鰓耳腎症候群

Branchio-Oto-Renal Syndrome

鰓耳腎症候群(Branchio-Oto-Renal Syndrome)|鰓耳腎症候群(Branchio-Oto-Renal syndrome:BOR症候群)は、胎生期の鰓弓(さいきゅう)・耳・腎臓の発生異常によって起こる遺伝性疾患です。主な特徴は、難聴、耳前瘻孔(耳の前の小さな穴)、頸部の鰓溝性瘻孔・嚢胞、腎臓・尿路の形態異常です。症状の組み合わせや重さは同じ家系の中でも大きく異なり、乳幼児期の言語発達、学校生活、成人期の腎機能まで、生涯にわたって影響しうる疾患です。

鰓耳腎症候群の要点

鰓耳腎症候群(BOR症候群)は、胎生期の鰓弓・耳・腎臓の発生異常で起こる常染色体顕性(優性)遺伝性疾患です。難聴、耳前瘻孔、頸部の鰓溝性瘻孔・嚢胞、腎尿路の形態異常を組み合わせて示し、症状の程度は家系内でも異なります。日本では指定難病(告示番号190)に指定されています。

別名・略称BOR症候群、BOR syndrome、Melnick-Fraser症候群
分野染色体・先天異常症候群
遺伝形式常染色体顕性(優性)遺伝。表現度の差が非常に大きい
原因遺伝子EYA1が代表的(SIX1、SIX5などの関与も報告)
主な症状難聴、耳前瘻孔、頸部の鰓溝性瘻孔・嚢胞、腎尿路異常
主な検査聴力検査、側頭骨CTなどの画像検査、腎臓・尿路の超音波検査、遺伝学的検査
主な治療補聴器などによる難聴への対応、瘻孔・嚢胞の外科的切除、腎機能の経過観察
受診する主な診療科耳鼻咽喉科、小児科、腎臓内科、遺伝診療部門

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鰓耳腎症候群とは

BOR症候群は、胎生4〜8週ごろに形成される第1・第2鰓弓(咽頭弓)とその間の鰓溝、耳胞(内耳のもと)、後腎(腎臓のもと)の発生が障害されて生じる先天異常症候群です。典型例では、①難聴(伝音・感音・混合のいずれもありうる)、②耳前瘻孔や耳介の形態異常、③頸部の鰓溝性瘻孔・嚢胞(多くは胸鎖乳突筋前縁の下方1/3付近に開口)、④腎低形成・異形成・無形成などの腎尿路異常を組み合わせて示します。遺伝形式は常染色体顕性(優性)遺伝で、浸透率は高い一方、表現度の差が非常に大きいことが特徴です。親は耳前瘻孔だけ、子は高度難聴と腎不全、というように同じ家系でも症状が異なることがあります。なお、耳の周囲や首にみられる瘻孔には2種類あり、耳輪の付け根の前方にみられる耳前瘻孔と、頸部にみられる鰓溝性(側頸)瘻孔は区別して理解する必要があります。

1970年代にMelnickやFraserらが、鰓溝性瘻孔・耳奇形・難聴・腎異常が家系内で遺伝する症候群として報告し、疾患概念が確立しました。腎尿路異常を伴わない病型は鰓耳症候群(Branchio-Oto syndrome:BOS)と呼ばれます。BOSは同じ原因遺伝子で起こり、同一家系内にBORとBOSの患者が混在することもあるため、現在は一連のスペクトラムと考えられています。臨床診断には、Changらが2004年に提唱した大症状(鰓溝性異常、難聴、耳前瘻孔、腎異常)と小症状(外耳・中耳・内耳の奇形、耳前付属器、顔面非対称、口蓋異常など)を組み合わせる基準が国際的に広く使われています。日本では指定難病(告示番号190)に指定されており、同様の考え方に基づく診断基準が定められています。

