先天性横隔膜ヘルニア

Congenital Diaphragmatic Hernia

先天性横隔膜ヘルニア(Congenital Diaphragmatic Hernia)|先天性横隔膜ヘルニア(CDH)は、胎児期に横隔膜が正しく形成されず、その欠損孔から腸管や胃、肝臓などの腹部臓器が胸の中に入り込み、肺の発育が妨げられる先天性の病気です。多くは出生直後から重い呼吸不全と肺高血圧を起こし、新生児集中治療と外科治療が必要になります。救命できた後も、呼吸・栄養・発達などの面で長期の見守りが必要になることがあります。

先天性横隔膜ヘルニアの要点

先天性横隔膜ヘルニアは、胎児期に横隔膜に欠損孔ができ、腹部臓器が胸腔内へ入り込んで肺低形成と肺高血圧を起こす先天性疾患です。多くは出生直後から呼吸困難やチアノーゼなどの重い呼吸不全を示し、新生児集中治療と外科手術が必要で、日本では指定難病(告示番号294)です。

別名・略称CDH、横隔膜ヘルニア
分野呼吸器疾患
遺伝形式多くは孤発例。一部は染色体異常や症候群に伴う
好発年齢新生児期(出生直後から症状が出る例が多い)
主な症状呼吸困難、チアノーゼ、肺低形成、肺高血圧
主な検査胎児超音波検査、出生後の胸腹部X線検査
主な治療人工呼吸などの呼吸循環管理と外科的な横隔膜修復術
受診する主な診療科小児外科、新生児科、産科

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先天性横隔膜ヘルニアとは

先天性横隔膜ヘルニア(Congenital Diaphragmatic Hernia:CDH)は、横隔膜の先天的な欠損(形成不全)により腹腔内臓器が胸腔内へ脱出する疾患です。本態は単なる「臓器の位置異常」ではありません。胎児期に肺低形成(肺胞と肺血管の数と構造の発育不全)と、肺血管の筋性肥厚による新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)が生じることが、生命予後を左右する中心的な病態です。肺低形成は脱出臓器のある側(患側)だけでなく、反対側(健側)の肺にも及ぶことが知られています。日本では指定難病(告示番号294)に指定されており、重症度などの要件を満たせば医療費助成の対象となります。

欠損部位により、後外側のボホダレク(Bochdalek)孔ヘルニア、胸骨後方のモルガーニ(Morgagni)孔ヘルニア、まれな中心腱部の欠損に分けられます。新生児期に重症化するCDHの大部分はボホダレク型です。そのうち約8割強が左側、1〜2割が右側で、両側例はごく少数です。モルガーニ孔ヘルニアは無症状のことも多く、乳児期以降や成人になって偶然見つかる例が少なくありません。横隔膜は連続しているものの筋層が薄く挙上する横隔膜弛緩症(挙上症)は、別の病態として区別されます。また、ほかの重い奇形を伴わない「単独(isolated)CDH」と、心奇形や染色体異常・症候群を伴う「非単独(complex)CDH」に分けることは、予後予測や家族への説明に重要です。歴史的には、出生直後に緊急手術を行う方針が主流でした。その後、肺低形成と肺高血圧こそが本質であると理解され、全身状態を安定させてから手術する「待機的手術」、肺を傷めない「愛護的人工呼吸(gentle ventilation)」、一酸化窒素吸入療法やECMOの導入により成績が改善してきました。近年は胎児診断と胎児治療の研究も進んでいます。

先天性横隔膜ヘルニアの疫学・患者数

発生頻度は出生およそ2,500〜5,000人に1人とされ、海外の報告と日本の報告でおおむね同程度です。国内では年間おおよそ200例前後の発生が推定されており、日本の新生児CDH研究グループによる多施設全国調査がその実態把握と診療指針の策定に役立てられています。死産や妊娠中断に至る例もあるため、胎児期を含めた真の頻度は出生時の頻度よりやや高いと考えられています。性差は大きくないものの、男児にわずかに多いとする報告があります。ほとんどは出生前または出生直後に診断されます。一方、欠損が小さい例やモルガーニ型では、乳幼児期以降に呼吸器症状や腸閉塞、偶然の画像検査で見つかることもあります。近年は妊婦健診の超音波検査の普及により、半数以上が出生前に診断されるようになっています。

