α1-アンチトリプシン欠乏症
Alpha-1 Antitrypsin Deficiency
α1-アンチトリプシン欠乏症(Alpha-1 Antitrypsin Deficiency)|α1-アンチトリプシン欠乏症(AATD)は、肺を酵素の攻撃から守る血中たんぱく質「α1-アンチトリプシン(AAT)」が、生まれつき十分に作られない、あるいは働かない遺伝性疾患です。主に若い年齢での肺気腫(COPD)を起こし、遺伝子のタイプによっては新生児期から成人期にかけての肝障害も起こします。日本では極めて稀で、一般的なCOPDと区別がつきにくいため、診断までに時間がかかることが少なくありません。
α1-アンチトリプシン欠乏症の要点
α1-アンチトリプシン欠乏症は、肺を酵素の攻撃から守る血中たんぱく質α1-アンチトリプシンが生まれつき不足または機能低下する遺伝性疾患です。若年での肺気腫(COPD)や、型によっては新生児期から成人期の肝障害を起こし、日本では指定難病に指定されています。
| 別名・略称 | α1-アンチトリプシン欠損症、AATD、α1-AT欠乏症、AAT欠乏症、α1-プロテアーゼインヒビター欠乏症、Alpha-1、α1-antitrypsin deficiency |
|---|---|
| 分野 | 呼吸器疾患 |
| 遺伝形式 | 遺伝性(常染色体共優性遺伝) |
| 好発年齢 | 肝障害は新生児期から成人期、肺気腫は若年から |
| 主な症状 | 肺気腫による息切れ・咳、肝炎・肝硬変などの肝障害 |
| 主な検査 | 血清α1-アンチトリプシン濃度測定、Pi型・遺伝子型の判定 |
| 受診する主な診療科 | 呼吸器内科、消化器・肝臓内科、小児科 |
α1-アンチトリプシン欠乏症とは
α1-アンチトリプシン(AAT)は主に肝臓で作られて血液中に分泌されるたんぱく質です。セリンプロテアーゼ阻害因子(セルピン)の一つで、好中球が放出する「好中球エラスターゼ」という強力なたんぱく質分解酵素を抑える役割を担います。肺では、この酵素が肺胞壁の弾性線維(エラスチン)を壊さないよう守っています。AATDでは血中AAT濃度が低いか、AATの機能が低下しています。その結果、肺でプロテアーゼ(分解酵素)とアンチプロテアーゼ(阻害因子)のバランスがエラスターゼ側に傾き、肺胞が破壊されて肺気腫が進みます。一方、異常なAATが肝細胞の中に凝集して溜まる遺伝子型では、肝細胞が傷害され、肝炎・肝硬変・肝細胞癌の原因になります。つまり本症は、肺は「AATが足りないこと」(機能喪失)で、肝臓は「異常なAATが溜まること」(毒性獲得)で障害されるという、二つの機序をもつ疾患です。
AATDは1963年、スウェーデンのLaurellとErikssonが報告しました。血清たんぱく電気泳動でα1グロブリン分画が欠けている患者に、若年性の肺気腫が多いことに気づいたのが発見のきっかけです。AATの変異型は、等電点電気泳動での移動度によるPi(protease inhibitor)型で命名されます。正常型はM、欧米で代表的な欠損型はZとS、AATをほとんど作らない型はnull(QO)と呼ばれます。欧米では重症型の大半がPiZZですが、日本ではZやSはまれです。日本では、Siiyamaなどの日本人に特有の稀な変異型や、各種のnull変異が主体と報告されています。日本の指定難病では、血清AAT濃度により、おおむね重症(50mg/dL未満)と軽症〜中間(50〜90mg/dL未満)に分けて扱われます。臨床的には肺病変優位型、肝病変優位型、まれな皮膚・血管病変(脂肪織炎、血管炎)に分けて理解されます。
α1-アンチトリプシン欠乏症の疫学・患者数
