那須・ハコラ病
Nasu-Hakola Disease
那須・ハコラ病(Nasu-Hakola Disease)|那須・ハコラ病は、TYROBP(DAP12)遺伝子またはTREM2遺伝子の変異による常染色体潜性(劣性)遺伝性の疾患です。手足の骨に多数の嚢胞ができて骨折しやすくなり、その後、性格変化を中心とする前頭葉症状から若年性認知症へと進行します。20歳代から40歳代という働き盛りの時期に発症するため、本人の生活と仕事、家族の暮らしに長期にわたって大きな影響を及ぼします。
那須・ハコラ病の要点
那須・ハコラ病は、20〜40歳代で発症し、TYROBPまたはTREM2遺伝子の変異で起こる常染色体潜性遺伝の疾患で、手足の骨に多発する嚢胞による骨折と、前頭葉症状から進行する若年性認知症を特徴とします。ミクログリアの機能不全が関わるとされ、国の指定難病に定められています。
| 別名・略称 | PLOSL、膜性脂肪ジストロフィー、Nasu-Hakola disease、Polycystic lipomembranous osteodysplasia with sclerosing leukoencephalopathy、那須ハコラ病 |
|---|---|
| 分野 | 神経・筋疾患 |
| 遺伝形式 | 常染色体潜性(劣性)遺伝 |
| 原因遺伝子 | TYROBP(DAP12)またはTREM2 |
| 好発年齢 | 20〜40歳代で発症 |
| 主な症状 | 手足の骨嚢胞と骨折、性格変化などの前頭葉症状、若年性認知症 |
| 主な検査 | 骨X線、頭部MRI・CT、遺伝子検査 |
| 主な治療 | 根治療法はなく、症状に応じた対症療法・ケア |
那須・ハコラ病とは
那須・ハコラ病は、多発性骨嚢胞と白質脳症を伴う進行性の若年性認知症を特徴とする遺伝性疾患です。英語圏では polycystic lipomembranous osteodysplasia with sclerosing leukoencephalopathy(PLOSL)とも呼ばれます。骨では、長管骨の骨端部や手根骨・足根骨の骨髄脂肪組織が、膜状の構造物で囲まれた嚢胞性病変(膜嚢胞性病変、membranocystic lesion)に置き換わります。脳では前頭葉を中心に白質が障害され、大脳萎縮と基底核の石灰化がみられます。原因遺伝子のTYROBP(DAP12とも呼ばれる)とTREM2は、どちらもミクログリアや破骨細胞などの骨髄系細胞で働く受容体シグナル系の構成分子です。このため現在では、ミクログリアの機能不全が神経変性を引き起こす「ミクログリア病(microgliopathy)」の代表的な疾患と位置づけられています。なお、既存の簡易解説には「骨髄炎様病変」「NASU型若年認知症」「遺伝子座21q22.3」との記載がありますが、実際の骨病変は化膿性・炎症性の骨髄炎ではなく脂肪組織の膜嚢胞性変化です。またTYROBPの遺伝子座は第19番染色体(19q13)です。
本疾患は、1970年代初頭にフィンランドのHakolaと日本の那須毅らによって、ほぼ同時期に独立して報告されました。両者の名を冠して那須・ハコラ病と呼ばれています。日本では那須らが病理学的特徴から「膜性脂肪ジストロフィー(membranous lipodystrophy)」と命名した経緯があります。2000年にTYROBP遺伝子、2002年にTREM2遺伝子が原因遺伝子として同定されました。いずれの遺伝子による場合も、臨床像はおおむね共通しています。ただし、TREM2変異の一部では骨病変が目立たず、前頭側頭型認知症に似た神経症状が主体となる例が報告されています。臨床経過は、無症状の潜伏期、骨症状期、早期神経症状期、晩期神経症状期の4期に分けて理解するのが一般的です。日本では指定難病(告示番号174)に指定されています。
那須・ハコラ病の疫学・患者数
