乳幼児肝巨大血管腫

Infantile Hepatic Hemangioma

乳幼児肝巨大血管腫(Infantile Hepatic Hemangioma)|乳幼児肝巨大血管腫は、乳児期の肝臓に発生する良性の血管性腫瘍のうち、腫瘍が大きい、あるいは多発・びまん性に広がることで、心不全、呼吸障害、甲状腺機能低下症、凝固障害などの重い全身症状を起こす病態です。多くは生後数か月以内に見つかり、腫瘍そのものは最終的に縮小・退縮する性質をもちます。ただし増大期の合併症が生命に関わることがあるため、小児外科・小児科・新生児科・放射線科・内分泌科などの多職種による早期の評価と管理が重要です。日本では指定難病(告示番号295)に指定されています。

乳幼児肝巨大血管腫の要点

乳幼児肝巨大血管腫は、乳児の肝臓にできる良性の血管性腫瘍が大きいか多発・びまん性に広がり、高拍出性心不全、腹部膨満による呼吸障害、消費性甲状腺機能低下症、凝固異常などを起こす病態です。多くは生後数か月以内に見つかり、日本では指定難病に指定されています。

別名・略称乳児肝血管腫、乳児肝巨大血管腫、乳児血管内皮腫、肝血管内皮腫、infantile hepatic hemangioma、infantile hemangioendothelioma
分野消化器・肝胆膵疾患
好発年齢多くは生後数か月以内に発見される
主な症状心不全、腹部膨満・呼吸障害、甲状腺機能低下症、血小板減少・凝固異常
病型限局型・多発型・びまん型(画像による3病型分類)
経過腫瘍は最終的に縮小・退縮するが、増大期の合併症が生命に関わることがある
受診する主な診療科小児外科、小児科、新生児科、放射線科、内分泌科

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乳幼児肝巨大血管腫とは

乳児の肝臓に発生する血管腫(肝血管腫)は、乳児期の肝腫瘍の中で最も頻度の高い良性腫瘍とされます。大部分は無症状で、超音波検査で偶然見つかったり、皮膚の乳児血管腫が多いために行った検査で見つかったりします。その一部は、腫瘍が巨大であるか肝臓全体にびまん性に広がるため、次のような重篤な病態を起こします。腫瘍内の動静脈短絡(シャント)による高拍出性心不全、著しい肝腫大による腹部膨満と呼吸障害(腹部コンパートメント症候群)、腫瘍が甲状腺ホルモンを分解することによる消費性甲状腺機能低下症、血小板減少や凝固異常です。これらの症状を伴う重症例を、わが国では「乳幼児肝巨大血管腫」として扱い、診断基準と重症度分類が定められています。既存の簡易解説では一律に「GLUT1陽性の乳児血管腫」と説明されていますが、後述のとおり、病型によって腫瘍の生物学的性質が異なる点に注意が必要です。

歴史的には「乳児血管内皮腫(infantile hemangioendothelioma)」と呼ばれ、組織像からI型・II型に分けられていました。しかし現在は、国際血管腫・血管奇形学会(ISSVA)分類にもとづき、血管性腫瘍(乳児血管腫・先天性血管腫など)と血管奇形を区別して考えます。肝血管腫については、ボストン小児病院のグループが提唱した画像上の3病型分類が広く用いられています。(1)限局型(focal):単発の大きな腫瘤です。出生前または出生時から存在することが多く、多くはGLUT1陰性で、皮膚の急速退縮型先天性血管腫(RICH)の肝臓版と考えられています。(2)多発型(multifocal):正常肝を挟んで多数の結節が散在し、GLUT1陽性の乳児血管腫と考えられています。(3)びまん型(diffuse):肝実質のほぼ全体が腫瘍に置き換わる重症型で、GLUT1陽性です。限局型は動静脈シャントによる心不全や一過性の血小板減少を起こしやすい病型です。びまん型は著明な肝腫大と腹部コンパートメント症候群、重度の甲状腺機能低下症を起こしやすい病型です。多発型は無症状から心不全を伴うものまで幅があります。従来、本症の凝固障害を「Kasabach-Merritt現象」と記載することがありました。しかし現在、典型的なKasabach-Merritt現象は房状血管腫やカポジ型血管内皮腫に伴うものと整理されています。肝血管腫でみられる血小板減少・凝固異常は、これとは区別して理解されています。

