高チロシン血症1型
Tyrosinemia Type 1
高チロシン血症1型(Tyrosinemia Type 1)|高チロシン血症1型は、チロシンを分解する経路の最終段階にはたらく酵素フマリルアセト酢酸ヒドロラーゼ(FAH)が生まれつき欠けているために起こる、常染色体劣性遺伝の先天代謝異常症です。乳児期から肝不全や腎尿細管障害、くる病、ポルフィリン症に似た神経発作を起こすことがあり、治療しなければ肝細胞癌の危険も高い重い病気です。一方、ニチシノンによる薬物療法と食事療法を早く始めれば、予後は大きく改善します。
高チロシン血症1型の要点
高チロシン血症1型は、チロシン分解酵素のフマリルアセト酢酸ヒドロラーゼ(FAH)が先天的に欠損し、毒性代謝物のサクシニルアセトンなどが蓄積する常染色体劣性遺伝の代謝異常症です。肝不全や腎尿細管障害、くる病、神経発作、肝細胞癌を起こしうる指定難病で、ニチシノンと食事療法が有効です。
| 別名・略称 | チロシン血症1型、肝腎型チロシン血症、遺伝性チロシン血症1型、フマリルアセト酢酸ヒドロラーゼ欠損症、FAH欠損症、HT-1、Hepatorenal tyrosinemia |
|---|---|
| 分野 | 代謝疾患 |
| 遺伝形式 | 常染色体劣性遺伝(FAH遺伝子) |
| 好発年齢 | 乳児期〜幼児期(発症が早いほど重症になりやすい) |
| 主な症状 | 肝不全・凝固障害、肝腫大、腎尿細管障害、くる病、神経発作、肝細胞癌 |
| 主な検査 | 血中・尿中サクシニルアセトン測定、FAH遺伝子検査 |
| 主な治療 | ニチシノン(NTBC)による薬物療法と食事療法、必要に応じて肝移植 |
| 受診する主な診療科 | 小児科(代謝内科、小児消化器・肝臓科) |
高チロシン血症1型とは
高チロシン血症1型(hepatorenal tyrosinemia、肝腎型チロシン血症とも呼ばれる)は、FAH遺伝子の病的バリアントによってFAH活性が欠損し、チロシン分解の中間代謝物が肝臓と腎臓にたまる疾患です。たまる物質はフマリルアセト酢酸(FAA)、マレイルアセト酢酸(MAA)と、そこから生じるサクシニルアセトン(SA)です。主に障害されるのは肝臓(急性肝不全、肝硬変、肝細胞癌)、腎臓(近位尿細管障害=腎性ファンコニ症候群、腎石灰化)、末梢神経(急性ポルフィリン症様の神経発作)です。病名は「高チロシン血症」ですが、血中チロシンの上昇は二次的で特異性に乏しい所見です。診断と病態の中心は、SAという毒性代謝物の産生にあります。この点は、同じ高チロシン血症の名を持つ2型・3型とは本質的に異なります。指定難病(告示番号241)に指定されており、小児慢性特定疾病の対象でもあります。
臨床病型は発症年齢によって古典的に3つに分けられます。急性型は生後6か月未満に発症し、急速に進む肝不全と凝固障害が中心です。亜急性型は6か月〜1歳に発症し、肝腫大、発育不良、凝固異常、くる病などがみられます。慢性型は1歳以降に発症し、肝硬変、ファンコニ症候群によるくる病、神経発作、肝細胞癌が前面に出ます。ただし、同じ家系の中でも病型が異なることがあり、これらは連続したスペクトラムと考えられています。歴史的には、1960年代に肝腎障害を伴う高チロシン血症として報告されました。1977年にSAの蓄積とFAH欠損の関係が明らかにされ、1990年代初めにHPPD阻害薬ニチシノン(NTBC)が治療に導入されました。これにより、それまで食事療法と肝移植しか手段がなかった本症の自然歴は大きく変わりました。
高チロシン血症1型の疫学・患者数