世界的にも極めてまれな疾患です。患者報告はフィンランドと日本に多く、両国では創始者効果(特定の祖先に由来する変異が集団内に広がること)による共通変異の存在が知られています。国内の患者数は正確には把握されていませんが、200人前後とする推定があり、診断されていない例も含めるとさらに多い可能性が指摘されています。骨症状は20歳代前後、精神神経症状は30歳代前後に現れることが多いとされます。ただし個人差が大きく、骨症状に気づかないまま神経症状で初めて受診する例もあります。常染色体潜性遺伝のため性差は基本的にないと考えられています。血族婚の家系で見つかることもありますが、血族婚がなくても発症します。
那須・ハコラ病の原因・病態生理
本疾患は常染色体潜性(劣性)遺伝で、TYROBP遺伝子(19q13)またはTREM2遺伝子(6p21)の両方のアレル(父由来と母由来)に病的変異があると発症します。両親がともに保因者(片方のアレルにのみ変異を持つ健康な人)の場合、子が発症する確率は1/4、保因者となる確率は1/2、変異を持たない確率は1/4です。TREM2は細胞表面の受容体で、DAP12(TYROBPがコードする蛋白)はその細胞内側でシグナルを伝えるアダプター分子です。DAP12はITAM(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)という活性化モチーフを持ちます。TREM2に脂質やアポリポ蛋白、細胞死に伴う分子などが結合すると、DAP12のITAMがリン酸化され、SYKなどのキナーゼを介して下流にシグナルが伝わります。この系は脳内のミクログリア、骨を吸収する破骨細胞、樹状細胞やマクロファージなどで働いています。病的変異によってTREM2とDAP12のどちらか一方が機能を失えば、この経路全体が働かなくなります。
脳では、ミクログリアが細胞の残骸や変性したミエリン(髄鞘)を貪食・処理する働き、自らの生存・増殖を維持する働き、炎症反応を適切に調節する働きが損なわれると考えられています。その結果、前頭葉を中心とした白質で髄鞘が失われ、軸索の腫大(軸索スフェロイド)、アストロサイトの増生(グリオーシス)、基底核の石灰化が進行します。白質と前頭葉が強く障害されるため、記憶障害よりも人格変化や判断力低下が目立ちます。CSF1R遺伝子変異による神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(ALSP)と病理像がよく似ており、両疾患はミクログリア機能不全という共通の病態でつながっていると考えられています。骨では、破骨細胞の分化・機能異常が関わるとされます。骨髄の脂肪組織が、波打つような膜構造を持つ嚢胞(膜嚢胞性病変)に置き換わり、骨梁が脆弱になって病的骨折を起こしやすくなります。骨病変と脳病変がどのような仕組みで結びついているかは完全には解明されておらず、研究が続けられています。なお、TREM2の片アレルのみの特定の変異はアルツハイマー病などのリスク因子として注目されています。しかし、保因者が那須・ハコラ病を発症するわけではありません。
那須・ハコラ病の症状
- 骨痛・関節周囲の腫脹: 足関節や手関節、足部などに、運動や負荷の後の痛みや腫れが現れます。捻挫や疲労と誤認されやすい症状です。
- 病的骨折: 嚢胞で弱くなった骨が、軽い外力で折れることがあります。手首・足首周囲の骨折を繰り返すことが診断の手がかりになります。
- 人格変化・脱抑制: 多幸的・無頓着になる、社会的な抑制が効かなくなる、場にそぐわない言動をとるなどの前頭葉症状が、神経症状の初期にみられます。
- 意欲低下・無関心: 自発性が乏しくなり、仕事や家事への関心や身だしなみへの配慮が失われます。うつ病と誤認されることがあります。
