心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症

Pulmonary Atresia without Ventricular Septal Defect

心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症(Pulmonary Atresia without Ventricular Septal Defect)|心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症(純型肺動脈閉鎖症、PA-IVS)は、肺動脈弁またはその周辺が生まれつき完全に閉じており、右心室から肺へ血液を送り出せない先天性心疾患です。出生直後から強いチアノーゼが現れます。肺への血流を動脈管に頼っているため、新生児期に治療しなければ生命にかかわります。右心室や三尖弁の大きさ、冠動脈の形によって治療方針と予後が大きく変わり、生涯にわたる専門的な管理が必要です。

心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症の要点

心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症は、心室中隔に穴がないまま肺動脈弁などが閉じ、右心室から肺へ血液を送れない先天性心疾患です。出生直後から強いチアノーゼが現れ、肺血流を動脈管に頼るため新生児期の治療が必要で、指定難病に指定されています。

別名・略称純型肺動脈閉鎖症、PA-IVS、PA/IVS、心室中隔欠損のない肺動脈閉鎖症、pulmonary atresia with intact ventricular septum
分野循環器・先天性心疾患
好発年齢新生児期(出生直後から症状が出現)
主な症状出生直後からの強いチアノーゼ、動脈管が閉じると低酸素血症が悪化
主な検査心エコー検査、心臓カテーテル検査・造影(右心室・三尖弁・冠動脈の評価)
主な治療プロスタグランジンE1で動脈管を開存、カテーテル治療や外科手術による肺血流の確保・右室流出路再建
治療方針の決め手右心室と三尖弁の大きさ、冠動脈の形(右室依存性冠循環の有無)
受診する主な診療科小児循環器科、心臓血管外科

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心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症とは

本症は、心室中隔に欠損孔がない(正常に閉じている)状態で、右室流出路が閉鎖している先天性心疾患です。英語では pulmonary atresia with intact ventricular septum(PA-IVS)と呼ばれます。閉鎖の多くは肺動脈弁のレベルにあり、弁尖が癒合して膜状になる膜様閉鎖が大半を占めます。一部は漏斗部(右室流出路の筋肉部分)まで閉じた筋性閉鎖です。右心室から血液の出口がないため、全身から戻った静脈血は右心房に入ったあと、卵円孔や心房中隔欠損を通って左心房へ流れます(右左短絡)。そこで肺静脈から戻った血液と混ざり、左心室から大動脈へ送られます。肺への血流は、大動脈から動脈管を通って肺動脈へ流れる血流(左右短絡)だけで保たれます。このため、生後に動脈管が閉じ始めると、肺血流が急激に減って重い低酸素血症に陥ります。既存の簡易解説では「動脈管を通じた右左シャント」「全身循環のみに依存」と書かれていましたが、正確には心房レベルは右左短絡、動脈管レベルは大動脈から肺動脈への左右短絡です。肺循環は動脈管に依存し(動脈管依存性肺循環)、体循環は心房間交通を介して左心室が担います。

病型は主に右心室の発達の程度で考えます。右心室の流入部・肉柱部・流出部の3部分がそろうもの(tripartite)、肉柱部が欠けるもの(bipartite)、流入部のみのもの(unipartite)に分ける分類が古くから用いられます。三尖弁輪径のZスコアも重要な指標です。右心室の容積と三尖弁の大きさは強く相関し、最終的に二心室修復を目指せるかどうかの判断材料になります。本症の重要な特徴は、閉じ込められた右心室が高い圧を生むことです。その結果、心筋内の類洞(シヌソイド)を介して右心室と冠動脈の間に交通が生じることがあります。冠動脈の狭窄や途絶を伴い、心筋の一部が右心室からの逆行性の血流で灌流されている状態を右室依存性冠循環(RVDCC)と呼びます。この場合、安易に右心室の圧を下げる治療を行うと心筋虚血や突然死を招くおそれがあるため、治療戦略の決定に決定的な影響を与えます。少数ながら、三尖弁がエプスタイン病様の形態で高度な逆流を伴い、右心室と右心房が著しく拡大する病型もあります。この病型では胎児期から心拡大や胎児水腫を示すことがあり、予後は厳しいとされます。なお、既存解説にあった「大動脈肺動脈主要側副血行路(MAPCA)」や「Unifocalization(肺動脈統合術)」は、主に心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症で問題となる概念です。本症では通常、左右の肺動脈は合流しており、MAPCAは一般的ではありません。

