先天性葉酸吸収不全

Hereditary Folate Malabsorption

先天性葉酸吸収不全(Hereditary Folate Malabsorption)|先天性葉酸吸収不全(Hereditary Folate Malabsorption:HFM)は、腸管から葉酸を取り込み、脳脊髄液へ運ぶ輸送体PCFTが遺伝的に働かないために、全身と中枢神経系が重い葉酸欠乏に陥る極めて稀な常染色体潜性(劣性)遺伝疾患です。多くは生後数か月の乳児期に、貧血、下痢、体重増加不良、重症感染症、発達の遅れやけいれんで発症します。還元型葉酸製剤による早期かつ十分な治療で症状の多くは改善しますが、診断と治療が遅れると神経の後遺症が残ることがあるため、早期発見と生涯にわたる治療継続が重要です。

先天性葉酸吸収不全の要点

先天性葉酸吸収不全は、SLC46A1遺伝子の異常で葉酸輸送体PCFTが働かず、腸管からの葉酸吸収と脳脊髄液への葉酸移行が障害される常染色体潜性遺伝疾患です。乳児期に貧血、下痢、感染症、発達の遅れやけいれんで発症し、指定難病(告示番号253)に指定されています。

別名・略称遺伝性葉酸吸収不全症、先天性葉酸吸収不全症、HFM、PCFT欠損症、Congenital folate malabsorption、SLC46A1関連葉酸吸収不全
分野代謝疾患
遺伝形式常染色体潜性(劣性)遺伝(原因遺伝子はSLC46A1)
好発年齢生後数か月の乳児期
主な症状貧血、下痢、体重増加不良、重症感染症、発達の遅れ、けいれん
主な検査血中葉酸・脳脊髄液中葉酸の測定、SLC46A1遺伝子検査
主な治療還元型葉酸製剤の早期かつ十分量の投与(生涯継続)
指定難病告示番号253

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先天性葉酸吸収不全とは

先天性葉酸吸収不全は、SLC46A1遺伝子がコードするプロトン共役型葉酸輸送体(proton-coupled folate transporter:PCFT)の機能喪失によって起こる先天性の葉酸輸送障害です。葉酸(ビタミンB9)は食事から摂取するしかない必須栄養素で、還元型葉酸(テトラヒドロ葉酸とその誘導体)の形で、DNAの材料であるプリン・チミジル酸の合成、ホモシステインからメチオニンへの再メチル化(メチル化反応全般の基盤)、セリン・グリシンなどのアミノ酸代謝に関わります。PCFTは主に十二指腸から空腸上部の酸性環境で働く主要な葉酸取り込み経路であり、さらに脳の脈絡叢で葉酸を脳脊髄液へ運ぶ過程にも関与します。そのため本症では、血中葉酸の著しい低下(全身性の葉酸欠乏)と、脳脊髄液中葉酸の著しい低下(中枢性の葉酸欠乏)の両方が起こる点が特徴です。日本では指定難病(告示番号253)に指定されています。

本症は1960年代から、先天的に葉酸を吸収できない乳児の症例として報告されてきました。当初は腸管の葉酸吸収の障害と脳への葉酸移行の障害が併存する理由が不明でしたが、2006年にPCFT(SLC46A1)が腸管の葉酸輸送体として同定され、本症の原因遺伝子であることが明らかにされました。現在までに多数の異なる病的バリアントが報告されていますが、明確な病型分類は確立していません。臨床像は、血液・消化器・免疫症状が前面に出る例から神経症状が目立つ例まで幅があり、重症度は診断・治療開始の時期や治療の十分さに大きく左右されます。なお、血中葉酸は正常で脳脊髄液葉酸のみが低下する「脳葉酸欠乏症」(FOLR1遺伝子異常など)とは、別の疾患として区別されます。

