複合カルボキシラーゼ欠損症

Multiple Carboxylase Deficiency

複合カルボキシラーゼ欠損症(Multiple Carboxylase Deficiency)|複合カルボキシラーゼ欠損症は、ビタミンの一種であるビオチンを必要とする複数の酵素(カルボキシラーゼ)が同時に働かなくなる、まれな先天性代謝異常症です。新生児期から乳幼児期に、哺乳不良・意識障害・けいれんを伴う重い代謝性アシドーシスや、湿疹様の皮疹・脱毛として発症します。多くはビオチンの内服で症状が劇的に改善するため、早期診断と早期治療開始が予後を大きく左右する疾患です。

複合カルボキシラーゼ欠損症の要点

複合カルボキシラーゼ欠損症は、ビオチンを必要する複数のカルボキシラーゼが同時に働かなくなる先天性代謝異常症です。重い代謝性アシドーシス、哺乳不良、けいれん、皮疹、脱毛などがみられ、多くはビオチン内服で改善し、指定難病に指定されています。

別名・略称MCD、マルチプルカルボキシラーゼ欠損症、多種カルボキシラーゼ欠損症、ホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症、HLCS欠損症、ビオチニダーゼ欠損症、ビオチン反応性多発カルボキシラーゼ欠損症
分野代謝疾患
遺伝形式常染色体潜性(劣性)遺伝
病型ホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症とビオチニダーゼ欠損症
好発年齢新生児期〜乳児期(ビオチニダーゼ欠損症は生後数か月以降が多い)
主な症状代謝性アシドーシス、哺乳不良、意識障害、けいれん、皮疹、脱毛
主な治療ビオチンの内服
受診する主な診療科小児科(小児代謝科・小児神経科)

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複合カルボキシラーゼ欠損症とは

ヒトには、補酵素としてビオチンを必要とするカルボキシラーゼが5種類あります。プロピオニルCoAカルボキシラーゼ(PCC)、3-メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ(MCC)、ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)、アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC1・ACC2)です。これらの酵素は、ビオチンが酵素タンパク(アポ酵素)に共有結合して初めて活性型(ホロ酵素)になります。複合カルボキシラーゼ欠損症(MCD)は、このビオチンの結合や再利用の仕組みが先天的に障害され、複数のカルボキシラーゼ活性が同時に低下する病態の総称です。アミノ酸(イソロイシン・バリン・メチオニン・スレオニン・ロイシン)の分解、糖新生、脂肪酸合成が同時に障害されるため、有機酸代謝異常症としての性格と、乳酸アシドーシスや皮膚・神経症状を併せ持つのが特徴です。日本では指定難病(告示番号255)に指定されています。

原因により大きく2つの病型に分けられます。①ホロカルボキシラーゼ合成酵素(HLCS)欠損症は、ビオチンをアポ酵素に結合させる酵素の異常で、典型的には新生児期〜乳児早期に急性代謝不全で発症するため、かつて「新生児型(早期発症型)」と呼ばれました。ただし発症時期には幅があり、乳児期以降に発症する例もあります。②ビオチニダーゼ欠損症は、分解されたタンパク質からビオチンを切り離して再利用する酵素の異常で、体内のビオチンが徐々に枯渇するため、生後数か月以降に皮膚・神経症状で発症することが多く「遅発型(若年型)」と呼ばれました。1970年代にビオチン投与で劇的に改善する有機酸尿症として報告され、1980年代に両病型の酵素学的な区別が確立しました。なお、食事やビオチンを含まない栄養剤・輸液、生卵白の大量摂取などによる後天性ビオチン欠乏症も類似の症状を示しますが、先天性のMCDとは区別されます。

複合カルボキシラーゼ欠損症の疫学・患者数

いずれの病型も非常にまれな疾患です。ビオチニダーゼ欠損症は欧米の新生児スクリーニングの集計で、部分欠損を含め数万出生に1人程度と報告されていますが、日本人での報告はきわめて少なく、頻度は欧米よりかなり低いと考えられています。一方、HLCS欠損症は世界的にはビオチニダーゼ欠損症よりまれとされるものの、日本ではむしろ複数の患者報告があり、日本人に比較的多くみられる遺伝子変異の存在も指摘されています。日本ではタンデムマス法による新生児マススクリーニングの一次対象疾患に「複合カルボキシラーゼ欠損症」が含まれており、主にHLCS欠損症の早期発見につながっています。いずれも常染色体潜性(劣性)遺伝で性差はありません。HLCS欠損症は多くが新生児期〜乳児期早期、ビオチニダーゼ欠損症は生後数か月〜乳幼児期の発症が典型ですが、部分欠損例では無症状のまま経過したり、思春期以降に視力障害などで気づかれる例も報告されています。

