強直性脊椎炎
Ankylosing Spondylitis
強直性脊椎炎(Ankylosing Spondylitis)|強直性脊椎炎(AS)は、仙腸関節や脊椎、腱・靱帯が骨に付着する部位(付着部)に慢性の炎症が起こり、進行すると脊椎の可動性が失われるリウマチ性疾患です。主に10〜30歳代の若い世代に発症し、長く続く腰背部痛やこわばりのため、就学・就労・日常生活に長期間影響が及びます。日本では欧米に比べて患者数が少なく、診断まで数年以上かかることが少なくありません。近年は生物学的製剤などの登場により、炎症を十分に抑え、機能を保ちやすくなってきています。
強直性脊椎炎の要点
強直性脊椎炎は、仙腸関節や脊椎、腱・靱帯の付着部に慢性炎症が起こり、進行すると脊椎の動きが失われる脊椎関節炎の代表的な病型です。10〜30歳代の若い世代に多く、長引く腰背部痛やこわばりが主な症状で、日本では指定難病(告示番号271)に指定されています。
| 別名・略称 | AS、ベヒテレフ病、Bechterew病、Marie-Strümpell病、r-axSpA |
|---|---|
| 分野 | 骨・関節・結合組織疾患 |
| 好発年齢 | 主に10〜30歳代 |
| 主な症状 | 長く続く腰背部痛、こわばり、脊椎の可動性低下 |
| 主な検査 | X線・MRIによる仙腸関節炎の評価、HLA-B27検査 |
| 主な治療 | 薬物療法(生物学的製剤など)と運動療法 |
| 関節外症状 | ぶどう膜炎、炎症性腸疾患、乾癬など |
| 受診する主な診療科 | リウマチ科・膠原病内科、整形外科 |
強直性脊椎炎とは
強直性脊椎炎は、脊椎関節炎(spondyloarthritis:SpA)と総称される疾患群の代表的な病型です。炎症の主な場は、関節を包む滑膜ではなく、腱・靱帯・関節包が骨に付着する「付着部(enthesis)」と、その直下の骨髄です。これは関節リウマチとの大きな違いです。典型例では、炎症はまず仙腸関節(骨盤の後方で背骨と腸骨をつなぐ関節)から始まり、腰椎、胸椎、頸椎へと上方に広がります。炎症が繰り返されると、骨のびらんの後に修復反応として新しい骨ができます。椎体の縁から骨の橋(靱帯骨棘、syndesmophyte)が伸び、椎体どうしがつながります。進行例では、X線で竹の節のように見える「竹様脊椎(bamboo spine)」となり、脊椎の動きが失われます。股関節や肩関節などの体幹に近い大関節、下肢の末梢関節、アキレス腱付着部などにも病変が起こることがあります。さらに、ぶどう膜炎、炎症性腸疾患、乾癬、心血管病変などの関節外症状を伴う全身性疾患です。日本では指定難病(告示番号271)に指定されています。
分類の考え方は、この30〜40年で大きく変わりました。古典的には、1984年の改訂ニューヨーク基準により、X線で明らかな仙腸関節炎が確認された症例をASと定義してきました。しかし、X線変化が出るまでには発症から数年〜10年程度かかることがあり、早期診断の妨げになっていました。2009年に国際脊椎関節炎評価学会(ASAS)が体軸性脊椎関節炎(axial SpA)の分類基準を提唱し、MRIでの活動性仙腸関節炎やHLA-B27を組み込みました。これにより、X線変化がある「X線基準を満たす体軸性SpA(r-axSpA)」=ASと、X線変化がまだない「X線基準を満たさない体軸性SpA(nr-axSpA)」を、一連の病態として捉えるようになっています。脊椎関節炎には、ほかに乾癬性関節炎、炎症性腸疾患に伴う関節炎、反応性関節炎、小児の付着部炎関連関節炎などが含まれます。これらは臨床像や遺伝的背景が互いに重なり合っています。なお、日本の指定難病としての「強直性脊椎炎」の認定は、X線上の仙腸関節炎を要件とする改訂ニューヨーク基準に準拠した診断基準に基づいて行われます。
強直性脊椎炎の疫学・患者数