欧米白人では、重症型(PiZZ)は数千人に1人程度とされます。ただし、その多くは診断されずにCOPDとして扱われていると考えられています。日本では極めてまれで、全国調査や症例報告の集積で確認された患者数は数十例規模にとどまるとされます。未診断例を含めても、欧米に比べて頻度ははるかに低いと推定されます。肺気腫の症状は、喫煙者では30〜40歳代、非喫煙者ではより遅い年代で現れることが多く、通常のCOPD(60歳以降が中心)より発症が若いのが特徴です。性差は明らかではありませんが、喫煙歴の有無が発症年齢と重症度に大きく影響します。肝病変は、欧米のPiZZでは新生児胆汁うっ滞として乳児期に見つかることがあります。日本では肝病変を伴う例の報告は少なく、変異の種類の違いが関係していると考えられています。
α1-アンチトリプシン欠乏症の原因・病態生理
原因は、14番染色体長腕(14q32)にあるSERPINA1遺伝子の変異です。父母から受け継いだ二つのアレルがそれぞれ発現する常染色体共優性の形式をとり、臨床的には両方のアレルに変異をもつ場合に発症する常染色体潜性(劣性)遺伝として振る舞います。正常(M)と変異アレルを一つずつもつヘテロ接合体(PiMZなど)は、血中濃度が軽度に低下します。通常は無症状ですが、喫煙者ではCOPDのリスクがやや高まる可能性が指摘されています。変異は大きく三つに分けられます。一つ目は、異常たんぱくが肝細胞内で重合して分泌されない欠損型(Z、日本のSiiyamaなど)です。二つ目は、mRNAやたんぱくがほとんど作られないnull型です。三つ目は、量は保たれても阻害活性が低い機能異常型です。
肺では、喫煙や感染で集まった好中球がエラスターゼを放出します。AATが不足しているとこれを中和できず、肺胞壁のエラスチンが分解されて肺胞が融合・拡大し、汎小葉性肺気腫が下葉優位に形成されます。タバコ煙はAATの活性部位(メチオニン残基)を酸化して不活化するうえ、好中球の浸潤も強めます。このため喫煙者では肺機能の低下が著しく加速します。Z型AATは、異常な分子同士が鎖状につながる「ループ-シート重合」を起こします。重合体は肺組織内で好中球を呼び寄せる作用をもつとも報告されています。肝臓では、重合したAATが肝細胞の小胞体に蓄積します。その結果、小胞体ストレス、オートファジーの負荷、細胞死と再生の繰り返しが起こり、線維化・肝硬変・肝細胞癌へ進みます。null型では蓄積が起こらないため肝障害は来さず、肺病変のリスクが最も高くなります。同じ遺伝子型でも肝障害の程度には大きな個人差があり、修飾遺伝子や環境因子(飲酒、肥満など)の関与が考えられています。
α1-アンチトリプシン欠乏症の症状
- 労作時息切れ: 最も多い初発症状で、階段や坂道で息が切れ、徐々に軽い動作でも苦しくなります。40歳前後、あるいはそれ以前から始まることがあります。
- 慢性の咳・痰: 慢性気管支炎様の咳と痰が続き、感染を契機に痰が膿性になります。
- 喘鳴: 気道の閉塞によりゼーゼー・ヒューヒューという音が出ます。気管支喘息と誤診されることがあります。
- 増悪(急な悪化)の反復: 風邪や気管支炎をきっかけに息切れや痰が急に悪化し、入院が必要になることがあります。
- 体重減少・るい痩: 肺気腫が進行すると呼吸に要するエネルギーが増え、食事量も減って痩せていきます。
- 気管支拡張症に伴う症状: 一部の患者では気管支拡張を合併し、多量の痰や血痰、反復する気道感染がみられます。
- 新生児・乳児期の黄疸: 肝病変を来す遺伝子型では、新生児胆汁うっ滞(遷延性黄疸、白っぽい便、肝腫大)で発症することがあります。
