抗糸球体基底膜腎炎
Anti-GBM Disease
抗糸球体基底膜腎炎(Anti-GBM Disease)|抗糸球体基底膜腎炎(抗GBM病)は、腎臓の糸球体基底膜に対する自己抗体によって糸球体が急激に破壊される自己免疫疾患です。数週から数か月で腎機能が低下する急速進行性糸球体腎炎(RPGN)の代表的な原因の一つで、肺胞出血を伴う場合はグッドパスチャー症候群と呼ばれます。若年者から高齢者まで発症し、診断と治療開始が数日遅れるだけで腎予後が大きく変わるため、救急疾患として扱われます。
抗糸球体基底膜腎炎の要点
抗糸球体基底膜腎炎(抗GBM病)は、糸球体基底膜に対する自己抗体で糸球体が破壊され、数週〜数か月で腎機能が低下する急速進行性糸球体腎炎を起こす自己免疫疾患です。血尿・尿蛋白や腎不全に加え、肺胞出血による血痰・呼吸困難を伴うことがあり、指定難病(告示番号221)です。
| 別名・略称 | 抗GBM病、抗GBM抗体病、抗GBM腎炎、抗GBM抗体型急速進行性糸球体腎炎、Goodpasture病、グッドパスチャー症候群 |
|---|---|
| 分野 | 腎・泌尿器疾患 |
| 原因 | 抗GBM抗体による自己免疫(主な標的はIV型コラーゲンα3鎖NC1ドメイン) |
| 好発年齢 | 若年者から高齢者まで幅広い |
| 主な症状 | 血尿・蛋白尿、急速な腎機能低下、肺胞出血(血痰・呼吸困難)を伴う場合あり |
| 主な検査 | 血中抗GBM抗体測定、腎生検(蛍光抗体法でIgGの線状沈着) |
| 主な治療 | 血漿交換、副腎皮質ステロイド、シクロホスファミドなどの免疫抑制療法 |
| 受診する主な診療科 | 腎臓内科(肺病変があれば呼吸器内科と連携) |
抗糸球体基底膜腎炎とは
抗糸球体基底膜腎炎は、IV型コラーゲンα3鎖の非コラーゲン領域(α3(IV)NC1ドメイン、通称グッドパスチャー抗原)を主な標的とする自己抗体(抗GBM抗体)が、糸球体基底膜(GBM)に結合して起こる腎炎です。腎生検の蛍光抗体法でIgGがGBMに沿って線状(リニア)に沈着することが病理学的な特徴です。光学顕微鏡では、糸球体毛細血管壁が破れてボウマン腔に細胞が増える半月体形成が多くの糸球体で同時期にみられ、半月体形成性糸球体腎炎の像を呈します。肺胞基底膜にも同じ抗原が存在するため、喫煙などで肺胞の血管内皮が傷害されて抗体が届くと肺胞出血を起こします。わが国の指定難病(告示番号221)に指定されています。
病型は、腎病変のみの腎限局型と、肺胞出血を伴う肺腎型(グッドパスチャー症候群)に大別されます。1919年にGoodpastureが肺出血と糸球体腎炎を合併した症例を報告し、1950〜60年代に抗GBM抗体が病因として同定されて疾患概念が確立しました。なお、「グッドパスチャー症候群」は歴史的に肺腎症候群全般を指して使われたこともありますが、現在は抗GBM抗体による肺腎病変に限定するのが一般的です。このほか、抗GBM抗体とANCA(主にMPO-ANCA)がともに陽性のダブルポジティブ例、腎生検で線状IgG沈着を認めるものの通常の検査で血中抗体が検出されない非典型(atypical)抗GBM病、さらにアルポート症候群の患者が腎移植後に移植腎のIV型コラーゲンに対する抗体を産生する移植後抗GBM腎炎(同種免疫反応で、自己免疫の抗GBM病とは区別される)も知られています。
抗糸球体基底膜腎炎の疫学・患者数
欧米の報告では年間発症率は人口100万人あたり1人前後とされる非常にまれな疾患です。わが国の急速進行性糸球体腎炎の全国調査では、RPGN全体の中で抗GBM抗体型は数%程度にとどまり、ANCA関連血管炎による腎炎が大多数を占めます。欧米では20〜30歳代の男性に肺出血を伴う例が多く、60〜70歳代にも第二のピークがあり高齢者では腎限局型が多いという二峰性の年齢分布が知られています。日本では高齢発症の割合が高く、肺出血を伴う典型的グッドパスチャー症候群は欧米より少ない傾向が報告されています。遺伝的素因としてHLA-DR15(DRB1*15:01など)との強い関連が知られ、日本人でも同様の傾向が報告されています。抗GBM病の患者の一部(報告により2〜4割程度)でANCAも陽性となります。
