オクシピタル・ホーン症候群
Occipital Horn Syndrome
オクシピタル・ホーン症候群(Occipital Horn Syndrome)|オクシピタル・ホーン症候群(OHS)は、銅を細胞内外へ運ぶATP7A遺伝子の変異によって起こるX連鎖性の遺伝性銅代謝異常症です。主に男性に発症し、後頭骨の左右に生じる角状の骨突起(オクシピタル・ホーン)、皮膚や関節のゆるみ、膀胱憩室、起立性低血圧などの自律神経症状、骨格異常など、結合組織と自律神経系を中心とした多彩な症状を示します。同じ遺伝子の異常で起こるメンケス病の軽症型(アレル疾患)と位置づけられ、成人期まで生活できることが多い一方、膀胱破裂や血管合併症など生涯にわたる管理が必要です。
オクシピタル・ホーン症候群の要点
オクシピタル・ホーン症候群は、ATP7A遺伝子の変異による銅代謝異常で起こるX連鎖性の遺伝性疾患で、主に男性に発症します。後頭骨の骨突起、皮膚・関節のゆるみ、膀胱憩室、起立性低血圧など結合組織と自律神経の症状が中心で、指定難病(告示番号170)に指定されています。
| 別名・略称 | OHS、エーラス・ダンロス症候群IX型、Ehlers-Danlos syndrome type IX、X連鎖性皮膚弛緩症、X-linked cutis laxa |
|---|---|
| 分野 | 代謝疾患 |
| 遺伝形式 | X連鎖性(主に男性に発症) |
| 原因遺伝子 | ATP7A(Xq21.1) |
| 主な症状 | 後頭骨の骨突起、皮膚・関節のゆるみ、膀胱憩室、起立性低血圧、骨格異常 |
| 主な検査 | 触診・頭部単純X線(側面像)、ATP7A遺伝子検査 |
| 主な治療 | 合併症の管理と対症療法(膀胱・血管合併症などへの生涯の管理) |
| 指定難病 | 告示番号170 |
オクシピタル・ホーン症候群とは
オクシピタル・ホーン症候群は、X染色体長腕(Xq21.1)にあるATP7A遺伝子の変異により、銅輸送ATPアーゼ(ATP7A)の機能が部分的に低下して起こる疾患です。ATP7Aは腸管での銅の吸収、脳への銅の移行、そして細胞内で銅を必要とする酵素(銅酵素)への銅の受け渡しを担っています。本症ではこの働きが不十分となり、とくにコラーゲンやエラスチンの架橋を担うリシルオキシダーゼの活性低下による結合組織の脆弱性と、ノルアドレナリン合成を担うドーパミンβ水酸化酵素の活性低下による自律神経症状が前面に出ます。病名の由来であるオクシピタル・ホーンは、後頭骨の僧帽筋・胸鎖乳突筋付着部に左右対称にできる下向きの骨突起(外骨腫)で、正中にできる一つの突起ではありません。触診や頭部単純X線(側面像)で確認され、年齢とともに明瞭になる傾向があります。
本症はかつて「エーラス・ダンロス症候群IX型」や「X連鎖性皮膚弛緩症(X-linked cutis laxa)」と呼ばれていました。1990年代に、メンケス病と同じATP7A遺伝子の変異が原因であることが明らかとなり、現在ではメンケス病・オクシピタル・ホーン症候群・ATP7A関連遠位型運動ニューロパチー(X連鎖性遠位型遺伝性運動ニューロパチー)の3つが、同一遺伝子による連続的な表現型スペクトラム(ATP7A関連銅輸送異常症)として整理されています。重症型のメンケス病は乳児期早期から重い神経変性をきたし、OHSは神経症状が軽く結合組織症状が主体、遠位型運動ニューロパチーは成人期発症の末梢運動神経障害が主体です。ただし両者の中間的な表現型(軽症メンケス病)も存在し、境界は必ずしも明確ではありません。日本では指定難病(告示番号170)に指定されており、エーラス・ダンロス症候群の分類からは外れています。
オクシピタル・ホーン症候群の疫学・患者数
