左心低形成症候群
Hypoplastic Left Heart Syndrome
左心低形成症候群(Hypoplastic Left Heart Syndrome)|左心低形成症候群(HLHS)は、左心室・僧帽弁・大動脈弁・上行大動脈が生まれつき著しく小さく、左心室が全身へ血液を送る役割を果たせない重症の先天性心疾患です。胎児期は動脈管を通じて右心室が全身に血液を送るため問題になりませんが、出生後に動脈管が閉じ始めるとショックに陥ります。新生児期からの段階的な手術でフォンタン循環をめざすのが基本で、生涯にわたる専門的な管理が必要です。
左心低形成症候群の要点
左心低形成症候群は、左心室・僧帽弁・大動脈弁・上行大動脈が生まれつき著しく小さく、左心室が全身に血液を送れない重症の先天性心疾患です。出生後に動脈管が閉じ始めるとチアノーゼやショック状態になり、新生児期からの段階的手術でフォンタン循環をめざす指定難病です。
| 別名・略称 | HLHS、左心低形成、hypoplastic left heart |
|---|---|
| 分野 | 循環器・先天性心疾患 |
| 好発年齢 | 新生児期(出生後に動脈管が閉じ始める頃から症状が出る) |
| 主な症状 | チアノーゼ、ショック(動脈管閉鎖に伴う) |
| 主な検査 | 心エコー検査 |
| 主な治療 | 新生児期からの段階的手術(第一期手術→グレン手術→フォンタン手術) |
| 受診する主な診療科 | 小児循環器科、心臓血管外科 |
| 公的制度 | 指定難病(告示番号211)・小児慢性特定疾病の対象 |
左心低形成症候群とは
左心低形成症候群は、左心系の構造が全体として低形成となり、体循環を左心室が担えない先天性心疾患の総称です。中心となる所見は、①僧帽弁の狭窄または閉鎖、②大動脈弁の狭窄または閉鎖、③左心室の高度な低形成、④上行大動脈の低形成(直径2〜3mm程度のこともある)、の組み合わせです。大動脈弓の低形成や大動脈縮窄を伴うことも多くあります。肺静脈から左心房に戻った血液は、心房間交通(卵円孔・心房中隔欠損)を通って右心房へ流れます。右心室は肺動脈へ血液を送り、そこから動脈管を経由して下行大動脈へ流れ、さらに逆行性に上行大動脈・冠動脈・頭頸部へ届きます。つまり体循環は動脈管に依存しており、典型的な「動脈管依存性体循環」の疾患です。生理学的には右心室を唯一の心室とする機能的単心室として扱われ、日本では指定難病(告示番号211)および小児慢性特定疾病の対象です。
病型は弁の形態により、僧帽弁狭窄/大動脈弁狭窄(MS/AS)、僧帽弁狭窄/大動脈弁閉鎖(MS/AA)、僧帽弁閉鎖/大動脈弁狭窄(MA/AS)、僧帽弁閉鎖/大動脈弁閉鎖(MA/AA)に分けられます。MA/AA では上行大動脈が特に細く、手術の難度が高いとされます。MS/AA では左心室内に冠動脈と交通する洞様血管(類洞)がみられることがあり、心内膜線維弾性症を伴う例もあります。左心室の大きさが二心室修復の可能性を残す境界域の例(ボーダーライン左心室)は別に扱われ、治療方針の判断が重要になります。歴史的には1980年代以前はほぼ救命できない疾患でしたが、Norwoodらによる第一期手術の確立、右室-肺動脈導管(日本で開発された佐野シャント)、両方向性グレン手術、フォンタン手術(特に心外導管を用いたTCPC)の普及、周術期管理の進歩により、長期生存が現実的な目標となりました。日本では、まず両側肺動脈絞扼術で状態を安定させてから第一期手術を行う段階的戦略も広く用いられています。
左心低形成症候群の疫学・患者数
欧米の報告では、出生1万人あたりおよそ2人前後で、先天性心疾患全体の2〜3%程度を占めるとされます。日本での頻度はこれよりやや低いとする報告もあります。新生児期に手術を受ける患者は全国で年間数十〜百数十人規模と推定されますが、正確な有病者数は明らかではありません。治療成績の向上により、近年は思春期・成人期に達したフォンタン循環の患者が増えています。性別では、男児にやや多い傾向が繰り返し報告されています。発症は胎児期の形態形成の異常によるもので、症状は動脈管が閉じる出生直後〜数日以内に現れます。現在は、妊婦健診の胎児超音波で出生前に診断される割合が高くなっています。
