ウェルナー症候群

Werner Syndrome

ウェルナー症候群(Werner Syndrome)|ウェルナー症候群は、WRN遺伝子の両方のアレル(父母由来の2本)に病的変異があることで起こる常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患で、思春期以降に白髪、脱毛、白内障、皮膚の硬化や難治性潰瘍、糖尿病、動脈硬化、悪性腫瘍など、通常は高齢期にみられる変化が若いうちから現れる成人型早老症の代表です。世界の報告例の多くを日本人が占めることが知られており、指定難病の対象です。根治療法はまだありませんが、合併症を早く見つけて治療することで、生命予後と生活の質(QOL)の改善が期待できます。

ウェルナー症候群の要点

ウェルナー症候群は、WRN遺伝子の変異により常染色体潜性遺伝で発症する成人型早老症で、思春期以降に白髪・脱毛、白内障、皮膚の硬化や潰瘍、糖尿病、動脈硬化、悪性腫瘍などが若年で現れます。国の指定難病で、根治療法はなく、合併症の早期発見と治療が重要です。

別名・略称成人型早老症、成人早老症、Werner症候群、WS、adult progeria
分野染色体・先天異常症候群
原因遺伝子WRN遺伝子(8番染色体短腕8p12)
遺伝形式常染色体潜性(劣性)遺伝
好発年齢小児期は正常に発育し、思春期以降(20〜30歳代)に症状が顕著化
主な症状白髪・脱毛、両眼の白内障、皮膚の萎縮・硬化、難治性皮膚潰瘍、低身長、糖尿病、脂質異常症、動脈硬化、悪性腫瘍
主な治療根治療法はなく、合併症ごとの早期発見・治療が中心

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ウェルナー症候群とは

ウェルナー症候群(Werner syndrome:WS)は、DNAの複製・修復・組換えやテロメアの維持にかかわるRecQ型DNAヘリカーゼの一つ、WRNタンパク質の機能が失われることで起こる遺伝性疾患です。小児期の発育はほぼ正常ですが、思春期の成長スパートがみられず低身長・低体重となり、20〜30歳代から白髪・脱毛、両眼の白内障、手足の皮膚の萎縮・硬化、アキレス腱などの軟部組織石灰化、四肢末端の難治性皮膚潰瘍、甲高いかすれ声、とがった鼻と細い顔の輪郭が目立つ特徴的な顔つき(鳥様顔貌)が現れます。代謝面ではインスリン抵抗性を伴う糖尿病や脂質異常症、脂肪肝、性腺機能低下がみられ、これらが動脈硬化を早めます。WRN欠損細胞はゲノムが不安定で、上皮性のがんに加えて肉腫などの非上皮性腫瘍が起こりやすいことも本症の重要な特徴です。全身の多くの臓器が同時に「早く年をとる」ように見えますが、認知症(アルツハイマー型など)が早く起こることは一般的ではありません。そのため、すべての老化現象を再現するわけではない部分的早老症(segmental progeroid syndrome)と位置づけられています。

1904年、ドイツの眼科医オットー・ウェルナー(Otto Werner)が、白内障と強皮症様の皮膚変化を伴う兄弟例を報告したのが疾患概念の始まりです。1996年にWRN遺伝子(8番染色体短腕8p12)が原因遺伝子として同定され、分子レベルの理解が大きく進みました。WRN遺伝子に変異が見つかる典型例を古典的ウェルナー症候群と呼びます。これに対し、臨床的には似ていてもWRN変異がなく、核膜タンパクをつくるLMNA遺伝子などの変異が見つかる例は、非典型ウェルナー症候群(atypical WS)として区別されます。日本では厚生労働省・日本医療研究開発機構(AMED)の研究班が診断基準を改訂し(2012年頃)、その後、診療ガイドラインも作成されています。合併症ごとの管理指針が整理されつつあります。

ウェルナー症候群の疫学・患者数

ウェルナー症候群は世界的には非常にまれな疾患です。一方、日本では報告例が際立って多く、世界の報告例の過半数を日本人が占めるとされます。背景には、日本人に多い特定の創始者変異(スプライス部位の変異が代表的)の存在があり、日本人の保因者(変異を片方のアレルにだけ持つ人で、発症しない)は数百人に1人程度と推定する報告があります。国内の患者数は、研究班の調査で数百例が確認されています。診断されていない例を含めると約2,000人程度と推計されることがあります。性差は明らかではなく、男女ともに発症します。思春期の成長不良は10歳代から始まっていることが多いものの、多くの患者は白内障や皮膚潰瘍が目立つ30〜40歳代で初めて医療機関を受診し、診断に至ります。両親が血縁関係にある例が比較的多いことも知られていますが、血縁婚でなくても発症します。既存の解説にある「発症率」や「保因者頻度」の具体的数値は、地域や調査方法によって大きく異なるため、幅をもって理解する必要があります。

