嚢胞性線維症
Cystic Fibrosis
嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis)|嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis:CF)は、CFTR遺伝子の変異によって全身の外分泌腺の塩素イオン(Cl⁻)輸送が障害される常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患です。粘稠な分泌物が気道、膵管、胆管、腸管、精管などを詰まらせ、反復する気道感染、膵外分泌不全による消化吸収障害、栄養障害などを乳幼児期から引き起こします。欧米白人では頻度の高い遺伝病ですが、日本では極めてまれで、診断の遅れが課題とされています。指定難病(告示番号299)です。
嚢胞性線維症の要点
嚢胞性線維症は、CFTR遺伝子の変異により外分泌腺のCl⁻輸送が障害され、粘稠な分泌物が気道や膵管などを詰まらせる常染色体潜性遺伝の疾患です。反復する気道感染や膵外分泌不全による消化吸収障害・栄養障害がみられ、日本では極めてまれな指定難病(告示番号299)です。
| 別名・略称 | CF、嚢胞線維症、のう胞性線維症、ムコビシドーシス、Mucoviscidosis |
|---|---|
| 分野 | 呼吸器疾患 |
| 原因遺伝子 | CFTR遺伝子 |
| 遺伝形式 | 常染色体潜性(劣性)遺伝 |
| 好発年齢 | 乳幼児期から症状が出現 |
| 主な症状 | 反復する気道感染、膵外分泌不全による消化吸収障害、栄養障害 |
| 主な検査 | 汗試験(汗中Cl⁻測定)、CFTR遺伝子検査 |
| 指定難病 | 告示番号299 |
嚢胞性線維症とは
嚢胞性線維症は、上皮細胞の頂端膜にある陰イオンチャネルCFTR(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)の機能が低下または失われることで起こる全身性の遺伝性疾患です。CFTRはcAMP依存性にCl⁻と重炭酸イオン(HCO₃⁻)を分泌し、上皮表面の水分量とpHを保っています。この機能が失われると、気道では気道表面液が減って粘液線毛クリアランスが落ち、膵臓では膵液が濃縮して膵管が閉塞し、汗腺では汗からのCl⁻再吸収ができず汗の塩分が高くなります。病名は、膵臓に嚢胞と線維化がみられる病理所見に由来します。主な死因は進行性の呼吸不全です。
歴史的には、1938年にAndersenが膵臓の病理所見から独立した疾患として記載しました。1950年代には熱波時の脱水から汗の塩分異常が見つかり、汗の塩化物イオン測定(汗試験)が確立しました。1989年にCFTR遺伝子が同定され、現在までに2,000種類を超える変異が報告されています。変異は機能障害の仕組みから、蛋白合成の欠如(クラスI)、折りたたみ異常と輸送障害(クラスII、代表例はF508del)、開口異常(クラスIII)、伝導障害(クラスIV)、蛋白量の減少(クラスV)、膜上での不安定性(クラスVI)などに分けられます。臨床的には、膵外分泌不全を伴う古典型と、膵機能が保たれる非古典型(軽症型)があります。先天性両側精管欠損や特発性慢性膵炎などCFTRが関与する単一臓器の病態はCFTR関連疾患(CFTR-related disorder)と呼ばれ、CFとは区別されます。
嚢胞性線維症の疫学・患者数
欧米白人では出生約2,500〜3,500人に1人と頻度が高く、保因者は約25人に1人とされます。一方、日本人を含む東アジア人では極めてまれで、国内の疫学調査では出生数十万人に1人程度と推定されています。国内で把握されている患者は数十人規模にとどまります。性差はなく、多くは乳幼児期から小児期に症状が出ますが、軽症型では成人になってから慢性副鼻腔炎、気管支拡張症、男性不妊、膵炎などをきっかけに診断されることもあります。日本人患者の遺伝子型は欧米と大きく異なり、欧米で最も多いF508delはまれです。代わりに、エクソン16〜17bを含む大きな欠失など日本人に特徴的な変異が比較的多いと報告されています。欧米で使われる変異パネル検査では見逃されやすい点に注意が必要です。日本では新生児マススクリーニングの標準項目に含まれておらず、医師の認知度も低いため、診断が遅れやすいことが課題とされています。