世界全体の頻度は出生10万〜12万人に1人程度と推定されています。カナダ・ケベック州のサグネ・ラック・サンジャン地域では創始者効果により出生約1,800〜2,000人に1人と高頻度で、北欧の一部地域でも比較的多いことが知られています。日本では極めてまれで、報告された症例は限られています。全国の患者数は数十人に満たない規模と考えられますが、正確な数は明らかではありません。遺伝形式は常染色体劣性のため、性差はありません。発症時期は新生児期〜乳児期が多いものの、幼児期以降に肝硬変、くる病、肝腫瘍をきっかけに見つかる慢性型もあります。日本の新生児マススクリーニング(タンデムマス法)では本症は二次対象疾患として扱われています。指標であるチロシンは新生児期にはあまり上がらないことが多く、チロシンのみに基づくスクリーニングでは見逃しうる点に注意が必要です。SAを指標とするスクリーニングは海外の一部で導入されており、国内でも検討や研究的実施の報告があります。
高チロシン血症1型の原因・病態生理
原因遺伝子は第15番染色体長腕(15q25付近)にあるFAH遺伝子で、両親からそれぞれ受け継いだ2つのアレルの両方に病的バリアントがあると発症します(常染色体劣性遺伝)。FAHはチロシン分解経路の最終酵素です。この経路はフェニルアラニン→チロシン→4-ヒドロキシフェニルピルビン酸(4-HPP)→ホモゲンチジン酸→マレイルアセト酢酸→フマリルアセト酢酸と進み、FAHがフマリルアセト酢酸をフマル酸とアセト酢酸に分解します。FAHは主に肝細胞と腎近位尿細管上皮に発現しているため、障害もこの2臓器に集中します。ケベックで多いスプライス変異など、集団ごとに頻度の高いバリアントが知られています。遺伝型と臨床病型の対応ははっきりしません。本症は単一遺伝子の異常による疾患であり、免疫系の異常や多因子による病気ではありません。
FAHが欠損すると、上流のFAAとMAAが細胞内にたまります。これらは反応性の高い求電子性物質で、グルタチオンを枯渇させ、蛋白のスルフヒドリル基をアルキル化します。その結果、酸化ストレス、DNA損傷、アポトーシスを引き起こし、肝細胞の壊死と再生を繰り返させて肝硬変や肝細胞癌の素地をつくると考えられています。FAAとMAAは還元・脱炭酸されてSAになり、SAは血中・尿中へ排泄されます。SAはヘム合成酵素のδ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD、ポルホビリノゲン合成酵素)を強く阻害します。このため尿中δ-アミノレブリン酸(ALA)が増え、急性間欠性ポルフィリン症に似た末梢神経障害や自律神経症状(神経発作)が起こります。腎近位尿細管では、エネルギー代謝の障害によって再吸収機能が低下し、リン、ブドウ糖、アミノ酸、重炭酸の喪失(ファンコニ症候群)と低リン血症性くる病を生じます。肝合成能の低下によって凝固因子が減り、肝障害の程度の割に凝固異常が目立つことも特徴です。高チロシン血症とメチオニン上昇は、肝障害による二次的な変化です。
高チロシン血症1型の症状
- 肝腫大・肝機能障害: 乳児期から肝腫大や黄疸がみられます。トランスアミナーゼは軽度上昇にとどまる一方で、肝合成能の低下が目立つことがあります。
- 凝固障害・出血傾向: プロトロンビン時間(PT)の著しい延長が早期から出やすく、ビタミンKを投与しても十分に改善しないことが特徴です。皮下出血、消化管出血、採血部位からの止血困難として気づかれます。
- 急性肝不全: 急性型では生後数週〜数か月で腹水、浮腫、低アルブミン血症、低血糖を伴う肝不全に進むことがあります。感染症をきっかけに悪化しやすい傾向があります。
- 体重増加不良・哺乳不良: 嘔吐、下痢、哺乳力低下に伴い、成長障害がみられます。
- くる病(低リン血症性): 腎尿細管からのリン喪失によって骨の石灰化が障害され、骨変形、骨痛、成長障害、骨折しやすさを生じます。
- 腎性ファンコニ症候群・腎障害: 糖尿、汎アミノ酸尿、低リン血症、代謝性アシドーシスなどの近位尿細管障害がみられます。腎腫大、腎石灰化、長期的な腎機能低下を伴うこともあります。
- 神経発作(ポルフィリン症様クリーゼ): 激しい四肢の痛み、筋緊張亢進、後弓反張様の姿勢、自傷行為、高血圧や頻脈などの自律神経症状、腹痛が発作的に起こります。重症例では麻痺や呼吸筋麻痺に至ることがあります。
- 低血糖: 肝不全に加え、膵島細胞の過形成による高インスリン状態が関与する低血糖が報告されています。
