非特異性多発性小腸潰瘍症

Non-Specific Multiple Small Intestinal Ulcers

非特異性多発性小腸潰瘍症(Non-Specific Multiple Small Intestinal Ulcers)|非特異性多発性小腸潰瘍症は、主に回腸に浅い潰瘍が多発し、腸管からの持続的な少量出血と蛋白漏出によって慢性の鉄欠乏性貧血と低蛋白血症をきたす希少な遺伝性腸疾患です。多くは小児期から思春期に発症し、診断までに長い年月を要することがあります。成長障害、むくみ、腸管狭窄による腸閉塞などが生活の質に長く影響します。現在は、プロスタグランジン輸送体をコードするSLCO2A1遺伝子の異常が原因であることがわかっており、国の指定難病(告示番号290)に指定されています。

非特異性多発性小腸潰瘍症の要点

非特異性多発性小腸潰瘍症は、SLCO2A1遺伝子の変異により主に回腸に浅い潰瘍が多発し、持続する少量出血と蛋白漏出で鉄欠乏性貧血や低蛋白血症をきたす遺伝性の腸疾患です。腹痛や下痢は目立たないことがあり、腸管狭窄を生じることもあり、国の指定難病に指定されています。

別名・略称CEAS、SLCO2A1関連慢性腸症、CNSU、chronic enteropathy associated with SLCO2A1 gene、chronic nonspecific multiple ulcers of the small intestine
分野消化器・肝胆膵疾患
遺伝形式常染色体潜性(SLCO2A1遺伝子の両アレル変異)
好発年齢小児期〜思春期に発症することが多い
主な症状慢性の鉄欠乏性貧血、低アルブミン血症(むくみ)、腸管狭窄による腸閉塞
主な検査便潜血、血液検査、小腸内視鏡、SLCO2A1遺伝子検査
主な治療鉄剤補充・栄養管理、狭窄には内視鏡的拡張や手術
受診する主な診療科消化器内科

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非特異性多発性小腸潰瘍症とは

非特異性多発性小腸潰瘍症は、主に回腸に多発する慢性小腸潰瘍を特徴とする疾患です。肉芽腫などの特異的な組織所見を欠くため「非特異性」と呼ばれます。潰瘍は浅く、境界が明瞭です。形は地図状、線状、輪走・斜走など多彩で、腸の周径に沿って広がる傾向があり、治癒と再燃を繰り返すうちに腸管の変形や狭窄を生じます。臨床的には、腹痛や下痢などの消化器症状が目立たない一方で、便潜血陽性が持続し、鉄剤補充を要する貧血と低アルブミン血症が長く続くことが特徴です。クローン病や腸結核とは異なる独立した疾患と考えられています。

本症は1960年代に日本で最初に報告され、その後、九州大学などの国内研究者によって臨床像・病理像が体系化されました。長く原因不明でしたが、2015年に国内の研究グループが、プロスタグランジン輸送体(PGT/OATP2A1)をコードするSLCO2A1遺伝子の両アレル性の機能喪失型変異を原因として同定しました。これを受けて、国際的にはCEAS(chronic enteropathy associated with SLCO2A1 gene:SLCO2A1関連慢性腸症)という名称も用いられています。SLCO2A1遺伝子の変異は、ばち指・骨膜性骨肥厚・皮膚肥厚を三徴とする肥厚性皮膚骨膜症(原発性肥大性骨関節症)の原因でもあります。両者は同じ遺伝子の異常による一連の病態として捉えられるようになりました。一方で、臨床像が類似していてもSLCO2A1変異を認めない症例もあり、遺伝子変異の有無による病型の整理が進められています。

非特異性多発性小腸潰瘍症の疫学・患者数

本症は極めてまれな疾患で、報告の多くは日本を中心とした東アジアからのものです。ただし、遺伝子診断が可能になってからは欧米からの報告も増えています。国内の患者数は正確にはわかっておらず、指定難病の受給者数からみても非常に少数と考えられます。貧血の原因検索で小腸まで十分に調べられていない未診断例が存在する可能性も指摘されています。発症は小児期から思春期(おおむね20歳以前)が多いとされますが、診断は成人後になる例も少なくありません。性差については女性に多いと報告されています。同じ遺伝子が原因の肥厚性皮膚骨膜症が男性に多いことと対照的で、性ホルモンなどの修飾因子の関与が推測されています。常染色体劣性遺伝のため、両親が血縁関係にある例やきょうだい発症例が報告されています。

