プリオン病
Prion Disease
プリオン病(Prion Disease)|プリオン病は、正常なプリオンタンパク質が異常な立体構造に変化して脳内に蓄積し、神経細胞が急速に失われていく致死性の神経変性疾患群です。代表的なクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)は主に60〜70歳代に発症します。数週〜数か月という短期間で認知症、ミオクローヌス(ピクッとする不随意運動)、歩行障害などが進み、多くは寝たきり・無動性無言の状態に至ります。患者本人だけでなく、介護する家族にも大きな医学的・心理的・社会的負担を伴う疾患です。
プリオン病の要点
プリオン病は、正常なプリオンタンパク質が異常な構造に変化して脳内に蓄積し、神経細胞が失われていく致死性の神経変性疾患群です。代表的なCJDでは数週〜数か月で急速に進行する認知症、ミオクローヌス、歩行障害などがみられ、日本では指定難病(告示番号23)です。
| 別名・略称 | 伝達性海綿状脳症、TSE、クロイツフェルト・ヤコブ病、CJD、Creutzfeldt-Jakob disease |
|---|---|
| 分野 | 神経・筋疾患 |
| 病型 | 孤発性・遺伝性・獲得性(医原性、変異型など) |
| 遺伝形式 | 多くは孤発性。遺伝性はPRNP遺伝子変異による常染色体顕性(優性)遺伝 |
| 好発年齢 | CJDは主に60〜70歳代 |
| 主な症状 | 急速進行性の認知症、ミオクローヌス、歩行障害、無動性無言 |
| 主な検査 | 頭部MRI、脳波、髄液検査、PRNP遺伝子検査 |
| 受診する主な診療科 | 神経内科 |
プリオン病とは
プリオン病は、宿主の第20番染色体上にあるプリオンタンパク質遺伝子(PRNP)がコードする正常型プリオンタンパク質(PrP<sup>C</sup>)が、βシート構造に富む異常型プリオンタンパク質(PrP<sup>Sc</sup>)に構造変換して中枢神経に蓄積する疾患の総称です。異常型は正常型を鋳型的に異常型へ変換させながら増えていきます。このため、核酸を持たない「タンパク質性感染因子(prion)」として振る舞う点が最大の特徴です。病理学的には、大脳灰白質の海綿状変化(スポンジ状の空胞)、神経細胞脱落、アストロサイトの増生がみられます。異常プリオンタンパク質の沈着も確認され、炎症反応はほとんど伴いません。この特徴から伝達性海綿状脳症(TSE)とも呼ばれます。日本では指定難病(告示番号23)に指定されています。感染症法では五類感染症の全数把握対象でもあり、診断した医師には届出義務があります。
病因により大きく3つに分類されます。①原因不明の孤発性(孤発性CJD:sCJD)は最も多い病型です。②PRNP遺伝子変異による遺伝性には、遺伝性CJD、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)、致死性家族性不眠症(FFI)が含まれます。③外部からプリオンが入って発症する獲得性には、医原性CJD(ヒト乾燥硬膜移植、ヒト下垂体由来成長ホルモン製剤など)、牛海綿状脳症(BSE)由来とされる変異型CJD(vCJD)、パプアニューギニアのクールーがあります。孤発性CJDは、PRNPコドン129多型(メチオニンM/バリンV)と異常プリオンタンパク質のウエスタンブロット型(1型/2型)の組み合わせで、MM1、MM2(皮質型・視床型)、MV1、MV2、VV1、VV2などの亜型に分けられます。亜型ごとに臨床像や進行速度が異なります。歴史的には、1920年代にCJDが記載されました。1950年代後半にクールーが報告され、1960年代に動物への伝達実験で伝達性が示されました。1982年にはプルシナーがプリオン仮説を提唱しました。1990年代には英国でBSEに関連したvCJDが問題となりました。なお、BSEは牛の病気であり、ヒトの疾患としてはvCJDが対応します。
プリオン病の疫学・患者数
