無脾症候群
Asplenia Syndrome
無脾症候群(Asplenia Syndrome)|無脾症候群は、胎生期に体の左右を決める仕組みがうまく働かず、心臓・肺・腹部臓器の配置や形が左右対称に近くなる(右側相同)ことに加え、脾臓が欠損する先天性疾患です。多くは生まれた直後から、チアノーゼや心不全を伴う複雑な先天性心疾患を示します。さらに脾臓がないため、肺炎球菌などによる重症感染症にかかりやすくなります。心臓手術と感染予防という二本柱の管理を生涯続ける必要があり、小児期から成人期まで小児循環器・心臓血管外科・感染症などの専門医が連携して診療します。
無脾症候群の要点
無脾症候群は、胎生期の左右決定の異常により心臓・肺・腹部臓器が左右対称に近い配置(右側相同)となり、脾臓が欠損する先天性疾患で、指定難病です。生後早期からチアノーゼや心不全を伴う複雑な先天性心疾患を示し、脾臓がないため肺炎球菌などの重症感染症にもかかりやすくなります。
| 別名・略称 | Ivemark症候群、Ivemark syndrome、右側相同、右側アイソメリズム、right isomerism、内臓錯位症候群(右側相同)、ヘテロタキシー |
|---|---|
| 分野 | 循環器・先天性心疾患 |
| 遺伝形式 | 多くは孤発例(一部で原因遺伝子の報告あり) |
| 好発年齢 | 新生児期から乳児期に気づかれることが多い |
| 主な症状 | チアノーゼ、心不全、重症感染症にかかりやすい |
| 主な検査 | 心エコー、胸腹部画像検査、血液検査(Howell-Jolly小体など) |
| 主な治療 | 心臓手術(段階的手術など)、ワクチン接種・抗菌薬などの感染予防 |
| 受診する主な診療科 | 小児循環器科、心臓血管外科、感染症科 |
無脾症候群とは
無脾症候群は、内臓錯位症候群(ヘテロタキシー、heterotaxy)のうち右側相同(right isomerism)を示す病型です。正常な人の体は左右非対称にできています。心房は右房と左房で形が異なり、肺は右が3葉・左が2葉、肝臓は右、胃と脾臓は左にあります。右側相同では、本来は右側にしかない構造が両側にできます。具体的には、両側の心房がともに右房の形態をとり、両肺が3葉で、両側の気管支が肺動脈より上を通ります(両側動脈上気管支)。肝臓は正中に位置し(正中肝)、脾臓は形成されません。既存の簡易解説では本症を主に免疫不全症として説明していますが、臨床上もっとも重要で予後を左右するのは複雑心奇形です。易感染性は、それに並ぶ重要な合併症と位置づけられます。
歴史的には、1955年にIvemarkが脾臓の欠損と心奇形の合併を系統的に報告したことから「Ivemark症候群」とも呼ばれます。左側相同を示す多脾症候群と対比され、「無脾症候群=右側相同」「多脾症候群=左側相同」と整理されてきました。ただし実際には脾臓の有無と心房形態が一致しない例もあります。そのため近年は、臓器ごとの形態(心房、気管支・肺、腹部臓器)を個別に記述する分類が重視されています。また、心奇形を伴わず脾臓だけが欠損する「孤立性先天性無脾症」は、本症とは別の疾患として扱われます。日本では、無脾症候群と多脾症候群がそれぞれ別の指定難病として告示されています。
無脾症候群の疫学・患者数
内臓錯位症候群全体の頻度は、出生およそ1万人に1人前後と報告されています。先天性心疾患全体に占める割合は数%程度とされます。そのうち右側相同(無脾症候群)が占める割合は報告によって異なり、アジア圏では欧米に比べて右側相同の比率が高いという報告があります。日本国内の正確な患者数は把握されていませんが、まれな疾患であることは確かです。かつては乳児期の死亡率が非常に高かったものの、外科治療の進歩により成人期に達する患者が増えています。先天性疾患であり、多くは胎児心エコーまたは出生直後に診断されます。男児にやや多いという報告がありますが、性差について一定の結論は出ていません。X連鎖性の遺伝子異常による家系では、男児に発症が偏ります。
