低ホスファターゼ症
Hypophosphatasia
低ホスファターゼ症(Hypophosphatasia)|低ホスファターゼ症(hypophosphatasia:HPP)は、組織非特異型アルカリホスファターゼ(TNSALP)の遺伝的な活性低下により、骨や歯の石灰化(ミネラル沈着)が障害される先天代謝異常症です。胎児期に致死的となる最重症型から、成人期に骨折や歯の早期喪失だけで見つかる軽症型まで、重症度の幅が非常に広いのが特徴です。日本では2015年に世界に先駆けて酵素補充療法が承認され、重症型の生命予後は大きく改善しています。
低ホスファターゼ症の要点
低ホスファターゼ症は、ALPL遺伝子の変異で組織非特異型アルカリホスファターゼ(TNSALP)の活性が低下し、骨や歯の石灰化が障害される先天代謝異常症です。血清ALP低値が手がかりで、骨変形・骨折や乳歯の早期脱落などがみられ、指定難病(告示番号172)です。
| 別名・略称 | HPP、低フォスファターゼ症 |
|---|---|
| 分野 | 代謝疾患 |
| 原因遺伝子 | ALPL遺伝子(機能喪失型変異) |
| 遺伝形式 | 重症型は常染色体潜性(劣性)、軽症型は顕性(優性)または潜性 |
| 発症時期 | 胎児期から成人期まで幅広い |
| 主な症状 | 骨の石灰化不全、骨折、乳歯の早期脱落 |
| 主な検査 | 血清ALP低値、ALPL遺伝子検査、骨X線検査 |
| 主な治療 | 酵素補充療法(アスホターゼ アルファ) |
低ホスファターゼ症とは
低ホスファターゼ症は、ALPL遺伝子の機能喪失型変異によって組織非特異型アルカリホスファターゼ(TNSALP)の活性が低下し、その基質である無機ピロリン酸(PPi)、ピリドキサール5'-リン酸(PLP、活性型ビタミンB6)、ホスホエタノールアミン(PEA)が蓄積する疾患です。PPiは骨の主成分であるハイドロキシアパタイト結晶の形成を強く阻害するため、骨はくる病・骨軟化症に似た石灰化不全を示します。歯ではセメント質の形成が障害されて歯根膜による固定が弱くなり、歯根が残ったままの乳歯の早期脱落が起こります。最大の手がかりは血清ALP値が年齢相応の基準値より低いことです。ALPが高くなる病気は広く知られていますが、ALPが低いことの意味は見過ごされやすく、診断が遅れる一因となっています。
病型は主に発症時期と症状に基づき、(1)周産期重症型、(2)周産期良性型、(3)乳児型、(4)小児型、(5)成人型、(6)歯限局型(odontohypophosphatasia)に分けられます。周産期良性型は、胎児期に骨の変形や短縮がみられても出生後に自然に改善する病型で、日本人に比較的多い特定の変異との関連が知られています。1948年にRathbunが乳児例を報告して疾患概念が確立し、その後PEAの尿中排泄増加、ALPL遺伝子の同定(1988年)を経て病態の理解が進みました。治療面では、骨に親和性をもつ組換え型ALP製剤アスホターゼ アルファが開発され、日本では2015年に承認されました。国内では日本小児内分泌学会などによる診療ガイドラインが作成されています。指定難病(告示番号172)に指定され、小児慢性特定疾病の対象でもあります。
低ホスファターゼ症の疫学・患者数
重症型(周産期重症型・乳児型)の頻度は、欧米の報告で出生10万人あたり1人前後と推定されています。軽症型は診断されていない例が多いと考えられ、実際の有病率はこれより高いとみられます。日本では、重症型の原因となるc.1559delT変異と、周産期良性型や軽症例に関連するp.F327L変異が比較的高頻度にみられ、日本人集団における保因者は一定数存在すると推定されています。国内で診断・治療を受けている患者数は数百人規模と考えられますが、成人の軽症例を含めた正確な数は分かっていません。発症年齢は胎児期から成人期まで幅広く、成人型は中年期に骨折や骨痛を契機に見つかることが多いとされます。遺伝形式は常染色体性のため、性差は原則としてありません。