先天性葉酸吸収不全の疫学・患者数

世界で報告されている患者は数十家系程度と考えられ、極めて稀な疾患です。報告例には血族婚の家系が多く含まれ、特定の地域・民族に共通する創始者バリアントも知られています。日本での報告はごく少数にとどまり、正確な患者数は把握されていません。ただし、乳児期の重症感染症や原因不明の貧血として扱われ、診断に至っていない例が存在する可能性も指摘されています。発症は通常、胎児期に母体から受け取った葉酸の蓄えが尽きる生後2〜6か月ごろが多いとされます。常染色体潜性遺伝のため性差はなく、男女とも同じ頻度で発症します。

先天性葉酸吸収不全の原因・病態生理

本症は常染色体潜性(劣性)遺伝形式をとり、17番染色体上のSLC46A1遺伝子の両方のアレルに病的バリアントがある場合に発症します。両親はそれぞれ片方のアレルにバリアントを持つ保因者で、通常は症状がありません。保因者同士の夫婦から生まれる子どもは、それぞれ25%の確率で発症し、50%の確率で保因者となります。PCFTは細胞膜を12回貫通する膜タンパク質で、プロトン(H+)の濃度勾配を利用して葉酸を細胞内へ運び込みます。至適pHは5.5前後の酸性領域にあり、腸の表面がやや酸性に保たれる十二指腸・空腸上部での葉酸吸収に適しています。報告されている病的バリアントには、ミスセンス、ナンセンス、フレームシフト、スプライス異常などがあり、多くは輸送活性をほぼ完全に失わせます。

発症の機序は大きく二つに分けられます。第一は腸管吸収の障害です。食事中や母乳中の葉酸はPCFTを介して吸収されますが、本症ではこの経路が働かないため、出生後に母体由来の蓄えを使い切ると全身の葉酸欠乏が急速に進みます。葉酸が不足すると、チミジル酸合成の障害によってDNA合成が滞り、細胞分裂の盛んな骨髄では巨赤芽球性変化と無効造血が起こり、大球性貧血や汎血球減少を来します。同様に腸の上皮や口腔粘膜も障害され、下痢・吸収不良や口内炎が生じ、リンパ球の増殖・分化の障害によって低ガンマグロブリン血症や細胞性免疫の低下が起こります。第二は中枢神経系への葉酸輸送の障害です。脈絡叢では葉酸受容体α(FRα)とPCFTが協調して血液から脳脊髄液へ5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-MTHF)を運ぶと考えられており、健常者では脳脊髄液の葉酸濃度は血中の数倍に保たれています。本症ではこの濃縮機構が損なわれ、治療により血中葉酸を正常以上に上げても脳脊髄液葉酸が十分に上がりにくいという特徴があります。中枢の葉酸欠乏は、神経伝達物質の合成やミエリン形成に必要なメチル化反応を障害し、発達の遅れ、てんかん、運動障害などの原因になると考えられています。高用量の葉酸を投与すると、PCFT以外の輸送経路(還元型葉酸輸送体RFCなど)を介してある程度は吸収・移行できるため、治療が成り立ちます。

先天性葉酸吸収不全の症状

  • 巨赤芽球性貧血(大球性貧血): 最も頻度の高い症状で、顔色不良、哺乳力低下、元気のなさなどで気づかれます。赤血球が大きく、好中球の核が過分葉するのが特徴です。
  • 汎血球減少: 白血球や血小板も減少することがあり、感染しやすさや、皮下出血・鼻出血などの出血傾向につながります。
  • 体重増加不良・成長障害: 吸収不良や慢性炎症のため、乳児期に体重が増えなくなる、または減少することがあります。
  • 慢性下痢・吸収不良: 葉酸欠乏による腸粘膜の障害で下痢が続き、栄養状態の悪化に拍車をかけます。
  • 口内炎・舌炎: 口腔粘膜のびらんや舌の発赤・萎縮がみられ、哺乳や摂食の妨げになることがあります。
  • 反復感染・日和見感染: 細菌感染を繰り返すほか、ニューモシスチス肺炎などの日和見感染が初発症状となる例も報告されています。
  • 低ガンマグロブリン血症・細胞性免疫低下: 免疫グロブリンやリンパ球が減少し、原発性免疫不全症と誤認されることがあります。葉酸補充によって改善するのが一般的です。
  • 精神運動発達遅滞: 首のすわり、寝返り、言葉などの発達が遅れます。治療開始が遅いほど後遺症として残りやすいとされます。
  • てんかん発作: 乳児期からけいれん発作がみられることがあり、中枢の葉酸欠乏が十分に是正されないと治療に難渋することがあります。
  • 運動障害(筋緊張異常・運動失調など): 筋緊張低下、ふらつき、不随意運動などがみられることがあります。
  • 頭蓋内石灰化: 頭部CTなどで脳内の石灰化が見つかった例が報告されており、長期間続いた中枢性葉酸欠乏との関連が考えられています。

