進行性多巣性白質脳症
Progressive Multifocal Leukoencephalopathy, PML
進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy, PML)|進行性多巣性白質脳症(PML)は、多くの人が子どもの頃から体内に持っているJCウイルスが、免疫力が大きく低下したときに脳で増え、神経の情報伝達を支える髄鞘(ミエリン)をつくる細胞を壊していく病気です。HIV感染症、血液がん、臓器移植後、膠原病などの免疫抑制治療中、多発性硬化症に対する一部の疾患修飾薬の使用中などに発症します。麻痺、認知機能の低下、視野障害などが数週〜数か月で進むため、早期の診断と、免疫を回復させる対応が予後を大きく左右します。
進行性多巣性白質脳症の要点
進行性多巣性白質脳症(PML)は、JCウイルスが免疫低下時に脳で増え、髄鞘をつくるオリゴデンドロサイトを壊して大脳白質に脱髄を起こす日和見感染症です。麻痺、認知機能低下、視野障害などが数週〜数か月で進み、日本では指定難病(告示番号25)に指定されています。
| 別名・略称 | PML、進行性多病巣性白質脳症 |
|---|---|
| 分野 | 神経・筋疾患 |
| 原因 | JCウイルス(JCポリオーマウイルス)の脳内での増殖 |
| 遺伝形式 | 遺伝性疾患ではなく、免疫低下に伴う日和見感染症 |
| 主な症状 | 麻痺、認知機能の低下、視野障害、小脳失調など |
| 主な検査 | 頭部MRI、髄液のJCウイルスDNA検査(PCR) |
| 主な治療 | 免疫低下の原因への対応(原因薬剤の中止など)で免疫機能の回復を図る |
| 受診する主な診療科 | 神経内科 |
進行性多巣性白質脳症とは
PMLは、ポリオーマウイルス科のヒトポリオーマウイルス2(JCポリオーマウイルス、JCV)による中枢神経の日和見感染症です。JCVはおもにオリゴデンドロサイト(乏突起膠細胞)とアストロサイトに感染します。オリゴデンドロサイトは髄鞘をつくる細胞で、これが壊れると大脳白質に脱髄病変が多く生じ、拡大していきます。「神経細胞を破壊する病気」と説明されることがありますが、古典的PMLの主な標的はグリア細胞です。神経細胞そのものへの感染は、後述する特殊な病型でみられます。日本では指定難病(告示番号25)に指定され、プリオン病、亜急性硬化性全脳炎とともに「遅発性ウイルス感染症」の研究班が調査と診療指針の作成を担っています。
PMLは1958年、慢性リンパ性白血病やホジキンリンパ腫の患者の剖検脳から病理学的概念として報告されました。1971年に患者の脳からウイルスが分離され、その患者のイニシャルからJCウイルスと名付けられました。1980年代以降はHIV/AIDSの合併症として急増し、抗レトロウイルス療法(ART)の普及で減少しました。その後は、ナタリズマブ(多発性硬化症治療薬)、リツキシマブ、フマル酸ジメチルなどの生物学的製剤・免疫調整薬に関連するPMLが注目されています。臨床病型としては次のものが知られています。古典的PML、免疫回復に伴って炎症が強く現れる炎症性PML(PML-IRISを含む)、小脳顆粒細胞に感染して小脳失調を起こすJCV顆粒細胞ニューロノパチー、大脳皮質の神経細胞に感染するJCV脳症、まれなJCV髄膜炎です。
進行性多巣性白質脳症の疫学・患者数
JCVは小児期から思春期にかけて、気づかないうちに感染することが多いとされます。成人の血清抗体陽性率は報告によって異なりますが、半数以上と考えられています。一方、PMLを発症するのは高度の細胞性免疫不全をもつごく一部の人です。日本の発症率は人口1,000万人あたり年間約1人前後と推計されています。国内のサーベイランスでは、欧米と比べてHIV感染症を背景とする割合が相対的に低い傾向が報告されています。悪性リンパ腫や白血病などの血液疾患、膠原病・自己免疫疾患、臓器・造血幹細胞移植後などの非HIV例が多くを占めます。発症年齢は基礎疾患によって幅がありますが、成人、特に中高年に多くみられます。性差は基礎疾患の分布に左右され、病気自体に明確な性差はないとされます。多発性硬化症に対するナタリズマブ関連PMLは、海外で投与期間や抗JCV抗体の状態とリスクの関係が詳しく調べられており、国内でもリスク管理のうえで投与が行われています。免疫不全が明らかでない人に起こる例も、ごくまれに報告されています。
