ヤング・シンプソン症候群
Young Simpson Syndrome
ヤング・シンプソン症候群(Young Simpson Syndrome)|ヤング・シンプソン症候群は、生まれつきの特徴的な顔立ち(まぶたが狭く垂れ下がる、表情が乏しい)、知的障害・発達の遅れ、筋緊張の低下、先天性甲状腺機能低下症、先天性心疾患、関節や膝蓋骨の異常などを合併する、まれな先天異常症候群です。原因の多くはKAT6B遺伝子の変化で、ほとんどは両親から受け継いだものではなく、本人に新しく生じた(de novo)変化です。性別に関係なく発症し、乳児期から生涯にわたり多くの診療科による継続的な支援が必要です。
ヤング・シンプソン症候群の要点
ヤング・シンプソン症候群は、主にKAT6B遺伝子の変化で起こるまれな先天異常症候群で、眼瞼裂狭小や眼瞼下垂、知的障害・発達遅滞、筋緊張低下、先天性甲状腺機能低下症、先天性心疾患などを伴います。日本では指定難病(告示番号196)に指定され、乳児期から多診療科での継続的な支援が必要です。
| 別名・略称 | Say-Barber-Biesecker-Young-Simpson症候群、Say-Barber-Biesecker-Young-Simpson型Ohdo症候群、SBBYSS、Ohdo症候群(SBBYS型)、KAT6Bスペクトラム |
|---|---|
| 分野 | 染色体・先天異常症候群 |
| 遺伝形式 | 常染色体顕性(優性)。多くは本人に新たに生じた(de novo)変化 |
| 原因遺伝子 | 主にKAT6B遺伝子(ヒストンアセチル化酵素) |
| 好発年齢 | 先天性(出生時・乳児期から症状がみられる) |
| 主な症状 | 眼瞼裂狭小、眼瞼下垂、表情の乏しい顔貌、知的障害・発達遅滞、筋緊張低下、先天性甲状腺機能低下症、先天性心疾患、膝蓋骨の異常 |
| 主な検査 | 臨床症状の評価とKAT6B遺伝子の遺伝学的検査 |
| 受診する主な診療科 | 小児科、臨床遺伝科など |
ヤング・シンプソン症候群とは
ヤング・シンプソン症候群(Young-Simpson syndrome:YSS)は、1987年にYoungとSimpsonが報告した先天異常症候群です。主な特徴は、眼瞼裂狭小(まぶたの開きが小さい)、眼瞼下垂、仮面様の表情の乏しい顔貌、知的障害・発達遅滞、乳児期の筋緊張低下と哺乳障害、先天性甲状腺機能低下症、先天性心疾患、男児の停留精巣、長い母指・母趾、膝蓋骨の低形成や脱臼です。国際的には「Say-Barber-Biesecker-Young-Simpson型Ohdo症候群(SBBYSS)」とも呼ばれ、ほぼ同じ疾患を指します。なお、本症候群をX連鎖劣性遺伝・PORCN遺伝子が原因とする情報が見られることがありますが、これは誤りです。PORCN遺伝子はX連鎖性の限局性真皮低形成(Goltz症候群)の原因遺伝子で、本症候群とは別の疾患です。本症候群の主な原因はヒストンアセチル化酵素をコードするKAT6B遺伝子のヘテロ接合性変異(片方の遺伝子の変化)で、常染色体顕性(優性)の形式をとります。
歴史的には、眼瞼裂狭小・知的障害・心疾患などを示す一群が「Ohdo症候群」として報告されました。その後、臨床像の違いから、SBBYSS型(本症候群)、MED12遺伝子が原因のX連鎖性Maat-Kievit-Brunner型などに整理されてきました。2011〜2012年にKAT6B遺伝子変異が同定されました。同時に、同じKAT6B遺伝子の変異で生殖器・膝蓋骨形成異常症候群(Genitopatellar症候群:GPS)が起こることも明らかになり、両者は同一遺伝子による連続した疾患群(KAT6Bスペクトラム)と考えられています。両者の特徴をあわせ持つ中間型の報告もあります。日本では2015年に指定難病(告示番号196)に指定されました。臨床症状と遺伝学的検査を組み合わせた診断基準と重症度分類に基づいて、医療費助成の対象となります。
ヤング・シンプソン症候群の疫学・患者数