- 判断力・実行機能の低下: 計画を立てて物事を順序よく進めることや、状況に応じた判断が難しくなります。就労継続や金銭管理に支障が出ます。
- 記憶障害・進行性認知症: 進行とともに記憶障害や見当識障害が加わり、全般的な認知症へと移行します。
- 言語障害: 自発語が減り、同じ言葉を繰り返すなどの症状がみられます。晩期には発語がほとんどなくなること(無言)があります。
- てんかん発作: 神経症状期に全身けいれんなどのてんかん発作が出現することがあり、抗てんかん薬による管理が必要になります。
- 運動障害・歩行障害: 錐体路徴候(腱反射亢進、病的反射)、筋強剛、失調、原始反射の出現などを伴い、歩行が不安定になります。
- 尿失禁などの自律機能障害: 前頭葉機能の低下に伴い、比較的早い時期から尿失禁がみられることがあります。
- 嚥下障害: 晩期には食事を飲み込む機能が低下し、誤嚥性肺炎や栄養障害の原因となります。
那須・ハコラ病の経過と合併症
自然歴は一般に4期に分けて説明されます。潜伏期は出生から思春期頃までで、発達はおおむね正常です。骨症状期(多くは20歳代)には、足関節・手関節周囲の痛みや腫れ、病的骨折が現れ、X線で多発性骨嚢胞が見つかります。早期神経症状期(多くは30歳代)には、人格変化、脱抑制、多幸、無関心、判断力低下などの前頭葉症状が前景に立ち、てんかん発作が加わることもあります。晩期神経症状期には、高度の認知症、無言、寝たきり状態に至ります。神経症状が出てからは比較的着実に進行し、10年前後の経過で高度の介護を要する状態になる例が多いとされます。ただし、進行の速さや骨症状の目立ち方には個人差があります。
合併症として、骨では病的骨折の反復、骨折後の変形や関節機能障害が問題となります。神経系では、てんかん発作、けいれん重積、転倒による外傷が起こりえます。晩期には、嚥下障害による誤嚥性肺炎、栄養障害、褥瘡、尿路感染症、関節拘縮、深部静脈血栓症など、長期臥床に伴う合併症が生命予後を左右します。精神症状のために、早期から社会的・経済的トラブル(浪費、対人トラブル、失職など)が生じることもあります。抗精神病薬などを用いる場合は、過鎮静や嚥下機能への影響にも注意が必要です。
那須・ハコラ病の診断・診断基準
診断は、若年発症の前頭葉症状・認知症と、繰り返す骨折や骨痛の組み合わせに気づくことから始まります。骨症状が先に出ていても見過ごされることが多いため、若年性認知症や原因不明の白質脳症をみた際には、手足の骨折歴や骨痛を問診し、手関節・足関節の単純X線撮影を行うことが重要です。頭部CT・MRIで前頭葉優位の萎縮、白質病変、基底核の石灰化を確認し、神経心理検査で前頭葉機能を評価します。最終的には、TYROBPまたはTREM2遺伝子の両アレル病的変異を証明する遺伝学的検査で確定します。骨生検で特徴的な膜嚢胞性病変が確認されれば、診断の強い根拠になります。指定難病の申請では、厚生労働省研究班の診断基準に基づき、臨床症状、画像所見、遺伝学的検査や病理所見を組み合わせて判定されます。遺伝学的検査の前後には、遺伝カウンセリングの体制を整えることが望まれます。
- 骨単純X線検査: 手根骨・足根骨や橈骨・尺骨・脛骨・腓骨の骨端部に、左右対称性に多発する境界明瞭な透亮像(骨嚢胞)を認めます。神経症状が出る前から検出できる重要な所見です。
- 骨CT・MRI: 嚢胞の広がりや骨皮質の菲薄化、骨折の有無を詳しく評価できます。手術計画や骨折リスクの把握に役立ちます。
- 頭部CT: 基底核(特に淡蒼球・被殻)の石灰化と前頭葉優位の大脳萎縮がみられることがあります。石灰化はCTで捉えやすい所見です。
- 頭部MRI: 前頭葉優位の大脳萎縮、脳室拡大、T2強調/FLAIR画像での大脳白質高信号、脳梁の菲薄化などを認めます。進行に伴って変化が明瞭になります。