先天性横隔膜ヘルニアの原因・病態生理

大部分は明らかな原因が特定できない多因子性の発生異常で、単独CDHのきょうだいでの再発率は概して低い(数%未満程度)とされています。一方、およそ3〜4割の症例には他の先天異常が合併し、その一部で遺伝学的背景が明らかになっています。染色体異常では18トリソミー、13トリソミー、12p部分四染色体(パリスター・キリアン症候群)などが知られ、微細欠失として15q26欠失(<i>NR2F2</i>/COUP-TFIIを含む領域)や8p23.1欠失(<i>GATA4</i>を含む領域)が報告されています。単一遺伝子では<i>ZFPM2</i>(FOG2)、<i>WT1</i>(デニス・ドラッシュ症候群など)などの関与が報告され、フラインス症候群やコルネリア・デ・ランゲ症候群などでもCDHを伴うことがあります。なお21トリソミーとの関連は、18・13トリソミーに比べると目立たないとされます。動物実験では除草剤ニトロフェンを投与したラットでCDHが再現され、レチノイン酸(ビタミンA)シグナル伝達の異常が発生に関わるという仮説が有力視されていますが、ヒトでの原因として確立したものではありません。

横隔膜は胎生4〜12週ごろ、横中隔、胸腹膜ヒダ(pleuroperitoneal fold)、食道間膜、体壁の筋組織などが融合して形成されます。近年の研究では、胸腹膜ヒダに由来する結合組織の形成異常が筋肉の移動・形成の欠損を招き、欠損孔につながると考えられています。胸腹膜管は右より左が遅れて閉鎖するため、左側の欠損が多いと説明されます。欠損孔を通じて腸管・胃・脾臓・肝臓などが胸腔に入ると、気管支の分岐と肺胞形成が盛んな時期に肺が圧迫され、気道の分岐数・肺胞数・肺血管床が減少します。さらに、臓器脱出の前から肺の発生自体に異常がある可能性も指摘されています(「二重障害(dual-hit)仮説」)。肺動脈は数が少ないうえ中膜平滑筋が肥厚し、末梢まで筋性化しているため、出生後に肺血管抵抗が下がりません。その結果、動脈管や卵円孔を介した右左シャントによる高度の低酸素血症と、右心不全が起こります。加えて、左心室の相対的な低形成や心機能低下を伴うことがあり、循環不全を悪化させます。

先天性横隔膜ヘルニアの症状

  • 出生直後の呼吸窮迫: 多呼吸、陥没呼吸、呻吟などの重い呼吸困難が出生直後から数時間以内に現れます。重症例では生まれた直後から自発呼吸だけでは酸素化が保てません。
  • チアノーゼ・低酸素血症: 肺低形成と肺高血圧による右左シャントのため、酸素投与でも改善しにくいチアノーゼがみられます。
  • 上下肢の酸素飽和度差: 動脈管を介した右左シャントにより、右手(動脈管前)より下肢(動脈管後)の酸素飽和度が低くなります。肺高血圧の重症度を推し量る手がかりになります。
  • 患側の呼吸音減弱・腸蠕動音聴取: 脱出臓器のある側で呼吸音が弱く、胸部で腸の動く音が聞こえることがあります。
  • 心音・心尖拍動の偏位: 縦隔が健側へ押されるため、左CDHでは心音が右側寄りに聴取されます。
  • 舟状腹: 腹部臓器が胸腔に移動しているため、腹部が平らあるいは陥凹して見えます。
  • 樽状胸郭: 胸腔内容が増え、胸郭が前後に膨らんで見えることがあります。
  • 循環不全・低血圧: 右心不全や左心機能低下により、血圧低下、末梢循環不良、尿量減少が起こることがあります。
  • 消化器症状(遅発例): 乳幼児期以降に見つかる例では、嘔吐、腹痛、腸閉塞症状、脱出臓器の嵌頓・絞扼で発症することがあります。
  • 反復する呼吸器感染・哺乳不良(遅発例): 欠損が小さい例やモルガーニ型では、繰り返す肺炎、慢性の咳、体重増加不良をきっかけに診断されることがあります。