OHSはきわめてまれな疾患で、世界でも報告例は限られ、正確な有病率はわかっていません。メンケス病の出生頻度は海外・国内でおおむね十数万人に1人程度と推定されていますが、OHSはそれよりさらに少ないと考えられ、日本国内の患者数もごく少数とされます。軽症例は診断されずに経過したり、エーラス・ダンロス症候群など他の結合組織疾患として扱われている可能性も指摘されており、実際の患者数は把握されているより多いかもしれません。X連鎖潜性(劣性)遺伝のため患者のほとんどは男性で、女性保因者は通常無症状ですが、X染色体不活化の偏りによって軽い症状を示すことがまれにあります。発症時期は乳幼児期の筋緊張低下、鼠径ヘルニア、慢性下痢などで気づかれることもありますが、特徴的な骨突起や膀胱憩室が明らかになる学童期〜思春期以降、あるいは成人期に診断される例も少なくありません。
オクシピタル・ホーン症候群の原因・病態生理
原因はATP7A遺伝子の変異で、遺伝形式はX連鎖潜性遺伝です。母親が保因者の場合、男児が罹患する確率は50%、女児が保因者となる確率は50%です。一方、家系内に患者のいない新生(de novo)変異による発症もあります。メンケス病では遺伝子機能がほぼ失われる変異(大きな欠失、ナンセンス変異、フレームシフト変異など)が多いのに対し、OHSでは正常なタンパク質がわずかに作られるスプライス部位の変異や、機能を部分的に保つミスセンス変異が多いとされます。このわずかな残存活性が、重い神経変性を免れ、より軽い表現型にとどまる理由と考えられています。ただし同じ変異でも症状の程度には個人差があります。
ATP7Aは全身の細胞に発現し、主に二つの役割を担います。一つは、腸管上皮細胞から血液中へ、また血液脳関門を越えて脳へ銅を運び出す「輸送」の役割です。機能が低下すると、食事から摂った銅が腸管上皮や腎尿細管にとどまり、血清銅やセルロプラスミンが低めとなり、脳内の銅も不足します。もう一つは、細胞内のトランスゴルジ網で銅酵素に銅を組み込む役割です。銅酵素には、コラーゲン・エラスチンの架橋に必要なリシルオキシダーゼ、ドーパミンからノルアドレナリンを作るドーパミンβ水酸化酵素、神経ペプチドの成熟に関わるペプチジルグリシンα-アミド化モノオキシゲナーゼ、メラニン合成に関わるチロシナーゼなどがあります。OHSではとくにリシルオキシダーゼの活性低下が目立ち、皮膚・関節・血管壁・膀胱壁・骨の結合組織がもろくなります。その結果、皮膚弛緩、関節過可動、動脈の蛇行や瘤、膀胱憩室、ヘルニア、骨格変形が生じます。また筋付着部での骨の異常な反応がオクシピタル・ホーンなどの外骨腫を生むと考えられています。ドーパミンβ水酸化酵素の低下によりノルアドレナリンが不足し、相対的にドーパミン系の代謝物が増えるため、起立性低血圧や失神、慢性下痢などの自律神経症状が起こります。
オクシピタル・ホーン症候群の症状
- オクシピタル・ホーン(後頭骨外骨腫): 後頭骨の筋付着部に左右対称に生じる下向きの角状の骨突起で、本症の名前の由来です。小児期には目立たず、年長児〜思春期以降に明瞭となることが多く、診断的価値が高い所見です。
- 皮膚の弛緩・過伸展: 皮膚がやわらかく伸びやすく、たるみを生じることがあります。顔貌では長い人中、高い額、長い首などの特徴を示すことがあります。
- 関節の過可動性: 関節がゆるく、脱臼や捻挫を起こしやすいことがあります。一方で年長になると関節の可動域が制限される例もあります。
- 膀胱憩室・尿路異常: 膀胱壁の脆弱性により大きな憩室ができやすく、残尿、反復性尿路感染症、膀胱尿管逆流、まれに膀胱破裂の原因となります。本症で頻度が高く重要な所見です。
- ヘルニア: 鼠径ヘルニアや臍ヘルニアを乳幼児期から繰り返すことがあり、診断の手がかりになります。
- 起立性低血圧・失神: ノルアドレナリンの合成低下により、立ち上がった時のふらつき、立ちくらみ、失神をきたすことがあります。
- 慢性下痢・消化管症状: 自律神経障害などに関連して慢性的な下痢や腸管運動の異常がみられることがあります。
- 骨格異常: 短く幅広い鎖骨(ハンマー状鎖骨)、橈骨・尺骨の弯曲、漏斗胸、外反股、脊柱側弯、骨粗鬆症などがみられることがあります。
- 血管異常: 頭頸部や内臓の動脈の蛇行・延長、動脈瘤、静脈瘤などが生じることがあり、出血や血流障害の原因になりえます。