ウェルナー症候群の原因・病態生理

本症は常染色体潜性(劣性)遺伝形式をとり、WRN遺伝子の両アレルに機能喪失型の変異があるときに発症します。WRN遺伝子は、約1,400アミノ酸からなるWRNタンパク質をつくる設計図です。WRNタンパク質はRecQヘリカーゼファミリー(ヒトではRECQL、BLM、WRN、RECQL4、RECQL5の5種類)に属します。このタンパク質は、DNAの二重らせんをほどく3'→5'ヘリカーゼ活性と、DNAを末端から削る3'→5'エキソヌクレアーゼ活性の両方を持つ点が特徴です。報告されている変異の多くは、ナンセンス変異、フレームシフト変異、スプライス異常です。これらにより、核への移行シグナルを含むC末端側を欠いた短いタンパク質ができるか、タンパク質そのものがつくられなくなり、核内で働くWRNが実質的に失われます。なお、同じRecQファミリーのBLMの異常はブルーム症候群、RECQL4の異常はロスムンド・トムソン症候群の原因となり、いずれも「ゲノム不安定性症候群」として共通点を持ちます。

WRNタンパク質は、DNA複製がストールした(止まった)複製フォークの再開や保護、相同組換えや非相同末端結合によるDNA二本鎖切断の修復、塩基除去修復の補助、さらにテロメア(染色体末端)の複製などに関わります。テロメアは折り畳まれた特殊な構造をとるため複製が難しく、WRNはその複製を助けています。WRNが欠損すると、複製ストレスやDNA損傷が適切に処理されません。その結果、染色体の欠失・転座が細胞ごとに異なって生じる多様性転座モザイク(variegated translocation mosaicism)や、テロメアの機能不全が起こります。患者由来の皮膚線維芽細胞は、培養すると分裂可能な回数が著しく少なく、早く細胞老化に陥ることが古くから知られています。老化した細胞は、炎症性サイトカインなどを分泌する性質(SASP:老化関連分泌形質)を獲得し、周囲の組織の線維化、萎縮、慢性炎症を引き起こすと考えられています。一方、ゲノム不安定性のために、がん化につながる変異も蓄積しやすくなります。とくに間葉系由来の細胞(線維芽細胞、骨芽細胞、血管平滑筋など)が影響を受けやすいことが、皮膚硬化、軟部組織石灰化、肉腫の多さ、動脈硬化といった本症の臓器分布を説明する一因と考えられています。ただし、なぜ特定の組織に症状が偏るのかなど、病態の全体像はまだ研究段階です。

ウェルナー症候群の症状

  • 低身長・低体重(思春期の成長停止): 思春期の成長スパートがみられず、成人しても低身長・低体重であることが多いです。振り返ると、10歳代から体格が小さかったことに気づく例が少なくありません。
  • 早期の白髪・脱毛: 10歳代後半〜20歳代から白髪や頭髪の脱毛が始まり、多くの患者で最初に気づく老化徴候となります。
  • 両眼性白内障: 30歳代前後に両眼の白内障が進行することが多く、視力低下で眼科を受診したことが診断のきっかけになる例も多くみられます。
  • 強皮症様の皮膚変化: 手足の皮膚が薄く萎縮して硬くなり、つやのある光沢や色素沈着・色素脱失、皮下脂肪の減少がみられます。外見上は全身性強皮症に似ることがあります。
  • 難治性皮膚潰瘍・胼胝(たこ)・鶏眼(うおのめ): アキレス腱部、くるぶし、足底、肘など圧迫や摩擦を受ける部位に胼胝や潰瘍ができ、非常に治りにくいのが特徴です。骨髄炎を併発したり、切断に至ることもあり、生活の質に大きく影響します。
  • 軟部組織の石灰化: アキレス腱付着部などの腱や軟部組織に石灰化が生じ、単純X線で確認できます。本症に特徴性の高い所見とされます。
  • 特徴的な顔貌と声: 顔の皮下脂肪が減って鼻がとがり、鳥様顔貌と呼ばれる顔つきになります。声帯の変化により、甲高いかすれ声になることもあります。
  • 糖尿病・脂質異常症・脂肪肝: 手足はやせている一方で内臓脂肪がたまりやすく、強いインスリン抵抗性を伴う糖尿病や高中性脂肪血症、脂肪肝が高い頻度でみられます。
  • 骨粗鬆症と筋肉量の低下(サルコペニア): とくに四肢に骨量減少がみられ、筋肉量の低下も伴って、骨折や歩行障害の原因になります。
  • 早発性の動脈硬化: 若年から冠動脈や下肢動脈の動脈硬化が進みやすく、狭心症・心筋梗塞や末梢動脈疾患の原因となります。
  • 性腺機能低下: 性腺の萎縮や性ホルモンの低下、二次性徴の不全、妊よう性(妊娠するための力)の低下を伴うことがあります。
  • 悪性腫瘍(特に非上皮性腫瘍): 甲状腺がん、悪性黒色腫(足底や粘膜に生じることがある)、軟部肉腫、骨肉腫、骨髄異形成症候群、髄膜腫などが一般人口より若い年齢で発生しやすいとされます。胃がんなど上皮性のがんも起こりえます。