心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症の疫学・患者数

本症はまれな先天性心疾患で、先天性心疾患全体の1〜3%程度、出生10万あたり数人程度の頻度と報告されています。日本でも年間の新規発生は数十例規模と推測されますが、全国の正確な患者数は明らかではありません。治療成績の向上により、乳幼児期を越えて学童期・成人期を迎える患者が増えています。成人先天性心疾患としての患者数は増加傾向にあると考えられます。症状は原則として出生直後から新生児期に現れます。近年は胎児心エコーで出生前に診断される例が増え、出生後すぐに専門施設で治療を始められるようになっています。明らかな性差は一般的に指摘されていません。

心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症の原因・病態生理

原因はほとんどの場合不明です。単一の遺伝子異常で説明できる疾患ではなく、多くは遺伝的素因と胎内環境が関わる多因子性と考えられています。染色体異常や症候群に合併する頻度は、ファロー四徴症や心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症に比べて低いとされます。22q11.2欠失症候群との関連も、心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症ほど強くはありません。既存解説で触れられたJAG1(アラジール症候群)などの遺伝子は肺動脈の狭窄性病変との関連が知られています。しかし、本症の主要な原因遺伝子として確立したものではないため、個々の患者で原因遺伝子が特定されることはまれです。家族内に先天性心疾患をもつ人がいる場合、再発率は一般集団よりやや高いとされます。

発症機序としては、心臓の形がおおむね完成したあとの胎生期中後期に、肺動脈弁が何らかの理由で閉鎖するという考えが有力です。弁が膜状に閉じている例が多いこと、肺動脈幹や左右肺動脈が比較的よく発達していることが、この説を支持します。出口を失った右心室には三尖弁からしか血液が出入りできません。三尖弁逆流が少ない例では、右心室は高い圧のまま発育が妨げられ、壁の厚い小さな右心室(低形成右室)になります。高い右室圧は心筋内の類洞を拡張させ、冠動脈との交通(類洞交通、右室冠動脈瘻)を生じさせます。冠動脈側には内膜肥厚による狭窄や途絶が起こることがあり、これがRVDCCにつながります。一方、三尖弁逆流が高度な例では右心室の圧はそれほど上がらず、右心室・右心房が拡大します。出生後は、心房間交通を通る右左短絡で全身に静脈血が混ざるため、チアノーゼが必発です。肺血流は動脈管の開存の程度に完全に依存します。心房間交通が狭い(拘束性)場合は右心房圧が上がり、肝腫大や静脈うっ滞、心拍出量の低下を招きます。