嚢胞性線維症の原因・病態生理
CFは第7染色体長腕(7q31.2)にあるCFTR遺伝子の両アレルに病的変異があることで発症する常染色体潜性遺伝疾患です。両親がともに保因者の場合、子が発症する確率は妊娠ごとに25%、保因者となる確率は50%です。保因者は通常無症状です。CFTRはATP結合カセット(ABC)輸送体ファミリーに属し、2つの膜貫通ドメイン、2つのヌクレオチド結合ドメイン、調節(R)ドメインから成ります。PKAによるリン酸化とATP結合によって開くCl⁻・HCO₃⁻チャネルとして働くほか、上皮型Naチャネル(ENaC)の調節にも関わるとされます。変異の種類と残存機能の程度は、膵機能(膵外分泌不全か膵機能保持か)や汗中Cl⁻値とよく相関します。一方、肺病変の重症度は修飾遺伝子、感染、環境要因、治療の影響も大きく受けます。
気道では、CFTR機能低下によりCl⁻・HCO₃⁻分泌が減り、ENaCを介したNa⁺吸収が相対的に増えると考えられています。その結果、気道表面液が脱水・酸性化し、粘液が粘稠になって線毛運動が妨げられます。貯留した粘液には黄色ブドウ球菌やインフルエンザ菌が早期から定着し、やがて緑膿菌(特にバイオフィルムを作るムコイド型)が慢性感染します。好中球を主体とした過剰な炎症が起こり、好中球エラスターゼや好中球由来のDNAが痰の粘稠性をさらに高めます。こうして感染・炎症・閉塞の悪循環が生まれ、気管支拡張症と肺の破壊が進みます。膵臓では、粘稠な膵液が膵管を塞いで胎児期から腺房の破壊と線維化が進み、膵外分泌不全となります。進行すると膵島も障害されてCF関連糖尿病が生じます。肝胆道系では胆汁うっ滞から局所性胆汁性肝硬変、腸管では胎便性イレウスや遠位腸閉塞症候群が起こります。男性では胎生期に精管が閉塞・消失し、先天性両側精管欠損による閉塞性無精子症となります。汗腺ではCl⁻再吸収障害から多量の塩分が失われ、暑い時期や発熱時に低ナトリウム・低クロール血症と代謝性アルカローシス(偽性バーター症候群)を起こすことがあります。
嚢胞性線維症の症状
- 慢性の湿性咳嗽・膿性痰: 乳幼児期から痰がらみの咳が続き、年齢とともに膿性痰が増えます。肺病変の進行を示す最も重要な症状です。
- 反復する気管支炎・肺炎: 黄色ブドウ球菌や緑膿菌などによる気道感染を繰り返し、急性増悪のたびに呼吸機能が低下します。
- 呼吸困難・喘鳴・運動耐容能低下: 気管支拡張症や末梢気道の閉塞が進むと息切れが強まり、進行例では低酸素血症や呼吸不全に至ります。
- 胎便性イレウス: 新生児期に粘稠な胎便が回腸末端に詰まり、腹部膨満、胆汁性嘔吐、胎便排泄遅延を起こします。CFの最初の症状となることがあります。
- 脂肪便・下痢・腹部膨満: 膵外分泌不全により脂肪や蛋白が吸収されず、量が多く悪臭のある脂っぽい便が出ます。直腸脱を伴うこともあります。
- 体重増加不良・成長障害: 吸収障害、呼吸に要するエネルギー消費の増加、慢性炎症が重なり、十分に食べていても体重や身長が伸びにくくなります。
- 脂溶性ビタミン欠乏: ビタミンA・D・E・Kの吸収障害により、夜盲、骨量低下、溶血、神経障害、出血傾向などを起こすことがあります。
- 汗の塩分過多・低Na/低Cl血症: 汗に塩分が多く、皮膚がしょっぱいと気づかれることがあります。暑い時期や発熱時に脱水、電解質異常、代謝性アルカローシスを起こしやすくなります。
- 慢性副鼻腔炎・鼻茸: ほぼ全例に副鼻腔病変がみられ、鼻閉、後鼻漏、鼻茸などが生じます。小児の鼻茸はCFを疑うきっかけになります。
- ばち指: 慢性の化膿性肺疾患を反映して指先が太鼓のばち状に膨らみます。
- 黄疸・肝腫大: 新生児期の胆汁うっ滞性黄疸や、年長児以降の肝線維化・門脈圧亢進症による脾腫や食道静脈瘤がみられることがあります。
- 男性不妊: 男性の大多数に先天性両側精管欠損による閉塞性無精子症がみられます。性機能そのものは通常保たれます。
嚢胞性線維症の経過と合併症
