肺胞低換気症候群

Alveolar Hypoventilation Syndrome

肺胞低換気症候群(Alveolar Hypoventilation Syndrome)|肺胞低換気症候群は、肺そのものには大きな異常がないにもかかわらず、呼吸を調節する仕組みの障害などによって十分な換気ができず、血液中の二酸化炭素(CO2)が慢性的に高くなる病気です。特に睡眠中に呼吸が浅くなりやすく、新生児期に発症する先天性のものから成人期に気づかれるものまであります。進行すると低酸素血症、肺高血圧症、右心不全、意識障害を招くため、夜間を中心とした人工呼吸管理など長期の呼吸ケアが必要になることがあります。

肺胞低換気症候群の要点

肺胞低換気症候群は、肺に大きな異常がないのに呼吸調節の障害などで換気が不十分となり、血中の二酸化炭素が慢性的に高くなる病気で、特に睡眠中に悪化します。低酸素血症や肺高血圧症、右心不全を来すことがあり、夜間の人工呼吸などが必要になる指定難病(告示番号231)です。

別名・略称中枢性肺胞低換気症候群、先天性中枢性低換気症候群、CCHS、オンディーヌの呪い、肥満低換気症候群
分野呼吸器疾患
遺伝先天性型(CCHS)ではPHOX2B遺伝子が原因。病型により異なる
好発年齢新生児期から成人期まで幅広い
主な症状睡眠中の浅い呼吸、高CO2血症、低酸素血症
主な検査動脈血ガス分析、睡眠中の呼吸モニタリング、PHOX2B遺伝子検査
主な治療夜間を中心とした人工呼吸管理
受診する主な診療科呼吸器内科、小児科

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肺胞低換気症候群とは

肺胞低換気とは、肺胞に出入りする空気の量(肺胞換気量)が体内で産生されるCO2を排出するのに不十分な状態をいいます。動脈血CO2分圧(PaCO2)は「CO2産生量÷肺胞換気量」に比例するため、換気が減るとPaCO2が上昇し(高炭酸ガス血症、一般にPaCO2 45 Torr超)、同時に肺胞内の酸素分圧が下がって低酸素血症を伴います。肺胞低換気症候群は、こうした慢性の肺胞低換気を主徴とする病態の総称です。指定難病(告示番号230)の対象としては、肺実質病変・気道閉塞・胸郭疾患・神経筋疾患・薬剤など明らかな原因では説明できない、呼吸調節(中枢性)の障害を主体とする病型が中心とされます。肺そのものに大きな病変がないため、肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)が保たれやすいことが特徴です。

病型は、(1)先天性中枢性低換気症候群(CCHS)、(2)成人期などに発症する特発性(原発性)中枢性肺胞低換気症候群、(3)小児期に急速な肥満と視床下部機能障害・自律神経障害を伴って発症するROHHAD症候群などに大別されます。肥満低換気症候群(OHS)は肥満を背景とする代表的な肺胞低換気で、研究班の診断基準でも取り扱われてきた経緯があります。ただし、制度上の対象範囲や病型の扱いは最新の告示・診断基準で確認が必要です。歴史的には、CCHSは水の精の神話にちなみ「オンディーヌの呪い」と呼ばれ、OHSは小説の登場人物にちなみ「ピックウィック症候群」と呼ばれてきました。2003年にCCHSの原因遺伝子としてPHOX2Bが同定され、遺伝子診断が可能になりました。

肺胞低換気症候群の疫学・患者数

極めてまれな疾患群で、正確な国内患者数は明らかではありません。CCHSは出生数万〜20万人に1人程度と推定する報告がありますが、軽症例や遅発例が診断されずにいる可能性も指摘されています。国内では研究班などにより数百例規模の症例が把握されているとされます。CCHSの多くは新生児期に呼吸停止やチアノーゼで見つかりますが、PHOX2B変異の種類によっては小児期〜成人期に、麻酔、鎮静薬の使用、呼吸器感染などをきっかけに発見される「遅発型」もあります。性差ははっきりしません。特発性中枢性肺胞低換気症候群は成人に多く、男性にやや多いとする報告がありますが、症例数が少なく確定的ではありません。肥満低換気症候群は肥満人口の増加とともに増えているとされますが、日本では欧米より頻度が低いと考えられています。