プリオン病は世界的にほぼ均一に、年間人口100万人あたり約1〜2人の頻度で発症するとされます。日本では厚生労働省研究班の「プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究」(CJDサーベイランス委員会)が全国調査を続けています。人口高齢化と診断精度の向上により、把握される患者数は増加傾向にあります。国内の病型別では孤発性CJDが約7〜8割を占め、遺伝性が約2割弱、獲得性はごく一部です。日本の特徴は次の3点です。①遺伝性プリオン病ではV180I変異(高齢発症で家族歴が乏しいことが多い)が最も多く、E200K、P102L(GSS)、M232Rなども報告されています。②ヒト乾燥硬膜(ライオデュラ)移植後のCJDが世界で最も多く報告されています。③vCJDの国内報告は英国滞在歴のある1例のみです。孤発性CJDの発症年齢は60〜70歳代にピークがあり、若年発症はまれです。性差はわずかに女性が多いとの報告がありますが、大きな差ではありません。日本人はコドン129がMM型の人が大部分を占めます。このため孤発性CJDでも典型的なMM1型が最も多くなっています。
プリオン病の原因・病態生理
正常型プリオンタンパク質(PrPC)は、神経細胞の膜表面にGPIアンカーで結合する糖タンパク質です。銅結合、シナプス機能、神経保護などへの関与が想定されていますが、生理機能は完全には解明されていません。PrPCとPrPScはアミノ酸配列が同一で、立体構造だけが異なります。PrPScはプロテアーゼ(タンパク分解酵素)に抵抗性で、凝集しやすい性質を持ちます。孤発性では、加齢などを背景にPrPCが偶発的に構造変換を起こすと考えられていますが、確証はありません。遺伝性では、PRNPの点変異や挿入変異によってPrPCが異常構造をとりやすくなり、常染色体顕性(優性)遺伝形式をとります。ただし浸透率は変異により大きく異なります。日本に多いV180IやM232Rは浸透率が低いとされ、家族歴が明らかでない例が少なくありません。獲得性は、汚染された組織・製剤や食品を介してPrPScが体内に入ることで発症します。潜伏期間は数年から数十年と非常に長いのが特徴です。コドン129多型は発症リスクや病型に影響し、ホモ接合体(MMまたはVV)で孤発性CJDのリスクが高いとされます。
発症機序の中心は「鋳型依存性の構造変換(seeded conversion)」です。少量のPrPScが種(シード)となってPrPCを取り込み、異常構造に変換します。生じた凝集体が断片化して新たなシードとなるため、指数関数的に増えていきます。異常プリオンの「株(strain)」によって立体構造の違いが保たれ、それが病変の分布や臨床像の違いにつながると考えられています。神経細胞障害の機序としては、次のようなものが想定されています。PrPScの直接毒性、小さなオリゴマーによるシナプス障害、小胞体ストレスやタンパク質分解系の破綻、ミクログリア・アストロサイトの活性化です。ただし詳細は研究段階です。vCJDではPrPScが扁桃やリンパ組織にも蓄積し、末梢から神経系へ入ると考えられています。一方、孤発性CJDでは主に中枢神経に限局します。なお、日常的な接触、飛沫、空気によって人から人へ感染することはありません。
プリオン病の症状
- 急速進行性認知症: 記憶障害、見当識障害、判断力低下が数週〜数か月で急速に進みます。アルツハイマー型認知症のように年単位でゆっくり進むのではない点が重要な手がかりです。
- ミオクローヌス: 手足や体幹が突然ピクッと動く不随意運動で、音や接触などの刺激で誘発される(驚愕反応)こともあります。孤発性CJDの中〜後期に高頻度でみられます。
- 小脳性運動失調: ふらつき、歩行不安定、手のふるえや細かい動作の障害がみられます。初発症状となることもあり、GSSでは主要症状です。
- 視覚異常: 視力低下、かすみ、物がゆがんで見える、皮質盲などが起こります。後頭葉が侵される病型(ハイデンハイン型)では初発症状として目立ち、眼科を先に受診することもあります。
- 精神症状・行動変化: 抑うつ、不安、易怒性、無関心、幻覚、妄想などがみられます。vCJDでは若年者の精神症状が先行することが特徴とされます。
