副甲状腺機能低下症

Hypoparathyroidism

副甲状腺機能低下症(Hypoparathyroidism)|副甲状腺機能低下症は、カルシウム濃度を調節する副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌が不足し、血液中のカルシウムが低くなる病気です。手足のしびれやけいれん(テタニー)、疲れやすさ、集中力の低下などが起こり、治療が長く続くことで腎結石や腎機能障害、脳の石灰化などの合併症が問題になります。新生児から高齢者まで、どの年齢でも発症します。日本の指定難病では、手術などによる続発性のものを除く、自己免疫性・遺伝性・原因不明の病型が主な対象です。

副甲状腺機能低下症の要点

副甲状腺機能低下症は、副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌不足により低カルシウム血症と高リン血症が続く内分泌疾患です。手足のしびれやテタニー、疲れやすさ、集中力低下などがみられ、手術後のものを除く自己免疫性・遺伝性・原因不明の病型が指定難病の対象です。

別名・略称上皮小体機能低下症、特発性副甲状腺機能低下症、HypoPT
分野内分泌疾患
主な症状手足のしびれ、テタニー(けいれん)、疲れやすさ、集中力低下
主な検査血清Ca低値・P高値、intact PTHが低値または不適切に正常
原因術後性が最多。自己免疫性・遺伝性・特発性などもある
遺伝形式病型で異なる(CaSR遺伝子の機能獲得変異は常染色体顕性など)
好発年齢新生児から高齢者まで全年齢
主な治療活性型ビタミンD製剤とカルシウム補充

この解説を、難病を知らない誰かに届けてください。

XでシェアLINEで送るFacebookはてブ

副甲状腺機能低下症とは

副甲状腺は甲状腺の裏側に通常4個ある米粒大の内分泌腺で、PTHを分泌して血清カルシウム(Ca)を狭い範囲に保っています。PTHには三つの主な働きがあります。腎臓の遠位尿細管でCaの再吸収を促す働き、リン(P)の再吸収を抑えて尿中に出す働き、そしてビタミンDを活性型(1,25-水酸化ビタミンD)に変換する酵素を誘導して腸管からのCa吸収を高める働きです。本症はPTHの分泌が不足するか作用が足りないために、低Ca血症と高P血症が持続する状態と定義されます。低Ca血症があるにもかかわらず血中PTH(intact PTH)が低値、または「不適切に正常」な範囲にとどまることが特徴です。これに対し、PTHは十分に分泌されているのに標的臓器が反応しない病態は偽性副甲状腺機能低下症と呼ばれ、別の指定難病(236)として扱われます。

原因別には大きく三つに分けられます。①甲状腺・副甲状腺・頸部の手術後に起こる術後性(全体では最も多い)、②頸部への放射線照射、腫瘍の浸潤、ヘモクロマトーシスやウィルソン病による沈着など、その他の続発性、③それ以外の非外科性です。③には自己免疫性、遺伝性(先天性)、原因を特定できない特発性が含まれます。マグネシウム(Mg)の著しい不足や過剰でもPTH分泌が可逆的に抑えられ、機能的な副甲状腺機能低下を起こします。従来は原因不明のものを一括して「特発性副甲状腺機能低下症」と呼んできました。しかし遺伝子解析の進歩により、カルシウム感知受容体(CaSR)遺伝子の機能獲得変異による常染色体顕性(優性)低Ca血症や、22q11.2欠失症候群に伴うものなど、原因の明らかな病型が次々と同定されています。病型によって治療上の注意点が異なるため、原因の検索は重要です。

副甲状腺機能低下症の疫学・患者数

非外科性の副甲状腺機能低下症はまれな疾患です。過去の国内全国調査では、特発性の患者数は千人前後と推定された報告があります。ただし軽症例や、他の症候群の一部として診断されている例があり、実数はより多い可能性があります。海外の疫学研究では、術後性を含む全体の有病率は人口10万人あたり数十人程度とされ、その大部分を術後性が占めます。発症年齢は病型によって大きく異なります。22q11.2欠失症候群やCaSR変異、副甲状腺の発生に関わる遺伝子の異常による病型は、新生児期から小児期に低Ca血症やけいれんで見つかることが多いです。自己免疫性多腺性内分泌不全症1型(APS-1)では、小児期に皮膚・粘膜カンジダ症に続いて発症するのが典型です。一方、軽症の遺伝性病型や特発性病型は、成人になってから健診の血液検査や、けいれん・脳内石灰化をきっかけに初めて診断されることもあります。非外科性全体での明確な性差は確立していません。