左心低形成症候群の原因・病態生理
多くの例は原因がはっきりせず、複数の遺伝要因と環境要因が関わる多因子性と考えられています。染色体異常では、ターナー症候群(45,X)、11番染色体長腕末端欠失(ヤコブセン症候群)、13・18トリソミーなどとの合併が知られています。単一遺伝子では、NOTCH1、NKX2-5、GJA1、MYH6、HAND1などの変異が一部の症例や家系で報告されています。ただし、単独の原因として説明できる例はわずかです。家族内集積がみられ、HLHS患者の同胞では、大動脈二尖弁や大動脈縮窄などの左心系閉塞性疾患を含む心疾患の頻度が一般より高いと報告されています。きょうだいの再発率は数%程度とされますが、家系によって異なります。他の心外奇形や遺伝学的症候群を合併する例は、手術成績や発達予後が不良になりやすいとされます。
発症機序としては「血流がなければ心室は育たない(flow-no-grow)」という仮説が有力です。胎児期に卵円孔の早期狭小化や大動脈弁狭窄などで左心系を通る血流が減ると、左心室の成長が妨げられ、二次的に低形成に至ると考えられています。妊娠中期に重症大動脈弁狭窄として見つかった胎児が、妊娠後期にHLHSへ進行する例が観察されていることが、この仮説を支えています。一方で、心筋細胞の増殖・分化そのものの障害が関わるとする研究もあります。出生後は肺血管抵抗が下がるため、右心室の拍出は肺へ流れやすくなり、体循環への血流が相対的に減ります(肺血流過多・体血流低下)。さらに生後数日で動脈管が閉じ始めると、体循環と冠動脈への血流が急激に減り、代謝性アシドーシス、多臓器不全、心原性ショックに陥ります。心房間交通が狭い、または閉じている例では、肺静脈血が左心房から出られず、出生直後から重い肺うっ血と低酸素血症をきたします。この病型は最重症で、緊急の心房中隔開大が必要です。
左心低形成症候群の症状
- チアノーゼ・低酸素血症: 肺静脈血と体静脈血が心房で混ざるため、程度の差はあれ酸素飽和度は低めです。新生児の経皮酸素飽和度スクリーニングで見つかることもあります。
- 多呼吸・陥没呼吸: 肺血流が増えすぎることによる肺うっ血や代謝性アシドーシスを反映し、呼吸が速く苦しそうになります。
- 末梢循環不全(四肢冷感・蒼白・網状皮斑): 体へ届く血流が減ると、手足が冷たく、まだら状の色になります。毛細血管再充満時間も延びます。
- 脈拍の減弱: 動脈管が閉じ始めると、四肢すべての脈が弱く触れにくくなります。大動脈縮窄単独の場合と異なり、上肢の脈も弱いのが特徴です。
- 哺乳不良・活気低下: 飲みが悪い、眠りがちで泣き声が弱いといった、非特異的ですが重要な早期徴候です。
- 乏尿: 腎血流が低下して尿量が減り、急性腎障害の徴候となります。
- 代謝性アシドーシス・乳酸上昇: 組織の低灌流により乳酸が蓄積します。ショックの進行度や治療効果をみる重要な指標です。
- 心音・心雑音の所見: Ⅱ音は単一で亢進し、右室拍動を強く触れます。目立つ雑音がないことも多く、聴診だけでは見逃されることがあります。
- 肝腫大: 右心不全やうっ血を反映して肝臓が腫れることがあります。
- 心原性ショック: 動脈管が閉じると急激に血圧が下がり、意識障害や多臓器不全に至ります。救命には迅速な治療が必要です。
左心低形成症候群の経過と合併症