複合カルボキシラーゼ欠損症の原因・病態生理

HLCS欠損症は第21番染色体上のHLCS遺伝子、ビオチニダーゼ欠損症は第3番染色体上のBTD遺伝子の両アレルの病的変異によって生じ、いずれも常染色体潜性遺伝形式をとります。両親はそれぞれ保因者(片方のアレルのみ変異をもつ)で通常は無症状であり、両親とも保因者の場合、子が発症する確率は妊娠ごとに4分の1です。HLCS欠損症の多くは、酵素のビオチンに対する親和性が低下(Km値の上昇)するタイプの変異で、血中ビオチン濃度を薬理学的に高めることで酵素反応が回復するため、大量ビオチンに反応します。一方、残存活性がきわめて低い変異では反応が不十分なこともあります。ビオチニダーゼ欠損症は、活性が正常の10%未満の重度欠損と、10〜30%程度の部分欠損に分けられます。

カルボキシラーゼは寿命を終えると分解され、ビオチンはリジンと結合したビオシチンなどの形で放出されます。ビオチニダーゼはここからビオチンを遊離させて再利用する(ビオチンリサイクル)ほか、食事中のタンパク結合ビオチンの吸収にも関与します。この酵素が欠損すると、ビオチンが尿中に失われ体内で欠乏していくため、出生直後は症状がなく、数か月かけて症状が顕在化します。HLCS欠損症ではビオチン自体は足りていても酵素に結合できないため、出生後早期から機能障害が生じます。PCCの障害ではプロピオン酸系の代謝物(3-ヒドロキシプロピオン酸、メチルクエン酸、プロピオニルグリシン)が、MCCの障害ではロイシン系の代謝物(3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルクロトニルグリシン)が蓄積します。PCの障害は糖新生とTCA回路への補充を妨げ、乳酸アシドーシス・ケトーシス・低血糖傾向を招きます。ACCの障害は脂肪酸合成を低下させ、皮膚のバリア機能障害や脱毛の一因と考えられています。蓄積した有機酸は代謝性アシドーシスや二次性の高アンモニア血症を起こし、脳のエネルギー代謝障害と相まって意識障害・けいれん・神経障害をもたらします。感染・飢餓・高タンパク摂取などの異化亢進がきっかけとなって急性増悪しやすいのも有機酸代謝異常症に共通する特徴です。

複合カルボキシラーゼ欠損症の症状

  • 急性代謝不全(哺乳不良・嘔吐・意識障害): 特にHLCS欠損症では新生児期〜乳児期早期に哺乳不良、嘔吐、活気低下、傾眠から昏睡に至ることがあります。感染や絶食を契機に繰り返すこともあります。
  • 代謝性アシドーシス・ケトアシドーシス・乳酸アシドーシス: 有機酸と乳酸の蓄積によりアニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスを示し、深く速い呼吸(クスマウル呼吸)がみられます。高アンモニア血症や低血糖を伴うこともあります。
  • 湿疹様皮疹: 顔面(口・鼻・眼の周囲)、おむつ部、四肢屈側などに紅斑・びらん・落屑を伴う難治性の湿疹様皮疹が出ます。アトピー性皮膚炎や亜鉛欠乏による皮膚炎と誤認されることがあります。
  • 脱毛: 頭髪・眉毛・まつ毛が薄くなる、あるいは抜けるのが特徴で、ビオチン欠乏を疑う重要な手がかりです。治療により再生が期待できます。
  • けいれん: ビオチニダーゼ欠損症の初発症状として最も多いものの一つで、ミオクロニー発作や点頭てんかん様の発作を含め多様な発作型を示し、抗てんかん薬に反応しにくいことがあります。
  • 筋緊張低下・運動失調: 体がぐにゃっとして柔らかい、首のすわりが遅い、歩行がふらつくといった症状がみられます。
  • 発達の遅れ・退行: 診断・治療が遅れると、獲得した発達が失われたり、知的障害が残ることがあります。
  • 呼吸の異常(喘鳴・無呼吸・過換気): アシドーシスによる過換気のほか、吸気性喘鳴や無呼吸発作がビオチニダーゼ欠損症でみられることがあります。
  • 感音難聴: ビオチニダーゼ欠損症で比較的高頻度にみられ、治療開始が遅れると不可逆的に残ることが多い重要な合併症です。
  • 視神経萎縮・視力障害: 視神経萎縮や視野障害が生じることがあり、部分欠損例では年長になってから視力低下で気づかれる例も報告されています。結膜炎を伴うこともあります。
  • 皮膚粘膜カンジダ症・易感染性: 口腔や皮膚のカンジダ症を繰り返したり、免疫機能の低下を伴うことが報告されています。