無脾症候群の原因・病態生理
本症の本質は、胎生初期(受精後およそ2〜3週)に起こる左右軸決定の異常です。胚の「ノード」と呼ばれる部位では、運動性の線毛が一方向の液体の流れ(ノード流)をつくります。これをきっかけに、左側の側板中胚葉でNODAL、LEFTY、PITX2などからなるシグナル経路が活性化され、各臓器の左右差が決まります。この経路に関わる遺伝子の異常として、ZIC3(X連鎖性)、NODAL、CFC1(CRYPTIC)、ACVR2B、LEFTY2、GDF1などが報告されています。また、運動線毛の異常(原発性線毛運動不全症)に関わる遺伝子の変異によって内臓錯位が生じる例も知られています。ただし、多くの患者では原因遺伝子は特定されず、大部分は孤発例です。複数の遺伝的要因と環境要因(母体糖尿病などが関連要因として報告されています)が関わる多因子的な疾患と考えられています。なお、既存解説で挙げられていたZEB2はモワット・ウィルソン症候群の原因遺伝子であり、本症の代表的な原因遺伝子ではありません。
左側を決めるシグナルが働かないと、本来は左側にできるべき構造ができず、両側が右型になります。心臓では、両心房が右房形態となり、洞結節が左右両側に形成されます。房室中隔がうまく形成されず、房室中隔欠損(共通房室弁)や機能的単心室になりやすくなります。肺静脈は左房へつながる構造ができにくいため、総肺静脈還流異常が高頻度にみられます。肺動脈狭窄・閉鎖、両大血管右室起始、大血管転位、両側上大静脈なども多くみられます。脾臓は本来、胃の背側(左側)に発生するため、左側の形成が失われると脾臓はできません。脾臓には、古くなった赤血球や血液中の細菌を濾し取る働き(フィルター機能)があります。さらに、脾臓の辺縁帯にあるB細胞は、多糖体の莢膜をもつ細菌に対してIgM抗体をすばやく産生します。脾臓がないとこれらの機能が失われ、肺炎球菌、インフルエンザ菌b型(Hib)、髄膜炎菌などの莢膜を有する細菌に対する防御が大きく低下します。全身性の抗体欠乏やT細胞機能不全を起こす疾患ではない点が、原発性免疫不全症との違いです。消化管では腸回転異常が高頻度にみられます。
無脾症候群の症状
- チアノーゼ: 肺動脈狭窄・閉鎖や単心室血行動態のため、出生直後から皮膚や唇が紫色になります。動脈管に依存して肺血流を保っている場合は、動脈管が閉じるにつれて急速に悪化します。
- 肺静脈閉塞による呼吸不全: 総肺静脈還流異常に肺静脈の通り道の狭窄(閉塞)を伴うと、生後まもなく強いチアノーゼ、多呼吸、肺うっ血が起こります。緊急手術が必要となる重篤な状態です。
- 心不全症状: 肺血流が多すぎる場合や房室弁逆流が強い場合には、多呼吸、哺乳不良、多汗、体重増加不良がみられます。
- 重症細菌感染症: 脾臓がないため、肺炎球菌などによる菌血症・髄膜炎が急激に進行することがあります(脾摘後重症感染症〔OPSI〕と同様の病態)。発熱から数時間でショックや播種性血管内凝固(DIC)に至ることもあります。
- 発熱: 乳幼児では、発熱以外にはっきりした症状がないまま菌血症が隠れていることがあります。そのため、無脾症候群の患児の発熱は常に重症感染症の可能性を念頭に置いて対応します。
- 不整脈: 両側にある洞結節や、2つの房室結節(twin AV node)を介する上室頻拍がみられることがあります。また、手術後に心房性不整脈や徐脈性不整脈が生じることもあります。
- 胆汁性嘔吐・腹痛(腸回転異常): 腸回転異常に伴う中腸軸捻転を起こすと、緑色の嘔吐や腹部膨満がみられます。腸管が壊死するおそれがあり、緊急対応が必要です。
- 成長・発達の遅れ: 慢性的な低酸素状態、心不全、繰り返す入院や手術の影響で、体重増加不良や運動発達の遅れがみられることがあります。