乳幼児肝巨大血管腫の疫学・患者数

乳児血管腫全体は乳児期で最も多い腫瘍で、早産児・低出生体重児・女児に多いことが知られています。肝血管腫も乳児期の肝腫瘍として比較的よくみられます。一方、心不全などの重篤な合併症を伴う「巨大」「びまん性」の重症例はまれです。わが国では厚生労働科学研究班による全国調査が行われており、重症例は全国で年間ごく少数にとどまると考えられています。発症時期は、限局型では胎児期〜出生時に、多発型・びまん型では生後数週〜数か月に見つかることが多く、大部分は生後6か月以内に診断されます。性差は、多発型・びまん型では女児にやや多い傾向が報告されています。限局型では明らかな性差ははっきりしません。また、皮膚に乳児血管腫が多数(一般に5個以上が目安とされる)ある乳児では、肝血管腫を合併する割合が高くなります。そのため、肝臓の超音波によるスクリーニングが勧められています。出生前の胎児超音波で肝腫瘤として見つかり、胎児水腫や心拡大を伴う例もあります。

乳幼児肝巨大血管腫の原因・病態生理

乳児血管腫は、血管内皮細胞が異常に増殖する腫瘍です。家族内発症はまれで、通常は遺伝性疾患としては扱われず、明確な原因遺伝子も確立していません。腫瘍内皮細胞は、GLUT1、Lewis Y抗原、FcγRII、メロシンなど、胎盤の微小血管と共通するマーカーを発現します。このことから、胎盤由来細胞の迷入説や、胎盤様の性質をもつ血管前駆細胞の分化異常説が提唱されています。そのほか、低酸素刺激、血管内皮増殖因子(VEGF)とその受容体を介したシグナル、血管内皮前駆細胞や幹細胞の関与、レニン-アンジオテンシン系の関与なども報告されています。ただし、いずれも完全には解明されていません。一方、限局型の多くはGLUT1陰性の先天性血管腫に相当し、乳児血管腫とは別の腫瘍と考えられています。皮膚の先天性血管腫ではGNAQ/GNA11遺伝子の体細胞変異が報告されていますが、肝病変での位置づけはまだ研究段階です。

重い全身症状は、主に次の3つの機序で生じます。第一は循環への影響です。腫瘍内には肝動脈→肝静脈、門脈→肝静脈といった短絡血流が生じます。大量の血液が末梢組織を経ずに心臓へ戻るため、心臓は拍出量を増やして代償しなければならず、高拍出性心不全に陥ります。第二は内分泌への影響です。乳児血管腫の内皮細胞は3型ヨードチロニン脱ヨード酵素(D3)を大量に発現しています。この酵素がサイロキシン(T4)を不活性型のリバースT3(rT3)に、トリヨードサイロニン(T3)をT2に変換して分解するため、甲状腺の産生能を上回る速さでホルモンが失われます。これが「消費性甲状腺機能低下症」で、腫瘍の量(腫瘍量)が多いびまん型で顕著です。新生児マススクリーニング後に腫瘍が増大して発症することもあります。第三は機械的な影響です。肝臓の著しい腫大により横隔膜が押し上げられて呼吸が妨げられ、下大静脈や腎静脈が圧迫されます。腹腔内圧が上昇すると、腸管・腎臓の血流が低下して多臓器障害に至ります(腹部コンパートメント症候群)。このほか、腫瘍内での血小板消費や凝固因子消費、腫瘍内出血、まれな腫瘍破裂による出血も、貧血や凝固障害の原因となります。