古典型CFでは、新生児期の胎便性イレウスや胆汁うっ滞、乳児期の脂肪便と体重増加不良、反復する気道感染で発症することが多いです。肺病変は乳幼児期から始まり、症状が乏しい段階でもCTで気管支壁肥厚や粘液栓が確認されることがあります。学童期から思春期にかけて緑膿菌の慢性感染が成立すると、急性増悪を繰り返しながら1秒量(FEV1)が年単位で低下し、気管支拡張症、肺過膨張、喀血、気胸を伴うようになります。最終的には慢性呼吸不全と肺性心に至り、肺移植が検討される段階となります。一方、膵機能が保たれる軽症型では肺病変がゆっくり進み、成人期まで診断されないこともあります。日本人患者では診断時にすでに栄養障害や肺病変が進んでいる例が少なくないとされ、早期診断と専門施設での集学的管理が予後を左右します。
合併症は多臓器に及びます。呼吸器では、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)、非結核性抗酸菌症(特にMycobacterium abscessus complex)、Burkholderia cepacia complexなど治療困難な菌の感染、喀血、気胸、慢性呼吸不全があります。消化器では、遠位腸閉塞症候群、直腸脱、胃食道逆流症、CF関連肝疾患(局所性胆汁性肝硬変、門脈圧亢進症)、胆石、膵機能が残っている例での反復性膵炎がみられます。内分泌・代謝では、年齢とともに増えるCF関連糖尿病(CFRD)、骨粗鬆症、思春期遅発があります。そのほか、偽性バーター症候群、腎結石、アミノグリコシド系抗菌薬による腎障害や聴力障害、関節症などが報告されています。CFRDは肺機能や栄養状態の悪化と関連するため、定期的なスクリーニングが重要です。
嚢胞性線維症の診断・診断基準
CFの診断は、①特徴的な臨床症状(慢性の気道感染・気管支拡張症、膵外分泌不全、胎便性イレウス、男性の精管欠損など)、家族歴、または新生児スクリーニング陽性があり、かつ②CFTR機能異常の証明(汗中Cl⁻高値、または両アレルの病的CFTR変異、あるいは鼻電位差などの電気生理学的検査の異常)の両方がそろうことで行われます。日本の指定難病の診断基準もこの考え方に沿っており、汗試験とCFTR遺伝子解析が中心です。ただし国内で汗試験を標準的に実施できる施設は限られ、日本人に多い大きな欠失は通常の塩基配列解析では検出しにくいため、専門施設との連携が勧められます。CFを疑うべき状況は、原因不明の気管支拡張症、小児の鼻茸、緑膿菌が繰り返し検出される気道感染、乳児の脂肪便と体重増加不良、原因不明の低Na・低Cl性代謝性アルカローシス、閉塞性無精子症などです。人種的にまれであっても、これらがあれば鑑別に挙げることが重要です。
- 汗試験(汗中塩化物イオン測定): ピロカルピンのイオントフォレーシスで発汗を促し、汗中Cl⁻を測定します。60 mmol/L以上でCFを強く示唆し、30〜59 mmol/Lは境界域として遺伝子検査などを追加します。
- CFTR遺伝子解析: 両アレルに病的変異を確認すれば診断の根拠になります。日本人では欧米型の変異パネルは役に立ちにくく、全エクソンの塩基配列解析に加え、欠失・重複の解析(MLPA法など)が必要です。
- 鼻電位差測定・腸管電流測定: 上皮のイオン輸送を電気生理学的に評価する検査です。汗試験や遺伝子検査で結論が出ない場合の補助診断として、ごく一部の施設で行われます。
- 膵外分泌機能検査(便中エラスターゼ等): 便中膵エラスターゼの低値(一般に200 μg/g未満)や便中脂肪の増加で膵外分泌不全を評価します。膵機能が保たれる型でもCFは否定できません。
- 喀痰・気道分泌物の培養: 黄色ブドウ球菌、ムコイド型緑膿菌、B. cepacia complex、非結核性抗酸菌などの検出は病態を強く示唆します。治療薬の選択にも欠かせないため、定期的に行います。
- 胸部X線・胸部CT: 上葉優位の気管支拡張、気管支壁肥厚、粘液栓、tree-in-bud陰影、モザイク状の濃度差などがみられます。病変の広がりと進行の評価に用います。
- 呼吸機能検査: 閉塞性換気障害が主体で、FEV1は重症度判定、増悪の評価、肺移植の適応検討に用いる主要な指標です。
- 副鼻腔CT・耳鼻科的評価: 汎副鼻腔炎、鼻茸、副鼻腔の低形成などを確認します。