- 神経心理検査: MMSEやMoCAで全般的認知機能を、FAB(前頭葉機能検査)やウィスコンシンカード分類検査などで前頭葉・実行機能を評価します。初期には記憶よりも前頭葉機能の低下が目立つことがあります。
- 脳波検査: 徐波化やてんかん性放電を認めることがあり、てんかん発作の評価と治療方針の決定に用います。
- 遺伝学的検査: TYROBPまたはTREM2遺伝子の両アレルに病的変異を確認することで確定診断となります。保険診療での実施可否や実施施設は時期によって異なるため、専門医に確認が必要です。
- 骨生検・病理検査: 骨髄脂肪組織が、波状・膜状の構造物で裏打ちされた嚢胞に置き換わる膜嚢胞性病変を認めます。本症に特徴的な所見です。
- 除外のための血液・髄液検査: 副甲状腺機能、代謝性疾患、感染症、自己免疫疾患などを評価し、ほかの若年性認知症や白質脳症、骨嚢胞の原因を除外します。
那須・ハコラ病と鑑別すべき疾患
- 神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(ALSP): CSF1R変異による常染色体顕性(優性)遺伝の白質脳症で、病理・画像所見が類似しますが、多発性骨嚢胞を伴わない点で区別されます。
- 前頭側頭葉変性症: 人格変化・脱抑制が共通しますが、骨嚢胞、高度の白質病変、基底核石灰化を伴わず、遺伝子検査で区別されます。
- 若年性アルツハイマー型認知症: 初期から記憶障害が主体で海馬萎縮が目立ち、骨病変や広範な白質病変を伴わないことが多い点が異なります。
- 副腎白質ジストロフィー(成人型)など遺伝性白質ジストロフィー: 極長鎖脂肪酸などの生化学的検査や遺伝子検査、骨病変の有無で鑑別します。
- CADASIL・HTRA1関連脳小血管病: 脳卒中様発作や片頭痛、側頭極などの特徴的白質病変、ラクナ梗塞を伴う点、および遺伝子検査で区別されます。
- 特発性基底核石灰化症: 基底核石灰化は共通しますが、骨嚢胞や前頭葉優位の高度白質脳症を通常は伴いません。
那須・ハコラ病の治療
現時点で、那須・ハコラ病の進行を止める根本的治療は確立していません。治療は、骨病変、精神神経症状、てんかん、日常生活機能の低下それぞれに対する対症療法とリハビリテーション、介護・福祉支援を組み合わせた多職種による包括的な支援が中心です。病期によって課題は大きく変わります。骨症状期には骨折予防と整形外科的治療、早期神経症状期には精神症状・行動障害への対応と社会生活上の調整、晩期には嚥下・栄養・感染予防と在宅や施設での療養環境の整備が主な目標となります。薬剤の選択と用量は症状や副作用の出方によって個別に判断する必要があり、主治医(脳神経内科・精神科・整形外科など)とよく相談しながら進めることが大切です。造血幹細胞移植などミクログリアを標的とした治療の可能性も研究されていますが、確立した治療ではありません。
- 骨折予防と整形外科的治療: 嚢胞の大きさや部位に応じて、過度の負荷を避ける生活指導や装具を用います。骨折時には保存療法や手術(内固定、骨移植など)を検討します。
- 骨代謝への補助的治療: ビタミンDや骨粗鬆症治療薬が試みられることがありますが、本症の骨嚢胞に対する有効性は確立していないため、適応は専門医と相談して判断します。
- 抗てんかん薬: てんかん発作がある場合に、発作型や併用薬、認知機能への影響を考慮して選択します。発作の頻度や生活への影響をみながら調整します。
- 精神症状・行動障害への薬物療法: 抑うつ、焦燥、興奮、脱抑制などに対して、抗うつ薬や少量の抗精神病薬などを慎重に用います。過鎮静や転倒、嚥下機能低下に注意が必要です。
- 認知症治療薬: アルツハイマー型認知症の治療薬が試されることはありますが、本症での有効性を示す十分な根拠はなく、保険適用の範囲も含めて慎重に判断されます。
- 非薬物的ケア・環境調整: 生活リズムの安定、刺激の調整、分かりやすい声かけ、行動障害の誘因の分析など、前頭葉症状に合わせたケアを行います。症状の安定に重要な役割を果たします。