- 肝機能異常・肝腫大: 成人では無症状の肝酵素上昇から慢性肝炎、肝硬変まで幅があり、健診で偶然見つかることもあります。
- 肝硬変の症状: 進行例では腹水、むくみ、食道静脈瘤からの出血、肝性脳症などが現れます。
- 脂肪織炎: まれに、痛みを伴う赤いしこりが皮下にでき、潰瘍化して油性の液が出る皮膚病変がみられます。
- 右心不全(肺性心)の症状: 重症の肺気腫では、足のむくみ、頸静脈の怒張、肝臓のうっ血などが生じます。
α1-アンチトリプシン欠乏症の経過と合併症
肺病変は年単位でゆっくり進行し、1秒量(FEV1)が年々低下していきます。喫煙者では低下速度が非喫煙者の数倍に達するとされ、30〜40歳代で中等症〜重症のCOPDに至ることがあります。非喫煙の重症型では、生涯を通じて症状が軽い例もあり、個人差が大きいのが特徴です。CT上の肺密度低下は肺機能検査より鋭敏に進行を反映し、補充療法の効果判定の指標としても研究されています。病期は通常のCOPDと同様に、気流閉塞の程度(GOLD分類)と症状・増悪頻度で評価します。肝病変では、乳児期の胆汁うっ滞の多くはいったん改善しますが、一部は小児期に肝硬変へ進みます。成人では50歳以降に肝硬変や肝細胞癌が明らかになることがあります。
主な合併症は、COPD増悪、気胸、気管支拡張症、慢性呼吸不全(低酸素血症・高二酸化炭素血症)、肺高血圧症と右心不全、肺炎です。肝臓では、肝硬変に伴う門脈圧亢進症(食道胃静脈瘤、腹水、脾腫)、肝性脳症、肝細胞癌が問題となります。そのほか、脂肪織炎や、PR3-ANCA陽性の血管炎(多発血管炎性肉芽腫症)との関連が報告されています。慢性呼吸不全に伴って、骨粗鬆症、サルコペニア、抑うつ・不安などの全身併存症も生じやすくなります。
α1-アンチトリプシン欠乏症の診断・診断基準
診断の出発点は「疑うこと」です。AATDを疑うきっかけには、次のようなものがあります。45歳未満で発症したCOPD・肺気腫、喫煙歴が乏しいかごく軽い肺気腫、下葉優位の汎小葉性肺気腫、COPDや若年性肺気腫の家族歴、説明のつかない肝疾患や新生児胆汁うっ滞、脂肪織炎、PR3-ANCA陽性血管炎です。これらの場合に血清AAT濃度を測定します。低値であれば、表現型(Pi型)の判定とSERPINA1遺伝子解析で変異を確定します。AATは炎症で増える急性期たんぱくのため、感染や炎症の最中は見かけ上正常化することがあり、CRPを同時に測定して評価します。日本の指定難病の診断基準では、血清AAT濃度の低下(90mg/dL未満)を基本とし、呼吸機能・画像所見、他疾患の除外、遺伝子検査などを組み合わせて判定します。詳細は難病情報センターの最新の基準と主治医の判断に従ってください。
- 血清AAT濃度測定: 最も重要なスクリーニング検査で、ネフェロメトリー法などで測定します。重症型では著しい低値を示し、50mg/dL前後(約11μM)を下回ると肺気腫のリスクが高いとされます。
- 血清たんぱく分画: α1グロブリン分画の低下・欠如が手がかりになります。発見の端緒となった古典的な所見ですが、感度は限られます。
- Pi型判定(等電点電気泳動)・遺伝子解析: SERPINA1遺伝子の変異を同定して確定診断し、肝病変リスクの推定や家族への説明に役立てます。日本人に多い稀な変異やnull変異の同定には遺伝子解析が不可欠です。
- 呼吸機能検査: 気管支拡張薬吸入後の1秒率70%未満で閉塞性換気障害と判定します。肺拡散能(DLCO)の低下は肺気腫の程度を反映します。
- 胸部CT: 下葉優位の汎小葉性肺気腫が典型で、気管支拡張を伴うこともあります。肺野濃度の定量評価で経時的な進行を追えます。