ウェルナー症候群の経過と合併症

小児期の発達はほぼ正常で、知的発達にも通常は問題がありません。10歳代に思春期の成長が乏しいことで最初の変化が現れ、20歳代で白髪・脱毛、皮膚の萎縮や声の変化が目立ちます。30歳代には両眼性白内障、糖尿病、足の胼胝・潰瘍、軟部組織の石灰化、骨粗鬆症が加わり、40歳代以降は動脈硬化性疾患と悪性腫瘍が生命予後を左右するようになります。進行のスピードや症状の組み合わせには個人差が大きく、同じ家系内でも違いがあります。症状は不可逆的に積み重なっていくため、本症では「病期」を分けるよりも、年齢ごとに起こりやすい合併症を予測して先回りして管理することが重要です。

主な合併症には、①冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)、閉塞性動脈硬化症、脳血管障害などの動脈硬化性疾患、②甲状腺がん、悪性黒色腫、肉腫、骨髄異形成症候群・白血病、髄膜腫などの多発・重複がん、③足の潰瘍に続く蜂窩織炎・骨髄炎・敗血症などの感染症と、それによる下肢切断、④糖尿病の細小血管合併症(網膜症・腎症・神経障害)、⑤骨折、⑥白内障手術後の角膜障害など創傷治癒の遅れに関連する術後合併症、があります。皮膚が薄く血流も乏しいため、手術創や外傷が治りにくく、外科的治療を行う際には特別な配慮が必要です。

ウェルナー症候群の診断・診断基準

診断は、特徴的な臨床症状の組み合わせから本症を疑うことに始まります。白髪・脱毛、白内障、皮膚の萎縮・硬化や難治性潰瘍、軟部組織の石灰化、鳥様顔貌、甲高い声などの主要徴候と、糖尿病、骨粗鬆症、非上皮性腫瘍、両親の血縁婚、早発性動脈硬化、性腺機能低下、低身長・低体重などのその他の徴候を、日本の研究班による診断基準に沿って評価します。この診断基準は指定難病の認定にも用いられ、臨床症状だけでも「確実例」「疑い例」に分類できますが、WRN遺伝子の病的変異の確認によって診断がより確実になります。既存の簡易解説にある「末梢血テロメア長測定」や「WRNタンパク質分析」は研究としては行われますが、通常の診断基準の必須項目ではなく、一般診療で日常的に行う検査でもありません。確定診断と同時に、全身の合併症の評価を行い、その後の管理計画を立てます。内科(代謝内分泌)、皮膚科、眼科、形成外科、整形外科、循環器科などが連携して評価することが望まれます。