複合カルボキシラーゼ欠損症の経過と合併症

HLCS欠損症の典型例は、出生後数時間〜数週間のうちに哺乳不良・嘔吐・多呼吸・意識障害で発症し、重度の代謝性アシドーシスや高アンモニア血症から、未治療では生命に関わる状態に進行します。急性期を乗り越えても、皮疹・脱毛・発達遅滞が続き、感染などを契機に代謝クリーゼを繰り返します。ビオチン療法が奏効すると、代謝異常は数日以内に、皮疹は数週間、脱毛は数か月で改善することが多いとされます。ビオチニダーゼ欠損症では出生時は無症状で、生後数か月ごろからけいれん、筋緊張低下、皮疹、脱毛、呼吸異常が徐々に、あるいは感染を契機に出現します。未治療では発達遅滞、難聴、視神経萎縮が進行し、昏睡や死亡に至ることもあります。部分欠損では平常時は無症状で、感染などのストレス時にのみ症状が出る例もあります。

主な合併症は、繰り返す代謝クリーゼによる脳障害(知的障害、運動障害、てんかん)、感音難聴、視神経萎縮、二次性の高アンモニア血症や低血糖による脳症です。皮膚の難治性病変には二次感染(細菌・カンジダ)を伴うことがあります。脳MRIでは、脳萎縮、白質の信号異常や髄鞘化遅延、脳室拡大などがみられることがあります。神経障害の多くは発症後の治療で改善しうる一方、すでに生じた難聴・視神経萎縮・重い脳障害は回復しにくいため、発症前または発症早期の治療開始が極めて重要です。

複合カルボキシラーゼ欠損症の診断・診断基準

診断は、①新生児マススクリーニングでの異常、または②代謝性アシドーシス・けいれん・皮疹・脱毛などの臨床症状を手がかりに始まります。まず血液ガス、血糖、アンモニア、乳酸、ケトン体などの一般検査で代謝異常を把握し、尿中有機酸分析と血中アシルカルニチン分析で複数のカルボキシラーゼ障害を示すパターンを確認します。次に血清ビオチニダーゼ活性を測定して2病型を区別し、必要に応じてリンパ球・線維芽細胞でのカルボキシラーゼ活性測定や遺伝子解析で確定します。後天性ビオチン欠乏の除外も重要です。日本では日本先天代謝異常学会による診療ガイドラインが作成されており、指定難病の認定もこれに準じた診断基準に基づきます。急性期には確定診断を待たずにビオチン投与を開始することが推奨される状況も多く、検体は投与前に採取・保存しておくことが望まれます。