乳幼児肝巨大血管腫の症状

  • 腹部膨満・肝腫大: 右季肋部から腹部全体にかけて硬く腫れた肝臓を触れます。びまん型では腹部が著しく膨らみ、腹壁静脈の怒張がみられることがあります。
  • 高拍出性心不全: 多呼吸、頻脈、哺乳不良、発汗、体重増加不良、浮腫などが現れます。胸部X線で心拡大を認め、重症では生後早期から心不全を呈します。
  • 呼吸障害: 肝腫大による横隔膜の挙上や心不全による肺うっ血のため、呼吸が速く苦しそうになります。人工呼吸管理が必要になることもあります。
  • 腹部コンパートメント症候群: 腹腔内圧の上昇により、尿量減少(腎不全)、腸管の血流障害、下大静脈の圧迫による循環不全が起こります。生命に関わる緊急事態です。
  • 消費性甲状腺機能低下症: 活気の低下、哺乳力低下、便秘、黄疸の遷延、体温低下などがみられます。放置すると発達への影響が懸念されるため、早期の発見と補充が重要です。
  • 肝腫瘍部の血管雑音: 腫瘍内の短絡血流が多い場合、腹部の聴診で連続性の血管雑音を聴取することがあります。
  • 貧血・血小板減少・凝固異常: 腫瘍内での消費や出血により、貧血、血小板減少、フィブリノゲン低下などがみられることがあります。限局型では一過性のことが多いとされます。
  • 皮膚の乳児血管腫: 特に多発型・びまん型では、皮膚に赤く盛り上がった血管腫(いちご状血管腫)が多数みられることが多いです。肝病変を疑うきっかけになります。
  • 黄疸・肝機能異常: 胆道の圧迫や肝機能障害により、黄疸や肝酵素の上昇を認めることがあります。ただし肝合成能は比較的保たれることが多いとされます。
  • 胎児水腫・出生前の異常所見: 胎児期から大きな腫瘍がある場合、胎児超音波で肝腫瘤、心拡大、羊水過多、胎児水腫として見つかることがあります。

乳幼児肝巨大血管腫の経過と合併症

乳児血管腫は特徴的な自然経過をたどります。生後数週〜数か月に急速に増大する増殖期、増大が止まる停止期を経て、1歳前後から数年かけて徐々に縮小する退縮期へ移行します。多発型・びまん型の肝病変もおおむねこの経過に沿います。そのため、増殖期の生後数か月が合併症の最も起こりやすい危険な時期となります。一方、GLUT1陰性の限局型(先天性血管腫型)は出生時にすでに最大の大きさであることが多く、生後1年前後のうちに比較的速やかに縮小する傾向があります。腫瘍が縮小すると、心不全・甲状腺機能低下・腹部膨満も改善します。最終的には、多くの例で肝内に小さな線維性の瘢痕や石灰化を残す程度まで退縮します。無症状の小さな病変は、経過観察のみで自然に退縮することがほとんどです。

主な合併症は、高拍出性心不全、腹部コンパートメント症候群、呼吸不全、消費性甲状腺機能低下症、貧血・血小板減少・凝固障害、腫瘍内出血や腫瘍破裂による腹腔内出血です。腹部コンパートメント症候群に伴って、腎不全や腸管虚血を起こすこともあります。重症のびまん型では、治療を行っても多臓器不全で救命が難しい場合があり、肝移植が検討されることもあります。甲状腺機能低下症の治療が遅れると、精神運動発達への影響が懸念されます。門脈-肝静脈短絡が持続すると、高アンモニア血症や、まれに肺高血圧・肝肺症候群様の病態がみられるとの報告もあります。さらに治療に伴う合併症として、プロプラノロールによる低血糖・徐脈・低血圧・気管支攣縮、ステロイドによる感染・高血圧・成長抑制などに注意が必要です。

