単心室症
Single Ventricle
単心室症(Single Ventricle)|単心室症は、生まれつき心臓に有効に働く心室が実質的に一つしかなく、その一つの心室が全身と肺の両方へ血液を送り出している先天性心疾患です。多くは胎児期や新生児期に見つかります。乳児期から幼児期にかけて段階的な手術(最終的にはフォンタン型手術)を受け、その後も生涯にわたる専門的な経過観察が必要です。治療成績の向上で成人期を迎える患者さんが増え、肝臓・不整脈・妊娠出産・就労など、成人期特有の課題への対応が重要になっています。
単心室症の要点
単心室症は、有効に働く心室が実質的に一つしかなく、その心室が全身と肺の両方へ血液を送る先天性心疾患で、国の指定難病です。多くは胎児期・新生児期に見つかり、チアノーゼや心不全症状がみられ、段階的手術(最終的にフォンタン型手術)と生涯の経過観察が必要です。
| 別名・略称 | 単心室、両室流入型心室、double inlet ventricle、univentricular heart、UVH |
|---|---|
| 分野 | 循環器・先天性心疾患 |
| 好発年齢 | 多くは胎児期・新生児期に発見 |
| 主な症状 | チアノーゼ、心不全症状(合併する心奇形により異なる) |
| 主な検査 | 心エコー検査、心臓カテーテル検査、CT・MRI |
| 主な治療 | 段階的手術(最終的にフォンタン型手術) |
| 経過観察 | 成人期も生涯にわたる専門的な経過観察が必要 |
| 受診する主な診療科 | 小児循環器科、心臓血管外科、循環器内科(成人先天性心疾患) |
単心室症とは
単心室症は、左右の心房から流入する血液の大部分または全部を一つの心室が受け、その心室が体循環(全身)と肺循環の両方を担う状態をいいます。解剖学的には、両方の房室弁(または共通房室弁)が一つの主心室につながる両室流入型心室(double inlet ventricle)が典型です。もう一方の心室は、存在しても流入路を欠く痕跡的な副心室(流出腔)にとどまります。主心室の形態から、左室型(最も多い)、右室型、不定型(どちらとも判別できない)に分けられます。左室型では、主心室と副心室をつなぐ交通孔(球室孔)を経て、副心室から大血管の一方が起始することが多くみられます。なお臨床では、三尖弁閉鎖症、左心低形成症候群、高度不均衡型房室中隔欠損など、二心室での修復が困難な疾患をまとめて「機能的単心室」と呼び、同じ治療戦略(フォンタン型手術を目標とする段階的手術)をとります。日本の指定難病では、三尖弁閉鎖症や左心低形成症候群などは別の疾患として扱われています。
単心室の分類と呼び方には歴史的な変遷があります。Van Praaghらは主心室の形態による分類を、Andersonらは房室接続の様式(univentricular atrioventricular connection)に着目した分類を提唱しました。現在は、心房・心室・大血管の位置関係と接続を順に記述する区分診断法(segmental approach)で表現するのが一般的です。単心室症では大血管転位(主心室から肺動脈、副心室から大動脈が出る型)、肺動脈狭窄・閉鎖、大動脈縮窄・弓部離断、球室孔の狭小化による体心室流出路狭窄などを合併しやすく、これらの組み合わせで病態と治療方針が大きく変わります。無脾症候群・多脾症候群などの内臓錯位症候群(ヘテロタキシー)に合併する例も多く、その場合は共通房室弁や肺静脈還流異常を伴い、より複雑になります。治療面では、1971年にFontanらが報告した右心バイパス手術が転換点となりました。その後、心房肺動脈吻合から、上下大静脈を直接肺動脈につなぐTCPC(total cavopulmonary connection)へと改良され、現在は心外導管を用いたTCPCが広く行われています。かつて試みられた心室中隔造成術(中隔を人工的に作り二心室に分ける手術)は、適応がきわめて限られます。なお、既存の解説にあるラステリ手術は、大血管転位などで二心室修復を行う術式であり、通常の単心室症の根治術ではありません。
