エーラス・ダンロス症候群
Ehlers-Danlos Syndrome
エーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos Syndrome)|エーラス・ダンロス症候群(EDS)は、コラーゲンなど結合組織をつくる・整える仕組みが生まれつき弱いため、皮膚・関節・血管・内臓がもろくなる遺伝性疾患の総称です。病型によって症状と重さが大きく異なります。関節のゆるさや慢性的な痛みが中心となる病型がある一方、血管型のように若い年齢で動脈や腸の破裂を起こしうる病型もあります。そのため、病型を正確に診断し、生涯にわたって管理を続けることが重要です。
エーラス・ダンロス症候群の要点
エーラス・ダンロス症候群は、コラーゲンなど結合組織の仕組みの異常により皮膚・関節・血管などがもろくなる遺伝性疾患の総称で、皮膚の過伸展・傷つきやすさ・関節の過可動を特徴とします。病型により重症度が異なり、日本では指定難病(告示番号168)です。
| 別名・略称 | EDS、エーラスダンロス症候群、エーラス-ダンロス症候群、Ehlers-Danlos症候群 |
|---|---|
| 分野 | 骨・関節・結合組織疾患 |
| 病型 | 2017年国際分類で13病型 |
| 遺伝形式 | 多くは常染色体顕性(優性)遺伝。一部の病型は常染色体潜性(劣性)遺伝 |
| 主な症状 | 皮膚の過伸展、傷つきやすく治りにくい皮膚、関節過可動、慢性の痛み。血管型では動脈・腸などの破裂 |
| 主な検査 | 病型ごとの臨床診断基準に基づく診察、原因遺伝子の遺伝学的検査 |
| 主な治療 | 根本的な治療はなく、対症療法と合併症の予防・定期的な経過観察が中心 |
| 受診する主な診療科 | 遺伝科、整形外科、皮膚科、循環器内科など |
エーラス・ダンロス症候群とは
EDSは、皮膚の過伸展性(よく伸びる皮膚)、皮膚と組織の脆弱性(傷つきやすく治りにくい)、全身の関節過可動性を三大特徴とする遺伝性結合組織疾患群です。結合組織は、皮膚・靱帯・腱・血管壁・消化管壁などに張力と弾力を与えています。その主成分であるコラーゲン線維の量・構造・修飾(化学的な仕上げ)・線維形成のいずれかに異常が生じると、組織の機械的強度が下がります。マルファン症候群や骨形成不全症とともに遺伝性結合組織疾患の代表的な疾患です。日本では指定難病(告示番号168)に指定されています。
歴史的には、1901年にデンマークの皮膚科医Ehlersが、1908年にフランスの皮膚科医Danlosが症例を報告し、これが病名の由来です。その後、1988年のベルリン分類、1997年のVillefranche分類(6病型)を経て、2017年の国際分類で13病型に再編されました。13病型は、古典型(cEDS)、古典様型(clEDS)、心臓弁型(cvEDS)、血管型(vEDS)、過可動型(hEDS)、多発関節弛緩型(aEDS)、皮膚脆弱型(dEDS)、後側弯型(kEDS)、脆弱角膜症候群(BCS)、脊椎異形成型(spEDS)、筋拘縮型(mcEDS)、ミオパチー型(mEDS)、歯周型(pEDS)です。その後も新しい原因遺伝子に基づく病型の追加が提案されています。旧分類の「関節型(hypermobility type)」は現在の過可動型にあたります。また、筋拘縮型(デルマタン4-O-硫酸基転移酵素1欠損型)の疾患概念の確立には、日本の研究グループが大きく貢献しました。
エーラス・ダンロス症候群の疫学・患者数