欧米白人での有病率は0.1〜0.5%程度と報告されています。一方、日本人では有病率がその数十分の一程度と推定され、まれな疾患です。この差は、発症に強く関わるHLA-B27の保有率の違いでおおむね説明されています。HLA-B27は欧米白人では約8%前後の人が持つのに対し、日本人では1%に満たないとされます。一方、日本人のAS患者ではHLA-B27陽性率が高く(8〜9割程度とする報告が多い)、陽性の場合の疾患との結びつきは欧米と同様に強いと考えられています。発症年齢は10歳代後半〜30歳代が中心で、45歳以降の新規発症はまれです。性別では男性に多く(数倍程度)、女性例では症状が非典型的で、X線進行が比較的緩やかな傾向があるため、診断が遅れやすいことが指摘されています。日本では疾患の認知度が低いこともあり、症状が出てから確定診断まで平均で数年以上かかるとする調査結果があります。家族内発症もみられ、HLA-B27陽性の患者の第一度近親者は、一般集団より発症リスクが高いとされます。
強直性脊椎炎の原因・病態生理
ASは単一遺伝子病ではなく、複数の遺伝要因と環境要因が組み合わさって発症する多因子疾患です。双生児研究では遺伝の寄与が非常に大きいと推定されています。最も強い遺伝因子は主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIに属するHLA-B27です。ただし、HLA-B27陽性者のうち実際に発症するのは一部(数%程度)にすぎません。陽性であれば必ず発症するわけではなく、陰性でも発症することがあります。ゲノムワイド関連解析では、HLA-B27以外にも、抗原ペプチドの切り出しに関わるERAP1、IL-23受容体(IL23R)をはじめとするIL-23/IL-17経路の遺伝子など、多数の感受性遺伝子座が報告されています。ERAP1の多型はHLA-B27陽性者でのみ発症リスクと関連することが知られ、HLA-B27による抗原提示の異常が病態に関わることを示唆しています。
HLA-B27がどのように発症を引き起こすかについては、主に三つの仮説があります。①特定のペプチドを提示してT細胞を活性化する「関節炎惹起性ペプチド仮説」、②HLA-B27分子が小胞体内で折りたたまれにくく、小胞体ストレスや異常応答(UPR)を起こしてIL-23産生を促すという「ミスフォールディング仮説」、③細胞表面に現れるHLA-B27の重鎖二量体を、NK細胞やT細胞の受容体(KIR3DL2など)が認識して炎症性細胞を活性化するという仮説です。これらは互いに排他的ではないと考えられています。また、腸内細菌叢の乱れや腸粘膜の潜在的な炎症が関与することも注目されています。AS患者の一部には肉眼的に明らかでない腸炎がみられ、腸と関節をつなぐ免疫経路の存在が想定されています。付着部では、機械的ストレスが引き金となって局所に常在する免疫細胞(IL-23受容体陽性のT細胞や自然リンパ球など)が活性化します。その結果、TNF-α、IL-17A/Fなどの炎症性サイトカインが産生され、骨炎・付着部炎が生じます。これらのサイトカインを標的とする薬剤が有効であることは、この経路が病態の中心であることを裏づけています。
特徴的なのは、炎症による骨破壊と、それに続く異所性の骨新生(強直)が併存することです。MRIでは、まず椎体角や仙腸関節に骨髄浮腫(骨炎)が現れます。炎症が治まった後には脂肪変性(脂肪化生)が起こり、その部位から靱帯骨棘が形成されやすいことが示されています。骨形成にはWntシグナル経路やBMPなどの骨形成因子が関わると考えられ、Wnt阻害因子(DKK-1、スクレロスチンなど)の異常も報告されています。このため、炎症を早期から十分に抑えることが構造的進行の抑制につながる可能性が考えられています。一方で、強直が進んだ椎体はかえって骨量が減少します。骨梁が細くなるため、強直した脊椎は「硬いが脆い」状態となり、骨折しやすくなります。
強直性脊椎炎の症状
- 炎症性腰背部痛: 40歳未満で気づかないうちに始まり、3か月以上続く腰背部痛が典型です。安静で改善せず運動で軽くなり、夜間〜明け方に痛みで目が覚めるのが特徴で、機械的な腰痛とは性質が異なります。
- 朝のこわばり: 起床時に背中や腰が固まったように動かしにくく、30分以上続くことが多いです。体を動かすと徐々に和らぎます。