乳幼児肝巨大血管腫の診断・診断基準

診断は、乳児期に肝腫瘤が見つかったときに、画像所見と臨床経過から血管腫であることを確かめ、そのうえで重症度(全身合併症の有無)を評価する流れで進めます。きっかけは、腹部膨満・心不全症状の精査、皮膚血管腫が多発している児のスクリーニング、胎児超音波、他の目的で行った検査での偶然の発見などです。まず超音波(カラードプラ)で腫瘤の性状と血流を確認します。次に造影CTまたはMRIで、病型(限局型・多発型・びまん型)、範囲、短絡血流、周囲臓器の圧迫を評価します。最も重要な鑑別は、肝芽腫や神経芽腫の肝転移などの悪性腫瘍です。血清α-フェトプロテイン(AFP)や尿中カテコラミン代謝産物を参考にしますが、乳児期のAFPは生理的に高値であるため、月齢別の基準での解釈が必要です。生検は出血の危険があるため、画像で典型的であれば原則として行いません。非典型例や悪性が否定できない場合に限り、慎重に検討します。同時に、心エコー、甲状腺機能、血算・凝固検査、肝腎機能を評価し、治療の緊急度を判断します。わが国では研究班が作成した診断基準と重症度分類があり、医療費助成の申請にはこれに基づく診断が必要です。

  • 腹部超音波・カラードプラ: 肝内の低〜混合エコーの腫瘤を認め、内部や周囲に豊富な血流、拡張した肝動脈・肝静脈・門脈枝を確認します。被ばくがなく繰り返し行えるため、経過観察の中心となります。
  • 造影CT: 典型例では、辺縁から結節状に濃染し、時間とともに中心部へ造影が広がるパターンを示します。病型と範囲の評価に有用です。また、短絡血流が多い例では、腹部大動脈が腹腔動脈分岐部より下で急に細くなる所見(腫瘍への盗血を示唆)を評価できます。
  • MRI: T2強調像で強い高信号を示し、血流の速い血管がflow voidとして描出されます。被ばくがなく、病変の広がりや退縮の評価、悪性腫瘍との鑑別に有用ですが、乳児では鎮静を要することが多いです。
  • 甲状腺機能検査: 遊離T4低値・TSH高値を示し、リバースT3が上昇することがあります。腫瘍が増大するにつれて悪化しうるため、新生児マススクリーニングが正常でも、診断時から定期的に測定します。
  • 心エコー・胸部X線・心電図: 心拡大、心拍出量の増加、肺高血圧の有無を評価し、心不全の重症度と治療の緊急性を判断します。
  • 血液検査(血算・凝固・肝腎機能・AFP): 貧血、血小板減少、フィブリノゲン低下、Dダイマー上昇、肝酵素・ビリルビン、腎機能を確認します。AFPは月齢を考慮して解釈し、肝芽腫との鑑別の参考にします。
  • 尿中VMA・HVA: 神経芽腫の肝転移(特に乳児の4S期)との鑑別のために測定します。
  • 病理組織検査・GLUT1免疫染色: 非典型例に限り、生検や切除標本で行います。GLUT1陽性であれば乳児血管腫、陰性であれば先天性血管腫など他の血管性腫瘍を示唆し、病型の理解や治療反応性の予測に役立ちます。
  • 皮膚の診察: 皮膚の乳児血管腫が多発している場合は肝病変の合併を示唆します。逆に、皮膚血管腫が多い乳児には肝臓の超音波スクリーニングが勧められています。

乳幼児肝巨大血管腫と鑑別すべき疾患

  • 肝芽腫: 乳幼児の代表的な悪性肝腫瘍で、多くはAFPが月齢基準を大きく超えて高値となり、血管腫に典型的な造影パターンを示さない点で区別します。
  • 神経芽腫の肝転移(4S期など): 多発する肝腫瘤として現れることがあり、尿中VMA・HVAの上昇や副腎原発巣の有無で鑑別します。
  • 肝間葉性過誤腫: 嚢胞成分が主体の多房性腫瘤であることが多く、血管腫のような豊富な血流や典型的な造影パターンを欠きます。
  • 肝動静脈奇形・門脈体循環短絡などの血管奇形: 腫瘤を形成せず、異常血管や短絡路そのものが主体で、自然退縮しない点が異なります。オスラー病に伴う肝血管奇形も考慮します。
  • カポジ型血管内皮腫: 高度の血小板減少(Kasabach-Merritt現象)を伴う浸潤性の血管性腫瘍で、GLUT1陰性であり、治療方針が異なります。
  • 血管肉腫(極めてまれ): 乳幼児では非常にまれですが、退縮せず増大し続ける、非典型的な画像所見を示すなどの場合は、組織学的評価を考慮します。