EDS全体の頻度は数千人に1人程度とする推計が多く引用されます。ただし、その大部分は過可動型が占めます。過可動型は診断基準が臨床的で、軽症例が見逃されやすいため、正確な頻度は不明です。古典型は2万〜4万人に1人程度、血管型は5万〜20万人に1人程度と推定されています。その他の病型は世界でも数例〜数百例程度の報告にとどまる極めてまれな病型です。日本の指定難病の医療受給者は多くなく、診断されていない患者や医療費助成の対象とならない軽症者が多数存在すると考えられます。症状は生まれつきの体質として存在しますが、気づかれる時期は病型で異なります。後側弯型・筋拘縮型・多発関節弛緩型などは新生児期〜乳児期に筋緊張低下や関節拘縮・脱臼で気づかれます。古典型は幼児期の転倒による裂創や瘢痕で気づかれることが多い病型です。血管型は、思春期〜若年成人期に初めて動脈解離や腸管穿孔を起こして診断される例が少なくありません。過可動型は女性に多く、症状も女性で強い傾向が報告されています。他の病型には明らかな性差はありません。
エーラス・ダンロス症候群の原因・病態生理
遺伝形式は病型ごとに異なります。古典型(主にCOL5A1/COL5A2、V型コラーゲン)、血管型(COL3A1、III型コラーゲン)、多発関節弛緩型(COL1A1/COL1A2の特定領域)、ミオパチー型(COL12A1、優性・劣性の両方あり)、歯周型(補体成分C1R/C1S)は常染色体優性遺伝です。古典様型(TNXB、テネイシンX)、心臓弁型(COL1A2の両アレル機能喪失)、皮膚脆弱型(ADAMTS2、プロコラーゲンN-プロテイナーゼ)、後側弯型(PLOD1、FKBP14)、脆弱角膜症候群(ZNF469、PRDM5)、脊椎異形成型(B4GALT7、B3GALT6、SLC39A13)、筋拘縮型(CHST14、DSE)は常染色体劣性遺伝です。過可動型は常染色体優性遺伝が推定されていますが、原因遺伝子は特定されておらず、現時点で遺伝学的検査による確定はできません。なお、古典型の大半はCOL5A1/COL5A2の変異によるもので、COL1A1の特定変異による例はまれです。また、2017年分類のEDSにはX連鎖遺伝形式をとる病型は含まれません。類似症状を示すX連鎖疾患(オクシピタル・ホーン症候群)は、2017年分類では別疾患として扱われています。
発症機序は大きく3つに分けられます。①コラーゲン分子自体の異常:血管型では、III型コラーゲンの三重らせん構造に必須なグリシンが他のアミノ酸に置き換わるミスセンス変異が多くみられます。III型コラーゲンは同じ鎖3本からなるため、正常な分子は理論上8分の1しか作られず(ドミナントネガティブ効果)、血管壁や腸管壁の強度が大きく低下します。一方、片方のアレルが機能しない(ハプロ不全)変異では、発症が遅く比較的軽症の傾向があると報告されています。古典型ではV型コラーゲンの量が減り、I型コラーゲン線維の太さが調節できなくなります。その結果、電子顕微鏡で「カリフラワー状」と表現される不整な太い線維が形成されます。②コラーゲンの修飾・プロセシングの異常:後側弯型(PLOD1)ではリシル水酸化酵素の欠損により、線維同士を結ぶ架橋が十分に形成されません。皮膚脆弱型ではプロコラーゲンのN末端ペプチドが切断されず、正常な線維が形成されません。③線維形成を支える分子の異常:筋拘縮型では、デコリンなどのプロテオグリカンに結合する糖鎖(デルマタン硫酸)が合成できず、コラーゲン線維の束ね方が乱れます。古典様型ではテネイシンXの欠損が関与します。いずれの機序でも、最終的には皮膚の引き裂かれやすさ、靱帯・関節包の弛緩、血管・中空臓器の破綻しやすさにつながります。
エーラス・ダンロス症候群の症状
- 皮膚の過伸展性: 皮膚をつまむと通常より大きく伸び、離すと元に戻ります。古典型で特に顕著で、前腕中央部などで評価します。
- 皮膚の脆弱性・萎縮性瘢痕: 軽い外傷で皮膚が裂け、傷あとが薄く広がった「たばこ紙様」の萎縮性瘢痕になります。額・あご・膝・すねに多くみられます。