- 殿部痛(仙腸関節痛): 仙腸関節炎による殿部の深い痛みで、左右交互に出る「交代性殿部痛」は本症を疑う手がかりになります。坐骨神経痛と誤認されることもあります。
- 付着部炎: アキレス腱付着部や足底腱膜(かかと)、膝蓋腱、骨盤周囲などの腱付着部に痛みや腫れが生じます。歩行時のかかとの痛みとして自覚されることが多いです。
- 末梢関節炎: 股関節・肩関節などの体幹に近い大関節や、膝・足首など下肢の関節に、左右非対称に起こりやすい傾向があります。股関節病変は機能障害の大きな原因になります。
- 指趾炎: 手足の指全体がソーセージのように腫れる症状で、脊椎関節炎に特徴的です。乾癬性関節炎の合併時にとくにみられます。
- 胸痛・胸郭の動きの低下: 肋椎関節や胸肋関節の炎症により、深呼吸や咳で胸が痛み、進行すると胸郭の広がり(胸郭拡張)が小さくなります。
- 脊椎可動域の低下と姿勢変化: 進行すると前屈・後屈・側屈・回旋が制限され、胸椎が丸くなる後弯変形や首の前傾で、前方を見ることや振り返る動作が困難になります。
- 急性前部ぶどう膜炎: 関節外症状で最も多く、片眼の急な充血・眼痛・まぶしさ・かすみで発症し、再発しやすいのが特徴です。放置すると視力障害につながるため、早期の眼科治療が必要です。
- 全身倦怠感: 慢性炎症と睡眠障害(夜間痛)により強い疲労感を訴える患者が多く、QOL低下の大きな要因です。
- 腸症状・皮膚症状: クローン病や潰瘍性大腸炎による腹痛・下痢・血便、乾癬による皮疹を合併することがあり、これらは治療薬の選択にも影響します。
強直性脊椎炎の経過と合併症
経過は個人差が大きいです。多くは慢性に経過し、炎症の強い時期と落ち着いた時期を繰り返します。典型的な自然歴は次のとおりです。発症初期は腰背部痛やこわばりが主体で、X線では異常がはっきりしないことが多く(nr-axSpAの段階)、MRIで仙腸関節の骨髄浮腫が捉えられます。数年〜十数年の経過で、X線上の仙腸関節炎(関節面のびらん・硬化・関節裂隙の狭小化)が明らかになり、やがて仙腸関節は骨性に癒合します。脊椎では腰椎から胸椎・頸椎へと靱帯骨棘が広がりますが、全例が竹様脊椎に至るわけではありません。強直が一部にとどまる患者も多くいます。構造的進行が速くなりやすい因子として、男性、喫煙、CRP高値の持続、すでに存在する靱帯骨棘、股関節病変、若年発症などが知られています。強直が完成すると炎症性の痛み自体は軽くなることがありますが、可動域の喪失による機能障害が残ります。
合併症として最も重要なのは脊椎骨折です。強直した脊椎は長い一本の骨のようにてこの原理で力がかかり、骨粗鬆症も伴うため、転倒程度の軽い外傷でも骨折しやすくなります。とくに頸胸椎移行部の骨折は不安定になりやすく、脊髄損傷による麻痺に至ることがあり、X線では見逃されやすい点にも注意が必要です。そのほか、次のような合併症があります。骨粗鬆症(早期から骨量が減少しうる)、急性前部ぶどう膜炎(経過中に患者の3割前後が経験するとされる)、炎症性腸疾患、乾癬。心血管系では、大動脈弁閉鎖不全、上行大動脈炎、房室ブロックなどの刺激伝導障害がみられ、心血管疾患のリスク上昇も報告されています。呼吸器系では、胸郭の可動性低下による拘束性換気障害や、まれに肺尖部の線維性病変がみられます。腎臓では、続発性(AA)アミロイドーシスやIgA腎症の合併、NSAIDsによる腎障害が問題になります。進行例ではまれに、硬膜拡張による馬尾症候群が報告されています。
強直性脊椎炎の診断・診断基準
診断は、臨床症状、画像所見、検査所見を組み合わせて総合的に行います。単独で確定できる検査はありません。まず、腰背部痛が「炎症性腰背部痛」の特徴を持つかを問診で確認します。あわせて、付着部炎・末梢関節炎・ぶどう膜炎・炎症性腸疾患・乾癬の有無、家族歴、NSAIDsへの反応性などを評価します。次に、骨盤(仙腸関節)のX線撮影を行います。X線で判定が難しい早期例では、仙腸関節のMRI(STIR像など)で活動性炎症(骨髄浮腫)を確認します。血液検査ではCRP・赤沈などの炎症反応を測定し、必要に応じてHLA-B27を調べます。関節リウマチなどを除外するため、リウマトイド因子や抗CCP抗体も測定します。日本の指定難病の診断では、改訂ニューヨーク基準に準じて、臨床症状と、X線上の仙腸関節炎(両側2度以上または片側3度以上)を満たし、類似疾患を除外することが求められます。医療費助成の対象となるかは、さらに疾患活動性や機能障害に基づく重症度分類で判定されます。脊椎関節炎の診療経験が豊富なリウマチ専門医による評価が勧められます。
