スタージ・ウェーバー症候群
Sturge-Weber Syndrome
スタージ・ウェーバー症候群(Sturge-Weber Syndrome)|スタージ・ウェーバー症候群は、顔面のポートワイン母斑(毛細血管奇形)、脳を覆う軟膜の血管奇形(脳軟膜血管腫)、緑内障などの眼の異常を特徴とする、生まれつきの血管奇形症候群です。遺伝ではなく、胎児期に一部の細胞に生じる遺伝子変異(体細胞モザイク)が原因とされます。乳幼児期に始まるてんかん発作、片麻痺、発達の遅れ、視機能障害などが生活に大きく影響します。症状の重さには大きな個人差があり、早期発見と小児神経科・眼科・皮膚科などの継続的な連携が重要です。
スタージ・ウェーバー症候群の要点
スタージ・ウェーバー症候群は、顔面のポートワイン母斑、脳軟膜の血管奇形、緑内障などの眼の異常を特徴とする、生まれつきの血管奇形症候群です。乳幼児期からのてんかん発作や片麻痺、発達の遅れ、視機能障害がみられ、日本では指定難病に指定されています。
| 別名・略称 | スタージ・ウェバー症候群、スタージ・ウェーバー病、脳三叉神経血管腫症、SWS、Encephalotrigeminal angiomatosis |
|---|---|
| 分野 | 小児神経・てんかん |
| 遺伝形式 | 遺伝しない(胎児期に生じる体細胞モザイクの遺伝子変異が原因とされる) |
| 好発年齢 | 顔面の母斑は出生時から。てんかん発作は乳幼児期に始まることが多い |
| 主な症状 | 顔面のポートワイン母斑、てんかん発作、片麻痺、発達の遅れ、緑内障 |
| 主な検査 | 頭部MRI(造影)、脳波、眼圧測定などの眼科検査 |
| 主な治療 | 抗てんかん薬、緑内障の点眼・手術などの対症療法、母斑のレーザー治療 |
| 受診する主な診療科 | 小児神経科、眼科、皮膚科 |
スタージ・ウェーバー症候群とは
スタージ・ウェーバー症候群(Sturge-Weber syndrome:SWS)は、神経皮膚症候群(母斑症)の一つに分類される先天性の血管奇形症候群です。主な病変は次の三つです。①顔面の毛細血管奇形(ポートワイン母斑、従来の「単純性血管腫」)、②同じ側の脳表を覆う軟膜の毛細血管・静脈奇形(脳軟膜血管腫、leptomeningeal angiomatosis)、③眼の血管異常(緑内障、びまん性脈絡膜血管腫、上強膜血管拡張など)。名称に「血管腫」とありますが、病理学的には腫瘍ではありません。血管の形成異常である「脈管奇形」に属し、乳児血管腫(いちご状血管腫)のように自然に消えることはありません。脳では、軟膜血管奇形のため皮質の静脈がうまく流れ出ず、慢性的な血流うっ滞と低酸素が起こります。その結果、皮質の石灰化と萎縮、てんかん発作、神経症状が徐々に進むことがあります。
本症は1879年にSturgeが顔面母斑・対側の発作・眼症状を伴う症例を報告し、1922年にWeberが頭蓋内石灰化の放射線所見を記載したことから、この名で呼ばれます。臨床病型としてはRoach分類が広く使われています。I型は顔面ポートワイン母斑と脳軟膜血管腫を併せ持つもので、緑内障の有無は問いません。最も典型的な病型です。II型は顔面母斑のみで脳病変がないもので、緑内障を伴うことがあります。III型は脳軟膜血管腫のみで顔面母斑がないもので、まれで診断が遅れやすい病型です。病変は通常片側ですが、両側に及ぶ例もあります。両側例はてんかんや知的障害が重くなりやすいとされます。日本では指定難病(告示番号157)に指定されており、診断基準と重症度分類に基づいて医療費助成の対象になります。
スタージ・ウェーバー症候群の疫学・患者数