- 易出血性・あざ(皮下出血): 軽くぶつけただけで広範なあざができ、歯肉出血や月経過多を伴うこともあります。血管型や筋拘縮型では大きな皮下血腫を生じることがあります。
- 全身性関節過可動性: 肘・膝の過伸展、指の反り返りなど、関節が正常範囲を超えて動きます。過可動型・古典型で中心的な所見です。
- 脱臼・亜脱臼の反復: 肩・膝蓋骨・顎関節・指などが軽い動作で外れやすくなります。慢性的な関節の不安定感や早期の変形性関節症の原因となります。
- 慢性疼痛・疲労: 関節や筋肉の痛みが広範囲に長く続き、強い疲労感を伴います。特に過可動型で生活の質を大きく下げる主要な問題です。
- 自律神経症状: 立ちくらみ、動悸、失神前感覚など、体位性頻脈症候群(POTS)に似た症状が過可動型で高頻度に合併すると報告されています。
- 動脈解離・動脈瘤・動脈破裂: 血管型の最も重大な症状です。中型動脈(腹部内臓動脈・腸骨動脈・頸動脈など)に突然起こり、激しい痛みやショックの原因となります。
- 消化管穿孔・臓器破裂: 血管型では主にS状結腸の穿孔が若年でも起こります。妊娠時の子宮破裂、脾破裂、気胸もみられます。
- 血管型の外見的特徴: 皮膚が薄く静脈が透けて見える、唇や鼻が細い、頬がこける、目が大きく見えるといった特徴的な顔貌がみられることがあります。ただし、目立たない例も多くあります。
- 筋緊張低下・脊柱変形・関節拘縮: 後側弯型では乳児期の筋緊張低下と進行性の後側弯がみられます。筋拘縮型では母指の内転拘縮や内反足など、生まれつきの多発関節拘縮が特徴です。
- 歯周・眼の症状: 歯周型では10歳代からの重度歯周炎と歯肉退縮がみられます。脆弱角膜症候群や後側弯型では角膜が薄く、軽い外傷で角膜破裂を起こす危険があります。
エーラス・ダンロス症候群の経過と合併症
経過は病型によって大きく異なります。古典型では、小児期の裂創・瘢痕・関節脱臼が目立ちます。成人後は外傷の機会が減って皮膚症状が落ち着く一方で、関節痛や早期の変形性関節症が問題になります。過可動型では、小児期に「体が柔らかい」とみなされる時期を経て、思春期〜成人期に痛み・疲労・脱臼・自律神経症状が強まることが多く、診断までに長い年月を要する例が少なくありません。加齢とともに関節可動域自体は減りますが、痛みは持続しがちです。血管型では、小児期は易出血性程度で目立たないことが多い一方、10歳代後半〜成人期に動脈解離・破裂、腸管穿孔などの重大な合併症が初めて起こることが多いと報告されています。合併症は予告なく繰り返して起こりえます。後側弯型では側弯が小児期から進行し、重症例では呼吸機能に影響します。
主な合併症は次のとおりです。皮膚・軟部組織では、創傷治癒の遅れ、縫合部の離開、ヘルニア(鼠径・臍)、骨盤臓器脱があります。運動器では、反復性脱臼、腱・靱帯損傷、扁平足、側弯症、早期の変形性関節症があります。心血管系では、古典型・過可動型での大動脈基部の軽度拡張や僧帽弁逸脱、心臓弁型での重度の弁膜症、血管型での動脈解離・動脈瘤・頸動脈海綿静脈洞瘻があります。消化器系では、過可動型の機能性消化管障害(便秘・胃食道逆流など)、血管型の腸管穿孔があります。呼吸器系では、血管型での自然気胸・血気胸があります。産科的には、早産、前期破水、分娩時の会陰裂傷や出血が問題になり、血管型では妊娠末期〜産褥期の子宮破裂・動脈破裂による母体死亡のリスクが報告されています。さらに、手術や血管造影などの侵襲的処置そのものが、出血・組織損傷・血管損傷の原因になりうる点も重要です。
エーラス・ダンロス症候群の診断・診断基準