低ホスファターゼ症の原因・病態生理
原因遺伝子は1番染色体短腕(1p36.1)にあるALPL遺伝子で、骨・肝臓・腎臓などで働く組織非特異型ALPをコードしています。これまでに数百種類以上の変異が報告されています。重症型は主に常染色体潜性(劣性)遺伝で、両親から1つずつ変異を受け継いで発症します。一方、軽症型の一部は常染色体顕性(優性)遺伝の形をとります。これは、変異タンパクが正常なタンパクの働きを妨げる「ドミナントネガティブ効果」によるものと考えられています。重症度は残存する酵素活性とよく相関しますが、同じ遺伝子型でも症状に差があることが知られています。日本人に多いc.1559delTはほぼ活性のない重症変異、p.F327Lは活性がある程度保たれる軽症変異とされ、両者の組み合わせなどによって多様な臨床像が生じます。
TNSALPは骨芽細胞や軟骨細胞の細胞膜の外側にGPIアンカーで結合し、細胞外で基質を分解しています。PPiが分解されずに蓄積すると、基質小胞の中で生じたハイドロキシアパタイト結晶が骨基質(コラーゲン)へ広がる過程が阻害され、類骨(石灰化していない骨基質)が増えます。その結果、くる病・骨軟化症、骨折、偽骨折、骨変形が起こります。骨への取り込みが減ったカルシウムとリンは血中にとどまり、乳児では高カルシウム血症、高カルシウム尿症、腎石灰化の原因になります。PLPは血中では脱リン酸化されてピリドキサールとなり、細胞膜を通過します。TNSALPが働かないと血漿PLPは高値になる一方で、脳内のビタミンB6は不足します。そのため神経伝達物質GABAの合成が障害され、ビタミンB6(ピリドキシン)反応性のけいれんが生じます。なお、けいれんの原因はPEAではなくPLPの代謝障害です。PEAの増加は診断マーカーとして重要ですが、症状への直接の関与は明らかではありません。また、蓄積したPPiが関節周囲でピロリン酸カルシウム結晶として沈着すると、成人では偽痛風(軟骨石灰化症)の原因となります。
低ホスファターゼ症の症状
- 骨石灰化不全・骨変形: 重症型では胎児期から骨が極端に石灰化せず、頭蓋骨の軟化、四肢の短縮・弯曲がみられます。小児ではくる病に似たO脚やX脚、骨幹端の変化が生じます。
- 乳歯の早期脱落: 多くは4歳未満に、主に前歯の乳歯が歯根が付いたまま痛みなく抜けます。小児型・歯限局型の重要な手がかりです。
- 呼吸不全: 胸郭の低形成や肋骨の変形・骨折による胸郭の不安定性から、肺の低形成や換気障害が起こります。周産期重症型・乳児型の主要な死因となります。
- ビタミンB6反応性けいれん: 乳児期早期の重症例でみられ、通常の抗てんかん薬が効きにくい一方、ピリドキシンでおさまることがあります。けいれんの出現は重症度が高いことを示す所見とされます。
- 高カルシウム血症・腎石灰化: 乳児型では骨に取り込まれないカルシウムが血中に増え、哺乳不良、嘔吐、多尿、体重増加不良を起こします。長く続くと腎石灰化や腎機能障害につながります。
- 頭蓋縫合早期癒合症: 乳児型・小児型で、見かけ上は縫合が開いているのに早期に癒合することがあります。頭蓋内圧亢進、乳頭浮腫、キアリ奇形の原因となることがあります。
- 成長障害・運動発達遅滞: 低身長、体重増加不良、運動発達の遅れが目立ちます。筋力低下を伴って、よちよち歩き(動揺性歩行)や易疲労性がみられます。
- 骨痛・筋力低下: 小児型・成人型では、慢性的な骨痛、関節痛、筋肉痛、近位筋の筋力低下により、日常生活動作や就労が制限されることがあります。
- 易骨折性・偽骨折: 成人では中足骨の疲労骨折や、大腿骨の偽骨折(Looser zone)・非定型大腿骨骨折が起こりやすく、骨折の治りが遅いことが特徴です。
- 永久歯の早期喪失・歯科異常: 歯周組織の付着が弱いため、成人でも歯の動揺や早期喪失がみられます。エナメル質・象牙質の形成不全や歯髄腔の拡大を伴うこともあります。