肺胞低換気症候群の原因・病態生理

CCHSの原因は、自律神経系の発生に関わる転写因子をコードするPHOX2B遺伝子の異常です。患者の大多数(約9割)は、遺伝子内のポリアラニン配列が延長する変異(PARM、正常20個が24〜33個程度に延長)をもちます。残りはミスセンス変異やフレームシフト変異などの非ポリアラニン延長変異(NPARM)です。一般に、アラニンの延長が長いほど呼吸障害が重く、覚醒時にも人工呼吸を要しやすく、ヒルシュスプルング病や心拍の異常を合併しやすいとされます。NPARMは重症例が多く、神経芽腫など神経堤由来腫瘍の合併が多いことが知られています。遺伝形式は常染色体顕性(優性)で、多くは新生突然変異ですが、症状の乏しい親が変異を持つ場合(モザイクを含む)もあります。ROHHAD症候群では原因遺伝子は特定されておらず、自己免疫などの関与が議論されています。特発性中枢性肺胞低換気症候群の原因も多くは不明です。

呼吸は、延髄の呼吸中枢と化学受容器による自動調節で維持されています。PaCO2の上昇は主に脳幹(延髄腹側の後台形核など)の中枢化学受容器で、低酸素は頸動脈小体の末梢化学受容器で感知され、換気が増やされます。CCHSではPHOX2Bを発現する神経細胞の発生異常により、CO2上昇や低酸素に対する換気応答と呼吸困難感が著しく鈍くなります。意識的な呼吸(行動性調節)の影響が小さくなるノンレム睡眠中に、低換気が最も強く現れます。重症例では覚醒時にも低換気を生じます。患者本人は息苦しさを自覚しにくいため、高度の低酸素や高炭酸ガス血症でも呼吸を増やしません。慢性の高炭酸ガス血症に対しては腎臓が重炭酸イオンを保持して代償し、呼吸性アシドーシスの補正を図ります。この代償によって中枢の感受性はさらに鈍くなり、悪循環を生じます。慢性的な低酸素は肺血管を収縮させて肺高血圧と右心負荷を招き、腎臓からのエリスロポエチン分泌を介して多血症を引き起こします。

肺胞低換気症候群の症状

  • 睡眠中の呼吸減弱・無呼吸: 眠ると呼吸が浅く遅くなり、チアノーゼや無呼吸を生じます。新生児では人工呼吸器からの離脱困難として見つかることがあります。
  • 呼吸困難感の欠如: 高度の低酸素や高炭酸ガス血症でも息苦しさを感じにくいため、自覚症状がないまま重症化する危険があります。
  • 起床時頭痛: 夜間のCO2貯留で脳血管が拡張し、朝の頭痛や頭重感が起こります。日中には軽快することが多いです。
  • 日中の過度の眠気・倦怠感: 睡眠の質の低下と高炭酸ガス血症により、強い眠気、集中力低下、疲れやすさが生じます。
  • 認知・発達への影響: 小児では繰り返す低酸素により、学習障害や発達の遅れが生じることがあります。早期からの適切な換気管理が重要です。
  • チアノーゼ・多血症: 慢性の低酸素血症で唇や爪が紫色になり、赤血球が増加して血液が濃くなることがあります。
  • むくみ・運動耐容能の低下: 肺高血圧から右心不全(肺性心)に進むと、下肢のむくみ、肝腫大、息切れ、体重増加がみられます。
  • CO2ナルコーシス: 感染や鎮静薬、高濃度酸素投与などをきっかけにCO2が急上昇し、意識障害や呼吸停止に至ることがあります。
  • 自律神経症状(CCHS・ROHHAD): 心拍の変動低下や徐脈・洞停止、発汗異常、体温調節障害、瞳孔異常、便秘などを伴うことがあります。
  • 急速な肥満・内分泌異常(ROHHAD): 幼児期に急激な体重増加が起こり、高ナトリウム血症、成長ホルモン分泌不全、思春期異常などの視床下部障害を伴います。

