多脾症候群

Polysplenia Syndrome

多脾症候群(Polysplenia Syndrome)|多脾症候群は、体の左右の決まり方(左右軸の形成)が胎児期にうまくいかないために、本来は左側にだけある構造が体の両側に現れる先天性疾患です。医学的には内臓錯位症候群(ヘテロタキシー)のうち「左側相同(left isomerism)」と呼ばれます。心臓・血管・肺・消化管・肝胆道・脾臓など多くの臓器に形や位置の異常が生じ、生涯にわたる健康への影響は、とくに合併する心疾患・不整脈・胆道閉鎖症の有無と重さで大きく変わります。

多脾症候群の要点

多脾症候群は、胎児期の左右軸の形成異常により左側の構造が体の両側に現れる先天性疾患(左側相同)で、日本では指定難病(告示番号188)です。先天性心疾患や徐脈などの不整脈、下大静脈欠損、腸回転異常、胆道閉鎖症を合併することがあり、重症度は合併症で大きく異なります。

別名・略称左側相同、左側アイソメリズム、左心房相同、left isomerism、left atrial isomerism、内臓錯位症候群(左側相同)
分野循環器・先天性心疾患
発症時期先天性(胎児期の左右軸形成異常)
主な症状先天性心疾患、徐脈などの不整脈、胆道閉鎖症、腸回転異常
主な検査心エコー、心電図、腹部超音波、CT・MRI
主な治療合併症に応じた治療(心臓手術、ペースメーカー、胆道閉鎖症の手術など)
受診する主な診療科小児循環器科、小児科、小児外科
公的制度指定難病(告示番号188)、小児慢性特定疾病の対象

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多脾症候群とは

多脾症候群は、脾臓が複数の小さな塊(多脾)として存在することに由来する名称ですが、本質は脾臓だけの異常ではありません。体の左右非対称性が正しく作られず、左側の形態をもつ構造が両側に重複する「左側相同」が基本病態です。典型的には、心房の両側が形態学的左心房となり(両側左心耳)、左右の肺がともに2葉で気管支が肺動脈の下を走る「左肺型」を示し、下大静脈の肝部が欠損して奇静脈または半奇静脈を経て上大静脈へ還流する下大静脈欠損(奇静脈結合)がみられます。腹部では正中肝、腸回転異常、十二指腸前門脈、膵体尾部の低形成などが起こり、脾臓は複数個のことが多い一方、単一の脾臓や、まれに脾臓を確認できない例もあり、「多脾」の有無だけで病型を決めることはできません。洞結節は形態学的右心房に存在するため、両側が左心房形態となる本症では正常な洞結節を欠きやすく、徐脈や異所性心房調律、房室ブロックなどの調律異常が特徴的です。

内臓の配置は、正常配置(situs solitus)、完全な鏡像である全内臓逆位(situs inversus totalis)、そして左右がそろわず配置が乱れる内臓錯位(situs ambiguus、ヘテロタキシー)に大別されます。ヘテロタキシーはさらに、右側構造が両側に現れる右側相同(無脾症候群)と、左側構造が両側に現れる左側相同(多脾症候群)に分けて考えるのが一般的です。古くはIvemarkらの報告以降、脾臓の所見に基づいて「無脾症候群」「多脾症候群」と呼ばれてきましたが、脾臓の所見と心臓の形態が一致しない例が少なくないため、近年は心耳形態に基づく「心房相同」の概念で整理され、脾臓・気管支・静脈系・腹部臓器を総合して評価します。日本では「多脾症候群」として指定難病(告示番号188)に指定されており、小児慢性特定疾病の対象疾患にも含まれています。

多脾症候群の疫学・患者数

ヘテロタキシー全体の頻度は、出生およそ1万人に1人前後と報告されることが多く、先天性心疾患全体の数%を占めるとされます。そのうち左側相同(多脾症候群)の占める割合は報告によって幅があり、右側相同(無脾症候群)と同程度か、やや少ないとする報告が多くみられます。左側相同は心疾患が比較的軽い例も多く、心奇形がほとんどない場合には成人になって腹部画像検査などで偶然見つかることもあるため、真の頻度は過小評価されている可能性があります。日本国内の正確な患者数は把握されていませんが、指定難病・小児慢性特定疾病の受給者数から、全国で数百人から千人規模程度と推測されます。多くは胎児期から新生児期・乳児期に心疾患、不整脈、胆道閉鎖症などをきっかけに診断されます。性差については女性にやや多いとする報告もありますが、一定した見解はありません。危険因子としては母体の糖尿病などが報告されています。家族内発症は少数で、大部分は孤発例です。