- 関節症状(軟骨石灰化症・石灰沈着性関節周囲炎): ピロリン酸カルシウム結晶の沈着による偽痛風発作や、関節周囲の石灰沈着による炎症・疼痛を起こすことがあります。
低ホスファターゼ症の経過と合併症
周産期重症型は胎児超音波で骨の短縮・低石灰化として見つかることが多く、無治療では呼吸不全のためほぼ全例が新生児期までに死亡するとされてきました。周産期良性型は胎内での骨変形が出生後に自然に改善し、その後は軽症の経過をたどることが多いものの、小児期に骨や歯の症状が出ることもあります。乳児型は生後6か月頃までに哺乳不良、体重増加不良、高カルシウム血症、くる病様変化で発症し、酵素補充療法がなかった時代には約半数が呼吸不全などで乳児期に死亡したと報告されています。小児型は乳歯の早期脱落、低身長、骨変形、運動能力の低下を主な症状とし、思春期以降に一時的に軽くなっても、成人期に症状が再び現れることがあります。成人型は中年期以降に疲労骨折、偽骨折、骨痛、歯の喪失、軟骨石灰化症として現れます。振り返ると、小児期の乳歯早期脱落やくる病の既往が確認されることも少なくありません。
合併症としては、呼吸不全(長期の人工呼吸管理や気管切開が必要になることがある)、頭蓋縫合早期癒合症とそれに伴う頭蓋内圧亢進・視機能障害、腎石灰化・慢性腎臓病、難治性けいれん、骨変形による運動障害、慢性疼痛、歯の喪失による咀嚼・構音の障害などがあります。成人では骨粗鬆症と誤診されてビスホスホネート製剤を投与され、非定型大腿骨骨折を起こした例が報告されています。酵素補充療法の導入後に生存した重症例では、成長に伴う骨格変形、聴覚障害、異所性石灰化などの長期的な課題も明らかになりつつあります。
低ホスファターゼ症の診断・診断基準
診断の出発点は、年齢・性別ごとの基準値に照らして血清ALPが低値であることに気づくことです。小児のALPは成長期の骨代謝を反映して成人より高いため、成人の基準値では「正常」に見えても、小児としては明らかに低いことがあります。また日本では2020年からALP測定法がJSCC法からIFCC法に移行し、数値が従来のおよそ3分の1になったため、過去のデータと比べる際には測定法を確認する必要があります。低ALPを見つけたら、甲状腺機能低下症、栄養障害、亜鉛・マグネシウム欠乏、ステロイド投与、ウィルソン病、心臓手術後などの二次性の低ALPを除外します。そのうえで、臨床症状(骨石灰化障害、乳歯早期脱落など)、基質の上昇(血漿PLP、尿中PEA)、画像所見、ALPL遺伝子解析を組み合わせて総合的に診断します。指定難病の診断基準も、主症状と低ALP値を軸に、遺伝子検査や参考所見を加えて判定する構成になっています。胎児期に疑われた場合は、超音波・CTによる骨評価、両親の保因者検索、出生後の早急な評価と治療体制の準備が必要です。
- 血清ALP活性: 年齢・性別の基準値と比べて持続的に低いことが必須の所見です。重症例ほど低い傾向がありますが、測定法(IFCC法かJSCC法か)と年齢別基準値を必ず確認します。
- 血漿ピリドキサール5'-リン酸(PLP): TNSALPの基質で、感度の高いマーカーです。ビタミンB6サプリメントの服用で上昇するため、服薬歴の確認が必要です。
- 尿中ホスホエタノールアミン(PEA): アミノ酸分析で上昇がみられ、診断を支持します。ただし軽症例では正常のこともあり、特異度も完全ではありません。
- 単純X線検査: 重症型では全身の低石灰化や骨化の欠損がみられます。小児では骨幹端から骨幹へ舌状に伸びる透亮像、成人では偽骨折や中足骨の疲労骨折がみられ、ビタミンD欠乏性くる病とは異なる所見を示すことがあります。
- 血清Ca・P・PTH・25(OH)ビタミンD: 乳児では高Ca血症と、PTHの低値~正常値を示すことがあります。血清Pは正常~高値で、低P血症を示すくる病との鑑別に役立ちます。
- ALPL遺伝子解析: 病的変異の同定により診断が確定し、病型や遺伝形式の推定、家族への遺伝カウンセリングに役立ちます。軽症例では片側の変異のみが見つかることもあります。