- 運動耐容能の低下: フォンタン手術後も心拍出量の予備力が限られるため、同年代と比べて息切れや疲れやすさを自覚することがあります。
- 浮腫・腹水・下痢(フォンタン術後合併症): 蛋白漏出性胃腸症などにより、低蛋白血症に伴うむくみ、腹水、慢性下痢がみられることがあります。
無脾症候群の経過と合併症
自然経過は、合併する心奇形の重さにより大きく異なります。肺静脈閉塞を伴う総肺静脈還流異常や、動脈管に依存した肺血流をもつ例では、新生児期から治療が必要です。多くの患者は二心室修復が難しい機能的単心室であり、段階的な手術を経てフォンタン型手術を目指します。一般的な流れは次のとおりです。新生児期・乳児期早期に体肺動脈短絡術(BTシャント)や肺動脈絞扼術で肺血流を調整し、必要に応じて肺静脈修復術を行います。乳児期に両方向性グレン手術、幼児期にフォンタン手術(TCPC)を行います。ただし本症では、房室弁逆流、肺静脈狭窄の再発、肺血管抵抗の上昇などのため、フォンタン手術に到達できない例や、段階的手術の途中で亡くなる例が多くみられます。そのため、多脾症候群と比べて予後は不良とされています。
主な合併症には、①重症感染症(乳幼児期に特にリスクが高く、生涯にわたって続きます)、②肺静脈狭窄(術後に再狭窄し、進行することがあります)、③房室弁逆流(共通房室弁の逆流が心機能を悪化させ、弁形成術や置換術が必要になることがあります)、④不整脈、⑤腸回転異常による中腸軸捻転、⑥フォンタン術後の遠隔期合併症(蛋白漏出性胃腸症、鋳型気管支炎、フォンタン関連肝疾患〔肝線維化・肝細胞癌〕、血栓塞栓症、心不全)があります。脾臓がない状態での重症感染症は、心臓手術の周術期だけでなく、外来管理中にも突然起こることがあります。日常の感染予防策が欠かせません。
無脾症候群の診断・診断基準
近年は、妊婦健診の胎児超音波で心臓・内臓の配置異常が見つかり、胎児心エコーで出生前に診断される例が増えています。出生後は、心エコーで心内構造と体静脈・肺静脈の還流路を詳しく評価します。あわせて胸部X線や造影CTで気管支の形、肝臓・胃の位置、脾臓の有無を確認し、右側相同かどうかを判断します。脾臓が「ない」ことは画像だけでは断定が難しい場合があります。このため、末梢血のハウエル・ジョリー小体の確認や脾シンチグラフィで脾機能の欠如を確認することが重要です。指定難病の申請では、厚生労働省が定める診断基準と重症度分類に沿って、専門医が臨床調査個人票を作成します。
- 胎児心エコー: 心臓の位置異常、房室中隔欠損、下大静脈と大動脈の並び方の異常(同じ側に並ぶ)などから、出生前に内臓錯位を疑えます。出生後すぐの治療に備え、分娩施設を計画できます。
- 心エコー検査: 心房形態、房室弁、心室形態、大血管の関係、肺動脈狭窄、総肺静脈還流異常とその閉塞の有無を評価します。治療方針を決めるうえで中心となる検査です。
- 胸部X線・気管支形態評価: 両側の気管支がいずれも動脈上を走る右型で、左右の主気管支がほぼ同じ長さであれば、右側相同を示唆します。正中肝や胃泡の位置も参考になります。
- 造影CT・心臓MRI: 肺静脈の還流路と狭窄、体静脈の還流、気管支・肺葉の形態、腹部臓器の配置と脾臓の欠損を立体的に把握できます。手術計画に有用です。
- 腹部超音波検査: 正中肝、胃の位置、脾臓が描出されないことを確認します。小さな副脾や脾組織が見落とされることもあるため、他の検査と組み合わせて判断します。
- 末梢血塗抹標本(ハウエル・ジョリー小体): 赤血球内の核の遺残であるハウエル・ジョリー小体は、脾臓のフィルター機能がないことを示す簡便な指標です。ピット赤血球の増加も、脾機能低下の参考になります。
- 脾シンチグラフィ: 99mTcで標識した熱処理赤血球やコロイド製剤を用いて、機能している脾組織の有無を評価します。脾機能の欠如を確認する方法として有用です。