- 動脈血ガス・パルスオキシメトリー・6分間歩行試験: 低酸素血症の有無と程度を評価し、在宅酸素療法の適応や運動耐容能の判定に用います。
- 肝機能検査・腹部画像・エラストグラフィ: AST/ALT、γ-GTP、ビリルビン、血小板数、超音波・CT・肝硬度測定で、肝障害と線維化の程度、肝細胞癌の有無を評価します。
- 肝生検: 必須ではありませんが、行った場合は肝細胞内にジアスターゼ抵抗性PAS陽性の封入体(重合AAT)を認め、蓄積型変異の存在を示唆します。
- 心エコー・BNP: 進行例では、肺高血圧症や右心負荷の有無を評価します。
α1-アンチトリプシン欠乏症と鑑別すべき疾患
- 通常の(喫煙関連)COPD: 高齢・重喫煙者で上葉優位の小葉中心性肺気腫が多く、血清AAT濃度は正常です。
- 気管支喘息: 可逆性の気流制限と好酸球性炎症が主体で、肺気腫による拡散能低下は通常みられません。
- リンパ脈管筋腫症(LAM): 主に女性に起こり、CTでは肺気腫ではなく薄い壁をもつ多発嚢胞がびまん性に分布します。
- 閉塞性細気管支炎・気管支拡張症: 移植後や膠原病、感染後などの背景があり、AAT濃度は正常で、モザイク状の濃度差や気管支病変が主体です。
- 他の小児胆汁うっ滞性肝疾患(胆道閉鎖症、アラジール症候群、PFICなど): 胆道造影、特徴的な顔貌・心血管異常、遺伝子検査などで区別し、血清AAT濃度の測定が鑑別に役立ちます。
- 他の成人慢性肝疾患(ウイルス性、脂肪性、自己免疫性、ウィルソン病など): 各種ウイルスマーカー、自己抗体、銅代謝検査で鑑別しますが、AATDが修飾因子として併存する可能性もあります。
α1-アンチトリプシン欠乏症の治療
根本的に遺伝子を治す治療はまだありません。治療は、①禁煙と増悪予防を中心とした通常のCOPD管理、②不足しているAATを点滴で補う補充療法、③進行例に対する酸素療法・肺移植・肝移植から成ります。最も効果が大きく、すべての患者に共通する治療は完全禁煙(受動喫煙の回避を含む)です。補充療法は、日本では乾燥濃縮人α1-プロテイナーゼインヒビター製剤が承認されており、重症のAATDで肺気腫を伴う患者が対象となります。適応(遺伝子型、血清濃度、呼吸機能)や費用・通院負担を踏まえ、呼吸器専門医と相談して決めます。肝病変については、肝障害を抑える確立した薬物療法はなく、肝機能の定期評価と肝硬変・肝癌の管理、末期例での肝移植が中心です。
- 禁煙・環境対策: 喫煙は肺機能低下を著しく加速させるため、禁煙外来の利用を含めた完全禁煙が最優先です。粉じん・有機溶剤など職業性曝露の回避も重要です。
- 吸入気管支拡張薬など(COPD標準治療): 長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、長時間作用性β2刺激薬(LABA)を中心に、症状と増悪頻度に応じて吸入ステロイドの併用を検討します。
- AAT補充療法: ヒト血漿由来のAAT製剤を週1回静脈内投与し、血中・肺内のAAT濃度を保護的な水準に保つ治療です。CTでの肺密度低下を遅らせる効果が報告されていますが、生涯にわたる継続投与が前提となります。
- ワクチン・増悪時治療: インフルエンザ、肺炎球菌、新型コロナウイルスなどの予防接種を推奨します。増悪時には抗菌薬や全身ステロイドで早期に対応します。
- 呼吸リハビリテーション: 運動療法、呼吸法、排痰法、栄養指導を組み合わせ、息切れの軽減と運動耐容能・QOLの向上を図ります。
- 在宅酸素療法・換気補助: 慢性呼吸不全で低酸素血症が続く場合は長期酸素療法を、高二酸化炭素血症を伴う場合は非侵襲的換気療法を検討します。