鰓耳腎症候群の疫学・患者数

欧米では、およそ4万人に1人の頻度と推定する報告が古くから引用されています。また、高度難聴の小児の約2%前後を占めるとする報告もあります。日本の正確な患者数は明らかではなく、指定難病の医療費助成を受けている人は少数にとどまります。ただし、症状が軽く診断されていない人や、耳前瘻孔のみで本症候群と認識されていない家族も多いと考えられ、実際の患者数はより多い可能性があります。先天性疾患のため、多くは新生児聴覚スクリーニング、乳幼児期の難聴・瘻孔の指摘、胎児超音波や乳幼児期の腎エコーでの腎異常の発見をきっかけに診断されます。一方で、成人になって腎機能低下や家族の診断を機に見つかる例もあります。明らかな性差は知られていません。各症状の出現頻度について、海外の集計では難聴が約9割、耳前瘻孔が約8割、腎尿路異常が約6〜7割、鰓溝性瘻孔・嚢胞が約5割前後とされていますが、報告によって幅があります。

鰓耳腎症候群の原因・病態生理

原因遺伝子として最もよく知られているのは、8番染色体長腕(8q13.3)にあるEYA1です。臨床的にBOR/BOSと診断された人の約4割前後でEYA1の病的バリアントが見つかるとされています。点変異だけでなく、エクソン単位の欠失や大きな欠失・複雑な構造異常も一定の割合で含まれるため、塩基配列解析に加えてコピー数解析(MLPA法など)を組み合わせることが重要です。次に多いのは14番染色体のSIX1で、数%程度とされています。SIX5との関連も報告されていますが、その意義には議論があります。これらの検査を行っても原因が特定できない例が約半数あり、未知の遺伝子や解析困難な変異の関与が考えられています。遺伝形式は常染色体顕性で、患者の子が変異を受け継ぐ確率は性別に関係なく50%です。家族歴のない新生(de novo)変異の例もあります。

EYA1は、ショウジョウバエで眼の形成に必要な遺伝子(eyes absent)のヒト相同遺伝子です。SIX1などのSIXファミリー転写因子と複合体を作り、転写を促す補助因子として働きます。さらにEYA1自体がホスファターゼ(脱リン酸化酵素)活性を持ち、PAX–SIX–EYA–DACHと呼ばれる発生制御ネットワークの中核を担っています。ヒトやマウスでは、耳胞・鰓弓・後腎間葉に強く発現しています。腎臓の発生では、後腎間葉でGDNFなどの発現を保ち、尿管芽の誘導と分岐を支えます。そのためEYA1の機能が低下すると、尿管芽と後腎間葉の相互作用が弱まり、腎無形成・低形成・異形成や尿管の異常が生じます。内耳では蝸牛と前庭の形態形成や感覚上皮の分化が障害され、中耳・外耳では鰓弓由来の耳小骨や耳介の形成が乱れます。病態の主体は、片方のアレルの機能喪失によって遺伝子産物の量が不足すること(ハプロ不全)と考えられています。ただし同じ変異でも症状が大きく異なり、遺伝子型と表現型の明確な相関は乏しいとされます。修飾遺伝子や発生過程の確率的な要因が関与していると推測されています。

