完全大血管転位症
Complete Transposition of the Great Arteries (TGA)
完全大血管転位症(Complete Transposition of the Great Arteries (TGA))|完全大血管転位症(TGA)は、大動脈が右心室から、肺動脈が左心室から出る先天性心疾患で、生まれた直後から強いチアノーゼ(皮膚や唇が青紫色になる状態)を起こします。治療しなければ多くが乳児期早期に亡くなる重い病気ですが、新生児期の緊急管理と動脈スイッチ手術の進歩で、現在は大多数の子どもが成人期まで成長できるようになりました。一方で、手術後も生涯にわたる循環器専門医の経過観察が必要です。
完全大血管転位症の要点
完全大血管転位症(TGA)は、大動脈が右心室、肺動脈が左心室から出る先天性心疾患で、全身と肺の血液循環が並列になり、生後まもなく強いチアノーゼが現れます。新生児期の緊急管理と動脈スイッチ手術で多くが成人まで成長できますが、術後も生涯の経過観察が必要で、指定難病の対象です。
| 別名・略称 | TGA、d-TGA、完全型大血管転位症、大血管転位症、完全型大血管転位 |
|---|---|
| 分野 | 循環器・先天性心疾患 |
| 発症時期 | 出生直後から症状が出現 |
| 主な症状 | 強いチアノーゼ(皮膚や唇の青紫色) |
| 病型分類 | I型(心室中隔欠損なし)・II型(心室中隔欠損あり)・III型(心室中隔欠損+肺動脈狭窄) |
| 主な治療 | 新生児期の緊急管理(バルーン心房中隔裂開術など)、動脈スイッチ手術 |
| 術後の管理 | 生涯にわたる循環器専門医の経過観察 |
| 受診する主な診療科 | 小児循環器科、心臓血管外科 |
完全大血管転位症とは
正常な心臓では、全身から戻った酸素の少ない血液は右心房・右心室から肺動脈を通って肺へ送られ、肺で酸素を受け取った血液は左心房・左心室から大動脈を通って全身へ送られます。完全大血管転位症では心房と心室のつながりは正常(房室一致)ですが、心室と大血管のつながりが逆(心室大血管不一致)になっています。そのため、全身から戻った静脈血は再び大動脈から全身へ、肺から戻った動脈血は再び肺へ送られます。2つの循環が直列ではなく並列に回る状態です。出生後に生きるには、卵円孔(心房中隔の穴)、動脈管、心室中隔欠損(VSD)などを通じて左右の血液が混ざること(ミキシング)が欠かせません。なお「修正大血管転位症」は房室も心室大血管も両方不一致のため血行動態が生理的に保たれる別の疾患で、本症とは区別されます。
日本では合併病変によって3つの型に分ける分類が広く使われています。I型は心室中隔欠損がない型(心室中隔が保たれている型)で、最も多い病型です。II型は心室中隔欠損を伴う型、III型は心室中隔欠損に加えて肺動脈狭窄(左室流出路狭窄)を伴う型です。大動脈縮窄や大動脈弓離断、冠動脈の走行の異常、房室弁の異常を伴うこともあり、手術方法の選択に影響します。治療の歴史をみると、1950〜60年代に心房内で血流の向きを入れ替えるSenning手術・Mustard手術(心房スイッチ手術)が開発され、1966年にはRashkindがカテーテルによるバルーン心房中隔裂開術(BAS)を報告しました。1969年には心室中隔欠損と肺動脈狭窄を伴う例に対するRastelli手術が考案されました。1975年にはJateneが大血管と冠動脈を付け替える動脈スイッチ手術(ASO)に成功し、1980年代以降はこれが標準的な根治術として定着しています。
完全大血管転位症の疫学・患者数
完全大血管転位症は先天性心疾患全体の約3〜5%を占め、出生数千人に1人程度(およそ出生1万人あたり2〜3人)とされます。新生児期にチアノーゼを示す先天性心疾患のなかでは代表的な疾患です。日本の年間出生数から推計すると、新たに生まれる患者さんは年間およそ150〜250人前後と考えられます。性差は明らかで、男児に多く(およそ2:1)みられます。ほかの先天性心疾患と比べて、染色体異常や心臓以外の奇形を伴う頻度は低いとされます。母体の糖尿病が危険因子の一つとして報告されています。胎児心エコーでの出生前診断の割合は年々高まっています。ただし、四腔断面像が正常に見えるため、ほかの重症心疾患より見逃されやすい傾向があると指摘されています。外科治療の成績が向上した結果、成人期に達した患者さん(成人先天性心疾患患者)は増え続けています。