非常にまれな疾患で、世界でもこれまでの報告は数十例から百数十例程度にとどまるとされます。正確な有病率はわかっていません。日本国内の患者数も確定していませんが、ごく少数と推定されています。ただし、遺伝学的検査(エクソーム解析など)が普及する以前は診断されていなかった例も多いと考えられ、実際の患者数は報告より多い可能性があります。原因の多くは常染色体上の遺伝子の新生変異のため、男女ともに発症し、明らかな性差はないとされます(停留精巣など生殖器の所見は男児で目立ちます)。症状の多くは出生時から乳児期に現れます。眼瞼下垂などの顔貌、新生児期の筋緊張低下や哺乳障害、新生児マススクリーニングでみつかる甲状腺機能低下症、心雑音などがきっかけとなって診断に至ることが一般的です。
ヤング・シンプソン症候群の原因・病態生理
原因遺伝子は第10番染色体にあるKAT6B(別名MYST4、MORF)です。KAT6Bはリジンアセチル化酵素(ヒストンアセチルトランスフェラーゼ)の一つで、BRPF1、ING5、MEAF6などのタンパク質と複合体をつくり、主にヒストンH3の特定のリジン残基をアセチル化します。これにより染色体の構造(クロマチン)をゆるめ、遺伝子のスイッチを入れやすくするエピジェネティックな調節役を担っています。脳・骨格・顔面・甲状腺・心臓・生殖器などの発生期に多くの遺伝子の発現を調節しているため、この機能が乱れると多臓器にわたる先天異常が生じます。CREBBP/EP300の異常によるルビンシュタイン・テイビ症候群などと並んで、「クロマチン調節異常症(chromatinopathy)」の一つに位置づけられます。遺伝形式は常染色体顕性(優性)ですが、報告例の大多数は両親に変異をもたない新生(de novo)変異です。
本症候群で見つかる変異の多くは、KAT6B遺伝子の最終エクソン(エクソン18)にある短縮型変異(ナンセンス変異やフレームシフト変異)です。最終エクソンの変異は、通常異常なmRNAを分解する仕組み(ナンセンス介在mRNA分解)を逃れやすくなります。その結果、C末端の転写活性化領域を失った短いタンパク質がつくられ、正常なタンパク質の働きを妨げる(ドミナントネガティブ効果)、あるいは異常な機能を獲得すると考えられています。報告では、Genitopatellar症候群の変異は最終エクソンのより上流(5'側)に、ヤング・シンプソン症候群の変異はより下流(3'側)に集まる傾向があるとされ、変異の位置が症状の違いに関係すると推測されています。一方、より上流のエクソンにある変異や遺伝子欠失による単純な機能不足(ハプロ不全)でも、比較的軽い本症候群様の表現型を示す例が報告されています。発症の仕組みには、まだ解明されていない点が残っています。
ヤング・シンプソン症候群の症状
- 眼瞼裂狭小・眼瞼下垂: まぶたの開きが小さく垂れ下がる、本症候群で最も特徴的な所見です。程度が強いと視界が遮られ、弱視や頭を後ろに傾ける姿勢の原因になります。
- 仮面様顔貌・特徴的顔立ち: 表情の乏しい顔、丸く大きな鼻先、小さな口、小下顎、耳の形の異常などがみられます。涙道閉塞(鼻涙管の異常)を伴うこともあります。
- 知的障害・発達遅滞: 中等度から重度の知的障害が多いとされ、特に言語発達の遅れが目立ち、発語がごく限られる例もあります。運動発達(首すわり・歩行)も遅れます。
- 筋緊張低下・哺乳障害: 新生児期・乳児期に体がやわらかく、吸う力が弱いため、経管栄養が必要になることがあります。胃食道逆流や誤嚥を伴うこともあります。
- 先天性甲状腺機能低下症: 甲状腺の低形成などにより、かなりの割合で甲状腺機能低下症を合併します。治療せずにいると発達や成長に影響するため、早期発見と治療が重要です。
- 先天性心疾患: 心房中隔欠損、心室中隔欠損、卵円孔開存などが報告されています。多くは比較的軽症ですが、手術が必要な場合もあります。
- 長い母指・母趾と四肢の異常: 親指や足の親指が長いことが特徴とされます。関節の拘縮(固さ)や過伸展、内反足などを伴うことがあります。