肺胞低換気症候群の経過と合併症

CCHSは生まれつきの体質で、成長しても自然に治ることはなく、生涯にわたって換気補助が必要と考えられています。乳児期は、睡眠中だけでなく覚醒時にも人工呼吸を要することが多く、気管切開による人工呼吸管理が行われることが一般的です。成長とともに覚醒時の換気は安定することが多く、睡眠時のみの換気補助へ移行したり、マスク式非侵襲的陽圧換気(NIV)へ切り替えたりする例もあります。遅発型CCHSや特発性中枢性肺胞低換気症候群は、最初は睡眠中のみの軽い低換気にとどまります。しかし無治療で経過すると徐々に覚醒時の高炭酸ガス血症に進み、呼吸器感染、手術時の麻酔、鎮静薬の使用などを契機に急性増悪をきたして初めて診断されることも少なくありません。ROHHADは2〜4歳頃までに急速な肥満から発症し、数年の経過で低換気が顕在化して突然の心肺停止に至ることがあるため、早期の認識が重要です。

主な合併症は、慢性低酸素による肺高血圧症・右心不全(肺性心)、多血症、不整脈、低酸素性脳障害、てんかん発作です。CCHSでは、ヒルシュスプルング病(腸管神経節細胞の欠如による重症便秘・腸閉塞)が約2割にみられるとされます。神経芽腫、神経節芽腫、神経節細胞腫などの神経堤由来腫瘍は、NPARMや長いPARMで多いとされます。心臓の自律神経障害として、数秒以上の洞停止がみられ、ペースメーカーを要する例があります。そのほか、低血糖、眼科的異常、嚥下障害などが報告されています。ROHHADでは視床下部・下垂体ホルモンの異常や神経堤由来腫瘍の合併に注意が必要です。気管切開に伴う気道感染、肉芽形成、事故抜去も管理上の重要な合併症です。

肺胞低換気症候群の診断・診断基準

診断の要点は、(1)慢性の高炭酸ガス血症を客観的に確認すること、(2)それが睡眠中に悪化する肺胞低換気であることを示すこと、(3)肺・気道・胸郭・神経筋疾患、高度肥満、薬剤、甲状腺機能低下症、脳幹病変など二次的な原因を除外すること、の3点です。新生児で原因不明の無呼吸、人工呼吸器からの離脱困難、チアノーゼがみられる場合、あるいは小児・成人で麻酔後の覚醒遅延や説明のつかない高炭酸ガス血症、多血症、肺高血圧がある場合に本症を疑います。そのうえで、動脈血ガス分析、睡眠中の連続的なCO2・SpO2モニタリング、呼吸機能検査、画像検査を組み合わせて評価します。CCHSが疑われる場合はPHOX2B遺伝子検査で確定診断が可能で、変異の型は合併症リスクの予測にも役立ちます。指定難病の申請では、研究班が作成した診断基準と重症度分類に沿って、専門医が臨床調査個人票を作成します。

  • 動脈血ガス分析: PaCO2の上昇(45 Torr超)と、代償性の重炭酸イオン(HCO3-)上昇を確認します。肺に病変がなければA-aDO2はほぼ正常で、肺疾患による呼吸不全との区別に役立ちます。
  • 睡眠ポリグラフ検査(PSG)+経皮CO2モニタリング: 睡眠中の換気低下、SpO2低下、CO2上昇の程度と睡眠段階との関係を評価します。閉塞性睡眠時無呼吸との鑑別や、人工呼吸器の設定調整にも用いられます。
  • 呼吸機能検査・呼吸筋力測定: 肺活量や1秒量が保たれていること、最大吸気圧・呼気圧が低下していないことを確認し、閉塞性・拘束性肺疾患や神経筋疾患を除外します。
  • 換気応答検査(CO2・低酸素負荷): CO2吸入や低酸素状態での換気量の増加を測定します。中枢性病型では応答が著しく低下しますが、実施できる施設は限られます。
  • PHOX2B遺伝子検査: CCHSの確定診断に用います。ポリアラニン延長の長さや非延長型変異の有無から、重症度や腫瘍・ヒルシュスプルング病のリスクを推定できます。
  • 胸部画像検査(X線・CT): 肺実質病変、胸郭変形、横隔膜の位置異常などの有無を確認します。CCHSでは神経芽腫の検索として胸腹部画像を行うことがあります。
  • 心エコー・心電図・ホルター心電図: 肺高血圧や右心負荷を評価します。CCHSでは洞停止や徐脈性不整脈の検出のため、長時間の心電図記録が推奨されています。
  • 頭部MRI・血液検査: 脳幹梗塞、腫瘍、キアリ奇形などの中枢病変を除外し、血算(多血症)、甲状腺機能、内分泌検査(ROHHADの視床下部障害)を確認します。
  • 消化管評価(直腸生検など): CCHSで重度の便秘や腹部膨満がある場合、ヒルシュスプルング病の有無を直腸粘膜生検や注腸造影で評価します。