鰓耳腎症候群の症状

  • 難聴: 約9割にみられ、混合難聴が最も多く、伝音難聴・感音難聴単独の場合もあります。軽度から重度まで程度は幅広く、一部では変動や進行がみられます。
  • 耳前瘻孔: 耳輪の付け根の前方にある小さな穴で、多くは両側性です。単独では一般人口にもよくみられる所見ですが、本症候群では最も頻度の高い外表所見の一つです。
  • 鰓溝性瘻孔・嚢胞(側頸瘻孔): 頸部の胸鎖乳突筋前縁の下方に小孔があり、粘液が出ることがあります。感染すると発赤・腫脹・膿の排出を繰り返します。
  • 耳介・外耳道の形態異常: カップ状耳、小耳、耳介の低位・変形、耳前付属器(副耳)、外耳道狭窄などがみられます。
  • 中耳奇形: 耳小骨の形成不全・固着・離断、中耳腔の狭小化などがあり、伝音難聴の原因となります。
  • 内耳奇形: 蝸牛の低形成(回転数の減少)、蝸牛軸の形成不全、前庭水管拡大、半規管の形成異常などがあり、感音難聴やめまいに関係します。
  • 腎低形成・異形成・無形成: 左右差を伴うことが多く、片側腎無形成から両側の高度低形成まで幅があります。両側が重い場合は小児期から腎機能障害を生じます。
  • 尿路の形態異常: 腎盂尿管移行部狭窄、水腎症、膀胱尿管逆流、重複腎盂・尿管、腎杯の拡張・憩室などがみられ、尿路感染症の誘因となります。
  • 涙道の異常: 涙小管・鼻涙管の狭窄や閉鎖があり、乳児期からの流涙・眼脂や涙嚢炎の原因となることがあります。
  • 顔面・口腔の所見: 細長い顔立ち、顔面の非対称、口蓋の異常(高口蓋や口蓋裂など)、顔面神経麻痺が報告されています。
  • めまい・平衡機能障害: 内耳の前庭・半規管の形成異常により、乳幼児期の運動発達のゆっくりさや、ふらつきとして現れることがあります。

鰓耳腎症候群の経過と合併症

本症候群は先天性の形態異常が中心のため、多くの症状は出生時から存在します。難聴は先天性であることが多いものの、一部では小児期以降に変動・進行します。特に前庭水管拡大を伴う例では、頭部打撲や気圧変化をきっかけに聴力が低下することがあります。腎尿路異常の自然歴は重症度によって大きく異なります。両側の腎無形成や高度の低形成では、胎児期の尿産生が不足して羊水過少となり、肺低形成を伴うPotter(ポッター)シークエンスとして新生児期に生命に関わることがあります。中等度の両側腎低形成では、慢性腎臓病(CKD)が小児期から思春期・成人期にかけて徐々に進行し、末期腎不全に至って腎代替療法が必要になる例があります。片側の異常のみで反対側が正常な場合は、生涯にわたり腎機能が保たれることも多いですが、残った腎臓への負担から蛋白尿や高血圧が後に現れることがあるため、長期の経過観察が必要です。

主な合併症には次のようなものがあります。腎・尿路系では、反復性尿路感染症と腎盂腎炎、逆流性腎症による腎瘢痕、高血圧、蛋白尿、腎性貧血、CKDに伴う骨・ミネラル代謝異常、小児の成長障害がみられます。耳では、滲出性中耳炎や慢性中耳炎が加わって聴力がさらに悪化することがあります。頸部・耳前では、瘻孔の感染や膿瘍形成がみられます。眼では、涙嚢炎が起こることがあります。また、難聴に早期対応できなかった場合には、言語発達の遅れ、学業上の困難、コミュニケーションの障害が二次的に生じます。手術に関わる注意点として、内耳奇形を伴う例では人工内耳手術の際に外リンパ・髄液の噴出(gusher)が起こりうること、顔面神経の走行異常があることが知られており、術前の画像評価が欠かせません。

鰓耳腎症候群の診断・診断基準

診断は、①耳・頸部・腎の臨床所見の把握、②聴覚と画像による各臓器の詳しい評価、③家族歴の確認、④遺伝学的検査、の順に進めます。新生児聴覚スクリーニングで「要再検」となった児、耳前瘻孔や頸部瘻孔がある児、腎尿路異常を指摘された児では、ほかの系統の異常がないかを積極的に調べることが大切です。例えば難聴の児に腎エコーを、腎異常の児に聴力検査を行います。臨床診断では、大症状(鰓溝性異常、難聴、耳前瘻孔、腎異常)と小症状(外耳・中耳・内耳奇形、耳前付属器、顔面非対称、口蓋異常など)を組み合わせて評価します。広く用いられる基準では、大症状3つ以上、大症状2つと小症状2つ以上、または診断の確定した一親等の血縁者がいる場合は大症状1つ以上で診断します。日本の指定難病の申請では、厚生労働省が定める診断基準と重症度分類に沿って、指定医が臨床調査個人票を作成します。具体的な要件は主治医に確認してください。

