受け入れられている考え方は、言語野近傍に生じる持続的なてんかん性放電そのものが言語機能を障害するというものです。脳腫瘍や脳炎の後遺症などの明らかな構造的原因がない、いわゆる特発性の例が大半を占めます。遺伝的要因としては、GRIN2A遺伝子の病的変異が知られています。この遺伝子はNMDA型グルタミン酸受容体のGluN2Aサブユニットをコードしており、LKSを含むてんかん-失語スペクトラムの一部(報告により1〜2割程度)で変異が見つかっています。浸透率は不完全で、同じ変異を持つ家族の間でも症状の程度は大きく異なります。免疫学的な関与も推定されています。その根拠は、副腎皮質ステロイドや免疫グロブリン療法が奏効する例があること、脳内の炎症を示唆する所見の報告があることです。ただし、抗LGI1抗体・抗CASPR2抗体などの特定の自己抗体がLKSの原因であるという確立した根拠はありません。髄液のオリゴクローナルバンドも通常は陰性です。まれに、側頭葉の腫瘍、炎症性疾患、皮質形成異常などの構造的病変がLKS様の臨床像を呈することがあり、これらは症候性として区別されます。

発症機序の詳細は次のように説明されています。てんかん性放電の焦点は、多くの場合一側または両側のシルビウス裂周囲、特に上側頭回・後部側頭葉(聴覚連合野・ウェルニッケ野周辺)にあります。脳磁図や脳波の双極子解析でも、この部位に焦点が推定されることが報告されています。ノンレム睡眠中には視床-皮質回路の同期化によって放電が著しく増強し、両側に広がって持続的な棘徐波となります。睡眠中の徐波活動は、日中に学習した情報を固定化し、シナプスを再調整する(いわゆるシナプスの恒常性維持)役割を担うと考えられています。持続的な放電がこの過程を妨げることで、発達途上の言語ネットワークの形成と維持が障害される、という仮説が有力です。このような機序は「機能的な皮質離断」や「てんかん性の抑制」とも表現されます。放電が長く続くほど言語機能の回復が難しくなるとされ、これが早期治療が重視される理由です。GRIN2A変異例では、NMDA受容体の機能異常によって興奮と抑制のバランスが崩れることや、言語回路の発達そのものが変化することが関与すると推定されています。

ランドウ・クレフナー症候群の症状

  • 言語性聴覚失認: 音は聞こえているのに言葉の意味が理解できなくなり、呼びかけに反応しない、聞き返しが増えるといった状態が初発症状となることが多いです。周囲からは「耳が聞こえない」「わざと無視している」と受け取られがちです。
  • 表出言語の退行: 発語が減り、言い間違い(錯語)、意味の通らない発話、語の想起困難などを経て、重症例では無言に至ります。発症は数週〜数か月かけて徐々に進むことも、急に起こることもあります。
  • 環境音認知の障害: 重症例では、電話の音や動物の鳴き声などの言葉以外の音の識別も難しくなり、全般性の聴覚失認に近い状態になることがあります。
  • 症状の変動: 言語症状は日や週の単位で良くなったり悪くなったりを繰り返すことがあり、その変動は脳波異常の増減と並行することがあります。
  • てんかん発作: 約7割にみられ、焦点意識保持発作、焦点意識減損発作、焦点起始両側強直間代発作、非定型欠神発作などが睡眠中を中心に起こります。頻度は多くないことが多く、薬で比較的抑えやすいとされます。
  • 行動・情緒の問題: 多動、注意の問題、易刺激性、かんしゃく、攻撃的行動、不安などがしばしばみられます。言葉によるコミュニケーションが失われることへの反応という面もあり、自閉的な行動様式を示すこともあります。
  • 非言語性知能の相対的保持: 視覚的な課題や動作性の能力は保たれることが多く、身振りや絵カードでのやり取りは可能な場合が少なくありません。ただし脳波異常が広範で長く続く例では、全般的な認知機能低下を伴うことがあります。
  • 睡眠の問題: 夜間の発作や睡眠中の放電に関連して、寝つきの悪さ、夜間覚醒、日中の眠気などがみられることがあります。
  • 読み書きの障害: 就学年齢では、音韻の処理障害を背景として、読み書きの習得の遅れや学習上の困難が生じやすくなります。
  • 微細な運動・構音の問題: 一部の例、特にGRIN2A変異例では、口腔運動の拙劣さや構音障害(発語失行に近い症状)を伴うことが報告されています。