- 肺移植: 内科治療を尽くしても進行する重症例では肺移植の適応を検討します。AATDは海外では肺移植の主要な適応疾患の一つです。肺容量減少術の効果は通常の肺気腫より限定的とされます。
- 肝病変の管理・肝移植: 肝硬変では、静脈瘤・腹水・肝性脳症の管理と肝細胞癌のスクリーニングを行います。肝不全では肝移植が根治的治療となり、移植後はドナー肝が正常なAATを産生します。
- 開発中の治療: 肝臓での異常AAT産生を抑えるRNA干渉薬、重合阻害薬、遺伝子治療などが臨床試験段階にあります。現時点では一般診療の選択肢ではありません。
α1-アンチトリプシン欠乏症の予後・長期フォロー
予後は遺伝子型、喫煙歴、診断時の肺機能、肝病変の有無で大きく異なります。重症型で喫煙を続けた場合、呼吸不全により中年期に生命予後が短縮しうるとされます。一方、早期に診断され、生涯非喫煙または早期禁煙を達成した患者では、比較的長期にわたり日常生活を維持できる例が多く報告されています。死因は呼吸不全が最多で、肝硬変・肝細胞癌がそれに続きます。肝病変を来さないnull型では肺の管理、蓄積型では肺と肝臓の両方の管理が予後を左右します。
フォローアップでは、少なくとも年1回の呼吸機能検査(FEV1、DLCO)、必要に応じた胸部CT、酸素化の評価、増悪歴の確認を行います。肝臓については、肝酵素・血小板数、腹部超音波や肝硬度測定を定期的に行います。肝硬変例では、半年ごとをめどに肝細胞癌のスクリーニングを行います。補充療法中は、点滴に伴う副反応や感染予防策を確認します。重症化が予想される場合は、早めに移植施設と連携します。呼吸器内科、消化器・肝臓内科、遺伝診療部門が連携した長期管理が望まれます。
α1-アンチトリプシン欠乏症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
本人はもちろん、家族も禁煙し、受動喫煙を避けることが生活上の最重要事項です。粉じんや化学物質に曝露する職業は、可能な範囲で避けるか防護を徹底します。手洗い・予防接種で感染を防ぎ、痰の色や量の変化、息切れの悪化に早めに気づけるよう、日々の状態を記録すると役立ちます。適度な運動の継続と、十分なたんぱく質・エネルギー摂取による体重維持も大切です。肝病変がある、またはそのリスクがある遺伝子型では、飲酒を控え、肥満を避け、肝臓に負担をかける薬やサプリメントは主治医に相談してから使います。遺伝性疾患のため、兄弟姉妹は同じ遺伝子型である可能性があり(両親が保因者なら1/4)、子どもは少なくとも保因者となります。血縁者の検査は、無症状のうちに禁煙や健康管理を始めるきっかけになります。ただし、検査を受けるかどうかは本人の意思が尊重されるべきです。遺伝カウンセリングを受けたうえで判断することが勧められます。
利用できる制度・相談窓口
α1-アンチトリプシン欠乏症は指定難病(告示番号231)で、診断基準と重症度基準を満たせば医療費助成の対象となります。高額な補充療法を継続する場合も負担上限額が設定されます。軽症でも、医療費が一定額を超える月が続く場合は「軽症高額該当」として認定されることがあります。申請は、難病指定医の臨床調査個人票を添えて、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(保健所等)に提出します。呼吸機能が低下した場合や在宅酸素療法を行う場合は身体障害者手帳(呼吸器機能障害)、肝硬変が進行した場合は肝臓機能障害の手帳の対象となりうるほか、障害年金の対象となることもあります。COPD(慢性閉塞性肺疾患)は介護保険の特定疾病に含まれるため、40〜64歳でも要介護認定を受けて介護サービスを利用できる場合があります。高額療養費制度も併用できます。相談窓口としては、難病相談支援センター、病院の医療ソーシャルワーカー、保健所の難病担当保健師などがあり、移植については移植施設の窓口が案内しています。