- 軽度の神経・発達症状: 知能は正常から軽度の知的障害まで幅があり、筋緊張低下や軽い運動発達の遅れ、筋力低下がみられることがあります。メンケス病のような重いけいれんや退行は通常みられません。
- 毛髪・皮膚色素の変化: 毛髪がやや粗い、色が薄いなどの変化を示すことがありますが、メンケス病ほど典型的な縮れ毛ではないことが多いとされます。
オクシピタル・ホーン症候群の経過と合併症
多くの患者は乳幼児期に筋緊張低下、鼠径ヘルニア、慢性下痢、尿路感染症などをきっかけに医療機関を受診しますが、この時点で診断に至ることは少なく、学童期以降に骨突起、膀胱憩室、骨格変形、起立性低血圧などがそろって診断される経過が典型的です。オクシピタル・ホーンや他の外骨腫、骨格の変形は成長とともに目立つようになり、膀胱憩室も年齢とともに大きくなることがあります。知的発達は比較的保たれることが多く、通常学級や特別支援教育を経て成人期の社会生活を送る例もあります。メンケス病のような急速な神経退行は通常ありませんが、症状の幅は広く、中間型では運動発達の遅れや筋力低下が目立つこともあります。
主な合併症は結合組織の脆弱性に由来します。膀胱憩室は反復性尿路感染症、水腎症、腎機能障害の原因となり、外傷や過度の膀胱内圧上昇による膀胱破裂は緊急手術を要する重大な合併症です。血管系では動脈の蛇行・瘤形成により、脳血管障害や動脈瘤破裂のリスクが指摘されています。起立性低血圧に伴う失神・転倒は外傷につながり、骨粗鬆症があると骨折しやすくなります。また全身麻酔や手術時には、血管・組織の脆弱性、気道管理、血圧変動に注意が必要です。成人期以降には変形性関節症や脊柱変形による痛み、可動域制限が生活の質に影響することがあります。
オクシピタル・ホーン症候群の診断・診断基準
診断は、特徴的な臨床症状(後頭骨の骨突起、皮膚・関節の弛緩、膀胱憩室、ヘルニア、起立性低血圧、骨格異常など)から本症を疑い、血液検査で銅代謝異常を確認し、ATP7A遺伝子の病的変異を同定して確定するのが基本的な流れです。日本の指定難病の診断基準でも、主要な臨床症状、血清銅・セルロプラスミンの低下、培養線維芽細胞の銅蓄積や遺伝子変異などの検査所見を組み合わせて判断する枠組みがとられています。OHSでは血清銅・セルロプラスミンの低下がメンケス病ほど著明でなく、正常下限付近にとどまることもあるため、数値だけで否定しないことが重要です。家族歴(母方の男性親族の類似症状)は大きな手がかりとなります。診断後は、合併症の評価として泌尿器・血管・骨格・自律神経の系統的な検索を行います。
- 血清銅・セルロプラスミン: 低値または正常下限付近を示します。メンケス病より程度は軽く、乳児期早期は健常児でも生理的に低いため、年齢別基準値と照らして解釈します。
- 頭部単純X線(側面像): 後頭骨の左右に下向きの角状突起(オクシピタル・ホーン)を確認します。年少児では未発達で、経時的な撮影で明らかになることがあります。
- 全身骨X線・骨密度検査: ハンマー状の鎖骨、長管骨の弯曲、外反股、側弯、外骨腫、骨粗鬆症などを評価します。
- 泌尿器系画像検査(超音波・排尿時膀胱尿道造影など): 膀胱憩室の有無と大きさ、残尿、膀胱尿管逆流、水腎症を評価し、合併症の予防計画に役立てます。
- 血管画像検査(MRA・CTAなど): 頭頸部や体幹の動脈の蛇行、瘤、狭窄などを評価します。症状がなくても診断時のスクリーニングとして検討されます。
- 血漿カテコールアミン分析: ドーパミンβ水酸化酵素の活性低下を反映し、ドーパミン系代謝物とノルアドレナリン系代謝物の比(例:DOPA/DHPG比など)が上昇することがあり、補助診断に用いられます。
- 培養皮膚線維芽細胞の銅測定: 患者の線維芽細胞では銅の取り込み・蓄積が増加し、銅の排出障害を示します。実施施設は限られますが、遺伝子検査で結論が出ない場合に有用です。