- リハビリテーション: 理学療法・作業療法・言語聴覚療法により、歩行や日常生活動作、コミュニケーション、嚥下機能をできるだけ長く維持し、拘縮や転倒を予防します。
- 嚥下・栄養管理: 食形態の調整や口腔ケアで誤嚥性肺炎を予防します。経口摂取が困難になった場合は、本人の意思や家族の希望を踏まえて経管栄養などの選択肢を話し合います。
- 遺伝カウンセリング: 診断の意味、血縁者への影響、保因者診断や将来の妊娠に関する情報を、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと共有し、意思決定を支援します。
那須・ハコラ病の予後・長期フォロー
那須・ハコラ病は進行性の疾患です。神経症状が出現した後、多くの例で徐々に認知症が進み、最終的には全面的な介護を要する状態に至ります。生命予後は誤嚥性肺炎などの感染症や長期臥床に伴う合併症に大きく左右されます。従来の報告では40〜50歳代で亡くなる例が多いとされますが、介護や医療の質の向上によって経過は変わりうるもので、個人差もあります。QOLの観点では、骨折による移動能力の低下に加えて、早期からの人格変化が就労・家庭生活・対人関係に与える影響が大きいことが特徴です。疾患の早期理解と周囲の支援体制づくりが、本人と家族の生活の質を保つうえで重要です。
長期フォローアップでは、脳神経内科を中心に、精神科、整形外科、リハビリテーション科、かかりつけ医、訪問看護、介護職などが連携します。定期的に、認知機能・行動症状・てんかん発作・歩行・嚥下機能・栄養状態・骨折の有無を評価します。必要に応じて頭部画像や骨X線で経過を確認し、薬剤の副作用もチェックします。病状が進む前に、本人の価値観や希望(療養場所、延命治療、経管栄養などへの考え)を家族や医療者と共有しておくアドバンス・ケア・プランニングも大切です。成年後見制度の利用など、法的・経済的な準備も早めに検討されます。
那須・ハコラ病の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
骨嚢胞がある場合は、ジャンプや重い荷物の運搬、長時間の立ち仕事など手首・足首に強い負担がかかる動作を控え、転倒しにくい住環境(段差解消、手すり、滑りにくい床)を整えます。てんかん発作がある、または判断力が低下している場合は、自動車運転について必ず主治医と相談してください。てんかんや認知症では法律上の運転制限が関わります。入浴や高所作業にも注意が必要です。前頭葉症状により、本人は自分の変化を自覚しにくく、浪費や契約トラブル、対人トラブルが起こりえます。家族は金銭管理や重要な手続きを早めに見守る体制をつくるとよいでしょう。症状は病気によるものであり、本人の性格や怠けのせいではないことを、家族や職場が理解することも重要です。常染色体潜性遺伝のため、患者のきょうだいが発症または保因者である可能性があります。患者の子は通常は保因者となり、配偶者も保因者でない限り発症しません。血縁者の検査や将来の妊娠・出産については、遺伝カウンセリングを受けたうえで、本人の意思を尊重して決めることが大切です。
利用できる制度・相談窓口
那須・ハコラ病は指定難病(告示番号174)で、診断基準と重症度基準を満たす場合、または軽症でも高額な医療が継続する場合(軽症高額該当)は、医療費助成を受けられます。申請は都道府県・指定都市の窓口(保健所など)で行い、難病指定医の臨床調査個人票が必要です。介護保険は通常65歳以上が対象ですが、40〜64歳でも「初老期における認知症」は特定疾病に含まれるため、要介護認定を受ければ介護サービスを利用できます。障害者総合支援法の対象疾病にも含まれ、障害福祉サービスを利用できる場合があります。症状に応じて、精神障害者保健福祉手帳(認知症・てんかんなど)や身体障害者手帳(肢体不自由など)の取得、てんかんや精神症状の通院に対する自立支援医療(精神通院医療)、障害年金、傷病手当金などが検討できます。判断能力が低下した場合には成年後見制度も利用できます。相談窓口として、各都道府県の難病相談支援センター、若年性認知症支援コーディネーター(若年性認知症コールセンターを含む)、地域包括支援センター、医療機関の医療ソーシャルワーカー、患者・家族会などがあります。