完全大血管転位症の原因・病態生理
原因はまだ完全には解明されていません。大部分は家族歴のない孤発例で、単一の原因遺伝子による典型的な遺伝形式はとりません。一方、きょうだいの再発率は一般集団よりわずかに高いとされ、複数の遺伝的要因と環境要因が関わる多因子性の発症が考えられています。左右軸の決定(内臓の左右の配置)に関わる遺伝子の変異が一部の症例で報告されており、内臓錯位症候群との関連も議論されています。ただし、日常診療で原因遺伝子を特定できることはまれです。環境要因としては母体糖尿病などの関与が報告されていますが、特定のウイルス感染や薬剤が原因であるという確かな証拠は乏しいのが現状です。家族が「妊娠中の行動のせいではないか」と自分を責める必要はありません。
胎生期の心臓では、心臓の出口にあたる流出路(円錐動脈幹)がらせん状の隆起によって大動脈と肺動脈に分かれ、同時に回転しながら左右の心室とつながります。正常では肺動脈弁下の円錐が残り、大動脈弁下の円錐は吸収されます。この過程で逆に、大動脈弁下の円錐が残って肺動脈弁下の円錐が吸収されたり、流出路の回転が不十分だったりすると、大動脈が前方で右心室から、肺動脈が後方で左心室から出る配置になると考えられています。胎児期は肺がほとんど働かず、卵円孔と動脈管を通じて血液が循環するため、子宮内での発育はおおむね保たれます。ところが出生後に動脈管と卵円孔が閉じ始めると、並列循環の間で血液が混ざらなくなり、全身に届く酸素が急速に不足します。その結果、強い低酸素血症と代謝性アシドーシス(乳酸の蓄積)が起こります。全身に届く酸素の量は、2つの循環の間で実際に交換される血液の量、つまり肺で酸素化された血液のうち全身に回る量(有効体血流量)で決まります。この交換には心房間交通の大きさが最も重要です。心室中隔欠損が大きい例では混ざり方が良いためチアノーゼは軽くなりますが、肺への血流が多すぎて心不全になりやすくなります。さらに、肺血管が早い時期から不可逆的に傷み(肺血管閉塞性病変)、肺高血圧が進みやすいことも本症の特徴です。
完全大血管転位症の症状
- 中心性チアノーゼ: 生後数時間〜数日で唇・舌・体幹全体が青紫色になります。酸素を吸入してもほとんど改善しないのが特徴です。
- 重度の低酸素血症: I型でミキシングが少ないと、経皮的酸素飽和度(SpO2)が60%台以下まで下がることがあります。動脈管が閉じると急激に悪化します。
- 多呼吸(頻呼吸): 低酸素やアシドーシスを補おうとして呼吸が速くなります。初期には陥没呼吸などの努力呼吸が目立たないことも多いとされます。
- 代謝性アシドーシス・ショック: 組織への酸素供給不足で乳酸がたまり、顔色不良・末梢の冷感・脈が触れにくいなどのショック症状に進むことがあります。
- 哺乳不良: 飲む力が弱い、すぐ疲れる、飲みながら汗をかくなどがみられます。
- 心不全症状(主にII型): 大きな心室中隔欠損があると、生後数週以降に多呼吸、哺乳時の発汗、肝腫大、体重増加不良などの心不全症状が目立ってきます。
- 体重増加不良: エネルギー消費の増加と摂取不足が重なり、成長曲線から外れていきます。
- 逆転性分離チアノーゼ: 肺高血圧や大動脈縮窄を伴う場合、動脈管を通じて酸素の多い血液が下半身に流れ、足のSpO2が手より高くなることがあります。本症を疑う重要な手がかりです。
- 心雑音: I型では目立つ雑音がないことも多く、雑音がないことが重症心疾患の否定にはなりません。II・III型では心室中隔欠損や肺動脈狭窄による雑音が聞かれます。
- 活気低下・不機嫌: 低酸素が進むと反応が乏しくなり、ぐったりします。緊急対応が必要なサインです。
完全大血管転位症の経過と合併症