- ATP7A遺伝子解析: 病的変異の同定により確定診断となります。スプライス変異や大きな欠失・重複を検出するため、シークエンスに加え欠失・重複解析やRNA解析が必要になる場合があります。
- 自律神経機能検査: 起立試験(ヘッドアップティルト試験など)で起立性低血圧の程度を評価し、生活指導や治療の判断に役立てます。
オクシピタル・ホーン症候群と鑑別すべき疾患
- メンケス病: 同じATP7A異常症ですが、乳児期早期からの重いけいれん・発達退行・典型的な縮れ毛と、より著明な血清銅低下を示す点で区別されます。
- エーラス・ダンロス症候群: 皮膚過伸展や関節過可動は共通しますが、銅代謝異常や後頭骨の外骨腫、膀胱憩室を通常伴わず、原因遺伝子も異なります。
- 先天性皮膚弛緩症(cutis laxa)の他病型: 皮膚のたるみは共通しますが、ELN・FBLN5などATP7A以外の遺伝子が原因で、常染色体遺伝形式をとり銅代謝は正常です。
- ウィルソン病: セルロプラスミン低値は共通しますが、ATP7B異常による肝・脳への銅蓄積が本態で、肝障害、角膜輪、尿中銅増加を示します。
- マルファン症候群/ロイス・ディーツ症候群・動脈蛇行症候群: 動脈の蛇行・瘤や骨格異常で鑑別となりますが、銅代謝異常はなく、それぞれFBN1、TGF-β経路遺伝子、SLC2A10などの異常が原因です。
- 後天性銅欠乏症: 亜鉛過剰摂取、胃切除後、長期経管栄養などでも低銅血症や神経症状をきたしますが、結合組織の先天的異常や家族歴はなく、銅補充で改善します。
オクシピタル・ホーン症候群の治療
現時点でOHSの根本的な治療法は確立していません。治療の中心は、膀胱憩室、起立性低血圧、骨格異常、血管異常などの合併症に対する予防・早期発見と対症療法であり、泌尿器科、小児科・内科(代謝・神経)、整形外科、循環器・脳神経外科、リハビリテーション科などが連携して長期的に関わる多職種診療が重要です。銅の補充療法はメンケス病では早期開始例で神経予後改善の報告がありますが、OHSでの有効性は十分に確立しておらず、経口の銅剤は腸管からの吸収そのものが障害されているため効果が期待しにくいとされます。治療方針は症状の種類と重症度に応じて個別に決める必要があり、必ず主治医・専門医と相談してください。
- 銅ヒスチジン皮下注射: 腸管を介さずに銅を補う方法で、メンケス病では新生児期など早期の開始で効果が報告されています。OHSでの効果は限定的・不確実とされ、国内では院内製剤として扱われることが多いため、実施の可否は専門施設で慎重に判断されます。
- 泌尿器科的管理: 膀胱憩室に対し定期的な画像評価、残尿対策(時間排尿、必要に応じた導尿)、尿路感染症の早期治療を行います。憩室が大きい場合や感染・破裂のリスクが高い場合は外科的治療が検討されます。
- 起立性低血圧への対応: 十分な水分・塩分摂取、ゆっくりした起立、弾性ストッキングなどの非薬物療法が基本です。ドーパミンβ水酸化酵素欠損の病態からノルアドレナリン前駆体であるドロキシドパの使用が試みられた報告がありますが、適応や効果は主治医と個別に検討されます。
- 骨・関節の管理: 骨密度測定を定期的に行い、ビタミンD・カルシウムの適切な摂取、必要に応じた骨粗鬆症治療を検討します。側弯や関節変形、症状のある外骨腫には整形外科的治療が考慮されます。
- ヘルニアの治療: 鼠径ヘルニアなどは外科的修復の対象となります。組織が脆弱なため再発に注意し、本症の特性を理解した施設での手術が望まれます。
- 血管合併症の管理: 動脈瘤や高度な動脈蛇行が見つかった場合は、循環器内科・脳神経外科・血管外科で経過観察や治療の必要性を検討します。血圧管理や激しい運動の制限が推奨されることがあります。
- 消化器症状への対応: 慢性下痢に対しては食事調整、整腸剤や止痢薬などの対症療法を行い、脱水や栄養状態に注意します。
- リハビリテーション・発達支援: 筋緊張低下や筋力低下に対し理学療法・作業療法を行い、関節を保護しながら運動機能を維持します。発達の遅れがある場合は早期療育や教育的支援を組み合わせます。