単心室症の疫学・患者数
先天性心疾患は出生のおよそ1%にみられ、単心室症はそのうち数%未満を占むまれな疾患とされます。三尖弁閉鎖症や左心低形成症候群などを含む機能的単心室全体でも、先天性心疾患のうち数%程度と考えられています。報告によって定義(狭義の両室流入型か、機能的単心室全体か)が異なるため、正確な発生頻度や国内患者数は一概には示せません。ほとんどは胎児心エコーや出生直後のチアノーゼ・心雑音・心不全症状をきっかけに、胎児期から新生児期、遅くとも乳児期早期に診断されます。性差についての明確な一定の傾向は確立していません。内臓錯位症候群の合併頻度は、日本を含む東アジアで比較的高いとする報告があります。手術成績の向上により、国内ではフォンタン手術後の患者さんが年々増え、成人期に達した方が相当数にのぼっています。このため、成人先天性心疾患(ACHD)診療の主要な対象の一つとなっています。
単心室症の原因・病態生理
単心室症のはっきりした原因は多くの場合わかっておらず、複数の遺伝的要因と環境要因が関わる多因子性の疾患と考えられています。大部分は家族歴のない孤発例です。ただし同胞での再発率は一般集団より高いとされ、先天性心疾患全体では同胞再発率が数%程度と報告されています。内臓錯位症候群に伴う例では、左右軸の決定や繊毛機能に関わる遺伝子の異常が報告されています。一部では染色体異常や遺伝症候群に合併しますが、単心室症に特異的な単一の原因遺伝子は確立していません。母体の糖尿病(血糖管理不良)、一部の薬剤への曝露、母体の感染症などは先天性心疾患全般のリスク因子とされます。しかし個々の症例で原因を特定できることはまれです。
心臓は胎生3〜8週ごろに、管状の原始心筒がループを形成し、房室管の位置調整、心室中隔の形成、流出路の分割を経て四つの部屋を持つ形になります。単心室症は、この過程で房室管が一方の心室の上に偏ったまま固定されることなどで生じると考えられています。その結果、両方の房室弁が一つの心室に開き、他方の心室は流入路を欠いて発育しません。生まれた後は、全身から戻った酸素の少ない静脈血と、肺から戻った酸素の多い血液が一つの心室内で混ざり、並列につながった体循環と肺循環へ同時に送り出されます。このため動脈血酸素飽和度は通常75〜85%前後に下がります。肺と全身への血流の配分(Qp/Qs)は、肺動脈狭窄の有無と程度、および肺血管抵抗と体血管抵抗のバランスで決まります。肺動脈狭窄が強いと肺血流が不足し、強いチアノーゼが出ます。狭窄がないと、生後に肺血管抵抗が下がるにつれて肺血流が過剰になり、心不全と肺高血圧(放置すると肺血管の不可逆的な変化)を招きます。球室孔狭窄や大動脈縮窄で体心室の流出路が狭い場合は、全身への血流を動脈管に頼る「動脈管依存性体循環」となり、動脈管が閉じるとショックに陥ります。さらに単一の心室は、本来二つの心室が分担する容量負荷を一つで受けるため、長期的には心室拡大、収縮・拡張機能の低下、房室弁逆流が進みやすくなります。
単心室症の症状
- チアノーゼ: 静脈血と動脈血が心室内で混ざるため、口唇・爪床・皮膚が青紫色になります。肺動脈狭窄が強い型や、泣いた時・哺乳時に目立ちやすいのが特徴です。
- 多呼吸・陥没呼吸: 肺血流が多い型では、生後数週で肺うっ血が進んで呼吸が速く浅くなります。肋骨の間がへこむ努力呼吸がみられることもあります。