- 仙腸関節・脊椎単純X線: 仙腸関節の関節面不整・びらん・硬化・裂隙狭小化・癒合を0〜4度で評価し、改訂ニューヨーク基準の画像要件を判定します。脊椎では椎体の角が四角くなる変化(squaring)、靱帯骨棘、竹様脊椎などを確認し、mSASSSなどで構造的進行を追跡します。
- 仙腸関節MRI: STIR像やT1強調像で、軟骨下の骨髄浮腫(活動性炎症)や脂肪化生・びらんを検出し、X線変化が出る前の早期診断に有用です。ただし、骨髄浮腫は健常者の運動負荷や産後、硬化性腸骨骨炎などでもみられるため、読影には専門性が求められます。
- CT: 仙腸関節のびらんや強直をX線より鋭敏に描出できます。外傷後に脊椎骨折が疑われる場合には、X線で異常がなくても積極的にCTやMRIを行うことが重要です。
- 炎症反応(CRP・赤沈): 活動期に上昇することが多いものの、正常値の患者も少なくないため、正常でも本症を否定できません。CRPは疾患活動性の指標(ASDAS)の算出や治療効果判定に用いられます。
- HLA-B27: 日本人AS患者の多くで陽性であり、一般人口での保有率が低い日本では、陽性であることの診断的価値が比較的高い検査です。ただし陽性のみで診断はできず、陰性でも本症は否定されません。保険診療上の扱いや実施できる施設については主治医に確認が必要です。
- リウマトイド因子・抗CCP抗体: 本症では通常陰性です(血清反応陰性)。陽性の場合は関節リウマチなど他疾患の可能性を考えます。
- 脊椎・胸郭可動域評価: ショーバー試験(腰椎前屈)、胸郭拡張、後頭-壁間距離、指-床間距離などで可動性を評価します。これらを組み合わせた指標(BASMI)は、経過観察や機能評価に用いられます。
- 疾患活動性・機能評価(BASDAI・ASDAS・BASFI): BASDAIは、疲労感・脊椎痛・関節痛・付着部痛・朝のこわばりを患者自身が評価する指標です。ASDASは患者評価とCRPを組み合わせた指標で、BASFIは日常生活動作の機能を評価します。いずれも治療強化の判断や指定難病の重症度評価の参考とされます。
- 関節外病変の評価: 眼科診察(ぶどう膜炎)、心電図・心エコー(大動脈弁閉鎖不全・伝導障害)、骨密度測定、必要に応じて消化管内視鏡(炎症性腸疾患)を行い、全身の合併症を把握します。
強直性脊椎炎と鑑別すべき疾患
- 非特異的腰痛・腰椎椎間板ヘルニア・変形性脊椎症: 動作で悪化し安静で軽快する機械的腰痛であり、炎症反応やMRIでの仙腸関節骨髄浮腫を欠く点で区別します。
- びまん性特発性骨増殖症(DISH): 中高年に多く、前縦靱帯の連続した骨化が主体で、仙腸関節の関節面のびらんや癒合がなく炎症反応も通常は正常である点が異なります。
- 掌蹠膿疱症性骨関節炎・SAPHO症候群: 日本で比較的多く、前胸壁(胸鎖・胸肋関節)の骨肥厚や掌蹠膿疱症などの皮膚病変を伴い、仙腸関節炎はあっても片側性・非典型的なことが多い点が手がかりになります。
- 乾癬性関節炎・炎症性腸疾患関連関節炎: 同じ脊椎関節炎群に属し、乾癬の皮疹や腸症状の有無で区別します。体軸病変は非対称で、HLA-B27陽性率がやや低い傾向があります。
- 硬化性腸骨骨炎: 経産婦に多く、腸骨側に限局する三角形の骨硬化を示し、関節面のびらんや関節裂隙の変化を伴わない点でASと区別します。
- 関節リウマチ・感染性(化膿性・結核性)仙腸関節炎: 関節リウマチは手指小関節に対称性の滑膜炎を起こし、自己抗体が陽性になることが多い点が異なります。感染性仙腸関節炎は、片側性・急性経過・発熱を伴う場合に疑い、画像検査や穿刺などで原因菌を検索します。
強直性脊椎炎の治療