乳幼児肝巨大血管腫の治療

治療の基本は、腫瘍が自然に退縮するまでの期間に、生命を脅かす合併症を確実に管理することです。症状のない小さな病変は、超音波による経過観察のみで十分なことが多いです。一方、心不全、呼吸障害、腹部コンパートメント症候群、甲状腺機能低下症、凝固障害などを伴う場合は、腫瘍の増殖を抑える薬物治療と、各合併症への支持療法を同時に進めます。多発型・びまん型(GLUT1陽性の乳児血管腫)では、プロプラノロールが中心的な治療薬として広く用いられています。限局型(先天性血管腫型)は薬物への反応が乏しい場合があり、短絡血流が問題となる例では血管内治療が検討されます。内科治療で改善しない例や急速に悪化する例には、肝動脈塞栓術、外科的切除、腹部減圧手術を、最終的には肝移植を段階的に検討します。治療の選択は病型・重症度・全身状態によって大きく異なります。新生児集中治療、小児外科、IVR(画像下治療)、小児循環器、小児内分泌の体制がある専門施設で、主治医と十分に相談しながら方針を決めることが大切です。

  • 経過観察: 無症状で合併症のない病変は、定期的な超音波検査と甲状腺機能のチェックで経過をみます。増大や症状の出現があれば治療を検討します。
  • プロプラノロール(β遮断薬): 乳児血管腫の増殖を抑え、退縮を促す薬で、わが国では乳児血管腫用のシロップ製剤が承認されています。通常は入院などで心拍・血圧・血糖をモニターしながら少量から増量し、低血糖を防ぐため授乳・食事と合わせて内服します。肝病変への使用や投与量・期間は専門医が個別に判断します。
  • 副腎皮質ステロイド: プロプラノロール登場以前の標準的治療で、現在はプロプラノロールが使えない例、効果不十分な例、急速に悪化する例で併用・代替として用いられることがあります。感染、高血圧、成長への影響に注意が必要です。
  • その他の薬物療法: 難治例では、ビンクリスチンなどの使用報告があります。インターフェロンαはかつて用いられましたが、乳児で痙性麻痺などの神経系副作用が報告されたため、現在はほとんど用いられません。
  • 甲状腺ホルモン補充: 消費性甲状腺機能低下症に対して、レボチロキシンを通常の先天性甲状腺機能低下症より大量に必要とすることが多いです。重症例ではリオチロニン(T3製剤)の併用も行われます。腫瘍の縮小に伴い必要量が減るため、頻回の検査で用量を調整します。
  • 心不全・呼吸・凝固に対する支持療法: 利尿薬や強心薬、人工呼吸管理、輸血(赤血球・血小板・血漿)、栄養管理などを状態に応じて行います。新生児・乳児集中治療室での管理が必要になることがあります。
  • 肝動脈塞栓術などの血管内治療: 大きな動静脈・門脈静脈短絡による心不全が薬物でコントロールできない場合に、カテーテルで流入血管を塞栓して短絡血流を減らします。主に限局型や短絡の目立つ多発型で検討されます。
  • 外科的治療(腫瘍切除・腹部減圧): 限局型で切除可能な巨大腫瘍が内科・血管内治療に反応しない場合、または腫瘍破裂・出血の場合に肝切除を検討します。腹部コンパートメント症候群では、開腹減圧術(一時的な腹壁閉鎖を含む)が救命的に行われることがあります。
  • 肝移植: びまん型などで、あらゆる治療に反応せず心不全・腹部コンパートメント症候群・多臓器不全が進行する場合の最終的な選択肢として報告されています。