先天性葉酸吸収不全の経過と合併症

出生直後は母体由来の葉酸により無症状のことが多いものの、生後2〜6か月ごろから貧血、下痢、体重増加不良、口内炎、感染症が相次いで現れ、急速に全身状態が悪化します。この段階で重症肺炎や敗血症を起こし、集中治療を要することもあります。未治療のまま経過すると、重症感染症や栄養障害により生命に関わるほか、発達の停滞・退行、てんかん、運動障害が進行します。適切な治療を開始すると、血液所見や消化器症状、免疫異常は数日から数週間で改善に向かうことが多い一方、神経症状の改善には時間がかかり、すでに生じた神経障害は部分的にしか回復しないことがあります。治療を中断すると再び葉酸欠乏に陥るため、生涯にわたる治療が前提となります。

主な合併症には、汎血球減少に伴う重症感染症(ニューモシスチス肺炎、細菌性肺炎、敗血症など)と出血、慢性下痢による脱水・電解質異常と栄養障害、成長障害があります。神経系では、知的障害、難治性てんかん、運動機能障害、行動上の問題などが後遺症として残る場合があります。また、一部の抗てんかん薬(フェニトイン、フェノバルビタールなど)や、葉酸代謝を阻害する薬剤(メトトレキサート、トリメトプリムなど)は葉酸欠乏を悪化させるおそれがあるため、他の病気の治療で薬を使う際にも配慮が必要です。

先天性葉酸吸収不全の診断・診断基準

乳児期に大球性(巨赤芽球性)貧血や汎血球減少、慢性下痢、体重増加不良、反復感染、発達遅滞やけいれんがみられ、血清葉酸が著しく低い場合に本症を疑います。まず母親の栄養状態、ヤギ乳の摂取、葉酸を壊す薬剤の使用など、後天性の葉酸欠乏の原因を除外し、あわせてビタミンB12欠乏やその代謝異常を鑑別します。可能であれば治療開始前に血清葉酸・赤血球葉酸を測定し、脳脊髄液の5-MTHFを評価します。治療によって血清葉酸が十分に上がっても脳脊髄液葉酸が低いままであれば、本症を強く示唆します。最終的にはSLC46A1遺伝子の両アレルに病的バリアントを確認して確定診断とします。重症感染症が先行する場合は、原発性免疫不全症の評価と並行して葉酸値を必ず確認することが大切です。指定難病としての診断基準・重症度分類の詳細は、難病情報センターや厚生労働省の告示で確認できます。

  • 血算・末梢血塗抹標本: 大球性貧血(MCV高値)、好中球の過分葉、網赤血球の相対的低値がみられ、白血球減少や血小板減少を伴うこともあります。
  • 血清葉酸・赤血球葉酸: 著明な低値を示し、測定感度以下のことも少なくありません。赤血球葉酸は比較的長期の葉酸状態を反映します。
  • ビタミンB12・ホモシステイン・メチルマロン酸: ビタミンB12は通常正常で、総ホモシステインは上昇しうる一方、メチルマロン酸は上昇しない点がB12欠乏・代謝異常との鑑別に役立ちます。
  • 脳脊髄液5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-MTHF): 著明な低値を示します。血清葉酸を補正した後も脳脊髄液/血清葉酸比が低いままであることが本症の重要な特徴で、治療量の調整の指標にもなります。
  • 骨髄検査: 巨赤芽球性変化を示し、白血病などの造血器疾患や再生不良性貧血との鑑別に用いられます。
  • 免疫学的検査: IgG・IgA・IgMの低値やリンパ球数・リンパ球サブセットの低下がみられることがあり、葉酸補充後に改善するかを確認します。
  • 経口葉酸負荷試験: 経口で葉酸を投与しても血清葉酸の上昇が乏しいことで吸収障害を示しますが、現在は遺伝学的検査が確定診断の中心です。
  • 頭部MRI・CT、脳波: 脳萎縮、髄鞘化の遅れ、頭蓋内石灰化などが報告されています。けいれんがある場合は脳波でてんかん性異常を評価します。
  • SLC46A1遺伝学的検査: 両アレルの病的バリアントの同定により確定診断となり、家族の保因者診断や遺伝カウンセリングにも用いられます。