治療の目標は、症状と炎症を抑えて、脊椎・関節の機能と姿勢を保ち、構造的進行を防ぎ、就労・社会参加を含む長期的なQOLを維持することです。国際的な推奨(ASAS-EULARなど)や日本の診療ガイドラインでは、次のような段階的な治療が基本とされています。まず、運動療法を中心とした非薬物療法とNSAIDsから始めます。NSAIDsを複数種類、十分量で試しても疾患活動性が高い状態(ASDASやBASDAIで評価)が続く場合には、生物学的製剤(TNF阻害薬・IL-17阻害薬)やJAK阻害薬への切り替えや追加を検討します。関節リウマチで中心となるメトトレキサートなどの従来型抗リウマチ薬は、体軸病変への有効性が示されていません。全身性ステロイドの長期投与も推奨されません。疾患活動性の目標を定めて定期的に評価し、治療を調整する「目標達成に向けた治療(Treat to Target)」の考え方が重視されています。治療方針は、病変の部位、関節外症状(ぶどう膜炎・炎症性腸疾患・乾癬)、合併症、妊娠の希望などを踏まえて個別に決める必要があるため、必ず主治医・専門医と相談してください。
- 運動療法・リハビリテーション: 脊椎の伸展・回旋ストレッチ、深呼吸による胸郭拡張訓練、姿勢保持訓練、有酸素運動を毎日継続することが、薬物療法と並ぶ治療の柱です。理学療法士の指導下での運動や水中運動は、自宅での自主訓練よりも効果が高いとする報告があります。
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): 第一選択薬で、炎症性腰背部痛に対する効果が高く、よく効くこと自体が本症を示唆する所見になります。症状が強い時期には継続的な使用が検討されますが、消化管障害・腎障害・心血管リスクに注意し、必要に応じて胃粘膜保護薬を併用します。
- TNF阻害薬: インフリキシマブ、アダリムマブなどが日本で本症に対して承認されています。NSAIDs抵抗性の体軸病変に高い有効性を示し、ぶどう膜炎や炎症性腸疾患を合併する場合には、モノクローナル抗体製剤が選ばれることが多いです。
- IL-17阻害薬: セクキヌマブ、イキセキズマブなどが本症に対して承認されており、体軸病変・付着部炎に有効です。乾癬の合併例でとくに有用ですが、炎症性腸疾患を悪化させる可能性があるため、合併例では慎重に判断されます。
- JAK阻害薬: ウパダシチニブなどの経口薬が本症に対して承認されています。帯状疱疹などの感染症、血栓症、心血管リスクなどを評価したうえで適応が判断されます。生物学的製剤やJAK阻害薬の開始前には、結核・B型肝炎のスクリーニングとワクチン接種状況の確認が必須です。
- 従来型抗リウマチ薬・局所療法: サラゾスルファピリジンは末梢関節炎に一定の効果が期待されますが、体軸病変には効果が乏しいとされます。炎症の強い末梢関節や付着部には、ステロイドの局所注射が行われることがあります(アキレス腱内への注射は断裂のリスクがあり避けるべきとされます)。
- ぶどう膜炎の治療: 眼科でステロイド点眼と散瞳薬による治療を速やかに行い、虹彩の癒着や続発性緑内障を防ぎます。再発を繰り返す場合には、TNF阻害薬(モノクローナル抗体)により再発頻度が低下することが報告されています。
- 外科的治療: 股関節の高度な破壊には人工股関節置換術が行われ、痛みと歩行機能の改善が期待できます。高度な後弯で前方を見られない場合には脊椎骨切り術が検討されますが、侵襲が大きいため専門施設で慎重に適応を判断します。骨折時には強直脊椎に特有の固定術が必要になります。
- 骨粗鬆症・合併症管理と禁煙: 骨密度に応じた骨粗鬆症治療、心血管リスク因子の管理を行います。禁煙は、疾患活動性の低下やX線進行の抑制、呼吸機能の維持のために強く勧められます。
強直性脊椎炎の予後・長期フォロー
ASそのものが生命を直接脅かすことは多くありません。適切な治療とセルフケアにより、多くの患者が就労や家庭生活を続けています。ただし、大規模な疫学研究では、一般人口と比べて死亡率がやや高いことが報告されています。その要因として、心血管疾患、脊椎骨折・脊髄損傷、感染症、アミロイドーシスなどの腎障害が挙げられます。機能予後は、発症早期の股関節病変、持続する高い炎症、喫煙、運動習慣の欠如などで不良になりやすい一方、運動療法の継続と炎症の十分な抑制で改善が期待できます。生物学的製剤の普及以降、症状や機能、QOLは大きく改善しました。長期の使用で構造的進行が緩やかになる可能性を示す報告もあります。しかし、すでに完成した強直を元に戻すことは困難なため、早期診断と早期からの炎症制御が重要です。