  • 日本の診断基準(厚生労働省研究班)による臨床評価: 主要徴候と、その他の徴候・遺伝子検査の結果を組み合わせて、確実例・疑い例を判定します。指定難病の申請にはこの基準に基づく臨床調査個人票が必要です。
  • WRN遺伝子検査: 両アレルに病的変異が見つかれば、診断はほぼ確定します。日本人では特定の創始者変異の頻度が高いことが知られています。遺伝学的検査を行う際は、事前・事後に遺伝カウンセリングを受けることが推奨されます。
  • 単純X線検査(足部・アキレス腱): アキレス腱付着部などの軟部組織石灰化は本症に特徴性が高く、診断の手がかりとして重要です。四肢の骨萎縮・骨粗鬆症所見や骨髄炎の評価にも用います。
  • 眼科検査(細隙灯顕微鏡など): 若年性の両眼性白内障の有無と程度を評価します。糖尿病網膜症の評価も兼ねて定期的に行います。
  • 代謝内分泌検査: 血糖、HbA1c、インスリン値、脂質、肝機能、性ホルモンなどを測定し、インスリン抵抗性・脂質異常症・脂肪肝・性腺機能低下を評価します。腹部CTなどで内臓脂肪の蓄積を確認することもあります。
  • 骨密度測定(DXA法): 骨粗鬆症の有無と程度を評価し、治療の必要性を判断します。
  • 動脈硬化の評価: 頸動脈超音波、足関節上腕血圧比(ABI)、心電図、必要に応じて心臓CT・負荷試験を行い、冠動脈疾患や末梢動脈疾患を早期に把握します。
  • 悪性腫瘍のスクリーニング: 甲状腺超音波、皮膚(特に足底・爪)の診察、血液検査、画像検査などを組み合わせ、本症に多い腫瘍を意識して検査を行います。
  • 皮膚生検・創部評価: 潰瘍の性状、感染の有無、悪性黒色腫などの腫瘍性病変との鑑別のため、必要に応じて生検や培養検査を行います。

ウェルナー症候群と鑑別すべき疾患

  • 非典型ウェルナー症候群(LMNA遺伝子異常など): 臨床像は似ていますがWRN変異がなく、発症が早い傾向や白内障が目立たないなどの違いがあり、遺伝子検査で区別します。
  • ハッチンソン・ギルフォード症候群(プロジェリア): LMNA遺伝子の変異により乳幼児期から著しい老化徴候が現れる小児型早老症で、思春期以降に発症する本症とは発症年齢が大きく異なります。
  • コケイン症候群: 小児期からの成長障害、光線過敏、精神運動発達遅滞、神経症状を伴う点で、知的発達が保たれる本症と異なります。
  • ロスムンド・トムソン症候群: RECQL4遺伝子の異常により乳児期から多形皮膚萎縮症(ポイキロデルマ)と骨格異常が生じ、骨肉腫を合併しやすい点が特徴です。
  • 全身性強皮症: 皮膚硬化は似ますが、レイノー現象、抗核抗体などの自己抗体、肺などの内臓の線維化を伴うことがあります。皮膚の石灰沈着がみられる病型もありますが、白髪や若年性白内障などの早老徴候はみられません。
  • 脂肪萎縮症: 皮下脂肪の消失とインスリン抵抗性糖尿病は共通しますが、白内障・白髪などの早老徴候や皮膚潰瘍を伴わず、レプチン低値などで区別します。

ウェルナー症候群の治療

現時点で、WRNタンパク質の欠損そのものを治す根治療法はありません。治療は、①生命予後を左右する動脈硬化性疾患と悪性腫瘍の予防・早期発見、②QOLを大きく損なう皮膚潰瘍と感染の管理、③糖尿病・脂質異常症・骨粗鬆症など代謝合併症の治療、④白内障などの機能障害への外科的対応、を柱とした多臓器・多診療科による包括的管理が基本です。研究班による診療ガイドラインでは、合併症ごとの管理の考え方が示されています。具体的な薬剤や手術の選択は、病状、年齢、合併症、手術創が治りにくいことなどを考慮して、主治医・専門医と相談しながら個別に決める必要があります。