非特異性多発性小腸潰瘍症の原因・病態生理

本症は常染色体劣性遺伝の形式をとり、SLCO2A1遺伝子の両方のアレルに病的変異(ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)をもつことで発症します。SLCO2A1がコードするプロスタグランジン輸送体(PGT)は、細胞外のプロスタグランジンE2(PGE2)などを細胞内に取り込み、15-PGDHという酵素による分解へ橋渡しする役割を担っています。この輸送体が機能しないと、プロスタグランジンの不活化が障害されます。その結果、局所や全身でPGE2が過剰な状態になると考えられています。実際に、本症患者では尿中PGE主要代謝産物(PGE-MUM)が高値を示すことが報告されています。日本人患者では、特定のスプライス部位変異などが比較的多くみられることが報告されています。片方のアレルのみに変異をもつ保因者(両親など)は、通常発症しません。

PGE2は一般に粘膜保護的に働くため、その過剰がなぜ潰瘍を招くのかは完全には解明されていません。仮説としては、次のようなものが挙げられています。①腸管上皮や血管内皮で輸送体を介した細胞内プロスタグランジンの適切な処理と、受容体シグナルのバランスが崩れる。②PGE2受容体(EPファミリー)の持続刺激によって受容体の脱感作や、粘膜バリア・微小循環の調節異常が起こる。③粘膜修復過程が障害される。これらが重なって、慢性の浅い潰瘍が持続すると考えられています。病変が回腸に偏る理由や、女性に腸病変が多く男性に骨・皮膚病変が多い理由も、研究課題として残されています。病理学的には、潰瘍は粘膜下層までにとどまる浅いものが主体です。非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を欠き、軽度の非特異的炎症細胞浸潤を伴います。潰瘍底や周囲の血管に変化がみられるとの報告もあります。なお、自己免疫や感染を主因とする疾患ではないため、ステロイドなどの免疫抑制治療が効きにくいことと整合しています。

非特異性多発性小腸潰瘍症の症状

  • 慢性の鉄欠乏性貧血: 潰瘍からの持続的な少量出血(潜出血)により、小球性低色素性貧血が長期間続きます。鉄剤内服や静注でいったん改善しても、再び低下することを繰り返すのが特徴です。
  • 便潜血陽性: 肉眼的な血便はまれですが、便潜血反応が持続的に陽性となります。貧血の原因検索の重要な手がかりになります。
  • 低蛋白血症・低アルブミン血症: 潰瘍面から血漿蛋白が腸管内に漏れ出す蛋白漏出性腸症の病態をとります。血清アルブミンが慢性的に低値となります。
  • 浮腫(むくみ): 低アルブミン血症に伴って、下肢や顔面にむくみが生じます。重症例では胸水や腹水を伴うこともあります。
  • 倦怠感・易疲労感・動悸・息切れ: 貧血と低栄養のために、疲れやすさ、動悸、労作時の息切れがみられます。徐々に進むため、本人が自覚しにくいこともあります。
  • 成長障害・二次性徴の遅れ: 小児期・思春期に発症すると、慢性の栄養障害により身長の伸びや体重増加が不良になることがあります。
  • 腹痛・腹部膨満: 腹痛は軽度または目立たないことが多いとされます。ただし狭窄が進むと、食後の腹痛や張り、嘔吐が出現します。
  • 腸閉塞症状: 潰瘍の治癒・再燃の繰り返しによって腸管狭窄が生じると、嘔吐、腹痛、排便・排ガスの停止など腸閉塞をきたします。手術が必要になることがあります。
  • ばち指・骨膜肥厚・皮膚肥厚: 特に男性患者では、肥厚性皮膚骨膜症の特徴(指先が太鼓ばち状になる、四肢の長管骨の骨膜肥厚による関節痛、顔面・頭皮の皮膚肥厚)を合併することがあります。
  • 胃・十二指腸病変: 小腸以外に、胃や十二指腸にも潰瘍・びらんや変形を伴う例が報告されています。