- 哺乳不良・体重増加不良: 心不全や低酸素のため哺乳中に疲れて休みがちになり、必要なエネルギーをとれず体重が増えにくくなります。
- 多汗: 心不全で交感神経が緊張するため、哺乳時や睡眠中に頭部を中心に汗を多くかきます。
- 心雑音: 肺動脈狭窄、房室弁逆流、球室孔狭窄などに伴う雑音が聴かれます。雑音の目立たない例もあり、雑音の大きさは重症度と一致しません。
- ショック・末梢循環不全: 動脈管依存性の体循環または肺循環では、動脈管が閉じると顔色不良、四肢冷感、代謝性アシドーシスが急速に進みます。緊急治療が必要です。
- 肝腫大・浮腫: 乳児期には心不全による肝腫大がみられます。フォンタン術後は中心静脈圧の上昇により、むくみや腹水が生じることがあります。
- 運動耐容能の低下: フォンタン循環では運動時に心拍出量を十分増やせないため、同年代と比べて息切れや疲れやすさが目立つことが多くあります。
- ばち指: 長く続く低酸素血症により、指先が太鼓のばちのように丸く膨らみます。フォンタン術後でも酸素飽和度が低い例ではみられます。
- 動悸・失神: 心房頻拍(心房内リエントリー性頻拍など)や徐脈性不整脈により、動悸、めまい、失神が起こることがあります。術後遠隔期に増えます。
- 脳梗塞・脳膿瘍による神経症状: 右左短絡のため静脈系の血栓や細菌が脳に達し、片麻痺、けいれん、発熱を伴う頭痛などを生じることがあります。
単心室症の経過と合併症
自然歴は、肺血流と体血流のバランスで大きく異なります。治療しない場合、肺血流が多い型では乳児期に心不全で亡くなるか、生き延びても肺血管閉塞性病変が進んでフォンタン手術の適応を失います。肺血流が少ない型では高度の低酸素血症が続き、動脈管依存性の例は動脈管が閉じると新生児期に急変します。いずれも無治療での長期生存はまれです。現在の標準的な経過は次の3段階です。第1期(新生児〜乳児早期):肺血流量を適正化する姑息術を行います。肺血流が少なければ体肺動脈短絡術、多ければ肺動脈絞扼術を選び、体心室流出路狭窄にはDamus-Kaye-Stansel吻合やノルウッド型手術を行います。第2期(多くは生後3〜6か月以降):上大静脈を肺動脈に直接つなぐ両方向性グレン手術を行います。第3期(おおむね1〜4歳ごろ):下大静脈血も肺動脈へ導くフォンタン手術(TCPC)を行います。これで静脈血と動脈血の混合はほぼ解消し、心室の容量負荷も減ります。各段階の前には心臓カテーテル検査などで、肺動脈の太さ、肺動脈圧・肺血管抵抗、心室機能、房室弁逆流を評価し、次の段階に進めるかを判断します。
フォンタン循環は、心室のポンプを介さずに静脈圧だけで肺へ血液を流すしくみです。このため中心静脈圧が慢性的に高く、心拍出量が少ない状態が生涯続き、年余にわたって多臓器に影響が及びます。主な遠隔期合併症は次のとおりです。不整脈:心房頻拍、洞機能不全、房室ブロックなど。血栓塞栓症:導管内血栓、肺塞栓、脳梗塞。心室機能低下と房室弁逆流。フォンタン関連肝疾患(FALD):うっ血による肝線維化・肝硬変で、肝細胞癌の報告もあります。蛋白漏出性胃腸症(PLE):腸から蛋白が漏れ、低アルブミン血症、浮腫、免疫低下を起こします。鋳型気管支炎:気管支内にゴム状の鋳型が形成されます。側副血行:静脈-静脈側副血行による低酸素血症、体肺側副動脈による容量負荷。そのほか、腎機能障害、骨密度低下、成長・思春期の遅れ、神経発達上の課題(学習・注意など)もみられます。これらが重なり循環が維持できなくなった状態は「フォンタン不全(failing Fontan)」と呼ばれ、心臓移植が検討されることがあります。
単心室症の診断・診断基準