  • 新生児マススクリーニング(タンデムマス法): 乾燥ろ紙血のC5-OH(3-ヒドロキシイソバレリルカルニチン)上昇が指標で、C3上昇を伴うこともあります。C5-OH上昇はMCC欠損症など他疾患でもみられるため精密検査が必要で、ビオチニダーゼ欠損症では新生児期に異常が出ないことがあります。
  • 尿中有機酸分析(GC/MS): 3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルクロトニルグリシン、3-ヒドロキシプロピオン酸、メチルクエン酸、プロピオニルグリシン、チグリルグリシン、乳酸などの同時増加が特徴的で、診断の中心となる検査です。
  • 血中アシルカルニチン分析: C5-OHの上昇(C3の上昇を伴うことあり)を確認します。遊離カルニチンが二次的に低下していることがあります。
  • 一般血液検査・血液ガス: アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシス、乳酸・ケトン体の上昇、高アンモニア血症、低血糖の有無を評価し、重症度判定と急性期治療の指標とします。
  • 血清ビオチニダーゼ活性: ビオチニダーゼ欠損症では低下(重度欠損は正常の10%未満、部分欠損は10〜30%程度)し、HLCS欠損症では正常です。病型鑑別に必須の検査です。
  • カルボキシラーゼ活性測定: 末梢血リンパ球や培養皮膚線維芽細胞でPCC・MCC・PCの活性が同時に低下し、HLCS欠損症では高濃度ビオチン添加で活性が改善することが確認されます。実施できる施設は限られます。
  • 遺伝子解析: HLCS遺伝子またはBTD遺伝子の両アレルに病的変異を同定することで確定診断となり、家族の保因者診断や遺伝カウンセリングにも役立ちます。
  • 血中・尿中ビオチン測定: 後天性ビオチン欠乏症ではビオチン濃度が低下し、HLCS欠損症では通常正常です。栄養歴と合わせて先天性と後天性の区別に用います。
  • 聴力・眼科検査、頭部MRI、脳波: 聴性脳幹反応(ABR)、眼底・視力検査、MRI、脳波で合併症の有無と程度を評価し、治療効果判定や長期フォローの基準とします。

複合カルボキシラーゼ欠損症と鑑別すべき疾患

  • 後天性ビオチン欠乏症: ビオチンを含まない栄養剤・長期中心静脈栄養、生卵白の大量摂取、一部の抗てんかん薬の長期使用などの背景があり、ビオチニダーゼ活性は正常、血中ビオチンが低値である点で区別します。
  • プロピオン酸血症・メチルマロン酸血症: 同様に代謝性アシドーシスや高アンモニア血症を示しますが、尿中有機酸でMCC系代謝物(3-ヒドロキシイソ吉草酸など)の増加を伴わない点が異なります。
  • 3-メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ(MCC)欠損症・イソ吉草酸血症: C5-OHやC5の上昇で引っかかりますが、プロピオン酸系代謝物や乳酸の増加を伴わず、ビオチンに反応しないことで区別します。
  • ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症・ミトコンドリア病: 乳酸アシドーシスと神経症状が共通しますが、有機酸分析で複数カルボキシラーゼ障害のパターンを示さない点が鑑別点です。
  • 腸性肢端皮膚炎(亜鉛欠乏症)・アトピー性皮膚炎: 開口部周囲の皮疹や脱毛が類似しますが、血清亜鉛値や代謝検査で異常がない点から区別し、難治例では本症を念頭に有機酸分析を行います。
  • 敗血症・乳児てんかん性脳症: 新生児の意識障害や乳児のけいれんの原因として頻度が高いものの、代謝性アシドーシスや皮膚症状を伴う場合には代謝異常症の検索が必要です。

複合カルボキシラーゼ欠損症の治療

治療の柱は生涯にわたるビオチンの内服です。多くの患者で、ビオチン投与により代謝異常・皮膚症状・神経症状が速やかに改善します。急性期には、ビオチン投与と並行して、異化を止めるための十分なブドウ糖輸液、アシドーシスや高アンモニア血症の補正などの集中治療を行います。慢性期は、ビオチン量を有機酸分析などの指標で調整しつつ、感染時などの異化亢進への備え(シックデイ対策)を整えます。ビオチン反応性が不十分なHLCS欠損症では、軽度のタンパク制限やカルニチン補充などを組み合わせることがあります。投与量や治療内容は病型・重症度・反応性により大きく異なるため、先天代謝異常症の専門医のもとで個別に決定されます。