多脾症候群の原因・病態生理

胎児の体の左右は、受精後およそ第3週前後に、原始結節(ノード)にある線毛の回転運動が生み出す左向きの液流をきっかけに決まります。この流れによって左側の側板中胚葉でNODALやその標的遺伝子(LEFTY、PITX2など)が発現し、左側特有の形態形成プログラムが始動します。このシグナル伝達系に関わる遺伝子の異常として、X連鎖性のヘテロタキシーを起こすZIC3、NODAL、補助受容体をコードするCFC1(CRYPTIC)、LEFTY2、ACVR2Bなどの報告があります。また、線毛の運動に関わる遺伝子異常による原発性線毛機能不全症では、患者の一部(約1割前後とされる)にヘテロタキシーが生じることが知られています。ただし、遺伝子異常が特定されるのはヘテロタキシー全体の一部にとどまります。多くの症例では原因は不明で、複数の遺伝要因と環境要因が関与する多因子性と考えられています。遺伝形式は原因によって異なり、常染色体潜性(劣性)、X連鎖性、常染色体顕性(優性)などがあります。

左右軸の情報が正しく伝わらないと、本来片側にのみ形成されるべき構造が両側に重複したり、逆に欠けたりします。左側相同では「左側らしさ」が両側に与えられる結果、心房では両側が左心耳形態となり、右心房に属する洞結節が欠如または低形成となって洞機能不全や異所性心房調律が生じます。房室伝導系の形成異常を伴うと先天性完全房室ブロックを起こし、とくに房室中隔欠損を伴う例では胎児期から発症することがあります。静脈系では、右側の静脈構造から作られる下大静脈肝部が形成されず、下半身の血液は奇静脈・半奇静脈を経て上大静脈に還流し、肝静脈は直接心房に注ぎます。肺静脈はそれぞれ同側の心房へ還流する部分肺静脈還流異常の形をとることがあります。腹部では、肝臓の左右非対称が失われて正中肝となり、腸管の回転・固定が不完全となる腸回転異常、膵臓背側原基の低形成、肝外胆管の形成異常(胆道閉鎖症)などが起こり得ます。脾臓は胎生期に背側胃間膜内で左側に形成されますが、その発生過程の乱れによって複数の小脾に分かれ、個々の脾組織の容積や血流によっては脾機能低下を示すことがあります。ただし脾機能は個人差が大きく、正常に近い場合も少なくありません。

多脾症候群の症状

  • 徐脈・不整脈: 洞結節の欠如や機能不全による洞徐脈、異所性心房調律、接合部調律がしばしばみられます。年齢とともに洞機能不全が顕在化し、失神やめまい、運動時の息切れの原因になることがあります。
  • 先天性完全房室ブロック: 胎児期から高度の徐脈として見つかることがあり、心不全や胎児水腫を伴う場合は重篤です。出生後にペースメーカー植込みを要することがあります。
  • 心雑音: 房室中隔欠損、心室中隔欠損、心房中隔欠損、両大血管右室起始などに伴う心雑音が乳児健診などで指摘されるきっかけになります。
  • 心不全症状(多呼吸・哺乳不良・体重増加不良): 左右短絡が多い心疾患や房室弁逆流、徐脈を伴うと、多呼吸、哺乳時の発汗や疲れやすさ、体重増加不良がみられます。
  • チアノーゼ: 肺動脈狭窄を伴う場合や単心室型の循環では皮膚・口唇が青紫色になります。無脾症候群に比べると高度のチアノーゼを呈する頻度は低いとされます。
  • 黄疸・灰白色便: 胆道閉鎖症を合併すると生後間もなくから黄疸が持続し、便の色が薄くなります。早期の手術が予後を左右するため、母子健康手帳の便色カードの確認が重要です。
  • 嘔吐(とくに胆汁性嘔吐)・腹痛: 腸回転異常に伴う中腸軸捻転や十二指腸閉塞の症状で、緑色の嘔吐は緊急手術を要する可能性がある危険な兆候です。
  • 反復する重症感染症: 脾機能が低下している場合は、肺炎球菌・インフルエンザ菌b型・髄膜炎菌などの莢膜をもつ細菌による敗血症や髄膜炎が急激に進行することがあります。
  • 呼吸器症状: 肺うっ血や肺高血圧による呼吸困難のほか、原発性線毛機能不全症を合併している場合は慢性の湿性咳嗽、鼻閉、中耳炎などがみられます。
  • 無症状(偶然の発見): 心奇形が軽微な例では長く無症状で、成人期に腹部CTなどで多脾や下大静脈欠損、腸回転異常が偶然見つかることがあります。