発生頻度は、海外の報告で出生2万〜5万人に1人程度と推定されています。人種差や地域差ははっきりしていません。日本の正確な患者数を示す疫学データは限られていますが、全国に一定数の患者がいる希少疾患です。性差はほとんどないとされます。体細胞変異による孤発性の疾患のため、家族内で発症が重なることは基本的にありません。顔面のポートワイン母斑は出生児の約0.3%前後にみられる比較的よくある病変です。ただし、その中でスタージ・ウェーバー症候群を合併するのは一部です。合併の危険が高いのは、額(前額部)から上眼瞼にかかる母斑、広範囲または両側の母斑がある場合とされます。従来は「三叉神経第1枝(眼神経)領域」が危険部位とされてきました。近年は、胎生期の血管発生の分布(前額部・顔面の発生単位)に沿って評価する考え方も提唱されています。てんかん発作は多くが生後1年以内に始まり、大部分は2歳ごろまでに発症します。ただし、まれに学童期以降や成人期に初めて発作が起こることもあります。緑内障は乳児期の発症と、学童期〜成人期の発症の二つの時期にみられます。
スタージ・ウェーバー症候群の原因・病態生理
2013年、本症とポートワイン母斑の病変組織からGNAQ遺伝子の体細胞モザイク変異が見つかり、主要な原因として確立しました。最も多いのはc.548G>A(p.Arg183Gln)です。GNAQは、三量体Gタンパク質のαサブユニット(Gαq)をつくる遺伝子です。この変異はGTPを分解する働きを弱め、Gαqを持続的に活性化させます。その結果、ホスホリパーゼCβ、プロテインキナーゼC、MAPK(Ras-Raf-MEK-ERK)経路などの下流シグナルが過剰に働くと考えられています。変異は主に病変部の血管内皮細胞に集中していることが報告されています。少数ながら、GNA11やGNB2などの関連遺伝子の変異も報告されています。変異は受精後の胎児発生の過程で一部の細胞に偶然生じます(接合後変異)。そのため血液検査では通常検出されず、病変組織を調べる必要があります。親から子へ遺伝する疾患ではなく、患者さん自身の生殖細胞に変異がない限り、子どもに遺伝する可能性も極めて低いと考えられています。
発症の仕組みは次のように説明されています。胎生初期(妊娠4〜8週ごろ)、頭部の顔面・脳表・眼の血管は、共通の原始静脈叢から発生します。この時期の前駆細胞にGNAQ変異が生じると、その細胞の子孫が分布する顔面皮膚・軟膜・脈絡膜にまたがって血管奇形が形成されると考えられています。変異が起こった時期が早いほど病変は広く、遅いほど限局する(顔面母斑のみなど)と推定されます。脳では、軟膜の異常血管網のために皮質の表在静脈が十分に発達しません。静脈血は深部の髄質静脈を通って迂回して流れ出し、深部静脈や脈絡叢が拡張します。この静脈うっ滞によって皮質は慢性的に低灌流・低酸素の状態になります。そこにてんかん発作による代謝需要の増大や、発熱・脱水などの負荷が加わると、虚血性障害が進みます。これが皮質の石灰化、グリオーシス、萎縮へとつながります。発作と虚血が互いを悪化させる悪循環が、神経症状の進行に関わると考えられています。眼では、前房隅角の発生異常による房水流出障害と、上強膜静脈圧の上昇が緑内障の主な機序とされています。
スタージ・ウェーバー症候群の症状
- 顔面ポートワイン母斑: 出生時からある赤〜赤紫色の平坦な斑で、多くは額・上眼瞼を含み、片側性が典型です。成長とともに色が濃くなり、成人期には皮膚の肥厚や結節状の隆起、口唇・歯肉の肥大を伴うことがあります。
- てんかん発作: 脳病変がある人の約75〜90%にみられ、多くは乳児期に病変の反対側から始まる焦点発作で発症します。群発しやすく、てんかん重積状態や薬剤抵抗性(難治性)てんかんに進むことがあります。
- 片麻痺: 脳病変の反対側の手足に運動麻痺が生じます。発作の後や脳卒中様発作をきっかけに出現・悪化し、徐々に固定化することがあります。
- 脳卒中様発作: 発作を伴わずに、または発作の後に、一過性の片麻痺・視野障害・言語障害などが数時間〜数日続くエピソードです。静脈うっ滞による虚血が背景と考えられ、片頭痛様頭痛を伴うことがあります。