  • 新生児聴覚スクリーニング・ABR/ASSR: 自動ABRやOAEによるスクリーニングで要再検となった場合、精密検査機関で聴性脳幹反応(ABR)や聴性定常反応(ASSR)を行い、難聴の有無と程度を評価します。乳幼児では条件詮索反応聴力検査(COR)なども組み合わせます。
  • 純音聴力検査・ティンパノメトリー: 年齢に応じて気導・骨導の聴力を測定し、伝音・感音・混合のどの型かを判定します。中耳の状態はティンパノメトリーで評価します。
  • 側頭骨CT: 耳小骨の奇形、中耳腔の狭小化、蝸牛の低形成、前庭水管拡大、半規管の異常、顔面神経管の走行を評価します。手術を計画する際には必須の検査です。
  • MRI(内耳・頭部): 内耳の膜迷路と蝸牛神経の有無・太さを評価し、人工内耳の適応判断に用います。頸部嚢胞の広がりの評価にも役立ちます。
  • 腎・尿路超音波検査: 腎臓の有無、大きさ、輝度、嚢胞、水腎症を非侵襲的に評価できる第一選択の検査です。胎児期の超音波で異常が見つかることもあります。
  • 排尿時膀胱尿道造影・腎シンチグラフィ: 尿路感染症や水腎症がある場合に、膀胱尿管逆流の有無(VCUG)、腎瘢痕や左右の機能の割合(DMSA)、尿の通過障害(MAG3利尿レノグラム)を評価します。
  • 腎機能検査(血液・尿): 血清クレアチニン(小児では身長補正や年齢別基準値を使用)、シスタチンC、推算GFR、尿蛋白/クレアチニン比、尿中β2ミクログロブリンなどでCKDの病期を判定します。
  • 頸部・耳前瘻孔の診察と画像: 瘻孔の位置、分泌物、感染の有無を確認します。必要に応じて超音波、CT、MRIで瘻管の走行や嚢胞の範囲を評価します。
  • 遺伝学的検査: EYA1・SIX1などの塩基配列解析と、エクソン欠失などのコピー数解析を行います。陽性であれば診断の確定と家族の評価に役立ちますが、陰性でも臨床診断は否定されません。遺伝カウンセリングを受けたうえで実施します。

鰓耳腎症候群と鑑別すべき疾患

  • タウンズ・ブロックス症候群: SALL1の異常による疾患で、耳介奇形・難聴・腎異常は共通しますが、鎖肛と母指の異常(三指節母指など)を伴う点で区別します。
  • チャージ症候群: CHD7の異常による疾患で、虹彩・網膜の欠損(コロボーマ)、後鼻孔閉鎖、心奇形、特徴的な耳介と三半規管の欠損を伴う点が鑑別点です。
  • 眼耳脊椎スペクトラム(ゴールデンハー症候群/片側顔面小人症): 多くは片側性の小耳症・下顎低形成、眼球結膜の類皮腫、脊椎の異常が特徴で、通常は家族内で遺伝しない点で異なります。
  • 鰓眼顔症候群: TFAP2Aの異常による疾患で、頸部・耳後部の皮膚欠損(鰓溝部の皮膚病変)、偽口唇裂、眼の異常を伴う点で区別します。
  • HDR症候群(副甲状腺機能低下・感音難聴・腎異形成): GATA3の異常による疾患で、低カルシウム血症を伴う副甲状腺機能低下症の有無が鑑別の手がかりになります。
  • 非症候群性難聴・単独の先天性腎尿路異常(CAKUT): 耳前瘻孔や鰓溝性異常がなく、家族にもほかの系統の異常がない場合はこちらが考えられます。ただし軽症例との区別には家族の診察と遺伝学的検査が役立ちます。