進行性多巣性白質脳症の原因・病態生理
PMLは遺伝性疾患ではありません。原因はJCVの再活性化と、それを抑えられない宿主の免疫低下です。JCVは初感染後、腎臓・尿路上皮、骨髄、リンパ組織などに潜伏します。健康な人でも尿中にウイルスが排泄されることがあります。PMLの発症には主にCD4陽性・CD8陽性T細胞による細胞性免疫の低下が関わります。危険因子として次のものが知られています。<br>・HIV感染症(特にCD4数の低下例)<br>・血液悪性腫瘍とその化学療法(プリンアナログ、抗CD20抗体など)<br>・臓器・造血幹細胞移植後の免疫抑制<br>・全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患とその治療<br>・特定の薬剤:ナタリズマブ(リンパ球が中枢神経へ入るのを妨げる)、フマル酸ジメチル(遷延するリンパ球減少を伴う場合)、ミコフェノール酸モフェチルなど<br>・原発性免疫不全症候群
発症には、ウイルス側の変化も重要と考えられています。尿などにみられる非病原性の「原型(アーキタイプ)」JCVが、宿主体内で変化します。具体的には、遺伝子発現を調節する非コード制御領域(NCCR)の再編成や、細胞への吸着にかかわるカプシド蛋白VP1の変異が生じ、神経向性の強い「プロトタイプ」へ変わります。こうした変化をもつウイルスが、B細胞系などを介して血液脳関門を越え、脳に入ると考えられています。脳内ではオリゴデンドロサイトに溶解性に感染し、細胞死を起こします。その結果、脱髄巣が多発し、拡大・融合していきます。病理では、核が腫大してウイルス封入体をもつオリゴデンドロサイトと、奇怪な形態の大型アストロサイトが特徴的です。古典的PMLでは炎症細胞浸潤が乏しいのに対し、免疫が回復する過程ではCD8陽性T細胞を主体とする強い炎症が起こります。これが病変の浮腫や造影効果、一時的な症状悪化(PML-IRIS)につながります。
進行性多巣性白質脳症の症状
- 片麻痺・筋力低下: 最も多い初発症状の一つです。病変の部位に応じて、一側の手足の脱力が数週単位で進行します。
- 認知機能障害: 記憶力・注意力・判断力の低下や思考の緩慢さがみられます。病変が多発すると認知症に近い状態になることがあります。
- 行動・人格の変化: 前頭葉の病変では、意欲低下、無関心、脱抑制などが目立ち、家族が最初に気づくことがあります。
- 視覚障害(同名半盲・皮質盲): 後頭葉の白質が侵されると視野の半分が欠けたり、見えにくくなったりします。視神経は通常侵されず、眼の検査では異常が乏しいのが特徴です。
- 失語・構音障害: 言葉が出にくい、理解しにくい、ろれつが回らないといった言語の問題が生じます。
- 小脳失調: 中小脳脚や小脳の病変、あるいは顆粒細胞ニューロノパチーにより、ふらつき、手のふるえ、歩行の不安定がみられます。
- 感覚障害: 一側のしびれや感覚の鈍さが、運動症状とともに現れることがあります。
- けいれん発作: 皮質直下の病変に関連して一部の患者に起こります。脳の灰白質に近い病変があると生じやすいとされます。
- 嚥下障害: 脳幹病変や病気の進行に伴って飲み込みが難しくなり、誤嚥の原因となります。
- 発熱・頭痛が乏しいこと: 多くの脳炎と異なり、古典的PMLでは発熱や強い頭痛、髄膜刺激症状を伴わないことが多く、診断の手がかりになります。