抗糸球体基底膜腎炎の原因・病態生理
本症は、遺伝的素因と環境要因が重なって発症する自己免疫疾患と考えられています。親から子へ単純に遺伝する病気ではなく、家族内発症はまれです。素因としては特定のHLAクラスII遺伝子型(DR15など)が抗原の提示を通じて自己反応性T細胞の活性化に関わるとされ、逆にDR1やDR7には発症を抑える方向の関連が報告されています。環境要因としては、喫煙、有機溶剤や炭化水素の吸入、気道感染症などが挙げられ、特に喫煙は肺胞出血の発症と強く関連します。体外衝撃波結石破砕術後や、一部の免疫調整薬(アレムツズマブなど)の使用後に発症した報告もあります。
標的抗原であるα3(IV)NC1ドメインは、正常ではα3・α4・α5鎖が作る網目構造(六量体)の内部に隠れています。何らかの刺激でこの構造が変化すると、隠れていたエピトープ(EA・EBと呼ばれる部位)が露出し、免疫寛容が破綻して自己反応性T細胞とB細胞が活性化され、高親和性のIgG抗体(主にIgG1・IgG3)が産生されます。抗体がGBMに結合すると補体が活性化され、好中球や単球が集まって毛細血管壁が破壊されます。漏れ出たフィブリンや炎症細胞がボウマン腔で増殖して半月体を形成し、糸球体の濾過機能が急速に失われます。さらにTh1/Th17系のT細胞による細胞性免疫も組織傷害に寄与すると考えられています。糸球体の傷害が同じ時期にそろって起こるため、ANCA関連腎炎よりも新しい細胞性半月体が多数を占めるのが典型です。肺では、肺胞の毛細血管内皮は通常抗体を通しにくいものの、喫煙や感染などで内皮が傷つくと抗体が肺胞基底膜に到達し、肺胞出血を起こします。
抗糸球体基底膜腎炎の症状
- 血尿: 顕微鏡的血尿はほぼ全例にみられ、コーラ色・赤褐色の肉眼的血尿として気づかれることもあります。糸球体由来のため変形赤血球や赤血球円柱を伴います。
- 蛋白尿: 多くは軽度〜中等度の蛋白尿で、ネフローゼ症候群に至るほど多量になることは比較的まれです。
- 尿量減少(乏尿・無尿): 腎機能が急速に低下すると尿量が減り、数日〜数週で無尿に至ることもあります。透析が必要になる前の早期発見が極めて重要です。
- むくみ(浮腫): 尿量の減少に伴い体内に水分と塩分がたまり、下肢やまぶたのむくみ、体重増加が生じます。
- 高血圧: 体液貯留により血圧が上昇しますが、他の糸球体腎炎と比べて目立たない場合もあります。
- 喀血・血痰: 肺胞出血の症状で、少量の血痰から大量の喀血までさまざまです。出血が肺内にとどまり喀血を伴わないこともあります。
- 息切れ・呼吸困難: 肺胞出血や体液貯留による肺水腫で生じ、急速に呼吸不全へ進行する場合は生命に関わります。
- 貧血: 肺胞出血や腎機能低下により貧血が進み、動悸や疲れやすさを感じます。肺出血例では説明のつかない急なヘモグロビン低下が手がかりになります。
- 全身倦怠感・発熱・食欲低下: 腎炎に先行して、またはこれと並行して、だるさや微熱、体重減少などの非特異的な症状がみられます。
- 尿毒症症状: 腎不全が進むと吐き気、食欲不振、かゆみ、意識の変化などが現れ、高カリウム血症や代謝性アシドーシスを伴うことがあります。
抗糸球体基底膜腎炎の経過と合併症
多くの場合、発症から数日〜数週という短期間で腎機能が急激に悪化するのが特徴で、無治療では大半が末期腎不全に至ります。前駆症状として倦怠感や感冒様症状があることも多く、健診の尿異常をきっかけに見つかる例もあります。治療開始時の腎機能が予後を最も強く左右し、血清クレアチニンが比較的保たれている段階で治療を始めれば腎機能の回復が期待できますが、受診時にすでに透析が必要で腎生検で大部分の糸球体が半月体に置き換わっている場合は、腎機能の回復は難しいとされます。一方、ANCA関連血管炎と異なり、適切に治療して抗体が消失すると再発はまれであることが本症の大きな特徴です。ただしダブルポジティブ例ではANCA関連血管炎と同様に再発がみられることがあります。