副甲状腺機能低下症の原因・病態生理

遺伝性病型には次のようなものがあります。いずれも頻度はまれです。 ・CaSR遺伝子の機能獲得変異(常染色体顕性低Ca血症1型、ADH1):副甲状腺がCa濃度を実際より高いと「誤認」してPTH分泌を抑えます。同じ受容体の下流にあるGNA11遺伝子の変異によるADH2も知られています。 ・22q11.2欠失症候群:TBX1などの欠失により、胸腺・心臓とともに副甲状腺の形成が障害されます。 ・GATA3遺伝子異常:副甲状腺機能低下症・感音難聴・腎形成異常を合併するHDR症候群を起こします。 ・副甲状腺の発生や機能に関わる遺伝子の異常:GCM2遺伝子、PTH遺伝子そのものの異常などがあります。 ・その他の症候群:TBCE遺伝子異常によるSanjad-Sakati症候群/Kenny-Caffey症候群、Kearns-Sayre症候群などのミトコンドリア病の一部があります。 遺伝形式は病型ごとに異なり、常染色体顕性、潜性(劣性)、X連鎖性、ミトコンドリア遺伝などがあります。

自己免疫性では、AIRE遺伝子の両アレル変異によるAPS-1が代表的です。慢性皮膚粘膜カンジダ症、副甲状腺機能低下症、アジソン病(副腎皮質機能低下症)の三徴を中心に、多彩な自己免疫疾患を合併します。APS-1以外にも、CaSRに対する自己抗体がPTH分泌を抑える孤発例が報告されています。 発症機序:PTHが不足すると、次の三つの経路が同時に働いて低Ca血症が生じます。 ・腎臓:遠位尿細管でCaを再吸収できなくなります。 ・腸管:1α水酸化酵素(CYP27B1)の活性が下がって活性型ビタミンDが減り、Ca吸収が低下します。 ・骨:骨吸収が低下し、骨からのCa動員が減ります。 同時に腎臓でのリン排泄が減るため高P血症となり、Ca×P積が上昇します。これが大脳基底核、水晶体、腎臓などへの異所性石灰化を促すと考えられています。低Ca血症は神経・筋細胞膜の興奮閾値を下げ、テタニーやけいれんを起こします。 治療面で重要なのは、PTHが欠けた状態では腎臓のCa再吸収が働かない点です。そのため、活性型ビタミンDやCa剤で血清Caを正常値まで上げると尿中Ca排泄が過剰(高Ca尿症)になりやすくなります。これが腎結石・腎石灰化・慢性腎臓病の主因です。特にADH1では、腎臓のCaSRも過剰に働いているため高Ca尿症が顕著です。

副甲状腺機能低下症の症状

  • 口周囲・指先のしびれ(感覚異常): 唇のまわりや手足の先がピリピリ・ジンジンする感覚で、低Ca血症の初期症状として最も多くみられます。
  • テタニー(手足の筋けいれん): 手首と指が硬直して曲がる助産師手位(手足搐搦)や、ふくらはぎ・足の強いつりが起こります。過呼吸や発熱、嘔吐・下痢などで誘発されやすくなります。
  • 喉頭けいれん・気管支けいれん: 声門が閉じて呼吸が苦しくなったり、喘鳴が出たりすることがあります。特に乳幼児では生命に関わるため緊急対応が必要です。
  • 全身けいれん(てんかん様発作): 重度の低Ca血症では意識消失を伴う発作が起こります。てんかんと誤診され、抗てんかん薬のみで経過していた例もあります。
  • 不整脈・心機能低下: 心電図でQT時間が延長し、まれに重篤な不整脈や、可逆性の心筋障害による心不全(低Ca性心筋症)をきたします。
  • 倦怠感・認知機能の低下(ブレインフォグ): 検査値が目標範囲内でも、疲れやすさ、集中力・記憶力の低下を訴える患者が少なくないと報告されています。
  • 不安・抑うつなどの精神症状: いらいら、不安、抑うつ気分がみられます。まれに精神病様症状が低Ca血症の症状として現れることがあります。
  • 白内障: 長期の低Ca血症により、若年でも水晶体の混濁(白内障)をきたすことがあります。
  • 大脳基底核などの頭蓋内石灰化: CTで基底核や小脳歯状核に石灰化を認めることが多いです。多くは無症状ですが、パーキンソン症状などの錐体外路症状を伴うことがあります。
  • 歯・皮膚・毛髪の異常: 小児期発症では歯のエナメル質形成不全や萌出遅延がみられます。皮膚の乾燥、爪の脆弱化、脱毛がみられることもあります。
  • 皮膚・粘膜カンジダ症(APS-1): APS-1では、口腔や爪の難治性カンジダ症が副甲状腺機能低下症に先行することが多く、診断の手がかりになります。