非特異性多発性小腸潰瘍症の経過と合併症

本症は、軽快と再燃を繰り返しながら長期に持続する慢性疾患です。自然に治癒することはまれと考えられています。典型的には小児期から思春期に原因不明の貧血として気づかれ、鉄剤補充を続けながら数年から十数年後に小腸検査で診断に至る経過が少なくありません。潰瘍そのものは浅いものの、治癒と再発を繰り返すうちに腸管の壁が線維化します。その結果、輪状・偏側性の変形や多発する狭窄が形成されます。狭窄が高度になると腸閉塞を起こし、外科的切除が行われることがあります。しかし、切除後も吻合部や残存小腸に潰瘍が再発しやすく、複数回の手術を要する例も報告されています。

主な合併症は次のとおりです。高度の鉄欠乏性貧血(輸血を要することがある)、低蛋白血症に伴う浮腫・胸腹水、腸管狭窄による腸閉塞、狭窄部に食物残渣やカプセル内視鏡が停滞する滞留、まれな穿孔などです。慢性の低栄養は、成長障害、骨量減少、微量元素・ビタミン欠乏の原因になります。反復手術によって広範囲の小腸が失われると、短腸症候群に至るおそれもあります。さらにSLCO2A1関連疾患として、ばち指、骨膜性骨肥厚に伴う関節痛・関節液貯留、皮膚肥厚、多汗などの肥厚性皮膚骨膜症様の症状を合併することがあります。こうした骨・皮膚症状にも配慮が必要です。

非特異性多発性小腸潰瘍症の診断・診断基準

診断の出発点は、原因不明の慢性鉄欠乏性貧血・低アルブミン血症と便潜血陽性です。上部・下部消化管内視鏡で出血源が見つからない場合に、小腸病変を疑い、カプセル内視鏡、バルーン内視鏡、小腸X線造影、CT/MRエンテログラフィーで小腸を評価します。特徴的な回腸の多発性・浅在性潰瘍や狭窄を認めたら、次の段階として類似疾患の除外を行います。具体的には、生検による肉芽腫や抗酸菌の検索、NSAIDs服用歴の確認、ベーチェット病の症状の評価などにより、クローン病、腸結核、NSAIDs起因性小腸潰瘍、腸管ベーチェット病などを除外します。そのうえでSLCO2A1遺伝子検査で両アレル性の病的変異が確認されれば確定診断となります。指定難病の申請では、厚生労働省研究班による診断基準(臨床像、画像所見、除外診断、遺伝学的検査を組み合わせたもの)に基づいて判定されます。遺伝学的検査の実施にあたっては、遺伝カウンセリングを含めた十分な説明が求められます。

  • 血液検査: 小球性低色素性貧血、血清鉄・フェリチン低値、低アルブミン血症・低総蛋白血症を認めます。一方、CRPなどの炎症反応は正常から軽度上昇にとどまることが多く、クローン病との違いの参考になります。
  • 便潜血検査: 持続的な陽性が特徴です。肉眼的出血がなくても消化管からの慢性出血を示す重要な所見です。
  • カプセル内視鏡: 小腸全体を非侵襲的に観察でき、多発する浅い潰瘍や狭窄の分布を把握できます。ただし狭窄によりカプセルが滞留する危険があるため、事前に開通性評価用カプセルなどで通過性を確認することが推奨されます。
  • バルーン内視鏡(ダブル/シングルバルーン): 回腸の潰瘍を直接観察し、生検を行えます。境界明瞭な浅い潰瘍が地図状・線状・輪走・斜走に多発し、腸管変形や狭窄を伴う所見が典型的です。狭窄に対するバルーン拡張術にも用いられます。
  • 小腸X線造影検査: 多発する非対称性の変形、偏側性の硬化像、多発狭窄など、本症に特徴的とされる形態変化を描出できます。古典的に診断に重要な役割を果たしてきました。
  • CT/MRエンテログラフィー: 腸管壁の肥厚、狭窄部位と口側腸管の拡張、腸管外合併症の有無を評価します。瘻孔や膿瘍を伴わない点はクローン病との鑑別に有用です。
  • 病理組織検査(生検・切除標本): 粘膜下層までにとどまる浅い潰瘍と、非特異的な炎症所見を示します。非乾酪性類上皮細胞肉芽腫や乾酪壊死を欠くことが、クローン病・腸結核との鑑別に重要です。
  • SLCO2A1遺伝子検査: 両アレル性の病的変異の同定が確定診断の根拠となります。保険適用や実施可能施設は変わることがあるため、専門施設で確認します。結果の解釈と家族への影響について、遺伝カウンセリングが勧められます。
  • 尿中PGE主要代謝産物(PGE-MUM): 本症ではPGE2代謝の異常を反映して高値を示すことが報告されています。補助的なバイオマーカーとして研究・臨床応用が検討されています。

