胆道閉鎖症
Biliary Atresia
胆道閉鎖症(Biliary Atresia)|胆道閉鎖症は、新生児期から乳児期早期に肝臓の外にある胆管(肝外胆管)が炎症と線維化によって閉塞し、胆汁が腸へ流れなくなる病気です。黄疸、白っぽい便、濃い色の尿が主な徴候です。治療しなければ胆汁性肝硬変から肝不全に至り、多くは数年以内に生命が脅かされます。早期発見と早期の葛西手術が予後を大きく左右し、手術後も肝移植を含む生涯にわたる診療が必要となることが多い疾患です。
胆道閉鎖症の要点
胆道閉鎖症は、新生児期から乳児期早期に肝外胆管が炎症と線維化で閉塞し、胆汁が腸へ流れなくなる病気です。黄疸、白っぽい便、濃い色の尿がみられ、放置すると胆汁性肝硬変から肝不全に進行するため、早期の葛西手術が重要で、日本では指定難病に定められています。
| 別名・略称 | 先天性胆道閉鎖症、肝外胆道閉鎖症、BA、EHBA、extrahepatic biliary atresia |
|---|---|
| 分野 | 消化器・肝胆膵疾患 |
| 遺伝形式 | 原因不明で、多くは遺伝によらない孤発例 |
| 好発年齢 | 新生児期〜乳児期早期に発見される |
| 主な症状 | 黄疸、白っぽい(灰白色)便、濃い色の尿 |
| 主な検査 | 血液検査(直接ビリルビンなど)、腹部超音波検査、十二指腸液検査、胆道造影など |
| 主な治療 | 葛西手術(肝門部空腸吻合術)、必要に応じて肝移植 |
| 受診する主な診療科 | 小児外科、小児科(小児消化器・肝臓) |
胆道閉鎖症とは
胆道閉鎖症(biliary atresia: BA)は、肝外胆管が原因不明の進行性・閉塞性の炎症によって索状の線維組織に置き換わり、胆汁の排泄路が途絶える疾患です。胆管の『生まれつきの欠損』というより、胎生後期から周産期にかけて始まった炎症性の胆管障害が出生後も続く病態と考えられています。病変は肝外胆管にとどまらず肝内胆管にも及び、胆汁うっ滞による肝細胞障害と門脈域の線維化が急速に進みます。そのため放置すれば生後1〜2年で胆汁性肝硬変に至り、肝不全や門脈圧亢進症を来します。小児期の閉塞性黄疸のなかで最も重要な外科的疾患です。日本でも海外でも小児肝移植の最大の適応疾患であり、日本では指定難病(告示番号296)と小児慢性特定疾病の対象です。
病型は、日本小児外科学会の分類で閉塞部位により3型に分けられます。I型は総胆管閉塞、II型は肝管閉塞、III型は肝門部閉塞で、III型が全体の約8〜9割を占めます。I型・II型ではさらに遠位胆管や肝門部胆管の形態による亜分類があります。臨床的な分類として、脾臓の異常(多脾・無脾)、腸回転異常、内臓逆位、下大静脈欠損、心奇形などを伴う胆道閉鎖症脾臓奇形症候群(BASM)があり、発生異常の関与が示唆されています。BASMは欧米では約1割とされ、日本ではそれより少ないと報告されています。ほかに、閉塞部に嚢胞を伴う嚢胞型や、サイトメガロウイルス(CMV)IgM陽性例が別のサブグループとして扱われることもあります。歴史的には1959年、東北大学の葛西森夫により肝門部空腸吻合術(葛西手術)が報告されました。それまで『手術不能』とされた肝門部閉塞型でも胆汁排泄が得られるようになり、この術式は現在も世界標準の初期治療です。1980年代以降は肝移植が加わり、葛西手術と肝移植を組み合わせる治療戦略が確立しました。
胆道閉鎖症の疫学・患者数
日本での発生頻度は出生約1万人に1人前後と推定され、年間およそ100例前後が新たに診断されています。東アジアでは欧米(約1万5千〜2万人に1人)よりやや多い傾向が知られます。性比は女児にやや多いとされます。日本では日本胆道閉鎖症研究会による全国登録が1989年から続き、長期予後を含む大規模データが蓄積されています。発症は新生児期から乳児期早期です。生理的黄疸が消えるはずの生後2週以降も黄疸が続き、灰白色便が次第に明らかになる経過が典型的です。ただし出生直後の便は正常色に近いことがあり、胆汁が見られる時期があっても否定できません。日本では2012年度から母子健康手帳に便色カードが全国一律に掲載され、保護者による早期発見の取り組みが進んでいます。成人に達した患者(自己肝・移植後を含む)も年々増えており、小児科から成人診療科への移行期医療が新たな課題になっています。