多脾症候群の経過と合併症

経過は合併する異常の組み合わせによって大きく異なります。重症型では、胎児期に完全房室ブロックや複雑心奇形が見つかり、胎児水腫を伴う場合には胎内死亡や新生児期早期の死亡に至ることもあります。新生児期・乳児期には、心不全、胆道閉鎖症による黄疸、腸回転異常に伴う腸閉塞や軸捻転などが問題となり、それぞれ心臓外科・小児外科での治療が必要になります。心疾患が二心室で修復可能な例(房室中隔欠損や心室中隔欠損など)では、根治手術後に比較的安定した経過をたどることが多い一方、心室が機能的に1つしかない場合は段階的な手術を経てフォンタン型循環に至ります。心奇形が軽度または欠如する例では乳幼児期を無症状で過ごし、学童期以降や成人期に洞機能不全などの不整脈が徐々に表面化することがあります。

主な合併症として、洞機能不全・房室ブロック(ペースメーカーを要することがある)、上室性頻拍などの頻脈性不整脈、房室弁逆流、肺高血圧があります。下大静脈欠損(奇静脈結合)を伴う単心室例では、上大静脈と肺動脈を吻合する手術(いわゆる川島手術)後、肝静脈血が肺に流れないことによって肺動静脈瘻が生じ、チアノーゼが進行することが知られており、後に肝静脈血を肺動脈へ導く手術が検討されます。フォンタン術後には、フォンタン関連肝疾患(肝線維化・肝硬変、肝腫瘍)、蛋白漏出性胃腸症、血栓塞栓症などの長期合併症が問題となります。腹部では、腸回転異常による中腸軸捻転、胆道閉鎖症に伴う胆汁うっ滞性肝硬変・門脈圧亢進症、膵の低形成に伴う耐糖能異常の報告があります。脾機能低下がある場合は、侵襲性細菌感染症が年齢を問わず生じ得る点に注意が必要です。

多脾症候群の診断・診断基準

診断は、心臓と内臓の配置を一つひとつ確かめる「区分診断法」に基づいて行います。すなわち、心房の形態(心耳の形)、気管支と肺の形態、体静脈・肺静脈の還流様式、腹部臓器(肝臓・胃・脾臓・腸管)の位置と形を総合して、左側構造が両側に現れていることを確認します。近年は胎児心エコーで妊娠中期に疑われることが多く、出生後に心エコー、CT/MRI、腹部超音波などで確定します。脾臓が複数あること自体は必須条件ではなく、両側左心耳・両側左肺型気管支・下大静脈欠損(奇静脈結合)などの所見の組み合わせが重視されます。診断後は、心血管奇形、不整脈、胆道系・腸管の異常、脾機能の各項目を系統的に評価し、治療方針を立てます。日本の指定難病の診断基準も、これらの臨床所見と画像所見を組み合わせて判定する形となっており、医療費助成の対象となるかどうかは重症度の基準を満たすかで判断されます。

  • 胎児心エコー: 心臓の位置・軸の異常、房室中隔欠損、心拍の高度徐脈(房室ブロック)、下行大動脈の隣に拡張した奇静脈が並ぶ所見などから左側相同を疑います。胎児水腫の有無は予後評価に重要です。
  • 心エコー(経胸壁・必要に応じ経食道): 心房・心室・大血管の関係、房室中隔欠損や心室中隔欠損、房室弁逆流、肺静脈・体静脈の還流、流出路狭窄を詳しく評価し、二心室修復か単心室修復かの判断材料とします。
  • 心電図・ホルター心電図: P波軸の異常(異所性心房調律)、洞徐脈、房室ブロック、接合部調律などを確認します。年齢とともに変化するため定期的な評価が必要です。
  • 造影CT・MRI: 気管支の分岐形態(両側の長い主気管支・肺動脈下走行)、下大静脈欠損と奇静脈結合、肺静脈還流、正中肝、多脾の数と位置、膵の形態を立体的に描出し、手術計画に役立てます。
  • 胸部X線: 心臓の位置、肝臓陰影の左右対称化、胃泡の位置、両側対称な気管支走行などから内臓錯位を示唆します。
  • 腹部超音波・消化管造影: 肝臓・胆嚢・脾臓の評価に加え、上部消化管造影で十二指腸空腸曲の位置を確認し腸回転異常を診断します。胆汁性嘔吐がある場合は緊急で行われます。
  • 胆道閉鎖症の評価: 遷延する黄疸では直接ビリルビン、肝胆道系酵素、便色、腹部超音波、肝胆道シンチグラフィなどで評価し、最終的には術中胆道造影で確定します。
  • 脾機能の評価: 末梢血塗抹標本でハウエル・ジョリー小体の有無を確認するほか、脾シンチグラフィで脾機能を推定します。脾シンチグラフィは、放射性核種で標識したコロイドや熱処理赤血球が脾臓に取り込まれる程度を評価する検査です。
  • 遺伝学的検査・線毛機能評価: 家族歴や反復する気道感染がある場合に、ヘテロタキシー関連遺伝子の解析や、原発性線毛機能不全症を疑って鼻腔一酸化窒素測定・線毛の電子顕微鏡検査などが検討されます。

