ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)

Hirschsprung Disease (Total Colonic or Small Bowel Type)

ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)(Hirschsprung Disease (Total Colonic or Small Bowel Type))|ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)は、腸の動きを調節する神経細胞(腸管神経節細胞)が生まれつき大腸全体、さらには小腸にまで欠如している重症型のヒルシュスプルング病です。多くは新生児期に、腹部膨満・嘔吐・胎便排泄遅延などの腸閉塞症状で発症します。人工肛門や根治手術、長期の栄養管理を必要とすることが多く、乳幼児期から成人期まで続く医療的ケアが患者と家族の生活に大きく影響します。

ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)の要点

ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)は、腸管の神経節細胞が先天的に大腸全体からさらに小腸まで欠如し、腸が動かず機能的な腸閉塞を起こす重症型の疾患です。新生児期に腹部膨満・嘔吐・胎便排泄遅延で発症することが多く、人工肛門や根治手術、長期の栄養管理を要する国の指定難病です。

別名・略称全結腸型無神経節症、先天性腸管無神経節症、先天性巨大結腸症、腸管無神経節症、Hirschsprung病、total colonic aganglionosis
分野消化器・肝胆膵疾患
病態腸管神経叢の神経節細胞が先天的に欠如し、蠕動できない
病型無神経節腸管が結腸全体に及ぶ全結腸型、さらに小腸に及ぶ小腸型
好発年齢多くは新生児期に発症
主な症状腹部膨満、嘔吐、胎便排泄遅延
主な治療人工肛門造設、根治手術、栄養管理
受診する主な診療科小児外科

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ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)とは

ヒルシュスプルング病は、腸管壁内の神経叢である筋層間神経叢(アウエルバッハ神経叢)と粘膜下神経叢(マイスネル神経叢)の神経節細胞が先天的に欠如する疾患です。欠如部分を無神経節腸管と呼びます。無神経節腸管は肛門側から口側へ連続して存在し、蠕動が起こらず弛緩もできないため、機能的な腸閉塞を起こします。無神経節腸管の範囲によって病型が分けられ、大部分の症例は直腸からS状結腸までの短い範囲にとどまります(短域型・通常型)。これに対し、無神経節腸管が結腸全体に及び、回腸末端の一部を含むものを全結腸型、さらに口側の小腸まで広く及ぶものを小腸型(広域型)と呼びます。この2つの病型が指定難病の対象です。

病名は、1886年にデンマークの小児科医ハラルド・ヒルシュスプルングが、先天性の巨大結腸を伴う乳児例を報告したことに由来します。その後、本態は拡張した腸ではなく、その肛門側にある狭い無神経節腸管にあることが明らかになりました。1940年代にSwensonらがこの部分を切除する根治術を確立し、その後Duhamel法、Soave法、経肛門的手術、腹腔鏡補助下手術などの術式が発展しました。短域型の治療成績は良好になっています。一方、全結腸型と小腸型は、結腸の水分吸収機能を失うこと、小腸型では吸収面積そのものが不足すること、腸炎を繰り返しやすいことから、現在も治療に難渋する病型です。日本では2015年に「ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)」として指定難病に加えられました。また、類縁の疾患群(ヒルシュスプルング病類縁疾患)とともに、診療ガイドラインの整備が進められています。

ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)の疫学・患者数

ヒルシュスプルング病全体の発生頻度は、出生約5,000人に1人とされ、人種や地域による大きな差はないと考えられています。全結腸型はそのうち数%〜10%程度、無神経節腸管が小腸の広い範囲に及ぶ小腸型はさらにまれとされます。日本の全国調査でもおおむね同様の傾向が報告されています。年間の新規発症は全結腸型と小腸型を合わせて数十例規模と推定され、指定難病の受給者数も限られた数にとどまります。短域型では男児が女児の約3〜4倍と男性に多いのに対し、無神経節腸管が長くなるほど性差は小さくなります。全結腸型・小腸型では男女差がほとんどないか、わずかとされます。また、長域型ほど家族内発症の頻度が高いことが知られています。ほとんどが新生児期から乳児期早期に診断されますが、全結腸型の一部では症状が非典型的で、診断が遅れる例もあります。

ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)の原因・病態生理

本症は、胎生期に神経堤細胞(腸管神経系の前駆細胞)が腸管の口側から肛門側へ移動・増殖・分化する過程が障害されることで生じます。発症には複数の遺伝子が関わる多因子遺伝が想定されています。最も重要な原因遺伝子はチロシンキナーゼ型受容体をコードするRETで、とくに長域型・家族例で変異が見つかる頻度が高いとされます。そのほか、RETのリガンドであるGDNF、エンドセリン系のEDNRBおよびEDN3、転写因子のSOX10、PHOX2B、ZEB2などが関連遺伝子として知られています。浸透率は不完全で、同じ家系内でも重症度が異なることがあります。症候群の一部として発症することもあります。代表例は、ダウン症候群(21トリソミー)、ZEB2異常によるモワット・ウィルソン症候群、SOX10やエンドセリン系遺伝子の異常による色素異常と難聴を伴うワールデンブルグ症候群4型(Shah-Waardenburg症候群)、PHOX2B異常による先天性中枢性低換気症候群(合併例はHaddad症候群と呼ばれる)です。RET変異の一部は多発性内分泌腫瘍症2型とも関連します。なお、免疫系の異常や代謝異常は本症の病因ではありません。

腸管神経節細胞は、胎生5週頃から約12週頃にかけて食道側から肛門側へ順に定着していきます。この移動が早い時期に停止するほど、無神経節腸管は長くなります。全結腸型や小腸型は、移動がかなり早期に停止した状態と考えられます。無神経節腸管では、蠕動を起こす神経回路と、平滑筋を弛緩させる抑制性神経(一酸化窒素などを介する)がありません。一方で外来性のコリン作動性神経線維は残り、腸管は持続的に収縮します。その結果、内容物が通過できない機能的閉塞が起こり、口側の正常腸管が拡張します。肛門内括約筋も弛緩しないため、直腸肛門反射は起こりません。うっ滞した腸内容物の中で細菌が異常に増殖し、粘膜バリアと局所免疫が破綻すると、ヒルシュスプルング病関連腸炎を起こします。これが本症の重要な生命予後因子です。全結腸型では水分と電解質を吸収する結腸が使えなくなります。小腸型ではさらに栄養吸収に使える小腸が不足し、腸管不全(短腸症候群に類似した病態)を来します。

ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)の症状

  • 胎便排泄遅延: 生後24〜48時間以内に胎便が出ない、または少量しか出ないことが多く、最初の手がかりになります。ただし全結腸型では胎便がある程度出る例もあります。
  • 腹部膨満: 腸内容とガスがたまり、お腹が大きく張ります。進行すると呼吸を圧迫することもあります。
  • 胆汁性嘔吐: 緑色の胆汁を含む嘔吐は腸閉塞のサインで、小腸型ではとくに早期からみられます。
  • 哺乳不良・体重増加不良: 腹満や嘔吐のために哺乳量が増えず、栄養障害や成長障害につながります。
  • 浣腸・ブジーへの反応と爆発的排便: 浣腸や直腸刺激で多量のガスと便が勢いよく出ることがあります。ただし全結腸型では浣腸の効果が乏しいことが多いとされます。
  • 腸炎症状(発熱・悪臭下痢・腹満増悪): ヒルシュスプルング病関連腸炎では、発熱、悪臭のある水様便、急激な腹部膨満、ぐったりした様子がみられ、敗血症やショックに進行しうる緊急事態です。
  • 脱水・電解質異常: 人工肛門(とくに回腸瘻)からの多量の排液で水分とナトリウムが失われ、低ナトリウム血症や脱水を起こしやすくなります。
  • 腸管穿孔: 拡張した腸、とくに盲腸や回腸が破れることがあり、新生児期の全結腸型では比較的注意すべき合併症とされます。
  • 慢性的な頻回便・下痢: 根治術後は結腸がないため水様〜泥状の便が1日に何度も出ることが多く、成長とともに徐々に落ち着く傾向があります。
  • 肛門周囲皮膚炎: 消化酵素を含む頻回の便によって肛門周囲の皮膚がただれ、痛みや睡眠障害の原因になります。
  • 便失禁・汚染(ソイリング): 術後に便がもれることがあり、就学期以降の生活に影響します。
  • 合併症候群に伴う症状: ダウン症候群、モワット・ウィルソン症候群などを合併する場合は、発達の遅れ、心疾患、難聴、色素異常、呼吸調節障害などを伴うことがあります。

ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)の経過と合併症

未治療では、新生児期に腸閉塞・腸炎・穿孔によって生命に危険が及びます。診断後はまず、口側の正常に神経節細胞がある腸管で人工肛門(多くは回腸瘻、小腸型ではより口側の空腸瘻など)を造設し、減圧と経腸栄養の確立を図ります。全結腸型では体重増加を待ち、生後数か月〜1年前後以降に、結腸を切除して回腸を肛門近くまで下ろしてつなぐ根治術を行うのが一般的です。根治術後は、しばらく頻回の水様便と肛門周囲皮膚炎が続きます。多くは数年かけて残った回腸が適応し、便の回数と性状が改善します。小腸型では、残る機能的な小腸の長さが経過を大きく左右します。残存小腸が短い例では、長期にわたる中心静脈栄養(静脈から栄養を入れる治療)が必要になり、腸管リハビリテーションや小腸移植の検討を要することがあります。

最も重要な合併症はヒルシュスプルング病関連腸炎です。根治術の前にも後にも起こり、全結腸型・小腸型やダウン症候群合併例では頻度が高いとされます。腸炎は繰り返し起こることがあり、重症化すると敗血症や腸管穿孔に至ります。長期の中心静脈栄養では、次のような問題が起こりえます。<br>・カテーテル関連血流感染症<br>・中心静脈の血栓・閉塞(使える血管が減ること)<br>・腸管不全関連肝障害(胆汁うっ滞から肝線維化・肝硬変へ進むことがある)<br>そのほか、ナトリウム・亜鉛・マグネシウムの喪失、回腸末端の欠如によるビタミンB12や胆汁酸の吸収障害、胆石、尿路結石、代謝性アシドーシス、成長障害、骨代謝異常があります。術後には、吻合部の狭窄・縫合不全、癒着性腸閉塞、便失禁、排便障害もみられることがあります。

ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)の診断・診断基準

新生児期に胎便排泄遅延・腹部膨満・胆汁性嘔吐がみられたら、まず腹部単純X線で腸閉塞の有無を確認します。次に注腸造影、直腸肛門内圧検査、直腸粘膜生検を組み合わせてヒルシュスプルング病かどうかを判断します。診断は、病理学的に神経節細胞の欠如を確認することで確定します。全結腸型・小腸型では、注腸造影で典型的な口径差(狭い部分と広い部分の境目)がはっきりしないことが多く、診断が難しくなります。そのため、開腹または腹腔鏡下に腸管の複数箇所から生検し、術中迅速病理診断で神経節細胞の有無を順に確かめて、無神経節腸管の範囲を決めます(レベリング生検)。この範囲の確定が、全結腸型または小腸型の診断と人工肛門の位置決定に不可欠です。指定難病の認定では、学会などが作成した診断基準に基づいて、病理所見と無神経節腸管の範囲を確認します。あわせて、重症度基準に該当するかどうかが評価されます。

  • 腹部単純X線検査: 多数の拡張した腸管ループと鏡面像を認め、直腸内のガスが乏しいことが多くみられます。腹腔内に遊離ガスがあれば穿孔を疑います。
  • 注腸造影検査: 短域型では口径差がみられますが、全結腸型では口径差がない、結腸全体が細く短い(微小結腸様)、脾弯曲や肝弯曲が鈍化した「?マーク状」の結腸などの所見を示すことがあります。正常に近い像のこともあり、この検査だけで除外はできません。
  • 直腸肛門内圧検査: 直腸をバルーンで広げても肛門内括約筋が弛緩しない(直腸肛門反射がない)ことが特徴です。ただし新生児では手技や解釈に熟練を要します。
  • 直腸粘膜吸引生検(アセチルコリンエステラーゼ染色): 粘膜固有層や粘膜筋板にアセチルコリンエステラーゼ陽性の神経線維が増えていれば、本症を強く示唆します。ただし全結腸型ではこの増生が目立たない場合があると報告されています。
  • カルレチニン免疫染色など: 無神経節腸管では、カルレチニン陽性の神経線維がみられません。補助診断として広く用いられています。
  • 全層生検・術中迅速病理診断(レベリング生検): 腸管の複数部位で筋層間神経叢の神経節細胞を確認し、無神経節腸管の口側の境界を決めます。全結腸型・小腸型の確定と病型分類の要になる検査です。
  • 血液・尿検査: 診断そのものではなく、腸炎や敗血症の評価(炎症反応、血液培養)、脱水・電解質異常、肝機能、栄養状態(微量元素、ビタミン)の評価と経過観察に用います。
  • 遺伝学的検査: RETなどの遺伝子解析は必須ではありません。症候群が疑われる場合や家族歴がある場合に、遺伝カウンセリングと併せて検討されます。
  • 合併奇形・関連症候群の評価: 心エコー、聴力検査、眼科診察、染色体検査、呼吸パターンの評価(先天性中枢性低換気症候群が疑われる場合)などを必要に応じて行います。

ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)と鑑別すべき疾患

  • ヒルシュスプルング病類縁疾患(腸管神経節細胞僅少症など): 神経節細胞は存在するものの数が少ないか未熟な疾患で、病理で神経節細胞の量と形態を評価して区別します。
  • 巨大膀胱短小結腸腸管蠕動不全症: 神経節細胞は存在し、巨大膀胱と微小結腸を伴う点が鑑別の手がかりになります。
  • 慢性特発性偽性腸閉塞症: 神経節細胞は正常に存在し、平滑筋や神経の機能異常によって消化管全体の蠕動が障害される点で異なります。
  • 胎便栓症候群・胎便病(胎便性イレウス): 注腸造影で胎便が排出されると症状が改善し、生検で神経節細胞が確認されます。ただし本症との合併例もあるため注意が必要です。
  • 腸閉鎖症・腸回転異常症: 注腸造影や上部消化管造影で、器質的な閉塞部位や腸の位置異常を確認して区別します。
  • 新生児の敗血症・壊死性腸炎・甲状腺機能低下症: 全身状態、画像、血液検査で評価します。腸炎を伴う本症とまぎらわしいため、病理検査による確認が重要です。

ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)の治療

治療の基本は外科治療です。すなわち、無神経節腸管を切除し、神経節細胞のある腸管を肛門につないで通過を回復することです。ただし全結腸型・小腸型では、まず腸炎を防ぎながら減圧し、正常な腸管に人工肛門を造設して全身状態と栄養状態を整える段階的な治療が一般的です。根治術の時期や術式は、施設の方針や患児の状態によって選ばれます。小腸型や残存小腸が短い例では、外科治療に加えて、中心静脈栄養・経腸栄養・薬物療法を組み合わせた腸管リハビリテーションが中心になります。必要に応じて小腸移植も選択肢になります。小児外科、小児消化器科、栄養サポートチーム、皮膚・排泄ケア認定看護師などによる多職種チームでの管理が望まれます。個々の治療方針は、主治医・専門施設とよく相談して決めてください。

  • 初期減圧と腸炎の予防・治療: 胃管による減圧、補液、電解質補正を行います。腸炎が疑われるときは、絶食、減圧、洗腸、抗菌薬投与(嫌気性菌をカバーするものを含む)を速やかに行います。全結腸型では経肛門的洗腸の効果が限られることがあります。
  • 人工肛門造設(腸瘻造設): レベリング生検で神経節細胞があると確認した腸管に回腸瘻や空腸瘻を造ります。これにより閉塞を解除し、経腸栄養を確立します。
  • 根治手術(プルスルー手術): 全結腸型では、結腸を切除し回腸を肛門へ引き下ろして吻合します。Duhamel法の変法(Martin法など)、Swenson法、Soave法などがあり、腹腔鏡補助下に行われることもあります。術式ごとに利点と課題があり、施設ごとに選択されます。
  • 中心静脈栄養と経腸栄養の管理: 小腸型などで吸収が不足する場合は、中心静脈栄養で成長に必要な栄養を補います。経腸栄養や経口摂取を少しずつ増やし、在宅中心静脈栄養へ移行することもあります。
  • 腸管リハビリテーションと薬物療法: 止痢薬、胃酸分泌抑制薬、胆汁酸に対する対策、腸内細菌異常増殖への抗菌薬などを状況に応じて用います。短腸症候群に対して適応のある薬剤(GLP-2アナログ製剤など)が検討される場合もあります。
  • 水分・電解質・微量元素の補充: 回腸瘻からはナトリウムが失われやすく、ナトリウムの補充が体重増加に重要とされます。亜鉛・マグネシウム・ビタミンB12・脂溶性ビタミンなども定期的に評価し、補います。
  • 肝障害・カテーテル合併症の予防: 脂肪乳剤の種類や量の調整、早期の経腸栄養、カテーテルの清潔管理(ロック液の工夫を含む)によって、腸管不全関連肝障害と感染症を予防します。
  • 小腸移植: 中心静脈栄養の継続が難しい例(使える血管の喪失、重い肝障害、繰り返す重症感染症など)では、小腸移植(肝障害が重い場合は肝臓を含む移植)が検討されます。日本では限られた施設で実施されています。
  • 排便管理・スキンケア: 術後の頻回便に対して、食事調整、止痢薬、皮膚保護剤による肛門周囲のケアを行います。便失禁には、洗腸療法などを含む排便管理プログラムを用いることがあります。

ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)の予後・長期フォロー

新生児外科、集中治療、栄養管理の進歩によって、全結腸型の生命予後は大きく改善しました。多くの患者が成人期に達しています。ただし短域型と比べると、腸炎による死亡や重い合併症のリスクは今も高いとされます。小腸型では、無神経節腸管が空腸まで及び、機能する小腸がきわめて短い例ほど予後が厳しくなります。長期の中心静脈栄養に伴う肝障害や感染症が、主な死亡原因となります。生活の質(QOL)については、根治術後も幼児期は頻回便と便失禁に悩む例が多くみられます。それでも成長とともに改善し、学校生活や社会生活を送れるようになる人が少なくありません。一方、成人期にも排便回数の多さ、便失禁、腸炎の再発、栄養障害が残る例もあり、個人差が大きい疾患です。

長期フォローアップでは、主に次の項目を定期的に評価します。<br>・身長・体重などの成長と栄養状態<br>・電解質、微量元素、ビタミン(とくにビタミンB12)<br>・肝機能<br>・腎機能と尿路結石<br>・骨密度<br>・排便機能<br>中心静脈栄養を続けている場合は、カテーテル管理、血管の温存、肝線維化の評価が重要です。小児診療科から成人診療科への移行期医療も大きな課題です。成人後も相談できる消化器外科・消化器内科との連携を早めに準備しておくことが勧められます。家族歴や関連症候群がある場合は、遺伝カウンセリングを通じた情報提供も、長期的な支援の一部になります。

ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

人工肛門がある時期には、装具の交換と皮膚ケア、排液量の把握、水分・塩分の補給が日常ケアの中心になります。下痢や発熱があるときは脱水が急に進むことがあるため、排液量やおむつの重さ、尿量、体重を記録しておくと受診時に役立ちます。根治術後は肛門周囲のただれを防ぐため、ぬるま湯でのやさしい洗浄、皮膚保護剤の使用、こまめなおむつ交換が大切です。食事の内容や止痢薬は主治医・栄養士と相談して調整しますが、自己判断による極端な食事制限は成長に影響するため避けましょう。在宅中心静脈栄養では、手指衛生とカテーテル操作の手順を家族全員で共有し、発熱時の連絡先を決めておくことが重要です。保育園・学校には、トイレの使用への配慮、着替えの準備、体育や宿泊行事での対応を事前に伝えておくと安心です。本症は多因子遺伝の性格をもち、病型や家族歴によって同胞や子どもへの再発率が変わります。とくに全結腸型・小腸型や家族例では、一般より再発率が高いとされます。次の子どもを考える際や、本人が成人して家族計画を考える際には、遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。