近年は妊娠中の胎児心エコーで診断される例が増えています。胎児診断された場合は、小児循環器・心臓血管外科・新生児科を備えた施設で計画分娩とすることが推奨されます。出生後にチアノーゼ、心雑音、多呼吸、哺乳不良、パルスオキシメータでの酸素飽和度低下などで疑われた場合は、まず心エコーで心房・心室・大血管の位置関係と接続を区分診断法で系統的に評価し、二心室修復が可能か、単心室としての治療を選ぶかを判断します。動脈管依存性かどうかの判断は初期治療に直結するため最優先です。その後、段階的手術の各時期に心臓カテーテル検査やCT・MRIで血行動態と形態を詳しく評価します。指定難病の申請では、診断基準に沿って画像検査などで単心室の形態を確認するとともに、心不全の程度などの重症度基準を満たすかを主治医が判定します。
- 胎児心エコー: 妊娠中期以降の四腔断面などで、心室が一つしか認められない、房室弁が一つの心室に流入するといった所見から出生前診断が可能です。出生後の治療計画や分娩施設の選択に役立ちます。
- パルスオキシメトリ・血液ガス: 動脈血酸素飽和度の低下の程度は、肺血流量の目安になります。新生児期の乳酸値上昇や代謝性アシドーシスは、体循環不全(動脈管閉鎖など)の重要な警告サインです。
- 心エコー(経胸壁): 診断の中心となる検査です。主心室の形態、房室弁の数・形態・逆流、球室孔の大きさ、大血管の位置関係、肺動脈狭窄や大動脈縮窄、動脈管、心房間交通、肺静脈還流を評価します。術後の心室機能評価にも繰り返し用います。
- 心電図: 主心室の形態を反映した異常な電気軸や心室肥大のパターンがみられます。房室ブロックや心房頻拍などの不整脈の検出、術後の経過観察にも欠かせません。
- 胸部X線検査: 心拡大の程度と肺血管陰影(肺血流の増加または減少)から、肺循環の状態を推定します。胸水や鋳型気管支炎などの術後合併症の評価にも用います。
- 心臓カテーテル検査・心血管造影: 肺動脈圧、肺血管抵抗、心室拡張末期圧、肺動脈の太さ、側副血行を測定・描出し、グレン手術やフォンタン手術の適応を判断します。肺動脈の拡張や側副血行の塞栓などのカテーテル治療も同時に行えます。
- 心臓CT・MRI: 肺動脈・大動脈弓・肺静脈・体静脈の立体的な形態を詳しく評価します。MRIでは心室容積・駆出率や、肺動脈ごとの血流配分を非侵襲的に定量できます。
- 血液検査(BNP・肝機能・アルブミンなど): BNP/NT-proBNPは心負荷の指標です。フォンタン術後は、肝機能、血小板数、アルブミン、腎機能などを定期的に測り、FALDやPLEの早期発見に役立てます。
- 腹部超音波・肝臓評価、心肺運動負荷試験: フォンタン術後の遠隔期には、肝線維化(エラストグラフィなど)や肝腫瘍のスクリーニングを行います。運動耐容能(最大酸素摂取量など)も定期的に評価し、予後や生活指導の目安とします。
単心室症と鑑別すべき疾患
- 三尖弁閉鎖症: 三尖弁が閉じて右房から右室への流入がなく、左室一つに血液が流入する点で、両房室弁が一つの心室に流入する両室流入型単心室と区別されます。
- 左心低形成症候群: 僧帽弁・大動脈弁の狭窄または閉鎖と左室の高度低形成を特徴とし、右室が体循環を担います。動脈管依存性の体循環である点が典型的です。
- 大きな心室中隔欠損(二心室修復可能例): 二つの心室がそれぞれ十分な大きさと房室弁を持つため、欠損孔の閉鎖で二心室修復が可能な点で区別されます。
- 不均衡型房室中隔欠損: 共通房室弁が一方の心室に偏って開き、他方の心室が低形成になります。程度によって二心室修復と単心室治療のどちらを選ぶかが分かれます。