肺胞低換気症候群と鑑別すべき疾患

  • 肥満低換気症候群: 高度肥満(BMI 30以上が目安)を背景とし、閉塞性睡眠時無呼吸を伴うことが多い点で、肥満を伴わない中枢性病型と区別されます(ROHHADとの鑑別は発症年齢や内分泌異常で行います)。
  • 慢性閉塞性肺疾患などの肺・胸郭疾患: 呼吸機能検査での閉塞性・拘束性障害、画像所見、A-aDO2の開大があれば、肺疾患や胸郭疾患(後側弯症、肺結核後遺症など)による低換気が考えられます。
  • 神経筋疾患(筋萎縮性側索硬化症、筋ジストロフィー、重症筋無力症など): 呼吸筋力の低下、筋力低下、筋電図や血清CK値の異常があり、換気応答そのものよりも換気を実行する筋力が障害されている点が異なります。
  • 薬剤性低換気: オピオイド、ベンゾジアゼピン系薬、アルコールなどの使用歴があり、中止により改善するかを確認します。
  • 脳幹病変・先天代謝異常: 脳幹梗塞、腫瘍、脳炎、キアリ奇形、ミトコンドリア病などでは、画像や神経学的所見、代謝検査に異常を認めます。
  • 甲状腺機能低下症: 換気応答の低下を起こしうるため甲状腺ホルモンを測定し、補充療法による改善の有無を評価します。

肺胞低換気症候群の治療

現時点で呼吸調節の障害そのものを治す治療はなく、治療の中心は人工呼吸による換気補助です。目標は、睡眠中・覚醒中を通じてPaCO2とSpO2を適正な範囲に保ち、脳の発達と認知機能を守り、肺高血圧や右心不全を予防することです。換気補助の方法(気管切開下陽圧換気、NIV、横隔神経ペーシング)は、年齢、覚醒時の低換気の有無、合併症、本人・家族の生活状況を踏まえて選択します。いずれも在宅で長期に継続する前提で、呼吸器内科・小児科(新生児科)・小児外科・循環器科・在宅医療チームが連携して管理します。注意すべき点として、酸素投与だけでは低換気は改善せず、高濃度酸素はかえってCO2貯留を悪化させる危険があります。また、呼吸刺激薬の有効性は確立していません。方法や設定は個々の病状で大きく異なるため、主治医・専門医と十分に相談して決定してください。

  • 気管切開下陽圧換気(TPPV): 乳幼児のCCHSや覚醒時にも換気補助が必要な重症例で標準的に用いられ、確実な換気と安定した酸素化が得られます。気管切開孔の管理、吸引、事故抜去への備えが必要です。
  • 非侵襲的陽圧換気(NIV): 睡眠時のみ換気補助が必要な年長児・成人では、鼻マスクや顔マスクによるバックアップ換気回数付きの二相性陽圧換気が用いられます。中枢性病型では自発呼吸に頼らない設定が重要です。乳幼児では顔面の発育への影響に配慮が必要です。
  • 横隔神経ペーシング: 植え込んだ電極で横隔神経を刺激して横隔膜を動かす方法で、日中の活動時に人工呼吸器から離れられる利点があります。実施施設や適応は限られており、専門施設での検討が必要です。
  • 在宅モニタリング: 睡眠中はパルスオキシメータ(可能ならCO2モニターも)で連続監視し、アラーム時の対応を家族・介護者が習得します。定期的な入院または外来でのPSGと血液ガス評価により、呼吸器設定を見直します。
  • 酸素療法の慎重な使用: 酸素は換気補助と併用して低酸素を補う目的で用います。単独で高濃度の酸素を投与するとCO2ナルコーシスを招く危険があります。
  • 合併症の治療: ヒルシュスプルング病には外科手術、神経芽腫には病期に応じた治療、洞停止には心臓ペースメーカーを検討し、肺高血圧や右心不全には換気改善を前提に内科治療を行います。
  • 増悪時の管理と予防: 呼吸器感染時には換気補助の時間延長や入院管理が必要になることがあります。インフルエンザ、肺炎球菌、新型コロナウイルスなどの予防接種が勧められます。鎮静薬や麻酔の使用時には呼吸監視を厳重に行います。
  • 体重管理・内分泌治療: 肥満を伴う病型(ROHHAD、肥満低換気)では、食事・運動療法による体重管理と、視床下部・下垂体ホルモン異常の補正を行います。
  • 発達・教育支援、リハビリテーション: 小児では発達評価と療育を行い、呼吸理学療法や運動耐容能の維持、嚥下・栄養管理を含めた包括的な支援を行います。