診断では、まず詳しい病歴(脱臼、創傷治癒、出血傾向、気胸・腸穿孔・動脈解離の既往、妊娠歴)と、三世代程度の家族歴(若年の突然死、大動脈・動脈疾患)を聴取します。次に、皮膚の伸展性・瘢痕・あざ、Beightonスコアによる関節過可動性、顔貌、脊柱、眼、歯を系統的に診察します。これらの臨床所見を2017年国際分類の病型別の大基準・小基準と照らし合わせ、疑われる病型を絞り込みます。過可動型以外の病型は、原因遺伝子の病的バリアントを確認して確定診断を行うのが原則です。特に血管型は治療・妊娠・処置の方針を大きく左右するため、若年者の動脈解離・破裂、原因不明の腸管穿孔、繰り返す気胸などをみた場合は積極的に疑い、遺伝学的検査を検討します。日本の指定難病としての認定は、厚生労働省が定める診断基準と重症度分類に基づいて判定されます。対象となる病型や要件は最新の基準で確認が必要です。
- 2017年国際分類の臨床基準: 13病型それぞれに大基準・小基準と最低限必要な所見が定められています。例えば古典型では「皮膚過伸展性+萎縮性瘢痕」と「全身性関節過可動性」が大基準です。過可動型は、関節過可動性、全身的特徴・家族歴・筋骨格系合併症のうち2項目、他疾患の除外の3条件をすべて満たす必要があります。
- Beightonスコア: 小指の背屈、母指の前腕への接触、肘・膝の過伸展、体幹前屈で手掌が床につくかの9点満点で評価します。全身性関節過可動性の目安は、過可動型の基準では思春期前で6点以上、思春期〜50歳で5点以上、50歳超で4点以上です。
- 遺伝学的検査(遺伝子パネル・次世代シークエンサー): COL5A1/COL5A2、COL3A1、PLOD1、CHST14など、疑われる病型の原因遺伝子を解析し、確定診断と家族の発症前診断に用います。一部は保険診療で実施できますが、検査前後に遺伝カウンセリングを受けることが望まれます。
- 培養皮膚線維芽細胞のコラーゲン解析: 皮膚生検で得た線維芽細胞が産生するコラーゲンを電気泳動で解析します。血管型でのIII型コラーゲンの量的・質的異常などを検出でき、遺伝子検査で判定が難しい場合の補助になります。実施できる施設は限られます。
- 皮膚生検の電子顕微鏡検査: 古典型の「カリフラワー状」線維や、皮膚脆弱型の象形文字様の線維断面など、病型に特徴的な線維異常を示すことがあります。ただし所見は特異的でなく、正常に見えても否定はできません。
- 尿中ピリジノリン架橋分析: PLOD1変異による後側弯型では、尿中デオキシピリジノリン/ピリジノリン比が著しく上昇し、有用な生化学的診断法となります。一方、尿中ヒドロキシプロリンなどの一般的な骨・コラーゲン代謝マーカーは、EDSの診断には有用性が乏しいと考えられます。
- 心エコー・血管画像検査: 心エコーで大動脈基部径と弁膜症を評価します。血管型では、頭頸部〜骨盤の動脈をCT血管造影・MR血管撮影・超音波で評価します。カテーテルによる血管造影は血管損傷の危険が高いため、原則として避けます。
- 凝固・血小板機能検査: EDSの易出血性は主に血管周囲の結合組織の脆弱性によるもので、凝固検査は通常正常です。フォン・ヴィレブランド病などの出血性疾患を除外する目的で行います。
- 家族歴の評価とカスケード検査: 原因バリアントが判明した場合、血縁者の検査によって未発症の保因者・罹患者を見つけ、予防的管理につなげることができます。血管型の約半数は新生突然変異とされ、家族歴がなくても否定できません。
エーラス・ダンロス症候群と鑑別すべき疾患
- マルファン症候群/ロイス・ディーツ症候群: 関節過可動性や大動脈病変は共通しますが、マルファン症候群は高身長・水晶体偏位・大動脈基部拡張が特徴です。ロイス・ディーツ症候群は動脈蛇行、口蓋垂裂、両眼隔離を伴い、TGF-β経路遺伝子の異常で区別されます。
- 骨形成不全症: 皮膚・関節症状が重なることがありますが、易骨折性、青色強膜、難聴、骨変形が前景に立ちます。COL1A1/COL1A2の異常でも表現型が異なります。