最も重大な合併症は肺胞出血で、急性呼吸不全となり人工呼吸管理を要する場合があり、早期死亡の主な原因になります。急性腎不全に伴う高カリウム血症、肺水腫、代謝性アシドーシスも緊急対応を要します。治療に関連する合併症として、高用量ステロイドや免疫抑制薬による細菌・真菌・ウイルス感染症(ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症、B型肝炎の再活性化など)、糖尿病、骨粗鬆症、精神症状、血漿交換に伴う低血圧・出血傾向・カテーテル関連感染などがあります。シクロホスファミドでは骨髄抑制、性腺機能障害、出血性膀胱炎、長期的な悪性腫瘍リスクに注意が必要です。腎機能が回復しなかった場合には慢性腎臓病・末期腎不全となり、腎性貧血、心血管疾患、ミネラル骨代謝異常などの長期合併症が問題となります。
抗糸球体基底膜腎炎の診断・診断基準
診断は、まず尿検査と血液検査で「急速に進行する糸球体腎炎」を疑うことから始まります。わが国の急速進行性糸球体腎炎の早期発見の目安として、尿異常(血尿・蛋白尿・円柱尿)、腎機能の低下(eGFR 60 mL/分/1.73m²未満など)、CRP上昇や胸部画像異常がそろう場合には速やかに腎臓専門医へ紹介することが推奨されています。RPGNが疑われたら、抗GBM抗体、MPO-ANCA・PR3-ANCA、抗核抗体、補体価などを同時に提出し、胸部CTで肺胞出血の有無を確認します。確定診断と重症度評価には腎生検が重要ですが、本症は時間との勝負であるため、臨床的に強く疑われ抗GBM抗体が陽性であれば、腎生検の結果を待たずに血漿交換などの治療を開始することが一般的です。指定難病の診断基準では、急速進行性腎炎症候群の臨床像に加え、血中抗GBM抗体陽性、または腎生検でのGBMへの線状IgG沈着を確認することが求められます。
- 尿検査(尿沈渣): 変形赤血球、赤血球円柱、顆粒円柱などの活動性糸球体腎炎の所見を確認します。蛋白尿の量は尿蛋白/クレアチニン比で評価します。
- 血液生化学検査: 血清クレアチニン・尿素窒素の急な上昇、電解質異常、代謝性アシドーシスを評価します。過去の健診値と比較して進行速度を把握することが大切です。
- 血清抗GBM抗体: ELISA法や化学発光法などで測定し、陽性であれば診断の強い根拠となり、抗体価は治療効果の指標にもなります。測定法によって偽陰性・偽陽性がありうるため、臨床像と腎生検所見を併せて判断します。
- ANCA(MPO-ANCA・PR3-ANCA): ダブルポジティブ例の判定に必須で、陽性の場合は血管炎の全身症状や再発リスクを考慮した治療・経過観察が必要になります。
- 腎生検: 光学顕微鏡で多数の糸球体に同時期の細胞性半月体を認め、蛍光抗体法でIgG(しばしばC3も)のGBMへの線状沈着を認めることが特徴です。半月体の割合や線維化の程度は腎予後の予測に役立ちます。
- 胸部X線・胸部CT: 肺胞出血ではすりガラス影や浸潤影が両側性にみられます。肺水腫や感染症との区別が必要です。
- 気管支鏡・気管支肺胞洗浄(BAL): 洗浄液が回収ごとに次第に血性を増すことや、ヘモジデリンを貪食したマクロファージの存在で肺胞出血を確認し、感染症の除外にも役立ちます。
- 血算・呼吸機能: 急なヘモグロビン低下は潜在的な肺胞出血の手がかりとなります。肺拡散能(DLCO)は肺内の血液のため上昇することがありますが、重症例では実施困難です。
- その他の鑑別のための検査: 抗核抗体・抗dsDNA抗体、補体価、溶連菌関連抗体、血清IgA、溶血や血小板減少の有無などを調べ、他の原因によるRPGNを除外します。