- 両大血管右室起始症(心室低形成を伴う型): 両大血管が右室から起始する疾患です。心室の大きさと心室中隔欠損の位置によっては二心室修復が困難となり、機能的単心室として扱われます。
- 心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症: 肺動脈弁が閉鎖し右室が低形成な疾患です。右室の発育が不十分な場合はフォンタン型手術の対象となり、右室依存性冠循環の有無が鑑別上・治療上の要点です。
単心室症の治療
単心室症では、心臓を二つの心室に分ける「解剖学的な根治」は通常できません。治療の目標は、一つの心室を体循環専用として働かせ、静脈血は心室を通さず直接肺へ流すフォンタン循環を確立することです。そのために、肺血管床を良好に保つ(肺動脈を十分に育て、肺血管抵抗を低く保つ)こと、心室機能と房室弁機能を守ること、体心室流出路の狭窄を解除することが、各段階で一貫して重視されます。新生児期の内科的安定化、段階的な外科手術、カテーテル治療、術後の内科管理を、小児循環器医、心臓血管外科医、麻酔科医、集中治療医、看護師、成人期には成人先天性心疾患専門医や肝臓内科医などが連携して担います。手術の時期や術式は解剖と血行動態によって個別に決まるため、主治医チームとよく相談して方針を決めることが大切です。
- 新生児期の内科的管理(プロスタグランジンE1製剤など): 動脈管依存性の例では、プロスタグランジンE1製剤の持続点滴で動脈管を開いておき、手術まで循環を維持します。肺血流過多の例では利尿薬の使用、酸素投与の調整などで肺と体の血流バランスを保ちます。
- 体肺動脈短絡術(BTシャントなど)・動脈管ステント: 肺血流が不足する例で、鎖骨下動脈などと肺動脈を人工血管でつなぎ肺血流を確保する姑息術です。施設によってはカテーテルで動脈管にステントを留置する方法も選ばれます。
- 肺動脈絞扼術: 肺血流が多すぎる例で、肺動脈をテープで絞って肺血流を制限する手術です。心不全を改善し、将来のフォンタン手術に必要な低い肺血管抵抗を守ることが目的です。
- 体心室流出路狭窄の解除(DKS吻合・ノルウッド型手術・大動脈弓再建): 球室孔狭窄や大動脈縮窄・弓部低形成がある場合に、肺動脈と大動脈を吻合したり大動脈弓を再建したりして、主心室から全身への流出を確保します。
- 両方向性グレン手術: 多くは生後3〜6か月以降に、上大静脈を肺動脈に直接つなぐ手術です。心室の容量負荷を減らしつつ酸素飽和度を改善し、フォンタン手術への中間段階となります。
- フォンタン手術(TCPC): 肺動脈圧・肺血管抵抗が低く心室機能・房室弁機能が保たれていることを確認したうえで、おおむね1〜4歳ごろに、下大静脈を心外導管などで肺動脈につなぐ手術です。リスクが高い例では、導管と心房の間に小さな孔(開窓、fenestration)を開けて術後の循環を安定させることがあります。
- 術後の薬物療法: 血栓予防として抗血小板薬(アスピリンなど)またはワルファリンなどの抗凝固薬を用います。必要に応じて、利尿薬、心不全治療薬、抗不整脈薬が使われます。肺血管拡張薬が試みられることもありますが、適応や有効性は個別に判断されます。
- カテーテル治療・ペースメーカ・不整脈治療: 肺動脈や導管の狭窄に対するバルーン拡張・ステント留置、側副血行のコイル塞栓などを行います。徐脈性不整脈にはペースメーカ、心房頻拍にはカテーテルアブレーションや電気的除細動が行われます。
- フォンタン不全・合併症への対応と心臓移植: PLEや鋳型気管支炎には、利尿薬、ステロイド、リンパ管へのインターベンションなどが試みられますが、治療は難しいことが多い領域です。内科・カテーテル・再手術で改善しない重症例では、心臓移植が検討されます。
単心室症の予後・長期フォロー