- 膝蓋骨の低形成・脱臼: 膝のお皿(膝蓋骨)が小さい、ない、または脱臼しやすいことがあり、歩行の不安定さの一因になります。
- 生殖器の異常: 男児では停留精巣や陰嚢の低形成がよくみられます。女児でも外陰部の形の違いが報告されています。
- 口腔・歯の異常: 口蓋裂や高口蓋、歯の低形成、萌出の遅れ、歯列不正などがみられることがあります。
- 難聴: 伝音性または感音性の難聴を合併する例があり、言語発達の遅れを悪化させる要因になります。
- 行動・情緒・睡眠の特性: 不安の強さ、自閉スペクトラム症様の特性、常同行動、睡眠障害などが報告されています。けいれん発作を伴う例もあります。
ヤング・シンプソン症候群の経過と合併症
本症候群は進行性の神経変性疾患ではありません。発達はゆっくりですが、年齢とともに少しずつ伸びていくのが一般的です。新生児期から乳児期は、筋緊張低下と哺乳障害、甲状腺機能低下症、心疾患への対応が中心になります。この時期の栄養管理と甲状腺ホルモン補充が、その後の発達に大きく影響します。幼児期には、運動発達の遅れ(独歩の獲得が遅い、獲得できない例もある)、言語の遅れ、眼瞼下垂による視機能への影響が課題になります。学童期以降は、知的障害への教育的支援、行動・情緒面の特性への対応、関節・膝蓋骨・脊柱など整形外科的な問題の管理が中心になります。重症度は個人差が大きく、同じ診断名でも、簡単な会話ができ歩行も自立する方から、重度の知的障害と運動障害をもつ方まで幅があります。成人期の長期的な経過については、報告がまだ限られています。
注意すべき合併症には次のようなものがあります。乳児期の誤嚥性肺炎や体重増加不良、未治療の甲状腺機能低下症による発達・成長への影響、心疾患による心不全、眼瞼下垂や屈折異常による弱視、涙道閉塞による結膜炎・涙嚢炎、難聴による言語発達のさらなる遅れ、停留精巣に伴う将来の不妊や腫瘍化のリスク、膝蓋骨脱臼や関節拘縮による歩行障害などです。てんかん、歯科疾患、便秘、睡眠障害も生活の質に影響します。また、意思を言葉で伝えにくいため、痛みや体調不良が行動の変化としてしか現れないことがあり、周囲が気づきにくい点に注意が必要です。
ヤング・シンプソン症候群の診断・診断基準
診断は、特徴的な顔貌(眼瞼裂狭小・眼瞼下垂・仮面様顔貌)、発達遅滞・筋緊張低下、甲状腺機能低下症、心疾患、長い母指・母趾、膝蓋骨異常、停留精巣などの組み合わせから本症候群を疑うことに始まります。最終的には遺伝学的検査でKAT6B遺伝子の病的変異を確認して確定します。指定難病の診断基準も、主要な臨床症状と遺伝学的検査結果を組み合わせた形で定められています。顔貌の特徴は年齢とともに変化し、ほかの先天異常症候群と重なる部分も多いため、臨床遺伝専門医や小児科(遺伝・神経)専門医による評価が勧められます。診断がついた後は、合併しうる臓器障害を系統的に調べ、多くの診療科で管理する体制を整えます。
- 臨床的評価(身体所見・発達歴): 眼瞼、顔面、手足の指、膝、外性器などの形態を詳しく観察し、発達の経過を確認します。症状の組み合わせから本症候群やGenitopatellar症候群、ほかのOhdo症候群類縁疾患を疑います。
- 遺伝学的検査(KAT6B解析): KAT6B遺伝子の解析、または次世代シークエンサーによる遺伝子パネル・エクソーム解析で病的変異を同定すると、確定診断になります。最終エクソンの短縮型変異が典型的で、両親の解析で新生変異であることが確認されることが多いです。保険適用や実施施設は主治医に確認が必要です。
- 甲状腺機能検査: TSH・遊離T4を測定し、甲状腺超音波検査で低形成などを確認します。新生児マススクリーニングで陽性になることもありますが、診断後も定期的な再評価が必要です。
- 心エコー検査: 心房中隔欠損、心室中隔欠損、卵円孔開存などの先天性心疾患の有無と重症度を評価します。診断時には全例で行うことが望ましいとされます。
- 眼科的評価: 眼瞼下垂の程度、視力・屈折異常、弱視のリスク、涙道閉塞の有無を評価し、手術の適応やタイミングを判断します。