抗糸球体基底膜腎炎と鑑別すべき疾患
- ANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎・多発血管炎性肉芽腫症): 同じく肺腎症候群を起こしますが、MPO/PR3-ANCAが陽性で、腎生検では免疫グロブリン沈着がほとんどない(pauci-immune型)点で区別され、両者が併存するダブルポジティブ例もあります。
- ループス腎炎(全身性エリテマトーデス): 抗核抗体・抗dsDNA抗体陽性、低補体血症、皮膚・関節症状を伴い、腎生検では顆粒状の免疫複合体沈着を示します。
- IgA腎症・IgA血管炎(紫斑病性腎炎)の半月体形成型: 腎生検でメサンギウム領域へのIgA沈着を認め、IgA血管炎では紫斑や腹痛、関節痛を伴います。
- 感染関連糸球体腎炎: 先行感染や持続感染があり、低補体血症や係蹄壁への顆粒状沈着(C3優位)を示す点で異なります。
- 血栓性微小血管症(非典型溶血性尿毒症症候群など): 溶血性貧血、破砕赤血球、血小板減少を伴い、腎生検では半月体ではなく血管内皮障害と微小血栓が主体です。
- アルポート症候群: IV型コラーゲン遺伝子の異常による遺伝性腎炎で、難聴や家族歴を伴い緩徐に進行し、自己抗体は認めません(ただし移植後に抗GBM腎炎を起こすことがあります)。
抗糸球体基底膜腎炎の治療
治療の目的は、①血中の抗GBM抗体をすみやかに除去し、②新たな抗体産生を止め、③すでに起きている炎症を鎮めて腎臓と肺を守ることです。そのため、国内外の診療ガイドラインでは血漿交換療法+高用量副腎皮質ステロイド+シクロホスファミドの三者併用が標準的な初期治療とされ、診断が強く疑われた段階でできるだけ早く開始します。一方、受診時にすでに透析が必要で、腎生検で大部分の糸球体が線維性半月体や硬化に置き換わり、肺出血も伴わない場合は、腎機能の回復が期待しにくく、強力な免疫抑制による感染リスクの方が上回る可能性があるため、治療の強度を患者さん・家族と専門医が十分に相談して決めます。肺胞出血がある場合は、腎機能にかかわらず積極的な治療が行われます。ANCA関連血管炎と異なり、抗GBM抗体単独陽性例では長期の維持療法は通常必要とされず、おおむね数か月かけてステロイドを減量・中止していきます。具体的な薬剤の選択・用量・期間は年齢、腎機能、感染リスクにより個別に判断されるため、必ず主治医・腎臓専門医と相談してください。
- 血漿交換療法: 血漿を分離して抗GBM抗体を直接取り除く治療で、連日または隔日に、抗体が陰性化するまで(目安として2週間前後)行うのが一般的です。置換液には主にアルブミンを用い、肺出血例や直近の腎生検後など出血リスクが高い場合は新鮮凍結血漿を併用します。
- 副腎皮質ステロイド: メチルプレドニゾロンのパルス療法に続いて、プレドニゾロンの内服を高用量から開始し、数か月かけて漸減します。炎症と半月体形成を抑える治療の基盤です。
- シクロホスファミド: 抗体を産生するB細胞・T細胞を抑える免疫抑制薬で、内服または点滴静注で通常数か月間用います。年齢や腎機能に応じて減量し、骨髄抑制、感染、性腺障害、膀胱障害に注意します。
- リツキシマブなど代替的な免疫抑制: シクロホスファミドが使いにくい場合などに、B細胞を標的とするリツキシマブを用いた報告がありますが、本症での有効性・位置づけはまだ確立しておらず、使用は専門施設で慎重に検討されます。抗体を急速に分解する酵素製剤などの新たな治療は、海外で臨床試験が進められている段階です。
- 肺胞出血に対する集中治療: 酸素療法、人工呼吸管理、輸血、凝固異常の補正などを行います。喫煙は出血を悪化させるため直ちに中止します。
- 透析療法(血液透析): 高カリウム血症、肺水腫、高度のアシドーシスや尿毒症がある場合に行います。治療により腎機能が回復して透析を離脱できる場合もありますが、回復しない場合は維持透析へ移行します。