治療をしなければ、動脈管が閉じるのに伴い多くは生後1〜2週間以内に死亡します。出生前に診断され、出生直後からプロスタグランジンE1の投与と循環管理を受けた児は、比較的安定した状態で手術に臨むことができます。治療後の経過は段階的です。第一期手術(ノーウッド手術、または両側肺動脈絞扼術を経たノーウッド手術)の後は、シャントに依存した不安定な循環となります。グレン手術までの「段階間期」は、予期しない急変や死亡が起こりやすい時期として知られており、家庭でのモニタリングを含めた厳重な観察が行われます。グレン手術、フォンタン手術を経ると循環は安定し、多くの子どもが通園・通学できるようになります。ただし、右心室が体心室として働き続けることや、フォンタン循環に特有の静脈圧上昇によって、年齢とともに臓器障害が少しずつ進むことがあります。
合併症は時期によって異なります。周術期・乳児期には、シャント狭窄や血栓による閉塞、新大動脈弓の再狭窄、三尖弁(体心室房室弁)逆流、右心機能低下、壊死性腸炎、感染症、脳障害(脳室周囲白質軟化を含む)などが問題になります。フォンタン循環に至った後は、上室性頻拍や洞機能不全などの不整脈、血栓塞栓症、体心室不全、蛋白漏出性胃腸症、鋳型気管支炎、肝線維化・肝硬変、まれに肝細胞癌を含むフォンタン関連肝疾患(FALD)、腎機能障害、運動耐容能の低下、チアノーゼの残存(静静脈側副血行や心房間の開窓による)などがみられます。神経発達面では、学習障害、注意欠如・多動症、微細運動の遅れなどの頻度が一般より高いと報告されており、早期からの評価と支援が重要です。
左心低形成症候群の診断・診断基準
多くは妊娠中期以降の胎児心エコーで、四腔断面で左心室が著しく小さいことをきっかけに疑われ、胎児循環の専門施設で確定されます。出生前に診断された場合は、小児心臓外科のある施設での計画分娩、出生直後のプロスタグランジンE1投与の準備、心房間交通が狭い場合の緊急処置の準備が整えられます。出生後に見つかる場合は、新生児ショック、チアノーゼ、哺乳不良などをきっかけに、心エコーで診断されます。診断がついた後は、病型、心房間交通の大きさ、上行大動脈径、三尖弁逆流、右心機能、冠動脈の異常、合併奇形などを評価し、治療戦略(両側肺動脈絞扼術から始めるか、ノーウッド手術を先行するか、ボーダーライン例で二心室修復をめざすか)を決めます。指定難病としては、心エコーなどの画像で特徴的な形態を確認することが診断の基本となり、重症度は日常生活の制限やチアノーゼの程度などで判定されます。
- 胎児心エコー: 左心室の低形成、僧帽弁・大動脈弁の狭窄や閉鎖、上行大動脈での逆行性血流、卵円孔での左→右短絡を確認します。肺静脈血流パターンから心房間交通の狭さを予測でき、出生直後の緊急処置の必要性を判断する材料になります。
- 新生児心エコー(ドプラ法を含む): 確定診断の中心となる検査で、左心室・弁輪径・大動脈弓の形態、動脈管と心房間の血流の向き、三尖弁逆流、右心機能を評価します。ボーダーライン例では、二心室修復が可能かどうかの判断にも用います。
- パルスオキシメトリー・上下肢血圧: 酸素飽和度の低下や上下肢差を確認し、スクリーニングや循環状態の把握に役立ちます。酸素飽和度は肺血流と体血流のバランス(Qp/Qs)の目安になります。
- 血液ガス・乳酸・生化学検査: 代謝性アシドーシス、乳酸上昇、腎機能・肝機能の悪化から、体の灌流障害の程度を評価します。治療効果の判定にも繰り返し用いられます。
- 胸部X線: 心拡大(右心系の拡大)と肺血管影の増強(肺うっ血)がみられます。心房間交通が閉じている例では、網状影を伴う高度の肺静脈うっ血が特徴的です。
- 心電図: 右軸偏位、右室肥大の所見と、左室起電力の低下がみられます。術後は不整脈の検出やモニタリングにも重要です。
- 心臓CT・MRI: 大動脈弓や肺動脈の形態、側副血行路を立体的に評価します。フォンタン手術後には、心室容積・機能や肝臓の評価にも用いられます。
- 心臓カテーテル検査: 診断目的で必須ではありませんが、グレン手術やフォンタン手術の前には、肺動脈圧、肺血管抵抗、心室拡張末期圧、肺動脈の形態を評価するために行われます。心房中隔裂開術やバルーン拡大術など、治療目的でも用いられます。