利用できる制度・相談窓口

「ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)」は指定難病(告示番号291)です。診断基準と重症度基準を満たす場合、難病指定医の診断書(臨床調査個人票)を添えて都道府県・指定都市に申請すると、医療費助成を受けられます。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では、小児慢性特定疾病医療費助成制度(慢性消化器疾患群)の対象となり、成人期には指定難病制度へ移行します。<br>ほかに、次のような制度を利用できる可能性があります。<br>・身体障害者手帳(小腸機能障害、ぼうこう又は直腸の機能障害[人工肛門造設時]など):ストーマ装具などの日常生活用具の給付<br>・特別児童扶養手当、障害児福祉手当(状態による)<br>・成人期の障害年金(障害の程度による)<br>在宅中心静脈栄養や医療的ケアが必要な場合は、訪問看護、医療的ケア児支援センター、市区町村の障害福祉サービスも活用できます。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、小児慢性特定疾病の自立支援事業、病院の医療ソーシャルワーカー、保健所があります。患者・家族会など、同じ病気の人どうしの交流の場も役立ちます。

ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)に伴う心のケア・心理社会的支援

新生児期から手術や長期入院を経験するため、保護者には強い不安、自責感、睡眠不足、疲労が積み重なりやすくなります。抑うつや適応障害に至ることも少なくありません。人工肛門の管理、夜間のおむつ交換、中心静脈栄養のケアは家族の時間と就労を大きく制約し、きょうだいへの影響も生じます。本人は成長とともに、頻回便や便失禁、においへの不安、人工肛門や手術痕へのボディイメージの悩みを抱えやすくなります。その結果、登校しぶりや友人関係の回避、思春期の自尊感情の低下につながることがあります。排泄に関わる悩みは打ち明けにくいため、主治医、看護師、臨床心理士、医療ソーシャルワーカー、学校の養護教諭などに早めに相談することが大切です。気分の落ち込みや眠れない状態が続く場合は、心療内科・精神科の受診もためらわないでください。患者会やピアサポートで同じ経験をもつ人とつながることも、孤立を防ぐ助けになります。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)の受診の目安

  • 発熱、悪臭のある水様便、急に強まった腹部膨満、ぐったりした様子がある場合は、腸炎や敗血症の可能性があるため直ちに救急受診してください。
  • 緑色の嘔吐、繰り返す嘔吐、お腹の強い張りと痛みがある場合は、腸閉塞の可能性があり緊急受診が必要です。
  • 人工肛門からの排液が急に増えた、尿が少ない、口が渇く、元気がないなど脱水が疑われる場合は、早めに受診してください。
  • 中心静脈カテーテルを使用中に、発熱、悪寒、刺入部の赤み・腫れ、カテーテルの破損がみられた場合は、すぐに主治医施設へ連絡してください。
  • 黄疸、白っぽい便、出血しやすさなど肝障害を疑う症状が出た場合は、早めに受診してください。
  • 体重が増えない、便失禁や肛門のただれが改善しないなど生活に支障が続く場合は、定期受診を待たずに相談してください。

ヒルシュスプルング病(全結腸型又は小腸型)についてのよくある質問

Q. 通常のヒルシュスプルング病と何が違うのですか?

A. 通常型では神経節細胞がない範囲が直腸からS状結腸付近にとどまりますが、全結腸型では大腸全体、小腸型ではさらに小腸にまで及びます。そのため水分や栄養の吸収障害、腸炎のリスクが大きく、治療も長期にわたります。手術だけで終わらず、栄養管理と長期フォローアップが重要になる点が大きな違いです。

Q. 手術をすれば普通に排便できるようになりますか?

A. 根治術後しばらくは、1日に何回も水様〜泥状の便が出ることが多いですが、残った小腸が適応して数年かけて改善することが期待されます。成人期まで便の回数の多さや便もれが残る人もおり、経過には個人差があります。食事、薬、排便管理の方法について、主治医と相談しながら調整していくことが大切です。

Q. 親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因ですか?

A. いいえ。本症は胎児期の早い時期に、腸の神経のもとになる細胞の移動がうまく進まないことで起こる先天的な病気です。遺伝的な要因が関わりますが、育て方や妊娠中の生活が原因ではありません。次の子どもへの影響が心配な場合は、遺伝カウンセリングで具体的に相談できます。

Q. 大人になっても通院は必要ですか?

A. はい。成人後も腸炎、栄養障害(ビタミンB12や微量元素の不足など)、腎結石、胆石、排便機能の問題が起こることがあるため、定期的な診察が勧められます。中心静脈栄養を続けている場合は、肝機能や血管の管理が欠かせません。小児科・小児外科から成人診療科への移行を、主治医と早めに相談しておきましょう。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。