- 錐体路・錐体外路症状: 腱反射亢進、病的反射、筋固縮、動作緩慢、ジストニアなどが現れます。進行とともに四肢の拘縮へつながります。
- 言語障害・高次脳機能障害: 失語、失行、失認、構音障害などがみられます。会話や日常動作が急速に困難になります。
- 無動性無言: 末期には自発的な運動や発語がほぼ消失し、開眼していても意思疎通ができない状態となります。孤発性CJDでは発症から数か月で至ることが多いとされます。
- 睡眠障害・自律神経症状: 致死性家族性不眠症では、治療に反応しない不眠、睡眠構造の破綻、発汗・頻脈・高血圧などの自律神経症状が目立ちます。
- 感覚異常: vCJDなどでは、手足の痛みや異常感覚が早期にみられることが報告されています。
- 嚥下障害: 病気の進行に伴って飲み込みが困難になり、誤嚥や低栄養の原因になります。
プリオン病の経過と合併症
経過は病型によって大きく異なります。典型的な孤発性CJD(MM1/MV1型)では、まず倦怠感、不眠、めまい、視覚異常、軽い物忘れなどの前駆症状が現れます。その後、数週から数か月で急速進行性認知症、ミオクローヌス、運動失調が加わり、3〜6か月前後で無動性無言状態に至ることが多いとされます。MM2皮質型、MV2型、日本に多いV180I変異型では進行が比較的緩やかです。典型的な脳波所見を欠くこともあり、診断が遅れやすい傾向があります。GSSは小脳失調で始まり、数年から10年近い経過をとることがあります。FFIは不眠と自律神経症状が先行し、多くは1〜2年程度の経過とされます。硬膜移植後CJDは、移植から10年以上の長い潜伏期を経て発症する例が多く報告されています。
合併症の多くは、寝たきり状態に伴って起こります。主なものは次のとおりです。嚥下障害による誤嚥性肺炎(最も頻度が高い直接死因のひとつ)、尿路感染症、褥瘡(床ずれ)、四肢の拘縮、深部静脈血栓症・肺塞栓症、低栄養・脱水、てんかん発作です。ミオクローヌスが強いと転倒や外傷、皮膚損傷の原因にもなります。こうした合併症の予防と管理が、療養生活の質と生命予後を大きく左右します。
プリオン病の診断・診断基準
診断では、まず「急速に進行する認知症」を見逃さないことが出発点です。治療可能な疾患(自己免疫性脳炎、代謝性脳症、ウェルニッケ脳症、非けいれん性てんかん重積など)を除外しながら、プリオン病に特徴的な所見を集めていきます。日本ではWHO基準などを踏まえた診断基準が用いられ、「確実例(definite)」「ほぼ確実例(probable)」「疑い例(possible)」に分類されます。確実例の診断には、脳組織での異常プリオンタンパク質の証明が必要です。ほぼ確実例は、臨床症状にMRI拡散強調画像、脳波の周期性同期性放電(PSD)、脳脊髄液検査(RT-QuIC法、14-3-3蛋白、総タウ蛋白)の所見を組み合わせて判断します。遺伝性が疑われる場合はPRNP遺伝子検査を行い、獲得性については硬膜移植歴、成長ホルモン製剤使用歴、英国等への滞在歴を確認します。日本ではCJDサーベイランス委員会と各地域の専門医が診断を支援しています。脳脊髄液の特殊検査も研究班を通じて実施されているため、疑った段階で専門医へ相談することが推奨されます。
- 頭部MRI拡散強調画像(DWI): 大脳皮質に沿ったリボン状の高信号(cortical ribboning)や、尾状核・被殻の高信号がみられ、早期診断に最も有用な検査のひとつです。vCJDでは視床枕の高信号(pulvinar sign)が特徴とされます。
- 脳波(PSD): 約1秒周期の周期性同期性放電(PSD)が典型的な孤発性CJDの中期以降に出現します。早期や非典型例では欠如することがあり、繰り返しの記録が役立ちます。
- 脳脊髄液RT-QuIC法: 髄液中のごく微量の異常プリオンを試験管内で増幅して検出する方法で、特異度が非常に高いとされます。ほぼ確実例の診断に大きく寄与しますが、病型によって感度が下がることがあります。
- 脳脊髄液14-3-3蛋白・総タウ蛋白: 急速な神経細胞破壊を反映して上昇します。感度は高い一方、脳炎や脳梗塞などでも上昇するため特異度には限界があります。