- 頭痛・片頭痛: 学童期以降に片頭痛様の拍動性頭痛を訴えることが多く、一般の小児・成人より頻度が高いとされます。発作や脳卒中様発作と関連することもあります。
- 緑内障: 約30〜70%にみられ、多くは顔面母斑と同じ側に起こります。乳児期には角膜混濁・眼球拡大(牛眼)・流涙・まぶしがりとして現れ、年長以降は自覚症状なく視野障害が進むことがあります。
- 脈絡膜血管腫・眼の血管異常: 眼底全体が赤く見えるびまん性脈絡膜血管腫や、結膜・上強膜の血管拡張がみられます。脈絡膜血管腫は滲出性網膜剥離を起こし、視力低下の原因になることがあります。
- 視野障害(同名半盲): 後頭葉に病変が及ぶと、病変の反対側の視野が両眼とも欠ける同名半盲が生じます。乳幼児では気づかれにくいため、行動観察や視野評価が必要です。
- 発達遅滞・知的障害: 約半数に何らかの知的障害があるとされます。発作の早期発症、両側病変、発作のコントロール不良が危険因子とされています。
- 行動・情緒の問題: 注意欠如・多動症(ADHD)様の症状、易刺激性、抑うつ、不安などを合併しやすく、学習面への配慮が必要になることがあります。
- 内分泌異常: 成長ホルモン分泌不全や中枢性甲状腺機能低下症の合併が報告されており、成長の遅れや抗てんかん薬の影響を含めた評価が勧められます。
- 顔面骨・軟部組織の過成長: 母斑と同じ側の上顎・頬骨や口唇の肥大により顔の非対称や歯列不正が生じ、歯科・形成外科的な対応が必要になることがあります。
スタージ・ウェーバー症候群の経過と合併症
自然経過は病変の広がりや発作の状態によって大きく異なります。新生児期は顔面母斑以外に症状がないことが多くあります。生後数か月〜2歳ごろにてんかん発作が始まると、発作の群発、発作後の片麻痺、脳卒中様発作を繰り返します。これに伴い、乳幼児期の数年間に神経学的機能が段階的に低下することがあります。この時期は画像上も皮質石灰化と萎縮が進みやすく、「進行期」ともいえます。一方、学童期以降は発作がある程度落ち着き、神経症状が固定して比較的安定する例が多いとされます。ただし成人期にも、発作の再燃、片頭痛、脳卒中様発作、遅発性緑内障が問題になることがあります。脳病変がない病型(II型)でも緑内障や母斑の肥厚は進むことがあるため、皮膚科・眼科での経過観察が必要です。
主な合併症は次のとおりです。てんかん重積状態は生命に関わり、神経機能の悪化につながります。薬剤抵抗性てんかんや固定した片麻痺・運動障害により、側弯や関節拘縮が生じることがあります。知的障害・学習障害、緑内障による視神経障害・失明、脈絡膜血管腫による網膜剥離も起こりえます。皮膚では母斑の結節化と、そこからの出血(化膿性肉芽腫など)がみられます。歯肉肥大による口腔衛生の悪化、内分泌異常、抑うつ・不安などの精神症状もあります。治療に関連するものとして、抗てんかん薬の副作用、緑内障点眼薬の全身性副作用、アスピリン内服中の出血傾向やライ症候群への注意があります。片麻痺が固定すると成長期に患側の手足の発育差が生じることがあり、整形外科的な評価も必要です。
スタージ・ウェーバー症候群の診断・診断基準
診断は、臨床所見(顔面ポートワイン母斑・てんかん発作・眼症状)と画像による脳軟膜血管腫の確認を組み合わせて行います。額や上眼瞼を含むポートワイン母斑をもつ乳児は、無症状でも小児神経科と眼科で評価を受けることが勧められます。脳病変の評価には造影MRIが最も重要です。ただし新生児期・乳児早期は髄鞘化が未熟なため、病変が写りにくく偽陰性になることがあります。初回のMRIで異常がなくても、発達や発作の状況に応じて1歳前後などに再検査を検討します。てんかんを発症した場合は、脳波で病変側の背景活動の低下や発作波を評価します。眼科では乳児期から定期的に眼圧と眼底を確認します。指定難病の申請では、厚生労働省の診断基準に沿って、主要症状(顔面母斑・脳軟膜血管腫・眼症状)と画像所見の組み合わせで診断し、重症度分類(神経症状の程度、てんかん発作の頻度など)で助成の可否を判定します。遺伝子検査(病変組織のGNAQ変異解析)は研究的に行われることが多く、診断に必須ではありません。