未治療の場合の自然歴は非常に厳しく、生後1か月以内に約半数、1年以内に大多数が亡くなるとされてきました。経過は病型で大きく異なります。I型では、動脈管と卵円孔が閉じる生後数時間〜数日に重篤な低酸素とアシドーシスが起こり、緊急治療が必要です。また、肺動脈につながる左心室は出生後に肺血管抵抗が下がると低い圧に慣れてしまい、心筋が薄く弱くなっていきます。そのため、全身に血液を送る力を保てる生後2〜3週以内に動脈スイッチ手術を行うのが原則です。II型ではチアノーゼが比較的軽い一方、肺血流が多いことによる心不全と肺血管病変が早く進むため、生後数か月以内の根治術が勧められます。III型では肺血流が制限されるため、ファロー四徴症に似たチアノーゼを示し、段階的な手術が選ばれることがあります。
新生児期の合併症には、低酸素性の臓器障害(脳・腎・腸管)、壊死性腸炎、新生児遷延性肺高血圧症の合併、プロスタグランジン製剤による無呼吸や発熱があります。また、脳の未熟性と低酸素の影響で、脳室周囲白質軟化症などの脳障害が起こることが報告されています。動脈スイッチ手術後の遠隔期合併症として重要なのは、肺動脈の付け替え部(弁上部)や左右の肺動脈分枝の狭窄、新大動脈基部(もとの肺動脈弁と根部)の拡大、新大動脈弁閉鎖不全、移植した冠動脈の狭窄・閉塞による心筋虚血です。心房スイッチ手術を受けた世代では、全身に血液を送る右心室の機能低下と三尖弁閉鎖不全、洞機能不全、心房粗動などの上室性不整脈、心房内に作った血液の通り道(バッフル)の狭窄や漏れ、突然死が問題になります。Rastelli手術後には、右室と肺動脈をつなぐ導管の狭窄や劣化が起こり、導管交換が必要になります。
完全大血管転位症の診断・診断基準
出生前に胎児心エコーで診断されていれば、心臓外科のある周産期センターで計画的に出産し、出生直後から治療を始められます。出生前診断のほうが術前の状態や神経学的予後が良いという報告もあります。出生後は、強いチアノーゼや新生児のSpO2スクリーニングでの低値をきっかけに疑われます。心エコーで確定診断し、同時に心房間交通の大きさ、動脈管、心室中隔欠損、流出路狭窄、冠動脈の走行を評価します。これらの情報が、緊急BASの必要性と手術方法の決定に直結します。新生児期の診断は心エコーでほぼ完結し、心臓カテーテル検査は主にBASなどの治療目的で行われます。
- 胎児心エコー: 三血管断面(3VV)で大動脈と肺動脈が平行に走る、本来の配置が見られないなどの所見から出生前診断が可能です。卵円孔が狭い、動脈管が細いなどの所見は、出生直後の高リスクを予測する手がかりになります。
- パルスオキシメトリ(上下肢SpO2測定): 右手と足のSpO2を測り、低値や上下肢の差を確認します。本症では足のほうが高い逆転性分離チアノーゼがみられることがあり、早期発見に役立ちます。
- 高濃度酸素負荷試験: 高濃度酸素を吸入しても動脈血酸素分圧がほとんど上がらない場合、肺の病気より心臓内の右左短絡やミキシング不全が疑われます。ただし、動脈管に依存する病態では酸素が動脈管閉鎖を促す可能性があるため、慎重に行います。
- 血液ガス分析・乳酸値: 低酸素血症の程度と代謝性アシドーシスの有無を評価し、BASなどの緊急介入が必要かを判断する指標になります。
- 胸部X線検査: 大血管が前後に重なるため上縦隔が細く、卵を糸で吊るしたような心陰影(egg on a string)を示すことがあります。ただし新生児早期には典型像がそろわないことも多く、診断的価値は限られます。
- 心電図: 新生児期は正常範囲の右室優位所見のことが多く、特異的な所見はありません。術後の虚血性変化や不整脈の評価には重要です。
- 経胸壁心エコー(確定診断): 後方の大血管が左心室から出てすぐに左右へ分かれる(肺動脈)こと、前方の大血管が右心室から出ること(大動脈)を確認して診断を確定します。心房間交通、動脈管、心室中隔欠損、左室流出路狭窄、冠動脈の走行パターン、左室の形態と壁厚も評価します。
- 心臓カテーテル検査・造影: 新生児ではBASのために行うことが中心です。冠動脈の走行が判断しにくい場合や、術後の狭窄・肺高血圧の評価、カテーテル治療(バルーン拡張など)にも用いられます。