- 周術期・麻酔時の配慮: 手術や検査の麻酔では、組織・血管の脆弱性、血圧変動、気道や頸部の特徴を事前に麻酔科と共有することが重要です。
オクシピタル・ホーン症候群の予後・長期フォロー
OHSの生命予後は、乳幼児期に重篤化することの多いメンケス病と比べると良好で、成人期まで生活できる患者が多いとされます。知的能力が比較的保たれていれば、就学・就労を含む社会生活を送ることも可能です。一方、予後を左右するのは主に合併症で、膀胱破裂や重症尿路感染による腎機能障害、動脈瘤破裂などの血管合併症、起立性低血圧による失神・転倒外傷が重要です。報告例が少ないため長期予後の統計的な情報は乏しく、個々の変異や症状の幅によって経過は大きく異なります。慢性的な痛み、関節や脊柱の変形、排尿管理の負担などが生活の質に影響することがあります。
長期フォローアップでは、泌尿器系の超音波検査や腎機能検査、尿検査を定期的に行い、憩室の増大や感染の兆候を早期に捉えます。血管については診断時の評価をもとに、必要に応じて画像検査を繰り返します。骨密度・骨格変形の評価、血圧(臥位・立位)の確認、発達・学習面の評価も継続して行います。小児期から成人期への移行(トランジション)では、小児科から成人診療科への引き継ぎが途切れやすいため、検査結果や手術歴、麻酔時の注意点をまとめた情報提供書を準備しておくと安心です。
オクシピタル・ホーン症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、膀胱を過度にふくらませないよう定期的に排尿する習慣をつけ、尿の濁り・発熱・排尿時痛などの感染兆候に早めに気づくことが大切です。腹部への強い衝撃は膀胱破裂の危険があるため、コンタクトスポーツや激しい格闘技は主治医と相談のうえ控えることが望まれます。起立性低血圧がある場合は、急に立ち上がらない、長時間の立位や入浴時の高温・脱水を避ける、水分を十分にとるなどの工夫が役立ちます。関節を守るため、水泳など負担の少ない運動が勧められることがあります。医療機関を受診する際や手術・麻酔の前には、本症であることを必ず伝えてください。遺伝については、母親が保因者である可能性、兄弟姉妹や母方親族の男性の罹患リスク、女性親族の保因者診断、将来の妊娠に関する選択肢などを、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングで正確に理解することが重要です。遺伝子検査を受けるかどうかは本人・家族の意思が尊重されます。
利用できる制度・相談窓口
オクシピタル・ホーン症候群は指定難病(告示番号170)の対象で、診断基準と重症度基準を満たす場合、都道府県・指定都市に申請することで医療費助成(自己負担上限額の設定)を受けられます。申請には難病指定医による臨床調査個人票が必要です。また18歳未満(継続の場合は20歳未満)では小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象となりうるため、主治医や自治体窓口で確認してください。障害の程度に応じて身体障害者手帳(膀胱・肢体機能など)、知的障害がある場合の療育手帳、20歳未満の児を養育する家庭の特別児童扶養手当や障害児福祉手当、20歳以降の障害年金などが利用できる場合があります。指定難病の患者は障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの対象にもなります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、病院の医療ソーシャルワーカー、小児慢性特定疾病児童等自立支援事業の相談員などがあり、難病情報センターのウェブサイトでも制度の最新情報を確認できます。
オクシピタル・ホーン症候群に伴う心のケア・心理社会的支援