ランドウ・クレフナー症候群の経過と合併症

典型的な経過では、正常な言語発達の後、数週〜数か月で聴覚理解の障害が現れ、表出言語の障害がそれに続きます。てんかん発作は失語に先行することも、同時に、あるいは後から出現することもあります。活動期には、睡眠時の脳波異常の程度と言語症状が並行して変動しやすく、増悪と寛解を繰り返しながら数年続くことがあります。この活動期のてんかん性脳症の状態は年齢に依存しており、多くの場合、思春期頃(おおむね15歳頃まで)には発作が消え、睡眠時脳波の異常も改善します。しかし脳波が正常化しても、言語機能が完全に元に戻るとは限りません。後遺症の程度は、発症年齢が低いほど、また睡眠時の持続性放電の期間が長いほど重くなる傾向があると報告されています。

合併症・随伴する問題には、次のようなものがあります。注意欠如・多動症様の症状、自閉スペクトラム症様の対人コミュニケーションの困難、情緒・行動の問題、学習障害(特に読み書き)、睡眠障害です。また、抗てんかん薬、副腎皮質ステロイド、免疫療法の副作用にも注意が必要です。ステロイドの長期使用では、体重増加、高血圧、高血糖、骨密度低下、成長抑制、感染症、気分変化などが問題となります。言葉の通じない状態が長く続くと、二次的に社会的な孤立、自己評価の低下、思春期以降の不安や抑うつにつながることがあり、心理社会的な合併症への配慮も欠かせません。

ランドウ・クレフナー症候群の診断・診断基準

診断は、正常に発達していた言語の獲得後の退行(特に聴覚理解の障害)という臨床像と、睡眠時に著明に増強する側頭部優位のてんかん性放電という脳波所見の組み合わせに基づいて行います。言葉の理解が急に悪くなった幼児では、まず聴力検査で末梢性の難聴を除外します。そのうえで、覚醒時だけでなく必ず睡眠を含めた脳波検査を行うことが重要です。覚醒時の脳波では異常が目立たないことがあり、睡眠脳波を記録しないと見逃されます。頭部MRIなどの画像検査で構造的な原因を除外し、必要に応じて代謝・遺伝・免疫学的な検索を加えます。指定難病の診断基準では、主要症状(獲得性失語・聴覚性失認)、てんかん発作の有無、脳波所見、除外診断などを総合して判断します。重症度は、てんかん発作の頻度と、精神・神経症状による日常生活の障害の程度によって評価されます。認定にあたっては、小児神経科医やてんかん専門医の診断を受けることが望まれます。

  • 睡眠脳波(終夜または長時間ビデオ脳波): 最も重要な検査です。一側または両側の側頭部(中側頭〜後側頭、シルビウス裂周囲)に棘波・棘徐波がみられ、ノンレム睡眠で著しく増加・両側化します。徐波睡眠の大部分を占める持続性の棘徐波(ESES/CSWS様パターン)を示すことも多くあります。
  • 棘徐波指数(spike-wave index)の評価: ノンレム睡眠中に棘徐波が占める割合を算出し、重症度判定や治療効果のモニタリングに用います。基準値は施設や定義によって異なりますが、高値が持続することは言語予後不良と関連するとされます。
  • 聴力検査(純音聴力検査・聴性脳幹反応など): 末梢の聴力や脳幹までの聴覚伝導路は正常であることを確認し、難聴を除外します。言語音の弁別検査などで、中枢性の聴覚処理障害が明らかになることがあります。
  • 頭部MRI: 典型例では明らかな異常を認めません。腫瘍、皮質形成異常、脳炎、脱髄性疾患などの構造的な原因を除外するために必須です。
  • 機能画像(FDG-PET、脳血流SPECT)・脳磁図(MEG): 側頭葉、特に上側頭回に代謝・血流の変化(活動期の亢進や、低下)がみられることがあります。MEGではシルビウス裂周囲にてんかん性放電の発生源が推定されることがあり、外科治療を検討する際などに参考とされます。
  • 言語・神経心理学的評価: 言語理解、表出、語音弁別、非言語性知能(動作性の課題など)を定期的に評価し、退行の程度や回復をとらえて治療方針を決める指標とします。
  • 遺伝学的検査: GRIN2A遺伝子などの検索で病的変異が見つかる例があります。遺伝カウンセリング体制のもとで実施を検討します。陰性であっても診断は否定されません。
  • 髄液検査・血液検査: LKSでは通常異常を示しません。脳炎、自己免疫性脳炎(抗NMDA受容体抗体など)、代謝性疾患などを鑑別したいときに行います。