鰓耳腎症候群の治療

現時点で、遺伝子の異常そのものを治す根本的な治療はありません。治療の中心は、聴覚・腎尿路・頸部・涙道など、臓器ごとの異常に対する機能的な治療と合併症の予防です。耳鼻咽喉科、腎臓内科・小児腎臓科、泌尿器科、形成外科、眼科、言語聴覚士、臨床遺伝専門医・遺伝カウンセラーなどが連携し、年齢に応じた包括的な管理を行います。とくに乳幼児期は、①難聴を早く見つけて補聴を始め、言語発達を支えること、②腎機能と尿路感染症を評価・管理すること、の2点が最も重要です。手術の適応や時期、腎代替療法の選択は、病状や家族の希望によって異なります。主治医・専門医と十分に相談して決めることが大切です。

  • 補聴器・療育(言語聴覚療法): 難聴が確認されたら早期に補聴器を装用し、言語聴覚士による聴覚・言語の訓練を行います。手話などの視覚的なコミュニケーション手段も含め、家庭に合った方法を選びます。
  • 骨導補聴器・埋め込み型骨導補聴器: 外耳道閉鎖や中耳奇形による伝音・混合難聴で、通常の補聴器が使いにくい場合に選択肢となります。適応は年齢や聴力像によって判断されます。
  • 人工内耳: 補聴器で十分な効果が得られない高度〜重度の感音・混合難聴が対象です。内耳奇形や顔面神経の走行異常があるため、経験のある施設で術前の画像評価を十分に行ったうえで検討します。
  • 中耳手術(鼓室形成術など): 耳小骨の奇形・固着による伝音難聴では、聴力改善を目的に手術を行うことがあります。ただし奇形の程度によっては効果が限られるため、補聴器などとの比較が必要です。
  • 瘻孔・嚢胞の摘出術: 耳前瘻孔や鰓溝性瘻孔・嚢胞が感染を繰り返す場合は、炎症が落ち着いた時期に瘻管を完全に取り除く手術を検討します。急性の感染時には抗菌薬や切開排膿で対応します。
  • 尿路異常の治療と尿路感染症の管理: 膀胱尿管逆流には予防的な抗菌薬投与や逆流防止術、腎盂尿管移行部狭窄には腎盂形成術などを、重症度と腎機能への影響に応じて検討します。発熱を伴う尿路感染症は早く治療します。
  • CKDの保存的治療: 血圧管理、蛋白尿に対するレニン・アンジオテンシン系阻害薬、腎性貧血・代謝性アシドーシス・骨ミネラル代謝異常の治療、小児の栄養と成長の管理を、CKDの病期に応じて行います。
  • 腎代替療法(透析・腎移植): 末期腎不全に至った場合は、腹膜透析、血液透析、腎移植(生体・献腎)から選択します。生体腎移植で血縁者がドナーとなる場合は、ドナー自身が本症候群でないことを評価します。
  • 涙道の治療・遺伝カウンセリング: 涙道の閉塞にはブジー(細い器具で通す処置)や涙道手術を検討します。並行して、診断時・家族計画時・成人移行時などに遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。