- 遺伝学的検査・合併奇形の評価: 顔貌の特徴や心外奇形がある場合などに、染色体検査やマイクロアレイ検査を検討します。頭部・腹部の超音波検査で合併病変を調べ、予後の説明や家族への遺伝カウンセリングに役立てます。
左心低形成症候群と鑑別すべき疾患
- 重症大動脈弁狭窄(新生児期): 左心室の大きさが保たれ、二心室修復が可能かどうかが最大の鑑別点で、左室容積や弁輪径などの指標で判断します。
- 大動脈縮窄・大動脈弓離断: どちらも動脈管依存性ですが、左心室と大動脈弁は機能しており、上下肢の血圧差や脈の差が目立ちます。
- 肺静脈還流異常(閉塞型): 高度の肺うっ血とチアノーゼを示しますが、左心室は小さくても形態は保たれており、心エコーで肺静脈の還流先を確認して区別します。
- 新生児敗血症: ショックや哺乳不良など症状が重なるため、心エコーで構造異常の有無を必ず確認します。
- 先天代謝異常症: アシドーシスや活気低下で似た症状を示しますが、高アンモニア血症や特異的な代謝物の異常があり、心臓の構造は正常です。
- 心筋症・心筋炎、その他の単心室疾患: 左心室の大きさは保たれ、収縮が低下していることが主な所見です。不均衡型房室中隔欠損などは、心室と房室弁の形態から鑑別します。
左心低形成症候群の治療
治療の目標は、右心室を唯一の体心室とするフォンタン循環に段階的に到達することです。出生直後は、プロスタグランジンE1で動脈管を開いたままにし、肺血流と体血流のバランスを保ちます。過剰な酸素投与は肺血管抵抗を下げて肺血流を増やし、体血流を減らすことがあるため、酸素の使い方には注意が必要です。第一期手術として、ノーウッド手術を新生児期に行う方法と、まず両側肺動脈絞扼術で肺血流を制限し、動脈管を開いたまま状態を整えてから乳児期早期にノーウッド手術(施設によってはグレン手術と同時)を行う方法があります。どちらを選ぶかは、施設の方針、児の体重や全身状態、合併症によって決まります。その後、生後数か月で両方向性グレン手術、1〜4歳ごろにフォンタン手術(TCPC)を行います。各段階の間には、カテーテル検査・治療による狭窄解除なども必要に応じて加わります。心機能が著しく悪い場合や手術の継続が難しい場合は心臓移植が選択肢となりますが、日本では小児のドナーが非常に限られています。また、治療を行わない緩和ケアを家族と話し合う施設もあります。いずれの方針も、病型や合併症、家族の価値観をふまえ、専門チームと十分に話し合って決めることが大切です。
- 新生児期の内科的管理(プロスタグランジンE1など): 動脈管を開いたままにして体循環を維持し、必要に応じて人工呼吸や強心薬で肺血流と体血流のバランスを調整します。心房間交通が狭い場合は、カテーテルによる心房中隔裂開術などで緊急に通り道を広げます。
- 両側肺動脈絞扼術(ハイブリッド戦略を含む): 左右の肺動脈を絞って肺血流の過剰を防ぎ、体循環を安定させる手術で、日本では多くの施設で第一段階として行われています。動脈管の開存は薬剤またはステントで維持します。
- ノーウッド手術(第一期手術): 肺動脈幹と低形成の大動脈をつないで大動脈弓を再建し(新大動脈)、心房中隔を切除します。肺血流は、右室-肺動脈導管(佐野シャント)または体肺動脈短絡(BTシャント)で確保します。
- 両方向性グレン手術(第二期手術): 生後数か月ごろに、上大静脈を肺動脈に直接つなぎ、上半身からの静脈血を受動的に肺へ流します。これにより右心室の容量負荷が軽くなります。
- フォンタン手術(TCPC、第三期手術): 下大静脈からの血液を人工血管(心外導管)などで肺動脈へ導き、全身の静脈血がポンプを介さずに肺へ流れる循環を完成させます。これにより体循環と肺循環が直列に分かれ、チアノーゼは改善します。必要に応じて開窓(フェネストレーション)を設けます。この手術は根治手術ではなく、単心室修復(機能的修復)にあたります。
- カテーテル治療: 大動脈弓の再狭窄や肺動脈狭窄に対するバルーン拡大術・ステント留置、側副血行路の塞栓術、開窓の閉鎖などを行い、再手術を減らします。