  • 糖尿病の治療: 内臓脂肪の蓄積を伴う強いインスリン抵抗性が背景にあるため、食事・運動療法に加え、インスリン抵抗性を改善する薬(チアゾリジン薬やビグアナイド薬など)が有効であったとする報告があります。病状に応じて他の経口薬、GLP-1受容体作動薬、インスリンを組み合わせます。
  • 脂質異常症・高血圧の管理(動脈硬化予防): 早発性の動脈硬化を防ぐため、スタチンなどによる脂質管理、血圧管理、禁煙を徹底します。冠動脈疾患などが見つかった場合は、循環器専門医による薬物治療や血行再建術を検討します。
  • 皮膚潰瘍・胼胝の管理: 除圧(靴の中敷き・装具・フットケア)、胼胝の処置、適切な外用薬・創傷被覆材の使用、感染時の抗菌薬投与、デブリードマンなどを行います。難治例では形成外科的手術が検討されますが、皮膚の血流不良のため治癒が難しく、切断が必要になることもあります。
  • 白内障手術: 視機能の回復に有効ですが、術後に角膜障害や創傷治癒遅延などが起こりやすいため、本症の特性を理解した眼科医のもとで慎重に行うことが望まれます。
  • 骨粗鬆症の治療: カルシウム・ビタミンDの補充や、ビスホスホネート製剤などの骨粗鬆症治療薬が、一般の骨粗鬆症に準じて検討されます。転倒予防と筋力の維持も重要です。
  • 悪性腫瘍の早期発見と治療: 本症に多い甲状腺がん、悪性黒色腫、肉腫、血液腫瘍などを意識して定期的に検査を行い、見つかった場合は腫瘍の種類に応じて手術・薬物療法・放射線治療を検討します。全身状態や組織が治りにくいことを考慮し、治療方針を総合的に判断します。
  • 性腺機能低下への対応: 症状や検査値に応じて、内分泌専門医がホルモン補充療法の適応を検討します。
  • リハビリテーション・装具療法: 関節の拘縮、筋力低下、足部の変形や切断後の歩行機能の維持のため、理学療法、作業療法、義肢・装具の作製を行います。
  • 新しい治療法の研究: 細胞老化を標的とする薬剤(セノリティクスなど)や、患者由来iPS細胞を用いた病態研究が進められていますが、臨床で確立した治療法はまだありません。研究への参加は主治医と相談してください。

ウェルナー症候群の予後・長期フォロー

かつての海外の報告では、平均死亡年齢は40歳代半ばとされ、主な死因は心筋梗塞などの動脈硬化性疾患と悪性腫瘍でした。近年の日本の研究では、合併症の管理が進歩したことにより、平均寿命は50歳代後半以降へと延びてきていると報告されています。死因としては悪性腫瘍の占める割合が大きく、動脈硬化性疾患や、皮膚潰瘍から広がる感染症も重要です。既存の簡易解説にある死因の割合の数値は報告によって異なるため、目安と考える必要があります。生活の質の面では、足の難治性潰瘍による痛みや歩行障害、切断、視力障害、外見の変化が日常生活や就労に大きく影響します。そのため、生命予後だけでなく機能の維持を重視した管理が求められます。

長期フォローアップでは、主治医(多くは代謝内分泌内科)が全体を統括し、皮膚科・形成外科、眼科、整形外科、循環器科、腫瘍内科などと連携して計画的に診療を続けることが理想です。血糖・脂質・肝機能などの定期的な血液検査、年1回程度の動脈硬化の評価や悪性腫瘍のスクリーニング(甲状腺超音波、皮膚・足底の診察、消化管・胸腹部の評価など)、骨密度測定、眼科検査、毎回の診察時の足の観察が基本となります。具体的な検査の内容と間隔は、年齢と合併症に応じて主治医と決めます。早期診断と継続的な受診が、合併症の早期発見と予後の改善につながります。

ウェルナー症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活で最も大切なのは足を守ることです。毎日、足底、かかと、くるぶし、アキレス腱部、指の間を観察し、小さな傷、胼胝、靴ずれ、赤み、腫れを早く見つけてください。足に合った靴や中敷き、靴下を選び、裸足での歩行や、湯たんぽ・カイロによる低温やけどを避けます。胼胝や鶏眼を自分で削らず、フットケア外来などで処置を受けましょう。食事は内臓脂肪の蓄積と血糖・脂質の管理を意識してとり、筋肉量を保つために十分なたんぱく質と適度な運動(医師と相談のうえ)を心がけます。喫煙は動脈硬化とがんのリスクを高め、創傷治癒も妨げるため、禁煙が強く勧められます。日焼け対策や皮膚の保湿、転倒予防も大切です。遺伝の面では、本症は常染色体潜性遺伝のため、両親はそれぞれ保因者であることがほとんどです。患者のきょうだいが発症する確率は理論上4分の1です。患者本人の子どもは、変異を1つ必ず受け継ぐため全員が保因者となりますが、配偶者が保因者でなければ発症することは通常ありません。発症前のきょうだいの検査、結婚・妊娠の計画などについては、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングで、十分な説明を受けたうえで判断することが勧められます。