先天性葉酸吸収不全と鑑別すべき疾患

  • 栄養性・後天性葉酸欠乏症: 母乳・ヤギ乳中心の偏った栄養、吸収不良症候群、抗葉酸作用のある薬剤などが原因で、通常量の経口葉酸で速やかに改善し、脳脊髄液/血清葉酸比も保たれます。
  • トランスコバラミン欠損症などのビタミンB12輸送・代謝異常: 乳児期に汎血球減少・免疫不全・体重増加不良を来す点が似ていますが、血清葉酸は低くならず、メチルマロン酸の上昇を伴うことが多い点で区別します。
  • 脳葉酸欠乏症(FOLR1異常症など): 脳脊髄液葉酸は低値ですが、血清葉酸は正常で貧血・免疫不全を伴わず、発症も幼児期以降のことが多い点で異なります。
  • MTHFR欠損症などの葉酸代謝異常症: 著明な高ホモシステイン血症と神経症状が主体で、血清葉酸は低値〜正常、巨赤芽球性貧血は通常目立ちません。
  • 重症複合免疫不全症などの原発性免疫不全症: 乳児期の日和見感染と低ガンマグロブリン血症が共通しますが、本症では巨赤芽球性貧血と血清葉酸低値を伴い、葉酸補充で免疫異常が改善します。
  • 再生不良性貧血・先天性赤血球形成異常性貧血: 汎血球減少や大球性貧血を示しうるものの、葉酸値は保たれ、骨髄所見や葉酸補充への反応性で区別します。

先天性葉酸吸収不全の治療

治療の柱は、吸収障害を上回る量の葉酸を補充し、血中だけでなく脳脊髄液中の葉酸を年齢相応の正常範囲に保つことです。本症ではPCFTを介さない輸送経路を利用するため、通常の葉酸欠乏症よりはるかに多い量が必要になります。製剤は、合成型の葉酸(プテロイルグルタミン酸)よりも、体内で直接利用できる還元型葉酸(ホリナート〔ロイコボリン〕、レボホリナートなど)が推奨されています。合成型葉酸は体内での還元を必要とするうえ、葉酸受容体に強く結合して脳への5-MTHF輸送を妨げる可能性が指摘されているためです。急性期、特に重症感染症や消化管症状が強い時期には注射による投与が選択されることが多く、状態が安定すれば経口投与へ切り替える場合もあります。投与量・投与経路は、血清葉酸だけでなく脳脊髄液5-MTHFの値をみながら個別に調整します。これらの使い方の多くは本症に対する保険上の適応外使用にあたるため、専門医による判断が必要です。治療方針は必ず主治医・専門医(小児血液、小児神経、先天代謝異常の専門医など)とよく相談して決めてください。