多脾症候群と鑑別すべき疾患

  • 無脾症候群(右側相同): 脾臓欠如、両側右心耳、両側3葉肺、総肺静脈還流異常や肺動脈閉鎖・狭窄を伴う重いチアノーゼ性心疾患が多い点で区別されます。
  • 全内臓逆位: 内臓が完全な鏡像配置で各臓器の対応関係は保たれ、心奇形の合併率は低く、下大静脈欠損や多脾は通常みられません。
  • 副脾(単独): 正常な脾臓に加えて小さな脾組織があるだけで、心臓・気管支・静脈系に左右相同の所見を伴わない正常変異です。
  • 脾症(スプレノーシス): 外傷や脾摘後に脾組織が腹腔内に散布されて多発結節となるもので、既往歴と先天的な内臓配置異常の欠如で区別されます。
  • 原発性線毛機能不全症(カルタゲナー症候群): 内臓逆位や内臓錯位を伴い得ますが、慢性副鼻腔炎・気管支拡張症・中耳炎などの線毛機能障害による症状が主体で、両者の合併もあるため評価が必要です。
  • 孤立性下大静脈欠損・孤立性胆道閉鎖症: それぞれ単独でも生じますが、気管支形態、心耳形態、脾臓・腸管などの他臓器の異常がない点で区別されます。

多脾症候群の治療

多脾症候群そのものを根本的に治す治療はなく、合併する異常ごとに適切な時期に治療を組み合わせることが基本です。小児循環器科、小児心臓外科、小児外科、小児消化器・肝臓科、不整脈専門医、感染症科、新生児科などが連携し、成人期には成人先天性心疾患の専門外来へ引き継ぎます。心疾患は、二心室での根治が可能か、単心室型の段階的手術を選ぶかを心臓の解剖と血行動態から判断します。徐脈性不整脈にはペースメーカー、胆道閉鎖症には早期の葛西手術(必要に応じて肝移植)、腸回転異常には状況に応じてラッド手術、脾機能低下には予防接種と感染時の迅速対応を行います。治療の選択肢やタイミングは個々の状態で大きく異なるため、主治医・専門医と十分に相談しながら方針を決めることが大切です。