鰓耳腎症候群の予後・長期フォロー

生命予後は主に腎病変の重さで決まります。両側の高度腎無形成・低形成で羊水過少を伴う胎児・新生児を除けば、多くの患者は通常の寿命が期待できます。末期腎不全に至る割合は報告によって異なり、全体としては少数ですが、両側腎低形成のある患者では小児期から成人期にかけて腎代替療法が必要になることがあります。透析や腎移植の技術の進歩により、これらの場合も長期の生存が可能です。生活の質(QOL)と社会参加に最も大きく影響するのは難聴です。早期発見と補聴器・人工内耳の導入、適切な療育によって、多くの子どもが言語を獲得し、通常学級や特別支援教育など本人に合った環境で学ぶことができます。外表の形態異常や頸部の手術痕は、思春期に外見への悩みにつながることがあり、形成外科的な相談も選択肢になります。

長期フォローアップでは、聴力検査を乳幼児期は頻回に、その後も定期的に行います。補聴器の調整や中耳炎の管理も継続します。腎臓については、腎機能が正常に見えても、尿検査、血圧、腎エコー、血清クレアチニンを年1回程度など定期的に確認し、蛋白尿や高血圧を早期に見つけることが重要です。妊娠を希望する女性では、腎機能と血圧の評価、妊娠中の管理、児への遺伝について事前に相談しておくことが勧められます。小児科から成人診療科への移行期には、受診先が途切れないよう、移行支援や紹介状による情報の引き継ぎを計画的に行います。

鰓耳腎症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活では、まず腎臓を守ることと聞こえを守ることが基本になります。腎機能が低下している場合は、自己判断で解熱鎮痛薬(NSAIDs)を長く使わない、造影剤や一部の抗菌薬を使う前に腎機能を医師に伝える、塩分を控える、脱水を避ける、といった点に注意します。食事制限の程度は病期によって異なるため、主治医や管理栄養士に確認してください。アミノグリコシド系抗菌薬など内耳に影響しうる薬もあるため、受診時には難聴と腎疾患があることを伝えましょう。前庭水管拡大がある場合、頭部打撲で聴力が悪化することがあるため、激しい接触スポーツなどは主治医と相談します。大きな音を避けることも残された聴力を守るうえで大切です。学校では、座席の配置、FM/デジタル補聴援助システム、板書や字幕による情報保障など、合理的配慮を学校と相談できます。瘻孔は無理に押して内容物を出さず、清潔を保ちます。遺伝については、患者の子どもが変異を受け継ぐ確率は50%ですが、受け継いだ場合の重症度は予測できません。家族計画、兄弟姉妹や親の検査、出生前検査の是非などは個人の価値観に深く関わるため、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを利用し、十分な情報を得てから判断することが勧められます。

利用できる制度・相談窓口

鰓耳腎症候群は指定難病(告示番号190)であり、診断基準を満たし、国の定める重症度基準に該当する場合(または軽症でも高額な医療が継続する場合)は、難病医療費助成制度により自己負担上限額が設定されます。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、住所地の都道府県・指定都市の窓口(保健所など)で行います。18歳未満(継続の場合は20歳未満まで)では、小児慢性特定疾病医療費助成の対象となる場合があるため、主治医に確認してください。聴覚障害や腎機能障害の程度が基準を満たす場合は、身体障害者手帳を取得でき、補聴器などの補装具費の支給、日常生活用具の給付、税の控除、公共料金の割引などが受けられます。手帳の対象とならない軽度・中等度難聴の児に対して、補聴器購入費を助成している自治体も多くあります。人工内耳手術や透析、腎移植には、自立支援医療(育成医療・更生医療)を利用できる場合があります。人工透析では高額療養費の特例(特定疾病療養受療証)が適用されます。障害が一定以上で生活や就労に支障がある場合は、障害年金の対象となりうるため、年金事務所や社会保険労務士に相談できます。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、医療機関の医療ソーシャルワーカー、保健所、聴覚障害児の療育を担う児童発達支援センター、ろう学校(聴覚特別支援学校)の教育相談、自治体の障害福祉課などがあります。