乳幼児肝巨大血管腫の予後・長期フォロー

腫瘍そのものは良性で、自然退縮する性質をもつため、増殖期の合併症を乗り越えれば長期予後は一般に良好です。プロプラノロールの導入と集中治療・画像下治療の進歩により、重症例の救命率は以前より改善したと考えられています。それでも、びまん型で心不全・腹部コンパートメント症候群・重度の甲状腺機能低下を併発する例や、胎児期から胎児水腫を伴う例では、現在も死亡や重い後遺症のリスクがあります。乳児期の甲状腺機能低下症が適切に補正されれば、発達への影響は最小限に抑えられると期待されます。一方、診断や補充が遅れた場合には精神運動発達の遅れが懸念されます。腫瘍が退縮した後は、多くの子どもが通常の日常生活を送ることができます。

退縮が確認されるまでは、超音波を中心とした画像検査、甲状腺機能、心機能、血算・肝機能などを定期的にフォローします。プロプラノロールは通常、腫瘍の増殖期を過ぎる1歳前後まで続けられることが多いです。中止後に再増大(リバウンド)することがあるため、中止前後の評価が重要です。甲状腺ホルモン補充は、腫瘍の縮小に伴い減量・中止できることがほとんどですが、中止の判断は検査値に基づいて慎重に行います。乳児期に甲状腺機能低下症や長期の集中治療を経験した子どもでは、成長・発達のフォローアップも行います。塞栓術や肝切除、肝移植を受けた場合は、それぞれに応じた長期管理(移植後の免疫抑制療法など)が必要です。成人期への移行も見据えて、診療記録や治療歴を整理しておくと役立ちます。

乳幼児肝巨大血管腫の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)

治療中、特にプロプラノロール内服中は、低血糖の予防が最も重要です。授乳や食事の直後に内服し、長時間の絶食を避けます。哺乳が十分にできないとき、嘔吐・下痢があるとき、発熱などで食欲が落ちているときは、自己判断で続けずに主治医に連絡し、内服の可否を確認します。冷汗、顔色不良、ぐったりする、けいれんなどは低血糖のサインになりえます。また、ゼーゼーする呼吸(気管支攣縮)や極端な脈の遅さにも注意します。甲状腺ホルモンは毎日決まった時間に確実に飲ませることが大切です。大豆製剤や鉄剤などで吸収が影響を受けることがあるため、飲み合わせは医師・薬剤師に確認します。予防接種は原則として通常どおり受けられることが多いですが、ステロイド内服中など治療内容によっては接種時期の調整が必要なことがあるので、主治医と相談してください。腹部が大きく腫れている時期は、腹部を強く圧迫する抱き方や衣服を避けます。本症は通常遺伝する病気ではなく、きょうだいが同じ病気になる可能性は一般に低いと考えられています。それでも心配がある場合は、主治医や遺伝カウンセリング外来で相談できます。妊娠中の行動などが原因になったわけではないことも、家族にとって大切な理解です。

利用できる制度・相談窓口

乳幼児肝巨大血管腫は指定難病(告示番号295)に指定されています。診断基準と重症度基準を満たす場合、指定医の診断書(臨床調査個人票)をもとに、都道府県・指定都市へ申請すると医療費助成を受けられます。対象が主に乳幼児であるため、実際には小児慢性特定疾病医療費助成制度(慢性消化器疾患群に「乳幼児肝巨大血管腫」として掲載)を利用する場合が多いです。窓口は居住地の保健所や自治体の担当課です。小児慢性特定疾病の認定を受けると、自立支援事業(相談支援、療養生活支援など)も利用できる場合があります。各自治体の乳幼児・子ども医療費助成、医療費が高額になった場合の高額療養費制度も併用できます。重い合併症や後遺症により日常生活に常時の介護を要する場合は、特別児童扶養手当などの対象となる可能性があるため、市区町村の窓口で確認してください。相談先としては、難病相談支援センター、小児慢性特定疾病の相談窓口、病院の医療ソーシャルワーカー、小児慢性特定疾病情報センターや難病情報センターのウェブサイトがあります。血管腫・血管奇形の患者・家族会などの情報も参考になります。