胆道閉鎖症の原因・病態生理
病因はいまだ解明されておらず、単一の原因ではなく複数の機序が関わる『最終共通経路』としての胆管閉塞と考えられています。主な仮説は次の4つです。(1)ウイルス感染説:周産期のウイルス感染が胆管上皮傷害の引き金になるとする考えです。CMVとの関連が臨床的に報告されており、ロタウイルス・レオウイルスは主に動物モデルで胆管閉塞を再現できることが示されています。(2)免疫・炎症説:胆管上皮に対するTh1型を中心とした細胞性免疫応答(IFN-γ、IL-2、TNF-αなど)、制御性T細胞の機能低下、自己免疫的機序が関与するとされます。(3)発生異常説:BASMのように左右軸形成の異常を伴う例では、胎生期の胆管形成過程の障害が想定されます。(4)毒素・環境因子説:家畜での集団発生から植物由来の胆管毒性物質が同定された報告があります。明確なメンデル遺伝形式はなく、一卵性双生児でも一致しないことが多いため、遺伝性疾患とは考えられていません。一方で、ADD3、GPC1などの感受性遺伝子(座)が関連解析で報告されており、遺伝的素因が発症しやすさに影響する可能性があります。
発症機序としては、胆管上皮細胞の傷害を起点に、炎症細胞浸潤、胆管上皮のアポトーシス、上皮間葉転換様の変化、筋線維芽細胞の活性化が連鎖的に起こると考えられています。その結果、肝外胆管の内腔が閉塞し線維性索状物になります。胆汁が流れないため、肝内では胆汁酸などの毒性物質が滞留します。これが肝細胞障害、細胆管増生、胆汁栓形成、門脈域の線維化を引き起こし、乳児期のうちに架橋線維化から胆汁性肝硬変へと急速に進みます。肝門部の結合組織内には、閉塞を免れた微小な胆管が残存していることがあります。葛西手術ではこの肝門部の線維組織を切除して空腸を吻合し、残存微小胆管からの胆汁排泄を図ります。時間が経つと微小胆管自体も消失していくため、手術時期が早いほど胆汁排泄が得られやすくなります。また、手術で胆汁排泄が得られても肝内胆管の炎症・線維化は持続しうるため、門脈圧亢進症などの長期合併症が問題になります。
胆道閉鎖症の症状
- 遷延性黄疸: 生後2週を過ぎても皮膚や白目の黄染が続く、あるいはいったん薄くなった後に再び強くなります。母乳性黄疸と見分けにくいため、血液検査で直接(抱合型)ビリルビンを確認することが重要です。
- 灰白色便(淡黄色便): 胆汁色素が腸に届かないため、便がクリーム色や灰白色になります。出生直後は正常に近い色のこともあり、便色カードで繰り返し確認することが早期発見につながります。
- 濃黄色尿: 血中で増えた抱合型ビリルビンが尿中に排泄され、尿が濃い黄色〜茶褐色になり、おむつが黄色く染まります。新生児の尿は通常ほぼ無色なので、重要な手がかりになります。
- 肝腫大・肝硬化: 胆汁うっ滞と線維化により肝臓が腫れて硬くなり、右季肋部で触れるようになります。月齢とともに硬さが増していきます。
- 脾腫: 線維化の進行で門脈圧が上昇し、脾臓が大きくなります。乳児期後半以降に目立つことが多く、血小板減少の原因にもなります。
- 体重増加不良・成長障害: 胆汁酸が腸に届かないことで脂肪の吸収が悪くなり、エネルギー不足と肝障害による代謝異常が重なって体重が増えにくくなります。
- 出血傾向(ビタミンK欠乏): 脂溶性ビタミンKの吸収障害で凝固因子が低下し、頭蓋内出血や消化管出血、皮下出血を起こすことがあります。頭蓋内出血を契機に診断される例もあります。
- 腹水・腹部膨満: 肝硬変の進行や低アルブミン血症、門脈圧亢進により腹水がたまり、お腹が張ります。病状が進行したことを示す所見です。
- 皮膚そう痒: 胆汁うっ滞による強いかゆみで、乳児では不機嫌や睡眠障害として現れます。皮膚のひっかき傷が見られることもあります。
- 消化管出血(吐血・下血): 食道・胃静脈瘤の破裂などで起こり、葛西手術後の長期経過中にも見られます。緊急対応が必要な症状です。
胆道閉鎖症の経過と合併症