肺胞低換気症候群の予後・長期フォロー

かつては多くが乳児期に亡くなる病気でしたが、在宅人工呼吸管理の普及と早期診断により、適切な換気補助を継続すれば成人期まで生活し、就学・就労・社会参加をしている患者も増えています。予後を大きく左右するのは、低換気が未治療・不十分な期間の長さです。繰り返す低酸素は、不可逆的な神経発達の障害や肺性心を残すことがあります。死亡や重い後遺症の原因としては、睡眠中の換気補助の中断(機器トラブル、事故抜去)、呼吸器感染による急性増悪、不整脈、神経堤由来腫瘍の進行、溺水事故などが挙げられます。成人発症の特発性病型でも、夜間NIVの導入によって頭痛、眠気、右心不全の改善が期待できます。

本症は生涯にわたる管理が必要で、小児期から成人期への移行医療が重要な課題です。年1回程度の睡眠中の換気評価(PSG・CO2モニタリング)、血液ガス、心エコー、ホルター心電図を目安に、成長や体重変化に合わせて呼吸器設定を調整します。CCHSでは、変異型に応じて神経芽腫のスクリーニング(画像検査や尿中カテコールアミン代謝物測定など)や、神経発達・眼科・消化管の定期評価を行います。思春期には、怠薬・機器の不使用、飲酒、夜更かしといった生活上のリスクが増えるため、本人が病気を理解し自己管理できるよう、成人診療科への計画的な移行を進めることが望まれます。

肺胞低換気症候群の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

最も大切なことは、眠るときには必ず換気補助を使用することです。昼寝や乗り物の中でのうたた寝でも低換気が起こりうるため、本人・家族・学校・職場で共有しておきましょう。息苦しさを感じにくいため、息こらえを伴う水泳や潜水は溺水の危険が高く、必ず監視下で行うか避ける必要があります。飲酒、睡眠薬、鎮静作用のある薬(一部の風邪薬や抗ヒスタミン薬を含む)は呼吸を抑えるため、使用前に主治医に確認してください。手術や歯科処置、内視鏡などで鎮静・麻酔を受ける場合は、必ず病名を伝えましょう。病名、換気補助の内容、緊急連絡先を記した緊急時カードの携帯が勧められます。在宅人工呼吸器を使う場合は、停電・災害に備えて外部バッテリーや蘇生バッグを準備し、電力会社、自治体の避難行動要支援者名簿、訪問看護との連携を事前に整えておきます。CCHSは常染色体顕性遺伝で、患者の子どもには一般に50%の確率で変異が伝わります。親が症状の乏しい保因者である場合もあるため、家族計画や家族の検査については臨床遺伝専門医・遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを利用することが勧められます。