  • ビオチン補充療法(ビオチニダーゼ欠損症): 一般に1日5〜10mg程度の経口ビオチンで、けいれん・皮疹・脱毛・代謝異常は改善するとされます。部分欠損例でも、ストレス時の発症予防のために少量投与が検討されます。
  • 大量ビオチン療法(HLCS欠損症): 酵素のビオチン親和性低下を補うため、1日10〜40mg程度、症例によってはさらに多い量が必要になることがあります。反応性には個人差があり、一部には部分的にしか反応しない例もあります。
  • 急性期の集中治療: 絶食とし、十分量のブドウ糖輸液でエネルギーを補給して異化を抑制し、代謝性アシドーシスの補正、低血糖の是正を行います。重度の高アンモニア血症では薬物療法や血液浄化療法が必要になることがあります。
  • L-カルニチン補充: 有機酸の排泄を促し二次性カルニチン欠乏を補う目的で、特に急性期やビオチン反応性が不十分な例で用いられることがあります。
  • 食事療法: ビオチンによく反応する例では通常、厳格なタンパク制限は不要です。反応が不十分なHLCS欠損症では、専門医・管理栄養士の指導のもとで軽度のタンパク制限を行うことがあります。
  • シックデイ対策: 発熱・嘔吐・下痢・食欲不振時は異化亢進で増悪しやすいため、糖分の多い飲料での補給や早期受診、必要時のブドウ糖輸液など、あらかじめ主治医と対応手順を決めておきます。
  • 抗てんかん薬・皮膚ケア: けいれんの多くはビオチン療法で改善しますが、残存する場合は抗てんかん薬を併用します。皮膚の二次感染には外用薬などで対応します。
  • 難聴・視覚障害への対応: 難聴が残った場合は補聴器や人工内耳、療育的支援を検討し、視覚障害には眼科的評価とロービジョンケアを行います。
  • 発達支援・リハビリテーション: 神経学的後遺症がある場合は、理学・作業・言語療法や療育を早期から組み合わせ、発達を支援します。

複合カルボキシラーゼ欠損症の予後・長期フォロー

ビオチニダーゼ欠損症は、症状が出る前、または発症早期にビオチン療法を始めれば、ほぼ正常な発達と生活が期待できる疾患です。一方、診断が遅れ、すでに生じた感音難聴、視神経萎縮、重い発達障害は治療しても回復しにくいことが知られています。HLCS欠損症も多くはビオチン大量療法によく反応し、早期に治療を開始した例では良好な発達が得られることが多いとされます。ただし、新生児期の重篤な代謝クリーゼによる脳障害が残る例や、ビオチン反応性が不十分で代謝異常が持続する例では、知的障害や運動障害を伴うことがあります。いずれの病型でも、治療を自己判断で中断すると再発し、重篤な状態になりうる点に注意が必要です。

治療は生涯継続が原則で、定期的な通院により、身体計測、発達評価、尿中有機酸・血中アシルカルニチンなどの代謝指標、必要に応じた血中ビオチン濃度の確認を行い、ビオチン量を調整します。ビオチニダーゼ欠損症では聴力検査と眼科検査を定期的に行うことが推奨されます。成人期への移行(トランジション)に際しては、小児科から成人診療科への引き継ぎ、服薬の自己管理、妊娠・出産時の対応などを計画的に準備することが大切です。また、大量のビオチンは、ストレプトアビジン-ビオチン系を用いる血液検査(甲状腺ホルモン、心筋トロポニン、各種ホルモン値など)の結果を誤らせることがあるため、他の医療機関を受診する際には必ずビオチン内服中であることを伝えるようにします。

複合カルボキシラーゼ欠損症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

毎日のビオチン内服を確実に続けることが最も重要です。ビオチンは水溶性ビタミンで、過剰症の報告はほとんどありませんが、量の変更は必ず主治医と相談して行います。発熱や胃腸炎で食事・服薬ができないときは代謝が悪化しやすいため、早めに受診し、病名と治療内容、緊急時の対応を記した緊急カード(連絡カード)を携帯すると、救急外来でスムーズな対応が受けられます。予防接種は通常、主治医と相談のうえで計画的に受けることが勧められ、感染予防にもつながります。保育所・幼稚園・学校には、服薬や体調不良時の対応を共有しておきます。常染色体潜性遺伝のため、次子が同じ病気をもつ確率は4分の1であり、きょうだいの早期検査や次子の出生前後の対応について、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることができます。きょうだいが無症状でも、ビオチニダーゼ活性測定や遺伝子検査で早期に診断し治療を始められる場合があります。