- 造影MRI(ガドリニウム造影T1強調画像): 脳表に沿った軟膜の異常な造影効果で脳軟膜血管腫を確認する中心的な検査です。病変の範囲や両側性かどうかの評価にも用います。患側の脈絡叢の拡大、皮質萎縮、白質のT2信号変化も評価できます。
- 磁化率強調画像(SWI): 拡張した深部髄質静脈や皮質の石灰化を鋭敏に描出します。造影MRIと組み合わせることで、早期診断や病変範囲の把握に役立ちます。
- 頭部CT: 脳回に沿った皮質石灰化(いわゆるtram-track、二重線状の石灰化)、患側の萎縮、頭蓋骨の肥厚を示します。乳児期には石灰化が目立たないことも多く、被ばくを考慮して必要時に行います。
- 脳波: 病変側の背景活動の低下(振幅低下・徐波化)や、焦点性のてんかん性放電を評価します。発作型の診断、治療効果の判定、外科治療の検討に用います。
- 脳機能画像(FDG-PET・SPECT): 病変部の糖代謝低下や血流低下を示し、MRIで写りにくい機能障害の範囲を評価できます。てんかん外科の術前評価で特に重視されます。
- 眼科検査(眼圧・隅角・眼底・視野): 乳児期から定期的に眼圧測定、角膜径の確認、眼底検査(視神経乳頭陥凹、びまん性脈絡膜血管腫)を行います。乳幼児では鎮静下や全身麻酔下での検査が必要になることがあります。
- 皮膚所見の評価: ポートワイン母斑の分布(額・上眼瞼を含むか、両側性か、範囲)を記録し、脳・眼病変のリスクを層別化します。経時的な色調変化や肥厚も評価します。
- 神経心理・発達評価: 発達検査や知能検査、行動評価により、知的障害・注意欠如・学習困難を把握します。就学や療育の支援計画に活用します。
- 遺伝子解析(病変組織のGNAQ変異): 皮膚や切除脳組織から体細胞変異を検出できることがありますが、変異の割合が低いため高感度な解析が必要です。現時点では研究的な位置づけが中心です。
スタージ・ウェーバー症候群と鑑別すべき疾患
- クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群: 四肢などの毛細血管奇形に静脈・リンパ管奇形と患肢の過成長を伴う疾患で、主にPIK3CA関連とされ、顔面・脳軟膜病変を主体としない点で異なります。
- PHACE症候群(乳児血管腫を伴う症候群): 顔面病変は出生後に増大して自然に退縮する乳児血管腫であり、後頭蓋窩奇形・脳血管異常・心血管異常を伴う点で鑑別します。
- 大頭症-毛細血管奇形症候群(MCAP)やRASA1関連毛細血管奇形-動静脈奇形: 広範な毛細血管奇形を呈しますが、大頭症・多小脳回や、高流量の動静脈奇形・動静脈瘻を伴う点で異なります。
- 正中部母斑(サーモンパッチ): 眉間・上眼瞼・項部の淡紅色斑で多くは自然に薄くなり、脳・眼病変を伴わないため、色調・分布・経過で区別します。
- ラスムッセン脳炎: 片側大脳の進行性萎縮と難治性焦点てんかんを示しますが、顔面母斑や軟膜造影効果・石灰化を欠き、慢性炎症が病態である点で異なります。
- 片側巨脳症・その他の皮質形成異常: 乳児期発症の片側性難治てんかんを示しますが、MRIでは軟膜血管腫ではなく、大脳半球の腫大や皮質構築の異常がみられます。
スタージ・ウェーバー症候群の治療