- 肥大型心筋症: 乳児期に心筋肥大がみられることがあり、多くは無症状で、治療に伴って改善することが報告されています。
- 特有の体臭: キャベツが煮えたような、あるいは腐ったような独特のにおいが記載されることがあります。ただし、診断の決め手にはなりません。
- 肝細胞癌: 未治療または治療開始が遅れた例では、幼児期から肝細胞癌の発生率が高くなります。AFPの再上昇や画像上の結節で見つかります。
高チロシン血症1型の経過と合併症
ニチシノン導入前の時代には、急性型の多くが肝不全や出血によって乳児期のうちに亡くなっていました。慢性型でも、肝硬変、神経発作、肝細胞癌によって小児期から思春期に命を落とすことが少なくありませんでした。神経発作は、それまでの報告では患者の相当数が経験し、死亡の一因にもなっていました。ニチシノンが導入されてからは、SAの産生が速やかに抑えられます。凝固障害、肝機能、尿細管機能、神経発作の多くは治療開始後数日〜数週で改善に向かい、生命予後は大きく改善しました。ただし、治療開始時点ですでに肝硬変があったり、肝内に異常結節ができていたりする場合には、その後も肝細胞癌のリスクが残ります。治療開始が早いほど長期予後がよく、とくに新生児期(生後1か月以内)に治療を始めた例では肝細胞癌の発生が極めて少ないと報告されています。
主な合併症には、肝細胞癌、肝硬変・門脈圧亢進症、慢性腎臓病・腎石灰化、低リン血症性くる病と骨折、神経発作(末梢神経障害、呼吸不全)、肥大型心筋症があります。治療に伴う問題もあります。ニチシノンは上流のHPPDを阻害するため、血中チロシンが高くなります。食事療法が不十分だとチロシン結晶による角膜症(羞明、流涙、眼痛)や皮膚症状が起こりえます。逆に食事制限が過剰になると、フェニルアラニンやチロシンが不足して成長障害を招くおそれがあります。ニチシノンで治療を受けている患者では、学習・認知面や注意の問題が一般集団より多いとする報告があります。原因として、チロシン高値やフェニルアラニン低値などが議論されていますが、結論は出ていません。
高チロシン血症1型の診断・診断基準
診断の出発点は、乳児の原因不明の肝障害(とくにPT延長が目立つ例)、くる病、ファンコニ症候群、AFPの著明な高値、新生児マススクリーニングでのチロシン(またはSA)高値などから本症を疑うことです。血液または尿中のサクシニルアセトン(SA)の検出が診断上最も重要で、ほぼ疾患特異的な所見とされています。血漿アミノ酸分析(チロシン、メチオニン、フェニルアラニン)、尿中有機酸分析、肝・腎機能、凝固、AFP、画像検査を組み合わせて全身の臓器障害を評価し、FAH遺伝子解析(必要に応じて酵素活性測定)で確定します。日本では厚生労働省研究班および日本先天代謝異常学会による診断基準・診療ガイドラインが示されており、専門施設と連携して診断を進めます。急性肝不全の乳児では、確定を待たずに専門施設と相談し、早期に治療を始めることがあります。
- 血中・尿中サクシニルアセトン(SA)測定: 本症で特異的に上昇する代謝物で、検出されれば診断的意義が非常に高い所見です。尿中有機酸分析(GC/MS)や、乾燥ろ紙血・血漿を用いたLC-MS/MSで測定します。
- 血漿アミノ酸分析: チロシン、メチオニン、フェニルアラニンの上昇がみられます。肝障害による二次的な変化を含むため特異性は低く、SAが上昇していなければ本症とは言えません。
- 新生児マススクリーニング: タンデムマス法でのチロシン高値が手がかりになります。新生児期のチロシンは正常域のことも多く、スクリーニングが陰性でも本症を否定することはできません。
- 血清α-フェトプロテイン(AFP): 新生児期から著明に高く、診断の手がかりになります。治療後に下がっていく推移や、再上昇が肝細胞癌を早期にとらえる指標として重要です。
- 凝固検査・肝機能検査: PT・INRの延長、凝固因子活性の低下、ビリルビン上昇、低アルブミン血症、低血糖などで肝合成能を評価します。トランスアミナーゼの上昇は比較的軽いことがあります。