先天性横隔膜ヘルニアの経過と合併症

出生前診断例では、計画的に専門施設で分娩し、出生直後から集中治療を開始します。生後数日間は肺高血圧が最も不安定な時期で、泣く・痛み・処置などの刺激で急に酸素化が悪化する「クライシス」を起こしやすいことが知られています。人工呼吸と循環管理で状態が安定すると、通常は生後数日〜1週間程度で横隔膜修復術を行います。ECMOを要した例では、ECMO中または離脱後に手術を行います。術後は人工呼吸器からの離脱、経腸栄養の確立、肺高血圧の改善を経て退院に至ります。軽症例は数週間で退院できますが、重症例では入院が数か月に及び、在宅酸素療法や経管栄養を続けて退院する場合もあります。一般に、肺は出生後も肺胞の数を増やして成長するため、成長とともに呼吸機能は改善する傾向があります。

合併症には、新生児期の気胸(特に健側)、人工呼吸による肺損傷、ECMOに伴う出血・脳合併症があります。長期的には、慢性肺疾患(気管支肺異形成に類似)、遷延・再燃する肺高血圧、胃食道逆流症(非常に高頻度)、哺乳・摂食障害と成長障害、癒着性腸閉塞、ヘルニア再発(パッチ閉鎖例で多い)が問題になります。さらに、漏斗胸などの胸郭変形、側弯症、感音難聴(重症例・ECMO施行例で報告)、運動・知的・行動面の発達の遅れもみられることがあります。合併する心奇形や染色体異常・症候群がある場合は、それぞれに伴う問題が加わります。

先天性横隔膜ヘルニアの診断・診断基準

多くは妊娠中期以降の妊婦健診で、胎児の胸腔内に胃や腸管が見えること、心臓の偏位などから疑われます。疑われた段階で胎児診断と新生児外科・新生児集中治療が可能な周産期センターへ紹介されるのが一般的です。そこで超音波・MRIによる重症度評価、合併奇形の検索、必要に応じた染色体・遺伝学的検査が行われ、分娩施設・時期・方法、出生後の治療計画、胎児治療の適否について家族と話し合われます。出生後は胸部X線で確定診断し、心臓超音波で肺高血圧と心機能を評価しながら治療を進めます。出生前診断されなかった例では、出生直後の原因不明の呼吸不全として発見されることもあり、新生児の呼吸窮迫では常に念頭に置くべき疾患です。

  • 胎児超音波検査: 胸腔内の胃泡・腸管、縦隔・心臓の偏位、羊水過多などから診断します。左CDHでは胃が胸腔内のどの位置にあるか(国内で用いられる胃の位置分類など)も重症度の指標になります。
  • 肺の大きさの指標(LHR・o/e LHR・L/T比): 健側肺の面積を頭囲で補正した肺頭囲比(LHR)やその期待値比(o/e LHR)、肺面積と胸郭面積の比(L/T比)で肺低形成の程度を推定します。値が小さいほど重症とされます。
  • 胎児MRI: 肺の容積(o/e TFLVなど)を測定し、肝臓の胸腔内脱出(liver up)の有無を評価します。肝脱出は予後不良因子とされます。
  • 胎児心エコー・合併奇形の精査: 心奇形などの合併の有無は予後と治療方針に大きく影響するため、詳細に評価します。
  • 染色体・遺伝学的検査: 羊水検査や出生後の血液検査で、染色体異常や微細欠失(マイクロアレイ解析など)を調べることがあります。遺伝カウンセリングを併せて行います。
  • 出生後の胸部・腹部X線: 胸腔内の腸管ガス像、胃管の先端が胸腔内にあること、縦隔の健側偏位、腹部ガスの減少などで確定診断します。
  • 心臓超音波検査: 肺高血圧の程度(動脈管・卵円孔の血流方向、三尖弁逆流、心室中隔の形)、左右心室の機能、心奇形を評価し、治療薬の選択に役立てます。
  • 動脈管前後の酸素飽和度・血液ガス: 右手と下肢の酸素飽和度差、動脈血ガス(PaO2・PaCO2)、乳酸値などから呼吸循環状態を経時的に評価します。
  • CT・造影検査(遅発例): 乳幼児期以降の診断例や術後再発の評価では、CTや消化管造影で脱出臓器と欠損部を確認します。