進行性多巣性白質脳症の経過と合併症
古典的PMLは、数週から数か月の単位で症状が段階的・持続的に悪化します。新たな病変の出現と既存病変の拡大により神経症状が積み重なり、未治療で免疫が回復しない場合は寝たきりの状態となります。歴史的には、多くが発症から1年以内に亡くなっていました。現在は基礎となる免疫不全を是正できるかどうかで経過が大きく異なります。HIV感染者でARTが奏効した場合や、ナタリズマブ中止後に免疫が回復した場合には、病変の進行が止まり、生存できる例が増えています。ただし、免疫が回復する過程の数週〜数か月にPML-IRIS(免疫再構築症候群)が起こることがあります。このときは一時的に症状やMRI所見が悪化し、造影効果や浮腫が出現するため、注意深い観察が必要です。進行が止まった後も、壊れた白質は元に戻りにくく、後遺症が残ることが少なくありません。
合併症には次のようなものがあります。<br>・誤嚥性肺炎、尿路感染症、褥瘡、深部静脈血栓症(嚥下障害や臥床による)<br>・症候性てんかん<br>・PML-IRISによる脳浮腫・頭蓋内圧亢進<br>・基礎疾患に伴う他の日和見感染症(ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症など)<br>・基礎疾患そのものの悪化(免疫抑制薬の減量・中止に伴う膠原病や多発性硬化症の再燃、移植臓器の拒絶など)<br>このため、神経内科、感染症科、血液内科、膠原病内科、移植チームなどが協働して治療方針を調整することが重要です。
進行性多巣性白質脳症の診断・診断基準
PMLの診断は、次の3つを組み合わせて行います。①免疫が低下した背景をもつ人に、亜急性に進行する大脳症状(麻痺、認知機能低下、視野障害など)がみられる。②MRIで特徴的な白質病変を確認する。③脳脊髄液(髄液)からJCVのDNAを検出する、あるいは脳生検でウイルス感染と特徴的な病理所見を確認する。日本では厚生労働省の研究班によるPML診療ガイドラインの診断基準が用いられ、臨床・画像・ウイルス学的・病理学的所見の組み合わせで確実例・ほぼ確実例・疑い例に分類されます。髄液JCV-DNAは国立感染症研究所などで高感度のリアルタイムPCR検査が行われています。最初の検査で陰性でも、臨床的に疑わしければ再検査や脳生検を検討します。PMLが疑われた時点で、免疫抑制の原因となっている薬剤の扱いを主治医・専門医と早急に協議することが重要です。
- 頭部MRI: T2強調像・FLAIR像で、皮質下U線維を含む左右非対称の白質高信号を認めます。T1強調像では低信号を示し、典型的には腫瘤効果(周囲の圧排)や造影効果が乏しいのが特徴です。拡散強調像では病変の辺縁が高信号となり、活動性の前線を示すことがあります。
- MRIの特殊な所見: ナタリズマブ関連PMLでは、早期に無症状の小病変や点状病変(いわゆる「ミルキーウェイ」様所見)、辺縁の淡い造影効果がみられることがあります。炎症性PMLやIRISでは、造影効果や浮腫が目立ちます。
- 髄液一般検査: 細胞数は正常か軽度上昇、蛋白も正常から軽度上昇にとどまることが多く、強い炎症所見がないことが他の脳炎との違いになります。
- 髄液JCV-DNA PCR: 診断の中心となる検査です。陽性であれば、臨床・画像所見とあわせて確実性の高い診断となります。ただし病初期やART中・免疫回復時はウイルス量が少なく偽陰性になりうるため、高感度法での反復検査が推奨されます。
- 脳生検: 髄液検査で確定できない場合に検討されます。脱髄、腫大核をもつオリゴデンドロサイト、奇怪なアストロサイトといった病理所見と、免疫染色やin situハイブリダイゼーションによるJCVの証明で確定診断となります。
- 基礎疾患・免疫状態の評価: HIV抗体検査、CD4陽性T細胞数、リンパ球数、免疫グロブリン値、血液疾患の評価、使用中の免疫抑制薬の確認などを行い、免疫不全の原因を明らかにします。