- 心臓カテーテル検査: グレン手術・フォンタン手術の前に、肺動脈圧、肺血管抵抗、心室拡張末期圧、肺動脈の発育を測定し、手術ができるかどうかを判断します。
- 遺伝学的検査: 家族歴がある場合や原発性線毛運動不全症の合併が疑われる場合などに検討されます。ただし原因が特定されない例が多く、実施する際は遺伝カウンセリングを伴うことが望まれます。
無脾症候群と鑑別すべき疾患
- 多脾症候群(左側相同): 複数の小さな脾臓、両側左房形態、下大静脈欠損(奇静脈結合)、房室ブロックや洞機能不全の多さ、胆道閉鎖の合併などで区別しますが、両者が重なる非典型例もあります。
- 完全内臓逆位: 臓器配置が鏡像のように左右反転していますが左右の対応関係は保たれており、心奇形の頻度は低く、脾臓も存在します。
- 原発性線毛運動不全症(カルタゲナー症候群): 内臓逆位や内臓錯位を伴うことがありますが、慢性副鼻腔炎、気管支拡張症、中耳炎、男性不妊などの気道症状が主体であることで区別し、本症と合併することもあります。
- 孤立性先天性無脾症: 心奇形や内臓錯位を伴わずに脾臓だけが欠損する別の疾患で、重症感染症をきっかけに見つかることがあります。
- 原発性免疫不全症候群: 反復する重症感染症で鑑別にあがりますが、抗体産生不全や細胞性免疫不全などの全身性の免疫異常を示し、画像上は脾臓が存在する点で区別します。
- 他の複雑先天性心疾患(単心室症、両大血管右室起始症など): 心内構造は似ていますが、心房の形態、気管支・肺葉の形、腹部臓器の配置、脾臓の有無で内臓錯位症候群かどうかを判断します。
無脾症候群の治療
根本的に治す治療はありません。治療は、①血行動態を最適化する段階的な心臓外科治療と内科管理、②無脾に対する生涯にわたる感染予防と、発熱時の迅速な対応、③腸回転異常や不整脈などの合併症への対応の三つが柱です。どの手術を選ぶか、いつ行うかは心奇形の組み合わせによって一人ひとり大きく異なります。小児循環器医と心臓血管外科医を中心とするチームが個別に判断します。抗菌薬の予防投与やワクチン接種の計画についても、主治医とよく相談することが大切です。
- 新生児期の緊急治療: 動脈管に依存して肺血流や体血流を保っている例では、プロスタグランジンE1製剤で動脈管を開いた状態に保ちます。肺静脈閉塞を伴う総肺静脈還流異常には、緊急の肺静脈修復術を検討します。
- 段階的手術(単心室修復): 体肺動脈短絡術や肺動脈絞扼術で肺血流を調整し、両方向性グレン手術を経てフォンタン手術(TCPC)を目指します。条件がそろえば二心室修復が検討されることもあります。
- 房室弁・肺静脈への外科的介入: 共通房室弁の逆流が強い場合は弁形成術や弁置換術を行います。肺静脈狭窄が再発した場合は、再手術やカテーテル治療を検討します。
- 心不全・不整脈の内科管理: 利尿薬、血管拡張薬、抗血小板薬・抗凝固薬などを病態に応じて用います。頻拍にはカテーテルアブレーションや抗不整脈薬、徐脈にはペースメーカーを検討します。
- 予防接種: 定期接種の肺炎球菌結合型ワクチンとHibワクチンを確実に接種します。2歳以降は23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチンの追加、髄膜炎菌ワクチン(任意接種)、毎年のインフルエンザワクチンが推奨されることが多く、具体的なスケジュールは主治医が判断します。
- 抗菌薬予防投与: 乳幼児期を中心に、ペニシリン系(アモキシシリンなど)の内服による予防が広く行われています。何歳まで続けるかは、年齢、感染の既往、生活環境を踏まえて主治医と相談します。
- 発熱時の緊急対応: 38℃以上の発熱では速やかに医療機関を受診し、血液培養を採取したうえで、肺炎球菌などを想定した抗菌薬を早期に経静脈投与することが基本です。受診までに時間がかかる場合に備え、主治医の指示で手元に抗菌薬を持っておく方法もあります。