副甲状腺機能低下症の経過と合併症

本症は「病気そのものが進行して悪化していく」タイプの疾患ではありません。PTH分泌不全という状態が多くの場合生涯持続するため、継続的な補充・調整治療が必要になる慢性疾患です。経過は治療状況に大きく左右されます。治療中でも、感染症、嘔吐・下痢、妊娠・授乳、成長期、薬剤変更などをきっかけに血清Caは変動します。その結果、低Ca血症による症状悪化と、薬の効きすぎによる高Ca血症(口渇、多尿、悪心、便秘、意識障害など)の間で揺れ動くことがあります。APS-1では経過とともに副腎不全、性腺機能低下、自己免疫性肝炎、悪性貧血などが加わることがあり、病期を通じた注意が必要です。軽症の遺伝性病型では無症状のまま経過し、成人期に偶然見つかることもあります。

主な長期合併症 ・腎合併症:治療に伴う高Ca尿症を背景に、腎結石、腎石灰化症、慢性腎臓病が起こります。最も重要な合併症です。 ・頭蓋内石灰化:大脳基底核などの石灰化が進行することがあります。 ・眼合併症:白内障がみられます。 ・骨:骨代謝回転が低下し、骨密度はむしろ高めになることが多いです。ただし骨質や骨折リスクへの影響は十分解明されていません。 ・神経:けいれん発作の反復による外傷や神経学的後遺症が問題になります。 ・その他:感染症リスクの上昇や心血管系への影響を指摘する報告もあります。 症候群に伴う合併症 ・22q11.2欠失症候群:先天性心疾患、免疫不全、口蓋異常、発達・精神面の課題を伴います。 ・HDR症候群:難聴や腎形成異常を伴います。 ・ミトコンドリア病:多臓器障害を伴います。

副甲状腺機能低下症の診断・診断基準

診断の出発点は、症状や健診で見つかった低Ca血症です。まずアルブミン値で補正した血清Ca(アルブミン4 g/dL未満のとき、補正Ca=実測Ca+(4−アルブミン))、あるいはイオン化Caで、真の低Ca血症であることを確認します。次に、同時に採血した血清P、Mg、腎機能、intact PTHを評価します。低Ca血症・高P血症(または正常高値)・腎機能が保たれている・PTHが低値または不適切に正常という組み合わせがそろえば、副甲状腺機能低下症が強く疑われます。PTHが高値であれば、偽性副甲状腺機能低下症やビタミンD欠乏などを考えます。そのうえで、手術・放射線照射歴やMg異常などの続発性要因を除外し、家族歴、合併する症状(難聴、腎奇形、心疾患、カンジダ症など)をもとに病型を絞り込みます。必要に応じて遺伝学的検査を行います。日本では内分泌学会などの関連学会が診断基準・診療指針を示しており、指定難病の申請にはこれに沿った臨床調査個人票が必要です。

  • 血清Ca・P・Mg・アルブミン: 補正Ca低値と血清P高値が基本所見です。低Mg血症や高Mg血症は可逆的な機能性低下の原因となるため、必ず測定します。
  • intact PTH(副甲状腺ホルモン): 低Ca血症下で低値〜基準範囲内にとどまる(不適切に低い)ことが診断の要です。高値なら偽性副甲状腺機能低下症などを考えます。
  • ビタミンD関連指標と腎機能: 25水酸化ビタミンDでビタミンD欠乏を除外し、1,25水酸化ビタミンDは低値傾向を確認します。腎不全による二次的な電解質異常も除外します。
  • 尿中Ca・P排泄: 随時尿のCa/クレアチニン比や24時間蓄尿で評価します。低Ca血症の割に尿中Caが多い場合はADH1を疑う手がかりとなり、治療中の高Ca尿症のモニタリングにも欠かせません。
  • PTH負荷試験(Ellsworth-Howard試験): PTH製剤を投与し、尿中cAMPとリン排泄の増加を確認します。正常に反応すれば副甲状腺機能低下症、反応が乏しければ偽性副甲状腺機能低下症と判断します。
  • 誘発徴候(Chvostek徴候・Trousseau徴候): 耳前部の叩打による顔面筋の収縮や、上腕のマンシェット加圧による手指のけいれんで、潜在性テタニーを評価します。陰性でも低Ca血症は否定できません。
  • 心電図: QT時間の延長がみられます。重症度や緊急性の判断、治療効果の確認に用います。
  • 頭部CT・腎超音波・眼科検査: 基底核石灰化、腎結石・腎石灰化、白内障の有無を評価します。診断時と経過中の合併症スクリーニングとして行います。
  • 遺伝学的検査・自己抗体などの病型診断: CaSR、GATA3、AIRE、22q11.2欠失などを、臨床像に応じて解析します。病型診断は治療方針や家族への説明に役立ちます。検査は遺伝カウンセリングを併せて行うことが望まれます。