  • 二心室修復手術: 房室中隔欠損、心室中隔欠損、部分肺静脈還流異常などは、心内修復により正常に近い循環をめざします。両大血管右室起始など複雑な形態では、心室内の血流路の作成や流出路再建が組み合わされることがあります。
  • 段階的単心室修復(フォンタン型手術): 心室が機能的に1つの場合、新生児期の肺血流調整(体肺動脈短絡術や肺動脈絞扼術)を経て、両方向性グレン手術、最終的にフォンタン手術へと進みます。下大静脈欠損例では上大静脈と肺動脈をつなぐ手術(川島手術)で下半身の血液も肺へ導き、肺動静脈瘻予防のため後に肝静脈血を肺動脈へ導く手術が行われます。
  • ペースメーカー治療: 先天性完全房室ブロックや症状のある洞機能不全に対し、心外膜または経静脈的にペースメーカーを植え込みます。静脈の走行異常があるため、リードの経路は個別に検討されます。
  • 心不全・不整脈の内科治療: 利尿薬、ACE阻害薬などの血管拡張薬、抗不整脈薬、フォンタン循環での抗血栓療法などが状態に応じて用いられます。薬剤の選択や用量は主治医の判断によります。
  • 胆道閉鎖症の手術(葛西手術・肝移植): 胆道閉鎖症を合併する場合は、できるだけ早期に葛西手術(肝門部空腸吻合術)を行います。十二指腸前門脈や腸回転異常など解剖学的特徴を踏まえた手術計画が必要で、胆汁排泄が不十分な場合は肝移植が検討されます。
  • 腸回転異常への対応: 胆汁性嘔吐など軸捻転が疑われる場合は緊急でラッド手術を行います。無症状例に予防的手術を行うかは、心疾患の重症度や手術リスクを考慮して個別に判断され、施設間でも方針に差があります。
  • 脾機能低下に対する感染予防: 脾機能低下が疑われる場合、定期接種に加えて肺炎球菌ワクチン(結合型・多糖体型)、Hibワクチン、髄膜炎菌ワクチン、季節性インフルエンザワクチンなどの接種が検討されます。乳幼児期の抗菌薬予防内服は無脾症候群ほど確立していないため、脾機能評価に基づき主治医と相談して決めます。
  • 成長・発達・栄養支援: 心不全や手術に伴う体重増加不良に対し、高カロリー栄養や経管栄養を行うことがあります。必要に応じてリハビリテーションや発達支援を受けます。

多脾症候群の予後・長期フォロー

予後は一様ではなく、心疾患の複雑さ、完全房室ブロックの有無、胆道閉鎖症の合併が大きく影響します。一般に、無脾症候群(右側相同)に比べると心疾患は軽い傾向があり、二心室修復が可能な例や心奇形がほとんどない例では、長期的に良好な生活を送れることが多いとされます。一方、胎児期発症の完全房室ブロック、とくに胎児水腫を伴う例は予後不良であることが知られており、胆道閉鎖症を合併する例では肝疾患の経過が生命予後やQOLに大きく関わります。単心室型でフォンタン手術に到達した例では、日常生活は可能であっても運動耐容能が制限され、成人期以降に肝臓・不整脈・心機能の問題が出てくることがあります。外科治療・集中治療の進歩により、成人期に達する患者は着実に増えています。

長期フォローアップでは、心エコー、心電図、ホルター心電図による心機能と不整脈の評価、ペースメーカーの定期チェック、フォンタン術後の肝臓(超音波・エラストグラフィ・血液検査)や蛋白漏出の評価、胆道閉鎖症術後の肝機能・門脈圧亢進症の評価を継続します。洞機能不全は年齢とともに進行することがあるため、幼少期に問題がなくても定期受診が重要です。脾機能低下がある場合は生涯にわたって感染症への警戒が必要です。思春期以降は、小児科から成人診療科へ切れ目なく移行できるよう、移行期医療(トランジション)の準備を早めに始めることが勧められます。女性では妊娠・出産が心臓・肝臓に負担となるため、妊娠前から循環器科・産科で相談しておくことが大切です。

多脾症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活の制限は人によって大きく異なり、心疾患が軽い場合はほぼ制限なく生活できます。運動や学校生活は「学校生活管理指導表」を用いて主治医が許容範囲を示しますので、それに沿って無理のない範囲で活動します。脾機能低下がある、または疑われる場合は、予防接種を計画的に受け、発熱時には自己判断で様子を見ずに早めに受診し、「脾機能が低下している」ことを医療者に伝えることが重要です。カードなどに病名、心臓の手術歴、ペースメーカーの有無、服薬内容を書いて携帯しておくと救急時に役立ちます。フォンタン術後や人工物がある場合は、歯科治療時の感染性心内膜炎予防や口腔衛生にも配慮します。ペースメーカー装着者は強い電磁波を発する機器への注意が必要です。腸回転異常が未治療の場合は、緑色の嘔吐や強い腹痛が出たら直ちに受診するよう家族で共有しておきましょう。大部分は孤発例ですが、家族歴がある場合や次子の妊娠を考える場合には、遺伝カウンセリングで再発リスクや胎児心エコーによる出生前評価について相談することができます。