非特異性多発性小腸潰瘍症と鑑別すべき疾患

  • クローン病: 腸間膜付着側の縦走潰瘍、敷石像、深い潰瘍、瘻孔・膿瘍、肛門病変、非乾酪性肉芽腫、炎症反応高値を伴う点で区別され、本症の潰瘍は浅く炎症反応も軽度です。
  • 腸結核: 輪状潰瘍や萎縮瘢痕帯を呈し類似しますが、生検での乾酪性肉芽腫や抗酸菌の検出、インターフェロンγ遊離試験(IGRA)陽性、抗結核薬への反応で鑑別します。
  • NSAIDs起因性小腸潰瘍(NSAIDs腸症): 膜様狭窄や多発潰瘍を呈しますが、服薬歴があり、休薬で改善する点で鑑別します。
  • 腸管ベーチェット病・単純性潰瘍: 回盲部の深い打ち抜き様潰瘍が典型で、口腔内アフタ、外陰部潰瘍、眼症状、皮膚症状などの全身症状の有無が鑑別点です。
  • CMUSE(隠原性多発性潰瘍性狭窄性小腸炎): 浅い多発潰瘍と狭窄を示し臨床像が非常に似ていますが、SLCO2A1変異を欠き、ステロイドに反応することが多いとされます。一部はPLA2G4A遺伝子変異との関連が報告されています。
  • その他の小腸潰瘍・蛋白漏出性腸症: 虚血性小腸炎、放射線性腸炎、腸リンパ管拡張症、悪性リンパ腫などを、病歴、画像、生検で除外します。

非特異性多発性小腸潰瘍症の治療

現時点で根本治療は確立していません。治療の中心は、①貧血と低栄養の是正、②腸管狭窄・腸閉塞への対処、③潰瘍の悪化要因の回避です。重要な点として、5-アミノサリチル酸製剤、副腎皮質ステロイド、免疫調節薬、抗TNFα抗体などの炎症性腸疾患の治療薬は、本症の潰瘍に対して有効性が乏しいとされています。そのため、クローン病と誤診されて効果の乏しい免疫抑制療法が漫然と続けられないよう、正確な診断が重要です。治療は年齢、貧血・栄養状態、狭窄の程度に応じて個別に組み立てられます。経験のある消化器専門医のもとで、内科・外科・栄養部門が連携して長期的に管理することが望まれます。具体的な治療の選択は、必ず主治医とよく相談してください。

  • 鉄剤補充: 経口鉄剤や静注鉄剤で鉄欠乏を補います。出血が続くため長期の継続が必要になることが多く、静注鉄剤の場合は過剰投与にならないよう、フェリチンなどを指標に投与量を調整します。
  • 輸血: 高度の貧血で症状が強い場合や手術前などに、一時的に赤血球輸血が行われます。
  • 栄養療法(経腸栄養・成分栄養剤): 成分栄養剤などによる経腸栄養で、低アルブミン血症や貧血の改善が得られる例が報告されています。小児では成長を支える目的でも重視されます。効果や継続性には個人差があります。
  • 中心静脈栄養: 腸閉塞時や高度の低栄養、経口・経腸栄養が困難な場合、また短腸症候群に至った場合に用いられます。
  • 内視鏡的バルーン拡張術: 短い狭窄に対しては、バルーン内視鏡下での拡張術により手術を回避・延期できる場合があります。ただし穿孔のリスクがあり、再狭窄で反復を要することもあります。
  • 外科手術(狭窄部切除・狭窄形成術): 内科的に管理できない腸閉塞や高度狭窄、穿孔に対して行われます。術後再発が多いため、小腸をできるだけ温存する術式(最小限の切除や狭窄形成術)が考慮されます。
  • NSAIDsなどの回避: 小腸粘膜障害を悪化させうる非ステロイド性抗炎症薬(痛み止め・解熱薬)は、原則として避けることが勧められます。必要な場合は主治医と代替薬を相談します。
  • 合併症・骨皮膚病変への対症療法: 微量元素・ビタミン補充、骨量減少への対応を行います。肥厚性皮膚骨膜症様症状に伴う関節痛には、腸への影響を考慮した鎮痛法を整形外科・皮膚科と連携して選択します。
  • 研究段階の治療: プロスタグランジン代謝や受容体シグナルを標的とした治療の可能性が研究されています。ただし、現時点で確立した薬物療法はなく、臨床研究への参加は専門施設で相談します。