利用できる制度・相談窓口

肺胞低換気症候群は指定難病(告示番号230)です。診断基準を満たし、重症度分類で一定以上と判断される場合(または軽症でも高額な医療が継続する場合)は、医療費助成を受けられます。申請は、難病指定医の診断書(臨床調査個人票)をもとに都道府県・指定都市へ行います。窓口は保健所などです。18歳未満(継続の場合は20歳未満まで)では、先天性中枢性低換気症候群などが小児慢性特定疾病の対象となり、医療費助成や日常生活用具の給付などの支援があります。呼吸機能の障害の程度によっては身体障害者手帳(呼吸器機能障害)の対象となり、吸引器などの日常生活用具給付、税の減免、各種福祉サービスにつながります。気管切開や人工呼吸器管理を要する小児は医療的ケア児として、訪問看護、短期入所、保育所・学校での看護師配置などの支援対象になります。在宅人工呼吸療法は医療保険で行われ、訪問看護や訪問診療を組み合わせて利用できます。生活や就労に支障がある場合は障害年金の対象となりうるほか、65歳以上では介護保険サービスを利用できます。相談窓口として、各都道府県の難病相談支援センター、保健所の保健師、医療機関の医療ソーシャルワーカー、患者・家族会があります。

肺胞低換気症候群に伴う心のケア・心理社会的支援

生涯にわたって人工呼吸器とともに暮らすことは、本人と家族に大きな心理的負担をもたらします。乳幼児期の家族は、夜間のアラームや機器トラブルへの不安から慢性的な睡眠不足と緊張状態に置かれやすく、介護疲れや抑うつ、夫婦関係やきょうだい児への影響が問題になることがあります。本人は学童期から思春期にかけて、外見(気管切開やマスク)、宿泊行事への参加の難しさ、友人関係、病気の説明のしづらさなどに悩み、自己肯定感の低下や機器使用への反発を生じることがあります。成人発症例では、診断がつくまで「怠けている」「眠いだけ」と誤解されてきた経験や、夜間NIVへの抵抗感が適応の妨げになることがあります。また遺伝性であることから、親の自責感や、将来の結婚・妊娠についての不安も生じえます。こうした気持ちは自然な反応ですが、長引く気分の落ち込み、不眠、意欲低下がある場合は、主治医や看護師、心理士、精神科・心療内科に早めに相談してください。レスパイト入院、短期入所、患者会での同じ立場の人との交流も、孤立を防ぐ大切な支えになります。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

肺胞低換気症候群の受診の目安

  • 唇や顔色が紫色になる、呼びかけへの反応が鈍い、意識がもうろうとしている場合は、ただちに救急要請してください。
  • 人工呼吸器の故障、気管カニューレの抜去・閉塞、SpO2低下アラームが改善しない場合は、緊急時の手順に従いつつ救急受診してください。
  • 発熱や咳、痰の増加など呼吸器感染の症状があるときは、軽症に見えても早めに主治医に連絡してください。
  • 朝の頭痛、日中の強い眠気、足のむくみ、体重増加が新たに出現・悪化した場合は、低換気の悪化や右心不全の可能性があるため受診してください。
  • 新生児・乳児で、眠ると呼吸が止まる、哺乳時にチアノーゼが出る、重い便秘や腹部膨満が続く場合は、速やかに小児科を受診してください。
  • 麻酔や鎮静の後に目覚めが遅い、説明のつかない高炭酸ガス血症や多血症を指摘された場合は、呼吸器専門医への相談を検討してください。

肺胞低換気症候群についてのよくある質問

Q. 成長すれば治りますか?

A. 先天性中枢性低換気症候群は体質的な呼吸調節の障害で、成長によって自然に治ることはないと考えられています。ただし年齢とともに覚醒時の呼吸は安定することが多く、換気補助が睡眠時のみで済むようになったり、気管切開からマスク式に移行できたりする場合があります。

Q. 酸素を吸っていれば大丈夫ですか?

A. 酸素だけでは換気不足によるCO2の貯留は改善せず、高濃度の酸素によってかえって呼吸が弱まり、CO2ナルコーシスを起こす危険があります。人工呼吸による換気補助が治療の基本で、酸素はその補助として使います。

Q. 学校に通ったり運動したりできますか?

A. 多くの患者が通常学級を含めて就学しており、適切な換気管理のもとで運動も可能です。ただし息こらえを伴う水泳や潜水は特に危険なため、学校と事前に情報を共有し、主治医と活動の範囲を相談してください。

Q. 子どもに遺伝しますか?

A. 先天性中枢性低換気症候群は常染色体顕性遺伝で、患者の子どもには一般に約50%の確率で原因変異が伝わります。親が症状の目立たない保因者であることもあるため、遺伝カウンセリングを受けて家族の検査や妊娠・出産について相談することが勧められます。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。