那須・ハコラ病に伴う心のケア・心理社会的支援
難病の診断は、本人と家族に強い不安や喪失感、抑うつ、適応障害をもたらすことがあります。那須・ハコラ病では特に、若年での発症により就労・子育て・経済面に大きな影響が出ること、前頭葉症状のために本人の病識が乏しく、苦悩や介護負担が家族に集中しやすいことが大きな課題です。症状が理解されないまま「性格が変わった」と受け止められ、夫婦関係や職場での関係が悪化してから診断に至る例も少なくありません。遺伝性疾患であることから、きょうだいの発症への不安、自分が保因者かどうかの悩み、結婚・出産への迷い、親としての罪悪感など、遺伝に関わる心理的負担も生じます。介護者の燃え尽きを防ぐため、ショートステイなどのレスパイトケアを利用し、精神科・心療内科や公認心理師、遺伝カウンセラー、家族会などに早めに相談してください。一人で抱え込まないことが大切です。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
那須・ハコラ病の受診の目安
- 手首や足首の痛み・腫れを繰り返す、または軽い外力で骨折した場合は、整形外科を受診し、骨嚢胞の有無を確認してもらいましょう。
- 20〜40歳代で、性格変化、無関心、場にそぐわない言動、仕事のミスの増加などが続く場合は、脳神経内科や精神科(もの忘れ外来)を受診してください。
- 全身けいれんが5分以上続く、または意識が戻らないまま発作を繰り返す場合は、救急車を要請してください。
- 発熱、咳、痰の増加、呼吸が苦しそう、食事中のむせが増えた場合は、誤嚥性肺炎の可能性があるため早めに受診してください。
- 急に歩けなくなった、手足の強い痛みや変形がある場合は、骨折の可能性があるため速やかに受診してください。
- 介護する家族が心身の限界を感じたときも、主治医やケアマネジャー、相談窓口にためらわず相談してください。
那須・ハコラ病についてのよくある質問
Q. 骨の病気と認知症がなぜ同じ病気で起こるのですか?
A. 原因となるTYROBP(DAP12)やTREM2は、脳の免疫細胞であるミクログリアと、骨を作り替える破骨細胞などの両方で働く分子です。この働きが失われるため、骨と脳の両方に障害が生じると考えられています。ただし、詳しい仕組みはまだ研究段階です。
Q. きょうだいや子どもも発症しますか?
A. 常染色体潜性遺伝のため、両親が保因者の場合、きょうだいが発症する確率は1/4です。患者の子どもは通常は保因者になりますが、配偶者も保因者でない限り発症しません。個別の状況は遺伝カウンセリングで確認することをお勧めします。
Q. 治療法はありますか?
A. 現時点で進行を止める治療は確立していませんが、骨折、てんかん、精神症状、嚥下障害などに対する治療とリハビリテーションで、生活の質を保つことができます。新しい治療の研究も進められているため、最新情報は専門医に確認してください。
Q. 骨症状だけで、まだ認知症の症状がない段階で診断されました。何をすべきですか?
A. 骨折予防に努めながら、定期的に神経内科で経過をみることが大切です。仕事や家族の将来について、元気なうちに主治医や家族と話し合い、医療費助成や相談窓口の情報も早めに把握しておくと安心です。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。