- 血清抗JCV抗体: PMLの診断そのものには使えませんが、ナタリズマブ投与時のPML発症リスクの層別化に用いられます。抗体陰性であればリスクは低いと考えられています。
- 神経学的診察・高次脳機能評価: 麻痺、失語、視野、認知機能などを定期的に評価し、進行の速さや治療への反応、IRISの有無を判断する材料とします。
進行性多巣性白質脳症と鑑別すべき疾患
- 多発性硬化症・視神経脊髄炎: 再発寛解の経過、脳室周囲や脊髄・視神経の病変、髄液オリゴクローナルバンドなどで区別します。ナタリズマブなどの治療中に新規病変が出たときは、再発とPMLの両方を検討します。
- 中枢神経原発悪性リンパ腫: 免疫不全者に多い点は共通しますが、腫瘤効果と均一な造影効果を伴うことが多く、髄液細胞診や生検で区別します。
- HIV脳症・サイトメガロウイルス脳炎: HIV脳症は左右対称でびまん性の白質変化、U線維が保たれる点が、PMLの非対称・皮質下中心の病変と異なります。
- 脳トキソプラズマ症などの日和見感染症: リング状造影効果と浮腫を伴う腫瘤性病変が多く、発熱や頭痛を伴いやすい点が鑑別の手がかりになります。
- 急性散在性脳脊髄炎(ADEM)・脳梗塞・可逆性後頭葉白質脳症(PRES): ADEMは単相性で急性の経過、脳梗塞は血管支配域に一致する突然発症、PRESは血圧上昇や免疫抑制薬の使用に伴い可逆的な経過をとる点で区別します。
- 遺伝性・代謝性白質脳症: 副腎白質ジストロフィーなどは左右対称の病変と家族歴・代謝検査所見が特徴で、免疫不全を背景としない点で異なります。
進行性多巣性白質脳症の治療
現時点で、JCVを直接排除できることが確立した抗ウイルス薬はありません。治療の柱は免疫機能をできる限り速やかに回復させ、患者自身のT細胞にウイルスを排除させることです。具体的には、HIV感染者ではARTの開始・最適化を、薬剤関連PMLでは原因薬の中止を、移植・膠原病などでは免疫抑制薬の可能な範囲での減量を行います。一方、免疫を回復させると基礎疾患の悪化や移植臓器の拒絶、IRISによる一時的な悪化のリスクも生じます。そのため、各診療科がリスクと利益を慎重に比較して方針を決めます。いくつかの薬剤や新しい免疫療法が試みられていますが、有効性の証拠は限られています。個々の治療の選択は専門医と十分に相談して決める必要があります。並行して、リハビリテーション、けいれん対策、栄養・嚥下管理などの支持療法も欠かせません。
- 抗レトロウイルス療法(ART): HIV関連PMLの基本治療です。ウイルスを抑えてCD4陽性T細胞を回復させることで、生存率が大きく改善しました。
- 原因薬剤の中止・免疫抑制薬の減量: ナタリズマブ、リツキシマブ、フマル酸ジメチルなどが関与する場合は中止を検討します。移植や膠原病では、基礎疾患の悪化とのバランスを考えて減量します。
- 血漿交換・免疫吸着療法: ナタリズマブ関連PMLで、薬剤を体内から早く除去する目的で行われることがあります。ただし、生命予後を改善するかは明確ではなく、IRISを早める可能性も指摘されています。
- メフロキン: 抗マラリア薬で、試験管内でJCVの増殖を抑えることが示され、国内外で試みられてきました。しかし海外の臨床試験では有効性が確認されておらず、使用する場合は保険適用外となるため、専門医の判断のもとで検討されます。
- 研究段階の免疫療法: 免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)や、ポリオーマウイルス特異的T細胞の移入療法などで、改善例の報告があります。ただし症例報告や小規模研究の段階で、標準治療ではありません。
- PML-IRISへの対応: 免疫回復に伴う強い炎症や脳浮腫で症状が悪化した場合は、副腎皮質ステロイドが用いられることがあります。ウイルス排除を妨げないよう、投与の時期や量は慎重に判断されます。