- 聴力検査: 新生児聴覚スクリーニングの結果を確認し、必要に応じてABR(聴性脳幹反応)や行動聴力検査で難聴の種類と程度を評価します。
- 骨格X線・整形外科的評価: 膝蓋骨の低形成・脱臼、股関節、手足の骨、脊柱の状態を確認し、関節拘縮や側弯の有無を評価します。
- 頭部MRI・脳波: 脳の構造異常の有無を確認し、けいれん発作が疑われる場合は脳波検査でてんかんの評価を行います。
- 泌尿生殖器評価・発達検査: 男児では停留精巣の位置を超音波などで確認します。新版K式発達検査などで発達の程度を評価し、療育計画に役立てます。
ヤング・シンプソン症候群と鑑別すべき疾患
- Genitopatellar症候群(KAT6B関連): 同じKAT6B遺伝子が原因ですが、膝蓋骨欠損、外性器異常、股・膝の屈曲拘縮、脳梁欠損、腎嚢胞などがより目立ち、眼瞼所見は軽い傾向があります。中間型も存在します。
- Maat-Kievit-Brunner型Ohdo症候群: MED12遺伝子が原因のX連鎖性疾患で主に男性が発症し、眼瞼裂狭小と知的障害を示します。遺伝形式と原因遺伝子で区別します。
- 眼瞼裂狭小・眼瞼下垂・逆内眼角贅皮症候群(BPES): FOXL2遺伝子異常による疾患で、眼瞼の所見は似ていますが、通常は知的障害や甲状腺・心臓の異常を伴いません。
- シュワルツ・ヤンペル症候群: 眼瞼裂狭小と表情の乏しさを示しますが、ミオトニー(筋硬直)と骨異形成が主体で、原因遺伝子(HSPG2)も異なります。
- マーデン・ウォーカー症候群: 仮面様顔貌、眼瞼裂狭小、関節拘縮を示し、本症候群と重なる部分がありますが、臨床像と遺伝学的検査で区別します。
- ヌーナン症候群: 眼瞼下垂と心疾患、発達遅滞を伴うことがありますが、肺動脈弁狭窄や肥大型心筋症、翼状頸などが特徴で、RAS/MAPK経路の遺伝子が原因です。
ヤング・シンプソン症候群の治療
現在、KAT6B遺伝子の異常そのものを治す根本的な治療法はありません。治療は、一人ひとりに現れている症状や合併症に対する対症療法と、発達・生活を支える支援が中心です。乳児期には栄養、甲状腺、心臓、眼の問題への対応が優先されます。その後は療育、教育、整形外科・歯科などの継続的な管理へと重点が移ります。小児科(遺伝・神経・内分泌・循環器)、眼科、耳鼻咽喉科、整形外科、泌尿器科、形成外科、歯科、リハビリテーション科、臨床遺伝部門、医療ソーシャルワーカーなど多職種による包括的な診療が望まれます。それぞれの治療の適応や時期は、主治医や専門医とよく相談して決めることが大切です。
- 甲状腺ホルモン補充療法: 甲状腺機能低下症があれば、レボチロキシンなどの甲状腺ホルモン製剤を内服します。定期的な血液検査で用量を調整し、成長・発達への影響を最小限にします。
- 栄養・摂食嚥下支援: 哺乳障害には、哺乳方法の工夫、経鼻胃管、必要に応じて胃瘻による栄養管理を行います。言語聴覚士による摂食嚥下訓練や、胃食道逆流への対応も検討します。
- 先天性心疾患の管理: 小児循環器専門医が経過を観察し、欠損孔の大きさや心不全の有無に応じて、カテーテル治療や外科手術が検討されます。
- 眼科治療(眼瞼下垂手術・弱視治療): 視界を遮る眼瞼下垂には、眼瞼挙上術(前頭筋つり上げ術など)を検討します。屈折矯正や遮閉法による弱視治療、涙道閉塞の処置も行います。
- 停留精巣の手術: 男児の停留精巣には、一般に乳幼児期の適切な時期に精巣固定術が検討されます。
- 整形外科的治療とリハビリテーション: 膝蓋骨脱臼、関節拘縮、内反足、側弯に対し、装具療法、理学療法、必要に応じて手術を行います。理学療法・作業療法で運動機能と日常生活動作の向上を図ります。
- 聴覚・言語・コミュニケーション支援: 難聴には補聴器などを用い、口蓋裂があれば形成手術を行います。発語が少ない場合は、サイン、絵カード、コミュニケーション機器などの補助代替コミュニケーション(AAC)の活用も有効とされます。
- 療育・特別支援教育: 早期からの児童発達支援や療育、就学後の特別支援教育により、本人の力を最大限に伸ばします。行動や睡眠の課題には、環境調整や行動療法を基本とし、必要に応じて薬物療法も検討します。