副甲状腺機能低下症と鑑別すべき疾患

  • 偽性副甲状腺機能低下症: 低Ca血症・高P血症は共通しますが、PTHが高値でPTH負荷に対する腎反応が乏しい点で区別します。
  • ビタミンD欠乏症・ビタミンD依存性くる病: PTHは代償的に高値となり、血清Pはむしろ低値〜正常となることが多い点が異なります。
  • 低マグネシウム血症(機能性副甲状腺機能低下): 重度の低Mg血症ではPTH分泌と作用が障害されます。Mgを補正すると改善する点で区別します。
  • 慢性腎臓病: 高P血症と低Ca血症を示しますが、腎機能低下が明らかで、PTHは高値(二次性副甲状腺機能亢進症)となります。
  • 術後性・放射線照射後などの続発性副甲状腺機能低下症: 検査所見は同様のため、頸部手術歴・照射歴などの病歴で区別します。指定難病の対象からは原則除かれます。
  • 特発性基底核石灰化症(Fahr病): 頭蓋内石灰化は共通しますが、血清Ca・P・PTHが正常である点で区別します。

副甲状腺機能低下症の治療

治療の目標は、低Ca血症による症状を防ぎつつ、高Ca尿症・腎合併症・高Ca血症を避けることです。そのため、血清Caを正常値まで上げきるのではなく、症状が出ない正常下限付近(目安としておおむね8 mg/dL台前半)に保つことが一般的な方針とされます。あわせて、尿中Ca排泄の抑制、血清Pの管理、Ca×P積の上昇の回避を図ります。急性の重症低Ca血症(テタニー、喉頭けいれん、けいれん発作、QT延長など)では、入院のうえ心電図をモニターしながらCa製剤を静注します。慢性期の中心は活性型ビタミンD製剤の内服で、必要に応じてCa製剤などを併用します。小児、妊娠・授乳期、ADH1、APS-1では特別な配慮が必要となるため、内分泌専門医のもとで、個々の病型や生活に合わせて調整することが大切です。

  • 急性期のカルシウム静注: 症候性の重症低Ca血症では、グルコン酸カルシウムなどを心電図モニター下でゆっくり静注し、その後は持続点滴で維持します。血管外漏出による組織障害やジギタリス併用時の不整脈に注意が必要です。
  • 活性型ビタミンD製剤(アルファカルシドール、カルシトリオール): 日本における慢性期治療の基本です。腸管からのCa吸収を高めて血清Caを維持します。用量は血清・尿中Caを見ながら個別に調整し、過量では高Ca血症・高Ca尿症をきたします。
  • カルシウム製剤の内服: 食事からのCa摂取が少ない場合などに活性型ビタミンDと併用します。分割して服用し、食事中のリンと結合させる目的で食事と一緒に飲むこともあります。
  • サイアザイド系利尿薬: 腎臓でのCa再吸収を促し、高Ca尿症を軽減する目的で用いられることがあります。低K血症や低Na血症に注意が必要です。ADH1などでは効果に限界があるとされます。
  • マグネシウムの補正: 低Mg血症があるとPTH分泌と作用がさらに損なわれます。Mg製剤で補正し、Mgを低下させる薬剤(プロトンポンプ阻害薬など)の見直しも検討します。
  • リンの管理: 高P血症が目立つ場合は、加工食品など過剰なリン摂取を控える食事指導や、リン吸着作用をもつCa剤の工夫により、異所性石灰化のリスク低減を図ります。
  • PTH補充療法: 欠乏しているホルモンそのものを補う治療です。海外では持続型PTH製剤が承認され、高Ca尿症の軽減や内服負担の減少が期待されています。国内での承認・適応範囲は変わりうるため、最新の情報を主治医に確認してください。骨粗鬆症用のPTH製剤は本症には原則として保険適用外です。
  • 病型に応じた治療と合併症への対応: APS-1では副腎不全やカンジダ症の治療を並行して行います。22q11.2欠失症候群では心疾患・免疫不全への対応が必要です。ADH1では無症状なら過度の治療を避けるなど、病型ごとの方針をとります。腎結石や白内障には泌尿器科・眼科と連携して対応します。
  • 妊娠・授乳期の管理: 妊娠・授乳中は必要量が大きく変動し、母体の低Ca・高Ca血症はいずれも胎児・新生児に影響しえます。産科と内分泌科が連携し、頻回に血液検査を行います。