ランドウ・クレフナー症候群と鑑別すべき疾患

  • 難聴(感音難聴・伝音難聴): 純音聴力検査や聴性脳幹反応で聴力低下が確認されれば難聴と判断でき、LKSでは聴力そのものは正常です。
  • 自閉スペクトラム症(退行を伴う型): 自閉スペクトラム症の退行は多くが2歳前後までに起こり、対人的相互性の障害が中心で、睡眠時の持続的な側頭部放電は通常みられません。
  • 徐波睡眠期持続性棘徐波を示すてんかん性脳症(CSWS): 同じスペクトラムに属しますが、CSWSでは言語に限らない全般的な認知・行動の退行が前景に立ち、前頭部優位の放電を示すことが多いのに対し、LKSは聴覚性失語が中心です。
  • 非定型中心・側頭部棘波を伴う自然終息性てんかん(非定型ローランドてんかん): 睡眠時の放電増強は共通しますが、明らかな言語退行を伴わず、陰性ミオクローヌスや脱力発作などが目立つ点で区別されます。
  • 自己免疫性脳炎・感染性脳炎: 急性〜亜急性の意識障害、精神症状、不随意運動、髄液の細胞数増加、自己抗体の陽性、MRI異常などがあれば脳炎を考えます。
  • 発達性言語障害・神経変性疾患: 発達性言語障害は獲得した言語の退行がない点で、神経変性疾患や代謝性疾患は言語以外の運動・認知機能が進行性に低下する点や、画像・代謝検査の異常で区別します。

ランドウ・クレフナー症候群の治療

治療の目標は、てんかん発作を抑えることだけではありません。睡眠時のてんかん性放電を速やかに減らし、言語機能を守り回復させることが中心的な目標です。放電の持続期間が予後に関係すると考えられているため、診断がつき次第、早期に治療を始めることが重要とされます。確立された標準治療は存在せず、主に症例報告や観察研究に基づいて治療が選択されています。一般的には、まず睡眠時の放電を抑えることが期待される抗てんかん薬(バルプロ酸、ベンゾジアゼピン系薬、エトスクシミド、レベチラセタム、スルチアムなど)で治療を開始します。効果が不十分な場合や言語退行が進む場合には、早めに副腎皮質ステロイド(経口プレドニゾロン、ステロイドパルス療法、ACTHなど)を検討する、という段階的な方針がとられることが多いです。カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタールなど一部の薬剤は、睡眠時の放電を悪化させる可能性が報告されており、使用には慎重さが求められます。治療効果は臨床症状だけでなく、睡眠脳波を繰り返し記録して評価します。並行して言語聴覚療法、代替コミュニケーション手段の導入、教育的支援を早期から行います。具体的な薬剤の選択と用量は、年齢や副作用、発作の型を踏まえて、主治医・てんかん専門医と相談して決めることが大切です。

  • 抗てんかん薬(バルプロ酸など): バルプロ酸は第一選択の一つとして広く用いられ、発作を抑え、睡眠時の放電を軽くすることが期待されます。エトスクシミド、レベチラセタム、スルチアムなどを単独または併用で用いた報告があります。
  • ベンゾジアゼピン系薬: クロバザムなどの継続内服や、短期間の高用量ジアゼパム内服などで、睡眠時の棘徐波が減少したという報告があります。眠気やふらつき、効果の減弱(耐性)に注意が必要です。
  • 副腎皮質ステロイド・ACTH療法: 言語の回復に最も効果が期待できる治療の一つとされ、早期に導入するほど有効性が高いとする報告があります。経口プレドニゾロンの数か月にわたる漸減投与やステロイドパルス療法などが行われますが、減量に伴う再燃や、長期使用による副作用への対策が課題となります。
  • 免疫グロブリン静注療法(IVIG): ステロイドが無効の場合や使用できない場合に試みられ、有効例の報告があります。ただし効果は一定せず、エビデンスは限られています。
  • ケトン食療法(修正アトキンス食を含む): 薬物治療に抵抗性の例で、発作や脳波異常の改善が報告されています。栄養管理と副作用(低血糖、尿路結石、成長への影響など)の観察が必要なため、専門施設の管理のもとで実施します。
  • 外科治療(軟膜下皮質多切術など): 放電の焦点が一側の言語野周囲に限られ、薬物・免疫療法に抵抗する例に限って、軟膜下皮質多切術(MST)が行われた報告があります。適応は非常に限定的で、効果についても議論があるため、てんかん外科の専門施設で慎重に検討されます。
  • 言語聴覚療法・代替コミュニケーション: 聴覚に頼らない視覚的な手段(手話、文字、絵カード、AAC機器など)を早期に導入することで、コミュニケーションを確保し、言語概念の発達を支えます。回復期には聴覚を通じた言語訓練も段階的に取り入れます。
  • 教育的・心理社会的支援: 聴覚理解の障害に配慮した教室環境(視覚的な提示、静かな座席位置、補聴援助システムの活用など)や、特別支援教育・通級指導の利用を検討します。行動上の問題に対しては、児童精神科医や心理士と連携して支援します。