段階的手術と周術期管理の進歩で、単心室症の生命予後は大きく改善しました。現在では多くの患者さんがフォンタン手術に到達し、学童期・成人期を迎えています。TCPC導入後の世代では、術後20年生存率が8割を超えるとの報告もあり、日常生活を送りながら就学・就労する方が多数います。一方で予後は、心室形態(右室型や内臓錯位症候群合併例は一般に不利とされます)、房室弁逆流の程度、肺動脈の発育、手術時の血行動態に左右されます。フォンタン循環そのものは「根治」ではなく、年齢とともに運動耐容能の低下、不整脈、肝障害などが徐々に進みうる「生涯付き合う循環」である点を理解しておくことが重要です。QOLは比較的良好な方が多いものの、激しい運動の制限や体力面の課題を抱えやすい傾向があります。
フォンタン術後は、症状がなくても定期的な専門外来受診が欠かせません。心エコー、心電図・ホルター心電図、血液検査、胸部X線を定期的に行い、数年ごとに心臓カテーテル検査、MRI、心肺運動負荷試験、肝臓の画像評価(超音波、エラストグラフィ、CT・MRIなど)を組み合わせます。思春期以降は、小児科から成人診療への移行(トランジション)が大きな課題で、受診中断は合併症の発見の遅れにつながります。成人先天性心疾患の専門外来や移行期医療支援の体制を活用し、本人が自分の病名、手術歴、内服薬を説明できるよう、学童期から段階的に自立を支援することが推奨されます。
単心室症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活での運動の可否や強度は、心機能と不整脈の有無によって異なるため、主治医が発行する学校生活管理指導表などに沿って調整します。過度に制限しすぎず、無理のない範囲の有酸素運動は体力維持に有益とされます。脱水は血栓や循環悪化の誘因になるため、発熱、下痢・嘔吐、暑い季節には十分に水分をとります。抗凝固薬を飲んでいる場合は、出血しやすさ、食事(ビタミンKを多く含む食品)、他の薬との相互作用に注意します。歯科治療や外科処置の際は必ず病名と内服薬を伝えます。感染性心内膜炎の予防には、日頃からの口腔ケアが大切です。予防接種は原則として通常どおり受け、インフルエンザなどの感染症対策も重要です。高地や飛行機での旅行、全身麻酔を伴う手術は事前に主治医へ相談します。女性の妊娠・出産は可能な場合もありますが、心不全、不整脈、血栓、流産のリスクが高いため、計画段階から循環器・産科の専門施設で評価を受け、避妊法の選択も含めて相談します。次の子どもの再発率や出生前診断については、遺伝カウンセリングで相談できます。
利用できる制度・相談窓口
単心室症は指定難病(告示番号210)に指定されており、診断基準と重症度基準を満たせば、難病指定医の診断書をもとに医療費助成(特定医療費)を申請できます。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では小児慢性特定疾病(慢性心疾患)の医療費助成の対象となり、成人期に指定難病の制度へ移行するのが一般的です。手術や心臓治療には、自立支援医療(18歳未満は育成医療、18歳以上は更生医療)が使える場合があります。心機能の状態によっては、身体障害者手帳(心臓機能障害)の交付を受けられ、税の控除、公共料金や交通機関の割引、就労支援などにつながります。20歳以降に一定の障害の状態にある場合は障害年金(先天性疾患のため多くは障害基礎年金)の対象となりうるほか、子どもの場合は特別児童扶養手当や障害児福祉手当が該当することがあります。相談窓口としては、病院の医療ソーシャルワーカー、各都道府県の難病相談支援センター、小児慢性特定疾病の自立支援事業、移行期医療支援センター、保健所などがあります。先天性心疾患の患者・家族会からも、経験に基づく情報や交流の機会を得られます。