- CT・心臓MRI・負荷検査(術後): 遠隔期には、冠動脈CT、心臓MRI(心室機能、新大動脈基部の径、肺動脈狭窄)、運動負荷試験や心筋シンチグラフィで、虚血や運動耐容能を評価します。
完全大血管転位症と鑑別すべき疾患
- 新生児遷延性肺高血圧症(PPHN): 肺血管抵抗が下がらないことで右左短絡が起こり、高度チアノーゼや上下肢のSpO2差を示しますが、心エコーで心内構造が正常であることで区別します。
- ファロー四徴症・心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症: チアノーゼを示しますが、大動脈が心室中隔にまたがって騎乗し肺血流が減っている点で区別され、III型との鑑別には心エコーでの大血管の起始部位の確認が重要です。
- 両大血管右室起始症(Taussig-Bing型): 肺動脈弁下に心室中隔欠損があると血行動態がTGAに似ますが、両方の大血管が主に右心室から出ている点で区別されます。
- 総肺静脈還流異常症(閉塞型): 高度チアノーゼと呼吸障害を示しますが、肺静脈が左心房につながっていないことと、胸部X線での肺うっ血像が特徴です。
- 三尖弁閉鎖症・純型肺動脈閉鎖症・左心低形成症候群: いずれも動脈管に依存する重症心疾患ですが、心エコーで房室弁や心室の低形成、閉鎖部位を確認して区別します。
- 呼吸器疾患・敗血症: 肺炎や呼吸窮迫症候群、敗血症では酸素投与でSpO2が改善しやすく、胸部X線の肺野所見や炎症所見が手がかりになりますが、最終的には心エコーで心疾患を除外します。
完全大血管転位症の治療
治療は、①出生直後に血液のミキシングを確保して全身状態を安定させる段階と、②解剖学的な根治手術の段階に分かれます。重症例では出生直後から集中治療が必要なため、出生前診断がついている場合は小児心臓外科と新生児集中治療室(NICU)のある施設での出産が望まれます。根治術としては、I型・II型の多くで動脈スイッチ手術が第一選択です。III型では左室流出路狭窄の程度により、Rastelli手術などが選択されます。左心室の機能、冠動脈の走行、合併病変、受診した時期などによって最適な戦略は異なるため、具体的な治療方針は専門施設の小児循環器医・心臓外科医とよく相談して決めることが大切です。
- 初期安定化(新生児集中治療): 保温、輸液、アシドーシスの補正、必要に応じて人工呼吸管理を行います。肺血管抵抗を上げないよう管理しながら、酸素の需要と供給のバランスを整えます。
- プロスタグランジンE1製剤の持続静注: 動脈管を開いた状態に保ち、肺血流を増やしてミキシングを助けます。無呼吸、発熱、低血圧などの副作用があるため、呼吸を監視しながら使用します。
- バルーン心房中隔裂開術(BAS、Rashkind法): 心房間交通が小さく低酸素が強い場合に、カテーテル先端のバルーンで心房中隔を裂いて穴を広げ、心房レベルでのミキシングを改善します。ベッドサイドで心エコーを見ながら行うこともあります。
- 動脈スイッチ手術(Jatene手術): 大動脈と肺動脈を弁の上で切り離して付け替え、左右の冠動脈をボタン状に切り取って新しい大動脈(もとの肺動脈根部)へ移植します。多くは肺動脈を大動脈の前に移すLecompte法を併用し、I型は原則として生後2〜3週以内、II型では心室中隔欠損の閉鎖も同時に行います。
- 左室トレーニング・補助手段: 診断が遅れて左心室が弱くなったI型では、肺動脈絞扼術(必要に応じて体肺動脈短絡術を追加)で左心室に圧をかけて鍛えてから動脈スイッチ手術を行う二期的手術や、一期的手術に術後の補助循環(ECMOなど)を組み合わせる方法が検討されます。
- Rastelli手術とその変法(III型など): 左心室から心室中隔欠損を通して大動脈へ血液が流れる通路を心臓内に作り、右心室と肺動脈を導管でつなぎます。REV手術やNikaidoh手術(大動脈転位術)などの変法もあり、新生児期にまず体肺動脈短絡術(BTシャント)を行って成長を待つこともあります。
- 心房スイッチ手術(Senning/Mustard手術): 心房の中で静脈血の流れの向きを入れ替える手術で、現在は特殊な例に限られます。過去にこの手術を受けた成人では、右室不全や不整脈の管理が重要です。