未治療の場合、生後数か月で肝線維化が進み、1歳前後には胆汁性肝硬変となり、多くは2〜3歳までに肝不全で死亡するとされます。葛西手術を受けた場合の経過は、術後に黄疸が消えるかどうかで大きく分かれます。術後数か月以内に黄疸が消失した例(黄疸消失例)では、自己肝のまま長期にわたり良好な生活を送れる可能性があります。黄疸が消えない例(黄疸非消失例)では肝硬変・肝不全が進行し、多くが乳幼児期に肝移植を必要とします。一方、黄疸消失例でも胆管炎の反復や、肝内に残る炎症・線維化による門脈圧亢進症が年余にわたって進むことがあります。その結果、学童期・思春期・成人期になって肝移植が必要となる場合があります。このため葛西手術は『根治手術』ではなく、自己肝での生存期間を延ばし、成長と移植のタイミングを最適化するための初期治療と位置づけられています。
主な合併症は次のとおりです。上行性胆管炎は術後1〜2年以内に特に多く、発熱、黄疸の再燃、灰白色便で発症します。反復すると肝障害を進行させます。門脈圧亢進症では食道・胃静脈瘤、脾機能亢進症(血小板・白血球の減少)、腹水を来します。肝肺症候群は肺内血管拡張により低酸素血症やチアノーゼ、ばち指を生じます。門脈肺高血圧症は肺動脈圧が上昇し、突然死の原因にもなりうる重大な合併症で、自覚症状が乏しいまま進むことがあります。そのほか、肝内胆管の嚢胞状拡張(bile lake)、脂溶性ビタミン欠乏(くる病・骨折、夜盲、神経症状、出血)、成長障害、肝内結石、まれに肝細胞癌などの肝腫瘍の報告もあります。
胆道閉鎖症の診断・診断基準
診断で最も重要なのは、生後2週以降も続く黄疸や灰白色便をきっかけに、迅速に直接ビリルビンを測定することです。胆汁うっ滞(抱合型高ビリルビン血症)を確認したら、乳児の胆汁うっ滞をきたす多くの疾患のなかから胆道閉鎖症を見落とさないよう、速やかに小児外科・小児肝臓専門施設へ紹介します。血液検査、腹部超音波、十二指腸液検査や肝胆道シンチグラフィー、肝生検などを組み合わせて可能性を絞り込みます。ただし、いずれの非侵襲的検査も単独では確定・否定ができません。確定診断は開腹または腹腔鏡下での術中胆道造影と肉眼所見によって行い、診断が確定すればそのまま葛西手術に移行するのが一般的です。手術時期が遅れるほど胆汁排泄が得られにくくなるため、『疑ったら早く専門施設へ』が原則です。
- 血液検査(直接ビリルビン・肝胆道系酵素): 直接(抱合型)ビリルビンの上昇が胆汁うっ滞の指標です。γ-GTPの高値は胆道閉鎖症を示唆し、AST/ALT、ALPも上昇します。凝固能(PT)の低下はビタミンK欠乏の評価に重要です。
- 便色の評価(便色カード): 母子健康手帳の便色カードで便の色を確認します。灰白色〜淡黄色便が続く場合は胆汁排泄障害を強く疑い、医療機関で実物の便を確認します。
- 腹部超音波検査: 授乳前後で胆嚢が描出されない・小さく萎縮している・収縮しない、肝門部に三角形の高エコー(triangular cord sign)がある、といった所見が参考になります。BASMを示唆する多脾や下大静脈欠損、嚢胞型の嚢胞も確認できます。
- 十二指腸液検査: 十二指腸に挿入したチューブから液を採取し、胆汁(ビリルビン)が含まれるかを調べます。胆汁を認めない場合は胆道閉鎖症の可能性が高まります。
- 肝胆道シンチグラフィー: 放射性トレーサーが肝臓に取り込まれた後、腸管への排泄が24時間後も確認できない場合は閉塞を疑います。感度は高い一方、重い肝内胆汁うっ滞でも排泄が見られないことがあり、特異度には限界があります。
- 肝生検(病理組織): 細胆管増生、胆汁栓、門脈域の浮腫・線維化が閉塞性胆汁うっ滞を示唆します。巨細胞性変化が目立つ新生児肝炎や、胆管消失を示すアラジール症候群との鑑別に役立ちます。
- 術中胆道造影・肝門部所見: 胆嚢などから造影剤を注入し、肝内・肝外胆管が造影されないこと、肝外胆管が索状物になっていることを確認して確定診断とします。病型(I〜III型)もここで決まります。
- 感染症・代謝・遺伝学的検査: CMVなどの感染症、シトリン欠損症などの代謝異常、甲状腺・下垂体機能、必要に応じてアラジール症候群や進行性家族性肝内胆汁うっ滞症の遺伝子検査を行い、内科的疾患を除外します。