- 歯科診察・歯科X線: 歯根が残った乳歯の早期脱落、歯槽骨の吸収、歯髄腔の拡大を評価します。脱落した歯の病理検査でセメント質の欠如が確認されることもあります。
- 頭部画像・眼底検査: 頭蓋縫合早期癒合症、頭蓋内圧亢進、キアリ奇形の有無を、CT・MRIや眼底検査(乳頭浮腫)で評価します。
- 腎超音波・尿中Ca排泄: 高カルシウム尿症と腎石灰化の有無を評価し、治療中のフォローアップにも用います。
低ホスファターゼ症と鑑別すべき疾患
- 骨形成不全症: 多発骨折や骨変形は共通しますが、血清ALPは正常~高値で、青色強膜や難聴を伴い、COL1A1/COL1A2などの変異を認める点で区別します。
- 致死性骨異形成症(タナトフォリック骨異形成症)などの重症骨系統疾患: 胎児期の短肢や胸郭低形成は共通しますが、骨の石灰化自体は保たれ、ALPは低値を示しません。
- ビタミンD欠乏性くる病・ビタミンD抵抗性くる病(低リン血症性くる病): これらのくる病では一般にALPが高値で低P血症などを伴いますが、HPPではALPが低値でPは正常~高値です。
- 二次性低ALP血症(甲状腺機能低下症、栄養障害、亜鉛欠乏、ウィルソン病、薬剤など): 基礎疾患や薬剤歴があり、原因を是正するとALPが回復し、PLPやPEAの上昇がみられない点で区別します。
- 骨粗鬆症: 成人の易骨折性は共通しますが、骨粗鬆症ではALPは正常~高値です。HPPを見逃してビスホスホネートを投与すると非定型骨折のリスクがあるため、低ALPの確認が重要です。
- 若年性歯周炎など歯周疾患: 歯の早期喪失は共通しますが、歯周疾患では歯肉の炎症と歯周病菌の関与が主体で、ALPは正常です。
低ホスファターゼ症の治療
治療の柱は、根本的な酵素欠損を補う酵素補充療法(アスホターゼ アルファ)と、病型ごとの症状に応じた多職種による支持療法です。周産期重症型・乳児型は生命に関わるため、診断後できるだけ早く酵素補充療法を始めることが重要とされ、呼吸管理、けいれん対策、高カルシウム血症の管理を並行して行います。小児型・成人型では、骨痛、運動機能、骨折の状況、生活の質への影響を評価したうえで、酵素補充療法を行うかどうかを主治医と相談して個別に判断します。HPPでは、一般的な骨粗鬆症やくる病の治療が逆効果になる場合がある点が特徴です。ビスホスホネート製剤(PPiの類似物質)は原則として避けるべきとされ、ビタミンDやカルシウムの補充も高カルシウム血症を悪化させるおそれがあるため、慎重に判断します。治療方針は小児内分泌科、整形外科、歯科、新生児科、脳神経外科などが連携する専門施設で決めることが望まれます。
- 酵素補充療法(アスホターゼ アルファ): 骨のハイドロキシアパタイトに結合しやすいよう設計された組換えTNSALP製剤を、週に数回皮下注射します。周産期重症型・乳児型の生存率、呼吸機能、骨石灰化を改善したことが臨床試験で示されており、小児型・成人型でも運動機能や疼痛の改善が報告されています。
- 酵素補充療法の副作用への対応: 注射部位反応、注射部位の脂肪萎縮、過敏反応のほか、眼(結膜・角膜)や腎臓の異所性石灰化が報告されています。定期的な眼科診察と腎超音波でモニタリングします。
- 呼吸管理: 重症型では出生直後から人工呼吸管理が必要になることがあり、長期化すれば気管切開や在宅人工呼吸療法を検討します。呼吸器感染症の予防も重要です。
- ピリドキシン(ビタミンB6)投与: PLP代謝障害によるけいれんにはピリドキシンが有効なことがあります。必要に応じて抗てんかん薬を併用します。
- 高カルシウム血症・腎石灰化の管理: 乳児ではカルシウム摂取の調整や輸液などで管理します。酵素補充療法によって骨へのミネラル沈着が進むと、改善することが多いとされます。
- 整形外科的治療: 骨折、偽骨折、下肢変形に対して手術や装具療法を行います。骨癒合が遅いことを踏まえて固定方法を選びます。成人の骨折では酵素補充療法の併用が検討されることがあります。