心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症の症状

  • チアノーゼ: 出生直後から数時間以内に、唇・舌・爪などが紫色になります。動脈管が閉じ始めると急速に悪化し、酸素を吸入してもほとんど改善しないのが特徴です。
  • 低酸素血症: 経皮的酸素飽和度は動脈管が開いている間でも低値で、動脈管が狭くなるとさらに危険な水準まで低下します。新生児のパルスオキシメータースクリーニングで発見されることもあります。
  • 多呼吸・呼吸努力: 低酸素とアシドーシスを代償するために呼吸が速くなります。肺そのものに病気がないため、陥没呼吸などの所見は比較的目立たないことがあります。
  • 代謝性アシドーシス・ショック: 動脈管が閉鎖すると組織が酸素不足に陥り、乳酸が蓄積して循環不全やショックに至ります。迅速な治療が必要な緊急状態です。
  • 哺乳不良・活気低下: ミルクを飲む力が弱い、眠りがちで泣き声が弱いといった変化がみられます。低酸素の進行を示すサインとして重要です。
  • 心雑音: 肺動脈弁からの駆出性雑音はありませんが、三尖弁逆流による全収縮期雑音や、動脈管血流による連続性雑音が聴取されることがあります。雑音がほとんど目立たない例もあります。
  • 単一II音: 肺動脈弁が閉鎖しているため、II音は大動脈成分のみの単一音として聴取されます。
  • 肝腫大・静脈うっ滞: 心房間交通が狭い例や三尖弁逆流が高度な例では、右心房の圧が上がって肝臓が腫れ、浮腫がみられることがあります。
  • 心拡大・心不全症状: 三尖弁逆流が高度で右心房・右心室が著しく拡大する病型では、胎児期から心拡大を示し、出生後に心不全や呼吸障害を伴うことがあります。
  • 胸痛様の不穏・心筋虚血の徴候: 右室依存性冠循環をもつ乳児では、心筋虚血による不整脈や不機嫌、急変が起こることがあります。心電図変化に注意が必要です。

心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症の経過と合併症

治療をしなければ、生後数日から数週の間に動脈管が自然に閉じて肺血流が途絶します。重い低酸素血症とアシドーシスにより、多くは新生児期に死亡します。プロスタグランジンE1製剤で動脈管を開いたまま保ち、その間に肺血流を確保する治療(カテーテル治療や外科手術)を行います。治療の経過は大きく三つの道筋に分かれます。一つ目は、右心室と三尖弁が十分に発育しうる例で、右心室を減圧して順行性の肺血流をつくる二心室修復です。二つ目は、右心室の機能を部分的に活用しつつ、上半身の静脈血を直接肺へ流す一心室半(1.5心室)修復です。三つ目は、右心室が著しく小さい例やRVDCCを伴う例で、右心室を使わずに静脈血を直接肺に流す単心室修復(グレン手術を経てフォンタン手術)です。乳児期の治療後に右心室がどの程度発育するかを観察しながら方針を見直していくため、経過は個人ごとに大きく異なります。

主な合併症は次のとおりです。新生児期には、動脈管閉鎖による急変、プロスタグランジン製剤の副作用(無呼吸、発熱、末梢の浮腫など)、心房間交通の狭小化による循環不全があります。カテーテルによる肺動脈弁穿孔に伴う心穿孔や出血もあり得ます。RVDCC例では、右心室の減圧による心筋虚血、致死的不整脈、突然死に特に注意が必要です。乳児期以降は、短絡血管の狭窄・閉塞、残存する右室流出路狭窄や肺動脈弁逆流、三尖弁逆流、不整脈(心房性頻拍など)、感染性心内膜炎が問題になります。フォンタン循環に至った患者では、長期的に次のような合併症が起こり得ます。フォンタン関連肝疾患(肝線維化や肝細胞癌のリスク)、蛋白漏出性胃腸症、鋳型気管支炎、血栓塞栓症、心室機能低下、上室性不整脈、側副血行による低酸素などです。こうした合併症に対する継続的な監視が必要です。

心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症の診断・診断基準

近年は妊娠中の胎児心エコーで、右室流出路の血流欠如、小さな右心室、三尖弁の異常、動脈管を逆行する血流(大動脈から肺動脈への流れ)などから出生前に疑われることが多くなりました。この場合、小児循環器・心臓血管外科を備えた施設での計画分娩が勧められます。出生後に診断される場合は、チアノーゼやパルスオキシメーターでの低い酸素飽和度をきっかけに、心エコーで確定診断に至るのが一般的です。診断の要点は三つあります。第一に、肺動脈閉鎖があり、心室中隔欠損がないことを確認することです。第二に、右心室・三尖弁の発育の程度(三尖弁輪径Zスコア、右心室の構成部分)と閉鎖の形態(膜様か筋性か)を評価することです。第三に、類洞交通の有無と冠動脈の右室依存性(RVDCC)を評価することです。特に第三の点は心エコーだけでは不十分なことがあり、カテーテル検査による冠動脈造影が治療方針の決定に重要な役割を果たします。指定難病としての診断は、心エコーや心臓カテーテル検査などの画像所見で病型が確認されることが基本になります。