- 血清MMP-7などのバイオマーカー: 血清MMP-7(マトリックスメタロプロテアーゼ7)は胆道閉鎖症で高値となることが報告され、補助的な指標として研究・臨床応用が進められています。施設によって利用状況が異なります。
胆道閉鎖症と鑑別すべき疾患
- 特発性新生児肝炎: 肝内胆汁うっ滞で便色が変動することが多く、肝生検で巨細胞性変化が目立ち、肝外胆管は開存しています。
- アラジール症候群: 特徴的顔貌、末梢性肺動脈狭窄、蝶形椎、後部胎生環などを伴い、肝生検では小葉間胆管の減少を認め、JAG1/NOTCH2遺伝子変異で確定します。
- 進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC): 病型によってはγ-GTPが正常〜低値となる点が胆道閉鎖症と異なり、遺伝子検査で診断します。
- シトリン欠損症による新生児肝内胆汁うっ滞症(NICCD): 東アジアに多く、高シトルリン血症などのアミノ酸異常や高ガラクトース血症を伴い、多くは乳糖除去・MCT強化ミルクで改善します。
- 先天性胆道拡張症(嚢胞型との鑑別): 超音波で総胆管の嚢胞状拡張を認め、胆道造影で肝内胆管が拡張・交通している点が嚢胞型胆道閉鎖症と異なります。
- 感染症・内分泌・その他の胆汁うっ滞: CMV肝炎、敗血症、下垂体機能低下症、ガラクトース血症、長期静脈栄養関連胆汁うっ滞などは、それぞれの検査所見と経過から除外します。
胆道閉鎖症の治療
治療の基本は、診断が確定したらできるだけ早期に葛西手術を行って胆汁排泄の回復を図ることです。術後は胆管炎の予防・治療、栄養と脂溶性ビタミンの管理、門脈圧亢進症などの合併症管理を長期にわたって続けます。葛西手術で黄疸が消失しない場合、肝不全や成長障害が進む場合、重い門脈圧亢進症や肝肺症候群・門脈肺高血圧症を来した場合には、肝移植を検討します。一般には葛西手術を一次治療とし、必要に応じて肝移植につなぐ『段階的治療』が標準です。ただし診断時期が遅く肝硬変が高度な例などでは、一次的に肝移植を検討することもあります。薬物療法の内容や移植の時期は施設や個々の病状で異なるため、小児外科・小児肝臓・移植の専門チームと十分に相談して決めることが大切です。
- 葛西手術(肝門部空腸吻合術): 肝門部の線維性組織を切除し、Roux-en-Y型に挙上した空腸を吻合して、残存する微小胆管からの胆汁排泄を図ります。生後60日以内、さらに早いほど成績が良いとされ、腹腔鏡下手術を行う施設もあります。
- 術後胆管炎の予防と治療: 術後早期は抗菌薬の予防投与が行われることが多いです。発熱や黄疸の再燃があれば胆管炎を疑い、入院のうえ静注抗菌薬で治療します。胆管炎を繰り返すと予後に影響するため、早期対応が重要です。
- 利胆薬(ウルソデオキシコール酸): 胆汁の流れを促し、肝細胞を保護する目的で広く用いられています。効果の程度については議論があり、病状に応じて主治医が判断します。
- 副腎皮質ステロイド: 術後の炎症を抑えて胆汁排泄を促す目的で用いる施設があります。ランダム化比較試験では黄疸消失率の明らかな改善は示されておらず、使用の有無や投与量は施設によって異なります。
- 栄養療法と脂溶性ビタミン補充: 吸収されやすい中鎖脂肪酸(MCT)を強化したミルクで十分なエネルギーを確保し、ビタミンA・D・E・Kを補充して血中濃度や凝固能で調整します。必要に応じて経管栄養も用います。
- 門脈圧亢進症の管理: 食道・胃静脈瘤には内視鏡的静脈瘤結紮術や硬化療法、脾機能亢進症には部分的脾動脈塞栓術などを行います。腹水には利尿薬やアルブミン製剤を使用します。
- 肺合併症のスクリーニングと対応: 肝肺症候群や門脈肺高血圧症を早期に見つけるため、酸素飽和度測定、心臓超音波、必要に応じてシンチグラフィーなどで定期的に評価します。門脈肺高血圧症は移植可否にも関わるため、肺高血圧治療薬を含め専門的な管理が必要です。
- 肝移植(主に生体肝移植): 黄疸非消失例、肝不全、難治性胆管炎、重い門脈圧亢進症や肺合併症に対する根治的治療です。日本では両親などをドナーとする生体肝移植が中心で、脳死肝移植も行われています。