まれな遺伝性疾患であるOHSでは、診断までに長い時間がかかることが多く、原因がわからない不安や周囲の理解不足が患者・家族の大きな負担となります。診断後も、膀胱破裂や血管合併症への不安、繰り返す尿路感染や手術、排尿管理の手間、起立性低血圧による活動制限などが続き、抑うつ、不安障害、適応障害につながることがあります。外見上の特徴(皮膚のたるみや骨格の変化)や運動制限は、思春期の自己像や友人関係に影響することもあります。また、X連鎖遺伝であることから、母親が「自分のせいで」と罪悪感を抱いたり、親族間で遺伝情報の共有をめぐる葛藤が生じたりすることも、この疾患に特有の課題です。同じ疾患の患者に出会いにくい孤立感も強くなりがちです。こうした気持ちは自然な反応であり、一人で抱え込まず、主治医、看護師、遺伝カウンセラー、臨床心理士、医療ソーシャルワーカーなどに早めに相談することが大切です。メンケス病などATP7A関連疾患の家族会や難病相談支援センターを通じたつながりも、心の支えになりえます。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
オクシピタル・ホーン症候群の受診の目安
- 発熱や腰・脇腹の痛み、排尿時痛、尿の濁りなど尿路感染症が疑われるときは早めに受診してください。
- 腹部を強く打った後の腹痛、尿が出ない、血尿、お腹の張りなどは膀胱破裂の可能性があり、救急受診が必要です。
- 突然の激しい頭痛、意識障害、手足の麻痺、ろれつが回らないなどの症状は血管合併症の可能性があるため、直ちに救急車を呼んでください。
- 失神を繰り返す、立ちくらみが強くなり日常生活に支障が出てきたときは主治医に相談してください。
- 鼠径部の膨らみが戻らず痛む場合はヘルニア嵌頓の可能性があり、速やかに受診が必要です。
- 下痢が続き、水分がとれない、尿量が少ないなど脱水が疑われるときは早めに受診してください。
オクシピタル・ホーン症候群についてのよくある質問
Q. メンケス病とはどう違うのですか?
A. どちらもATP7A遺伝子の変異で起こる病気ですが、OHSでは遺伝子の働きがわずかに残っているため、メンケス病のような乳児期からの重い神経症状は通常みられません。代わりに皮膚・関節・膀胱・血管などの結合組織の症状や自律神経症状が中心となり、成人期まで生活できることが多いとされます。
Q. 銅のサプリメントや食事で銅を多くとれば良くなりますか?
A. 本症では腸から血液中へ銅を運び出す仕組みそのものが障害されているため、口から銅をとっても効果は期待しにくいとされます。自己判断で銅のサプリメントを使用せず、治療については主治医と相談してください。
Q. 女性は発症しないのですか?
A. X連鎖潜性遺伝のため患者はほとんどが男性で、女性は通常無症状の保因者となります。ただしX染色体の不活化の偏りなどにより、まれに女性が軽い症状を示すことがあります。保因者かどうかは遺伝子検査で調べられる場合があり、遺伝カウンセリングで相談できます。
Q. 運動や学校生活に制限はありますか?
A. 多くの場合、通常の学校生活は可能ですが、腹部への強い衝撃を伴う競技や激しい運動は膀胱破裂や血管合併症のリスクから控えるよう勧められることがあります。どの程度の活動が安全かは、膀胱憩室や血管の状態によって異なるため、主治医と相談して学校とも情報を共有するとよいでしょう。
関連記事(関連する指定難病)
- メンケス病 Menkes Disease
- ウィルソン病 Wilson's Disease
- エーラス・ダンロス症候群 Ehlers-Danlos Syndrome
- マルファン症候群/ロイス・ディーツ症候群 Marfan Syndrome / Loeys-Dietz Syndrome
- 骨形成不全症 Osteogenesis Imperfecta
- シャルコー・マリー・トゥース病 Charcot-Marie-Tooth disease, CMT
- 弾性線維性仮性黄色腫 Pseudoxanthoma Elasticum
同じ分野(代謝疾患)の指定難病
この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。