乳幼児肝巨大血管腫に伴う心のケア・心理社会的支援

生まれて間もないわが子が、心不全や呼吸障害で集中治療室に入院したり、カテーテル治療や手術を受けたりすることは、家族にとって非常に大きな心理的負担です。強い不安、自責感(「妊娠中の何かが原因ではないか」)、睡眠不足や疲労、産後の体調変化が重なり、抑うつや不安障害、適応障害を生じることがあります。「最終的には自然に小さくなる良性の腫瘍」と説明されながら、同時に「命に関わる合併症がある」と告げられることで、気持ちの整理がつかないこともよくあります。退院後も、低血糖への心配から授乳や内服の管理に神経をすり減らしたり、定期検査のたびに再増大を心配したりと、緊張が続きがちです。きょうだいへの配慮や仕事との両立も課題になります。こうした気持ちは自然な反応であり、一人で抱え込む必要はありません。主治医、看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士、地域の保健師などに早めに相談してください。必要に応じて精神科・心療内科の支援も受けられます。治療の見通しや退縮の時期について繰り返し説明を受けることも、不安の軽減につながります。

Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。

乳幼児肝巨大血管腫の受診の目安

  • 哺乳量の低下、呼吸が速く苦しそう、顔色が悪い、汗を多くかく、むくみや体重増加不良がみられるときは、早めに受診してください。
  • お腹が急に大きく張ってきた、尿量が明らかに減った、嘔吐を繰り返すときは、救急受診が必要です。
  • プロプラノロール内服中に、ぐったりする、冷汗、けいれん、意識がはっきりしないなどの低血糖を疑う症状や、ゼーゼーする呼吸がみられたら、すぐに救急受診してください。
  • 顔色が急に青白くなる、皮膚に出血斑が増える、お腹を痛がり不機嫌が続くなど、出血や貧血を疑う症状があるときは、至急受診してください。
  • 皮膚に赤い血管腫(いちご状血管腫)が多数ある乳児は、症状がなくても、肝臓の超音波検査の必要性について小児科医に相談してください。
  • 活気がなく寝てばかりいる、便秘が続く、黄疸が長引くなど、甲状腺機能低下を疑う様子があるときは、早めに受診してください。

乳幼児肝巨大血管腫についてのよくある質問

Q. 肝臓の血管腫は自然に消えるのですか?

A. 多くの乳児の肝血管腫は、生後数か月の増大期を過ぎると数年かけて縮小し、最終的にはほとんど目立たなくなります。ただし、増大期に心不全などの重い合併症を起こすことがあるため、「自然に消えるから大丈夫」と考えず、専門医による評価と経過観察が必要です。

Q. プロプラノロールは心臓の薬だと聞きましたが、赤ちゃんに飲ませても安全ですか?

A. プロプラノロールは乳児血管腫の治療薬として広く使われ、わが国でも乳児血管腫向けの製剤が承認されています。一方、低血糖、徐脈、低血圧、気管支の収縮などの副作用があり得ます。そのため、通常は医療機関で状態を確認しながら開始し、授乳後に飲ませるなどの注意を守って使用します。疑問や心配は主治医に遠慮なく相談してください。

Q. 甲状腺ホルモンの薬はずっと飲み続ける必要がありますか?

A. 本症の甲状腺機能低下は、腫瘍が甲状腺ホルモンを分解してしまうことによるもので、甲状腺そのものの病気ではないことがほとんどです。腫瘍が縮小するにつれて必要量が減り、多くは最終的に中止できます。中止の時期は検査結果をみて主治医が判断します。

Q. 次の子どもも同じ病気になりますか?

A. 乳児血管腫やその肝病変は、通常は遺伝性の病気とは考えられておらず、きょうだいが同じ病気になる可能性は一般に低いとされています。不安がある場合は、主治医や遺伝カウンセリングの専門家に相談するとよいでしょう。

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この記事について

最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。