  • パルスオキシメトリー・血液ガス分析: 酸素飽和度の低下と、酸素投与に反応しない低酸素血症を確認します。乳酸値やpHから、動脈管閉鎖に伴うアシドーシスの程度を評価します。
  • 胸部X線検査: 肺血管陰影の減少が典型的です。心陰影の大きさは病型によって異なり、三尖弁逆流が軽い例ではほぼ正常大ですが、高度な逆流を伴う例では右心房拡大により著しい心拡大を示します。
  • 心電図: 右心室が小さいため、新生児としては右室起電力が乏しく、相対的に左室優位を示すことが多く、右房負荷所見を伴います。三尖弁閉鎖症でみられるような明らかな左軸偏位(上方軸)は通常示さない点が、鑑別上参考になります。
  • 心エコー検査(胎児・新生児): 肺動脈弁からの順行性血流がないこと、心室中隔が保たれていること、三尖弁輪径・右心室の大きさと形態、三尖弁逆流の程度、心房間交通の大きさと短絡方向、動脈管の血流を評価します。確定診断の中心となる検査です。
  • 三尖弁輪径Zスコア・右室形態評価: 三尖弁輪径を体格で補正した値や、右心室の三部分の有無は、二心室修復が可能かどうかを予測する主要な指標として用いられます。
  • 心臓カテーテル検査・右室造影・冠動脈造影: 右室造影で流出路の閉鎖形態と類洞交通を確認し、大動脈基部造影や選択的冠動脈造影で冠動脈の狭窄・途絶と右室依存性の有無を評価します。施設によっては、肺動脈弁の穿孔・拡大術などの治療を同時に行います。
  • 心臓CT・MRI: 肺動脈の形態や体肺短絡の評価、術後の右心室容積・機能、肺動脈弁逆流の定量に有用です。成長後やフォンタン術後のフォローにも用いられます。
  • 血液検査(BNP、肝機能など): 心不全の程度の把握や、フォンタン術後の肝障害・蛋白漏出の評価に用いられます。長期管理で定期的に測定されます。

心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症と鑑別すべき疾患

  • 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症: 心室中隔欠損があり、肺血流がMAPCAに依存することも多い点で異なり、心エコーで中隔の欠損の有無により区別します。
  • 重症肺動脈弁狭窄(critical PS): 肺動脈弁にわずかな順行性血流が残る点が異なりますが、新生児期の病態や治療は本症と連続的であり、ドプラ法で順行血流を確認します。
  • 機能的肺動脈閉鎖(エプスタイン病など): 解剖学的には弁が開いているものの、右室圧が低くて弁が開かない状態で、肺血管抵抗の低下とともに順行性血流が出現する点で区別します。
  • 三尖弁閉鎖症: 三尖弁そのものが閉鎖し右心房から右心室への流入がない病態で、心電図の左軸偏位や心エコー所見で区別します。
  • 完全大血管転位症: チアノーゼを呈する新生児の代表的疾患ですが、大血管の起始異常があり肺血流はむしろ多い点で異なります。
  • 新生児遷延性肺高血圧症(PPHN): 心構造は正常で、肺血管抵抗の上昇による右左短絡が低酸素の原因であり、心エコーで肺動脈弁の開放と順行性血流を確認して区別します。