長期フォローアップでは、疾患活動性(BASDAI・ASDAS・CRP)と身体機能(BASFI・BASMI)を定期的に評価し、必要に応じて治療を調整します。脊椎・仙腸関節のX線は、構造的進行の確認のため数年ごとなど一定間隔で撮影されます。並行して、次の項目を継続的に確認します。薬剤の副作用(NSAIDsによる腎機能障害・消化管障害、免疫抑制治療に伴う感染症)、骨密度、血圧・脂質などの心血管リスク、心電図・心エコー、眼症状、腸症状、皮膚症状です。生物学的製剤で寛解に近い状態が得られた場合、減量や投与間隔の延長が検討されることもあります。ただし、中止すると再燃することが多いため、主治医と相談して慎重に判断します。妊娠を希望する場合は、薬剤の妊娠中の安全性を考慮した計画が必要になるため、早めに主治医に伝えることが大切です。
強直性脊椎炎の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
日常生活では、毎日のストレッチと運動の習慣化が最も重要なセルフケアです。入浴後など体が温まった時間に、背中を反らす・ひねる、深呼吸で胸を広げる、うつ伏せの姿勢をとるなどの運動を続けましょう。水泳やウォーキングなどの有酸素運動も勧められます。一方、脊椎が強直している場合は、首や背中に強い衝撃や過度なひねりが加わるコンタクトスポーツや、転倒しやすい活動は避けた方がよいでしょう。姿勢にも気を配り、デスクワークでは画面の高さを調整してこまめに休憩をとります。寝具は硬めのマットレスと低めの枕が勧められることが多いです。強直が進んだ方は転倒予防(手すり、滑りにくい履物、夜間照明、飲酒量の管理)が骨折予防に直結します。軽い転倒や追突事故の後でも、首や背中に新たな痛みが出た場合は必ず受診し、医療者に本症であることを伝えてください。禁煙は強く勧められます。生物学的製剤などを使用中は感染予防に努め、ワクチン接種(生ワクチンの可否を含む)は主治医に確認しましょう。遺伝については、本症は単一遺伝子で決まる病気ではありません。HLA-B27陽性の親から子にHLA-B27が受け継がれても、実際に発症するのは一部にとどまります。家族に症状がない場合、むやみに検査をする必要は一般にありませんが、子どもや兄弟姉妹に炎症性腰背部痛やぶどう膜炎が出た場合は早めに受診するとよいでしょう。不安がある場合は、遺伝カウンセリングを利用することもできます。
利用できる制度・相談窓口
強直性脊椎炎は指定難病(告示番号271)です。診断基準を満たし、重症度分類で一定以上の重症度と判定された場合、または軽症でも高額な医療費が継続している場合(軽症高額該当)には、医療費助成を受けられます。申請は、都道府県・指定都市が指定した「難病指定医」が作成した臨床調査個人票などを添えて、お住まいの自治体(保健所などの窓口)に提出します。認定されると、所得に応じた自己負担上限額が設定され、生物学的製剤など高額な治療の負担が軽くなります。受給者証には有効期間があり、更新手続きが必要です。そのほか、利用できる主な制度は次のとおりです。医療保険の高額療養費制度、指定難病の患者が対象に含まれる障害者総合支援法による障害福祉サービス、脊椎・股関節などの機能障害の程度に応じた身体障害者手帳(肢体不自由)、病状により日常生活や就労に支障がある場合の障害年金です。手帳や年金の対象となるかどうかは障害の程度によるため、主治医や窓口に相談してください。小児期に発症し若年性特発性関節炎(付着部炎関連関節炎など)と診断された場合は、小児慢性特定疾病の対象となることがあります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、医療機関の医療ソーシャルワーカー、ハローワークの難病患者就職サポーターなどがあります。患者会(日本AS友の会など)では、体験の共有や情報を得ることができます。