- 皮膚弛緩症(cutis laxa)・弾性線維性仮性黄色腫: 皮膚は伸びても元に戻らずたるみます。弾性線維の異常によるもので、EDSのような皮膚脆弱性や萎縮性瘢痕は目立ちません。
- オクシピタル・ホーン症候群/メンケス病: 銅輸送体ATP7Aの異常によるX連鎖性疾患で、皮膚・関節症状に加え、後頭骨の角状突起、膀胱憩室、血清銅・セルロプラスミン低値がみられます。
- 過可動性スペクトラム障害(HSD)・良性関節過可動: 関節過可動性と症状があっても過可動型EDSの基準を満たさない場合はHSDと呼ばれ、管理方針は過可動型EDSとほぼ同様です。
- 出血性疾患・虐待・血管炎など: 小児の多発するあざは凝固異常や虐待との鑑別が必要です。若年の動脈解離・動脈瘤では、分節性動脈中膜融解や血管炎などとの鑑別が必要です。
エーラス・ダンロス症候群の治療
現時点で、EDSの原因を根本から治す治療は確立していません。治療の目標は、病型に応じた合併症の予防と早期発見、症状の緩和、機能とQOLの維持です。血管型では生命に関わる血管・臓器合併症の予防と、緊急時の安全な対応体制づくりが最優先です。古典型・過可動型では、関節の安定化、痛みと疲労の管理、皮膚外傷への対処が中心になります。皮膚科、整形外科、リハビリテーション科、循環器内科、血管外科、消化器科、産婦人科、歯科、眼科、臨床遺伝科、心理職などの多職種が連携し、主治医を中心に継続的に管理することが重要です。個々の薬剤や手術の適応は病型・重症度・年齢によって異なるため、必ず専門医と相談して決める必要があります。
- 血管型に対するセリプロロール: β1遮断とβ2刺激作用をもつセリプロロールは、欧州の無作為化試験で動脈イベントの減少が報告されており、血管型での使用が検討されることがあります。国内では降圧薬として流通していますが、血管型EDSを効能とした承認ではなく、使用は専門医の判断によります。なお、アルギニンなどのサプリメント的な治療には、確立した根拠がありません。
- 血圧管理と生活上のリスク低減(血管型): 高血圧を厳格に管理し、いきみ・重量挙げ・接触スポーツなど、急激に血圧を上げたり外力が加わったりする活動を避けます。定期的な非侵襲的血管画像検査で病変を監視します。
- 侵襲的処置・手術時の配慮: 血管型では、カテーテル検査、内視鏡、動脈穿刺、筋肉注射などを最小限にします。手術は組織の脆弱性に精通した施設で慎重に計画し、緊急手術では止血と血管吻合に特別な配慮を行います。
- 理学療法・運動療法: 関節周囲筋の強化、固有感覚(関節の位置感覚)の訓練、体幹安定化を、低負荷から段階的に行います。過可動型・古典型の痛みと脱臼の軽減に最も重要な基盤治療です。
- 装具・補助具・作業療法: サポーター、指装具、足底板、テーピング、自助具を使い、関節の負担を減らして日常動作を補助します。長期の固定はかえって筋力を低下させるため、使用法は療法士と調整します。
- 痛みの多面的管理: アセトアミノフェンなどの鎮痛薬、神経障害性疼痛治療薬、認知行動療法、睡眠の改善を組み合わせます。オピオイドの長期増量は依存や消化管運動低下の問題があるため慎重に判断します。
- 自律神経症状・消化管症状への対応: POTS様症状には、十分な水分・塩分摂取、弾性ストッキング、段階的な運動を基本とし、必要に応じて薬物療法を検討します。便秘や逆流症状には消化器科と連携して対応します。
- 創傷処置と外科的管理: 裂創は真皮層を含めて丁寧に縫合し、テープ補強を併用して抜糸を通常より遅らせるなどの工夫を行います。後側弯型の脊柱変形や反復性脱臼には、組織脆弱性を考慮したうえで手術を検討します。
- 妊娠・出産の管理: 血管型では妊娠に伴う母体リスクが高いため、妊娠前から遺伝・循環器・産科の専門医と相談し、高次医療機関で計画的に管理します。他の病型でも早産・裂傷・出血に備えた分娩計画が望まれます。