非特異性多発性小腸潰瘍症の予後・長期フォロー

本症は長期に持続する慢性疾患です。ただし、適切な貧血・栄養管理が行われれば、生命予後は一般に大きく損なわれないと考えられています。一方で、生涯にわたる鉄剤補充や栄養療法、反復する腸閉塞と手術、それに伴う入院や通院は、就学・就労・妊娠出産などライフイベントを含む生活の質に大きく影響します。特に小児期発症例では、慢性の栄養障害による低身長や思春期遅発が問題になります。反復手術で小腸が短くなった場合には短腸症候群となり、長期の静脈栄養管理が必要になることがあります。このように、予後は狭窄の程度と手術歴に大きく左右されます。

長期フォローアップでは、次の項目を定期的に評価します。血算、鉄動態(血清鉄・フェリチン)、アルブミン、微量元素(亜鉛など)、ビタミン、体重、身長、成長曲線です。腹部症状の変化があれば、狭窄の進行を画像検査(CT/MRエンテログラフィー、小腸造影、バルーン内視鏡など)で確認します。カプセル内視鏡は滞留リスクを踏まえて慎重に用います。術後は吻合部や残存小腸の再発に注意します。男性を中心に、ばち指や関節痛など骨・皮膚症状の出現にも目を配ります。小児科から成人診療科への移行期には、診療情報の確実な引き継ぎが重要です。

非特異性多発性小腸潰瘍症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

日常生活では、まず市販薬を含む鎮痛解熱薬(NSAIDs)を自己判断で使わないことが大切です。他の医療機関や歯科を受診する際は、本症であることを必ず伝えましょう。食事は、狭窄がある場合には、繊維の多い食品(きのこ類、海藻、こんにゃく、硬い野菜、種実類など)や大きな塊を避けます。よく噛み、少量ずつ摂ることで腸閉塞の予防につながります。栄養剤の継続や食事内容は、管理栄養士と相談して無理のない形に調整します。鉄剤は服用で便が黒くなることがありますが、心配はいりません。ただし胃腸症状が強い場合は主治医に相談してください。貧血が強い時期は激しい運動を控え、体調に合わせて活動量を調整します。本症は常染色体劣性遺伝のため、患者のきょうだいは同じ遺伝子型をもつ可能性があります(一般に4分の1)。きょうだいの原因不明の貧血には注意が必要です。患者の子どもが発症する確率は、配偶者が保因者でない限り低いと考えられます。家族の検査や結婚・妊娠に関する不安については、遺伝カウンセリング(臨床遺伝専門医・認定遺伝カウンセラー)で相談できます。妊娠を考える際は、貧血・栄養状態の評価と薬剤について、事前に主治医と相談してください。

利用できる制度・相談窓口

非特異性多発性小腸潰瘍症は指定難病(告示番号290)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、または軽症でも高額な医療費が継続する場合(軽症高額該当)には、医療費助成を受けられます。申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票などを添えて、住所地の都道府県・指定都市の窓口(保健所など)に行います。認定されると、所得に応じた自己負担上限額が設定されます。18歳未満(継続の場合は20歳未満)の小児期発症例では、小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象となるかどうかを、主治医や自治体窓口で確認してください。医療費の負担が大きい場合は、高額療養費制度も併用できます。貧血・低栄養や反復手術によって就労や日常生活に著しい制限がある場合は、障害年金の対象となりうるため、年金事務所や社会保険労務士に相談できます。また、広範な小腸切除などで栄養維持が困難となり静脈栄養に依存する状態では、身体障害者手帳(小腸機能障害)の対象となることがあります。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、医療機関の医療ソーシャルワーカー、保健所の保健師、難病情報センターのウェブサイトなどがあり、就労については難病患者就職サポーター(ハローワーク)も利用できます。