- 脳神経外科的治療: 頭蓋縫合早期癒合症による頭蓋内圧亢進に対して、頭蓋形成術などが行われることがあります。
- 歯科的管理: 小児期からの定期受診、口腔衛生指導、歯の動揺への対応、早期喪失後の小児義歯などで、咀嚼・構音・審美面を支えます。
- 疼痛管理・リハビリテーション: 骨痛や関節痛には鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬などを症状に応じて)を用い、理学療法・作業療法で筋力、歩行、日常生活動作を維持・改善します。
低ホスファターゼ症の予後・長期フォロー
予後は病型によって大きく異なります。周産期重症型と乳児型は、かつて極めて予後不良でしたが、酵素補充療法の導入により生存率が大きく改善し、呼吸器から離脱して歩行を獲得する例も報告されています。ただし、治療開始時の重症度や開始時期によって経過は異なり、呼吸補助の長期化、成長障害、骨格変形が残る場合もあります。周産期良性型の生命予後は一般に良好です。小児型・成人型では生命予後はおおむね良好ですが、慢性疼痛、易骨折性、筋力低下、歯の喪失が長く続き、通学・就労・日常生活の質に大きく影響することがあります。酵素補充療法の長期成績や、どこまで治療を続けるべきかについては、現在もデータが蓄積されつつある段階です。
長期フォローアップでは、成長・発達、骨格の評価(X線、骨変形、骨折)、運動機能(歩行テストなど)、疼痛、呼吸機能、腎機能と腎石灰化、眼科での石灰化チェック、頭蓋縫合と頭蓋内圧、歯科所見を定期的に確認します。小児期に診断された患者は、思春期から成人期への移行期に、小児科から成人診療科(内分泌内科、整形外科など)へ切れ目なく引き継ぐことが課題です。成人型でも診断後は定期的な通院を続け、骨折や新たな症状が出た際には、HPPであることを担当医に伝えることが大切です。
低ホスファターゼ症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
骨折予防のため、転倒しにくい住環境を整え、体に合った靴や必要に応じて装具・補助具を使います。そのうえで、主治医やリハビリ担当者と相談しながら、無理のない範囲で運動を続けることが筋力の維持に役立ちます。口腔ケアは特に重要で、乳歯の時期から歯科を定期受診し、歯の動揺や脱落があれば早めに相談しましょう。他の医療機関を受診する際は、必ずHPPであることを伝えてください。骨粗鬆症治療薬(特にビスホスホネート製剤)や、ビタミンD・カルシウム製剤、ビタミンB6を含むサプリメントは、病状や検査値に影響することがあります。酵素補充療法は自己注射や家族による在宅注射が可能で、注射部位を毎回変えるなどの工夫を医療者から教わります。遺伝については、病型や遺伝形式によって家族の再発率が異なります。次子の計画、きょうだいの検査、出生前診断の可否などは、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けたうえで、家族で検討することが勧められます。
利用できる制度・相談窓口
低ホスファターゼ症は指定難病(告示番号172)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、都道府県・指定都市に申請すると医療費助成(自己負担上限額の設定)を受けられます。重症度基準を満たさない場合でも、高額な医療費が継続する場合の特例(軽症高額該当)があります。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では小児慢性特定疾病医療費助成の対象となり、日常生活用具の給付や自立支援事業も利用できます。酵素補充療法は高額なため、これらの制度や高額療養費制度の活用が重要です。障害の程度に応じて、身体障害者手帳(肢体不自由・呼吸器機能障害など)、特別児童扶養手当・障害児福祉手当、障害年金の対象となることがあります。指定難病の患者は障害者総合支援法の障害福祉サービスを利用できます。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、医療機関の医療ソーシャルワーカー、小児慢性特定疾病の自立支援員などがあり、同じ病気の患者・家族の会から情報やピアサポートを得ることもできます。