- 抗てんかん薬: けいれん発作がある場合に使用します。免疫抑制薬や抗HIV薬との相互作用に配慮して薬剤を選びます。
- リハビリテーション: 理学療法・作業療法・言語聴覚療法により、麻痺、歩行、日常生活動作、コミュニケーション、嚥下の機能維持と改善をめざします。病状が安定したら早めの開始が望まれます。
- 全身管理・合併症予防: 嚥下評価に基づく栄養管理、誤嚥性肺炎や褥瘡・血栓の予防、他の日和見感染症の予防投薬などを行い、全身状態を保ちます。
進行性多巣性白質脳症の予後・長期フォロー
予後は、基礎疾患の種類と免疫回復の可否によって大きく異なります。ART以前のHIV関連PMLや、免疫回復が難しい血液悪性腫瘍関連のPMLでは、発症から数か月〜1年以内に亡くなる例が多く、現在も予後不良の病型とされます。一方、ART奏効例や、早期に診断されたナタリズマブ関連PMLでは、多くの患者が生存できるようになっています。早期診断(無症状または症状が軽い段階での発見)、病変が小さく限局していること、発症時の年齢が若いこと、診断時の髄液ウイルス量が少ないこと、免疫が速やかに回復することは、良好な経過と関連すると報告されています。ただし生存した場合でも、麻痺、認知機能障害、視野障害などの後遺症が残ることが多く、生活の質(QOL)を保つためのリハビリテーションと介護体制づくりが重要です。
病状が安定した後も、定期的な神経学的診察とMRIで再燃やIRISの遅発を確認します。必要に応じて髄液JCV-DNAも測定します。基礎疾患の治療は再調整が必要です。具体的には、多発性硬化症ではPMLリスクの低い治療への切り替え、膠原病や移植後では免疫抑制の最適化、HIVではARTの継続と服薬アドヒアランスの維持を図ります。PMLのリスクを考えながら、基礎疾患を長期にわたり管理していきます。後遺症に応じた機能訓練、てんかん管理、高次脳機能障害への支援も長期的に続けます。
進行性多巣性白質脳症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
PMLは遺伝する病気ではありません。JCVは一般の人の多くがすでに持っているウイルスのため、家族や介護者が日常の接触でPMLを発症することは通常考えられず、特別な隔離は不要です。家族の遺伝カウンセリングも基本的に必要ありません。生活上大切なのは次の点です。<br>・基礎疾患の治療薬(ARTなど)を自己判断で中断せず、指示どおりに続ける<br>・他の感染症を防ぐため、手洗いや予防接種(主治医と相談したうえで)を行う<br>・麻痺や視野障害に応じて、転倒防止の住環境整備(手すり、段差解消、照明)を行う<br>・嚥下障害がある場合は、食形態の工夫と食後の姿勢保持で誤嚥を防ぐ<br>・けいれんがある場合は、自動車運転の可否を主治医と相談する<br>・認知機能や意思表示の能力が低下する前に、治療やケアの希望を家族・医療者と話し合っておく(アドバンス・ケア・プランニング)<br>免疫抑制治療を受けている人は、新しい神経症状に気づいたら早めに主治医へ伝えることが、早期発見につながります。
利用できる制度・相談窓口
PMLは指定難病(告示番号25)で、診断基準を満たし、重症度分類などで一定以上と判定された場合などに、医療費助成(特定医療費)の対象となります。申請は、指定医の作成した臨床調査個人票を添えて、お住まいの都道府県・指定都市の窓口(保健所など)に行います。このほか、次の制度が利用できる場合があります。<br>・医療費:高額療養費制度<br>・HIV感染症の場合:免疫機能障害による身体障害者手帳と自立支援医療(更生医療)<br>・後遺症に応じて:肢体不自由・視覚障害・音声言語機能障害などの身体障害者手帳、障害福祉サービス<br>・障害年金:症状が固定した場合など<br>・介護保険:65歳以上では原因を問わず利用でき、40〜64歳では対象となる特定疾病に該当するかどうかによります<br>相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所の難病担当保健師、病院の医療ソーシャルワーカー(医療相談室)が利用できます。HIV関連では、エイズ治療拠点病院の相談窓口も活用できます。