- 移植後管理: タクロリムスなどの免疫抑制薬を生涯にわたり服用し、拒絶反応、感染症(EBウイルス関連のリンパ増殖性疾患など)、薬の副作用、成長・発達を定期的に評価します。
胆道閉鎖症の予後・長期フォロー
日本の全国登録などの報告では、葛西手術後の黄疸消失率はおおむね6割前後です。手術日齢が早いほど、黄疸消失率と自己肝生存率が高い傾向にあります。自己肝生存率(移植をせずに自分の肝臓で生存している割合)は10年で約半数前後とされ、その後も年齢とともに緩やかに低下します。成人期に移植が必要になる例もあります。一方、肝移植を含めた全体の生存率は大きく改善しており、長期生存率は約9割に達すると報告されています。小児生体肝移植後の長期成績も良好です。なお、『葛西手術単独で10年生存率約30〜50%』といった数値を目にすることがありますが、これは移植をせずに自己肝で生存している割合(自己肝生存率)を指すと理解するのが適切です。黄疸消失例の多くは、通学・就労・スポーツなど通常に近い社会生活を送っています。女性では妊娠・出産の報告も増えています。ただし妊娠中は門脈圧亢進症の悪化や静脈瘤出血、肝機能悪化のリスクがあるため、計画的な管理が必要です。
長期フォローアップでは、肝機能、血小板数(脾機能亢進の指標)、凝固能、脂溶性ビタミンを定期的に評価します。あわせて、腹部超音波による肝硬変・脾腫・肝内嚢胞・肝腫瘍の評価、内視鏡による静脈瘤の評価、心臓超音波と酸素飽和度による肺合併症の評価を継続します。成長・思春期発来、骨密度、発達・学習面のフォローも重要です。思春期以降は服薬アドヒアランスの低下や受診中断が起こりやすくなります。小児外科・小児科から成人の肝臓内科・消化器外科・移植外科への移行期医療を計画的に進め、患者本人が病名・手術歴・服薬内容を理解し、自ら説明できるよう支援することが推奨されます。
胆道閉鎖症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
乳児期は、指示された特殊ミルクや脂溶性ビタミン製剤、利胆薬などを確実に与えることが成長の基盤になります。発熱、便の色が白っぽくなる、黄疸が再び出る、といった胆管炎の兆候に早く気づけるよう、便色や皮膚の色を日々観察してください。予防接種は感染予防に重要です。ただし肝移植の予定がある場合、移植後は生ワクチンが原則として接種できなくなるため、移植前に接種計画を主治医と相談します。脾腫がある子どもは腹部への強い衝撃で脾破裂の危険があるため、コンタクトスポーツの可否は主治医と相談してください。静脈瘤がある場合は、出血リスクを高めうる薬(一部の解熱鎮痛薬など)の使用にも注意が必要です。成人期には飲酒を避け、肥満を防ぎ、市販薬やサプリメントを使用する前に主治医に確認することが望まれます。移植後は免疫抑制薬の飲み忘れ防止、グレープフルーツなど薬物相互作用のある食品への注意、手洗い・感染予防が大切です。胆道閉鎖症は遺伝性疾患とは考えられておらず、きょうだいが同じ病気になる可能性は一般に低いとされます。不安がある場合は主治医や遺伝カウンセリングで相談できます。生体肝移植のドナーとなる家族自身の健康管理や術後フォローも、忘れてはならない課題です。
利用できる制度・相談窓口
胆道閉鎖症は指定難病(告示番号296)であり、重症度分類で一定以上に該当する場合などに、都道府県・指定都市へ申請すると医療費助成を受けられます。18歳未満(継続の場合は20歳未満)では小児慢性特定疾病医療費助成制度(慢性消化器疾患)の対象となり、多くの患者は小児期にこの制度を利用し、成人期に指定難病の制度へ移行します。加えて、自治体の乳幼児・子ども医療費助成が利用できます。肝臓の機能障害が一定の基準を満たす場合や、肝移植後に免疫抑制療法を続けている場合は、身体障害者手帳(肝臓機能障害)の対象となりえます。その場合、手帳に基づく福祉サービスや、肝移植・免疫抑制療法に対する自立支援医療(育成医療・更生医療)を利用できることがあります。病状により特別児童扶養手当、成人後の障害年金(肝疾患による障害)の対象となる場合もあります。相談窓口としては、主治医や病院の医療ソーシャルワーカー、保健所、難病相談支援センター、小児慢性特定疾病児童等自立支援事業の相談員があります。患者・家族会(胆道閉鎖症の子どもを守る会など)では、経験者との交流や情報提供が受けられます。