エーラス・ダンロス症候群の予後・長期フォロー
生命予後は病型によって大きく異なります。古典型・過可動型の寿命はほぼ一般と同程度と考えられています。ただし、慢性疼痛、疲労、脱臼、自律神経症状によって就学・就労・家事などの社会生活が大きく制限される例があり、QOLへの影響は決して軽くありません。血管型では、海外の大規模コホートで生存期間の中央値が40歳代後半〜50歳代前半と報告されています。死因の多くは動脈破裂・解離です。一方で、変異の種類(ハプロ不全型は比較的軽症)や、診断後の予防的管理によって経過が改善する可能性も示されています。後側弯型・筋拘縮型・脊椎異形成型などの劣性病型では、脊柱変形による呼吸機能低下、関節拘縮、巨大血腫などが予後とQOLを左右します。
長期フォローアップは、病型と重症度に応じて計画します。血管型では、主治医のもとで定期的に血圧を管理し、全身の動脈を非侵襲的画像で評価します(間隔は病変の有無で調整)。また、救急時の対応手順を医療機関と共有しておきます。古典型・過可動型では、診断時に心エコーで大動脈基部と弁を評価し、異常があれば定期的に再評価します。あわせて、関節機能、痛み、精神的健康、成長期の脊柱を経過観察します。小児期から成人期への移行(トランジション)では、小児科から成人診療科への引き継ぎが途切れないよう注意が必要です。
エーラス・ダンロス症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、病型に合わせて「避けること」と「続けること」のバランスを取ります。関節症状が中心の方は、関節を極端に反らす動作や反動をつけたストレッチを避ける一方で、水中運動、自転車、ピラティス的な体幹訓練など、関節に優しい運動を継続することが大切です。皮膚が脆弱な方は、すねや肘の保護、家具の角の保護、日焼けや乾燥の予防が役立ちます。血管型の方は、接触スポーツ、重量物の挙上、息こらえを伴う運動を避け、便秘によるいきみも防ぎます。また、病名・病型・主治医の連絡先・禁忌事項(不要な血管造影・筋肉注射など)を記した緊急カードを常に携帯しましょう。歯科治療、予防接種、採血、手術の際も、事前に病名を伝えてください。EDSは遺伝性疾患のため、診断を機に血縁者の検査や将来の妊娠・出産について悩む方が少なくありません。臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングでは、遺伝形式や子どもに受け継がれる可能性、検査を受ける・受けないという選択を、本人と家族の価値観に沿って一緒に整理できます。なお、小児のあざや骨折が虐待と疑われることがあるため、診断書を学校や園と共有しておくと安心です。
利用できる制度・相談窓口
EDSは指定難病(168)であり、診断基準を満たし、重症度分類の基準に該当する場合(または軽症でも医療費が一定額を超える「軽症高額該当」の場合)は、医療費助成を受けられます。申請は住所地の都道府県・指定都市の窓口(保健所など)で行い、難病指定医の臨床調査個人票が必要です。18歳未満では小児慢性特定疾病の医療費助成の対象となる場合があります。指定難病は障害者総合支援法の対象疾病でもあるため、障害者手帳がなくても、必要に応じて補装具・居宅介護などの福祉サービスを利用できる可能性があります。関節機能障害などが固定した場合は身体障害者手帳(肢体不自由など)、日常生活や就労に大きな制限がある場合は障害年金の対象となりうるため、主治医や社会保険労務士、年金事務所に相談してください。就労については、ハローワークの難病患者就職サポーターに相談できます。また、各都道府県の難病相談支援センター、保健所の保健師、病院の医療ソーシャルワーカー、患者会・家族会も、情報や悩みを共有できる重要な窓口です。