  • 還元型葉酸(ホリナート/レボホリナート)の非経口投与: 筋肉内注射や静脈内投与で腸管吸収を経ずに補充でき、急性期や経口投与で脳脊髄液葉酸が上がらない場合に用いられます。
  • 還元型葉酸の高用量経口投与: 状態が安定した後の維持療法として、高用量の経口ホリナートが用いられることがあり、脳脊髄液葉酸が十分に維持できているかを定期的に確認します。
  • 脳脊髄液葉酸値に基づく用量調整: 血清葉酸が十分でも中枢の葉酸が不足することがあるため、腰椎穿刺で5-MTHFを測定し、年齢相応の正常範囲に入るよう用量や投与経路を見直します。
  • 感染症の治療と予防: 重症感染症には抗菌薬・抗真菌薬などで速やかに対応し、免疫が回復するまで免疫グロブリン補充やニューモシスチス肺炎の予防が検討されることがあります。
  • 輸血などの支持療法: 重度の貧血や血小板減少には輸血を行い、脱水・電解質異常や栄養障害には輸液や栄養療法で対応します。
  • てんかんの治療: 抗てんかん薬を用いますが、フェニトインやフェノバルビタールなど葉酸を低下させうる薬剤の使用時は葉酸値に特に注意し、薬剤選択は専門医と相談します。
  • 髄腔内投与など特殊な治療: 全身投与で中枢症状が改善しない例に対し、葉酸の髄腔内投与が試みられた報告がありますが、確立した治療ではなく、適応は極めて慎重に判断されます。
  • 発達支援・リハビリテーション: 理学療法・作業療法・言語療法や療育により、運動・言語・社会性の発達を支え、後遺症がある場合の生活機能を高めます。

先天性葉酸吸収不全の予後・長期フォロー

適切な葉酸補充を早期に開始し継続すれば、貧血、下痢、免疫異常は多くの場合改善し、生命予後は良好になります。特に神経症状が出る前、あるいは出始めた早い段階で治療を始めた例では、正常に近い発達を遂げた報告もあります。一方、診断と治療が遅れた例や、脳脊髄液葉酸が十分に補正されなかった例では、知的障害、てんかん、運動障害などの神経学的後遺症が残ることがあります。治療の中断は再発につながるため、生涯の継続が前提です。治療を続けていれば成人期に至っても社会生活を送っている例があり、QOLは主に神経学的後遺症の程度に左右されます。

長期フォローアップでは、血算、血清・赤血球葉酸、ホモシステインなどを定期的に測定するとともに、特に乳幼児期は脳脊髄液5-MTHFを適宜評価して投与量を調整します。成長に伴い体重が増えると必要量も変わるため、定期的な見直しが欠かせません。発達検査、脳波、必要に応じて頭部画像検査で神経学的な状態を評価し、就学や就労に向けた支援につなげます。小児期から成人期への移行(トランジション)にあたっては、成人診療科でも注射や検査を継続できる体制を早めに整えておくことが大切です。女性患者が妊娠を考える場合は、母体と胎児の葉酸状態を保つために、事前に主治医と治療計画を相談する必要があります。

先天性葉酸吸収不全の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

最も大切なのは、葉酸製剤の注射や内服を自己判断で中断・減量しないことです。旅行や災害時に備え、薬の予備や処方内容のメモ、疾患名と治療内容を記した資料(緊急時カード等)を携帯すると安心です。他の病気で受診する際や新しい薬を処方される際は、本症であることと葉酸製剤を使用していることを必ず伝え、葉酸を下げる可能性のある薬剤(一部の抗てんかん薬、メトトレキサート、ST合剤など)について医師・薬剤師に確認してもらいましょう。治療が安定していれば食事の大きな制限は通常ありませんが、栄養バランスに配慮し、体重や成長の記録をつけることは状態把握に役立ちます。免疫が回復するまでは感染予防(手洗い、人混みを避けるなど)に努め、予防接種の時期や種類(特に生ワクチン)は主治医と相談してください。本症は常染色体潜性遺伝のため、次の子どもの再発率は25%です。きょうだいは無症状でも検査で早期発見できる可能性があり、次子の妊娠を考える場合には出生前・出生直後の対応も含め、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。