利用できる制度・相談窓口

多脾症候群は指定難病であり、診断基準を満たし重症度基準に該当する場合(または軽症でも医療費が一定額を超える「軽症高額該当」の場合)、難病指定医の診断書をもとに都道府県等へ申請すると医療費助成を受けられます。18歳未満(継続の場合は20歳未満まで)では小児慢性特定疾病医療費助成の対象となり、自己負担上限額が設定されます。心臓手術などでは自立支援医療(育成医療・更生医療)が利用できる場合があります。心臓機能障害やペースメーカー植込みなどにより身体障害者手帳の交付対象となることがあり、税の控除や交通機関の割引などが受けられます。お子さんの障害の程度によっては特別児童扶養手当や障害児福祉手当、20歳以降は障害年金の対象となる可能性があります。相談窓口として、都道府県の難病相談支援センター、保健所、病院の医療ソーシャルワーカー、小児慢性特定疾病の自立支援事業、移行期医療支援センターなどがあり、先天性心疾患の患者会・家族会も情報交換や心の支えになります。各制度の要件は個別に異なるため、窓口で確認してください。

多脾症候群に伴う心のケア・心理社会的支援

多脾症候群は胎児期や新生児期に診断されることが多く、家族は妊娠中から「生まれてくる子どもが重い病気を抱えている」という不安を抱え、出生後も手術や入院が続くなかで、強いストレス、抑うつ、不安、睡眠障害、きょうだいへの十分な関わりができない罪悪感などを経験しやすくなります。病態が複雑で、心臓・肝臓・腸・感染症と複数の専門科にかかるため、情報量の多さに圧倒されることも少なくありません。本人にとっては、幼少期からの通院・手術、運動制限、体格や手術痕へのコンプレックス、学校生活での疎外感、思春期以降の進学・就労・恋愛・妊娠出産への不安など、成長段階ごとに異なる課題があります。成人先天性心疾患の患者では不安障害や抑うつの頻度が高いという報告もあり、気分の落ち込みや意欲低下が続く場合は「気持ちの問題」と片付けず、主治医、看護師、臨床心理士、医療ソーシャルワーカーなどに早めに相談することが大切です。患者会で同じ経験をもつ人とつながることも孤立を防ぐ助けになります。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

多脾症候群の受診の目安

  • 38℃以上の発熱、ぐったりしている、顔色が悪いなどの症状があり、とくに脾機能低下を指摘されている場合は、時間帯を問わずすぐに受診してください。
  • 緑色(胆汁性)の嘔吐、繰り返す嘔吐、お腹の強い張りや痛み、血便がある場合は腸軸捻転の可能性があるため救急受診してください。
  • 失神、急なめまい、脈が極端に遅い・速い、動悸、ペースメーカー植込み部の腫れや発熱がある場合は速やかに受診してください。
  • 唇や顔色の青さ(チアノーゼ)が普段より強い、息苦しさ、むくみ、急な体重増加、哺乳量の低下がみられる場合は早めに受診してください。
  • 新生児期・乳児期に黄疸が続く、便の色が薄い(白っぽい・クリーム色)場合は、できるだけ早く小児科を受診してください。

多脾症候群についてのよくある質問

Q. 脾臓が複数あるのに、なぜ感染症に注意が必要なのですか?

A. 多脾症候群では小さな脾臓が複数あっても、全体としての脾機能が十分でない場合があります。脾臓は血液中の細菌、とくに肺炎球菌などの莢膜をもつ細菌を除去する働きを担うため、機能が低下していると重い感染症が急速に進むことがあります。ただし脾機能には個人差が大きいため、検査結果をもとに主治医と予防策を相談してください。

Q. 多脾症候群と無脾症候群はどう違うのですか?

A. どちらも左右の決まり方の異常(ヘテロタキシー)ですが、多脾症候群は左側の構造が両側に、無脾症候群は右側の構造が両側に現れます。一般に無脾症候群のほうがチアノーゼを伴う重い心疾患が多く、多脾症候群では徐脈・房室ブロックなどの不整脈や胆道閉鎖症、下大静脈欠損が特徴的です。

Q. 次に生まれる子どもも同じ病気になりますか?

A. 大部分は孤発例で、再発の危険性は一般に高くないとされますが、原因遺伝子が判明している場合や家族歴がある場合は、遺伝形式によって再発リスクが異なります。遺伝カウンセリングで相談し、次の妊娠では胎児心エコーで早期に評価を受けることが勧められます。

Q. 大人になってから見つかることもありますか?

A. 心臓の異常が軽いかほとんどない場合、子どもの頃は無症状で、成人になって腹部CTなどで多脾や下大静脈の異常が偶然見つかることがあります。その場合も、洞機能不全などの不整脈や腸回転異常、脾機能について一度は専門医の評価を受けておくと安心です。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。