利用できる制度・相談窓口

複合カルボキシラーゼ欠損症は指定難病であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、または軽症でも高額な医療を継続する必要がある場合には、難病法に基づく医療費助成を受けられます。申請は都道府県・指定都市の窓口(保健所など)で行い、難病指定医の臨床調査個人票が必要です。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象となりえ、自己負担の軽減に加えて、日常生活用具の給付や自立支援事業を利用できる場合があります。乳幼児医療費助成など自治体独自の制度も併用できることがあります。難聴、視覚障害、知的障害、肢体不自由などが残った場合は、身体障害者手帳や療育手帳の交付、障害児福祉サービス(児童発達支援、放課後等デイサービスなど)、特別児童扶養手当などの対象となる可能性があり、成人後に障害が残る場合は障害年金の対象となることもあります。相談窓口としては、主治医や病院の医療ソーシャルワーカー、保健所の保健師、各都道府県の難病相談支援センター、小児慢性特定疾病の自立支援員、先天代謝異常症の患者会などがあります。

複合カルボキシラーゼ欠損症に伴う心のケア・心理社会的支援

生まれて間もないわが子が重い状態で入院したり、新生児マススクリーニングで異常を告げられたりすることは、家族にとって大きな衝撃であり、不安、自責感、抑うつ、睡眠障害などを生じることがあります。遺伝性疾患であることから「自分のせいでは」と悩んだり、家族内での受け止め方の違いに苦しむ方も少なくありません。また、ビオチン内服で元気に過ごせていても、感染のたびに悪化するのではないかという緊張が続いたり、一生続く服薬への負担感、周囲に病気を説明することの難しさ、難聴や発達の問題が残った場合の将来への不安など、この疾患に特有の心理社会的課題があります。本人が成長するにつれて、病気の理解や服薬の自己管理、就学・就労、結婚・妊娠に関する悩みも生じます。こうした気持ちは自然な反応であり、一人で抱え込まず、主治医、看護師、臨床心理士、医療ソーシャルワーカー、遺伝カウンセラーなどに早めに相談することが大切です。同じ病気や先天代謝異常症をもつ家族との交流が支えになることもあります。気分の落ち込みや不安が強く日常生活に支障がある場合は、心療内科や精神科での相談も検討してください。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

複合カルボキシラーゼ欠損症の受診の目安

  • 新生児マススクリーニングで精密検査が必要と連絡された場合は、指示された医療機関を速やかに受診してください。
  • 赤ちゃんの哺乳力が落ちた、何度も吐く、ぐったりして反応が鈍い、呼吸が速く深いといった場合は、すぐに救急受診してください。
  • けいれんが起きた場合、特に5分以上続く、意識が戻らない、繰り返す場合は救急車を要請してください。
  • 治療中の方が発熱・嘔吐・下痢で食事や薬がとれないときは、症状が軽くても早めに主治医に連絡し受診してください。
  • 難治性の湿疹と脱毛が続く、首のすわりなど発達が遅い、音への反応が鈍い・見え方がおかしいと感じる場合は、小児科で相談してください。

複合カルボキシラーゼ欠損症についてのよくある質問

Q. ビオチンはサプリメントで代用できますか?

A. 本症の治療に必要なビオチン量は一般的なサプリメントよりはるかに多く、病型や反応性によって適量が異なります。医薬品として処方されるビオチンを、主治医の指示どおりに服用することが基本です。自己判断で製品や量を変えたり中止したりしないでください。

Q. ビオチンは一生飲み続ける必要がありますか?

A. 原則として生涯の継続が必要です。症状がなくなっても、それは薬が効いている状態であり、中止すると数週間から数か月で再発し、聴力や視力に不可逆的な障害が出るおそれがあります。量の調整は定期的な検査結果に基づいて主治医が行います。

Q. 日本の新生児マススクリーニングでビオチニダーゼ欠損症も見つかりますか?

A. 日本のタンデムマス法によるスクリーニングで主に発見されるのはHLCS欠損症で、ビオチニダーゼ欠損症は全国共通の公費スクリーニングの対象には含まれていません。また新生児期には指標の異常が出にくいこともあります。スクリーニングが正常でも、皮疹・脱毛・けいれんなどがあれば検査を受けることが大切です。

Q. 次の子どもも同じ病気になりますか?

A. 常染色体潜性遺伝のため、両親がともに保因者の場合、子どもごとに4分の1の確率で発症します。原因遺伝子変異が判明していれば、きょうだいの検査や次子の出生直後からの対応を計画できます。具体的には遺伝カウンセリングで相談してください。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。