- PRNP遺伝子検査: 遺伝性プリオン病の変異の有無と、コドン129・219多型を調べます。家族歴がなくても変異が見つかることがあるため、遺伝カウンセリングを前提に実施します。
- 一般血液・髄液検査: 髄液の細胞数・蛋白は通常ほぼ正常で、炎症性疾患との鑑別に役立ちます。甲状腺機能、ビタミンB1・B12、電解質、自己抗体なども確認し、治療可能な疾患を除外します。
- 脳病理検査(剖検・生検): 海綿状変化、神経細胞脱落、異常プリオンタンパク質の免疫染色・ウエスタンブロットで確定診断し、病型分類も行います。多くは剖検で行われ、確定診断と感染予防の両面で重要です。
- 扁桃生検など: vCJDでは扁桃などのリンパ組織に異常プリオンが蓄積するため、診断に用いられることがあります。孤発性CJDでは通常行いません。
- 睡眠ポリグラフ・脳血流SPECT等: FFIでは睡眠構造の異常、脳血流SPECTやPETでは視床の機能低下などが参考所見になります。
プリオン病と鑑別すべき疾患
- 自己免疫性脳炎(抗LGI1抗体脳炎、橋本脳症など): 急速な認知障害やミオクローヌスを呈しますが、自己抗体の検出や免疫療法への反応がみられ、治療可能なため最優先で除外します。
- アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症: 通常は年単位で緩徐に進行し、MRI拡散強調画像での皮質リボン状高信号やPSDはみられません。
- 前頭側頭葉変性症: 行動変化や失語が中心で、進行は比較的緩徐であり、髄液RT-QuICは陰性です。
- 代謝性・中毒性脳症(ウェルニッケ脳症、低血糖・低酸素脳症など): 病歴と血液検査、ビタミンB1補充への反応などで鑑別でき、可逆的な場合があります。
- 非けいれん性てんかん重積: 意識障害やミオクローヌスを呈し脳波で周期性放電様の所見を示すことがありますが、抗てんかん薬で改善する点が異なります。
- 進行性多巣性白質脳症・亜急性硬化性全脳炎: いずれも進行性の脳症を示しますが、免疫不全の背景、白質病変、麻疹抗体価などの所見で区別されます。
プリオン病の治療
現時点では、プリオン病の進行を止めたり治癒させたりすることが証明された治療法はありません。治療の中心は、症状の緩和、合併症の予防、栄養管理、そして本人の尊厳と家族の生活を支えるケアです。これまでにキナクリン、ドキシサイクリン、ペントサンポリサルフェート(脳室内投与)などが試みられてきましたが、明確な有効性は示されていません。現在は、PRNPの発現を抑えるアンチセンス核酸などの研究が進められています。経過が速いため、診断早期から本人の意思が確認できるうちに、経管栄養や人工呼吸、療養場所などについて話し合うことが重要です。その際は、主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャーなど多職種と共に、アドバンス・ケア・プランニングとして進めることが望まれます。個々の治療選択は、病型・進行度・本人と家族の価値観をふまえ、主治医・専門医と十分に相談して決めてください。
- ミオクローヌス・てんかんへの薬物療法: クロナゼパム、レベチラセタム、バルプロ酸などがミオクローヌスやけいれんの軽減目的で用いられることがあります。眠気や嚥下機能への影響に注意して調整します。
- 精神症状・不眠への対応: 興奮、幻覚、不眠などに対して、少量の向精神薬などを慎重に使用することがあります。環境調整や声かけなど非薬物的対応も併用します。
- 栄養管理(経管栄養・胃瘻): 嚥下障害の進行に応じて食形態を調整し、必要に応じて経鼻胃管や胃瘻が検討されます。延命につながる一方で長期療養となるため、本人の意思と家族の思いを尊重して決定します。
- 呼吸・感染症管理: 口腔ケア、体位調整、吸引により誤嚥性肺炎を予防し、感染時には抗菌薬などで治療します。
- 褥瘡・拘縮予防とリハビリテーション: 体位変換、除圧マットの使用、関節可動域訓練などで、皮膚障害や拘縮を予防し、介護のしやすさと快適性を保ちます。
- 緩和ケア: 苦痛の緩和と穏やかな療養生活を目標とし、在宅・施設・病院のいずれでも提供されるよう、地域の医療・介護資源と連携します。