- 腸回転異常への対応: 中腸軸捻転を起こした場合はラッド手術を緊急で行います。症状のない腸回転異常に予防的な手術を行うかどうかは、心臓の状態とのバランスを考えて個別に判断されます。
- フォンタン術後の長期管理: 蛋白漏出性胃腸症、鋳型気管支炎、肝線維化、血栓症などを定期的に監視し、必要に応じて薬物治療、カテーテル治療、再手術を行います。重症例では心臓移植が検討されることもあります。
無脾症候群の予後・長期フォロー
生命予後は主に心奇形の重さによって決まります。肺静脈閉塞を伴う総肺静脈還流異常、強い房室弁逆流、肺動脈の発育不良などがある場合は特に予後が厳しくなります。内臓錯位症候群のなかでも、無脾症候群は多脾症候群より予後不良とされています。周術期管理、外科技術、感染予防の進歩により長期生存例は増えていますが、乳児期の死亡率は依然として先天性心疾患のなかで高い部類です。また、脾臓がない状態での重症感染症は、ワクチン接種や予防内服を行っていても完全には防げません。感染症による突然死は、心臓の状態が安定している時期にも起こりえます。フォンタン手術に到達し、状態が安定した患者の多くは、通学や就労が可能な生活を送っています。
長期フォローアップでは、小児循環器科による定期受診(心エコー、心電図、ホルター心電図、運動負荷試験、血液検査、必要に応じた心臓カテーテル検査やMRI)が基本です。フォンタン術後の患者では、肝臓の超音波検査、エラストグラフィ、腫瘍マーカーなどによる肝臓の評価も欠かせません。思春期以降は、成人先天性心疾患を診療できる施設へ移行する移行期医療が重要になります。妊娠・出産、就労、運動について、本人が自分の病気を理解し、自ら管理できるよう支援していきます。感染予防(ワクチンの追加接種、発熱時の対応)の意識は成人後も保ち続ける必要があります。
無脾症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活でもっとも大切なのは、「発熱したら様子を見ずに受診する」という原則を家族全員で共有することです。病名、脾臓がないこと、心臓の手術歴、内服薬を記載したカードやメモ(緊急時情報)を持ち歩きましょう。保育園・学校・旅行先にも伝えておくと安心です。予防内服を自己判断で中断しないこと、ワクチン接種歴を母子健康手帳などで管理することも重要です。動物にかまれた場合、海外渡航でマラリア流行地へ行く場合、ダニ媒介感染症のリスクがある場合には、無脾の患者では重症化しやすいため、事前に主治医へ相談してください。運動の制限は心臓の状態によって異なるため、学校生活管理指導表を活用し、主治医と学校で情報を共有します。歯科治療の前の予防的抗菌薬投与(感染性心内膜炎の予防)が必要かどうかも、主治医に確認しましょう。次の子どもを考える際の再発率は、多くの孤発例では低いとされます。一方で、家系内に複数の患者がいる場合などは遺伝性が疑われるため、遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。
利用できる制度・相談窓口
無脾症候群は指定難病に指定されており、診断基準と重症度基準を満たす場合は医療費助成の対象になります(申請窓口は都道府県・指定都市)。18歳未満(継続の場合は20歳未満まで)では、小児慢性特定疾病医療費助成(慢性心疾患群)を利用できる場合があります。成人期に指定難病の制度へ切り替える際は、手続きに漏れがないよう準備しましょう。心臓の機能障害の程度によっては身体障害者手帳(心臓機能障害)の対象となり、医療・福祉サービスや税制上の優遇を受けられます。お子さんについては特別児童扶養手当や障害児福祉手当、20歳以降は障害の程度に応じて障害年金の対象となりえます。各種の相談先として、都道府県の難病相談支援センター、小児慢性特定疾病の自立支援事業、病院の医療ソーシャルワーカー、移行期医療支援センター(設置されている地域)、先天性心疾患の患者・家族会などがあります。