- 遠隔期のカテーテル治療・再手術: 肺動脈分枝の狭窄に対するバルーン拡張術やステント留置、肺動脈弁上部の狭窄の形成術、新大動脈基部の拡大や弁閉鎖不全に対する手術、冠動脈病変への治療、Rastelli導管の交換などが必要に応じて行われます。
- 内科的管理・不整脈治療: 心機能が低下した場合の心不全治療薬、不整脈に対する薬物療法・カテーテルアブレーション・ペースメーカー・植込み型除細動器などを、病状に応じて専門医が検討します。
完全大血管転位症の予後・長期フォロー
動脈スイッチ手術の成績は大きく向上し、経験豊富な施設での早期手術死亡は数%以下と報告されています。冠動脈の走行が複雑な例、大動脈弓の病変を合併する例、術前の状態が悪い例ではリスクが高まります。手術を乗り切った患者さんの長期生存率は良好で、術後20〜30年の生存率は90%を超えるとする報告が多く、大多数が通常の学校生活や就労、スポーツを楽しんでいます。一方で、手術後も一部の患者さんで再手術やカテーテル治療が必要になります。新生児期の低酸素や手術の影響で、発達のゆっくりさ、注意欠如・多動症状、学習面の困難などが、一般の子どもよりやや多くみられることが報告されています。心房スイッチ手術を受けた世代では、成人期に右室不全や不整脈が増えます。Rastelli手術後は導管交換を繰り返すことが前提になるため、術式によって長期の見通しは異なります。
根治術を受けた後も「完治」ではなく、生涯にわたる定期的な経過観察が勧められます。小児期は小児循環器科で心エコー、心電図、必要に応じてホルター心電図や運動負荷試験を受けます。成長に伴い、新大動脈基部の拡大、新大動脈弁閉鎖不全、肺動脈狭窄、冠動脈の状態をCTやMRIで評価します。冠動脈は移植されているため、移植部が狭くなったり閉塞したりしても狭心症の症状が出にくいことがあり、症状がなくても計画的な検査が大切です。思春期から成人期には、小児科から成人先天性心疾患を専門とする循環器内科への移行期医療が重要になります。この時期に通院が途切れる「フォロー脱落」を防ぐことが、長期予後を守るうえで大きな課題です。
完全大血管転位症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
動脈スイッチ手術後で心機能や遺残病変に問題がなければ、多くの場合は日常生活や運動の制限はほとんど必要ありません。ただし、競技スポーツや強い運動の可否は、運動負荷試験などの結果をもとに主治医が個別に判断します。学校では学校生活管理指導表を活用し、園や学校と情報を共有しておくと安心です。予防接種は通常通り受けるのが原則ですが、手術時期との兼ね合いは主治医に確認してください。人工物を使った手術後や遺残短絡がある場合などは感染性心内膜炎のリスクが高まるため、虫歯予防と定期的な歯科受診が大切です。歯科治療時の抗菌薬予防投与の要否は主治医と歯科医で相談します。女性が妊娠・出産を考える場合、動脈スイッチ手術後で経過が良好であれば多くは妊娠可能とされますが、心房スイッチ手術後や心機能低下・不整脈がある場合はリスクが高くなります。妊娠前から循環器医と産科医に相談する「プレコンセプションカウンセリング」が勧められます。本症の多くは孤発性で、きょうだいや子どもへの再発率は低いものの、一般集団よりやや高いとされます。次の妊娠や本人の将来の妊娠に不安がある場合は、遺伝カウンセリングや胎児心エコーの利用について主治医に相談するとよいでしょう。
利用できる制度・相談窓口
完全大血管転位症は指定難病(告示番号209)に指定されており、診断基準と重症度基準(心機能、不整脈、遺残病変などにより判定)を満たす場合、医療費助成の対象になります。また、軽症でも高額な医療費が継続する場合は、軽症高額該当として認定される仕組みがあります。18歳未満(継続する場合は20歳未満まで)では小児慢性特定疾病医療費助成制度(慢性心疾患)の対象となることが多く、手術などには自立支援医療(育成医療、18歳以上では更生医療)や、自治体の乳幼児・子ども医療費助成も利用できます。心機能障害の程度によっては身体障害者手帳(心臓機能障害)の交付を受けられ、障害の状態に応じて特別児童扶養手当や障害児福祉手当、20歳以降は障害年金の対象となる可能性があります。申請や相談の窓口は、お住まいの都道府県・指定都市・中核市の保健所や担当窓口、病院の医療ソーシャルワーカー、各都道府県の難病相談支援センター、小児慢性特定疾病の自立支援事業などです。成人期への橋渡しとしては、各地の移行期医療支援センターや成人先天性心疾患の専門外来も活用できます。患者家族会では、同じ病気の家族との情報交換も可能です。