現時点で病気そのものを治す根本治療は確立していません。治療は①てんかん発作の抑制と脳障害の予防、②緑内障など眼合併症の管理による視機能の温存、③顔面母斑への治療、④リハビリテーションと発達・心理社会的支援を柱に、小児神経科(脳神経内科)、脳神経外科、眼科、皮膚科・形成外科、リハビリテーション科、内分泌科、歯科などが連携して行います。てんかん発作と脳虚血が互いに悪化させ合うと考えられることから、乳幼児期には発作をできるだけ早く、しっかり抑えることが重視されます。発作が薬で抑えにくい場合は、早期にてんかん外科の専門施設で評価を受けることが重要です。発症前の段階で抗てんかん薬やアスピリンを予防的に始めるかどうかについては、確立した結論がありません。リスクや家族の意向を踏まえて主治医と相談のうえで判断します。病変を持つ血管内皮のGNAQシグナルを標的とする治療(mTOR阻害薬など)の研究も進められていますが、現時点では研究段階です。具体的な治療選択は必ず主治医・専門医と相談してください。
- 抗てんかん薬: 焦点発作が主体のため、レベチラセタム、カルバマゼピン、オクスカルバゼピン、ラコサミド、ラモトリギンなどが年齢・発作型・副作用を考慮して選択されます。群発やてんかん重積状態には、発作時頓用薬(ベンゾジアゼピン系)を事前に準備しておくことがあります。
- 低用量アスピリン: 脳卒中様発作や発作の頻度を減らす可能性が観察研究で報告され、専門施設で用いられることがあります。ただし高い水準のエビデンスは乏しいとされます。出血傾向や、インフルエンザ・水痘罹患時のライ症候群への注意が必要で、使用は主治医が個別に判断します。
- てんかん外科治療: 薬剤抵抗性てんかんでは、病変の範囲に応じて焦点切除術、多脳葉離断術、大脳半球離断術(機能的半球切除術)などが検討されます。片側病変で適応がある場合は、発作の消失や発達の改善が期待されることがあります。適応と時期の判断は、てんかん外科の専門施設で行われます。
- 緑内障治療: 乳児期発症の緑内障では、隅角切開術や線維柱帯切開術などの手術が第一選択になることが多いです。年長以降の発症では、β遮断薬、プロスタグランジン関連薬、炭酸脱水酵素阻害薬などの点眼から始め、効果不十分なら手術を検討します。乳幼児には使用を避けるべき点眼薬もあり、全身への副作用も含めて眼科で管理します。
- 脈絡膜血管腫の治療: 滲出性網膜剥離などで視力が脅かされる場合に、光線力学的療法や放射線療法などが検討されます。手術時の脈絡膜出血のリスクにも配慮が必要です。
- レーザー治療(色素レーザー): 顔面ポートワイン母斑には色素レーザー照射が標準的に行われ、日本では保険診療で受けられます。乳幼児期からの早期開始が有効とする報告が多く、複数回の照射が必要です。完全に消えないこともあり、成人期の肥厚や結節には形成外科的切除なども検討されます。
- リハビリテーション: 片麻痺に対する理学療法、手の機能に対する作業療法、言語聴覚療法、装具療法などを行い、拘縮や側弯を予防して日常生活動作の自立を支援します。視野障害に対する生活指導も含まれます。
- 頭痛・脳卒中様発作への対応: 片頭痛様頭痛には鎮痛薬や予防薬が用いられます。脳卒中様発作では、てんかん発作との区別、十分な水分補給、解熱など脳への負担を減らす支持療法が中心です。新たな神経症状が出た場合は速やかに医療機関で評価を受けます。
- 発達支援・内分泌・歯科管理: 療育、特別支援教育、行動面への支援を行います。成長障害や甲状腺機能の評価・治療、歯肉肥大や顔面の非対称への歯科・矯正・形成外科的対応も、生活の質の維持に重要です。
スタージ・ウェーバー症候群の予後・長期フォロー
生命予後は、多くの場合大きく損なわれないとされます。ただし、てんかん重積状態や重度の神経障害を伴う例では、合併症による危険があります。機能的な予後は個人差が非常に大きく、顔面母斑だけで脳病変のない人では、知的機能や日常生活は通常保たれます。脳病変があっても、発作が少なく片側に限局していれば、通常学級への就学、就労、自立した生活を送る人も少なくありません。予後不良と関連する因子として、1歳未満でのてんかん発症、発作のコントロール不良・重積の反復、両側性または広範な脳病変、早期からの片麻痺が挙げられています。視機能の予後は、緑内障を早く見つけて眼圧を適切に管理できるかに大きく左右されます。顔面母斑は外見上の悩みとして、生涯にわたり心理社会的な影響を及ぼすことがあります。