- 適切な感染予防対策: 日常のケアは標準予防策で十分ですが、脳・脊髄・眼などの高リスク組織に触れる手術や処置では、国内ガイドラインに基づく特別な滅菌・器具管理が必要です。
- 臨床研究・治験への参加: 新規治療法の開発研究が国内外で進められており、条件が合えば参加を検討できることがあります。詳細は専門医に相談してください。
プリオン病の予後・長期フォロー
プリオン病は現在のところ致死的な疾患です。典型的な孤発性CJDは発症から数か月で無動性無言となり、欧米では1年以内に亡くなる例が多いと報告されています。日本では経管栄養や全身管理が広く行われるため、生存期間が欧米より長い傾向が指摘されており、数年に及ぶ療養となることもあります。MM2型、V180I変異、GSSなどは進行が比較的緩やかです。直接の死因は誤嚥性肺炎などの感染症が多くを占めます。生活の質(QOL)は早期から大きく損なわれるため、残された機能を活かした意思疎通の工夫、苦痛の除去、家族と過ごす時間の確保がケアの重要な目標になります。
長期的なフォローアップでは、定期的な栄養状態・皮膚・呼吸状態の評価、薬剤調整、介護体制の見直しを行います。病状の変化に応じて療養場所(在宅、療養病床、施設など)を再検討することも大切です。サーベイランス調査への協力は、国内のプリオン病の実態解明と感染予防策の改善に役立ちます。また、亡くなられた後の病理解剖は、確定診断、病型の解明、家族への遺伝情報の提供、医療関連感染の検証に重要な意味を持ちます。実施可能な施設は限られるため、可能であれば事前に主治医と相談しておくとよいでしょう。
プリオン病の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
プリオン病は、会話、食事の介助、入浴、寝具の共有など日常的な接触でうつることはありません。家族が一緒に生活し、介護することは問題ありません。介護の際は手袋の使用や手洗いなど一般的な衛生管理(標準予防策)を守れば十分です。ただし、歯科治療、内視鏡、手術などを受ける際は、必ずプリオン病(またはその疑い)であることを医療機関に伝えてください。病状が速く進むため、転倒防止の住環境整備、嚥下機能に合わせた食事形態、褥瘡予防用具、介護ベッドなどを早めに準備することが役立ちます。遺伝性プリオン病が判明した場合や家族歴がある場合、血縁者の発症リスクや発症前診断の是非は、医学的にも心理的にも非常に重い問題です。予防法や発症を遅らせる治療が確立していないこともふまえ、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けたうえで、検査を受けるかどうかを慎重に判断することが勧められます。なお、プリオン病患者と血縁者には献血を控えるよう求められる場合があり、臓器・組織の提供にも制限があります。
利用できる制度・相談窓口
プリオン病は指定難病(告示番号23)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、難病医療費助成制度により医療費の自己負担が軽減されます。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、住所地の都道府県・指定都市の窓口(保健所など)に行います。介護保険では、クロイツフェルト・ヤコブ病などによる認知症は「初老期における認知症」として特定疾病に該当し、40〜64歳でも要介護認定を受けてサービスを利用できます。65歳以上の方は通常どおり利用可能です。障害者総合支援法の対象疾病にも含まれており、障害福祉サービスを利用できる場合があります。症状に応じて身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、障害年金の申請が可能なこともあります。高額療養費制度も併せて確認しましょう。ヒト乾燥硬膜移植に関連した医原性CJDについては、訴訟の和解に基づく救済の枠組みがあります。また、生物由来製品による感染被害には、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の救済制度が適用される場合があります。相談窓口としては、病院の医療ソーシャルワーカー、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、地域包括支援センターがあります。プリオン病については、厚生労働省研究班(CJDサーベイランス委員会)の地域担当専門医や、患者・家族の支援団体も情報提供や相談に応じています。