心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症の治療

治療は、新生児期の救命と肺血流の確保に始まり、成長に合わせて段階的に進めます。最初の目標は、プロスタグランジンE1製剤で動脈管を開いたまま保ち、低酸素とアシドーシスを是正することです。その後、右心室・三尖弁の発育の程度と冠動脈の右室依存性(RVDCC)の有無をもとに、最終的な循環の形を見据えた方針を立てます。右心室が十分な大きさをもち、RVDCCがない例では、肺動脈弁を開いて右心室を減圧し、順行性の肺血流をつくって右心室の発育を促します。必要に応じて体肺短絡や動脈管ステントを追加し、二心室修復を目指します。右心室の発育が不十分な例では1.5心室修復を、右心室が非常に小さい例やRVDCC例では単心室修復(グレン手術を経てフォンタン手術)を選びます。重度の冠動脈病変を伴う例では、心臓移植が検討されることもあります。どの道筋が適するかは画像評価と経過観察で判断し、途中で方針を見直すことも少なくありません。治療の選択は施設の経験にも左右されるため、小児循環器科医・心臓血管外科医と十分に相談することが大切です。

  • プロスタグランジンE1製剤の持続静注: 動脈管を開いたまま保ち、肺血流を確保する新生児期の救命治療です。無呼吸の副作用があるため、呼吸を監視できる環境で投与します。
  • バルーン心房中隔裂開術(BAS): 心房間交通が狭く、右心房の血液が左心房へ十分に流れない場合に、カテーテルで心房中隔の孔を広げます。心拍出を確保するための処置です。
  • 経皮的肺動脈弁穿孔術・バルーン弁形成術: 膜様閉鎖でRVDCCがなく、右心室がある程度の大きさをもつ例が対象です。ワイヤーや高周波エネルギーで閉鎖弁を穿孔し、バルーンで拡大して右心室を減圧します。外科手術を回避または延期できる場合があります。
  • 外科的右室流出路再建・肺動脈弁切開術: 筋性閉鎖やカテーテル治療が難しい例で、外科的に右心室から肺動脈への通路を形成します。体肺短絡を併用することがあります。
  • 体肺短絡術(BTシャント)・動脈管ステント: 右心室からの順行性血流だけでは肺血流が足りない場合や単心室修復を目指す場合に、鎖骨下動脈などから肺動脈へ人工血管でつなぐ、あるいは動脈管にステントを留置して肺血流を補います。
  • 両方向性グレン手術・1.5心室修復: 上大静脈を肺動脈に直接つなぎ、上半身の静脈血を心臓を介さず肺へ流す手術です。右心室が下半身の静脈還流を担える場合は、右心室の機能も活かす1.5心室修復とします。
  • フォンタン手術(TCPC): グレン手術の後、幼児期に下大静脈の血流も人工血管などで肺動脈へ導き、全身の静脈血を受動的に肺へ流す機能的修復術です。正常な心臓に戻す根治術ではなく、生涯にわたる管理が必要です。
  • 心臓移植: RVDCCで冠動脈の高度狭窄・途絶があり心筋虚血のリスクが高い例や、フォンタン循環が破綻した例では、心臓移植が選択肢となる場合があります。
  • 内科的管理(抗凝固・抗血小板療法、心不全治療、不整脈治療): 短絡やフォンタン循環の血栓を予防するための抗血栓療法、利尿薬などの心不全治療、不整脈への薬物治療・カテーテルアブレーション・ペースメーカーなどを、状態に応じて行います。

心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症の予後・長期フォロー

治療をしなければ新生児期の死亡が避けられない疾患ですが、新生児集中治療、カテーテル治療、外科手術の進歩により、多くの患者が乳幼児期を越えて成長できるようになりました。予後は病型によって大きく異なります。右心室・三尖弁が比較的よく発育し、二心室修復に至った例の長期予後は比較的良好と報告されています。一方、右心室が非常に小さい例、RVDCCを伴う例、三尖弁がエプスタイン病様で高度な逆流と著しい心拡大を伴う例では、新生児期・乳児期の死亡率が高いとされます。既存解説にあった「生存率50〜70%」のような数値は施設や年代、病型の構成で大きく変わり、一律には言えません。具体的な見通しは主治医から個別に説明を受けてください。二心室修復後も、肺動脈弁逆流や残存狭窄、三尖弁逆流、運動耐容能の低下が残ることがあります。フォンタン循環の患者では、思春期以降に肝臓や消化管、不整脈などの合併症が増えていくことが知られています。多くの患者が就学・就労して社会生活を送っていますが、運動能力はおおむね健常者より低い傾向にあり、日常生活上の配慮が必要な場合があります。