エーラス・ダンロス症候群に伴う心のケア・心理社会的支援
EDS、特に過可動型では、外見から症状が分かりにくい「見えない障害」であるため、痛みや疲労が周囲に理解されにくく、「気のせい」「怠けている」と受け取られる経験をしやすいことが知られています。診断までに長い年月を要し、多くの医療機関を受診する過程で、医療への不信感や自己否定感を抱く方も少なくありません。慢性疼痛と睡眠障害は互いに悪化させ合い、抑うつや不安障害、適応障害を合併しやすい傾向があります。過可動型では不安症状の合併が多いとする報告もあります。血管型では、いつ起こるか分からない合併症への不安、運動・職業・妊娠に関する制限、家族内での遺伝をめぐる葛藤や罪悪感など、病型に特有の心理的負担があります。こうした気持ちは病気に伴う自然な反応です。一人で抱え込まず、主治医、心療内科・精神科、公認心理師、遺伝カウンセラー、患者会などに早めに相談してください。認知行動療法やペーシング(活動量の調整)は、痛みとの付き合い方を改善する助けになります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
エーラス・ダンロス症候群の受診の目安
- 突然の激しい腹痛・背部痛・胸痛、意識が遠のく、急な腹部膨満や血圧低下がある場合(特に血管型の方)は、ためらわず救急要請し、EDS(血管型)であることを伝えてください。
- 突然の激しい頭痛、片側の手足のまひ、ろれつ不良、急な眼の充血・突出・拍動性の耳鳴りがある場合は、動脈解離や頸動脈海綿静脈洞瘻の可能性があるため、救急受診してください。
- 急な息苦しさや胸の痛み(気胸の可能性)、吐血・下血がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。
- 脱臼が自分で整復できない場合や、四肢のしびれ・冷感・色調変化を伴う場合は、早めに整形外科を受診してください。
- 妊娠が判明した場合や妊娠を希望する場合は、できるだけ早く主治医と産科に相談してください。
- 関節過可動性に加えて、傷が治りにくい、あざができやすい、若年での気胸・腸穿孔・動脈の病気の家族歴がある場合は、専門医の評価を受けてください。
エーラス・ダンロス症候群についてのよくある質問
Q. 体が柔らかいだけでもエーラス・ダンロス症候群なのですか?
A. 関節が柔らかい人は一般にも多く、それだけでEDSとは診断されません。EDSの診断には、皮膚所見、脱臼などの合併症、家族歴、他疾患の除外などを含めた総合的な評価が必要です。症状があっても基準を満たさない場合は「過可動性スペクトラム障害」と呼ばれ、同様の支援や治療の対象になります。
Q. 過可動型は遺伝子検査で診断できますか?
A. 現時点では過可動型の原因遺伝子は特定されておらず、遺伝子検査では確定できません。2017年国際分類の臨床基準に基づいて診断します。ただし、他の病型との鑑別のために遺伝学的検査を行うことはあります。
Q. 血管型と診断されたら運動はできませんか?
A. 接触スポーツや重量挙げなど、血圧が急上昇したり体に衝撃が加わったりする運動は避けることが勧められます。一方で、ウォーキングなどの軽〜中等度の有酸素運動は、体力や心身の健康維持に役立つと考えられています。具体的な運動の内容や強度は、主治医と相談して決めてください。
Q. 子どもに遺伝しますか?
A. 病型によって異なります。常染色体優性遺伝の病型(古典型・血管型など)では、子どもに受け継がれる確率は1回の妊娠ごとに50%です。常染色体劣性遺伝の病型では、両親がともに保因者の場合に25%です。家族計画については、遺伝カウンセリングで詳しく相談することをお勧めします。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。