長期のフォローアップでは、小児期から成人期まで、診療科ごとに定期的な診察を続けることが勧められます。小児神経科・脳神経内科では、発作の状態、薬の血中濃度と副作用、発達・認知機能、必要に応じたMRIや脳波を確認します。眼科では、緑内障が遅れて発症することがあるため、症状がなくても生涯にわたる眼圧・視神経の定期検査が重要です。皮膚科・形成外科ではレーザー治療の継続と肥厚性変化の評価を、内分泌科では成長・甲状腺機能・思春期の評価を行います。思春期以降は、小児科から成人診療科への移行期医療が課題になります。抗てんかん薬の継続、妊娠・出産時の薬剤調整(催奇形性のある薬の見直しなど)、運転免許、就労などについて、早めに主治医と計画を立てておくことが大切です。
スタージ・ウェーバー症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、発作を誘発しやすい睡眠不足、過労、発熱、脱水を避け、規則正しい生活と服薬の継続を心がけます。発熱時は早めに解熱と水分補給を行うことが、脳卒中様発作や発作の群発を防ぐうえで勧められることがあります。家族は発作時の対応(安全確保、時間の記録、頓用薬の使い方、救急要請の目安)を主治医と確認し、保育園・学校・職場とも共有しておきます。入浴や水泳、高所での活動は、発作の状況に応じて付き添いなどの安全対策をとります。アスピリン内服中は、けがや出血、ほかの鎮痛薬との併用、予防接種(インフルエンザ・水痘)について主治医に相談してください。顔面母斑は、紫外線対策や、必要に応じたカバーメイク(化粧療法)で負担を軽くできる場合があります。片側の視野障害がある場合は、歩行時や自転車の安全、教室での座席位置などに配慮します。本症はGNAQ遺伝子の体細胞変異による孤発性疾患であり、両親の行動や妊娠中の出来事が原因ではありません。きょうだいや患者さん自身の子どもに遺伝する可能性も極めて低いと考えられています。不安がある場合は、遺伝カウンセリングで説明を受けることができます。
利用できる制度・相談窓口
スタージ・ウェーバー症候群は指定難病であり、診断基準を満たし、重症度分類で一定以上と判定された場合(または軽症でも高額な医療費が継続する場合)は、難病医療費助成制度により医療費の自己負担が軽減されます。申請は、指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(保健所など)に提出します。18歳未満(継続の場合は20歳未満まで)では小児慢性特定疾病医療費助成の対象となり、自立支援や相談の事業も利用できます。障害の状態に応じて、身体障害者手帳(肢体不自由・視覚障害)、療育手帳(知的障害)、精神障害者保健福祉手帳(てんかんなど)の取得が考えられます。また、特別児童扶養手当、障害児福祉手当、自立支援医療(精神通院医療)、障害福祉サービス・障害児通所支援(児童発達支援・放課後等デイサービス)、20歳以降の障害年金(20歳前傷病による障害基礎年金を含む)などの制度もあります。相談窓口としては、難病相談支援センター、保健所、医療機関の医療ソーシャルワーカー、市区町村の障害福祉担当課、てんかん診療拠点病院などがあり、患者会・家族会からも体験に基づく情報を得ることができます。
スタージ・ウェーバー症候群に伴う心のケア・心理社会的支援