- 薬物療法: 心不全治療薬、利尿薬、不整脈に対する薬に加え、血栓予防のための抗血小板薬や抗凝固薬が用いられます。フォンタン循環の不全に対しては、肺血管拡張薬が検討されることもあります。薬剤の選択や適応は病態や施設によって異なります。
- 三尖弁形成術・ペースメーカー等の追加治療: 体心室房室弁の逆流には弁形成術が、徐脈性不整脈にはペースメーカーが行われることがあります。重症の頻拍にはカテーテルアブレーションが選択肢となります。
- 心臓移植・補助人工心臓: フォンタン循環の破綻や体心室の高度な機能不全に対する最終的な選択肢です。適応の判断と待機には、移植実施施設との連携が必要です。
左心低形成症候群の予後・長期フォロー
かつてはほぼ救命できない疾患でしたが、現在は段階的手術によって多くの子どもが学童期・成人期を迎えられるようになりました。ただし、生存率は施設や時代、病型、合併症によって大きく異なります。最もリスクが高いのは、第一期手術の周術期と、グレン手術までの段階間期です。リスク因子としては、低出生体重、早産、心房間交通の閉鎖・狭小、高度の三尖弁逆流、右心機能低下、遺伝学的症候群や心外奇形の合併などが知られています。フォンタン手術が完成すると比較的安定した生活を送れることが多い一方で、他の単心室疾患と比べると、体心室が右心室であることによる長期的な心機能低下のリスクが課題とされています。生活の質(QOL)は多くの場合良好で、通学や軽度〜中等度の運動、就労も可能な人が少なくありません。ただし、運動耐容能は健常者より低いのが一般的です。
生涯にわたる専門外来での経過観察が欠かせません。心エコー、心電図、ホルター心電図、運動負荷試験、血液検査(肝機能、蛋白、BNPなど)を定期的に行い、学童期以降は心臓カテーテル検査、MRI、肝臓の画像検査・線維化評価を一定の間隔で行うことが推奨されています。フォンタン関連肝疾患は症状がないまま進行することがあるため、消化器内科・肝臓専門医との連携が重要です。思春期以降は、小児循環器科から成人先天性心疾患(ACHD)の専門外来へ円滑に移行すること(移行期医療)が課題であり、本人が病名や手術歴、内服薬を自分で説明できるように準備していきます。神経発達のフォローアップ、歯科での口腔管理、予防接種、感染性心内膜炎の予防についても、計画的に進めます。
左心低形成症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
乳児期(特にグレン手術前)は、酸素飽和度の変化、哺乳量、体重の増え方、呼吸の様子を家庭でも観察します。主治医から指示された目安を外れたら、早めに連絡しましょう。脱水は血栓やシャント閉塞の引き金になるため、発熱、嘔吐、下痢のときは早めに受診します。予防接種は原則として推奨され、RSウイルス感染予防の抗体製剤の対象になることもあるので、主治医に確認してください。抗凝固薬を飲んでいる場合は、出血症状、食事や他の薬との相互作用、外傷に注意し、歯科治療や手術の前には必ず服薬内容を伝えます。運動は一律に禁止するのではなく、運動負荷試験の結果などをもとに、学校生活管理指導表で個別に許容範囲を決めます。高地への旅行、長時間のフライト、脱水には注意が必要です。喫煙は避け、飲酒にも注意します。成人女性の妊娠・出産は、母体にも胎児にもリスクが高いため、計画段階から成人先天性心疾患と産科の専門チームに相談し、避妊方法も含めて事前にカウンセリングを受けることが大切です。きょうだいの心疾患リスクや次の妊娠時の胎児心エコーについては、遺伝カウンセリングで相談できます。
利用できる制度・相談窓口