プリオン病に伴う心のケア・心理社会的支援
プリオン病では、診断から短期間で本人の意思表示が困難になります。そのため、家族は告知の衝撃と、急速な病状変化への対応を同時に迫られます。治療法がないという現実、介護負担、仕事や家計への影響、病名に対する誤解や偏見(感染への不安から周囲や施設に受け入れを拒まれることがある)などが重なり、抑うつ、不安、不眠、適応障害、燃え尽きを生じやすいことが知られています。遺伝性の場合には、自分や子どもへの遺伝への不安、発症前診断をめぐる葛藤、家族内での情報共有の難しさといった特有の課題も加わります。発症早期の本人も、自分の変化に気づいて強い不安や抑うつを抱えることがあります。こうした負担は「頑張りが足りない」ことの表れではありません。主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士・公認心理師、精神科医、遺伝カウンセラーなどに早めに相談してください。レスパイト入院や短期入所で介護者が休息をとることも大切です。家族会など同じ経験をもつ人とのつながりも支えになります。看取りの後の悲嘆(グリーフ)に対するケアも、必要に応じて受けることができます。
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プリオン病の受診の目安
- 数週〜数か月の間に物忘れ、混乱、言動の変化が急速に進んでいる場合は、早めに脳神経内科を受診してください。
- 原因のはっきりしない視覚異常やふらつきに、認知機能の低下や手足のピクつきが加わってきた場合は、専門医の診察を受けてください。
- けいれん発作が5分以上続く、または意識が戻らないまま発作を繰り返す場合は、救急要請してください。
- 発熱、咳、痰の増加、呼吸が苦しそうな様子など、誤嚥性肺炎が疑われる場合は速やかに受診してください。
- 食事や水分がとれない状態が続き、尿量の減少やぐったりした様子がみられる場合は、早めに受診してください。
- 家族にプリオン病の既往があり、自身の遺伝について不安がある場合は、遺伝カウンセリング外来に相談してください。
プリオン病についてのよくある質問
Q. プリオン病は家族や介護者にうつりますか?
A. 会話、食事、入浴の介助、同居など日常的な接触でうつることはありません。標準的な衛生管理で十分です。ただし脳や眼の組織に触れる手術などでは特別な感染予防策が必要なため、医療機関を受診する際は病名を伝えてください。
Q. 牛肉を食べてプリオン病になったのでしょうか?
A. 国内の患者さんの大部分は原因不明の孤発性や遺伝性で、食品とは関係がありません。BSEとの関連が指摘される変異型CJDは、日本では英国滞在歴のある1例が報告されているのみです。BSE対策が講じられた現在、国内での食品由来の発症リスクは極めて低いと考えられています。
Q. 遺伝性と言われましたが、子どもも必ず発症しますか?
A. 遺伝性プリオン病は常染色体顕性(優性)遺伝で、子どもが変異を受け継ぐ確率は50%です。ただし変異の種類によって発症する割合(浸透率)は大きく異なり、日本に多いV180I変異などでは発症しない保因者も多いとされます。検査を受けるかどうかも含めて、遺伝カウンセリングで相談してください。
Q. 治療法はまったくないのですか?
A. 現時点で病気の進行を止める治療法は確立していません。ただし、ミオクローヌスや不眠などの症状を和らげる治療や、肺炎・褥瘡を防ぐケアによって、苦痛を減らし穏やかに過ごすことは可能です。新しい治療法の研究も進められており、最新情報は専門医に確認してください。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。