低ホスファターゼ症に伴う心のケア・心理社会的支援
希少疾患であるため、診断までに長い時間がかかったり、周囲に理解されにくかったりして、孤立感を抱きやすい病気です。重症型の子どもをもつ家族は、出生前後の告知、NICUでの長期管理、在宅人工呼吸や頻回の注射といった負担を抱え、不安、抑うつ、疲弊、きょうだい児への配慮の難しさなどに直面することがあります。小児型では、乳歯の早期脱落や低身長、運動能力の差から、学校生活での劣等感やいじめが問題になることがあります。成人型では、慢性疼痛や繰り返す骨折による就労の制限、「見た目では分からないつらさ」を理解されないこと、遺伝性疾患であることへの罪責感や家族計画の悩みが大きな負担になります。慢性疼痛は抑うつと相互に悪化しやすいため、気分の落ち込み、不眠、意欲低下が続くときは、主治医に相談するとともに、心療内科・精神科、公認心理師、医療ソーシャルワーカー、患者会などの支援を早めに利用することが大切です。
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低ホスファターゼ症の受診の目安
- 乳児で哺乳不良、嘔吐、体重が増えない、呼吸が苦しそう、けいれんがみられる場合は、すぐに医療機関(必要なら救急)を受診してください。
- 4歳頃までに、虫歯やけががないのに乳歯が根ごと抜けた場合は、小児科または歯科で血清ALPの測定を含む相談をしてください。
- 健康診断や血液検査で、ALPが基準値より低いと指摘された場合は、放置せず内科・小児科で原因を確認してください。
- 治療中の乳幼児に、頭痛、繰り返す嘔吐、不機嫌、頭の形の変化、目の異常がみられる場合は、頭蓋内圧亢進の可能性があるため早めに受診してください。
- 軽い力で骨折した、足の甲や太ももの痛みが続く、骨折がなかなか治らない場合は、HPPであることを伝えて整形外科を受診してください。
- 酵素補充療法の注射後に、じんましん、息苦しさ、顔の腫れなどが出た場合は、アレルギー反応の可能性があるため直ちに医療機関に連絡してください。
低ホスファターゼ症についてのよくある質問
Q. ALPが低いと言われましたが、すぐに低ホスファターゼ症ですか?
A. ALPの低値は、甲状腺機能低下症、栄養不良、亜鉛欠乏、薬剤などでもみられるため、すぐにHPPとは限りません。年齢別の基準値で評価し、症状、PLPやPEAの値、必要に応じて遺伝子検査を組み合わせて判断します。気になる場合は主治医に相談してください。
Q. 酵素補充療法は一生続ける必要がありますか?
A. アスホターゼ アルファは不足している酵素を補う治療で、病気そのものを治すわけではないため、中止すると効果が失われる可能性があります。特に重症型では長期の継続が基本と考えられていますが、軽症型での継続期間などはまだ研究段階です。病状に応じて専門医と相談して決めます。
Q. 骨折しやすいので骨粗鬆症の薬を飲んでもよいですか?
A. HPPでは、骨粗鬆症に広く使われるビスホスホネート製剤が石灰化をさらに妨げ、非定型大腿骨骨折を起こしたという報告があり、原則として避けるべきとされています。他の骨の薬やビタミンD・カルシウム製剤も含め、必ずHPPを診ている専門医に相談してください。
Q. 子どもに遺伝しますか?
A. 病型と遺伝形式によって異なります。常染色体潜性遺伝の重症型では、両親がともに保因者の場合、子どもが発症する確率は一般に4分の1です。軽症型の一部は顕性遺伝の形をとり、確率や重症度の見通しは家族によって異なるため、遺伝カウンセリングで個別に相談することをお勧めします。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。