- 腎尿細管機能検査: 尿糖、汎アミノ酸尿、尿中β2-ミクログロブリン上昇、%TRP低下、低リン血症、代謝性アシドーシスでファンコニ症候群を評価します。ALP上昇と骨X線でくる病を確認します。
- 尿中δ-アミノレブリン酸(ALA): SAによるALAD阻害を反映して上昇し、神経発作の病態評価に役立ちます。
- 画像検査(腹部超音波・CT・MRI): 肝腫大、肝硬変、再生結節や肝腫瘍の有無、腎腫大・腎石灰化を評価します。肝細胞癌の監視では造影MRIが重視されます。
- FAH遺伝子解析・酵素活性: 両アレルの病的バリアントを同定して確定診断とし、家族の保因者診断や遺伝カウンセリングにも用います。酵素活性はリンパ球や線維芽細胞などで測定されることがあります。
高チロシン血症1型と鑑別すべき疾患
- 高チロシン血症2型・3型: チロシンアミノトランスフェラーゼ欠損(2型、眼・皮膚症状が主)や4-HPPジオキシゲナーゼ欠損(3型、神経症状が主)ではSAが検出されず、肝腎障害も通常みられません。
- 新生児一過性高チロシン血症: 早産児や高蛋白哺乳で一時的にチロシンが上がる状態で、SAは陰性であり、自然に、あるいは蛋白調整とビタミンC投与で改善します。
- シトリン欠損症(NICCD): 新生児肝内胆汁うっ滞とともにチロシン、シトルリン、ガラクトースなどの上昇を示しますが、SAは陰性です。日本では本症よりはるかに頻度の高い鑑別疾患です。
- ガラクトース血症・遺伝性果糖不耐症: 乳児の肝不全と尿細管障害を起こし、二次的にチロシンが上がることがありますが、摂取した糖との関連や酵素・遺伝子検査、SA陰性で区別します。
- ミトコンドリア肝症・新生児ヘモクロマトーシス(妊娠性同種免疫性肝疾患): 乳児急性肝不全とAFP高値を示しうるため、乳酸値、鉄代謝、組織所見、SA測定で鑑別します。
- 急性ポルフィリン症: 神経発作とALA上昇は似ていますが、ポルフォビリノゲンの上昇パターン、SAの有無、発症年齢で区別します。
高チロシン血症1型の治療
治療の柱は、ニチシノンによる毒性代謝物の産生抑制と、フェニルアラニン・チロシン制限食による血中チロシンの管理の2つです。ニチシノンはチロシン分解経路の上流にあるHPPDを阻害し、FAA、MAA、SAができないようにします。国内でも承認されており、診断がつき次第(急性肝不全例ではSAを確認でき次第)できるだけ早く開始することが国際的にも推奨されています。代わりにチロシンが上がるため、特殊ミルクと低蛋白食で血中チロシンを目標範囲に保ち、フェニルアラニンが不足しないよう調整します。急性期には凝固障害、低血糖、電解質異常、感染への支持療法を併せて行います。ニチシノンへの反応が不十分な場合、肝細胞癌が疑われる場合、非代償性肝硬変の場合には肝移植を検討します。用量、目標値、移植の適応は個々の状態で異なるため、先天代謝異常症の専門医、肝臓専門医、管理栄養士を含むチームで方針を決め、主治医とよく相談することが大切です。
- ニチシノン(NTBC)内服: HPPD阻害によってSAの産生を抑える根本的な薬物療法です。血中・尿中SAが検出されなくなることを目標に、体重や血中濃度、SA値をみながら用量を調整し、原則として生涯にわたって続けます。
- フェニルアラニン・チロシン制限食: 自然蛋白を制限し、フェニルアラニン・チロシンを除いた特殊ミルクやアミノ酸製剤で必要な蛋白・栄養を補います。血中チロシンを目標範囲に保ちつつ、成長に必要な量を確保します。
- 血中アミノ酸・SA・ニチシノン濃度のモニタリング: チロシン高値による角膜症と、フェニルアラニン低値による成長・発達への影響を避けるため、定期的に測定して食事と薬の量を細かく調整します。
- 急性期の支持療法: 凝固障害に対する新鮮凍結血漿やビタミンK、低血糖に対するブドウ糖輸液、電解質・酸塩基の補正、感染症の治療を行います。神経発作では疼痛管理や呼吸管理が必要になることがあります。