慢性の難病を抱える患者さんと家族は、長期にわたる通院や治療、発作がいつ起こるか分からない不安、将来への心配から、抑うつ、不安障害、適応障害を生じることがあります。本症に特有の課題としては、まず顔面母斑という目に見える症状があります。乳幼児期から周囲の視線や心ない言葉にさらされることがあり、思春期の自己像や対人関係に影響しやすいとされます。てんかんへの偏見や、発作のために行動が制限されることも心理的な負担になります。片麻痺・視野障害・学習面の困難による劣等感や孤立感を抱くこともあります。また、てんかんそのものや脳病変が、気分や行動の変化に生物学的に関わることも知られています。家族、特に養育者は、発作への緊張や頻回の通院、きょうだいへの配慮などで疲れがたまりやすくなります。気分の落ち込み、不眠、登校・登園しぶり、強いいらだちが続く場合は一人で抱え込まず、主治医、臨床心理士・公認心理師、児童精神科、学校のスクールカウンセラー、医療ソーシャルワーカーに相談してください。同じ病気をもつ人や家族との交流も支えになります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
スタージ・ウェーバー症候群の受診の目安
- けいれん発作が5分以上続く、意識が戻らないまま発作を繰り返す場合は、てんかん重積状態の恐れがあるため救急車を呼んでください。
- 手足の麻痺、言葉が出にくい、見えにくいなどの新しい神経症状が現れた、または発作後の麻痺がいつもより長く続く場合は、速やかに受診してください。
- 発作の回数が明らかに増えた、群発するようになった、発作の型が変わった場合は、早めに主治医に連絡してください。
- 乳児で黒目が大きい・濁っている、涙が多い、まぶしがる、または年長児・成人で見え方の変化や目の痛み・充血がある場合は、緑内障の可能性があるため眼科を受診してください。
- 額や上まぶたにかかる赤いあざを持って生まれた赤ちゃんは、症状がなくても小児科・小児神経科・眼科で一度評価を受けてください。
- アスピリン内服中に鼻血や歯ぐきの出血が止まりにくい、あざができやすい、またはインフルエンザ・水痘にかかった場合は、主治医に相談してください。
スタージ・ウェーバー症候群についてのよくある質問
Q. 顔に赤いあざがある子は、皆スタージ・ウェーバー症候群なのですか?
A. いいえ。ポートワイン母斑のある子どもの多くは、脳や眼に異常を伴いません。ただし、額から上まぶたにかかる母斑や、広範囲・両側の母斑では合併の可能性が高まるため、小児神経科と眼科で評価を受け、必要に応じてMRIや眼圧検査を受けることが勧められます。
Q. 親から遺伝したのでしょうか? 次の子にも起こりますか?
A. 本症は、胎児期に一部の細胞で偶然起こるGNAQ遺伝子の変異(体細胞変異)が原因とされ、親からの遺伝ではありません。妊娠中の行動などが原因でもありません。次の子どもに同じ病気が起こる可能性は一般の頻度と大きく変わらないと考えられており、心配な場合は遺伝カウンセリングを利用できます。
Q. てんかん発作がまだない場合でも、予防的に薬を飲むべきですか?
A. 発作が起こる前から抗てんかん薬やアスピリンを使う「予防的治療」が有効だとする報告はありますが、確立した方針はありません。脳病変の範囲や年齢、家族の意向をもとに、主治医と利点と副作用を相談して決めることが大切です。発作が起きたときの対応をあらかじめ準備しておくことは、どの場合でも重要です。
Q. レーザー治療であざは消えますか? いつ始めるのがよいですか?
A. 色素レーザー治療で多くの場合は色が薄くなりますが、完全に消えないことや、年月を経て再び濃くなることもあります。乳幼児期の早い時期に始めると効果が得やすいとする報告が多く、保険診療で受けられます。開始時期や麻酔の方法は、皮膚科・形成外科と相談してください。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。