α1-アンチトリプシン欠乏症に伴う心のケア・心理社会的支援
若い年齢で息切れが進むと、仕事・子育て・社会参加の制限につながり、抑うつ、不安、パニック様の呼吸困難発作、適応障害が生じやすくなります。息苦しさへの恐怖から活動を避けると、体力低下と息切れの悪循環に陥ります。本症に特有の課題もあります。長年COPDや喘息として治療された後に診断されることへの戸惑い、喫煙歴への自責感、遺伝性であることによる家族への罪悪感、血縁者に検査を勧めるべきかという葛藤、生涯続く点滴通院の負担、移植待機に伴う不安などです。こうした感情は自然な反応であり、一人で抱え込まないことが大切です。主治医や看護師、医療ソーシャルワーカー、遺伝カウンセラー、心療内科・精神科、患者会などに早めに相談してください。呼吸リハビリテーションには、不安を軽減する効果も期待できます。
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α1-アンチトリプシン欠乏症の受診の目安
- 40歳代以下で、喫煙歴が少ないのに息切れや慢性の咳が続く、または肺気腫と言われた場合は、呼吸器内科で血清AAT濃度の測定を相談してください。
- 血縁者にAATDの患者や若年性肺気腫・原因不明の肝硬変の人がいる場合は、症状がなくても受診や遺伝カウンセリングを検討してください。
- 普段より息切れが強い、痰が増えて黄色や緑色になった、発熱があるなど増悪が疑われる場合は、早めに主治医を受診してください。
- 安静時にも強い息苦しさがある、唇や指先が紫色になる、意識がぼんやりする、突然の胸痛と呼吸困難(気胸の疑い)がある場合は、救急受診してください。
- 吐血・黒色便、急な腹部の張り、強い黄疸、言動の異常(肝性脳症の疑い)がある場合は、直ちに医療機関を受診してください。
- 新生児・乳児で生後2週間を過ぎても黄疸が続く、便の色が白っぽい場合は、すぐに小児科を受診してください。
α1-アンチトリプシン欠乏症についてのよくある質問
Q. 普通のCOPDとどう違うのですか?
A. 症状はよく似ていますが、AATDは遺伝的にAATが不足しているため、若い年齢で、しかも下葉優位に肺気腫が進むのが特徴です。血液検査で診断でき、補充療法という特有の治療選択肢があることも違いです。若年発症や家族歴があるCOPDでは、一度は検査を受ける価値があります。
Q. 補充療法を受ければ治りますか?
A. 補充療法は壊れた肺を元に戻す治療ではなく、肺気腫の進行を遅らせることを目的とした治療で、週1回の点滴を長期に続ける必要があります。効果の程度や適応には個人差があり、肝病変を改善する効果はありません。適応については呼吸器専門医とよく相談してください。
Q. 子どもや兄弟にも遺伝しますか?
A. 多くの場合、両親から一つずつ変異を受け継いで発症します。兄弟姉妹は1/4の確率で同じ遺伝子型となり、患者の子どもは少なくとも保因者となります。保因者の多くは無症状ですが、禁煙が勧められます。検査を受けるかどうかは、遺伝カウンセリングを受けたうえで判断するとよいでしょう。
Q. タバコを吸っていなければ発症しませんか?
A. 非喫煙者でも肺気腫が進むことはありますが、喫煙者に比べると発症が遅く、進行も緩やかなことが多いとされます。喫煙は最大の悪化因子なので、本人の禁煙に加えて、家族の禁煙や受動喫煙の回避も重要です。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。