ランドウ・クレフナー症候群の予後・長期フォロー

生命予後はおおむね良好で、てんかん発作も多くは思春期までに消えます。一方、言語機能の予後はさまざまです。ほぼ正常まで回復する例が一部にある一方で、半数前後かそれ以上で何らかの言語障害が成人期まで残るとする報告が多くみられます。残る障害には、聴覚理解の弱さ、語想起の困難、読み書きの問題などがあります。重い失語が続く例もあります。回復の割合を示す数値は報告によって大きく異なるため、あくまで目安としてとらえる必要があります。予後に関係する要因として、発症年齢が低いこと、睡眠時の持続性放電が長く続くこと(1〜2年以上など)、治療開始が遅れることが、不良因子として繰り返し指摘されています。言語障害が残った場合でも、手話や文字による代替コミュニケーションを身につけることで、教育・就労・社会参加が可能となる例は少なくありません。QOLを保つためには、言語以外の能力を伸ばす支援が重要です。

長期フォローアップでは、思春期に脳波が正常化するまでの間、定期的に睡眠脳波を記録して再燃の有無を確認し、治療を調整します。言語・認知機能の評価も繰り返し行います。抗てんかん薬の減量や中止は、発作がない期間と脳波所見を確認しながら、主治医と相談して慎重に行います。学童期から思春期にかけては、学習面の支援、心理的なケア、進学・就労に向けた支援が重要になります。成人期への移行(トランジション)では、小児科から成人診療科へ切れ目なく引き継ぐ体制づくりが望まれます。ステロイドを長期に使用した例では、成長、骨密度、血圧、血糖、眼科的合併症(白内障・緑内障)なども確認していきます。

ランドウ・クレフナー症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活では、まずコミュニケーションの手段を確保することが何より大切です。声だけで伝えようとせず、顔を見て、身振り、絵、写真、文字、手話などを組み合わせて伝えると、子どもの不安や混乱が和らぎます。指示に従わないように見える行動の多くは、言葉が理解できないことによるものです。叱るより、伝え方を工夫することが勧められます。抗てんかん薬は決められた時間に飲み続け、自己判断で中止しないようにします。睡眠不足や発熱は発作の誘因となることがあるため、規則正しい生活を心がけます。ステロイド治療中は、感染症の予防、体重や血圧の管理、急に中止しないことなどについて、主治医の指示に従います。入浴中や水泳など、発作が起きた場合に危険を伴う場面では大人が見守ります。園や学校とは診断名と症状の特徴を共有し、視覚的な支援や発作時の対応について話し合っておきます。遺伝については、多くは家族内で繰り返さない孤発例ですが、GRIN2A変異が見つかった場合や家族にてんかん・言語障害がある場合は、遺伝カウンセリングで再発率や家族の検査について相談することができます。