- くる病・尿細管障害の治療: 多くはニチシノンで改善しますが、改善するまでの間はリン製剤、活性型ビタミンD、アルカリ製剤などで補充療法を行うことがあります。
- 肝移植: ニチシノンに反応しない肝不全、肝細胞癌またはその強い疑い、進行した肝硬変の場合に検討されます。移植後も腎臓で少量のSAが作られ続けることが報告されており、移植後の腎機能やSAを評価します。
- 肝細胞癌のサーベイランス: AFPの定期測定と腹部超音波・MRIを組み合わせ、新しい結節やAFPの再上昇を早く見つけます。
- 眼科的管理: チロシン結晶による角膜症の有無を細隙灯顕微鏡で定期的に確認し、症状があれば食事療法を見直します。
高チロシン血症1型の予後・長期フォロー
ニチシノンと食事療法の導入によって、本症の生命予後は劇的に改善しました。新生児期から治療を始めた例の多くは、肝不全、神経発作、くる病を起こさずに成長し、就学や成人期の社会生活を送れるようになっています。一方で、治療開始が乳児期後半以降に遅れた例や、開始時にすでに肝硬変があった例では、治療を続けていても肝細胞癌が起こるリスクがあり、慎重な監視が必要です。生活の質(QOL)の面では、厳格な食事療法と毎日の内服を続ける負担、学習・注意面の困難が課題として報告されています。早めに気づいて発達支援につなげることが大切です。
長期フォローアップでは、定期的に次の項目を評価します。血中・尿中SA、血漿アミノ酸(チロシン、フェニルアラニン)、ニチシノン血中濃度、AFP、肝機能・凝固、腎機能・尿細管マーカー、骨代謝、血算(ニチシノン使用中の血小板・白血球減少の報告に留意)、腹部画像、眼科診察、成長と神経発達・心理評価です。思春期には服薬や食事療法の継続が難しくなりやすく、小児科から成人診療科への移行(トランジション)支援が重要です。女性患者の妊娠では、ニチシノンの継続や胎児への影響について十分な知見が限られているため、妊娠を考える段階から専門医と計画的に相談します。
高チロシン血症1型の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
ニチシノンは自己判断で中断したり減量したりしないことが最も重要です。飲み忘れが続くとSAが再び作られ、神経発作や肝障害の再燃につながるおそれがあります。食事は、管理栄養士の指導に従って自然蛋白の量を管理します。肉、魚、卵、乳製品、大豆製品などの高蛋白食品は量を決め、特殊ミルクやアミノ酸製剤を指示どおりに摂ります。発熱、嘔吐、下痢などで食事がとれないときは、エネルギーが不足して体蛋白が分解されやすくなります。早めに主治医へ連絡し、必要なら輸液を受けます。眼の充血、まぶしさ、痛みはチロシン高値のサインのことがあります。保育園、幼稚園、学校には給食の調整や服薬、緊急時の連絡先を共有し、診断名、内服薬、主治医を記した緊急カードを携帯すると安心です。本症は常染色体劣性遺伝のため、両親が保因者である場合、次の子が罹患する確率は4分の1です。同胞の早期診断、出生前・着床前の検査の選択肢、家族計画については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。
利用できる制度・相談窓口
高チロシン血症1型は指定難病(告示番号241)であり、診断基準と重症度基準を満たせば、難病法に基づく医療費助成を受けられます。申請は都道府県・指定都市の窓口(保健所など)で、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて行います。18歳未満(継続する場合は20歳未満)では、小児慢性特定疾病医療費助成制度(先天性代謝異常の疾患群)の対象となり、自立支援事業も利用できます。フェニルアラニン・チロシン除去ミルクなどの特殊ミルクは、主治医を通じて特殊ミルク供給の仕組み(特殊ミルク共同安全開発事業など)から入手できる場合があります。乳幼児医療費助成、高額療養費制度も併用できます。重い肝障害や肝移植後で肝臓機能障害の認定基準を満たす場合は身体障害者手帳の対象となりえます。発達や知的面で支援が必要な場合は療育手帳や特別児童扶養手当、成人後に日常生活や就労に支障があれば障害年金の対象となることがあります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、小児慢性特定疾病児童等自立支援員、保健所の保健師、医療機関の医療ソーシャルワーカーなどがあり、日本先天代謝異常学会の情報や患者家族会も役立ちます。