強直性脊椎炎に伴う心のケア・心理社会的支援
慢性的な痛みや疲労、睡眠障害が長く続く難病では、抑うつ、不安、適応障害を合併しやすいことが知られています。ASでも、抑うつ症状の頻度が一般人口より高いと報告されています。ASに特有の心理社会的課題もあります。第一に、若い世代に発症し、診断までに長い年月がかかることが多く、その間「怠けている」「気のせい」と誤解されたつらい経験を持つ方が少なくありません。第二に、見た目では痛みが伝わりにくく、進学・就職・結婚・出産といったライフイベントの時期に病気と向き合わなければなりません。第三に、姿勢の変化による外見への悩みや、将来体が動かなくなるのではないかという不安があります。さらに、高額な治療を長く続けることへの経済的な心配もあります。気分の落ち込み、興味の喪失、眠れない状態が2週間以上続く場合や、仕事・学業に強く支障が出ている場合には、我慢せず主治医に伝えてください。必要に応じて、心療内科・精神科、公認心理師などの専門家に相談することが大切です。痛みのコントロールが改善すると気分も改善することが多いため、つらさを率直に伝えることは治療の一部です。職場や学校には、必要な配慮(休憩、通院、作業姿勢など)を具体的に伝えると理解を得やすくなります。患者会や難病相談支援センターで同じ病気の人とつながることも、孤立感を和らげる助けになります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
強直性脊椎炎の受診の目安
- 40歳未満で、3か月以上続く腰や背中、殿部の痛みがあり、夜間や明け方に痛み、体を動かすと楽になる場合は、リウマチ科(膠原病内科)の受診を検討してください。
- 片目の急な充血・痛み・まぶしさ・かすみが出た場合は、ぶどう膜炎の可能性があるため、できるだけ当日〜翌日に眼科を受診してください。
- 転倒や事故の後に首や背中の新たな痛みが出た場合、とくに手足のしびれ・脱力がある場合は、脊椎骨折・脊髄損傷の恐れがあるため、ためらわず救急受診してください。
- 生物学的製剤・JAK阻害薬の使用中に、発熱、せき、息苦しさ、皮膚の発疹や水ぶくれなどが出た場合は、感染症の可能性があるため早めに主治医へ連絡してください。
- 息切れ、動悸、めまい・失神、胸の痛みが出た場合や、血便・持続する下痢・腹痛がある場合は、心臓や腸の合併症を考えて速やかに受診してください。
- 排尿・排便の異常や、両脚・会陰部のしびれが出た場合は、神経の障害が疑われるため早急に受診してください。
強直性脊椎炎についてのよくある質問
Q. HLA-B27が陽性と言われました。必ず強直性脊椎炎になるのですか?
A. いいえ。HLA-B27を持っていても、発症するのはごく一部です。逆に、陰性でも発症することがあります。診断は、症状や画像所見などを総合して行います。
Q. いずれ背骨が全部固まってしまうのでしょうか?
A. 全員が竹様脊椎になるわけではなく、強直が一部にとどまる方も多くいます。運動療法の継続、禁煙、適切な薬物療法で炎症を抑えることにより、機能を保つことが期待できます。進行の見通しは個人差が大きいため、主治医と定期的に評価していくことが大切です。
Q. 運動はしても大丈夫ですか?安静にした方がよいのでは?
A. 本症では、安静よりも適度な運動の方が症状や機能の改善に役立ちます。毎日のストレッチや有酸素運動が勧められます。ただし、脊椎が強直している場合や骨粗鬆症がある場合は、転倒や強い衝撃のある運動は避け、内容を主治医や理学療法士と相談してください。
Q. 妊娠・出産はできますか?子どもに遺伝しますか?
A. 多くの患者さんが妊娠・出産を経験しています。ただし、使用中の薬剤によっては調整が必要なため、計画段階で主治医に相談してください。HLA-B27が子に受け継がれることはありますが、発症するのは一部であり、単純に遺伝する病気ではありません。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。