完全大血管転位症に伴う心のケア・心理社会的支援
出生直後に重い心臓病を告げられ、NICUで緊急処置や大きな手術を受ける経験は、家族にとって強い衝撃です。母親を中心に、産後うつや不安障害、心的外傷後ストレス症状が生じることが知られています。退院後も「また悪くなるのでは」という不安から過保護になったり、きょうだいへの関わりが手薄になったりと、家族全体に影響が及ぶことがあります。本人は成長するにつれ、胸の手術痕へのコンプレックス、運動や進学・就職・結婚・妊娠への不安、通院や検査の負担を抱えることがあります。思春期・青年期には病気への向き合い方が揺らぎ、通院が途切れやすくなります。成人先天性心疾患の患者さんでは、抑うつや不安の頻度が高いとの報告もあります。また、発達や学習面の特性が見過ごされると、学校での不適応につながることがあります。気分の落ち込み、眠れない、何事にも興味が持てないといった状態が続く場合は、一人や家族だけで抱え込まず、主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士、地域の保健師などに早めに相談してください。必要に応じて、発達評価や心理的支援、精神科・心療内科の受診につなげることが大切です。
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完全大血管転位症の受診の目安
- 新生児・乳児の唇や舌、体が青紫色になっている、または色が急に悪くなった場合は、すぐに救急受診してください。
- 呼吸が速い・苦しそう、ぐったりして反応が乏しい、手足が冷たく顔色が悪い場合は、直ちに救急要請を検討してください。
- 哺乳量が明らかに減った、飲むたびに大量に汗をかく、体重が増えない場合は、早めに主治医を受診してください。
- 術後の子どもや成人が、胸痛、運動時の息切れの悪化、失神、動悸、脈の乱れを感じた場合は、速やかに受診してください(冠動脈病変や不整脈の可能性があります)。
- 原因のはっきりしない発熱が数日以上続く場合は、感染性心内膜炎の可能性も考え、心臓病があることを伝えて受診してください。
- 妊娠を希望・判明したときや、引っ越し・進学などで通院先が変わるときは、必ず事前に主治医へ相談してください。
完全大血管転位症についてのよくある質問
Q. 出生前に診断されたら、どこで産めばよいですか?
A. 出生直後にプロスタグランジン製剤の投与やBASが必要になる可能性があるため、小児循環器科・心臓外科・NICUがそろった周産期センターでの計画分娩が勧められます。分娩施設は、胎児診断をした施設の医師とよく相談して決めてください。
Q. 動脈スイッチ手術を受ければ、普通の生活ができますか?
A. 多くの患者さんは、通常の保育・学校生活や就労、スポーツを楽しめるまで回復しています。ただし、肺動脈の狭窄や新大動脈の拡大、冠動脈の問題が後から現れることがあるため、症状がなくても生涯にわたる定期検査が大切です。
Q. 次の子どもも同じ病気になりますか?
A. 本症の多くは孤発例で、きょうだいの再発率は低いとされていますが、一般集団よりはやや高いと考えられています。次の妊娠では胎児心エコーで確認する方法があるので、主治医や遺伝カウンセリングで相談してください。
Q. 大人になったら、どの病院にかかればよいですか?
A. 思春期以降は、成人先天性心疾患を専門とする循環器内科への移行が勧められます。小児期の手術記録などの情報を引き継ぎ、通院を中断しないことが最も重要です。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。