先天性横隔膜ヘルニアと鑑別すべき疾患

  • 先天性肺気道奇形(CPAM): 胸腔内の嚢胞性病変が腸管と紛らわしいことがありますが、横隔膜は保たれ、腹腔内に胃が確認できる点で区別します。
  • 肺分画症: 体循環から栄養血管が入る異常肺組織で、ドプラ検査で大動脈からの流入血管を確認できる点が鑑別に役立ちます。
  • 横隔膜弛緩症(挙上症): 横隔膜は連続していますが薄く挙上する病態で、欠損孔がなく、症状は通常CDHより軽いことが多い点で区別します。
  • 気管支原性嚢胞・消化管重複症: 縦隔内の単房性嚢胞として描出され、横隔膜の連続性と腹腔内臓器の位置が正常である点で区別します。
  • 新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)・新生児呼吸障害: 胎便吸引症候群や呼吸窮迫症候群などによる呼吸不全・肺高血圧でも同様の低酸素血症を示しますが、胸部X線で胸腔内腸管像がない点で区別します。
  • 縦隔腫瘍(奇形腫など): 胸腔内の充実性・混合性腫瘤として見え、超音波・MRIで腸管構造や横隔膜欠損を伴わない点で区別します。

先天性横隔膜ヘルニアの治療

治療の柱は、①出生直後からの呼吸循環の安定化(肺を傷めない人工呼吸と肺高血圧の治療)、②状態が安定してからの横隔膜修復術、③退院後を見据えた多職種による長期管理、の三つです。日本では新生児CDH研究グループによる診療ガイドラインが作成されています。原則として、出生前診断例は新生児外科と新生児集中治療、必要に応じてECMOを行える施設で計画分娩とし、「出生後すぐに手術」ではなく「まず安定化、手術は待機的に」という方針がとられます。具体的な人工呼吸の設定、薬剤の選択、手術時期などは重症度や合併奇形によって個別に判断されるため、治療方針は主治医・専門医と十分に相談することが大切です。

  • 出生直後の蘇生と安定化: マスク換気は消化管内にガスが入って肺を圧迫するため避け、速やかに気管挿管して胃管で胃腸の減圧を行います。鎮静や刺激の少ない環境づくりで肺高血圧のクライシス予防に努めます。
  • 愛護的人工呼吸(gentle ventilation): 気道内圧を抑えて肺損傷を防ぎ、ある程度の高二酸化炭素血症や動脈管前の酸素飽和度80%台後半程度を許容する考え方です。必要に応じて高頻度振動換気(HFO)を用います。
  • 肺高血圧の治療: 一酸化窒素吸入療法(iNO)が中心で、反応や病状に応じてミルリノン、シルデナフィル(新生児では適応外使用を含む)などが用いられます。右心の負担を軽くするためプロスタグランジンE1で動脈管を開いておく方法がとられることもあります。
  • 循環管理: 心臓超音波で心機能を評価しながら、輸液、強心薬・血管収縮薬、必要に応じてステロイドなどを使い、臓器への血流を保ちます。
  • 体外式膜型人工肺(ECMO): 最大限の内科的治療でも酸素化・循環が保てない最重症例で、肺と心臓を一時的に休ませて肺高血圧の改善を待つ治療です。出血や脳合併症のリスクがあり、適応は施設ごとの基準で慎重に判断されます。
  • 横隔膜修復術: 状態安定後に、主に開腹で脱出臓器を腹腔に戻し、欠損孔を直接縫合閉鎖します。欠損が大きい場合は人工膜(パッチ)や筋弁を用います。胸腔鏡下手術は低侵襲ですが、再発率がやや高いとの報告もあり、適応は症例ごとに選ばれます。
  • 胎児鏡下気管閉塞術(FETO): 重症例に対し、胎児の気管にバルーンを留置して肺の成長を促す胎児治療です。海外の国際共同試験で重症左CDHの生存率改善が報告された一方、早産のリスクが高まります。国内では限られた施設での臨床研究として行われている段階です。
  • 術後・退院に向けた管理: 胃食道逆流に対する薬物療法や体位、経管栄養から経口哺乳への移行支援を行います。必要に応じて在宅酸素療法、肺高血圧治療薬の継続、逆流防止手術(噴門形成術)などを検討します。
  • 多職種による支援: 新生児科、小児外科、小児循環器科、リハビリテーション、栄養士、看護師、医療ソーシャルワーカー、心理職などがチームで、家族の不安や退院後の生活を支えます。