副甲状腺機能低下症の予後・長期フォロー

適切に治療・管理されていれば、生命予後はおおむね良好です。多くの患者が就学・就労・妊娠出産を含めた社会生活を送っています。一方で、従来の活性型ビタミンDとCa製剤による治療は「足りないホルモンの作用を間接的に補う」ものであり、検査値が安定していても倦怠感、認知機能の低下、気分の落ち込みなどにより生活の質(QOL)が低下しているとの報告が多くあります。長期的な予後を左右する最大の因子は腎合併症で、高Ca尿症の持続は腎結石や慢性腎臓病につながります。新生児期・乳児期の重度の低Ca血症やけいれんの反復は、発達に影響する可能性があります。症候群性の病型では、合併する心疾患、免疫不全、副腎不全などが予後を規定します。

長期フォローアップでは、安定期でも数か月ごとに血清Ca・P・Mg・クレアチニンを測定し、定期的に尿中Ca排泄を評価します。治療開始時、薬剤変更時、妊娠中、成長期、急性疾患の罹患時には、より頻回の検査が必要です。腎超音波による腎結石・腎石灰化の評価や、眼科での白内障チェックも定期的に行います。脳内石灰化に関連する神経症状にも注意を払います。小児では、成長・歯科・発達を含めて評価します。小児科から成人診療科への移行期には、治療の自己管理への移行と、医療費助成制度の切り替えを計画的に進めることが重要です。

副甲状腺機能低下症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

服薬と体調管理 ・処方された薬を自己判断で増減・中断しないことが基本です。 ・しびれやつりなどの低Ca症状と、口渇・多尿・吐き気・便秘・だるさなどの高Ca症状の両方を知っておくと、異変に早く気づけます。 ・嘔吐・下痢が続くとき、発熱時、過度の運動や過呼吸(呼吸性アルカローシスでテタニーが起こりやすくなる)のときには症状が出やすくなります。 ・お薬手帳や病名カードを携帯し、急な受診時に病名と服薬内容を伝えられるようにしておきましょう。 薬の飲み合わせ ・利尿薬(ループ利尿薬)、プロトンポンプ阻害薬、一部の抗菌薬・抗がん薬、ステロイド、ビスホスホネート製剤などは、Ca・Mgに影響することがあります。 ・他の医療機関で薬を処方される際は、本症であることを必ず伝えてください。 食事・水分 ・極端な制限は不要なことが多いですが、Caを適度にとり、リンを多く含む加工食品・清涼飲料の過剰摂取は控えめにします。 ・腎結石予防のため、水分を十分にとりましょう。 学校・妊娠 ・学校には、症状が出たときの対応を共有しておくと安心です。 ・妊娠を希望する場合は、事前に主治医と相談して計画することが勧められます。 遺伝について ・遺伝性の病型では、病型により家族への遺伝の仕方が異なります。例えばADH1は常染色体顕性で子に伝わる確率は50%、APS-1は常染色体潜性です。 ・家族の検査や将来の妊娠については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを利用できます。