- 感染予防と副作用対策: ST合剤によるニューモシスチス肺炎予防、B型肝炎ウイルスの事前スクリーニングと再活性化対策、骨粗鬆症予防薬、消化性潰瘍予防、血糖管理などを並行して行います。感染症は治療中の重要な死亡原因です。
- 腎機能保護と保存期CKD管理: 血圧管理、RAS阻害薬などによる蛋白尿の抑制、減塩・食事療法、腎性貧血や骨ミネラル代謝異常の治療を行い、残った腎機能をできる限り長く保ちます。
- 腎移植: 末期腎不全に至った場合の選択肢で、移植腎での再発を防ぐため、血中抗GBM抗体が陰性化してから一定期間(一般に6か月以上)経過してから行うことが推奨されています。
抗糸球体基底膜腎炎の予後・長期フォロー
免疫抑制療法と血漿交換の導入以前は致死率の高い疾患でしたが、現在では適切な治療により生命予後は大きく改善しています。ただし高齢者、肺胞出血例、重症感染症を合併した例では早期死亡のリスクが依然として存在します。腎予後は治療開始時の腎機能に強く依存し、透析を必要としない段階で治療を開始できた患者さんでは多くが腎機能を保つことができる一方、受診時に透析が必要だった患者さんで透析を離脱できるのは少数にとどまると報告されています。抗体が消失した後の再発はまれで、維持透析や腎移植に移行した場合でも社会生活を続けている方は多くいます。ダブルポジティブ例は、初期の腎予後は抗GBM病に近く、長期的にはANCA関連血管炎と同様の再発に注意が必要とされます。
寛解後も、尿検査(血尿・蛋白尿)、腎機能、血圧を定期的に確認します。抗GBM抗体は治療中は頻回に、陰性化後も一定期間は経過観察として測定され、再上昇や尿所見の悪化があれば再発を疑います。ダブルポジティブ例ではANCA値と血管炎症状の監視を継続します。ステロイドやシクロホスファミドの長期的影響として、骨粗鬆症、糖尿病、白内障、膀胱がんや血液腫瘍などの悪性腫瘍に注意し、がん検診を含めた健康管理を続けます。慢性腎臓病が残った場合は腎臓専門医による継続管理、腎代替療法(血液透析・腹膜透析・腎移植)の選択についての早めの話し合いが大切です。
抗糸球体基底膜腎炎の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
最も重要なのは禁煙です。喫煙は肺胞出血の引き金となるため、本人だけでなく受動喫煙も避け、有機溶剤や揮発性の化学物質を吸い込む作業環境にも注意してください。治療中は免疫力が低下しているため、手洗い・うがい・マスク着用、人混みを避けるなどの感染対策を行い、生ワクチンは原則として避け、不活化ワクチン(インフルエンザ、肺炎球菌など)の接種時期は主治医と相談します。ステロイド内服中は自己判断で中止すると副腎不全を起こす危険があるため、必ず指示どおりに服用してください。腎機能に応じた減塩、たんぱく質・カリウムの調整は管理栄養士の指導を受けると実践しやすくなります。市販の鎮痛薬(NSAIDs)やサプリメントは腎臓に負担をかけることがあるため、使用前に相談しましょう。妊娠を希望する場合は、病気が落ち着き、シクロホスファミドなど胎児に影響しうる薬剤の使用終了から十分な期間をおいて計画することが望ましく、治療開始前に妊孕性温存について相談できる場合もあります。本症は通常、家族に遺伝する病気ではありませんが、アルポート症候群など遺伝性腎疾患との区別が問題になる場合や家族歴が気になる場合は、遺伝カウンセリングを受けることもできます。
利用できる制度・相談窓口