利用できる制度・相談窓口

ランドウ・クレフナー症候群は指定難病(告示番号155)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合は、難病医療費助成制度による医療費の自己負担軽減を受けられます。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(保健所など)で行います。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では、小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象にもなっており、年齢や状況に応じてどちらの制度を利用するか窓口で相談できます。てんかんの通院治療には自立支援医療(精神通院医療)が利用できる場合があります。また、症状の程度に応じて、精神障害者保健福祉手帳(てんかん・高次脳機能の障害など)、身体障害者手帳(音声・言語機能障害)、療育手帳の対象となる可能性があります。手当としては、特別児童扶養手当、障害児福祉手当などがあり、20歳以降は障害の程度によって障害年金(障害基礎年金など)の対象となりえます。教育面では、特別支援教育、通級による指導(言語障害・難聴などの通級)、特別支援学校(聴覚障害・知的障害など)での支援、就学相談の制度を活用できます。相談窓口としては、主治医のほか、難病相談支援センター、保健所、小児慢性特定疾病の自立支援員、発達障害者支援センター、市区町村の障害福祉窓口、てんかんの患者・家族会(日本てんかん協会など)があります。

ランドウ・クレフナー症候群に伴う心のケア・心理社会的支援

それまで普通に話していた子どもが言葉を失っていく体験は、家族にとって大きな衝撃です。原因がわからない時期や、難聴・自閉スペクトラム症などと説明されて診断が遅れた場合には、不安、自責感、怒り、抑うつを抱えやすくなります。症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すことや、ステロイド治療の副作用、長期にわたる通院も、家族の負担を大きくします。子ども本人にとっても、周囲の言葉が理解できず、自分の思いが伝わらない状態は強いストレスです。かんしゃくや攻撃的行動、ひきこもりとして表れることがあります。学童期以降は、友人関係や学習面のつまずきから自己評価が下がりやすくなり、思春期には不安障害や抑うつ、適応障害が問題となることもあります。きょうだいへの影響にも目を向ける必要があります。つらさを一人で抱え込まず、主治医、臨床心理士、医療ソーシャルワーカー、児童精神科医、家族会などに早めに相談することが大切です。気持ちの落ち込みや眠れない状態が続く場合には、保護者自身もメンタルヘルスの専門家の支援を受けることをためらわないでください。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

ランドウ・クレフナー症候群の受診の目安

  • 幼児が急に呼びかけに反応しなくなった、言葉の理解が悪くなった、話す言葉が減ったと感じたら、早めに小児科・小児神経科を受診してください。
  • 聴力検査で異常がないのに言葉の理解が戻らない場合は、睡眠脳波を含む専門的な評価を受けられる医療機関に相談してください。
  • すでに診断を受けている方で、言語症状や行動の悪化、発作の増加がみられた場合は、再燃の可能性があるため予定より早く主治医に連絡してください。
  • けいれんが5分以上続く場合、意識が戻らないまま発作を繰り返す場合、発作後に呼吸が苦しそうな場合は、救急車を要請してください。
  • ステロイド治療中に高熱、強い頭痛、嘔吐、ぐったりしている、強い腹痛などがみられた場合は、速やかに受診してください。
  • 薬の副作用が疑われる症状(強い眠気、ふらつき、発疹、食欲低下、気分の大きな変化など)が出た場合は、自己判断で中止せず主治医に相談してください。

ランドウ・クレフナー症候群についてのよくある質問

Q. 耳が聞こえていないのではないかと言われました。難聴とは違うのですか?

A. ランドウ・クレフナー症候群では、耳から脳幹までの聞こえる機能は保たれています。障害されているのは、脳が言葉の音を言語として認識する働き(言語性聴覚失認)です。そのため聴力検査は正常で、補聴器では改善しにくいのが特徴です。

Q. 発作がなくても治療は必要ですか?

A. この病気では、発作がなくても睡眠中の脳波異常が言語機能に影響すると考えられています。そのため、脳波異常と言語症状を目安に治療を検討することが一般的です。治療の必要性や方法については、睡眠脳波の結果をもとに主治医とよく相談してください。

Q. 言葉は元に戻りますか?

A. 経過には個人差が大きく、ほぼ回復する例から言語障害が残る例までさまざまです。早期の診断と治療、睡眠時の脳波異常の期間を短くすることが予後の改善につながると考えられています。言語障害が残った場合も、手話や文字などの手段でコミュニケーションや学習を進めることができます。

Q. 遺伝する病気ですか?きょうだいも心配です。

A. 多くは家族内で繰り返さない孤発例です。一部ではGRIN2Aなどの遺伝子変異が関与しており、家族にてんかんや言語の問題がみられることがあります。心配な場合は、遺伝カウンセリングで具体的なリスクや検査の意義について相談できます。

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この記事について

最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。