利用できる制度・相談窓口

主な公的制度 ・指定難病医療費助成:副甲状腺機能低下症は指定難病(告示番号235)です。診断基準と重症度基準を満たすと、医療費助成を受けられます。重症度基準に該当しなくても、高額な医療費が継続する場合には「軽症高額該当」として認められることがあります。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(保健所など)に行います。手術後に起こった続発性のものは、原則として対象外です。 ・小児慢性特定疾病医療費助成:18歳未満(継続の場合は20歳未満まで延長可)では、小児慢性特定疾病(内分泌疾患)として助成を受けられる場合があります。成人期には指定難病への切り替えが必要です。 ・障害年金・障害福祉サービス:合併症などにより日常生活や就労に著しい制限がある場合には、障害年金の対象となる可能性があります。症候群に伴う知的障害・心疾患・腎障害などでは、身体障害者手帳や療育手帳が関係することもあります。 相談窓口 ・都道府県の難病相談支援センター ・保健所の保健師 ・医療機関の医療ソーシャルワーカー ・難病情報センターのウェブサイト 就労については、ハローワークの難病患者就職サポーターなども利用できます。

副甲状腺機能低下症に伴う心のケア・心理社会的支援

難病に共通する心理的負担 生涯にわたる服薬と定期検査、症状への不安は大きな心理的負担になります。慢性疾患に共通する抑うつ、不安、適応障害が生じることがあります。 本症に特有の課題 ・周囲に理解されにくい:検査値が「正常範囲」に保たれていても、倦怠感や集中力の低下が残ることがあります。そのため「怠けている」と誤解されたり、本人が自分を責めたりしやすい点が特徴です。 ・見分けにくい症状:低Ca血症そのものが不安感やいらいら、抑うつ気分を引き起こすことがあり、心の不調と病気の症状の区別が難しい場合があります。 ・家族の不安:突然のけいれんへの恐れ、妊娠・出産や子どもへの遺伝に関する不安、小児期発症では親の不安や子どもの自己管理への移行も課題になります。 相談の大切さ 気分の落ち込みや眠れない状態が続くときは、我慢せずに主治医に伝えましょう。電解質の再評価とあわせて、必要に応じて精神科・心療内科や臨床心理士などの専門家に相談することが大切です。患者会や同じ病気の人との交流が支えになることもあります。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

副甲状腺機能低下症の受診の目安

  • 手首や指が固まって曲がる、全身の筋肉がつるなどのテタニーが治まらないときは、速やかに受診してください。
  • 息苦しさや声が出にくい、ゼーゼーするなど喉頭けいれんが疑われるとき、または意識を失うけいれん発作が起きたときは、救急要請を含めて直ちに受診してください。
  • 動悸、失神、強い胸部不快感があるときは、不整脈の可能性があるため救急受診が必要です。
  • 強い口渇、多尿、吐き気、食欲低下、便秘、ぼんやりするなど、薬が効きすぎた高Ca血症を疑う症状があるときは、早めに受診してください。
  • 嘔吐・下痢で薬が飲めない、または食事がとれない状態が続くときは、早めに主治医に連絡してください。
  • 口周りや指先のしびれが以前より頻繁になったときや、妊娠が判明したときは、早めに主治医に相談してください。

副甲状腺機能低下症についてのよくある質問

Q. 薬はいつまで飲み続ける必要がありますか?

A. 非外科性の副甲状腺機能低下症では、PTH分泌の低下が多くの場合生涯続くため、長期の治療が必要になるのが一般的です。ただし必要な量は年齢や体調、妊娠などで変わるため、定期的な検査で調整していきます。

Q. 血液のカルシウムを正常値の真ん中まで上げたほうが良いのではないですか?

A. 本症ではPTHが不足しているため、血清Caを高めに保つと尿へのCa排泄が増え、腎結石や腎機能低下を招きやすくなります。そのため、症状が出ない範囲で正常下限付近に保つのが一般的な考え方です。目標値は主治医と相談して決めます。

Q. 子どもに遺伝しますか?

A. 病型によって異なります。CaSR遺伝子変異による常染色体顕性低Ca血症では子に50%の確率で伝わりますが、原因が特定されない例や孤発例も多くあります。正確な情報は、遺伝カウンセリングで病型を踏まえて確認することをお勧めします。

Q. 脳に石灰化があると言われました。認知症になりますか?

A. 大脳基底核の石灰化は本症でよくみられ、多くは症状を起こしません。血清Ca・Pを適切に管理することで進行を抑えることが期待されます。気になる神経症状があれば、主治医や神経内科で評価を受けてください。

この記事をシェア

この解説を、難病を知らない誰かに届けてください。

XでシェアLINEで送るFacebookはてブ

関連記事(関連する指定難病)

同じ分野(内分泌疾患)の指定難病

内分泌疾患の指定難病を一覧で見る / 指定難病リスト(全341疾患)

この記事について

最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。