利用できる制度・相談窓口

先天性葉酸吸収不全は指定難病(告示番号253)であり、診断基準を満たし、重症度分類で一定以上と判定された場合(または高額な医療費が継続する場合)に、医療費助成を受けられます。申請には難病指定医による臨床調査個人票が必要で、窓口はお住まいの都道府県・指定都市(保健所など)です。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象となりうるため、主治医に確認してください。発達の遅れや運動障害がある場合は、療育手帳や身体障害者手帳の取得、障害児通所支援などの福祉サービスの利用が可能な場合があります。また、特別児童扶養手当や障害児福祉手当、20歳以降は障害の程度に応じて障害年金の対象となることがあります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、小児慢性特定疾病の自立支援事業、病院の医療ソーシャルワーカーなどがあり、制度の手続きや就園・就学に関する相談に応じてもらえます。

先天性葉酸吸収不全に伴う心のケア・心理社会的支援

乳児期に重症で発症し、集中治療や入院を経験する家族は、診断がつくまでの不安や、病気に気づけなかったのではという自責感を抱きやすく、これが抑うつや不安、適応障害につながることがあります。本症は患者数が極めて少ないため、同じ病気の家族と出会いにくく、情報不足や孤立感を感じやすいという特有の課題があります。また、注射や定期的な腰椎穿刺を含む治療を生涯続けること、神経学的後遺症の有無やその将来への影響、遺伝性疾患であることによる次子や親族への心配など、長期にわたる負担もあります。本人が成長するにつれ、治療を続ける理由の理解や自己管理への移行、学校生活や就労での周囲への説明が新たな課題になります。気分の落ち込み、眠れない、意欲が出ないといった状態が続く場合は、一人で抱え込まず、主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士、難病相談支援センターなどに早めに相談してください。きょうだいへの配慮や家族全体への支援も大切です。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

先天性葉酸吸収不全の受診の目安

  • 乳児の顔色が悪い、哺乳量が減った、体重が増えないといった状態が続く場合は、早めに小児科を受診してください。
  • 治療中の方で、38℃以上の発熱、呼吸が速い・苦しそう、ぐったりしているなどの感染症を疑う症状があれば、速やかに受診してください。
  • けいれん発作が5分以上続く、または意識が戻らないうちに繰り返す場合は、救急車を要請してください。
  • 下痢や嘔吐が続いて水分がとれない、尿量が減っている場合は、脱水の危険があるため当日中に受診してください。
  • 皮下出血や鼻血が増えた、歯ぐきから出血しやすいなど出血傾向がみられる場合は、主治医に連絡してください。
  • 薬の飲み忘れ・注射の中断が続いた場合や、発達の停滞・後退に気づいた場合は、症状が軽くても主治医に相談してください。

先天性葉酸吸収不全についてのよくある質問

Q. 普通の葉酸サプリメントを多めに飲めば治療になりますか?

A. 本症では腸からの吸収経路そのものが働かないため、市販のサプリメントでは量・種類ともに不十分です。治療には、体内で直接利用できる還元型葉酸製剤を、脳脊髄液の葉酸値を確認しながら十分な量で使う必要があります。製剤の選択や量は必ず主治医の指示に従ってください。

Q. 治療はいつまで続ける必要がありますか?

A. 原因となる輸送体の働きは生涯回復しないため、治療は一生続ける必要があります。中断すると数週間から数か月で再び葉酸欠乏に陥り、貧血や神経症状が再発するおそれがあります。成長や生活の変化に応じて、投与量や投与方法は主治医と相談して見直していきます。

Q. なぜ何度も腰椎穿刺(髄液検査)が必要なのですか?

A. 本症では、血液中の葉酸が十分でも、脳を取り巻く脳脊髄液の葉酸が不足していることがあり、血液検査だけでは脳への補充が十分か判断できないためです。髄液の葉酸値をもとに投与量や投与経路を調整することで、神経の発達を守ることを目指します。検査の頻度は年齢や状態に応じて主治医が判断します。

Q. 次に生まれる子どもも同じ病気になりますか?

A. 両親がともに保因者である場合、子どもが発症する確率は妊娠ごとに25%です。病気の原因となる遺伝子変化が家族で判明していれば、生まれた直後の検査などで早期に診断し、症状が出る前に治療を始められる可能性があります。具体的な対応は遺伝カウンセリングで相談することをお勧めします。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。