先天性横隔膜ヘルニアの予後・長期フォロー

生命予後は、肺低形成の程度(o/e LHRやL/T比など)、肝脱出の有無、欠損の大きさ(パッチを要するか)、右側か左側か、合併奇形の有無、肺高血圧の重さによって大きく異なります。専門施設での治療の進歩により、ほかの重大な奇形を伴わない単独CDHの生存率は、近年の国内多施設調査ではおおむね8割前後かそれ以上と報告されています。一方、胎児期に重症と予測された例、ECMOを要した例、重い心奇形や染色体異常を伴う例では予後が厳しくなります。救命された子どもの多くは成長とともに呼吸状態が改善し、通園・通学など年齢相応の生活を送れるようになります。ただし重症例を中心に、慢性肺疾患、肺高血圧、栄養・摂食の問題、発達面の課題が残ることがあり、QOLには個人差があります。

長期フォローアップは、少なくとも学童期まで、可能であれば思春期・成人期まで継続することが望まれます。主な確認項目は、成長(身長・体重)、呼吸機能と感染症の有無、心臓超音波による肺高血圧の評価、胃食道逆流と摂食状況、ヘルニア再発(胸部X線)、胸郭変形・側弯、聴力、運動・言語・認知・行動面の発達です。ヘルニア再発や癒着性腸閉塞は年単位で経過した後に起こることもあります。そのため、腹痛・嘔吐や呼吸症状が急に出たときに既往歴を伝えられるよう、家族や本人が病歴を把握しておくことが大切です。成人期に向けては、小児診療科から成人診療科への移行(トランジション)についても計画的に話し合っていきます。

先天性横隔膜ヘルニアの日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

退院後は、かぜやRSウイルス感染症などの呼吸器感染が重症化しやすいため、手洗い、人混みを避ける工夫、定期予防接種の確実な実施が重要です。対象となる場合は、RSウイルス感染症の重症化予防のための注射を主治医と相談します。胃食道逆流が多いため、授乳後に上体を起こす、少量頻回の授乳、医師に指示された薬の継続などが勧められることがあります。体重増加が不十分な場合は、栄養士とともに栄養内容を調整します。在宅酸素や経管栄養を行う家庭では、機器の扱いや緊急時の連絡先をあらかじめ確認しておきます。運動は呼吸状態に応じて主治医と相談しながら進め、多くの子どもは成長とともに制限が緩和されます。保育園・幼稚園・学校には病歴と注意点を伝え、必要に応じて主治医の意見書を用意します。出生前診断を受けた家族や次子を考える家族には、遺伝カウンセリングの利用が勧められます。単独CDHのきょうだい再発率は一般に低いとされますが、染色体異常や遺伝子変異が見つかった場合は個別の評価が必要です。

利用できる制度・相談窓口

先天性横隔膜ヘルニアは指定難病(告示番号294)であり、診断基準と重症度分類の要件を満たす場合は、難病医療費助成制度により医療費の自己負担が軽減されます。18歳未満(継続の場合は20歳未満まで)では、小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象疾病にも含まれ、自立支援事業(相談支援など)も利用できます。申請窓口は都道府県・指定都市などの保健所や担当課で、指定医による診断書(医療意見書)が必要です。ほかに、乳幼児・子ども医療費助成(自治体による)、高額療養費制度の利用が考えられます。呼吸機能の障害が残る場合は、身体障害者手帳(呼吸器機能障害など)の対象となる可能性があります。障害の程度に応じて特別児童扶養手当や障害児福祉手当、20歳以降は障害基礎年金(20歳前傷病)の対象となる場合があります。在宅で医療的ケア(酸素・経管栄養など)が必要な場合は、訪問看護、医療的ケア児支援センター、障害児通所支援などの福祉サービスも利用できます。病院の医療ソーシャルワーカー、保健師、難病相談支援センター、患者・家族会に相談すると、制度の利用や地域の支援につながりやすくなります。