単心室症に伴う心のケア・心理社会的支援
胎児期や新生児期に重い心臓病と告げられた家族は、強いショック、罪責感、将来への不安を抱えやすく、入院の長期化や複数回の手術によって心身ともに大きな負担を受けます。きょうだいへの影響や、仕事と看病の両立も課題です。本人は成長とともに、運動制限による周囲との違い、手術痕、繰り返す通院・検査、将来の合併症や寿命への不安に直面します。思春期には、病気を受け入れることや自立をめぐる葛藤から、抑うつ、不安、適応障害が生じることもあります。成人期には、就労、結婚、妊娠出産、保険加入などの具体的な悩みが加わります。単心室症の患者さんでは、注意・学習面の特性がみられる場合もあり、早期に発達評価を受け、教育的な支援を受けることが役立ちます。気持ちの落ち込みや不安が続くとき、眠れない・学校や仕事に行けないときは一人で抱え込まず、主治医、看護師、臨床心理士(公認心理師)、医療ソーシャルワーカー、患者会などに早めに相談してください。必要に応じて精神科・心療内科とも連携し、心のケアを治療の一部として受けることが大切です。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
単心室症の受診の目安
- 新生児・乳児で、急に顔色が悪くなる、手足が冷たくぐったりする、哺乳しない、呼吸が非常に苦しそうなときは、すぐに救急受診してください。
- チアノーゼがいつもより強い、パルスオキシメータの値が普段より明らかに低いときは、速やかに主治医に連絡してください。
- 動悸が続く、失神した、胸の痛みがあるときは、不整脈などの可能性があるため救急受診を検討してください。
- 片側の手足が動かしにくい、ろれつが回らない、けいれん、発熱を伴う強い頭痛があるときは、脳梗塞や脳膿瘍の可能性があり、ただちに救急受診してください。
- むくみ、腹部の張り、体重の急な増加、下痢の持続、黄疸がみられるときは、心不全やPLE、肝障害の可能性があるため、早めに受診してください。
- 発熱、嘔吐・下痢で水分がとれないとき、または原因不明の発熱が続くとき(感染性心内膜炎の可能性)は、早めに受診してください。
単心室症についてのよくある質問
Q. フォンタン手術を受ければ病気は治ったことになりますか?
A. フォンタン手術は、チアノーゼを改善し心臓の負担を減らす最終段階の手術ですが、心臓を正常な二つの心室に戻すものではありません。静脈圧が高い特殊な循環が生涯続くため、肝臓や不整脈などの合併症に備えて、定期的な専門外来でのフォローアップが必要です。
Q. 運動や部活動はできますか?
A. 多くの方は、日常生活や軽〜中等度の運動は可能です。適切な強度は心機能や不整脈の有無で異なります。学校生活管理指導表などで主治医が許容範囲を示すので、それを目安に、脱水に注意しながら楽しめる範囲で取り組むことが勧められます。
Q. 大人になって妊娠・出産はできますか?
A. 可能な場合もありますが、流産、早産、心不全、不整脈、血栓などのリスクが高いことが知られています。妊娠前から循環器と産科の専門施設で心機能などを評価し、内服薬の調整や分娩計画も含めて相談することが大切です。
Q. 次の子どもも同じ病気になりますか?
A. 多くは孤発例で、遺伝形式がはっきりしないことがほとんどです。ただし先天性心疾患の同胞再発率は数%程度とされ、一般集団での発生率(約1%)より高いと報告されています。次の妊娠では胎児心エコーで確認できるので、心配な場合は遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。