- 血液検査・合併症スクリーニング: 電解質、肝機能、脂溶性ビタミン、総IgEとアスペルギルス特異的IgE(ABPA)、経口ブドウ糖負荷試験(CFRD)などを評価します。男性では精液検査で閉塞性無精子症を確認することがあります。
嚢胞性線維症と鑑別すべき疾患
- 線毛機能不全症候群(カルタゲナー症候群を含む): 慢性湿性咳嗽、副鼻腔炎、気管支拡張症は共通しますが、汗試験は正常で、内臓逆位、新生児期の多呼吸、鼻腔NO低値、線毛の電子顕微鏡所見などで区別します。
- 原発性免疫不全症候群: 反復する細菌感染と気管支拡張症をきたしますが、免疫グロブリン値や好中球機能などの免疫学的検査で異常が確認されます。
- びまん性汎細気管支炎: 日本を含む東アジアに多く、慢性副鼻腔気管支症候群と緑膿菌感染を示しますが、膵外分泌不全はなく汗試験も正常で、マクロライド少量長期療法がよく効きます。
- 遺伝性膵炎・特発性慢性膵炎: PRSS1、SPINK1などの変異による膵炎では肺病変がなく、汗試験も正常です。ただしCFTR関連疾患としての慢性膵炎との区別には遺伝子解析が役立ちます。
- シュワッハマン・ダイアモンド症候群: 乳児期の膵外分泌不全と成長障害はCFと共通しますが、好中球減少などの血液学的異常と骨格異常を伴い、汗試験は正常です。
- 他の原因による胎便性イレウス・乳児の吸収不良: ヒルシュスプルング病、セリアック病、蛋白漏出性胃腸症などとは、汗試験、膵機能検査、生検所見で鑑別します。
嚢胞性線維症の治療
治療の基本は、①気道クリアランスの維持と感染・炎症の制御、②膵消化酵素補充と高エネルギー食による栄養管理、③合併症の早期発見と治療、の3本柱です。医師、看護師、管理栄養士、理学療法士、薬剤師、心理職などによる集学的チームで、生涯にわたって継続して管理します。欧米では変異に応じてCFTRの機能そのものを改善するCFTRモジュレーターが登場し、予後が大きく改善しました。ただし日本では執筆時点で承認されておらず、日本人に多い大きな欠失などでは効果が期待しにくいとされます。国内では従来の対症療法を徹底することが中心です。治療薬の多くは個々の病状に応じて選ぶ必要があるため、治療内容は専門医と相談して決めてください。
- 気道クリアランス療法(呼吸理学療法): 体位ドレナージ、軽打法、ハフィング、呼気陽圧(PEP)デバイスや振動デバイスなどを使い、毎日排痰を行います。日常の自己管理の中核となる治療です。
- 吸入粘液溶解薬(ドルナーゼ アルファ): 痰に含まれる好中球由来のDNAを分解して粘稠度を下げる吸入薬で、日本でもCFに対して承認されています。肺機能の維持と増悪の減少が期待されます。高張食塩水の吸入が補助的に用いられることもあります。
- 抗菌薬療法(吸入・経口・静注): 緑膿菌の慢性感染には吸入トブラマイシン(日本でもCFに承認)などを用い、初めて検出された際には除菌療法を行います。急性増悪時は、培養結果に基づいて2剤併用の静注抗菌薬を一般に2週間前後投与します。
- 抗炎症療法: マクロライド系抗菌薬(アジスロマイシンなど)の長期投与が、緑膿菌の慢性感染例で増悪を減らす目的で検討されます。ABPAの合併時には副腎皮質ステロイドや抗真菌薬を用います。
- 膵消化酵素補充療法: パンクレリパーゼ製剤を毎食・間食ごとに服用します。脂肪摂取量や便の性状、体重増加をみながら用量を調整し、過剰投与による線維化性結腸症に注意します。
- 栄養療法・脂溶性ビタミン・塩分補給: 標準より多いエネルギー(健常者の1.2〜1.5倍程度が目安とされる)を高脂肪食で摂ります。ビタミンA・D・E・Kを補充し、暑い時期や発熱時には塩分を補給します。必要に応じて経管栄養も検討します。
- 合併症の治療: CF関連糖尿病にはインスリン療法、遠位腸閉塞症候群には浸透圧性下剤や腸管洗浄、CF関連肝疾患にはウルソデオキシコール酸の使用や門脈圧亢進症の管理を行います。喀血には気管支動脈塞栓術、気胸にはドレナージなどで対応します。
- CFTRモジュレーター: CFTRの折りたたみや開口を改善する薬で、海外では対象となる変異をもつ患者の肺機能と生命予後を大きく改善しています。日本では執筆時点で未承認であり、適応となる変異も限られるため、最新の承認状況や臨床試験については専門医に確認してください。