先天性横隔膜ヘルニアに伴う心のケア・心理社会的支援

出生前に診断された家族は、妊娠中から子どもの生命予後への不安、分娩方法や胎児治療をめぐる難しい意思決定、場合によっては厳しい予後告知に直面します。出生後も、NICUでの長期入院、母子分離、急変を繰り返す経過は、両親に強い心理的負担をもたらします。抑うつや不安障害、心的外傷後ストレス反応、適応障害に至ることもあり、母親の産後うつにも注意が必要です。退院後は、医療的ケアや頻回の通院による疲労、仕事との両立、きょうだい児へのしわ寄せ、経済的負担などが重なりやすくなります。子ども本人も、成長するにつれて手術痕や体格、運動の制限、通院について悩むことがあります。不安や落ち込み、眠れない状態が続くときは一人で抱え込まず、主治医、看護師、臨床心理士・公認心理師、医療ソーシャルワーカー、地域の保健師に早めに相談してください。同じ経験をもつ家族会やピアサポートとのつながりも、孤立感を和らげる助けになります。お子さんを亡くされた家族へのグリーフケアも、医療機関や支援団体で受けることができます。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

先天性横隔膜ヘルニアの受診の目安

  • 呼吸が速い・苦しそう・肋骨の間がへこむ、唇や顔色が紫色になるなどの症状があれば、すぐに救急受診してください。
  • 繰り返す嘔吐(特に緑色の嘔吐)、強い腹痛、お腹の張りがある場合は、腸閉塞やヘルニア再発の可能性があるため速やかに受診してください。
  • 発熱や咳が続く、ぐったりしている、哺乳量や食事量が明らかに減ったときは、早めに主治医に相談してください。
  • 在宅酸素を使っているのに酸素飽和度が普段より下がる、必要な酸素量が増えたときは、主治医の指示に従って連絡・受診してください。
  • 体重が増えない、むせやすい、発達の遅れが気になる場合は、定期受診を待たずに相談してください。
  • 手術から年数がたっていても、急な胸やお腹の症状があるときは、受診時にCDHの既往を必ず伝えてください。

先天性横隔膜ヘルニアについてのよくある質問

Q. 妊娠中に先天性横隔膜ヘルニアと言われました。何をすればよいですか?

A. まず、胎児診断と新生児外科・新生児集中治療が可能な周産期センターで重症度と合併奇形の評価を受けることが重要です。その結果をもとに、分娩施設・時期・方法や出生後の治療方針、必要に応じて胎児治療について説明を受けられます。不安な点は遠慮なく質問し、遺伝カウンセリングや心理的支援も活用してください。

Q. 生まれてすぐに手術をするのですか?

A. 現在は多くの場合、すぐには手術をしません。まず人工呼吸や肺高血圧の治療で全身状態を安定させ、その後(多くは生後数日〜1週間程度)に手術を行います。手術の時期は重症度によって異なるため、主治医チームが判断します。

Q. 次の子どもも同じ病気になりますか?

A. ほかに異常を伴わない単独の先天性横隔膜ヘルニアでは、きょうだいの再発率は一般に低いとされています。ただし、染色体異常や遺伝子の変化が見つかった場合は、その結果によって再発率が変わります。遺伝カウンセリングで個別に相談することをお勧めします。

Q. 退院後は普通の生活ができますか?

A. 多くの子どもは成長とともに呼吸状態が改善し、通園・通学など年齢相応の生活を送っています。ただし重症例では、在宅酸素や栄養の支援、発達面のフォローが必要になることがあります。ヘルニアの再発や逆流などを早く見つけるため、定期的な通院を続けることが大切です。

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最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。