長期フォローアップは生涯にわたって必要です。小児期は小児循環器科が中心となり、成長に応じて成人先天性心疾患を専門とする循環器内科へ移行していきます。定期的に心エコー、心電図、ホルター心電図、運動負荷試験、心臓MRI・CTなどで、心室機能・弁逆流・不整脈を評価します。二心室修復後では、肺動脈弁置換やカテーテル治療による弁留置などの再介入が必要になることがあります。フォンタン術後では、肝臓の画像検査や血液検査、蛋白漏出のチェック、血栓予防療法の調整が重要です。定期的な歯科受診と、処置時の感染性心内膜炎予防の相談も欠かせません。小児科から成人診療科への移行期には通院が途切れやすいことが知られています。本人が病名や手術歴を理解し、自分で管理できるよう、段階的に移行準備を進めることが大切です。

心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活で大切なのは、主治医が示す運動や活動の目安を守りつつ、過度に制限しすぎないことです。運動の可否や強度は、修復の方法、残存病変、不整脈の有無によって大きく異なります。学校生活管理指導表を活用し、学校と情報を共有しましょう。発熱・嘔吐・下痢などで脱水になると、フォンタン循環では血流が悪くなりやすく、血栓のリスクも高まります。早めに水分を補給し、改善しなければ受診してください。抗凝固薬(ワルファリンなど)を服用している場合は、食事(ビタミンKを多く含む食品)や他の薬との飲み合わせに注意し、定期的に血液検査を受けます。口の中の衛生管理は感染性心内膜炎の予防に重要で、歯科受診の際は心臓病と服薬内容を必ず伝えます。予防接種は、特に禁忌がなければ、小児期の定期接種に加えインフルエンザなども主治医と相談のうえ受けることが勧められます。高地への旅行や長時間の飛行機移動、ダイビングなどは、事前に主治医へ相談しましょう。思春期以降、女性患者の妊娠・出産は、特にフォンタン循環では母体と胎児のリスクが高いとされます。避妊法の選択を含め、早めに成人先天性心疾患と周産期の専門医に相談することが重要です。次の子どもの妊娠を考える家族や、患者本人が将来子どもをもつことを考える場合は、再発のリスクや胎児心エコーについて遺伝カウンセリングを受けることができます。

利用できる制度・相談窓口

本症は指定難病(告示番号213)に指定されています。診断基準を満たし、重症度分類で一定以上と判定された場合などに、医療費助成(特定医療費)の対象となります。申請には難病指定医による臨床調査個人票が必要で、窓口はお住まいの都道府県・指定都市の保健所などです。18歳未満(継続の場合は20歳未満まで)では、小児慢性特定疾病医療費助成制度の慢性心疾患群の対象となります。日常生活用具の給付などの支援事業を利用できる場合もあります。手術などには自立支援医療(18歳未満は育成医療、18歳以上は更生医療)を利用できる場合があります。心臓機能障害として身体障害者手帳の交付を受けると、各種福祉サービスや税の減免を受けられることがあります。児童については特別児童扶養手当や障害児福祉手当、成人では障害年金(心疾患による障害)の対象となる可能性があります。いずれも障害の程度による審査があります。相談窓口としては、主治医・病院の医療ソーシャルワーカー、保健所、各都道府県の難病相談支援センター、小児慢性特定疾病の自立支援員などがあります。小児から成人への移行期については、移行期医療支援センターや成人先天性心疾患の専門外来が整備されつつあります。先天性心疾患の患者・家族会(全国心臓病の子どもを守る会など)からは、経験者の情報や交流の機会を得ることができます。