- 肺移植・在宅酸素療法・換気補助: 進行した呼吸不全では在宅酸素療法や非侵襲的陽圧換気を行います。FEV1の著しい低下や増悪の頻発があれば、両肺移植を検討するため早めに移植施設へ紹介します。日本でもCFは肺移植の適応疾患に含まれます。
嚢胞性線維症の予後・長期フォロー
CFの生命予後は、診断時期、栄養状態、肺機能、緑膿菌などの慢性感染の有無に大きく左右されます。欧米では新生児スクリーニングによる早期診断、専門施設での集学的管理、CFTRモジュレーターの普及により、生存期間の中央値は大きく延び、成人患者が小児患者を上回る国も増えています。一方、日本では患者数が少なく、診断が遅れやすいことや、モジュレーターが使えないことから、生命予後は欧米より厳しいと報告されています。死因の多くは呼吸不全です。とはいえ、気道クリアランスと栄養管理を徹底し、増悪に早く対応することで、肺機能の低下を緩やかにできます。就学、就労、社会生活を続けている患者さんもいます。肺移植後は呼吸機能とQOLの改善が期待できますが、拒絶反応や感染症などの長期管理が必要です。
長期フォローアップでは、一般に1〜3か月ごとの外来受診が目安とされます。身長・体重・BMIなどの栄養指標、呼吸機能、喀痰培養(抗酸菌を含む)を定期的に評価します。年1回程度は、胸部画像、肝機能と腹部超音波、脂溶性ビタミン値、経口ブドウ糖負荷試験(一般に10歳前後から毎年)、骨密度などのスクリーニングを行います。思春期には、小児科から成人診療科へ移行する時期の支援(トランジション)、自己管理能力の育成、妊娠・不妊に関する相談が重要です。緑膿菌などの耐性菌が患者間でうつるのを防ぐため、外来での感染対策も求められます。
嚢胞性線維症の日常生活の注意点と公的支援(医療費助成)
毎日の排痰と吸入は、症状が軽い時期でも欠かさず続けることが肺を守る基本です。治療に1日1〜2時間かかることもあるため、家族全体で生活リズムに組み込む工夫が役立ちます。食事は脂肪を控えるのではなく十分なエネルギーと脂肪を摂り、消化酵素は食事のたびに服用します。夏場、運動時、発熱時は汗で塩分を失いやすいので、塩分と水分を補給してください。運動は痰を出しやすくし、体力を保つのに役立つため、体調に合わせて積極的に続けることが勧められます。感染予防として、手洗い、インフルエンザや肺炎球菌などの予防接種(主治医と相談)、加湿器やネブライザー器具の清潔管理、患者同士の近い接触を避けることが大切です。受動喫煙を含めて喫煙は避けます。CFは常染色体潜性遺伝のため、きょうだいの検査、次の子を持つときの再発率(両親が保因者なら25%)、患者本人の将来の挙児について、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。男性患者は多くが閉塞性無精子症ですが、精巣での造精機能は保たれていることが多く、生殖補助医療で挙児を得られる場合があります。女性患者の妊娠は肺機能や栄養状態に影響するため、計画段階から主治医と相談してください。
利用できる制度・相談窓口
嚢胞性線維症は指定難病(告示番号299)であり、診断基準と重症度基準を満たす場合、難病指定医の診断書をもとに都道府県・指定都市へ申請すると医療費助成(自己負担上限額の設定)を受けられます。重症度基準を満たさなくても、医療費が一定額を超える場合は軽症高額該当として対象になることがあります。18歳未満(継続の場合は20歳未満)の患者は小児慢性特定疾病の医療費助成と、日常生活用具給付などの自立支援事業を利用できます。呼吸機能障害などにより身体障害者手帳の対象となれば、在宅酸素療法や補装具などの支援を受けられることがあります。病状により日常生活や就労が制限される場合は障害年金(呼吸器疾患による障害など)の対象となりうるほか、子どもの養育については特別児童扶養手当の対象となる場合があります。高額療養費制度も併用できます。相談窓口としては、各都道府県の難病相談支援センター、保健所、医療機関の医療ソーシャルワーカー、小児慢性特定疾病の自立支援員、難病情報センターのウェブサイトなどがあります。国内の研究班や患者・家族の会からも情報を得られることがあります。
嚢胞性線維症に伴う心のケア・心理社会的支援