左心低形成症候群は指定難病であり、重症度基準を満たす場合や、軽症でも医療費が高額な場合(軽症高額該当)には、難病医療費助成制度の対象となります。18歳未満(継続の場合は20歳未満)は、小児慢性特定疾病医療費助成の対象疾患です。手術には自立支援医療(育成医療・更生医療)が利用できる場合があります。心臓機能障害として身体障害者手帳の交付対象となることが多く、税の控除、交通機関の割引、各種福祉サービスにつながります。子どもでは特別児童扶養手当や障害児福祉手当、成人では障害年金(心疾患による障害)を申請できる可能性があります。医療的ケアが必要な場合は、訪問看護や医療的ケア児支援センター、保育・教育現場での支援も活用できます。相談窓口としては、病院の医療ソーシャルワーカー、都道府県・指定都市の難病相談支援センター、小児慢性特定疾病の自立支援員、保健所、各地の移行期医療支援センター、先天性心疾患の患者会・家族会などがあります。
左心低形成症候群に伴う心のケア・心理社会的支援
出生前診断の告知、新生児期の大手術、長期入院、繰り返す手術や検査は、家族に強い不安や抑うつ、心的外傷後ストレス反応をもたらすことがあります。とくに出生前診断の直後や段階間期は、保護者が強い緊張状態に置かれやすい時期です。きょうだいへの配慮や、就労と付き添いの両立も大きな負担になります。患児本人も、成長とともに運動制限、手術痕、友人との違い、将来の就労・結婚・妊娠への不安などを抱え、思春期には服薬や通院を中断してしまう例もあります。成人先天性心疾患の患者では、不安障害やうつ病の頻度が高いと報告されています。つらさを一人や家族だけで抱え込まず、主治医、看護師、臨床心理士、医療ソーシャルワーカー、患者会に早めに相談することが大切です。必要に応じて、精神科や心療内科の支援も受けられます。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
左心低形成症候群の受診の目安
- 唇や顔色が普段より明らかに紫色になった、または酸素飽和度が主治医から指示された範囲を下回ったときは、すぐに受診してください。
- 呼吸が速く苦しそう、ぐったりしている、手足が冷たくまだら色になっている、尿が極端に少ないときは、救急受診が必要です。
- 哺乳量や食事量が急に減った、嘔吐・下痢が続き脱水が心配なときは、早めに連絡・受診してください。
- 動悸、失神、意識がおかしい、手足の麻痺や言葉のもつれ(脳梗塞の疑い)があるときは、救急車を呼んでください。
- むくみ、腹部の張り、体重の急な増加、長引く下痢や咳、気管支の形をした痰が出るときは、フォンタン循環の合併症の可能性があるため、早めに専門医を受診してください。
- 原因のはっきりしない発熱が続くときや、抗凝固薬を飲んでいて出血が止まりにくいときも受診してください。
左心低形成症候群についてのよくある質問
Q. 出生前に診断されました。出産はどこでするべきですか?
A. 出生直後からプロスタグランジンE1の投与や緊急処置が必要になることがあるため、小児循環器科と小児心臓外科、新生児集中治療室がそろった施設での出産が一般的に勧められます。胎児心エコーで心房間交通の状態を確認し、分娩の計画を立てます。具体的な施設や時期は、担当医と相談してください。
Q. 手術は何回必要ですか?
A. 基本は、第一期手術(ノーウッド手術。施設によっては事前に両側肺動脈絞扼術)、グレン手術、フォンタン手術の3段階です。経過によっては、カテーテル治療や追加の手術が必要になることがあります。回数や時期は、病型と全身状態によって個別に決まります。
Q. フォンタン手術が終われば治ったことになりますか?
A. フォンタン手術は根治手術ではなく、一つの心室で生活するための循環をつくる手術です。年齢とともに不整脈や肝臓の障害などが起こることがあるため、症状がなくても生涯にわたる定期受診が必要です。
Q. 次の子どもも同じ病気になりますか?
A. 多くは偶発的に起こりますが、きょうだいでは一般より心疾患の頻度が高いと報告されており、再発率は数%程度とされます。次の妊娠では胎児心エコーを受けることが勧められます。家系に応じた詳しいリスクは、遺伝カウンセリングで相談できます。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。