- 歯科・てんかんなどの個別管理: 歯の低形成や歯列不正には、小児歯科・障害者歯科で継続的に管理します。てんかんがあれば抗てんかん薬による治療を行います。
ヤング・シンプソン症候群の予後・長期フォロー
生命予後は、主に合併する心疾患や乳児期の呼吸・栄養の問題に左右されます。重い合併症がない場合や、適切に治療・管理されている場合には、成人期まで生活している例が多く報告されています。ただし症例数が少ないため、長期の生命予後や成人期の健康状態について確かな統計はありません。知的障害や言語の遅れは生涯続くことが多いですが、発達は年齢とともに少しずつ伸びます。療育・教育・福祉支援を受けながら、家庭や施設、地域で生活されている方が多くいます。生活の質(QOL)を保つには、甲状腺機能の適切な管理、視覚・聴覚の補正、コミュニケーション手段の確保、行動面への支援が重要です。
長期的なフォローアップとしては、次のような項目を年齢に応じて定期的に評価することが勧められます:成長と栄養状態、甲状腺機能、心臓(術後を含む)、視力と眼瞼、聴力、歯科、関節・脊柱、てんかんの有無、行動・睡眠・精神面。小児期から成人期への移行期には、小児科から成人診療科への引き継ぎ(移行期医療)、福祉サービスの切り替え、成年後見制度などの将来設計を早めに考えておくことが大切です。思春期以降は、二次性徴の確認や、停留精巣の手術歴がある方の精巣の経過観察も必要です。
ヤング・シンプソン症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、まず誤嚥や体調変化に注意してください。食事は本人の嚥下機能に合わせた食形態と姿勢で行い、むせや発熱が続く場合は早めに相談します。甲状腺ホルモン剤は毎日決まった時間に飲み、自己判断で中断しないことが大切です。眼瞼下垂がある場合は、見えにくさから転倒やけがをしやすくなることがあります。家具の配置や段差に配慮し、膝蓋骨が不安定な場合は装具や靴の工夫も役立ちます。言葉で伝えにくいお子さんでは、普段と違う行動(不機嫌、自傷、睡眠の乱れ)が痛みや体調不良のサインであることがあるため、日々の様子を記録しておくと受診時に役立ちます。遺伝については、ほとんどの患者さんは両親に変異がない新生変異のため、きょうだいが同じ疾患になる確率は一般に低いと考えられています。ただし、親の生殖細胞にだけ変異が存在する場合(生殖細胞系列モザイク)があり、再発の可能性はゼロではありません。患者さん本人が子をもつ場合、理論上は50%の確率で変異が受け継がれます。次の妊娠や出生前診断などについては、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。
利用できる制度・相談窓口
ヤング・シンプソン症候群は指定難病(告示番号196)です。診断基準を満たし、重症度分類で一定以上の重症度に該当する場合、または高額な医療を継続する必要がある場合(軽症高額該当)には、難病の医療費助成制度で医療費の自己負担が軽減されます。申請には難病指定医による臨床調査個人票が必要で、窓口はお住まいの都道府県・指定都市の担当課や保健所です。18歳未満(継続の場合は20歳未満まで)のお子さんは、小児慢性特定疾病医療費助成の対象となる場合があります。対象疾病名や、甲状腺機能低下症・先天性心疾患など合併症での申請の可否は、主治医や自治体に確認してください。そのほか、療育手帳、身体障害者手帳(肢体・視覚・聴覚・心臓などの障害の程度による)、特別児童扶養手当、障害児福祉手当、障害福祉サービス(児童発達支援、放課後等デイサービス、居宅介護、短期入所など)、補装具・日常生活用具の給付、成人後の障害基礎年金(20歳前に初診日のある障害として)などが利用できる可能性があります。医療的ケアが必要な場合は、医療的ケア児支援センターも相談先になります。相談窓口としては、難病相談支援センター、保健所、病院の医療ソーシャルワーカー、市区町村の障害福祉担当課・相談支援事業所、難病情報センターのウェブサイトなどがあります。