利用できる制度・相談窓口

ウェルナー症候群は指定難病(告示番号191)の対象です。診断基準と重症度基準を満たす場合、都道府県・指定都市の窓口(保健所など)に申請すると、医療費助成(自己負担上限額の設定)を受けられます。重症度基準を満たさなくても、医療費が一定以上かかる場合は「軽症高額該当」として対象となることがあります。申請には難病指定医が作成する臨床調査個人票が必要です。また、介護保険制度では「早老症」が特定疾病に含まれるため、40〜64歳の第2号被保険者でも、要介護・要支援の認定を受ければ介護サービスを利用できます。下肢の切断や視力障害、歩行障害などが残った場合は身体障害者手帳の対象となる可能性があります。日常生活や就労に支障がある場合は障害年金の対象となることもあるため、年金事務所や社会保険労務士に相談するとよいでしょう。そのほか、高額療養費制度、障害者総合支援法による福祉サービス(補装具の支給など)も利用できる場合があります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、医療機関の医療ソーシャルワーカー、難病情報センターのウェブサイト、患者会などがあります。就労については、ハローワークの難病患者就職サポーターに相談できます。

ウェルナー症候群に伴う心のケア・心理社会的支援

難病を抱えて生活することは、それだけで大きな心理的負担となり、抑うつ、不安、適応障害、不眠が生じることは珍しくありません。ウェルナー症候群に特有の課題として、①20〜30歳代という人生設計の時期に白髪・脱毛や顔貌の変化など外見の変化が現れ、自己イメージや対人関係に影響しやすいこと、②平均寿命についての情報や「早老」という言葉から、将来への強い不安を抱きやすいこと、③治りにくい足の潰瘍による慢性的な痛みや切断の可能性が日常生活を制限すること、④遺伝性疾患であることから、きょうだいや子ども、結婚・出産について悩みや罪悪感が生じやすいこと、⑤就労の継続や経済面での不安、が挙げられます。気分の落ち込みが続く、眠れない、何事にも興味が持てないなどの状態が2週間以上続く場合は、我慢せずに主治医に伝えてください。心療内科・精神科、臨床心理士・公認心理師によるカウンセリングを利用することも大切です。同じ病気の人や家族と交流できる患者会、遺伝カウンセリング、医療ソーシャルワーカーへの相談も、孤立を防ぎ、前向きに療養を続ける支えになります。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

ウェルナー症候群の受診の目安

  • 足の傷・胼胝・靴ずれが赤く腫れる、熱を持つ、膿が出る、においがする、あるいは数日たっても治らない場合は、早めに受診してください。
  • 発熱を伴って足の痛みや腫れが急に広がる場合は、蜂窩織炎や骨髄炎、敗血症の可能性があるため、すぐに受診してください。
  • 胸の痛みや圧迫感、冷や汗、息切れ、片側の手足の麻痺やろれつが回らないなどの症状がある場合は、心筋梗塞や脳卒中の可能性があるため、救急車を要請してください。
  • 首のしこり、足底や爪の黒い色素斑の拡大、皮膚や骨の腫れ・痛みの持続、原因不明の体重減少や貧血などに気づいた場合は、悪性腫瘍の可能性も考えて受診してください。
  • のどの渇き、多尿、急な体重減少、あるいは低血糖症状(冷や汗、ふるえ、意識がもうろうとする)がある場合は、速やかに主治医に連絡してください。
  • 10〜30歳代で白髪・脱毛、白内障、手足の皮膚の硬化、治りにくい足の潰瘍が重なってみられる場合は、本症を念頭に置いて内科(代謝内分泌)や皮膚科を受診してください。

ウェルナー症候群についてのよくある質問

Q. 子どもに遺伝しますか?

A. 本症は常染色体潜性遺伝のため、患者の子どもは原因遺伝子の変異を1つ受け継いで保因者になりますが、配偶者も保因者でない限り、通常は発症しません。一方、患者のきょうだいは4分の1の確率で発症する可能性があります。詳しいことは遺伝カウンセリングで相談することをおすすめします。

Q. 本当に寿命は短いのですか?

A. 以前は40歳代半ばで亡くなることが多いと報告されていましたが、日本では合併症の管理が進んだことで、平均寿命が延びてきていると報告されています。定期的な検査で動脈硬化やがんを早期に見つけ、治療することが寿命の延長につながると考えられています。

Q. 手術を受けても大丈夫ですか?

A. 白内障手術や腫瘍の手術など、必要な手術は受けることができます。ただし、皮膚が薄く血流が乏しいため、傷の治りが遅く、感染が起こりやすい傾向があります。本症であることを手術担当医に必ず伝え、主治医と連携して慎重に計画してもらうことが大切です。

Q. テロメア検査やサプリメントで老化を止められますか?

A. テロメア長の測定は研究目的で行われることはありますが、診断や治療に必須の検査ではありません。また、病気の進行を止めることが証明されたサプリメントもありません。科学的根拠のある合併症管理を続けることが最も重要です。新しい治療の研究については主治医に相談してください。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。