抗糸球体基底膜腎炎は指定難病(告示番号221)であり、診断基準を満たし、重症度分類で一定以上と判定された場合、または軽症でも医療費が一定額を超える月が続く場合(軽症高額該当)には、難病指定医の診断書をもとに都道府県・指定都市へ申請することで医療費助成を受けられます。自己負担は所得に応じた月額上限が設定されます。18歳未満で発症した場合は、小児慢性特定疾病(腎疾患)の対象となる場合があります。人工透析が必要になった場合は、健康保険の特定疾病療養受療証により透析にかかる自己負担が月額1万円(所得により2万円)までに抑えられ、腎臓機能障害による身体障害者手帳の取得、自立支援医療(更生医療)、障害年金の対象となりうる場合もあります。高額療養費制度や、就労世代では傷病手当金も利用できます。65歳以上で介護が必要になった場合は介護保険サービスを利用できます。手続きや生活上の相談は、病院の医療ソーシャルワーカー、保健所、各都道府県の難病相談支援センターが窓口となります。
抗糸球体基底膜腎炎に伴う心のケア・心理社会的支援
抗糸球体基底膜腎炎は、多くの場合それまで健康だった人に突然発症し、入院・集中治療・血漿交換・透析といった強力な治療が短期間に集中するため、患者さんも家族も心の準備が整わないまま大きな決断を迫られます。その結果、急性ストレス反応、不安、不眠、抑うつ、適応障害が生じることは珍しくありません。高用量ステロイドそのものが気分の高揚や落ち込み、不眠を引き起こすこともあります。また、腎機能が回復せず透析が続くことになった場合、生活の大きな変化や仕事・家庭での役割の喪失、将来への不安を抱えやすく、ボディイメージの変化や妊娠・出産に関する悩みも生じえます。一方で「再発はまれ」という本症の特徴は、見通しを立てるうえで支えになる情報です。つらさを一人で抱え込まず、主治医や看護師に気持ちを伝え、必要に応じて精神科・心療内科、臨床心理士(公認心理師)、医療ソーシャルワーカーに相談してください。腎臓病や難病の患者会・家族会で同じ経験をもつ人と話すことが助けになることもあります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
抗糸球体基底膜腎炎の受診の目安
- 尿がコーラ色や赤褐色になった、または健診で血尿・蛋白尿とともに腎機能の低下を指摘された場合は、早めに腎臓内科を受診してください。
- 尿量が急に減った、むくみや体重増加が数日で目立ってきた場合は、急速な腎機能低下の可能性があるため速やかに受診してください。
- 血痰や喀血、急に強くなる息切れや呼吸困難がある場合は、肺胞出血の可能性があるため直ちに救急受診してください。
- 治療中に38度以上の発熱、咳、強いだるさが出た場合は、重い感染症の可能性があるため早めに主治医に連絡してください。
- 吐き気・食欲不振が続く、意識がぼんやりする、脈が乱れるなどの症状は、腎不全や高カリウム血症のおそれがあるため救急受診を検討してください。
抗糸球体基底膜腎炎についてのよくある質問
Q. 抗糸球体基底膜腎炎は遺伝しますか?
A. 本症は自己免疫疾患で、親から子へ遺伝する病気ではありません。特定のHLA型をもつ人でやや起こりやすいとされますが、その型をもつ人のほとんどは発症しないため、家族が過度に心配する必要はありません。
Q. 一度透析になったら、もう腎臓は元に戻りませんか?
A. 治療開始時に透析が必要でも、腎生検で回復可能な病変が残っていれば透析を離脱できる場合があります。ただし受診時に重度の腎不全で、多くの糸球体が線維化している場合は回復が難しいことが多く、見通しは主治医とよく相談してください。
Q. 再発することはありますか?
A. 抗GBM抗体のみが陽性の場合、適切な治療で抗体が消えた後の再発はまれとされます。ANCAも陽性のダブルポジティブ例では再発することがあるため、より長期の経過観察が必要です。
Q. 腎移植は受けられますか?
A. 末期腎不全になった場合でも腎移植は可能です。移植腎での再発を防ぐため、血中の抗GBM抗体が陰性化してから一定期間(一般に6か月以上)待ってから行うことが推奨されています。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。