胆道閉鎖症に伴う心のケア・心理社会的支援
乳児期に突然重い病気を告げられ、生後まもない手術を経験する家族の心理的負担は非常に大きいものです。『もっと早く便の色に気づいていれば』と自分を責める保護者は少なくありません。しかし胆道閉鎖症の発症は親の行動や妊娠中の過ごし方によるものではありません。葛西手術後に黄疸が消えるかどうかを待つ期間の不安、胆管炎による入退院の繰り返し、肝移植の決断、とりわけ親が生体ドナーとなる場合の自身の手術への恐れや家族内の役割調整、仕事との両立など、この疾患に特有のストレスが重なります。きょうだいへの配慮も課題になります。子ども本人は成長とともに、手術痕へのこだわり、服薬や通院の負担、体育や行事での制限、病気の友人への説明などに悩むことがあります。思春期には、病気を受け入れられない気持ちが服薬の中断につながることもあります。抑うつ、不安、睡眠障害、適応障害は珍しいことではありません。つらさが続くときは我慢せず、主治医や看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士、児童精神科などに早めに相談してください。患者会での体験共有も、孤立感を和らげる大きな支えになります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
胆道閉鎖症の受診の目安
- 生後2週を過ぎても黄疸が続く、または強くなる場合や、便色カードで1〜3番に近い淡い色の便が出た場合は、すぐにかかりつけ医や小児科を受診してください。
- おむつが濃い黄色〜茶色に染まる尿が続く場合は、早めに受診し、直接ビリルビンの検査を受けてください。
- 葛西手術後の子どもに38℃以上の発熱、黄疸の再燃、便の色が白っぽくなるといった変化があれば、胆管炎の可能性があるため当日中に手術を受けた施設へ連絡してください。
- 吐血、黒色便・血便、顔色不良やぐったりしている場合は、静脈瘤出血の可能性があるため救急受診してください。
- けいれん、意識がぼんやりする、激しい嘔吐、大泉門の膨隆がある乳児は、ビタミンK欠乏による頭蓋内出血の可能性があるため直ちに救急受診してください。
- 息切れ、唇の色が悪い、運動時の疲れやすさ、失神などがあれば、肝肺症候群や門脈肺高血圧症の可能性があるため早めに主治医に相談してください。
胆道閉鎖症についてのよくある質問
Q. 葛西手術で黄疸が消えれば治ったと考えてよいですか?
A. 黄疸の消失は非常に良い経過ですが、肝臓内の炎症や線維化は続くことがあり、胆管炎や門脈圧亢進症が年余を経て現れる場合があります。自己肝で成人期まで元気に過ごす人も多い一方で、学童期以降に移植が必要になる人もいます。生涯にわたる定期的な通院が必要です。
Q. 便の色の異常に気づくのが遅れたのは親の責任でしょうか?
A. 胆道閉鎖症の便色変化は徐々に起こり、出生直後は色が正常に見えることもあるため、気づきにくいことは珍しくありません。原因は親の行動や育て方ではありません。大切なのはこれからの治療とフォローを主治医と一緒に進めていくことです。
Q. 肝移植はどのような場合に必要になりますか?
A. 葛西手術後も黄疸が続く場合、肝不全や成長障害が進む場合、胆管炎を繰り返す場合、重い門脈圧亢進症や肝肺症候群・門脈肺高血圧症がある場合などに検討されます。時期やドナーについては移植施設と十分に相談して決めます。
Q. 次の子どもや、患者本人の子どもにも遺伝しますか?
A. 胆道閉鎖症は遺伝性疾患とは考えられておらず、家族内で発症することはまれです。感受性遺伝子の研究は進められていますが、一般には再発リスクは低いとされています。心配な場合は主治医や遺伝カウンセリングで相談できます。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。