ヤング・シンプソン症候群に伴う心のケア・心理社会的支援
まれな先天異常症候群の診断は、家族にとって大きな衝撃となります。診断までに時間がかかることも多く、その間の不安や、「自分のせいではないか」という罪悪感、将来への見通しの立たなさから、抑うつ・不安・適応障害を生じる保護者は少なくありません。本症候群では、乳児期から哺乳や通院、手術が重なり、療育や学校の調整、行動・睡眠の問題への対応が長く続きます。そのため、主な介護者の睡眠不足や身体的疲労、社会的な孤立が起こりやすくなります。患者数がきわめて少ないため、同じ診断の家族と出会いにくいことも、この疾患に特有の負担です。また、ほとんどが新生変異であり、親の行動や遺伝が原因ではないことを正しく理解することは、罪悪感をやわらげる助けになります。きょうだい児が寂しさや遠慮を抱えることもあるため、その心のケアにも目を向けてください。患者さん本人も、成長とともに不安や環境の変化への弱さが目立つことがあり、精神科・児童精神科や心理職の支援が役立つ場合があります。つらさを一人で抱え込まず、主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー、心理士、難病相談支援センター、先天異常症候群の家族会などに早めに相談してください。レスパイト(短期入所など)を活用して休息をとることも、長く介護を続けるために大切です。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
ヤング・シンプソン症候群の受診の目安
- ミルクや食事の量が明らかに減った、むせ込みが続く、体重が増えない・減っている場合は、早めに主治医を受診してください。
- 発熱とともに呼吸が速い・苦しそう、顔色や唇の色が悪い(チアノーゼ)場合は、誤嚥性肺炎や心不全の可能性があるため、速やかに受診または救急要請してください。
- けいれん発作が5分以上続く場合、意識が戻らないまま発作を繰り返す場合は、救急車を呼んでください。
- 活気がない、むくみ、便秘の悪化、成長の停滞など、甲状腺機能の悪化を疑う変化があれば受診してください。
- 目やにや涙が続く、片目を使わない・極端に近づいて見るなど、目の異常に気づいたときは眼科を受診してください。
- 急に歩かなくなった、膝や股関節を痛がる、触ると嫌がるなどの変化は、脱臼や骨折の可能性があるため整形外科を受診してください。
ヤング・シンプソン症候群についてのよくある質問
Q. 親の遺伝が原因ですか?次の子にも起こりますか?
A. ほとんどの場合、KAT6B遺伝子の変化はお子さんに新しく生じたもので、両親から受け継いだものではありません。そのため、次の子が同じ疾患になる確率は一般に低いと考えられています。ただし、親の生殖細胞にだけ変化がある可能性もゼロではないため、詳しくは遺伝カウンセリングで相談してください。
Q. X連鎖遺伝で男の子だけがなる病気だと聞きましたが本当ですか?
A. いいえ、本症候群の主な原因は常染色体上のKAT6B遺伝子で、男女ともに発症します。X連鎖性のPORCN遺伝子は限局性真皮低形成という別の病気の原因で、誤って記載された情報が見られることがあるので注意してください。
Q. まぶたの手術はいつ受けるのがよいですか?
A. 眼瞼下垂が瞳孔を覆って視界を遮り、弱視の恐れがある場合は、比較的早い時期に手術を検討することがあります。手術の方法や時期は、下垂の程度や全身状態によって異なるため、眼科・形成外科の専門医とよく相談してください。
Q. 話せるようになりますか?
A. 言語発達の遅れは本症候群でとくに目立つ特徴で、程度には大きな個人差があります。難聴の治療、言語聴覚療法、サインや絵カード、コミュニケーション機器などを組み合わせることで、意思を伝える力を伸ばすことが期待できます。早めに療育機関と連携することが大切です。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。