無脾症候群に伴う心のケア・心理社会的支援
無脾症候群は、出生前後に複雑な心疾患を告げられ、新生児期から何度も手術を受けるという大きな負担を伴う疾患です。そのため家族には、強い不安、抑うつ、心的外傷後ストレス反応がみられることがあります。発熱のたびに重症感染症を心配し続けることも、親の慢性的な緊張の原因になりやすいといえます。きょうだい児が寂しさや我慢を抱えることにも配慮が必要です。本人は成長とともに、運動制限による疎外感、手術痕へのボディイメージの悩み、進学・就労・結婚・妊娠への不安、将来の再手術への恐れなどを抱えることがあります。こうした悩みが抑うつや適応障害につながる場合もあります。気持ちの落ち込みや眠れない状態が続くときは、一人で抱え込まずに主治医、看護師、臨床心理士、医療ソーシャルワーカーへ相談してください。必要に応じて児童精神科や心療内科の支援を受けることも大切です。患者会で同じ経験をもつ家族と交流することも、大きな支えになります。
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無脾症候群の受診の目安
- 38℃以上の発熱、または元気がない・ぐったりしている・顔色が悪いときは、時間帯にかかわらず速やかに受診してください(必要なら救急要請を検討してください)。
- 唇や顔色の紫色がいつもより強い、呼吸が速く苦しそう、哺乳量や食事量が急に減ったときは、すぐに受診してください。
- 緑色の嘔吐、強い腹痛、お腹の張り、血便があるときは、腸の捻転の可能性があるため救急受診してください。
- 動悸、脈が極端に速いまたは遅い、失神やけいれんがあるときは、救急受診してください。
- むくみ、腹部膨満、慢性的な下痢、粘り気の強い痰が出るなど、フォンタン術後の合併症を疑う症状が新たに出たときは、早めに主治医を受診してください。
- けがや動物によるかみ傷を負ったとき、海外渡航を予定しているときは、事前または速やかに主治医へ相談してください。
無脾症候群についてのよくある質問
Q. 脾臓がないと、普通の風邪でも危険なのですか?
A. ウイルス性の風邪そのものが特別に重くなるわけではありません。ただし、発熱の陰に肺炎球菌などによる菌血症が隠れていることがあり、急激に悪化するおそれがあります。発熱時は自己判断で様子を見ず、受診して血液検査や抗菌薬の必要性を判断してもらうことが大切です。
Q. 抗菌薬の予防内服はいつまで続けますか?
A. 一般に、乳幼児期は特に重症感染症のリスクが高いため、予防内服が行われることが多いです。何歳まで続けるかは、感染症の既往、年齢、生活環境などによって異なり、統一された基準はありません。中止を考えるときは、必ず主治医と相談してください。
Q. ワクチンは普通の子どもと同じでよいのですか?
A. 定期接種を確実に受けることが基本です。そのうえで、23価肺炎球菌ワクチンや髄膜炎菌ワクチンなどの追加接種が勧められることがあります。心臓手術の前後や体調によって接種時期を調整することもあるため、主治医とスケジュールを相談してください。
Q. 大人になるまで成長できますか?
A. 心奇形の重さによって大きく異なりますが、手術や管理の進歩により、成人期に達して進学や就労をしている方は増えています。成人後も心臓と感染症の両面で継続的な診療が必要であり、成人先天性心疾患を診療できる施設へ移行することが重要です。
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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。