CFは毎日長時間の治療を一生続ける必要があり、入院や静注抗菌薬治療を繰り返すこともあります。そのため、患者本人と家族には大きな心理的負担がかかります。海外の研究では、CF患者と養育者に抑うつや不安の頻度が高いことが示され、国際的なガイドラインでは定期的な心理スクリーニングが推奨されています。思春期には、友人と違う生活への葛藤から治療を守れなくなること、体型や低体重への悩み、恋愛・結婚・不妊への不安、将来の就労や寿命についての不安が生じやすくなります。日本では患者が非常に少ないため、同じ病気の仲間に出会いにくく、周囲の理解も得にくいという孤立感があります。感染対策のため患者同士が直接会いにくいことも特有の課題です。きょうだいへの影響や、遺伝に関する親の自責感にも配慮が必要です。気分の落ち込み、眠れない、治療を続ける意欲がわかないといった状態は、意志が弱いせいではなく、慢性疾患に伴うよくある反応です。主治医、看護師、心理職、医療ソーシャルワーカー、必要に応じて精神科・心療内科に早めに相談してください。オンラインでの患者交流などを活用することも、支えになります。
Medi Faceでは、慢性疾患に伴うこころの不調についてのオンライン相談も行っています。お問い合わせはこちら。
嚢胞性線維症の受診の目安
- 発熱、痰の量の増加や色の変化、咳の悪化、息切れの増強があるとき(急性増悪の可能性があり、早めの抗菌薬治療が必要です)。
- まとまった量の喀血、突然の胸痛と呼吸困難(気胸の可能性)、唇や爪が紫色になる、意識がぼんやりするときは、ただちに救急受診してください。
- 強い腹痛、腹部膨満、嘔吐、排便や排ガスが止まったとき(遠位腸閉塞症候群などの腸閉塞の可能性)。
- 暑い日や発熱時に、ぐったりする、食欲低下、尿量減少、こむら返りなどがあるとき(塩分喪失による脱水・電解質異常の可能性)。
- 体重が減る、脂っぽい便が増える、喉の渇きや多尿があるとき(栄養状態の悪化やCF関連糖尿病の可能性)。
- 乳幼児で、体重が増えない、脂肪便、慢性の咳、皮膚がしょっぱいなどの特徴が重なるときは、CFを含めた精査のため小児科を受診してください。
嚢胞性線維症についてのよくある質問
Q. 日本人でも嚢胞性線維症になりますか?
A. 日本人ではまれですが、確実に存在します。日本人患者の多くは欧米と異なる遺伝子変異をもち、欧米型の簡易な遺伝子検査では見つからないことがあります。疑わしい症状があれば、汗試験やCFTR遺伝子の詳しい解析ができる専門施設での評価が勧められます。
Q. 両親とも健康なのに、なぜ子どもが発症したのですか?
A. CFは常染色体潜性遺伝の病気で、両親がそれぞれ1つずつ変異をもつ保因者であっても、本人は通常無症状です。両親から変異を1つずつ受け継いだ場合に発症し、その確率は妊娠ごとに25%です。誰の責任でもないことを理解したうえで、遺伝カウンセリングで詳しく相談できます。
Q. 海外で使われている新しい薬(CFTRモジュレーター)は日本で使えますか?
A. 執筆時点では日本で承認されておらず、日本人に多い変異には効果が期待しにくいものもあるとされます。承認状況や臨床試験の情報は変わる可能性があるため、最新の情報は主治医や専門施設に確認してください。現在使える治療を毎日きちんと続けることが、肺を守るうえで最も大切です。
Q. 脂っこい食事は控えたほうがよいですか?
A. 一般的な健康法とは逆に、CFでは十分なエネルギーと脂肪を摂ることが推奨されます。消化酵素を毎食きちんと服用し、体重や便の状態をみながら量を調整します。具体的な食事内容や酵素の量は、主治医や管理栄養士と相談してください。
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この記事について
最終更新: 2026-10-18。発行: 株式会社Medi Face。本ページは、MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター、各学会の診断基準・診療ガイドラインなどの公的・専門的情報を参照して作成した一般的な医学情報であり、診断・治療の代替ではありません。個別の診療は主治医・専門医にご相談ください。参考: MSDマニュアル プロフェッショナル版、難病情報センター。記載内容に誤りや古い情報を見つけた場合はお問い合わせからお知らせください。