進行性多巣性白質脳症に伴う心のケア・心理社会的支援
PMLは、もともと別の重い病気(HIV感染症、血液がん、膠原病、多発性硬化症など)を治療している最中に発症することが多い病気です。そのため、本人と家族は「二重の病気」を抱えることになり、強い不安や抑うつ、適応障害が生じやすくなります。基礎疾患の治療薬が原因に関わっている場合は、怒りや自責の念、治療への不信感が生まれることもあります。また、病気が進むと本人の認知機能や言語機能が低下し、意思を伝えにくくなることがあります。このため、家族が重い決断を担う場面が増え、介護負担や予期悲嘆も大きくなります。HIV関連の場合は、偏見やプライバシーへの懸念が加わることもあります。気持ちのつらさは自然な反応であり、一人で抱え込まないことが大切です。主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士、精神科・心療内科などに早めに相談してください。必要に応じて緩和ケアチームの支援や家族への心理的サポートを受けることが勧められます。
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進行性多巣性白質脳症の受診の目安
- 免疫抑制治療中・HIV感染症・血液疾患治療中などの人で、片側の手足の脱力、しびれ、言葉の出にくさ、見えにくさが数日〜数週かけて進むときは、早めに主治医を受診してください。
- ナタリズマブなどの治療中に、物忘れ、性格や行動の変化、ふらつきなど、これまでと違う神経症状に気づいたときは、次回予定を待たずに連絡してください。
- けいれん発作が起きた、意識がもうろうとしている、急に手足が動かなくなったなどの場合は、救急受診が必要です。
- PMLの治療中(ART開始後や原因薬中止後)に症状が急に悪化した場合は、IRISの可能性があるため速やかに受診してください。
- むせ込みが増えた、発熱や呼吸が苦しいなど、誤嚥性肺炎が疑われるときは早急に受診してください。
進行性多巣性白質脳症についてのよくある質問
Q. JCウイルスは人にうつりますか。家族は気をつける必要がありますか。
A. JCウイルスは多くの人が子どもの頃に感染して体内に持っているウイルスで、PMLは免疫が大きく低下したときにだけ発症します。家族や介護者が日常の接触でPMLになることは通常考えられず、隔離や特別な消毒は必要ありません。
Q. 血液検査でJCウイルス抗体が陽性と言われました。PMLになるのでしょうか。
A. 抗体陽性は過去に感染したことを示すもので、成人の多くが陽性です。それだけでPMLになるわけではありません。ナタリズマブなどの治療中はリスク評価の材料になるため、治療の継続や切り替えについて主治医とよく相談してください。
Q. PMLは治りますか。
A. ウイルスを直接なくす確立した薬はまだありません。しかし、免疫を回復させることで進行が止まり、長く生活できる人が増えています。一方で、壊れた白質の機能は戻りにくく後遺症が残ることが多いため、リハビリテーションと生活支援が大切です。
Q. 治療を始めてから症状が悪くなったのはなぜですか。
A. 免疫が回復する過程で、免疫細胞がウイルスに強く反応して脳に炎症や腫れが起こる「免疫再構築症候群(IRIS)」の可能性があります。ステロイドなどで対処することがあるので、悪化に気づいたら早めに主治医に伝えてください。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。