心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症に伴う心のケア・心理社会的支援

出生直後に重い心臓病を告げられ、新生児集中治療室で何度も手術を受ける経験は、家族、特に母親に強い不安や自責感、抑うつをもたらすことがあります。妊娠中に胎児診断を受けた場合も、出生までの長い不安を抱えることになります。複数回の手術を伴う段階的治療の過程では、先の見通しの立ちにくさ、きょうだいの養育との両立、経済的・就労上の負担が重なりやすくなります。本人は成長するにつれて、運動制限や手術の傷あと、通院のための欠席などから、友人との違いを意識するようになります。学童期から思春期には、自己肯定感の低下、不安、抑うつ、学校への適応の困難がみられることがあります。フォンタン循環の患者では、注意や学習の困難、不安症状が健常者より多いという報告もあり、必要に応じた心理・発達面の評価と支援が大切です。成人期には、就労、結婚、妊娠・出産、保険加入、将来の再手術や心臓移植の可能性など、この疾患に特有の悩みが生じます。気分の落ち込み、眠れない、意欲がわかないといった状態が続くときは、一人や家族だけで抱え込まないでください。主治医、看護師、臨床心理士、医療ソーシャルワーカー、患者会などに早めに相談しましょう。必要に応じて精神科・心療内科の支援を受けることは、病気と向き合う力を保つうえで大切です。

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心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症の受診の目安

  • 唇や顔色の紫色(チアノーゼ)が普段より明らかに強い、または酸素飽和度がいつもより大きく下がっているときは、すぐに受診してください。
  • 乳児で哺乳量が急に減った、ぐったりして反応が鈍い、呼吸が速く苦しそうなときは、救急受診が必要です。
  • 動悸、脈の乱れ、失神やめまい、胸の痛みが現れたときは、不整脈や心筋虚血の可能性があるため、速やかに受診してください。
  • むくみ・体重増加・腹部の張り・下痢の持続などが出てきたときは、心不全や(フォンタン術後では)蛋白漏出性胃腸症の可能性があり、早めに主治医に相談してください。
  • 持続する発熱、特に歯科治療の後や原因不明の発熱が続くときは、感染性心内膜炎の可能性があり受診が必要です。
  • 嘔吐・下痢・発熱で水分が取れないときや、片側の手足の麻痺・言葉の障害など脳梗塞を疑う症状が出たときは、直ちに医療機関を受診してください。

心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症についてのよくある質問

Q. この病気は手術で完全に治りますか?

A. 右心室が十分に発育して二心室修復ができた場合は、心臓の形は正常に近づきますが、弁の逆流や狭窄が残り、将来再手術が必要になることがあります。フォンタン手術は機能的な修復術であり、正常な心臓に戻すものではありません。いずれの場合も生涯の通院が必要です。

Q. 二心室修復とフォンタン手術のどちらになるかはいつ決まりますか?

A. 新生児期の右心室・三尖弁の大きさや冠動脈の状態から、ある程度の見通しは立てられます。ただし、乳児期の治療後に右心室がどれだけ発育するかを見て最終判断することが多く、方針は経過の中で見直されます。主治医から段階ごとの説明を受け、疑問は遠慮なく尋ねましょう。

Q. 次の子どもも同じ病気になりますか?

A. 本症の多くは原因が特定できない多因子性の疾患で、きょうだいの再発率は一般より少し高い程度とされます。ただし正確なリスクは家族歴などで変わります。次の妊娠では胎児心エコーで早期に確認できるため、遺伝カウンセリングや産科・小児循環器科への相談をお勧めします。

Q. 運動や学校生活はどの程度できますか?

A. 修復の方法や心機能、不整脈の有無によって大きく異なり、多くの人は体育の一部を含めた学校生活を送っています。激しい競技や持久的な運動には制限が必要な場合があります。主治医に学校生活管理指導表を書いてもらい、学校と共有しておくと安心です。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。