高チロシン血症1型に伴う心のケア・心理社会的支援
生まれてすぐに重い病気を告げられた家族は、強い衝撃、罪悪感、将来への不安を抱えやすくなります。特に遺伝性疾患であることが、自責の念や夫婦・親族間の葛藤につながることもあります。本症に特有の負担として、生涯続く毎日の服薬と蛋白制限食があります。外食や行事、友人との食事で「みんなと違う」体験が重なりやすく、思春期には治療への反発や服薬・食事管理の乱れ、孤立感、抑うつ、不安が生じることがあります。肝細胞癌の可能性に備えた定期的な画像検査やAFP検査のたびに、結果を待つ不安が繰り返されることも負担になります。学習面や注意面の困難は、本人の自己肯定感の低下につながることもあります。こうした気持ちは自然な反応であり、一人で抱え込まないことが大切です。主治医、看護師、管理栄養士、臨床心理士、医療ソーシャルワーカー、遺伝カウンセラーに早めに相談してください。同じ病気の家族とつながる患者会の活用も支えになります。気分の落ち込みや不眠、登校・登園の困難が続く場合は、児童精神科や心療内科の受診も検討してください。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
高チロシン血症1型の受診の目安
- 発熱、嘔吐、下痢などで食事や薬、特殊ミルクがとれない状態が半日以上続くときは、早めに主治医に連絡してください。
- 鼻血や歯ぐきの出血が止まりにくい、あざが増える、黒色便や吐血があるときは、すぐに受診してください。
- 手足の激しい痛み、異常な姿勢やつっぱり、脱力、呼吸が苦しそうな様子があるときは、救急受診してください。
- 黄疸の悪化、お腹の張り、むくみ、ぐったりしている、意識がぼんやりしているときは、急いで受診してください。
- 目の充血、まぶしがる、目の痛みや涙が続くときは、チロシン高値の可能性があるため受診してください。
- ニチシノンを数日以上飲めなかった、または紛失したときは、自己判断せず速やかに主治医に相談してください。
高チロシン血症1型についてのよくある質問
Q. ニチシノンを飲んでいれば食事制限は不要ですか?
A. 不要にはなりません。ニチシノンは毒性物質の産生を止める代わりに血中チロシンを上げるため、フェニルアラニン・チロシン制限食との併用が基本です。目標値や食事の内容は成長に合わせて変わるので、定期的な採血の結果をもとに主治医・管理栄養士と調整します。
Q. 新生児マススクリーニングで異常がなかったのに診断されました。見逃しですか?
A. 日本のスクリーニングはチロシンを指標としており、本症では新生児期にチロシンが十分に上がらないことが多いため、スクリーニングが陰性でも発症することがあります。診断には血液や尿のサクシニルアセトン測定が重要です。
Q. 肝臓がんが心配です。どのくらいの頻度で検査が必要ですか?
A. 治療開始の時期や肝臓の状態によってリスクは異なり、一般にAFPの定期測定と腹部超音波、必要に応じてMRIを組み合わせて監視します。新生児期から治療している場合はリスクが低いとされていますが、検査の間隔は主治医と相談して決めてください。
Q. 次に生まれる子どもも同じ病気になりますか?
A. 両親がともに保因者の場合、子どもが発症する確率は妊娠のたびに4分の1、保因者となる確率は2分の1です。きょうだいの早期検査や出生前の選択肢については、遺伝カウンセリングで詳しく相談できます。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。