鰓耳腎症候群に伴う心のケア・心理社会的支援

難病や慢性疾患とともに生きることは、患者本人にも家族にも大きな心理的負担となり、抑うつ、不安、適応障害が生じることがあります。BOR症候群に特有の課題としては、まず診断時の親の衝撃と、遺伝性であることによる自責感があります(とくに親自身が軽症の保因者であると判明した場合)。そのほかにも、難聴によって友人関係や集団の会話から取り残される孤立感、学校・職場で聞こえにくさを理解してもらえないストレス、耳や頸部の外見・手術痕へのコンプレックス、将来の腎不全や透析への漠然とした不安、結婚・出産時の遺伝の悩みなどがあります。思春期には補聴器を着けたがらなくなることもあり、本人の気持ちを尊重しながら支える姿勢が大切です。同じ疾患や難聴をもつ人の患者会・家族会、聴覚障害者団体との交流は、孤立感を和らげ、実践的な工夫を知る機会になります。気分の落ち込み、眠れない、意欲がわかない、登校・出勤がつらいといった状態が続く場合は、一人で抱え込まず、主治医、心理士、精神科・心療内科、遺伝カウンセラーに早めに相談してください。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

鰓耳腎症候群の受診の目安

  • 38℃以上の発熱があり、腹痛・背部痛・排尿時痛を伴う場合や、乳児で原因のはっきりしない発熱が続く場合は、尿路感染症・腎盂腎炎の可能性があるため、当日中に受診してください。
  • 尿量が極端に減った、むくみが急に強くなった、強いだるさ・吐き気・息苦しさがあるときは、腎機能の悪化や電解質異常の恐れがあるため、速やかに(夜間でも)受診してください。
  • 耳前や頸部の瘻孔周囲が赤く腫れて痛む、膿が出る、発熱を伴う場合は、感染・膿瘍の可能性があるため、早めに耳鼻咽喉科を受診してください。
  • 急に聞こえが悪くなった、耳鳴りや強いめまいが出た場合(とくに頭部を打った後)は、早期治療が重要なため、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診してください。
  • 子どもの言葉の遅れ、呼びかけへの反応の乏しさ、補聴器を着けても聞こえにくそうな様子に気づいたときは、次回の予約を待たずに主治医に相談してください。
  • 健康診断で蛋白尿・血尿・高血圧を指摘された場合は、症状がなくても腎臓の専門医を受診してください。

鰓耳腎症候群についてのよくある質問

Q. 耳前瘻孔があるだけで鰓耳腎症候群なのでしょうか?

A. 耳前瘻孔は一般の人にも比較的よくみられ、それだけで本症候群とは言えません。ただし、難聴、頸部の瘻孔、腎臓の異常、家族歴などを伴う場合は、本症候群の可能性を考えて聴力検査や腎エコーを受けることが勧められます。気になる場合は耳鼻咽喉科や小児科で相談してください。

Q. 親が軽症なら、子どもも軽症で済みますか?

A. 本症候群は同じ家系・同じ遺伝子変異でも症状の重さが大きく異なるため、親の症状から子どもの重症度を予測することはできません。親は耳前瘻孔だけでも、子どもに高度の難聴や腎機能障害が出ることがあります。妊娠前や出産後の評価について、遺伝カウンセリングで相談するとよいでしょう。

Q. 遺伝子検査で異常が見つからなければ、この病気ではないのですか?

A. 既知の原因遺伝子(EYA1、SIX1など)の変異が見つかるのは臨床診断例の約半数とされ、検査が陰性でも臨床症状から診断されることがあります。検査方法(コピー数解析の有無など)によって検出率も変わります。結果の解釈は臨床遺伝の専門家に確認してください。

Q. 腎臓の異常があると、将来必ず透析が必要になりますか?

A. 必ずしもそうではありません。片側の腎臓の異常のみで、反対側が正常に働いている場合は、生涯腎機能が保たれる人も多くいます。一方、両側の低形成などでは進行することがあるため、定期的な尿検査・血圧・腎機能のチェックを続け、早めに対策をとることが大切です。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。