非特異性多発性小腸潰瘍症に伴う心のケア・心理社会的支援

本症は、原因がわからないまま長く貧血の治療を受けたり、クローン病などと診断されて効果の乏しい治療を受けたりした末に確定診断に至ることが少なくありません。そのため、診断までの不安や医療への不信、「治らない病気」と告げられたときの喪失感を抱えやすい疾患です。慢性的な倦怠感は「怠けている」と誤解されやすく、学校や職場で理解を得にくいことも負担になります。思春期発症が多いため、低身長や体型、栄養剤の使用、食事制限などから、友人関係や自己イメージに悩む人もいます。繰り返す腸閉塞や手術への恐れ、将来の就職・結婚・出産、遺伝に関する家族内の葛藤なども心理的負担となり、抑うつや不安障害、適応障害につながることがあります。気分の落ち込み、不眠、意欲低下、食事への過度な恐怖などが続く場合は、一人で抱え込まず、主治医や看護師、医療ソーシャルワーカー、心療内科・精神科、臨床心理士に相談してください。同じ病気をもつ人との交流や患者会、難病相談支援センターの支援も役立ちます。家族自身のケアや、きょうだいへの配慮も大切です。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

非特異性多発性小腸潰瘍症の受診の目安

  • 嘔吐、強い腹痛、お腹の張り、排便や排ガスが止まるなど、腸閉塞を疑う症状が出た場合は、速やかに救急受診してください。
  • 突然の激しい腹痛や、お腹全体が板のように硬くなる場合は、穿孔の可能性があるため直ちに救急受診が必要です。
  • 黒色便や血便が増えた、ふらつき・失神・強い動悸や息切れがある場合は、貧血の急な悪化が考えられるため早めに受診してください。
  • むくみが急に強くなった、体重が急に増えた・減った、息苦しさがある場合は、低蛋白血症の悪化や胸腹水の可能性があるため受診してください。
  • 原因不明の鉄欠乏性貧血が続き、便潜血が陽性なのに胃や大腸の内視鏡で異常がない場合は、小腸検査が可能な消化器専門施設への相談を検討してください。
  • カプセル内視鏡の検査後に、カプセルの排出を確認できないまま腹痛や嘔吐が出た場合は、すぐに検査施設へ連絡してください。

非特異性多発性小腸潰瘍症についてのよくある質問

Q. クローン病とはどう違うのですか?

A. どちらも小腸に潰瘍ができますが、本症の潰瘍は浅く、肉芽腫や瘻孔を伴わず、炎症反応も軽度にとどまることが多い点が異なります。原因もSLCO2A1遺伝子の異常で、クローン病の治療薬(ステロイドや抗TNFα抗体など)は効きにくいとされています。そのため、正確な区別が治療方針を決めるうえで重要です。

Q. 遺伝する病気ですか?子どもに遺伝しますか?

A. 常染色体劣性遺伝の病気で、両親から1つずつ変異遺伝子を受け継いだ場合に発症します。患者さんのお子さんは保因者にはなりますが、配偶者も保因者でない限り、発症する可能性は低いと考えられます。具体的なリスクや家族の検査については、遺伝カウンセリングで相談することをお勧めします。

Q. 鉄剤をずっと飲み続けなければならないのですか?

A. 潰瘍からの少量出血が続くことが多いため、長期間の鉄補充が必要になる方が少なくありません。内服でお腹の調子が悪くなる場合や効果が不十分な場合には静注鉄剤に切り替えるなど、方法を調整できます。自己判断で中止せず、定期的な血液検査を受けながら主治医と相談してください。

Q. 手術をすれば治りますか?

A. 手術は腸閉塞や高度な狭窄を解除するための治療で、病気そのものを治すものではありません。術後も吻合部や残った小腸に潰瘍が再発することが多いとされています。そのため、腸をできるだけ温存する方針がとられ、内視鏡的拡張術や栄養療法と組み合わせた長期的な管理が行われます。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。